暁の護衛二階堂麗華アナザーストーリー ?第四話:悲恋からのいい女?
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杏「海斗.......はは、海斗だ」

杏子はそこにオレがいることに何度もうなずくと、懐かしむように微笑んだ。

海「......」

そうだ。

こいつは昔からオレの言うことならどんな命令でも受け入れた。

食料をよこせ、水を渡せ、果ては身体を貸せとまで言ったことがあった。

それでもこいつはオレが必要とすることに何が嬉しいのか絶対に離れようとしない。

ただ一つだけ。

オレの側を離れろと言った場合のみ、こいつは初めてオレに噛み付いてくる。

杏「また...ここで一緒に暮らせるね」

正気か?

昼間はっきりと拒否したばかりなのに、もうこんなことを口走るようになっているのか?

 

ぞくっ

 

自分勝手に振る舞ってきたつもりだったが、オレは何だかんだで杏子を気にかけていた。

たからオレが嫌いになるように色々仕向けたし、最終的には自立して自分の力で生き抜いてほしいというのが本音だ。

杏「あ、せっかくだから缶詰買ってきたよ。スーパーで安く仕入れて、お金全部使っちゃった。...って、もう向こうに行かないからお金なんていらないか」

昼間。

オレは初めて人間を壊したと思った。

杏子を真っ向から拒絶したのは初めてで、その衝撃は相当大きかったと容易に予想できる。

 

オレと別れて2年近く。

こいつはずっとオレを探していた。

あんな場所とはいえ、今まで自分が生きてて疑問に思わなかった場所をオレのために簡単に捨て、わざわざ一人の人間を1年以上も探し、彷徨い続けた。

......そうだよ。

もうその時点でこいつは、

 

壊れているじゃないか

 

海「......杏子」

立ち上がると、杏子の姿を真っ正面から捉えた。

それはオレが唯一杏子にあげた洋服をオレのためだけに身につけている。

杏子はオレの視線に気付いたのか、自分の姿を見ながら照れくさそうに微笑んだ。

杏「えへ、アンタが昔くれた洋服だよ。......懐かしいでしょ」

その辺りにいる女から奪った洋服。

それを杏子も知っていて、嫌がっていたが最終的にはその衣服に袖を通した。

 

なんだこれは......

 

オレには正義も信念も理念も何も無い。

ただ本を読むことで朝霧海斗の『概念』を確立させるだけでよかった。

それを幼少期からずっと一緒にいる杏子にも知ってほしかった。

杏子に自分自信を大切にしてほしかった。

海「......」

その結果が、これ。

結果的にオレが杏子を一方的に壊しているだけ。

言葉には言い表せない『負』の感情がオレを取り巻く。

自分の思い通りにならなかった怒りでもなく、

壊れてしまった杏子に同情する悲しみでもなく、

結果論から知った絶望でもなくーーー

 

オレは杏子に近づいた。

杏子は優しく微笑んだ。

杏「かい......あ!?」

杏子の喉に手を伸ばすと、戸惑う姿を一瞥しそれを冷ややかに見下ろした。

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「...頼む、食料なら全部やる! だから......」

ぐしゃ。

オレはソレを踏みつぶすと、地面に落ちたパンを拾って口に運んだ。

ソレは何度か身体をピク、ピクと痙攣させた後、肉塊と化していた。

 

ここに戻ってきて、初めて人を殺した。

 

感触は相変わらず最悪だ。

が、感覚はそうでもない。

向こうの世界の光に浴びすぎて概念が変化するかと思えば、こうやって生き抜くためなら人を殺せた。

海「......」

 

オレはとりあえずの目標として、この禁止区域で1年暮らそうと思う。

ただ、生きて行ければそれでいい。

その課題は幼少期と同じで、それでいて力を得た今ではものすごくハードルは低い。

 

ただ、今は色々考えなければいけない。

そう、考えなければいけないのだが『何を考えるか』さえも現状では分からない。

 

一つだけ言えるのは、今のままじゃ間違いなくダメだということだ。

理想像を描くのか、

諦めることを許容するのか、

それとも親父の意思を継ぐか、

その反対の道を選ぶのか、

それとも、

 

何をどこまでどういう風に考えて、答えが出るのかも判らない。

ただ、まずは禁止区域で1年考えてみようと思う。

 

ーーー結局、昨夜は杏子を殺せなかった。

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杏「......」

海「......」

杏「......」

海「......」

首を捕まえて、どれだけの時間が流れただろうか?

不意に、杏子が呟いた。

杏「......海斗は、本当に優しいよね」

海「......」

殺せるわけがない。

実は昔、杏子を殺す機会があった。

正確には、殺せと命令された。

オレに命令できる人間は、生涯に一人。あの親父だ。

ただ、オレは生まれて初めて親父の命令に逆らった。

親父曰く感情が移った人間を殺してこそ親父が求める朝霧海斗の『完成』だったんだろうが、オレはそれを拒否した。

否......正確にはそれを達成することはできた。

ずっと一緒に暮らしていた人物の命を絶つことはできたのだから、ある意味でオレは完成したと言っても過言ではないだろう。

しかし、それでもオレの最後の人間的な部分が杏子の場合はブレーキがかける。

杏「海斗の手、あったかいね」

優しい顔で、オレに笑いかける。

海「......はぁ」

オレは手を下ろすと、地面に寝転がった。

杏「乗った方がいい?」

海「馬鹿か。空気読めよ」

杏子はクスリと笑い、オレの隣で一緒に天井を眺めた。

杏「......海斗はやっぱり優しいね」

海「死にたいなら勝手に死ね。もうオレが助ける義務はない」

杏「あはは。そうだね、そんなこともあったね」

まだ戻ってきて日が浅いアパートだが、見慣た風景でもある。

杏「大丈夫だよ。もう自分から死にたいなんて思うことはないから」

海「知らん。死ぬなら勝手に死ね」

杏「......ほんとに、アンタは優しすぎるよ」

杏子は眠ったままオレの手を握った。

杏「なんで、黙って出て行ったの?」

海「......」

なんで、か。

『親父がやってたボディーガードの仕事が知りたかったから』

『向こうの眩しい世界に出たかったから』

『この世界から抜けられるきっかけができたから』

どれも当てはまるが、どれも後付けな感じがした。

海「お前と......離れたかったのかもな」

 

口に出たのは今まで考えた事もない言葉だった。

 

杏「......」

杏子は手を握る力を弱め、オレにも聞こえるぐらいの小さく溜め息を吐いてから、

杏「そっか」

と言い切った。

表情は見えないが、その言葉はやけに優しかった。

杏「あたし......捨てられたのかな?」

海「せめてフられたとか言えよ」

杏「はは、そうだね......」

 

それからしばらく静寂が訪れた。

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杏「アンタはさ、私にどうしてほしいの?」

なんでもない様に口にした言葉は、大きい意味を持っていることをオレは知っていた。

杏「私は、ほら......アンタと違って馬鹿だからさ。よく分かんないよ」

だから、ちゃんと本心を言わなければいけない。

海「生きて欲しい」

杏「生きてって......生きてるじゃん」

海「オレに依存しないで、生きて欲しい」

杏「......」

それには杏子も思うところがあるのか、押し黙った。

杏「どうあっても......側にいてくれないの?」

海「いや」

その質問にも、杏子には全て正直に答えることにした。

海「お前が一人で生きれるように力を付けて、それでいてオレにまだ好意があるなら考えてみよう」

杏「......考えるって、ずるいな」

海「当然だ。お前よりいい女がいたら、そっちに飛びつくに決まってんだろ」

杏「スケベ」

海「うっせ」

 

少しの間二人で笑いあった。

 

杏「なら、さ。約束しようよ」

海「約束?」

杏「一年経ったら、またここで暮らそうよ」

海「却下」

杏「なんでさ!?」

海「どさくさに紛れて自分に都合がいい約束を取り付けるなよ」

杏「......バレたか」

海「お前は頭が悪いんだよ」

やっぱり、こいつと一緒にいたらオレ自身心地良くなる。

それはとても助けになりーーー同時にとても危ない。

海「お前、1年縦ロールんとこ行け」

杏「......鏡花には、もう辞めるって言ったよ」

海「あいつは恋愛小説が好きだからな。この話ししたら多分OKするだろ」

杏「これのどこが恋愛なのさ?」

海「悲恋だ」

杏「こんにゃろ」

ほっぺにパンチされた。

杏子は上体だけ起こすと、オレの顔を覗き込んだ。

杏「ねぇ」

その瞳に、感情はこもっていなかった。

ただ、オレを眺めていた。

杏「......アンタ、あのお嬢様に惚れてんの?」

海「ああ」

即答した。

杏「......悲恋じゃん」

海「だろ?」

あ?あ、と呟きながら杏子は立ち上がる。

杏「じゃあね」

海「おう」

これから先、杏子と出会うかは分からない。

もしかしたら向こうの世界で一緒になるかもしれないし、もう二度と会わないかも知れない。

少なくともここで杏子と一緒に暮らすなんてことはもうない。

自称馬鹿のこいつも、それぐらいは理解してると思う。

杏「それじゃ、海斗」

杏子は最後まで涙を見せず、最高の笑みで言い放った。

 

杏「いい女になってくる」

 

 

 

 

ーーーーーー第四話:悲恋からのいい女_end

 

次→第五話:犯罪と罪悪感

URL:http://www.tinami.com/view/133241

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ーーおまけーー

『今回の感想』

今回は前回よりは大分ましになった......はず。

執筆って本当に不思議で、書き終えた瞬間は「へへ、オレは世界のライターだぜ!」ぐらい勘違いするんだけど、誤字脱字とか表現方法の修正を何度かやっていくうちに「ま、まあそこそこ面白いだろ」→「だ、大丈夫、か?」→「......没」って具合に落ちていくから面白いね(自分だけかな?)

多分一番の原因は自分自身が作った作品に対して飽きてきてると思うんだけど、結局どんな名作にも飽きがこない作品なんてあるはずもなく、最終的に『いかに飽きにくくさせるか』が自分の中でルールになってるかも。

もちろん何回でも閲覧しても飽きない作品も存在するし、自分もそれは当てはまるが、結局それは個人の趣味が大きいと思う。

ただ『人それぞれ』で終わらせるのはクリエイターとしては納得できない。

面白いと思う人がいる以上、それには面白い要素が必ず含まれて、同時につまらないと思われる要素だって含まれる。

例えば、おっぱいの素晴らしさを描こうとしたとき何が求められるのか。

ただ単純に直径300kmのおっぱいが6個存在したところで、そこに魅力は得られない。

おっぱいの魅力を伝えたいのなら、その艶、色、形.......

 

......

....................

.................................

すみません、ちょっと樹海行って来ます。

 

ま、まあ簡単にまとめると、頑張ってるって言いたいんだよ、多分。

ああ、違う!

ファンディスクやってない人は分かりにくくてすみませんって書きたかったんだ(全然違うじゃねーか)

久しぶりに流し書きしたけど、本当に方向性に人間性が反映されるので困る。

 

ちなみにこの第四話は「まだ、面白い......はず!」ぐらいでうpしたので前回よりは自信があります(ダメじゃねーか)

 

追記:コメントに麗華ルートアナザーってちゃんと書いた方がいいと言われたので、タイトル等修正しました。ありがとうございます。本当は週に一回の予定でしたが、タイトルを変更したので今回は早めにアップしました。次回アップは予告通りにしたいと思います。

 

次回は3/28 21:00時にアップ予定です。

説明
オレ中で杏子は妹みたいな存在で、杏子はオレに依存している。そしてオレは麗華に依存している。だから、全て絶ったのに。
次へ→第五話『犯罪と罪悪感』:http://www.tinami.com/view/133241
前へ→第三話『妄想と推測と...』:http://www.tinami.com/view/131455
最初→第一話『たられば』:http://www.tinami.com/view/130120
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