真・恋姫無双〜魏・外史伝〜 再編集完全版12
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第十二章〜白と紅、二人の救い人〜

 

 

 

  「はっ!つい先程、洛陽方面の狼煙台から緊急時の狼煙が・・・確認されました!」

  「何ですって!?」

  「詳細は不明ですが・・・、我々も隊を編成し救援に向かう準備をしております!」

  「・・・分かったわ。では、あなたは出撃の準備に戻りなさい」

  「はっ!」

  華琳に報告し終わった兵士は再び、人ごみの中をかき分けてながら消えて行った。

  「華琳!」

  「私達も急ぐわよ!一刀、付いてきなさい!!」

  「分かった!」

  一刀は華琳に後を追うように、人ごみの中をかき分けて行った・・・。

  「華琳、一体洛陽で何が!?」

  「もしかしたら五胡が侵攻して来たのかもしれないわね!」

  「このタイミングでか!?」

  「また天の国の言葉かしら!?・・・私が不在を狙ってのものではないかしら?」

  「何だってぇ・・・、どうして国境向こうの連中がこっちの動きを知っているんだよ!?」

  「・・・・・・」

  華琳は一刀の問いに答えず、難しい顔をして黙ってしまう。そして一刀と華琳は部隊編成がされている

 軍部署に到着すると、そこではすでに襲撃の準備が行われ、ピリピリとした緊張感が漂っていた。

  「曹操様!」

  そこに部署の責任者と思われる男がやって来る。

  「絶影はどうしている!?」

  「はっ!すでに食事を終え、いつでも行けます!!」

  「御苦労!隊の指揮は私自らが取るわ!急ぎ、隊の編成を終えなさい!」

  「はっ!!」

  そして華琳は一刀を連れて絶影の所に向かった。絶影は自分の主人に気が付いたのか、華琳に顔を

 向け軽く鳴いた。華琳はそんな絶影の頭を軽く撫でると、ある事を思い出し絶影の横へと移動した。

  「一刀!こっちに来なさい」

  「何だ?」

  一刀は手でこちらに誘って来る華琳の元に近づくと、華琳は絶影の背中に掛けられていた荷物の中から

 おもむろに取り出した物を一刀に渡す。

  「・・・これは!」

  一刀は手渡されたそれを両手に取って広げる。それは紛れも無くポリエステル製の白色の学生服。

  「成都から持って来たの、あなたに渡すためにね・・・」

  「華琳・・・」

  そして再び手元の学生服を見る。

 

―――お前さんの心次第じゃ・・・

 

―――・・・恐れるなぁ!・・・その力は・・・、お前の・・・心しだい!

 

―――お前の・・・信じる、お前自身を信じろ!!心の向かう先が・・・、定まっているのなら!

 

  「・・・・・・俺の、心次第・・・」

  一刀は自分の胸に手を当てる、・・・今の自分の心を、その気持ちを確かめるために。

  「一刀!何をしているの!?早く乗りなさい!」

  いつまでも乗って来ない一刀に苛立ち、少し厳しめに言う華琳。

  「華琳・・・」

  「一刀・・・?」

  華琳は一刀の様子が先程と打って変わっていた事に気付く。そして一刀は口を開く。

  「絶影には悪いけど、絶影にはここに残ってもらって早く洛陽に向かおう」

  「・・・?何を言っているの、あなた?」

  華琳は一刀の言っている事が理解出来なかった。絶影を使わないでどうやって早く洛陽に行くと

 言うのだというのか・・・、その答えを尋ねようとした時であった。

  「ぅあっ!?」

  一刀が華琳の腕を取るとぐいっと自分に向かって引っ張る。突然の事だったため、華琳は体勢を崩し

 絶影から落ちてしまう。そこを上手い事一刀が受け止めると、華琳は一刀にお姫様だっこされる状態に

 なった。

  「こ、こら、一刀!ふざけている場合では無いでしょう!早く下ろしなさい!!」

  華琳は恥ずかしさから一刀の腕の中で子供の様にじたばたと暴れる。

  「北郷総隊長っ!!」

  二人の様子を見にきた兵士が一刀に声をかけると一刀は兵士の方に少し申し訳なさそうな顔を向ける。

  「ごめん!悪いけど一足先に行くから、後から来てくれ!!」

  「えっ!?ちょっと、一刀!?」

  「行くぞ、華琳!!しっかり掴まっていろぉッ!!」

  「ちょ・・・、ひゃぁあっ・・・!?」

  突然風が吹き荒れたと思った瞬間、一刀は華琳を抱えたまま街の外へと走り出していた。

 追いかけようにも、すでに二人の姿は・・・もう見えなかった。

  「総隊長ぉおおおおおおっ!!!」

  一刀が走っていた方向に向かって兵士は彼の名を叫んだ。

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―――日輪が最も高い位置まで上り、この広大な大地を照らし・・・

 

―――この大地を一筋の砂塵が描かれる・・・

 

―――青年は今再び、あの地へと迷う事無く真っ直ぐに、大地を踏みしめ風の如く馳せる・・・

 

  「むむむ・・・、一体誰なんでしょうねぇ〜。五胡に媚を売る売春さんは〜・・・」

  風は溜息とつくとふと、空を見上げる・・・。

  「・・・そこで止むを得ず、魏領内の警戒態勢を強化し、そこから協力者を炙り出すという強引な手段を

  とったわけだけど・・・。そんな状況の中で別の組織の暴動を許してしまうとは・・・。まさか連中こそ、

  その協力者・・・?それとも全くの無関係・・・?風、あなたはどう思う・・・、風?」

  稟は風に意見を聞こうとしたが、風から返事が返ってこない。いつものように寝たふりをしているのかと

 風を見るも、別段寝ているわけでは無く、空を見上げたまま固まっていた。一体の何を見ているのだろう?

 稟も風に真似て空を見上げる。高く昇った太陽、その眩さに稟は手で目をかざしながら、その先を覗くよう

 に見てみると・・・。

  「・・・・・・ぁぁぁぁぁああああああっ!!!」

  その先から声が聞こえてくる。何処か聞き覚えのある声・・・。それに伴い、太陽の中央に一点の黒点が

 現れる。そして黒点は声の音量が大きくなっていくにつれ大きくなりついには太陽を隠してしまい、

 稟がその正体に気が付いたのはまさにその時であった。

  

  ズドンッ!!!

  

  重い物が落ちてきた様な音とともにそれは彼女達の目の前に降り立った。その周囲は降りた瞬間に地面の

 砂は宙に舞い上がり、砂埃が生じる。その砂埃のせいでそれは隠れ、それが何かが分かるのに時間が掛かる。

  「げほっ、ごほっ・・・!ちょっとあなた、私の事完全に忘れていたでしょ!!」

  「げほッ、ゴホッ・・・!そ、そんな事は、ないっ!ただ華琳が軽かったもんだから・・・思った以上に

  高く跳ね上がっちゃって・・・」

  そして砂埃が少しずつ収まり、その影の姿が目視できるようになった・・・。

 

  「ん?何か・・・、前の方で何かあったんかなぁ?」

  後方に下がり、桂花の指示に従ってとある作業をしていた真桜が前方が先程までと騒がしさが変わった事に

 気が付いた。

  「真桜!からくりの準備は出来たの!?」

  と、そこに作業の状況を確認しにきた桂花がやってくる。

  「ああ、桂花!こっちはもうじきやでぇ!・・・それより、前で何かあったんか?前の方が妙に

  騒がしいんやけど」

  「え?私のところには何の報告も来てはいないのだけれど・・・」

  「「「応ぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!」」」

  前戦の兵士達の野太い声が何重にも重なって二人の耳にまで届く。何があったのかは分からなかったが、

 確かに士気が先程以上に高まっているのが桂花には理解できた。しかし、何があったのか・・・?

  「何や何やぁ!?一体何が起こっとんねん!!」

  真桜は作業を止め、背を伸ばして前を覗き込む。

  「どうやら間に合ったようね」

  「へっ?」

  「えっ?」

  突然後ろから声が掛かり、呆気にとられる二人。後ろを振り返ると、そこには華琳が立っていた。

  「待たせたわね・・・桂花、真桜」

  「華琳様!?」

  「大将!何でこないな所に!?」

  「何で?可笑しな事を聞くのわね。ここは私の街なのだから、私がいても何ら可笑しな事は無いでしょう?」

  「い、いやぁ、そりゃそうっでっしゃろうけど・・・、だって陳留に行ってたはずやぁ・・・?」

  「細かい詮索は後にしなさい。桂花、まずは今の戦況を説明してくれるかしら?」

  「は、はっ!ではこちらに!」

  桂花は華琳に説明するため本陣へと案内する。一方、残された真桜は一人考えていた。

  「・・・まさか、隊長が・・・?」

  そう思い立った真桜は急ぎ作業に戻っていった。

 

  「しゅ、秋蘭・・・ぐぁっ・・・!!」

  春蘭は立ち上がろうとするが全身に痛みが走り、思うように立ち上がれない。鷹鷲はそんな春蘭に目を

 くれず、投げ飛ばした秋蘭の後をを追いかける。

  「ぐ・・・、ぅうぅ・・・ぁあっ!!」

  秋蘭は地面に打ち付けた体の痛みに顔を歪ませながらも何とか起きあがろうとする。そんな彼女を大きな

 影が覆い尽くす。それに気が付いた秋蘭は顔を上げると、そこには直立不動の鷹鷲が大剣を携え、こちらを

 見下ろしている。秋蘭は餓狼爪を探すが、それはちょうど大男の背後に落ちていた。鷹鷲の大剣がゆっくり

 と・・・振り上げられる。

  「あかん!!もう間に合わん!!」

  「秋蘭様ぁあっ!!」

  「秋蘭さまぁあああ!!」

  「秋蘭様ぁっ!!」

  「しゅ、秋蘭ーーーーーーっっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

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  ・・・とある場所の一室。

  「これで夏侯淵妙才を葬れましたね」

  「でも何でわざわざ夏侯淵を優先して始末しておく必要があるんだ?肝心の巻物はもうすでにあの女が

  回収したはずだろ?」

  「私は別に彼女を始末する様、鷹鷲を仕向けてはいません」

  「あ?だがあれはどう見ても夏侯淵を率先して殺そうとしていないか?」

  「さぁ・・・、フラグの再回収をしようとしているのでは?確かあの鷹鷲に使われた人形(ひとかた)、

  情報によれば定軍山の戦いにて蜀軍の兵士として関わっていたようですから、もしかすれば・・・」

  「回収できなかったフラグを・・・、ここで回収しようとしているのか?」

  「女渦の報告では、傀儡兵の中に時折情報の流れが前後してしまう物が現れるそうです」

  「前後する?どういう意味だ?」

  「・・・情報は外史の時間経過に合わせ、その都度新たな情報を更新していきます。傀儡兵に作り

  替える際、その山を全て崩し、そこに傀儡兵にするのに必要な情報を加え、そこから再構築させて作る

  のですが、その際に今まで蓄積してきた古い情報が新しい情報として間違って更新される場合があるそう

  なのですよ」

  「だが、傀儡兵は俺達の指示に忠実に動く人形だろうが・・・?」

  「外史のプロットに大きく関わる情報の場合、そちらが率先される場合があるのかもしれません・・・」

  「・・・まだまだ、改善の余地があるっつうわけな・・・」

  「まぁ、別によろしいではないですか、こちらとしては別段困る事でもないのですし、何より駒を減らす

  事が出来る」

  そして机に広げられた地図に置かれた駒達の一つを見る。

  「さようなら・・・、夏侯淵妙才」

  そう言うとその駒を指で軽く押し倒す。駒は為す術も無く、そのまま横に倒れようとした・・・。

  「・・・っ!?」

  表情が一変する。倒れた駒が横たわる寸前で止まったからだ。

  「こいつは・・・」

  その場に居合わせていた伏義もこれには驚きを隠せなかった。そして駒は倒れかけの状態からくるくると

 回りだし、次第に立ち上がっていく。そしてついにはバランスを取るかのように左右に揺れながら、再び

 立ってしまった。

 

  ガッゴォオオッ!!!

  「「え・・・?」」

  「なっ・・・!」

  「なんやて・・・?」

  「あ、あいつは・・・!?」

  そこに居合わせていた者達は目の前で起きた事が理解出来ず、一瞬時が止まったかのように思考が停止した。

 彼女達の視線は一人の人物に注がれ、その人物から逸れる事はない。何故ならば、秋蘭の・・・彼女の目の前に

 いたのは・・・。

  「大丈夫か・・・、秋蘭?」

  「お、お前は・・・」

  呆然とする秋蘭。そんな彼女を確認しようと、後ろに目をやる。

  「悪い・・・、待たせたな」

  「・・・北郷」

  懐かしい・・・彼の横顔を見て、秋蘭は彼の名をつぶやいた。

  「一刀ぉっ!!」

  「兄ちゃん!!」

  「兄様!!」

  「隊長、お待ちしておりました!!」

  「北郷・・・!!」

   ブゥオンッ!!!

  「うぉわっ!?」

  「姉者っ!?」

  突然斬りかかって来た春蘭に一刀は反射的に刃でその一撃を受け止める。

  「ちょ、おまっ!敵に斬りかからないで俺に斬りかかってどうするんだよ!?」

  「この馬鹿者!!!何が待たせたな、だ!!一体・・・どれだけ華琳様を待たせたと思っておるのだぁ!!」

  「・・・ごめん」

  「ごめんっ!?ごめんだと!貴様は・・・たったそれだけの言葉で片づけるつもりか、北郷!?」

  「ごめん、春蘭。でも、俺にはこれ以外の言葉が思い当たらなくて・・・。お前にも心配を

  かけたみたいで・・・」

  一刀の言葉に、春蘭は湯気が出てきそうなくらいに顔を真っ赤にする。

  「・・・っ!?だ、誰が・・・き、き、貴様の事を・・・!!!」

  「危ないっ!」

  「のあっ!?」

  一刀は春蘭を突き飛ばす。その瞬間、春蘭がいた場所に大剣が振り下ろされ、大剣はそのまま地面を

 叩き割った。その大剣の持ち主である鷹鷲は今度は一刀を睨みつける。標的を秋蘭から一刀に変わった

 のだろうか。

  「大丈夫か、春蘭!」

  「姉者っ!!」

  秋蘭は急ぎ立ち上がると、一刀の横をすり抜け、春蘭の元へと駆け寄る。

  「一刀!!そいつは春蘭や秋蘭でも敵わんような相手や!!ここはうちらに任せて早ぅ後ろに下がりっ!」

  霞は傀儡兵と戦いながら一刀を気遣ってくる。一刀では瞬殺されてしまうと、霞はこの時そう思っていた。

  「ありがとう、霞。心配してくれて・・・。でも、俺は・・・逃げないよ」

  「か、一刀ぉ・・・?」

  一刀の予想外の言葉に目を丸くさせる霞。一刀はそんな霞を余所に秋蘭の方を見る。

  「秋蘭、こいつは俺が何とかしておくから春蘭を連れて下がってくれないか?」

  「っ!?何を言い出すのだ!お前一人でどうにかなると思っているのか!?むしろお前が姉者を・・・!」

  言葉を続けようとした秋蘭の目は一刀の目と合う。一刀の目を見た瞬間、秋蘭は何かを悟ったように

 態度を急変させる。

  「頼む・・・」

  「・・・分かった。ここはお前に任せる」

  「おぅ、任せておけ!」

  「な、何だと!?秋蘭、北郷を見殺しにする気か!?」

  秋蘭はそんな姉の言葉に耳を貸す事無く、春蘭の肩を担ぐように引きずって後ろへと下がる。

  「こ、こら秋蘭!!・・・離さぬか!私はまだ戦える!早く北郷を・・・ぐぅっ!?」

  春蘭は痛みに顔を歪ませ、横腹を押さえる。あばらが二、三本折れているのであろう・・・。

  「そんな体で満足に戦えるものか・・・。それに、北郷なら大丈夫だろう」

  「・・・一体、何が大丈夫だと言うのだ!?私でも歯が立たない相手に・・・!」

  「さてな。だが、あの北郷が大丈夫だと言うのであれば、大丈夫なのだろうさ・・・、絶対に」

  秋蘭に根拠は無かった、大丈夫だという根拠は全く持っていなかった。それにもかかわらず、秋蘭の大丈夫だ

 には迷いは無く、絶対的な自信が含まれていた。

  (あんな真っ直ぐで、力強い透き通った眼差しを見てしまったら・・・、もう何も言えないさ)

  

  「・・・・・・」

  目の前の鷹鷲に対して、建業で暴れていた大男とどこか似た感覚を感じる一刀・・・。

  「あの二人構える事無く、全く動かない・・・」

  「互いに相手の出方を窺っているようやな・・・」

  「じゃあ、兄ちゃんはあの大男とおんなじくらいに強いってことなの?」

  「まぁ・・・、そういうこっちゃ。春蘭みたいに迂闊に飛び込むんは危険って事」

  「なるほど・・・」

  「って言うか、一刀ってそんな強かったけかぁ?」

  「さ、さぁ・・・、自分はそのような覚えはありませんが・・・」

  霞達は自分の周囲を警戒しながらも、二人の様子をうかがっていた。

  「ッ!!」

  「はぁッ!!」

  ガギィイイインッッ!!!

  鈍い金属音が大通りを一気にと駆け抜ける。一刀の刀と大男の大剣が火花を散らして二本の刃が互いを

 牽制し、そして鍔同士で競り合い、相手の動きをうかがう。最初に動きを示したのは鷹鷲の方であった。

 やはり体格では鷹鷲の方が大きく、重量があるせいか、単純な力勝負では一刀はでは勝負にならない。

 一刀はいとも容易く押しのけられ、後ろに重心がずれ、後ろに転びそうになった所に鷹鷲の大剣から突きが

 繰り出される。だが一刀は敢えて重心に逆らわず上半身を仰け反らせ、突きを寸前で回避する。一刀は

 そのまま仰向けに倒れるが、すかさず左足を持ち上げ、突きを放ち、鷹鷲の腕が伸びきった所で大剣に横蹴り

 を放つ。腕が伸びきっていたため、大剣を蹴られ、鷹鷲は簡単に体勢を崩してしまう。その隙に一刀は立ち

 上がると、体勢を崩した鷹鷲に攻撃を仕掛ける。だが、それを邪魔せんがために、傀儡兵が二体、一刀に襲い

 かかる。それとと同時に後方にいた霞達に屋根の上から敵が再び奇襲をかけてくる。

  「くそぅ!!また来たでこいつらぁ!!」

  「霞様!」

  「分かっとるわ、凪!行くでお前等!!」

  「「「応ぉおおおおおおっっっっ!!!」」」

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  「はぁあああっ!!」

  ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!

  「・・・ッ!?」

  「・・・ッ!?」

  一刀は傀儡兵の攻撃を交わし、二体を斬り払うと、再び鷹鷲へと向かう。だが、先に仕掛けてきたのは

 鷹鷲、振り上げた大剣を一刀に振り下ろす。

  ブゥオンッ!!!

  一刀は横に身を翻し、その斬撃を避けるが大剣は再び一刀に襲いかかる。一刀は横薙ぎの斬撃を飛び越える

 と、空を切った大剣を鷹鷲は両手で持ち直し構え直す。一刀も刃を持ち直して構えると鷹鷲との距離を測る。

  「・・・っ!」

  ブゥオンッ!!!

  一刀も負けずと間合いを詰め、先に攻撃を仕掛けるも、鷹鷲は大剣で刃の刀身を受け流し、大剣で一刀に

 斬り返してくるが、一刀もその斬撃を受け流し、その直後に斬撃を叩き込む。刃と刃がぶつかる度に、火花が

 何度も咲き散らす、という横着状態が続く。

  「やぁあッ!!!」

  その状態を断つべく、一刀が両手握りの兜割りを鷹鷲に放つ。

  ブゥオンッ!!!

  「なッ、しま・・・ッ!!」

  ガシィッ!!!

  「がぁ・・・っ!」

  一刀が放った斬撃は避けられ、鷹鷲は一刀の首筋をがっちり掴み取り、一刀を頭からを地面に叩きつける。 

  頭に衝撃が伝わり、一刀は意識が飛ぶ。そんな一刀を持ち上げると大男はもう一度地面に叩きつける。

  「・・・・・・・・・」

  意識が完全に飛んだ一刀の首から手を離し、今度はそのかもしかのような太い足で一刀を容赦なく踏み潰す。

  「隊長!!」

  一刀の危機に凪は彼の元に駆けつけようとするも周囲の傀儡兵達が壁となって立ちはだかり、それを

 許さない。

  「くそぉ・・・!」

  「凪ぃ、下がりなぁあああーーーっ!!!」

  「っ!?」

  その掛声に、とっさに下がる凪。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  「ッ!?」

  「ッ!?」

  「ッ!?」

  「ッ!?」

  凪達を襲っていた傀儡兵達は後ろから飛んできた大量の矢に打たれる。

  「こ、これは・・・?」

  「間に合ったでぇぇえええっ!!!」

  後ろからからくりと思われる兵器達を引き連れてやって来たのは、真桜とその専属の工作部隊であった。

  「「真桜ッ!!」」

  「真桜ちゃん!!」

  「真桜さん!!」

  「真打ち登場ぉぉおおおーーー!!さぁ、お前等、がんがん撃ち込むでぇえっ!!」

  「「「あいあいさーーー!!!」」」

  真桜に合図で工作部隊の兵士達はからくりに矢の束を充填していく。

  「よし、ってえぇええーーーっ!!!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  発射口と思われるその穴から、大量の矢が連続に撃ち放たれる。傀儡兵達は為す術も無く、その矢の餌食に

 なっていく。全てを撃ち終えたからくりを見て、真桜は霞達に誇らし気に胸を張る。

  「ふっふっふ・・・。どうやぁ〜、すごいやろぉ♪」

  「うおっ!?何や真桜、また新しい新兵器かいな!」

  「ふっふっふ・・・、その通りやで姐さん。こいつはうちが長年の研究からついに完成させた・・・。

  名づけてぇ・・・」

  「真桜、そんな事はどうでもいい!!早くそれを使って隊長を!!」

  「ちょ、凪ぃ!!うち一晩かけて考えた名前を聞かんって、人でなしにもほどがあるでぇ・・・!」

  真桜は文句を垂れ流しながらも、急ぎ矢の束を充填する。

  「標準、合わせぇえええーーー!!」

  「「「あいあいさーーー!!!」」」

  発射口を鷹鷲に定める真桜。

  「よし、ってぇえええーーーっ!!!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  鷹鷲に向かって大量の矢が撃たれる。

  「・・・・・・」

  鷹鷲はその場から身動き一つ取らない。このまま矢の餌食になるのかと思われたが、大剣で大量の矢を

 次々と斬り払う。それを見ていた真桜は目を見開いて驚く。

  「ちょっ!まじかいな・・・っ!!」

  全ての矢を撃ち終えたからくりを見た鷹鷲は一刀から足をどけると、自分の足元に倒れていた傀儡兵の

 死体を持ち上げ、真桜のからくりにめがけて放り投げた。

  「うぇええっ!?そんなん聞いてへんでぇえええ〜〜〜っ!?!?」

  ドッガァアアアッッッ!!!

  真桜自慢のからくり兵器は鷹鷲の手によってあっけなくも破壊されてしまった。

  「んぎゃあああぁぁぁ・・・・・・!!」

  破壊されたからくりの木片に紛れて真桜も吹き飛ばされる。

  「真桜ちゃん、大丈夫!!」

  「真桜さん!しっかりして下さい!!」

  「うぅ〜・・・」

  季衣と流琉は粉々に粉砕されたからくりの傍に駆け寄り、その中に埋もれ目を回している真桜の介抱する。

  「・・・・・・」

  からくり兵器を破壊した鷹鷲はゆっくりと霞達の方へと足を向ける。

  「く、来るで!!」

  霞の声に、他の皆が反応する。地を素足で踏み、近づいてくる巨漢。その背後から別の誰かが近づいてくる。

  「・・・ッ!?」

  気配を感じ取った鷹鷲は後ろを振り返る。

  ガシィッ!!!

  振り返った瞬間、近づいてきた一刀の左手が鷹鷲の顔を真正面から掴み取る。鷹鷲の顔面を掴んだ左手は

 ぎりぎりと握り、五本の指が顔に喰い込んでいく。一刀は鷹鷲の上半身を強引に自分の方に引き込むと、

 前のめりになった鷹鷲の鳩尾に下から右拳を何度も・・・、何度も叩き込む。

  「はぁっ!はぁっ!!はぁっ!!!」

  ドガァッ!!!ドガァッ!!!ドガァッ!!!

  隙を見せまいと今度は膝を叩き込む。

  「えぁっ!えぁっ!!えぁっ!!!」

  ドガァッ!!!ドガァッ!!!ドガァッ!!!

  「でぃやぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  そして最後は鷹鷲の胸倉を掴み、勢いをつけ後ろに投げ飛ばした。柔道のような背負いなどのような綺麗な

 モノではなく、それは力任せの形になっていない投げではあったが・・・。投げ飛ばされた鷹鷲は背中から

 地面に叩きつけられる。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・!!」

  学生服は土に汚れ、ボロボロになっていた一刀は大きく息をするたびに両肩が上下に激しく動かしつつ、

 地面に転がっていた刃を拾い上げる。  

  倒れていた鷹鷲。体を起こし、一刀に体を向ける。

  「ヴァアアアッ!!!」

  雄叫びを上げた鷹鷲。両腕を上げ、一刀へと襲いかかる。

  「・・・・・・っ」

  一刀は目を離さず、足を広げ、その身を少し低くすると、一刀の体から青白い気の様なものが溢れ出し、

 次第に刃の刀身にもそれが伝播する・・・。

  「でやぁあっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  一刀は振り上げていた刃を下から振り抜く。刃の刀身は青白い軌道を残し、その切っ先が地面を掠ると、

 掠った箇所を起点に青白い炎が波状となって地面を駆け抜け、鷹鷲の体に纏わり付く。

  「ヴゥ、グゥァアアア・・・!」

  その身を炎に包まれ、悶え苦しむ。しかし、炎が身動きを制限し、鷹鷲は振り払おうにも炎に拘束され、

 更にその身を焼かれていく・・・。

  「はぁあああ・・・・・・っ!」

  一刀は刃を両手で持ち直し、鷹鷲に近づいていく。

  「・・・ア、アァァアア、ァアアッ!!」

  鷹鷲が自分の間合いに入った所で、一刀は最後の一歩で強く地面を踏み、すれ違いざまに刃を横に倒し、

 鷹鷲の胴体に斬り込んだ。

  「でやぁああああああっ!!!」

  一刀は刃に力を込め、一気に振り抜いた・・・。

  ザシュゥウウウ―――ッ!!!

  「ァァアアア、ァ、アアア・・・ッ!!!」

 大男の胴体に横一文字の刀傷。そこを起点に発火、青白い炎が一瞬にして全身を燃やす。足元から崩れ、

 そのまま前のめりに倒れ去る・・・。

 総大将が倒れたと知るや否や、霞達に襲いかかっていた敵達はその場を後にし撤退していくのであった。

  「連中が撤退していくで!!」

  真桜が言った通り、敵全員が撤退を開始していた。追撃しようにも、すでに姿は消えてしまっていた。

  「全く、引き際も速いっちゅう事やで・・・!」

  敵の迅速な対応に逆に関心してしまう霞。

  「・・・ぅぐッ!?」

  手に持っていた刃を落とし、一刀はその場に膝を折りよつんばいになる。

  「隊長ぉおおおっ!!」

  凪が今にも泣きそうな声で一刀の傍に駆け寄ってくると、立つ事がままならない一刀の左肩を持ち、

 一刀が立ち上がるのを手助けする。

  「・・・あ、ありがとう、凪・・・」

  一刀が凪の肩を借りて立ち上がろうとしたが、バランスを崩し倒れそうになるが、そこに遅れてきた真桜が

 もう一方の肩を持つ。

  「真桜・・・」

  「全く、世話の掛かる隊長やで・・・。うちらがいないと立つ事もできないんか?」

  真桜の皮肉に、その通りだな、一刀は鼻で軽く笑った。二人の部下の肩を借りて、一刀は皆の元へと

 向かって行った・・・。

 

  「北郷・・・一刀・・・!!」

  「・・・・・・」

  「あなたのせいですよ。あなたが彼の力を目覚めさせてしまったのです」

  「ちッ・・・、うるせーよ。だったらこっちも奴と同じ事をすればいいだけの事だろ?」

  「そういう問題ではありません・・・」

  「はッ、分かったよ。悪かった、悪かった・・・俺のせいですよ」

  「・・・ふぅ、まぁいいでしょう。とりあえずは、当初の目的は達成出来たことですし・・・。このまま、

  彼女には北郷一刀の監視をしてもらいましょう」

  「奴が隙を見せた所を、後ろからグサッとか?ハハハ・・・、種馬にはこの上ない最後だな!

  いやいや・・・、女は怖いねぇ」

  「伏義・・・」

  「悪かったよ・・・。そんじゃ、俺は戻るぜ。さっきの件頼んだぜ」

  「それなら問題ありません・・・。すでに手配しましたよ」

  「おう?何だかんだいって、仕事が早い事・・・で」

  「・・・・・・」

  「だんまりかよ・・・じゃあな、祝融」

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  「一刀ぉ〜!ひっさしぶりやないか〜!」

  疲れきった一刀に抱きつく霞。

  「霞・・・、悪かったな。急にいなくなって・・・、ローマに行こうって約束・・・」

  「んなもんどうだってえぇ!一刀がこうしてうちの目の前におるんなら、まだ約束はまだ消えてへん!」

  一刀から離れると、霞はそう言う。その目は少し赤くなっていたのが、一刀には分かった。

  「・・・そうだな」

  一刀は霞に優しく微笑んだ。

  「にいちゃーん!!」

  「ぬぉおッ!?」

  いきなり右横から季衣が一刀の腰にめがけ体当たりして来る。それをまともに受けた一刀はバランスを崩し、

 季衣に押し倒される。

  「にいちゃ〜ん、今までどこにいってたんだよぉ〜・・・!ぼく達をほったらかしにして一人で

  帰っちゃうんなんて〜、ずっと一緒にいるって約束したじゃないか〜・・・!」

  季衣は一刀の腰に抱きつき、顔を一刀の腹に埋めながら責めるその姿はまるで泣きじゃくる子供の様であった。

  「・・・ごめんな、季衣。ずっと一緒にいたかったんだけどな・・・、どうしても帰らなくちゃいけない

  事情があったんだよ。ごめん、本当に・・・ごめんな」

  そう言って一刀は上半身を起き上がらせると、季衣の頭を優しく撫でる。

  「兄様、大丈夫ですか?」

  そこに流琉がやって来て、一刀の傍にしゃがみ込む。

  「・・・いきなり体当たりされるとは思ってもみなかったから」

  「ふふっ・・・、それだけ済んで良かったじゃないですか♪」

  「おいおい・・・、まるで秋蘭みたいな事を」

  「秋蘭様に似てましたか?」

  「ちょっとだけ・・・」

  2人は目を合わせる。と同時に笑いが起こる。

  「・・・二年は、ちょっと長過ぎたな・・・流琉」

  「ですね・・・、兄様」

  笑っていたはずの流琉の目から一筋の涙が流れる。流琉はそれを隠すように、一刀の胸に顔を埋める。

 一刀は流琉の頭も優しく手で包み込んだ。

  「隊長・・・?あぁ!隊長なの〜!!」

  「沙和・・・か?」

  「隊長〜・・・ってあぁ〜!すでに季衣ちゃんと流琉ちゃんに取られちゃってるの〜」

  「沙和、俺を物みたいに言わないでくれ」

  「え・・・、沙和ちゃん?」

  一刀の腹にうずくまっていた季衣はようやく顔を上げ、沙和の方を見る。

  「季衣ちゃん達、ずるいの〜。沙和だってぇ、隊長に甘えたいのにぃ〜」

  沙和はそう言って頬を膨らませると、それを見た季衣は目をごしごしこすって涙を拭う。

  「ああ〜・・・、うんゴメンね。流琉・・・」

  季衣が流琉の真名を呼ぶと、流琉も自分で涙を拭っていた。

  「うん、私はもう大丈夫だよ」

  「ん・・・、沙和ちゃん。ボク達はもういいから、今度は沙和ちゃんの番ね」

  そう言って、二人は一刀からようやく離れる。一刀は二人から解放され、両手で立ち上がろうとした。

  「んぎゃぁあッ!?」

  が、それはいきなり抱きついてきた沙和によって阻止されてしまった。

  「隊長!やっぱり隊長なの〜!!やっと会えたの〜!!」

  沙和は一刀の首にすがりついて心の底から喜ぶ。

  「隊長!沙和、いっぱい、いっ〜ぱい頑張ったの!街の消火や、街の人達の救助もしたし、怪我した人の

  治療もしたの!!隊長の街を守ったの〜!!」

  沙和は自分が頑張った事を一刀に報告していった。一刀はそれが嬉しくて仕方が無かった。

  「そうか・・・!良く頑張ったな、沙和」

  そう言って、一刀は沙和の頭を季衣や流琉と同じ様に撫でる。頭を撫でられる沙和はまるで猫のように

 気持ちよさそうにしていた・・・。しかし、そんな沙和を見ていて、若干面白くないと感じる二人がいた。

  「ちょい待ち沙和!うちらかて頑張ったでぇ!!何一人で頑張ったみたいに言うとんねん!?」

  「と言っても、お前が持って来たからくりは大して役立っていなかったじゃないか」

  「ちょ、おま!凪ぃ、何ちゅう事をっっ!!窮地から救ってやったっていうに、何やその言い草はぁ!!」

  漫才を始める凪と真桜。それを見て一刀や他の者達も笑った。

  「あ、春蘭さまぁ!もうお体は大丈夫なんですか!?」

  季衣は後方からやって来た春蘭の元に駆け寄る。

  「当たり前だ!あの程度では私の体はビクともしないさ!」

  そう言って、春蘭は自分の胸を叩く。その瞬間、彼女の顔が青ざめうずくまってしまった。

  「しゅ、春蘭さまぁあああっ!!!」

  「自分の体の状態をちゃんと把握出来ないなんて、あなたの脳筋っぷりには感服しちゃうわね」

  「そうだな」

  そこで桂花と一刀の目が合う。

  「「・・・・・・」」

  「・・・・・・よう、また会えたな。桂花」

  沈黙を先に破ったのは一刀の方であった。

  「あらぁ?何よ・・・、まだしぶと〜く生きているのね、この全身精液孕ませ男。

  てっきりさっきの戦闘で死んじゃったのかと思っていたわ」

  「はぁ〜、毎度のことながらひどい罵りっぷりで・・・、そういう所は今も全然変わっていないのな」

  一刀は予想通りの桂花の言葉に呆れながら答える。そんな一刀の対応が気に入らなかったのか、桂花は

 不愉快そうな顔をする。

  「何よ、その上から目線は!?あんたみたいな汚物の塊なんか、道端でとっとのたれ死んでいれば

  良かったのに・・・!」

  「死にかけは何度かしたけどね・・・」

  「だったらその時素直に死んでいなさいよ!この変態下衆男!!あんたなんかこっちに一生戻って

  来なかった方が私にとっても、この世にとっても幸せだったんだから・・・!!」

  「何言うとんね、桂花。お前かて隊長の事でしょっちゅう思いに耽ってたくせにぃ〜・・・」

  「仕事中にも耽ってたの〜♪」

  「ちょっと!あなた達一体何を言い出すの!?」

  「桂花様も口ではそう言っても、本当は隊長の事を・・・」

  「凪!あなたそれ以上言ったら、首をはねるわよ?!」

  「兄ちゃん、桂花も本当は兄ちゃんに会いたかったんだよ!」

  「季衣、あなた何て事を言うのよ!?」

  「そうだぞ、桂花。あの時だって、北郷の身を考えて華琳様に迎えに行くよう、さり気無く進言していた

  ではないか」

  「ちょ・・・、ちがっ・・・!あれは・・・!」

  「な〜んや、桂花も素直やないな〜♪」

  そこにちょうど良く、風と稟もやって来た。

  「いえいえ、それが桂花ちゃん良い所なのですよ〜♪」

  「決して『デレ』を見せず、敢えて『ツン』で貫く・・・、成程それはそれでおもしろいですね」

  「・・・まぁ、そう言ってやるなお前達」

  「あ〜〜〜、もうっ!あなた達!好き勝手な事ばかり言ってるんじゃないわよぉっ!!!」

-6ページ-

  

  「・・・・・・」

  「どうしたの、ぼ〜っとして」

  「・・・いや、やっと帰ってこれたんだな、と・・・思ってさ」

  もう・・・叶わないと思っていた。どんなに強く望んでも、決して叶わなかったのに・・・。

 向こうに帰ってからずっと思い描いていた願いが、今こうして目の前に広がっていた。

  「それより一刀。あなた何か大事な事を忘れていないかしら?」

  「へっ・・・?一体何の事・・・」

  一体何の事だろう・・・、必死に思いだそうとする一刀の前におもむろに華琳が左手を差し伸べる。

 一刀は華琳が何を言おうとしていたのかをすぐに分かった。

  「お帰りなさい、一刀・・・」

  「・・・ただいま、華琳」

-7ページ-

 

  一刀達が無事再会を果たした時から少し時間を遡る・・・。

  ザシュゥゥゥゥゥウウウッッッ!!!!!

  「がはっ・・・!?」

  姜維の一撃は愛紗の青龍偃月刀の柄を叩き折り、その斬撃はそのまま愛紗に襲いかかる。しかし、そこは

 愛紗、偃月刀が叩き折られた瞬間、とっさに後ろに身を引いた事により、身体が一刀両断されるのは避けられた

 ものの、それでも斬撃をその身に受け、負った傷口から大量の血が勢いよく吹き出す。

  「ぐぅ・・・、ぁああ・・・!!」

  愛紗は左手で傷口を押さえるが、止まるはずも無く、血が全身を濡らす。全身から脂汗が流れ、意識が

 朦朧としていた。

  「やられる瞬間、後ろに身を引いたか・・・。なら!!」

  姜維は再び、剣を右肩に乗せる形で剣を振り上げ、止めをさすべく愛紗に突っ込んで行く。

  「はぁああああああっ!!!」

  「ぬぅ・・・!?」

  剣は愛紗の脳天に振り落とされた。

  ブゥオンッ!!!

  ガギィイッ!!!

  「なぁっ!?」

  振り落とされたはずの剣が姜維の頭上まで跳ね上げられ、姜維はたまらず後ろに倒れる。

  「・・・ぐぅ。な、何だ一体!?」 

  姜維は体を起こし何があったのかと見ると、そこには愛紗を背中から支える、血の色に似た朱色の外套を

 身に纏い、両眼を布で隠した男が剣を逆手に構えた状態で立っていた。

  「・・・だ、誰だ!お前も蜀軍の将か!?」

  「・・・・・・」

  姜維は立ち上がり、剣を構えると目の前の男に尋ねるが当の男は沈黙を通す。

  「・・・お、おま・・・えは・・・」 

  愛紗は自分を抱き抱える男に息絶えな声を掛けるも、そこで意識が無くなる。出血多量で顔と唇が青白く

 変色している。彼女の足元には彼女の血で出来た大きな血溜まりが出来、その中に赤い血で染まった彼女の

 裾が浮かんでいる。男は愛紗を胸で抱き抱えると、姜維達に背を向け、その場を去って行ってしまった・・・。

  「待て、逃げる気か!!」

  逃亡した男を追いかけようと、姜維は走りだそうとした。

  「待て、姜維!」

  しかし、そこを廖化によって遮られる。

  「どうしてです!ここで逃がしたら・・・!?」

  「あの男が逃げた先に罠が仕掛けられている可能性がある・・・。その上、長い追撃で他の皆も疲労が

  溜まっている。これ以上の追撃は避けるべきだ・・・」

  「だ、だけど・・・!・・・分かりました」

  姜維は憤りを感じながらも、この場は廖化の指示に従う。

  「怪我をしている者は治療を受けるんだ!一通り済み次第、少し先に開けた地で休息を取るぞ!」

  廖化は各党員に指示を出すと、党員達はそれに従って治療を受ける。

  「廖化さん。さっきの男、一体何者なんですか?あんな奴、蜀軍にいましたっけ?」

  「ふぅむ・・・、私もあのような者がいるとは聞いていない」

  廖化は姜維の疑問に、顎を撫でながらその答えを探す。

  「血のように真っ赤な外套・・・、両眼を鉢巻で隠す・・・、そして左目に大きな切傷・・・、か」

  先程の男の特徴を口に出し、廖化は自分の記憶の中の情報と照合していく。

  「・・・まさか」

  すると、廖化は何か思いついたように声を出す。

  「心当たりがあるんですか?」

  「姜維、お前は呉で目撃されたという白装束の武装集団を知っているか?」

  「え、まぁ・・・一応。確か白装束を身に纏った人物が率いているっていう・・・、それがあの男と

  何の関係が?」

  「その時、一緒に目撃されたのが、通称・・・『朱染めの剣士』だ」

  「朱染めの剣士・・・?じゃあ、あいつが・・・そうだって?」

  「特徴からして恐らくそうだろう・・・。しかし、何故そのような男がここに・・・?」

  「朱染めの剣士・・・」

  姜維はその朱染めの剣士が逃げ去っていった方向を見た・・・。

-8ページ-

 

  「・・・伏義。あなた一体何をしたのですか?」

  「何の話だ?」

  「この姜維という少年が見せた力、これは明らかに常人の為せる業ではありませんね・・・言って

  おきますが、隠した所で無意味ですよ。あなたが彼女に言って、玉を作らせた事はすでに私の耳にも

  入っていますから」

  「へッ・・・、底意地の悪い奴だ。そこまで分かってんなら聞くまでも無いだろ?」

  「では、質問を変えましょうか?・・・今。その無双玉は何処にありますか?」

  「・・・ここ」

  と言って、伏義は自分の胸を親指で指し示した。

  「・・・ではあの姜維が所持しているのは、・・・『欠片』ですか?」

  「ああ、そうさ。外史の登場人物にそのまま玉を渡しちまったらどうなるかはお前だって知ってるだろ?」

  「玉には大量の情報が詰め込まれています、玉一個に・・・おおよそ外史一つ分の情報が。それを上手く

  制御し、利用できるのは全ての始まりから分裂した北郷一刀・・・、もしくは外史の外で生まれた我々や

  南華老仙といった存在程度・・・。そうでない者が使えば、玉に取り込まれ消滅、最悪は玉の暴走が悪化し

  外史そのものを跡形も無く消滅させかねない」

  「まぁ、そういうことだ。だが、俺に埋め込んだ玉から欠片と取り出して、それを使わせるなら、何ら

  問題は・・・無い!」

  「勝手な事を・・・」

  「いいじゃねぇか!情報は使ってなんぼだろうが!?貯め込んでばっかが情報じゃねぇだろう?」

  「そうですね・・・、確かにそれは言えています」

  「・・・それより、その後出て来た男・・・」

  「ええ、分かっています。通称『朱染めの剣士』・・・、女渦の報告にあった男。しかし、まさか・・・

  生き残っていたとは」

  「女渦が単に詰めを誤っただけだろう?それにあいつ一人が生きていたって、俺達からすれば何の意味も無い」

  「しかし、嫌ですねぇ・・・。恐らく彼も玉を所持しているはず・・・。早く何とかしておきたい」

  「止めとけって。女渦に殺されるぞ?」

  「・・・・・・」

  「女渦もすっかりあいつに首ったけで困ったもんだ・・・」

  「おや?」

  「ん?どうした?」

  「どうやら、洛陽のほうに忍ばせておいた駒達が動きだしたようですね」

  「どれどれ・・・」

-9ページ-

 

  洛陽にて一刀達が合流していた頃・・・、白帝城では。

  「そ、そんな・・・まさか!?」

  城内では、麦城から帰還した糜芳、糜竺が桃香に麦城での顛末を報告していた。

 彼女達の報告を聞き終えた桃香の顔はみるみる青ざめ、体が震えているのが周囲にいる者達ですら分かった。

  「じゃあ・・・、じゃあ!愛紗ちゃんは?愛紗ちゃんは一人で食い止めて・・・!?」

  報告の内容を確認するように糜竺の両肩を揺すりながら問い詰める桃香。

  「お、お姉ちゃん!お、落ち着くのだぁ!?」

  「朱里ちゃん!急いで出撃の準備を!愛紗ちゃんを助けに行こう!!」

  「・・・・・・」

  桃香の命令に朱里は困った表情になる。

  「朱里ちゃん!?聞こえているの!早くして!!このままだと愛紗ちゃんが!!」

  「桃香様・・・」

  朱里が自分に怒鳴り散らしてくる桃香に言うべきか否か迷っていたが苦渋の末、彼女に伝えようとした口を

 開こうとした。

  「お言葉ですが桃香様。今から救援に向かっても手遅れかと」

  だが、本陣に入って来た星の発言によって朱里に代わって桃香に告げる。

  「星ちゃん!一体に何言って・・・!?」

  「たった今、麦城に放っていた斥候が戻り・・・、愛紗が討たれたと」

  星の一言は鋭利な刃となって、桃香の胸を刺し貫いた。

  「う、うそ・・・。嘘・・・だよね?」

  桃香は星に真偽を確かめる・・・。が、それは単に受け入れ難い事実から逃げたい一心から出た

 行動でしかない。それに対して、星は桃香から目を逸らすと、こう答えた。

  「嘘偽りであるならば、どれだけ気が楽な事でしょうか・・・」

  星の言葉は満身創痍の桃香の息の根を止めた。

  「・・・っ!?」

  桃香の瞳が見開かれる。そして、上から吊るしていた糸が全て切られた操り人形の様に、桃香はその場に

 足元から崩れた。

  「お姉ちゃん!」

  「桃香様!」

  突然に崩れ去った桃香に駆け寄り、体を支える鈴々と朱里。

  「お姉ちゃん!しっかりするのだ!愛紗は、愛紗は・・・そんな簡単に死んだりしないのだ!」

  「桃香様!まだ愛紗さんが討たれたというだけで、まだ死んだと決まったわけではありません」

  二人の励ましも、今の桃香に届かない・・・。桃香はまるで全てを失い、残るのは絶望だけと言わん、

  虚ろな姿と化していた。

  「どうやら麦城にてたった一人で正和党の攻撃を受け止めていたそうです。そこで姜維という少年に

  正面からバッサリと斬られたとか・・・」

  「きょう・・・い?」

  崩れ去った桃香は姜維という言葉に反応する。聞き覚えのある名前。そうだ、あの時・・・正和党の元を

 訪ねた時、私を恨めしそうに睨みつけてきた・・・あの男の子。あの子も確かそんな名前だった。

 

―――流石は蜀の王様!奇麗事だけは一丁前だな!!

 

  「綺麗・・・ごと、か・・・」

  「桃香様?」

  「私達・・・、私は・・・、間違っていたのかな?」

  「お姉ちゃん?」

  「私が今までして来た事って・・・、本当に正しかったのかな?皆仲良くとか・・・、皆が笑顔とか・・・

  優しい国とか・・・全部、綺麗事だったのかな・・・?」

  「桃香様、今は弱音を吐いている場合ではありませんぞ。今あなたがすべき事は・・・」

  「そうだよね。愛紗ちゃんでも勝てないような相手なんだもん・・・。私達が束になった所で勝てるわけ」

  「いい加減にせぬか!!劉備玄徳!!!」

  星が桃香の態度に対して怒声を放つ。

  「・・・・・・」

  怒声を突き付けられた桃香は途端独り言を止める。星は桃香に何を言おうとした。

  「桃香様ぁあああっ!大変だ!!一大事だ!!」

  そこに翠と蒲公英、雛里が血相を変えて現れる。

  「・・・な、何かあったのか・・・?」

  崩れ倒れる桃香を囲む鈴々と朱里、そして桃香を見下ろし何かを言いかけた星。あの目の前に広がる神妙な

 空気に翠は気まずさからそう言ってしまった。

  「いや、何でもない気にするな。それより何が一大事なのだ?」

  何かを言おうとした星も、翠の思わぬ邪魔によって言う気が失せてしまったようである。

  「お、おう!さっき紫苑の所の兵士がやって来てさ・・・その・・・えっと」

  「・・・・・・?」

  しどろもどろする翠に桃香は流し目で見ている。そんな桃香を見て、気まずさに翠は口をつぐんでしまう。

  「ちょっとお姉様!ここに来てにちゃんと報告の内容が言えないでどうするのよ!?」

  「う、うるさいな・・・!雛里、後は頼む!」

  報告を雛里に押し付ける翠。二人の後ろに隠れる様に立っていた彼女を翠は無理やり前に押し出す。

  「せ・・・西方の国境から、約八万の軍勢で蜀国内に侵攻して来ているとの事です・・・」

  「えぇっ!?」

  雛里の報告に桃香に代わって朱里は驚く。

  「今、正和党と五胡の勢力を白蓮さんと一緒に食い止めているようですが・・・。かなり苦戦している

  ようで、このままでは突破されるのは時間の問題だと・・・」

  「現在、北方の派遣されている白蓮さんと紫苑さんの部隊だけでは二つの勢力を抑える事はできません!」

  「では、誰かが救援に向かわなくてはいかんな・・・誰が行く?」

  「・・・私が行きます」

  「雛里ちゃん・・・、行ってくれるの?」

  朱里の問いに、雛里首を縦に振る事で自分の意思を示した。

  「良し!ならあたしと蒲公英も行くよ!それでいいか、雛里?」

  「はい、よろしくお願いします」

  雛里はぺこりと頭を下げる。

  「よぉし!それじゃ早く救援に行こう!」

  そして三人は北方への救援のために、自分の持ち場へと急いで戻っていった。

  「失礼します!蜀王・劉備玄徳様ですか!?」

  と、今度はそこに見慣れない服装の兵士が本陣に通される。その兵士は一礼すると桃香に体を向ける。

  「呉王・孫策伯符より劉備様へ伝言を承ってきました!」

  「雪蓮さんが・・・?一体何だろう・・・」

  どうやら、呉の兵士で雪蓮の言伝を託されてやって来たようである。桃香は体を起こし、その兵士に

 面を向ける。

  「現在、呉の西方からここ、蜀領へと侵攻する謎の集団を確認した。我々もその集団を追撃しているが

  そちらの協力を求めたい・・・との事です」

  「そ、そんな・・・っ!?」

  兵士の報告の内容に桃香は驚きを隠せない。星はその報告に苦虫を噛んだような顔をする。

  「よりによってこのような時に。その集団について他に情報は無いのか?」

  「まだ不確かではあるのですが、恐らく以前に我が国内にて目撃された白装束の武装集団ではないかと」

  「戦力が未知数の集団か・・・、相分かった!それには自分が行きましょう」

  「星が行くなら、鈴々も行くのだ!」

  「いや、ここは私一人で十分だ」

  「んにゃぁ!どうしてなのだ!?」

  「お前まで来てしまっては、ここの戦力が不足してしまうだろう?」

  「で、でもそれじゃ星が一人いくことになるのだ!」

  「その経路で行けば、途中で恋とその付き人、二人を拾って行ける。何ら問題は無いさ」

  「鈴々ちゃん、ここは星さんの言う通りにするのが良いと思うよ」

  「ん〜・・・、朱里が言うなら、分かったのだ!」

  鈴々は渋々ながらも、朱里の説得に従った。

  「うむ、では頼んだぞ朱里。恐らく敵は・・・外からだけとは限らぬ」

  「はい、分かっています。こちらは・・・お任せ下さい」

  そして、星は雪蓮達と合流するために、遠征に備え自分の持ち場へと戻っていく。朱里はその姿を見届ける。

  「桃香様。ここは一度成都まで撤退するべきだと思います!」

  そして朱里もまた、自分が今為すべき行動を取るのであった・・・。

 

  今、桃香達が置かれている立場は朱里が考えている以上に最悪の状況へとなっていた。

 愛紗が正和党に討たれたという事実は彼女の予想をはるかに超えた速さで軍内に浸透していった。

 関羽雲長という柱を失った蜀軍という天幕は今まさに崩れかけようとしていた・・・。

 

  そして桃香は・・・、また新たに柱を失おうとしていた・・・。

-10ページ-

  

  「こら待たんか、何処に行くんじゃ?」

  「うん、実はさっきね・・・この前逃げ出しちゃった実験体が見つかったの、ここより少し先に。

  だから僕はここで別行動をとるから。後はよろしく」

  「一人で行く気か?単独行動とは感心せんなぁ・・・」

  「大丈夫、大丈夫♪万が一あればそそくさと逃げて来るから。心配してくれてありがとね」

  「ふぅむ・・・心配するのであれば、むしろお主の頭の中の方じゃがな」

  「あ〜っははは・・・、相変わらずきつい一言でぇ・・・」

  「それはともかく・・・、そういう訳なら儂の方で策殿達を牽制しておくとしよう」

  「ぇ?あぁ〜そう、そろそろ皆が恋しくなっちゃったの?君を見たらどんな顔するんだろう?

  ぷぷぷッ・・・、その場にいられないのが残念だよ」

  「それは確かに残念じゃな♪では、また後程合流しよう」

  「うん、じゃあ頼んだよ」

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。

 ※今回の章は前半後半の一部で時間系列が逆さになっていますので、ご注意ください。

 第十二章の元の題名は憎悪の螺旋でしたが、話の内容だと、微妙に合っていない気がしましたので、改名しました。というか全体的に題名が話の内容に合っていないのが多い気がする・・・。見てくれる人達はあまり気にしないのかもしれませんがwww。

 今回は、主に戦闘の描写を大きく修正。更に、挿し絵を二枚ほど新規に描き下ろし。他の挿絵も色々と修正。

 では、真・恋姫無双〜魏・外史伝〜 再編集完全版〜白と紅、二人の救い人〜をどうぞ!!
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コメント
お、新しい絵が追加されたか。以前と比べると髪や服の影や厚みがリアルさをさらに引き立てていますね。(スターダスト)
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