真・恋姫?無双〜魏・外史伝〜再編集完全版9
[全12ページ]
-1ページ-

第九章〜その心のままに〜

 

 

 

  「桃香様に逆らうというのならば徹底的に叩き潰すのみ!いざ開戦だっ!!」

  宮殿の中央に設置された軍議用の机を叩く武将・魏延こと、焔耶・・・。

  「待たんか、焔耶!何でも戦いで解決しようとするでない!」

  鼻息を荒くし、興奮する焔耶をなだめる様、叱って言い聞かせる桔梗。

 場所は成都の城の宮殿。ここでは現在愛紗達が巴郡の火災についての事後報告をしていた。その報告の中にある

 正和党にかかった疑惑に桃香は動揺を隠しつつ、何も言わずただ黙って軍議を見守っていた・・・。

  肝心の軍議の方は主に正和党に対する対処について話し合われていたが、未だまとまった意見が出ていない。

  「そうなのだ!おっちゃん達がそんなひどいことをするはずがないのだ!きっと街が燃えているのを見て、

  それで街の人達を助けていたのだ、きっと!」

  「でも、あいつら街の人達と兵達を殺していたよ!」

  「それは・・・、たんぽぽの勘違いなのだ!お前が勝手にそう思い込んでいるだけなのだ!」

  「何ですってぇ!!」

  「二人とも、こんな所で言い争っては駄目よ」

  口喧嘩で互いにいがみ合う二人の間に武将・黄忠こと、紫苑が割って入った。

  「ですが桃香様、廖化殿はそういう人物であったと言う事です。あの男も元は黄巾党の人間。

  このような蛮行を犯す事はある意味では、当然のことだと・・・」

  「愛紗!しょーこも何もないくせして、どうして廖化のおっちゃん達をそんな悪く言うのだ!?

  おっちゃんはいい人なのだ!」

  「私は現状から客観的な意見を述べただけだ!」

  「それのどこがきゃっかんてきなのだ!!鈴々には悪口にしか聞こえないのだ!」

  「何だと!?」

  「何を〜!?」

  「止めんか、二人共!今ここでお前達がいがみ合った所で仕様の無い事ではないか!」

  口喧嘩で互いにいがみ合っていた二人の間に今度は桔梗が割って入った。

  「うにゃっ!・・・けど、桔梗・・・!」

  「・・・・・・」

  「・・・おい、桃香。さっきから黙っているようだが、いい加減お前の意見を聞きかしてくれないか」

  先程から話に入って来ない桃香を見兼ね、武将・公孫讃こと、白蓮は敢えて彼女に話を振る。白蓮によって

 急に振られ、我に返り戸惑う桃香であったが少し考えた後、何かを決めた様に立ち上がる。

  「・・・私は、廖化さんともう一度話し合うべきだと思うんだ」

  それは飽くまで交戦反対の意向を表示する発言。

  「まずは向こうの言い分を聞いてからの方がいいと思うんだけど・・・朱里ちゃん、雛里ちゃんどうかな?」

  二人の軍師の意見を仰ごうと、桃香は朱里、雛里に話を振る。

  「はい・・・、不確定な情報が錯綜する現状況でこちらの元にある情報だけで全てを判断するのは

  やはり早計だと思います・・・」

  「・・・ですので、ここは当事者である正和党の皆さんと改めて接触し、情報の交換をなさるのも良いか

  と思います・・・」

  と雛里、朱里の順に二人の考えを提示した。

  「ふむ・・・、確かに下らない姉妹喧嘩を眺めているよりかは・・・無駄に時間を浪費せずに済むだろうな」

  その皮肉を込めた星の言葉に、愛紗と鈴々は返す言葉もなかった。

  「まぁまぁ・・・星ちゃん。姉妹喧嘩は仲の良い事の証なんですから」

  と、そこに助け船を出す紫苑。

  「仲が良すぎるのも如何なものかと思うのだがな、紫苑よ?」

  紫苑が出した船を沈める星であった・・・。

  「まぁ、桃香様がそうしたいっていうんなら、あたしは別にいいぜ」

  「桃香様がそう仰るのなら、私は一向に構いません」

  「さっきまで戦だとか馬鹿の一つ覚えの様に言ってたくせに・・・」

  「何か言ったか?」

  「べっつに〜」

  「まぁ、何だ・・・。とりあえず桃香の考えに反対する奴はいないようだな」

  「ありがとう、皆・・・。じゃあ、朱里ちゃん、雛里ちゃん。廖化さん宛に書状を書く準備をしてくれるかな?」

  「はい!じゃあ雛里ちゃん、行こう」

  「う、うん・・・」

  そして三人は書状を書くべく、桃香の執務室へと向かっていく。

  「まだ・・・間に合うよね」

  その時、桃香誰にも聞こえないように呟いた、既に手遅れであるという事も知らず・・・。

  

  それから二日後・・・、正和党は蜀に宣戦布告した。彼女の思いは空しくも、彼等に届く事は無かったのである・・・。

-2ページ-

  

  「正和党が蜀に反乱を起こしたらしいぞ。」

  「あの正和党が?!どうしてそんな事に・・・」

  「何でも、巴郡の街を放火して、住民を殺したとかで劉備様が正和党と話し合いを設けようとしたんだが、

  それを向こうが拒んだらしいな」

  「でも・・・、あの正義の正和党だろ?どうしてそんなひでぇ事を?」

  「当の正和党は自分達の仕業では無く、蜀側の仕業だと言っているようだな・・・」

  「ええ?どうして劉備様の仕業なのよ・・・?」

  「まったく・・・色々と情報がごったがえしたいるからどっちが本当なのか・・・」

 

  「なあ、今蜀内は戦状態ってことじゃねぇか?」

  「ああ、正和党が南から蜀軍の防衛拠点を落としているらしいな」

 「確か昨日は建寧の拠点が正和党の奇襲で落ちたようだし・・・」

  「でもさ・・・、ここ最近急成長したからって戦力的に見れば、蜀軍の方が圧倒的なんだろ?

  なのにどうして正和党の反乱を抑えられないんだろう?」

  「民達を敵に回したくないんだろう?」

  「どういう事よ?」

 

  「話によると、地元住民達の多くが正和党の支援をしているようだでな・・・。正和党の人達がそんな

  ひどい事をするはずが無いっ、て具合に。蜀の主張よりも正和党の主張の方が住民には信憑性が高いの

  かもなぁ・・・」

  「下手に正和党を攻撃したら民達から非難の嵐が来るから、それを恐れているって事か・・・」

  「軍も正和党は敵にしても、民達まで敵に回したくないってことか」

  「あまり蜀に近づかない方が良さそうねぇ・・・」

  「そうね・・・」

 

  陳留に向かう道中の町村で、正和党という非公式の傭兵集団が蜀に反乱を起こしたという話を耳にする。

 現代風に言えば、内戦みたいなものだろう・・・。それ以前にも常山の辺りで五胡と魏軍が衝突、それ以降

 国境付近の警戒は厳重になったそうだ。おまけにあの呉の建業で起きた謎の大男の暴動・・・。

  俺がこの世界に戻って来てから、まだ1ヶ月も経っていないというのに、この世界では立て続けに戦いが

 起こっている。乱世終結からまだ2年(一刀視点ではまだ1年)しか経っていないというのに、一体これから

 この世界はどうなってしまうのだろう・・・。

 

  ・・・待てよ。俺がこの世界に来てからそういう争い立て続けに起きている・・・。

 俺が来る前までは大きな争いも無く、平和だったはずなのに・・・。これじゃまるで俺がこの世界に戦いを

 もたらす厄病神みたいじゃないか。・・・いや、確かにあの時もそうだ。初めてこの世界に来た時もそうだ。

 俺がこの世界にやって来てから黄巾の乱、反董卓連合、そして乱世という長い戦が始まった。そしてその長い

 戦いが終わると同時に、俺はこの世界から消滅した。そして今回もそうだ。

  ・・・じゃあ俺がいなければ、この世界は平和なままだったのか?

 いや、そんなはずは無い。この世界は元々三国志のそれとよく似た、一種のパラレルワールド。

 俺が居なくても戦いは起こっていたはずだ。・・・でもそれは前の話であって今回は違う。この世界はすでに

 俺達が知っているような三国志のそれと全く違う歴史を歩んでいるんだ。

  じゃあ・・・、やっぱり俺は厄病神なのか?

 俺はこの世界にもう一度戻りたいと願っていた、そしてそれがあの日どういうわけかそれが叶った。

 俺はただ自分の願が叶い、心から喜んだが・・・それは単に自己満足なだけ。この世界の人達にとって

 俺という存在はどうなのだろう・・・。

  そして、このよく分からない力・・・。この力はどうして俺に?こんな・・・誰かを不幸にするかも

 しれないこの力が、どうして俺に?・・・分からない、もう何が何だか俺にはもう訳が分からない。

 俺はただ皆にもう一度会いたかっただけなんだぞ?なのにどうしてこんな事になるんだよ。

 

―――俺はこの世界で何をすればいいんだ・・・?

-3ページ-

 

  「北郷・・・っ!!」

  「・・・ッ!?」

  露仁の呼びかけにはっと我に返る。ここは陳留へと続く一本道・・・、両側は深い森林で囲まれ人の姿は無い。

 ここには俺とふさふさの毛に覆われた眉をつり上げながら、こちらを見る謎の老人・露仁と俺以外しかいない。

  「あ、あぁ・・・ごめん。何だ?」

  「何だ、ではなかろう?!さっきから呼んでおるというに・・・。一体どうしたんじゃ?」

  止めた足を再び前へと進め、露仁の右横に並ぶ。

  「いや・・・、何でもないよ」

  「何でもないわけ無かろうに・・・、わしにも話せんような事なのか?」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・。まぁお前さんのことじゃから?どうせろくでもない事を考えておったんじゃろう?」

  「ろくな事って・・・そんな言い方するなよ」

  「ふん、やはりか・・・。まぁ、お前さんが何を考えていようがわしには関係の無い事かのぅ?」

  そう言って露仁はそれ以上の追求を控え、俺の方を向けていた顔を正面に戻す。しかし・・・何でも

 お見通しのようだな、この爺さんは。まるで風の様に俺の心を見透かしているようだ・・・、これも年の功って

 やつかな?

  「だが、北郷・・・。あまり自分を追い詰めんじゃないぞ?」

  「え・・・?」

  話を終えたかと思った露仁がまた話し出す。

  「どうもお前さんは、山陽の村の事と言い、その優しい性格のせいで色々と悩み過ぎる所がある。

  優しいのは悪い事じゃないが、時としてそれがお前さん自身を追い詰めておる・・・。優しさは

  時として自分を殺す・・・。そこは直したほうが良いかもしれんな」

  「・・・・・・」 

  俺は露仁の方を見ながら黙って話を聞く。言葉一つ一つが俺の体に染み込み、そして俺の心にまで染み渡って

 いくようだ。

  「と言っても、どうせ手遅れじゃろうがな!」

  「おい、最後に言う事がそれかよ!」

  露仁の投げやりな最後の発言に思わずツッコミを入れる。

  ガサガサッ・・・。

  「ん?」

  俺は足を止め、林の方を見る。

  「どうした、北郷?」

  いきなり立ち止まった俺に気が付き、何事かと露仁が尋ねて来る。

  「今、林の方から音が聞こえたんだけど・・・」

  「音?動物か何かじゃないのか?」

  「それは分からないけど・・・、確かこの辺りは熊や虎が出るってさっきの村で聞いたんだ。

  もしかしたら・・・」

  「な、何じゃと!?」

  露仁は慌てふためきながら、俺の後ろにしがみつく様に身を隠す。

  「露仁、そんな風にしがみつかれたら俺が動けないだろうが!?」

  「馬鹿もん、わしの護衛をしとるんだろ!だったらせめてこういう時ぐらいわしの壁にならんか!?」

  やれやれと首を傾ける。忘れがちになってしまうけど俺が露仁と一緒に洛陽に向かっているのは、露仁の

 付き人兼護衛という条件のもとに俺が付いて来ているわけで・・・。とはいえ、もし本当に熊や虎だったら

 さっさと逃げた方がいいかもしれないな。そう思って逃げようとした、その瞬間・・・。  

  ガサガサッ!!

  「ひぇえ!!??」

  「うげッ!?」

  突然の音に露仁が驚き、俺のを首にしがみつく。もろに腕が首筋に入りチョークスリーパーが完全に決まる。

 俺は思わず、潰れた蛙のような声を出す。

  「な、何じゃ何じゃ今の!?北郷何とかせい!」

  「そ、その前に・・・この首に完全に・・・決まっている腕を・・・緩めてくれ!」

  どんどん首を絞めていくその腕に、タップしながら声を喉から出す俺。

  ガサッ!

  そして、草影の合間からぬっと影が出てきた。

  「お?」

  「ぐえ・・・?」

  草影から出てきた影の正体、それはボロボロになった寝巻姿の若い女性であった。

 俺の首を締めながら露仁は目を大きく見開く。あの露仁・・・もういい加減緩めてくれないと俺、そろそろ

 限界なんですけど・・・。

  「た・・・、助けて・・・下さい」

  林から道へと出てきた女性は、力尽きるかのようにその道端で倒れる。

  「だ、大丈夫かお嬢さん!?」

  「ぐおぁッ!?」

  さっきまでとはまるで別人のような態度の切り替え。ようやく首食い込んだ腕が緩んだかと思ったら、

 今度は乱暴にどけと言わんばかりに露仁は俺を押しのける。このくそジジイが・・・!後で覚えていろよ!

  「お嬢さん、しっかりなさい!」

  女性の側に駆け寄った露仁は倒れている彼女の肩を揺する。長い髪のせいで女性の顔が見えなかったけど、

 ひどく疲弊しているのが全体から分かる。一体彼女の身に何があったのだろう?この近くの村が盗賊に襲われて

 一人命からがら逃げ出して来たのか・・・、といった感じだろうか。

  「あ・・・、お、お助けください!」

  「ぬほっ!」

  そしてその女性は起き上がるといきなり露仁に抱きついた。露仁は女性に抱きしめられて、至福の顔をする。

  「お、落ち着きんさい、お嬢さん。一体何があったか、この老体に聞、いて・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・露仁?」

  露仁の様子が急におかしくなった。女性に抱きつかれ、その嬉しさのあまり昇天したのだろうか?

 そう思った瞬間・・・。

  ザシュッ!!!

  「え・・・ッ?」

  一瞬、何が起きたのか理解できない。突然後ろから何か衝撃を受け、血液が全身一気に流れる感覚に襲われる。

 視線を下に下ろすと、右腹部から包丁、小刀の様な鋭利な刃が突き出ていた。

  「な・・・あ・・・」

  そう・・・良く分からないが、俺は後ろから刺されたのだった。そして刃は引き抜かれ、そこから大量の血が

 流れ出し、黒いTシャツに血か染み込んでいく。血が流れ出すたびに体から力が抜けていくようだ・・・。

 俺はそのまま足元から、崩れさるように・・・倒れ、た・・・。

  「う・・・ぐ・・・!?」

  一体何が起きたのだろう・・・。

 ふと露仁の方を見る。そこには露仁がうつ伏せに倒れていた。横たわった腹の辺りには血の溜まり場ができて

 いたけど、あの女の人の姿がそこになかった。何処に行ったのだろうと思っていると、俺の前にその女の人

 が現れる。その手には、その女性に似つかわしくない小刀を持ち、その小刀の切っ先から鮮血が滴り落ちていた。

 ようやく理解出来た・・・。この女だ。この女が・・・どんな理由かは知らないが、俺達を・・・その小刀で

 刺したんだ。

  「へ・・・、意外とあっけなかったな。ええ?北郷よ」

  その女の口から外見に似つかわしくない野太い男の声が出る。しかし俺が驚いたのはそれだけでは無かった。

 その女性らしい小柄な体格がみるみると筋肉質の男の体へと大きくなり、その細い腕と足はみるみると太く長い

 ものへとなり、その長い黒髪はみるみると抜け落ち、白色の短髪のものへと変わり、身につけていた一枚の

 寝巻きは体が大きくなるたびに、ビリビリと音を立てながら破けていき、ついには、先程の女性の面影はなく

 なり、完全な別人・・・男へと変貌した。

  「な・・・、ぁぁあ・・・」

  そのあまりに常識外れの現象に、俺はただ驚くばかりであった。

 そんな俺を余所に、男は体にまとわりつく布切れとなった寝巻きを乱暴に剥ぎ取っていく。

  「どうした・・・?あのいたいけな女がいきなりごつい男に変わっちまった事に、言葉も無いのか?」

  倒れている俺を見下ろしながら、不敵な笑みをこぼす。

  「まぁ・・・、そんな事はどうでもいいさ」

  そう言いながら男は身をかがめると、俺の顎を掴みぐっと自分の方に近づける。

  「北郷、お前には悪いんだが・・・ここで俺に殺されてくれ。俺達が先に見つけていれば、

  曹操達に会わせてやってからでも良かったんだが・・・、あの老いぼれが余計な事をしたせいで

  それも無理な話になっちまった」

  そう言い終えると、男は手に持っていた小刀を振り上げ、その切っ先を俺の頭に向ける。

  「ま、そういう事なんで・・・恨むなよ」

  そして振り落とそうした、その時・・・。

  「!!」

  何かに気づいたように、男は俺の前から一瞬にして消える。

 そして・・・俺の意識をそこで消えた・・・。

-4ページ-

 

  カンッ!カンッ!

  

  一本の木に、二本の手裏剣のような鋭利な刃物が突き刺さった。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

  先程まで倒れていた露仁が血が流れ出る腹を左手で押さえ、息を荒げながら足を震えさせ立っていた。

 そして露仁の前に再びあの男が姿を現す。

  「何だ・・・、まだ動けるのか?そのまま死んだ振りをしてた方が良かったんじゃないか、老いぼれ?」

  「・・・だ、黙れ伏義!わしは・・・私はまだ死ぬわけにはいかない・・・!」

  「お?何だ何だ・・・、さっきのスケベ爺キャラは何処にいっちまったんだ?・・・まぁ、それも

  自分の正体がばれねぇようにするための演技だったんだろうけどよ」

  「・・・・・・」

  「だが、それも今日までだ・・・。お前はここで北郷と一緒に完全に殺してやるぜ!」

  そう言いながら、伏義は手に持っていた小刀を手の上でくるりと回転させ、持ち方を変えると攻撃の姿勢を取る。

  「そうは・・・させん!『現』!」

  その一言によって、露仁の前の空間から突如薙刀状の武器が出現し、それを露仁は手に取った。

  「・・・やる気十分の様だな。でもよ、術で傷を塞いだからって俺に勝てると思ってんのか?」

  「くっ・・・」

  露仁はその華奢な体から想像もつかないような俊敏な動きで、伏義に攻撃を仕掛ける。

  「ふん・・・!」

  ガギィイッ!!

  露仁の一撃を伏義は小刀で軽く受け止める。

  「はッ!こんな一撃じゃあ!」

  伏義は空いていた左手で露仁の塞がっていた腹部の傷口に拳を叩きこむ。

  「ぐうぅ!?」

  傷口が開き、再び出血が始まる。苦痛で露仁の顔が歪むと同時に後ろに吹き飛されるが、露仁は空中で

 受け身を取り、体勢を整え地を足に着ける。 

  「今度はこっちの番だぁ!」

  伏義はその太い足で大地を蹴り、露仁が地に足を着けると同時に仕掛ける。踏み込んだ地面には伏義の足跡が

 くっきりと残っていた。

  ガッゴォオッ!!!

  その突撃を加えた強烈な一撃を露仁は受け止めると、その位置から身を翻すように器用に受け流し、

 その勢いに乗って伏義の右横へとさらに一撃を放った。しかしその不意を突いた一撃は伏義の右足の親指と

 人差し指を使い器用に受け止められてしまう。

  「おいおい・・・、何だよそれ?攻撃かよ?」

  「ぐっ・・・!」

  右足で刃先をは挟んだまま、その不安定な体勢から薙刀ごと露仁を投げ飛ばす伏義。今度は受け身を取る事が

 出来ず、露仁の体はそのまま地面を叩きつけられる。

  「ぐはっ・・・!?」

  声にならない声が出る。地面に叩きつけられた衝撃が肺に至り、呼吸が出来ないのだ。

  「・・・・・・っ」

  一刀の方を見る。うつ伏せに倒れた彼の腹の部分から大量の血が流れ出ていた。これ以上の出血は命に関わる。

 それは誰もが見ても理解出来た。仰向けになった状態から露仁は伏義の方を睨む。そして左手の人差し指中指を

 伏義に向ける。

  「『縛』!」

  「!?」

  その言葉と共に、伏義の体は金縛りにあった様に微動だしない。その隙にと言う様に露仁は気を失っている

 一刀を抱き抱え、そのまま林の中へ入って行った。その一部始終を伏義は黙って見ていた。だが、その顔に焦り

 は微塵も無かった。

  「へ・・・、逃げるか?でも逃がしはしねぇよ」

  余裕の笑みに満ちていた・・・。

-5ページ-

  

  俺は死んだのか?

 

  この世界で、何度も死にかけたが・・・それでも何とか切り抜けてきた

 

  でも、今回ばかりは・・・無理そうだな

 

  くそ、華琳達に会えないまま・・・俺はこんな所で死ぬのか・・・?

 

  ・・・・・・・・・

 

  

―――まだだ・・・

 

  ・・・・・・・・・

  

―――まだ、お前は今ここで死んではいけない・・・

 

  ・・・・・・

 

―――ここでお前が死ねば、この外史は奴等によって消滅するのだぞ・・・

 

  ・・・

 

―――私がお前に託したその力で、奴等の暴走を止めるのだ・・・!

 

  ・・・ッ!!!

 

  「・・・気が付いたか?北郷。」

  「・・・露仁?・・・お、俺は・・・一体?」

  どうやら俺はまだ生きているようだ。俺の目の前には露仁が俺を心配そうに見ていた。俺は木の根元に

 腰をかけた状態でいるようだ。

  「傷の治療はすでに完了した。少し休めば、動けるようになる」

  いつもの年寄りの口調ではなく、何処か若々しい力強い口調で言う露仁。

  「ろ、露仁・・・、何だか喋り方がいつもと・・・?」

  「北郷一刀。これから私が言う事を黙って聞くのだ!」

  「え?露仁・・・?」

  何だ、この人・・・。本当にあの露仁なのか?今までにない露仁の態度に俺は困惑するばかり・・・。

  「北郷、お前のその力は・・・!!」

  

  ビュンッ!!!

  

  「ぐおッ・・・!?」

  「え・・・!?ろ、露仁!!」

  何処からともなく飛んできた手裏剣二枚が露仁の背中に刺さる。

 思わぬ奇襲に露仁は急ぎ立ち上がる。そして俺を庇う様に俺に背中を向け、周囲を警戒する。

 その背中には、先程の手裏剣が刺さった所から血がにじみ出し、白装束を赤く染めていく。

  「鬼ごっこは・・・もうお終いか、南華老仙?」

  「伏義!!・・・『現』!!」

  突如、露仁の前の空間から突如薙刀状の武器が出現した。そしてそれを露仁は手に取ると、同時に木と木の

 間からさっきの男が現れる。

  「まぁ・・・、今のお前に・・・俺から逃げ切るだけの力は無いよな」

  「・・・・・・」

  「全く・・・、てめぇも馬鹿だよなぁ。一度俺達に負けて、力のほとんどを奪われたっていうのに。

  こそこそ隠れていれば良かったのによ・・・」

  「・・・隠れる?お前達を作ったのは他の誰でも無い・・・この私なのだ!」

  「だから、自分でけじめをつけるってか?はっはっはっは・・・!そう言って、結局他人任せじゃあ世話ないよな!?

  ええッ?老仙・・・」

  「くッ・・・!」

  「でも・・・、それもここで・・・全部終わりだ」

  伏義と呼ばれる男は、顎が地面すれすれの所までゆっくりと身を低くする。その体勢から一体どう動くのだろう・・・?

  「まずは・・・、てめぇが先だ!!!」

  ブゥオンッッッ!!!

  まるで突風が吹き荒れるような速さ、俺の目では到底捉える事は出来ない。

  「・・・!!」

  露仁は、俺から離れるように前へと駆け出す。先に仕掛けたのは露仁だった。薙刀のような武器で突進してくる

 伏義に横薙ぎを放つ。

  ブォウンッ!!!

  だが、伏義はその横薙ぎを上に飛び跳ねるて避けると、宙で一回転・・・露仁の背後に着地する。

 露仁は急いで後ろを振り返る。

  ザシュッ!!!

  「ぐっ!?」

  振り返った瞬間、露仁は伏義に胸を斬りつけられる。それも2度も3度も・・・斬りつけられ、斬り口から

 赤い血が勢いよく吹き出す。けど、どれも傷は浅い・・・。

  ドガァッ!!!

  「ぐぼはぁッ!?」

  伏義の左拳が露仁の胸の傷口を抉る様に叩き込まれ、後方へと吹き飛ばされる。吹き飛ばされた露人は地面に

 何度も叩きつけられ、その度に血が地面を濡らす。露仁はボロボロの雑巾のような姿へと変貌していく。

  「ろ、露仁・・・!」

  目を背けたかった・・・。でも、首が、体が・・・思い通りに動かない。俺はただその光景を見ているしかなかった。

 俺の両目から涙が溢れる・・・、何も出来ない自分が情けなくて・・・。ちくしょう・・・!ちくしょう・・・!

 動け、動けよ!!何も出来ないのか・・・!俺には見ているしか出来ないのか・・・!?何やってんだよ、肝心な

 時に出てこいよ、あの力!!

  「・・・ぐ、がはぁ・・・!」

  口から血を吐き出し、よろめきながらも2本の足で立ち上がろうとする露仁。白装束は自分の血で赤く染まり、

 白装束ではなくなっている。

 

 

―――洛陽に向かって、二人で珍道中を繰り広げてきた・・・

 

―――寝像の悪さに、何度頭を抱えたか・・・

 

―――怪しい食材を食べて、その度に何度看病したか・・・

 

―――その気の短さ・わがままに何度困らされたか・・・

 

―――でも、それも決して悪くなかった・・・

 

―――皆に会えない、その寂しさを感じなかった・・・

 

―――皆に会いに行くんだって、そう前向きに考える事が出来た・・・

 

  「じゃあな・・・!」

  小刀を逆手に持ちかえ、伏義は小刀を大きく振り上げ、おぼつかない足取りの露仁に振り下ろした。 

  ザシュゥウウウッ!!!!

  「・・・ッ!?!?」

  露仁の体から天に向かって凄い勢いでおびただしい量の鮮血が飛び出す。その体は足元から崩れさるように

 ・・・、力尽きるように・・・、全ての糸が切れた人形のように、そのまま倒れた・・・。

  「・・・うああああああああぁあぁあぁぁぁぁぁぁっぁあぁあああ!!!!!!」

  そして俺の叫びがこの林の中を駆け抜けていった

-6ページ-

 

  「ろ、露仁・・・!」

  力が入らない体をどうにか動かさそうと試みたけど、そのまま地面にへばりつくような体勢になってしまう。

 それでも露仁の元に行こうと体全身を使い、みみずのようにほふくして前進していく。・・・だけど、それは

 2本の足によって遮られてしまう。俺はその足から舐めるように視線を上へとずらす。そこには優越感から来る

 ものか・・・、それとも俺の惨めな姿を憐れむものか・・・、俺を見下ろす憎たらしい顔があった。

  「さて、次はお前の番・・・だ!」

  ドガァッ!!!

  「ブゥッ!?」

  最後の一言と同時に伏義は俺の頭を右足で踏みつける。

 俺はなす術も無く、奴の足と地面の板挟み状態になる。じりじりと右足に体重をかけていく。

 その度に顔が地面にめり込んでいく・・・。意識が一瞬、飛びそうになったがそこを何とか耐える。

  奴の足が俺の頭から離れる。すると今度は俺の首根っこを乱暴に掴み上げる。

  「う・・・がっはぁ・・・・・・!」

  伏義の太い指が首筋に食い込み、呼吸がままならない・・・。奴の顔が、笑みに満ちているのがここから

 よく分かる。そうか・・・、こいつは俺をいたぶって楽しんでいるんだ。露仁のように・・・じわじわと・・・

 いたぶって・・・。伏義の手は緩む事無く、じわじわと俺の首を絞める。視界の焦点が合わなくなり始め・・・、

 ぼやけて・・・、駄目だ、呼吸も・・・、もう出来ない・・・。今度こそ、ここで・・・死ぬんだ・・・。

 ・・・ご、ごめん、華・・・り、ン・・・。

  「まだだ・・・!!」

  「・・・ッ!?」

  突然、誰かの声が俺の耳にそして頭の中に直接響き渡る。

  「あ・・・?」

  伏義は後ろを振り返る・・・。

 そこには、血だまりの中を這いずり、全身を血に濡らす、瀕死の露仁の姿があった・・・。

  「まだ・・・、お前は・・・死んではいけない・・・!

   ここでお前が死ねば・・・、この外史は・・・奴等に・・・よって、消滅するのだぞ!!」

  息を荒げながら、両腕でそのボロボロな体を、引きずりながら伏義に近づこうとする。

  「・・・北郷!・・・恐れるなぁ!・・・その力は・・・、お前の・・・心しだい!!

  自分の・・・心を信じるんだ!・・・その心のままに、力を・・・解放するんだ!!」

  「うるせぇーよ・・・」

  そんな露仁の姿を見ながら、伏義はぼそぼそと言う。

  「お前の・・・信じる、お前自身を信じろ!!心の向かう先が・・・、定まっているのなら!

  お前は・・・、その力を自在に操り・・・、そして奴等に決して負けは・・・!!」

  「うるせぇーって言ってんだろうがっっっ!!!」

  シュンッ!!

  バッゴォオオオッ!!

  「ぐぁあーーーぁあッ・・・!!!!」

  俺の首を掴んでいた伏義が目の前から一瞬消える。俺の首はようやくその束縛から解放され、そのまま地面に

 落ちる。無呼吸状態の肺に急に空気が入り込んだせいで俺は咳き込み、そして伏義は露仁の背中を踏み潰していた。

 その衝撃で地面は割れ、その断片が宙に浮く。露仁の口から大量の血が吐き出される。瞳孔が開き、目が飛び出す

 んじゃないかと思うほど見開かれている。そして糸が切れるように上半身から力が消え、露仁の顔が地面に伏せる。

  「・・・・・・ッ!!!」

 

  露仁の姿が、俺の瞳に映る・・・。

 

  ―――自分の・・・心を信じるんだ!

  ドクンッ―――!!!

  露仁の言葉が、呼び起される・・・!

  「そんなに死に急ぎたいなら・・・、その首を跳ね飛ばして望みどおり死に急がしてやる!!」

  露仁から足をどけると、伏義は地面に刺さっていた露仁の薙刀を左手で抜き取る。

  

 

  ―――その心のままに、力を・・・解放するんだ!!

  ドクンッ―――!!!

  露仁の言葉が、また呼び起される・・・!

  「これで、終わりだ・・・」

  伏義はその薙刀を振り上げる、その切っ先の先は露仁の首。

     

  ―――お前の・・・信じる、お前自身を信じろ!!

  ドクンッ―――!!!

  俺の心・・・、俺が信じる俺・・・、何かが・・・俺に呼びかける・・・。

  「死ねぇええーーーっ!!!」

  伏義の声と一緒に、薙刀が振り落とされる。

  俺が信じる俺が・・・、心が・・・、俺に・・・叫んだ!

-7ページ-

 

  ドガァァアアアッッッ!!!

 

  轟音と共に地面はさらに砕け、その破片と砂煙が宙に舞い上がる。

  ガンッ!!

  その一撃に耐えられなかったのか、薙刀の刃先が粉々砕けていた。

  「・・・んっ!?」

  伏義は異変に気が付いた。

 そこにうつ伏せに倒れていた、あの死に損ないがいない事に・・・。

 動けないように、足で背骨を踏み潰しておいたはずだ。だから動けるはずが無い。だが・・・、実際はどうだ。

 そこには奴がいない。俺達を散々邪魔して来たあの憎たらしい男の姿が・・・何処にもないのだ!

  「・・・何処にいった!?」

  伏義は周囲を見渡すが、肝心の奴の姿が無い。それどころか北郷一刀の姿すらも無かった。

 伏義は理解に苦しんだ・・・今、何が起きたのだ、と。

  「・・・ッ!?」

  背中に悪寒のようなものが走る。伏義はその悪寒を確かめるべく後ろを振り返る。するとそこに奴等がいた。

  「北郷・・・、貴様ぁッ!!」

  伏義はそこにいる人物の名を叫ぶ。それに気が付いた一刀は振り向く事無く立ち上がる。

 一刀の前には変わり果てた露仁が横たわっている。まだ微かに息はしているようだ。だが、あれではもう長くは

 ないだろう・・・、それは伏義にも理解出来た。理解出来なかったのは一刀自身に何が起きているのかという事で

 あった・・・。一刀の背中には、先程までの弱々しさは微塵も無く、今まででは考えられない程、力強い背中で

 がそこにあり、その体からはオーラの様なものが発せられていた・・・。

 

  さっき俺が寄りかかっていた木の根元近くの地面に露仁の体を、衝撃を与えないようゆっくりと寝かした。

 まだ、息がある・・・、もしかしたら助かるかもしれない。でも・・・、その前にあいつを何とかしないと・・・。

  「北郷・・・。貴様ぁッ!!」

  俺の後ろから奴の・・・、伏義の怒りがこもったような声が聞こえる。

  「・・・ほ・・・ん・・・ごう・・・」

  そのかすれた声で露仁は俺を呼んでいるの気付き、再び露仁に目をやる。

  「・・・それで・・・、いい・・・。大・・・丈夫だな?」

  その疑問に俺は首を縦に頷く事で答えた。それを見て、露仁安心した表情を見せる。俺は木の根元に掛けて

 あった鞘に収まった『刃』を取り、両足で立ち上がる。不思議な感覚に襲われる・・・。全身に力が満ち、

 そして体外に溢れ出すような、そんな感覚に。これと似た感覚は建業の時と、山陽の村の時にも感じたが、

 あの時とは明らかに違っていた。上手く言えないが、その力が・・・優しさとか・・・、思いやりとか・・・

 に包みこまれたような、そんな感じである。恐怖は無かった。迷いも無かった。今までの俺では絶対に有り

 えない、この感覚・・・。

-8ページ-

 

  シュン―――ッ!!!

  「!?」

  突然として伏義の視界から一刀の姿が消える。それに気が付いた時・・・。

  ザシュゥゥゥウウッ!!!

  「ぬおおおおおうううううううッ!?!?!?」

  すでに動作は終わっていた。伏義が自分の視界から一刀の姿が消えた事に気が付いた時、一刀の動作は

 完了していた。伏義に近づき、刃を振り上げ、伏義を斬るという3つの動作を一刀は伏義が気付く前に完了

 させていた。

  「が、ぁぁあああ・・・ッ!?」

  その一撃をその身に受けた伏義は堪らず後ずさり、倒れそうになるのを二本の足で倒れまいを振り立たせている。

 しかし、致命傷を負った事に変わりはなく、傷口から大量の血が流れる。左肩から左腹部までバッサリと斬られながら

 も伏義はなお生きていた。

  「ぐ・・・ぐおぉ、ぉぉぉおおおッ・・・!!!!」

  伏義は離れた左肩を乱暴に掴み、そこから強引に切り口同士を接合する。左腕に感覚が無いのか、

 左手から薙刀が落ち、腕はぶらんと下がっている。一刀はその伏義の姿を見続けていた。隙を見せまいと、

 その黄色い瞳で伏義を睨み続ける。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

  伏義の顔に余裕の笑みは無かった。あったのは苦痛に歪み、息を荒げながら汗を垂れ流す顔。

  「ぐ・・・、北郷・・・き、貴様ぁ・・・!」

  伏義の定まらない目が一刀を捉える。それに気付いた一刀は、再び刃を構え直す。その体からオーラの様な

 ものが未だに発せられている。

  「まだ、やるか・・・?」

  憎たらしい程に冷静な一刀に、伏義は苛立ちを隠せない。 

  ブゥオンッ!!!

  「ぐ・・・ッ!?」

  そしてまた一刀が一撃を放つ。その動作も伏義には見えなかったが、直感で右からくる横薙ぎを

 後ろに飛びずさる事で回避する。一刀の斬撃は伏義の上着を切り、腹部の上皮をかする。

  「ふんッ!!」

  伏義はそのままの回避した体勢のまま後ろに飛び、木の枝に飛び移る。

 伏義が乗る枝の近付く一刀。奴の表情は苦痛に歪めながらも、笑みをこぼしていた。

  「へへ・・・、まさかここに来て覚醒するか?突端としての補正がかかっているようだな!?」

  伏義はくくく・・・と、喉を鳴らしながら、枝の上で立ち上がる。

  「・・・ッ!!」

  一刀はその枝に向かって飛び上がる。

  ザシュッ!!!

  一刀が着地すると、遅れて一刀によって切り落とされた枝も地面に落ちるが、そこに伏義の姿は無い。

  『生憎、俺は多忙の身でな!今日の所は見逃してやる!だが・・・、次はこうはいかねぇッ!!!

  次は必ず殺してやるぜ!あの老いぼれのようにな・・・!』

  何処からともなく、伏義の声が聞こえる。どうやら逃げたようだ・・・。

 一刀はゆっくりと目を閉じる。そして再び開けるとその黄色染まった瞳は元の黒い瞳に戻り、全身から出ていた

 オーラの様なものも消える。

  「・・・う、・・・ッ!」

  ドサッ!!!

  オーラが消えた途端、一刀の身体がその場にうつ伏せに倒れる。動かそうにも身体が言う事を聞かず、指先

 一つ動かない。露仁の容体が気になり、露仁の姿を確認しようにも首を動かす事が出来ず、更に急激に意識が

 離れていった・・・。

-9ページ-

 

―――これで、いい・・・。今は、これでいい。後の事は、お前に任せる。外史の、人の想いを・・・、

  その心とわしが託した力で・・・。わしの役目はここまでの様だ、ここからはお前一人で進んでいけ。

  お前ならば・・・、出来る、一刀・・・!

-10ページ-

  

  それから数刻後が経過し、夜が明ける・・・。山の合間から日の光が溢れる。その光は、林の中で倒れていた

 一刀の顔に差し込む。その光に起こされ、一刀は意識を取り戻す。重い瞼をゆっくりと開き、まどろんだ視界を

 少しずつ慣れさせていく。目の前には地面に突き刺さった刃の刀身が日の光を浴びて虹色に輝いている。

 そしてその先には露仁がいる・・・はずだった。そこに寝かせていたはずの露仁の姿が無かったのだ。あるのは

 地面に染み込み、すっかり乾いてしまった血だまりのみ・・・。それを見た一刀は・・・、何の根拠も無かった

 が、あの老人がこの世界にいないと言う事をなんとなくではあったが感じ取った・・・。

  「露仁・・・」

  一刀は何も守れなかった。何が護衛役だ・・・。結局、自分は守られてばかりだった。守られてばかりで、自分は

 何一つ守れていないんだ・・・。

  「・・・・・・ちくしょう・・・!」

  一刀は泣いた・・・。それは守る事が出来なかった不甲斐無い自分への情けなさからか、それとも一人ぼっちに

 なってしまった事への寂しさからか・・・。今の一刀にはその涙が何故流れているのか、分からなかった・・・。

 一刀は一人洛陽へと向かう。本来二人で行くはずだった道中をたった一人で歩いていく。まずは向かう先は陳留。

-11ページ-

 

  「・・・大丈夫、ですか?伏義さん・・・」

  「うるせーよ・・・。それより、さっさと直してくれよ」

  「は・・・、はい・・・」

  「後・・・、ついでといっちゃあ何だが・・・、無双玉を一個くれ」

  「え・・・?でも・・・」

  「でももへったくれもねぇよ・・・。それが無いと、この外史を消滅させらんねぇんだ。

  そうなると・・・、お前にとっても不都合だろ?」

  「は、はい・・・」

  「なら・・・、分かるだろ?・・・母さん、頼むよ。息子の頼みを聞いてくれよ」

  「・・・分かりました。ではちょっと待ってて下さい。すぐ作りますから」

  「さっすがぁ・・・。それでこそ、俺達の母親だよ・・・。くく・・・、北郷。今のうちにせいぜい

  生きてるって実感を味わっておけよ・・・」

-12ページ-

  

  「では、桃香様。行って参ります」

  「うん、気を付けてね。愛紗ちゃん」

  「はっ!では、皆の者出陣だ!!」

  「「「応っ!!!」」」

  愛紗の檄に呼応する関羽隊の兵士達。そして、愛紗を筆頭に城門から出ていく。

 ここは、成都より東に位置する元は呉の防衛拠点として建てた白帝城。

  正和党が蜀に反乱を起こしてから、早くも四日・・・、すでに十の拠点が彼等の手によって陥落していた。

 これは、正和党独自の情報網、蜀軍にとって不慣れな夜の奇襲、そしてどこから入手したのか官渡の戦いで

 魏軍が使用した投石機、といった攻略兵器などによって各拠点の蜀兵達は苦戦を強いられていた。

  この状況を重く見た桃香は、やむなしと・・・その重い腰を上げたのであった。

 現在、蜀軍は白帝城を本陣に各方面の拠点に部隊を派遣し、正和党の侵攻を食い止めていた。

 そして先程、愛紗が率いる部隊が樊城の防衛拠点へと白帝城から出陣したのであった。

  「お姉ちゃん・・・。本当にこれでいいのか?」

  「鈴々ちゃん・・・」

  不満そうな顔をしながら鈴々は確認するように桃香に聞く。そんな鈴々に済まなそうな顔をする桃香。

  「仕方がないさ、鈴々。連中を早いとこどうにかしないといけないんだからさ」

  「そうだよ。悪い人達をやっつけるのがたんぽぽ達の仕事なんだし・・・」

  蒲公英の発言に、鈴々と鈴々の髪を止めている虎顔が怒りを露わにする。

  「おっちゃんのをよく知らないくせに、一体どうしてそんなこといえるのだ!?」

  「鈴々だって、一体何を知っているってのよー!?」

  「お前みたいなちびっこよりも知っているのだ!!」

  「何ですってぇ〜!!蒲公英よりちびっこのくせに!!」

  「何をーっ!!」

  「おいこら、お前等止めろって!!」

  二人の喧嘩を止めようと翠が二人の間に割り込むが、紫苑や桔梗のように上手くなだめられず、喧嘩は

 どんどん激しくなっていく。

  「でも確かに民達の中には、私達を批判する人達がいます」

  「えぇっ!?どうして!?」

  桃香の傍にいた朱里の言葉に鈴々と喧嘩していた蒲公英がそっちのけで驚く。

  「それだけ彼等という存在がこの国の者達の心に強く根付いている・・・という事だろうな。我々以上に」

  どこからともなく現れた星が、言葉を付けたす。

  「どういう事だ、星?言っている事がよく分からないんだが・・・」

  星の言葉が良く分かっていない翠達・・・。その一方でその言葉の意味を理解し、苦虫を噛んだような顔をする桃香。

  「私達の主張よりも正和党さんの主張を・・・、国民の人達の中にはそれが真実だと受け入れている方達もいるんです」

  「廖化が桃香様に送って来た、あのでたらめな言い分が書いてある・・・あの宣戦布告書の内容を真に

  受けているって言うのかよ!?」

  「民達からして見れば、でたらめな言い分では無く、紛れも無い真実・・・と言う風に受け取っている者も

  いるのだろうさ」

  「じゃあ。蒲公英達が悪者って事ぉ!?」

  「そう見ている人達もきっと少なくないかと・・・」

  「彼等と戦えば戦う程・・・我等は悪者になっていく・・・か。何とも皮肉な事だ」

  「お前達なんかより、皆の方が見る目があるのだな〜♪」

  鈴々は嬉しそうな顔をしながら言うと、今度は蒲公英が怒りを露わにする。

  「ちょっと鈴々!あんたはどっちの味方なのよ!?」

  「だから止めろってー!!」

  二人の喧嘩を止めようともう一度翠が二人の間に割り込むが、やはり紫苑や桔梗のように上手く

 なだめられず、またしても喧嘩はどんどん激しくなっていった・・・。そんな光景を見ながら、ずっと黙って

 いた桃香が口を開く・・・。

  「・・・どうして、こんな事になっちゃったんだろう・・・?」

  この言葉には、彼女自身の後悔の思いが込められたいた・・・。そんな彼女の問いは・・・虚しくも誰の耳に

 届く事無く、宙を漂っていた・・・。

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。

 再編集と言う事で、既存の作品を元に修正を加えています。すぐに済むのかと思っていたのですが、最初から読みなおしたり、表現を変えたり、絵を描き直したり・・・これが意外と大変なんですねぇ〜(誰得な情報と言うわけではないwww)。

 ※主に、挿絵の修正・加筆+新たなに描き下ろし。さらに一部のシーンを改変しました(例、愛紗と鈴々の口論の挿絵→二人の部分修正、背後に翠と紫苑を加えました)。

 では、真・恋姫無双 魏・外史伝 再編集完全版 第九章〜その心のままに〜をどうぞ!!
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
3093 2853 14
タグ
真・恋姫無双 真・恋姫?無双 二次創作 ss 魏・外史伝 再編集完全版 オリキャラ 

アンドレカンドレさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com