【涼宮ハルヒSS】花束をあなたに【キョンハル】
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これはなんの花かしら?

 

 

あたしは机の上をじっと凝視してしまう。

淡いピンクの、小さな可愛い一輪の花。

なんでここにあるのか。どうしたらいいのか。今のあたしにはさっぱりわからない。

 

何かの拍子に、あたしのそばに現れる小さな花。いつの間にか少しづつ増えてしまって――悩んだあたしは、いつも使ってるマグカップに挿して行くことにしたの。

 

冷蔵庫の上に置いてあるマグカップ。その中で風もないのにそっと揺れる小さな花たち。

不思議なんだけど、これらはみくるちゃんや古泉くんには見えないらしい。

二人とも口には出さないけど、きっとなんで空のマグカップがこんなところに乗ってるのかと思ってるんだろうな。

そうそう、有希は一度だけじっとこれを見てた気がするけど――すぐにいつもの窓際で本を読み始めちゃったから。たぶん、あたしの気のせいなのかも。

 

ふう。

あたしはため息をついてしまう。自分らしくない、なんてわかってるけど。

だって、あたしはいつも不思議なものを探してる。でも、あたしだけが見えてるんじゃ、気付いてるんじゃ、ちっとも面白くないのよ…!

あたしは、不思議をみんなで見つけたいの。そして、みんなで楽しみたい。

みくるちゃん、古泉くん、有希、そして――

 

「――ぉい。ハルヒ!」

近くで耳に馴染んだ声がして。あたしはいつの間にか俯いていた顔を上げた。

「キョン…?なんなのよ、急に?」

「何回か声はかけたぞ?

お前が気付かなかっただけだ。」

やれやれ、とキョンはいつもどおり肩をすくめて見せる。

「どうする?

もうみんな帰っちまったんだが。」

「え…」

気がついて回りを見たら、ホント。もう部室には、あたしとキョンしか残っていなかった。

「挨拶はしてたけどな。お前がなんか、ぼー…っとしてたから。」

!あたしとしたことが。

どうやらみんなに気を使わせちゃったみたいね。

「…わかってるわよ、もう帰るわよ!」

ガタン、と椅子から音を立てて立ち上がった途端。

開け放していた窓から、一陣の風が吹いた。

 

びっくりして閉じかけたあたしの視界に、風に飛ばされたあの花が映る。

っ!いけないっ!

慌てて伸ばした指先が、花に届く、と思った瞬間。

「おっと」

小さく呟いた声と同時に、あたしの手は花ごと、大きな手に包まれた。

「…危ねーな。おい、大丈夫か?」

…え、えっと???何が起こったの?

我に返ると。痛いくらいキョンに掴まれてる、あたしの手。

 

って、えええっ?!

「な、なんでっ?なんで、キョンがあたしの手を握ってるのっ!?」

かあっと顔が熱くなる。なによ、なんなのよこれはっ?!

「!って、不可抗力だっ!だから、お前が見てた花が、」

花???

「だから、花が!…飛ばされそうになってただろ?」

ほれ、と。掴んだままあたしの手のひらをくいっと上向きにして、キョンは合わせた手を開いて見せた。

 

――淡いピンクの花。

あれだけ強く捕まえたのに、潰れてさえいない。

でも、おかしいのはそれだけじゃなかった。

 

「…2つ…?」

 

首を傾げて、不思議そうにキョンが呟いた。

 

「そういやこれ、あのマグカップのと同じだろ。」

キョンは珍しく混じり気のない顔で、ふ、と笑った。

「お前が花を飾る、なんて珍しいよな。」

からかうような、悪戯っ子みたいな――学園祭後の、中庭のときみたいなその表情。

――ヤバイわ。

顔がどんどん熱くなる。ぎゅ、と花ごと手を握りしめてしまった。手の中で、また花のかさが増えた気がするけど…多分気のせいじゃないわね。

 

あたしは顔が上げられなかった。たぶん真っ赤になってると思う。

(どうしよう)

気付いてしまった。

いつの間にか、どこからともなく現れる花。

あの時も、あの時も。あたしのそばには必ず――

 

「ハルヒ?」

びくん、と体が揺れる。

熱い頬のまま、あたしは顔をそっと上げた。

キョンの肩越しに、冷蔵庫に置いた花達が見える。

 

――いつか。

この花を、花束にして渡したら――

キョン、あんたは。

 

あたしのこの気持ちに、気付いてくれるかしら――?

 

 

‐FIN‐

説明
以前某所に投下したキョンハルSSです。
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キョンハル キョン ハルヒ 涼宮ハルヒ 涼宮ハルヒの憂鬱 

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