真・恋姫無双〜左慈・外史伝〜後篇
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〜解き放て、龍の牙〜

 

 

 

  「はぁあああっ!」

  ザシュッ!!!

  曹朋は内心、動揺する。目の前で起きた一連の現象に自分の常識が当てはまらず、事態が理解できずに

 いたためだ。一方、左慈はそんな様子は無く、むしろ当たり前と言わんばかりに平然とした様子で颯を徒手

 空拳で薙ぎ倒していた。

  「てやぁあっ!」

  ザシュッ!!!

  そんな状況下でも、曹朋は牙龍を手に取り、自分を取り囲む颯を薙ぎ倒す。動揺をしていても、その武は

 健在であった。曹朋の放った斬撃を受け、再び肉塊と化す颯。どうやら姿が変わったとはいえ、その能力値

 が上がったというわけではないようだ。

  「おりゃあっ!」

  ドガァッ!!!

  左慈の放った回し蹴りが颯の胴を引き裂く。

  「ん?」

  地面に転がった颯の死体から何かが落ちる。それを拾い上げ、曹朋を見る。

  「曹朋!これがお前の探しものか!?」

  拾い上げたそれを曹朋に向かって投げると、曹朋はそれを手に受け止める。

  「これは・・・」

  受け取ったそれを掌に広げ、確認する。しかしその顔は浮かばない。それは確かに耳飾りだった、

 だが曹朋の耳飾りとはまるで違う物だったからだ。つまり偽物だ。張曼成は偽物を見せびらかしていた

 だけに過ぎなかったのだ。

  「・・・外れの様だな」

  左慈が探していた大事な物ではなく、深く項垂れている曹朋の傍に寄って来る。

  「・・・・・・」

  曹朋から返答は無い。

  「どうやらお前の物はまだあの女が持っているようだな」

  しかし、張曼成がその偽物を使って曹朋に自分の耳飾りだと思い込ませたという事は、少なくとも

 向こうは曹朋の耳飾りの事を知っているという事である。それは左慈、そして曹朋にも分かっていた。

  「ならば、あの女を捕まえて・・・問いただすまでですよ」

  低い声でそう呟く曹朋。どうやら自分を欺いた張曼成に怒りを抱いたようだ。先程までの人当たりの良い

 好青年の姿はそこには無く、血に飢えた獣の姿がそこにあった。

  「女に手を上げたくない・・・先程そう言っていなかったか?」

  「前言撤回します」

  「・・・・・・」

  今の曹朋ならば、相手が女子供であろうともその者を血祭りに上げるであろう。

 そんな所に、颯達の向こうに張曼成が再び現れる。今すぐにでも、飛びかかりたい曹朋であったが、

 自分達の周りを囲み続ける颯達のせいでそれが出来ない。牙龍で一掃しても、すぐに別の颯達が囲んで

 しまう。

  「僕の前に立たないでください!」

  ザシュッ!!!

  自分の前に立ちはだかる颯達を牙龍で横に薙ぐ。颯達は成す術も無く、体を横に二分され地面に転がる。

  「・・・・・・」

  張曼成の足元に肉塊となった颯の上半身が転がっていく。それを氷の様な冷たい目で見下ろす。

  「・・・っ!」

  突然背を仰け反らした張慢成。すると、彼女の背後から得体の知れない何かが、数本飛び出してくる。

 それは何であろうか・・・。植物の根の様にも見え、蛸、烏賊(いか)の足のようにも見える

 その有機質な、それでいて無機質な雰囲気を持った触手がくねくねと生々しくうねりをあげ、そのうちの

 二本が左慈、曹朋に襲いかかる。

  「くっ!」

  「うわっ!」

  襲いかかるそれから横に受け身を取って回避する。二本の触手はそのまま突き進み、地面に転がる肉塊に

 巻きつくと、それを張曼成の元へと引っ張っていく。それ以外の触手も颯達(死体でも、生きていても

 無差別に)に巻きつき張慢成の元へと引っ張っていく。肝心の張曼成はいつの間にかその触手に全身に

 巻きつかれていた。その中に触手が颯を巻き込み取り込まれていく。触手に巻きつかれた張慢成が颯を

 取り込み続けると触手は際限無く増殖し続け、さらに巨大化していく。

  本能的に危険と感じた左慈と曹朋はその場から急ぎ離れる。立ちはだかる颯達の合間を掻い潜っていく

 ように、張曼成から離れて行く。そんな二人など関係無いというように、張曼成の触手は颯達を取り込み

 続けていた。

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  「・・・一体、何が起きているのでしょうか?」

  全力でその場から離れ、拠点の外では無く、拠点内に建っていた砦の中に侵入した曹朋は隣の左慈に

 話しかける。左慈は外から入れない様に外から侵入できない様、内側から扉にかんぬきをしていた。

  「さぁな、あの女がただの人間ではなかった・・・俺が分かる事はその程度だ」

  平静を装ってはいるが、全身から大量の汗を流し、頬を流れる汗を何度も拭う曹朋。壁に背中を預け、

 両腕を胸の前で組み、何かを考えている左慈。異常とも言えるこの状況下、心境はまるで正反対の二人が

 そこにはいた。

  「しかし、砦の中に隠れたのはまずかったな」

  「確かにそうですね・・・、僕とした事が、迂闊でした」

  砦の扉から離れ、砦の奥へと進んでいく。確かに、砦に隠れたのは良くはなかった。自ら逃げ場のない

 檻の中に入った鳥と同じ状況を作ってしまったのだ。これは曹朋らしからぬ失態。しかし、張曼成が拠点の

 門の前に立ちはだかるような位置にいた事もあり、結果として門とは逆方向に逃げるしかなかった。

  「・・・!?伏せろっ!」

  「え?・・・!?」

  左慈が突然声を上げ、曹朋は後ろを振り向こうとするも左慈はそれを許さず、背中を突き飛ばす形で

 曹朋に体ごと突っ込んでいく。

  バッコォッ!!!

  左慈は曹朋の上に覆いかぶさる形で地面に伏せたと同時に、曹朋が立っていた横の壁が外から破壊され、

 更にそこから巨木並に増殖した触手が飛び出し、そのまま反対側の壁をも破壊する。二人は急ぎ起き上がる

 とそこから全力で走りだす。二人を襲う様に、二人が通過した横の壁からまたも触手が飛び出してくる。

  バッコォッ!!!

  しかし、今度は二人の進路を断つかの様に、二人が進んでいた通路の角となる壁から触手が飛び出し、

 その先端が二人に向かっていく。

  「こっちを行きましょう!」

  曹朋の提案で、途中にある左へ抜ける通路の方へと切り替えるとそこへと滑り込む。触手との正面衝突

 を免れたものの、今度は後方から追跡される形になる。二人は後方から来る触手に気を配りながら、砦の

 廊下を走り抜ける。しかし、今度は天井から触手が飛び出し、二人の道を天井の瓦礫と共に塞いでしまう。

 二人は止むなく、その手前に設置されていた階段を昇る事となる。

  「このまま屋上へと駆け上がるぞ、いいな!」

  そう言って、曹朋より先を行く左慈が後ろの曹朋に声を掛ける。牙龍を背負っているにもかかわらず、

 手ぶらの左慈の後にしっかりと付いていく曹朋。更にその後方からは、数本の触手がしつこく二人を追跡

 していた。追いつかれまいと階段を上る二人。そして二階三階と昇りつめ、屋上へと繋がる入口に辿り着く

 と、その扉を開ける間も惜しいと、左慈はそのままの勢いで扉そのものを蹴り飛ばし、屋上へと飛び出すと

 曹朋も外へと飛び出した。そして今度は触手であったが、何本もの触手が一斉に飛び出そうとしたため、

 扉の所で引っかかってしまい、それ以上外へと進めなくなってしまった・・・。

  「意外と間抜けなようだな」

  それをみた左慈はそう呟いた。

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  屋上へと辿り着いた左慈と曹朋。出入り口から離れ、比較的開けた場所へと足を進めると、砦の外にある

 巨大な物を見る。すでに砦程の高さまでに成長し、巨木程の太さの触手が上へと昇る形で互いに絡みつく

 その先には、触手にその身を絡みつかせる張曼成の姿。それはまるで一種の植物であった。他に気になる

 所は、幹の部分に当たるところに橙色の体液を膜で包み込んだ卵状のものが外に露出し、その膜内で何かが

 蠢いているのが見て取れる。更には、二本の絡みついた触手の先が獣の様な口と化し、口内には牙と舌が

 備わっている。そしてまるで左慈達にデモストレーションをするかのように、その口は大きく開かれ根元に

 いた颯一体に喰らいつきそのまま取り込んだ。

  「まさかこの短時間でここまで成長するとはな」

  左慈はその異常までの成長ぶりに驚きを隠せないでいる。

  「左慈、君は・・・これが何か知っているのですか?」

  曹朋は先程から気に掛かっていた事を一纏めにいて左慈に問いかける。彼のこの状況下での冷静な

 態度には曹朋自身、理解しかねていた。こんな事態に陥れば、混乱、泣きわめくか、怯えるか・・・

 自身でさえ、この状況に困惑を抱いているというに、この青年はそんな感情が微塵も感じ取れない。

  「そう聞かれれば、俺は知っていると答える」

  左慈は平然と答える。その声に乱れはない。

 

 『盤古』・・・以前、祝融が涼州を襲った際に使った植物型兵器。その特徴はその異常な成長力と

       その強靭な触手。ただし、祝融が使用した盤古は大陸を制圧するため、自身を生体核と

       なる、さしずめ占領型。今回はそれは言わば攻撃型に当たるであろう。張曼成を生体核と

       した盤古は周囲の生物(今回では颯がそれに当たる)を取り込む事で急激な成長を可能とし、

       より攻撃的な体系へと進化した。

 

  祝融の際は、北郷一刀の渾身の一撃で葬り去ることが出来たが、果たして今回もそれが可能であろうか。

 そんな事を心内に考えていると、獰猛の口が二人の存在に気付き、その口を大きく広げ、襲いかかる。

 しかし、その動作は遅い事もあり、左慈と曹朋はそれを難なく避ける。そしてその動作後に大きな隙が

 生じ、曹朋はすかさず牙龍で一刀両断する。

  ザシュッ!!!

  牙龍によって口と触手が切断され、口を失った触手は盤古の方へと巻き戻される。すると、外に

 露出していた卵状を模した膜の内側での蠢きが更に激しくなっていく。そして、その激しさに耐えられなく

 なった膜はついに破け、橙色の体液と共に颯達が勢いよく飛び出してくる。颯達は左慈と曹朋のいる屋上に

 着地すると、二人に遅いかかるのを二人は応戦する。

  「せぃやっ!」

  ザシュッ!!!

  「おりゃあっ!」

  ドガァッ!!!

  盤古の動きに警戒しながら颯達を倒していく。左慈に蹴り飛ばされた颯は屋上から外へと押し出され、

 曹朋の牙龍に薙ぎ払われた颯は体を分かたれその場に横たわる。しかし、曹朋の対処法はこの状況下では

 良くはなかったのかもしれない。

  バッゴォッ!!!

  「ぐわぁっ!!」

  颯の肉塊を求め、獰猛な口が口を開けて曹朋ごと喰らいつこうと襲撃する。曹朋はそこから離れようと、

 後方に立っていた颯を薙ぎ払い、後ろへと下がろうとした。だがその対応が少し遅く、獰猛な口を持つ触手

 が肉塊ごと屋上の床を喰らったのだ。そのため床には巨大な穴ができ、結果その周辺の床が脆くなり、

 その襲撃を回避したはずの曹朋が脆くなった床ごと下に落ちてしまったのだ。思わぬ落下に、受け身が

 取れず背中から落ちてしまう曹朋。下に落ちた彼を獰猛な口を持った触手は見逃さない。下の階に落ちた

 彼を見下ろすそれが再び口を開く。

  「ち・・・っ!」

  それを見た左慈は一体の颯を踏み台にし、触手へと向かって高く舞い上がる。無双玉の力を解放し、

 右足に力を集約させる。すると右足から青白い光が放たれる。

  「はぁぁぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  触手と口の境目に向かって、右踵を振り下ろす。

  ドガァッ!!!

  踵落としを受けた途端、青白い炎にその身を包まれる触手と口。避ける程に口を開き、悶え苦しみながら

 次第に力を失い、穴の横に横倒れすると、黒い灰と化してしまった。

  「おりゃぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  踵落としを決め、着地した左慈はすかさず周囲の颯共を青白く光る右足で蹴り倒す。蹴られた颯は皆、

 青白い炎に身を包まれ、その場に倒れる。

  「ぐわぁぁぁああああああ・・・っっ!!!」

  穴の中から曹朋の声が上がる。確認しようと左慈が穴を覗こうとした瞬間、複数の触手が濁流の如く勢い

 で昇り上がってきた。そしてその先には全身を触手に巻きつかれ、その強力な締め付けに苦しむ曹朋がいた。

  「ちっ!手間取らせやがって!・・・!?」

  舌打ちする左慈。先程と同じ手段で触手を蹴り薙ごうと同じ手順を取ろうとしたが、そこを突いて来るか

 のように、先程曹朋が斬った触手が獰猛な口を再生させ、今度はその牙を左慈に向けて襲いかかった。

 左慈は咄嗟にその口の上顎を両手で下顎を右足で受け止め、閉じようとする口を強引に広げながら、後方へ

 と押されていく。

  「ぐぅ・・・、ぅうっ!!」

  歯を食いしばりその口の餌食なるまいとそこで踏ん張る左慈。そんな彼の背後が隙だらけと、颯が

 襲いかかっていった。

  「く、くそ・・・、こんな所で。僕はこんな所で・・・、終わってしまうのか・・・。

  やっと、記憶を取り戻したというのに、・・・多くの女性(ひと)達に支えられて、いるのに・・・。

  皆が、僕の帰りを待っているのに・・・!」

  触手の締め付けが一層強まり、握りしめていた牙龍をとうとう手放してしまう。曹朋にはもはや抗う

 力がもう残っていなかった。

  「・・・ごめん、華琳・・・僕は、もう・・・」

  愛しい妹の真名を呟き、龍翠は自分の生を・・・諦めた。

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  「・・・馬鹿野郎っ!!!」

  左慈は限界まで身体を伸ばしさらに触手の口を広げると右足を離す。当然口はつっかかりを無くした

 ため、反動で口は勢いよく閉じられようとする。だが、そこには左慈の身体は無く、そこには左慈に襲い

 かかろうとした颯。喰らいついたのは颯の上半身。肝心の左慈の姿はその口の上に乗っていた。

  「はぁあああっ!!!」

  右拳を振り上げ、気合いを込めると渾身の一撃を振り下ろした。

  ドッガァアアアッ!!!

  振り下ろされた拳に触手は堪らず石製の床に叩きつけられ、そこから動く事が出来なくなってしまった。

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  ブゥオンッ!!!

  その時、風を切り裂く音が鳴る。一体どんな事をすればこんな轟音が鳴るのであろう・・・。

  ザシュッ!!!

  「・・・っ!」

  生々しい斬撃音が鳴った直後、体の束縛が一瞬にして消え、曹朋はそのまま地面に落ちる。

 その周囲には、彼の体を握り潰そうとした二本の触手がのた打ち回りながら横たわっていた。

 呆然として倒れていた曹朋の所に近付いて来る一人の影、見上げればそこには自分の牙龍を右肩に

 軽々と乗せる左慈がいた。彼が自分を助けてくれたのだ、それは瞬時に理解出来た。だから曹朋が

 驚かされたのはそれでは無い。左慈があの牙龍で自分を助けたという事実だ。自分の背丈以上の刀身を

 持つそれを左慈は自分並みに使いこなしたのだ。今まで、自分以外に使えなかった牙龍をこの青年は

 使ったのだ。

  「さ、左慈・・・」

  何かを言おうとする曹朋。だが、それを左慈が許さなかった。  

  「貴様!いつまで寝ているつもりだ!」

  そう言って、左慈は曹朋の腕を乱暴に掴み、立ち上がらせるとその表情を怒りに染め、曹朋を

 睨みつけられ、曹朋は思わずドキッとしてしまう。

  「何を勝手に諦めている。お前はこんな所で、あんな奴に殺されてもいいのか?

  お前には成さねばならない事があるのだろう?あの時、俺に語ったあの言葉はその程度のもの

  だったというのか!」

  「・・・!」

  左慈に言われ、思わず息を飲む曹朋。

  「そうでないというのならばあがけ。あがいてあがいてあがき続けろ!矢を受け崖から落ちようとも、

  記憶を失おうとも、毒に体を蝕まれ様とも!曹操達の元へ帰るまで諦めるな!」

  「え・・・?それをどうして君が」

  曹朋は左慈に妹がいる事は喋ったが、まだ妹の名前は言っていなかった。にもかかわらず、何故左慈が

 それを知っているのだろう。だが、曹朋にとってそれは大した問題ではなかった。

  「君の言う通りだ、左慈。僕には・・・まだやらなくちゃいけない事がある!

  僕が死ぬのは・・・それを成した後だ!!」

  曹朋は左慈から牙龍を受け取ると、再び戦う意思をその目に宿すのであった。

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  改めて盤古を見る左慈と曹朋。その巨大に成長したそれに圧巻されつつも、曹朋は横目に左慈を見る。

  「とはいえ、如何な方法を使えばあれを倒せるのでしょうか?」

  「問題無い。貴様の力を借りればな・・・」

  そう言って、左慈は牙龍を握る曹朋の右手を左手で上から覆うように掴む。

  「え?・・・何をする気なのですか?」

  いきなり自分の手を握る左慈に少しの戸惑いを感じる。そんな曹朋など目もくれず、左慈は彼の手を

 強く握り続ける。すると、左慈の左手が青白い光に包みこまれ、その光が曹朋の右手へと伝播していく。

 曹朋自身、自分の体に得体の知れない何かが大量に流れ込んでくるのを肉体的にも感覚的にも感じ、

 次第に不安へと変わっていく。

  「左慈、これは一体・・・」

  「余所身をするな。連中を一撃で葬る事だけを考えろ。でなければ力が暴れ出して内側から

  爆ぜるぞ!」

  「ぁ・・・、ああ!分かった!」

  困惑しながらも、曹朋は言われた通りに眼前の敵達を倒す事だけを一点に考える。

 すると光が次第に牙龍の装飾である龍へと流れていく。装飾の龍の目に生が宿り、息吹が聞こえてくる。

 そして装飾に過ぎなかった牙龍がその身を光に変え、その姿を二人の間で揺らめかせる。

  「行くぞ・・・!」

  「・・・ぁあ!」

  ただそれだけの言葉を交わし、一緒に牙龍を高く高く振り上げた。

  「「はあぁぁぁああああああああああああっ!!!」」

  二人の声が重なり、二人同時に牙龍を振り下ろす。そして眼に生を宿した龍が牙龍から離れ、その身を

 青白い光と姿を変えた牙龍は刀身を渡る。牙龍の龍は衝撃波を周囲に放ちながら宙を駆け、盤古へと襲い

 かかる。牙龍はその大きな口を開け、盤古に喰らいついた。しかし、その剛直に成長した植物状の茎を

 模した盤古をその強靭な牙でも噛み切るのは容易ではない。

  盤古もこのままやられまいと、全身からその獰猛な口を持つ触手達を二人に襲わせる。

  「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」

  二人の叫びに牙龍が呼応する。その目が輝きを放ち、盤古に喰らいつく力が一層強まり、そしてついに

 盤古をその牙にて噛み切る。噛み切られた盤古は成す術も無く、その状態を維持する事が出来ず、ゆっくり

 と地面へと横倒れていく。だが、牙龍は盤古の至る個所を見境なく喰らいつき、追い打ちをかける。

 触手もその先を牙龍に変え、倒そうとするも牙龍の凶暴さの前には無力で次々と喰らわれる。

 

  ブゥォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッッッ!!!

 

  牙龍の雄叫びが轟音となって、空の彼方へ、そして大陸全土まで響き渡った。その日、空の彼方を龍が

 駆け抜けたという逸話が人を伝って継承される事となった・・・。

  

  盤古という盤古全てを喰らい尽くした牙龍。その役目を果たしたと判断し、再び自分がいるべき場所

 へ、曹朋の大剣へと還っていき、元の装飾へと戻っていった。

  「・・・・・・」

  本来の姿に戻った牙龍を改めて見る曹朋。すると、牙龍の角の部分に耳飾りが引っかかっていた。

 曹朋はそれを角から取り外し、自分の手に取りもう一度確かめる。まぎれも無く、自分の耳飾りだ。

  「・・・良かった」

  安心した表情に満ち足りる曹朋。それを傍らで見ていた左慈は一つ分かった事があった。

  「どうやら張曼成の正体は・・・、あの耳飾りだったようだな。バグと・・・、さしずめ、耳飾りに

  込められた曹操達への想いが交わった事で生まれたのだろうな・・・」

  「・・・何か言いましたか?」

  「いや、別に・・・」

  左慈は何でもないとはぐらかす。

  「所で左慈、君は何者なのですか?妖術使い?」

  「妖術・・・、貴様にはそう見えたか?まぁ・・・俺から言わせれば、たった一人で一万の敵兵を

  薙ぎ倒すお前の方がよほど妖術使いに思えるがな」

  気を悪くした様な素振りを見せ、左慈は踵を返した。

  「むぅ〜・・・、気を悪くしたなら謝ります。ですからそういう意地の悪いな事は言わないで欲しいです」

  曹朋はばつの悪い顔をして先行く左慈の後を追うのであった・・・。

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  「また君に助けられました。ありがとう、左慈」

  分かれ道、曹朋は別れ際に改めて左慈に感謝をするも、当の左慈は素っ気ない態度。

  「勘違いするな。俺はある奴に頼まれた事をただ頼まれた通りにしただけだ」

  「え・・・?それって、もしかして・・・?」

  曹朋の話に耳を傾けず、左慈はビッと人差し指で方向を示す。

  「・・・この方向に真っ直ぐに進めば、曹操が治める街に着くはずだ。後の事は自分でどうにかしろ」

  「ありがとう・・・、そうだ。分かれる前に、君に僕の真名を預けます。僕の真名は・・・龍翠です」

  「俺なんかに真名を預けてもいいのか・・・」

  「えぇ・・・、君はそれだけの事を僕にしてくれました。ですから、君に真名を預けようと決めました」

  「・・・・・・」

  左慈は何も言わず、曹朋に背を向け彼とは反対の方へと歩いていく・・・。

  「好きにしろ・・・、龍翠」

  後ろを振り向かず、手を適当に振る左慈。自分を真名で呼んでくれた事が嬉しく、龍翠は大きく手を

 振って、左慈を見送るのであった。

  「全く・・・、最初から最後までやりにくい男だ」

  左慈は最後にそう呟き、この外史を後にした・・・。

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  「あ、あれぇ・・・、おかしいですね〜。彼の言う通りに来てみたのですが、陳留はこんなに馬が

  多かったでしょうか?」

  ちなみに、曹朋錬鳳が曹操孟徳達と再開を果たすのはそれからさらに三ヶ月後の事であった・・・。

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。

 今回今まで同様、挿し絵を挿入するのですが、どうも自信がない・・・。はたして皆さんに上手く伝わってくれでしょうか?心配です。

 さて、前回急展開で終わった魏の龍編。はたして今回はどんな展開が巻き起こるのでしょうか?それでは、真・恋姫無双〜左慈・外史伝〜 第二章〜解き放て、龍の牙〜をどうぞ!!
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コメント
jackryさん、原作では龍翠君はそっちまで行ったと取れる描写が書かれているようです。(アンドレカンドレ)
ゆう君さん、コメントありがとうございます!(アンドレカンドレ)
すっごいおもしろかったです!!!、次の外史が楽しみです!(働きましょう)
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