真・恋姫無双〜魏・外史伝〜 再編集完全版14
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第十四章〜君は何がために〜

 

 

 

  「お、お前・・・、何をした!今彼女に何をしたーーーーッ!!!」

  「僕なりの愛の形ってやつを彼女のはらわたにぶち込んであげただけさ。

  ・・・君も見たでしょぉ?彼女・・・とても素敵な死に方をしていたじゃぁ無い!?」

  「何がそんなに可笑しいんだ・・・」

  「へっ?」

  「何がそんなに可笑しいんだって聞いているんだよ!!」

  「あ、れぇ〜?君でもそうやって怒るんだ〜ね〜♪あっはははははははははははははは!!!」

  「・・・ッ!殺す!!」

  「ふふふ・・・、殺す?この僕を?君が?!あははははははははあはは!!!まさか君の口から

  そんな言葉を聞けるなんて思いもしなかったよ〜♪」

  「うぉおおおおおおッ!!!」

  「はっははぁあ!!いいねいいねぇ〜、その眼ぇえ!涙流しながらに、僕を殺す気満々のその眼!

  ゾクゾクしちゃうよ〜!!!この外史でまさか君にそんな眼で睨みつけられるな〜んて・・・、

  思ってもみなかったよ〜!!!」

  「うるさい!黙れ!!黙れーーー!!!―――を、皆を返せえええええ・・・!!!」

  

―――これはとある一人の男の記憶の断片・・・。

  この苦しくつらい記憶、しかし男はこの記憶の断片を心奥底に押し込めなかった・・・。 

  男はその記憶を胸に抱き、生きる原動力としていた・・・。

  男の生きる理由、それは復讐。その記憶を自分の心に植え付けた者をこの手で殺す事であった。

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  「・・・・・・・・・祭」

  「・・・・・・・・・祭、・・・殿」

  既に日は沈み、空は朱色から闇色へと変わり始めた頃・・・。

 天幕の中、雪蓮と冥琳は目の前に現れた白装束の素顔を見た瞬間、驚愕のあまりに絶句する。

 南海覇王の切っ先は雪蓮の腕の震えに合わせ、ガチガチッという金属音を立てていた。

 そんな二人が喉からようやく出した言葉は・・・、目の前に立つ人物の真名であった。

 

  二人が驚くは無理も無い・・・、この祭と呼ばれた女性。

 彼女は黄蓋、字を公覆という。孫家三代に渡り仕えてきた呉の老将、弓の名将である。

 しかし、黄蓋は二年前の赤壁の戦いにて志半ばで命を落とし、その身を長江へと沈めた・・・。

 それ以後、必死の捜索も虚しく・・・彼女の遺体を発見する事は出来なかった。  

  「・・・やれやれ。二人して何だ、その幽霊でも見たような顔で儂を見おって。折角、

  2年振りに会えたというのだ、もっとこう・・・泣いて喜んでも罰は当たらんと思うのだがなぁ」

  祭は雪蓮、冥琳の二人の顔を見て呆れながらにそう言った。

  「まさか、化けて出てき・・・」

  「いやいや。死んでおらぬというに。ほれ、この通り足も2本ついておろう?」

  そう言って、祭は白装束を上げて二本の足を見せる。

  「じゃあ、本当に祭なの・・・?」

  白装束から見えるその二本足を見て、雪蓮は今一度祭に聞く。

  「先程からそう言っておろうに」

  「祭・・・!!」

  「う、うわあああああああああああっ!!!」

  雪蓮が祭に近づこうとするより先に、冥琳が我先にと祭の傍に駆け寄り、そのまま祭に子供の

 ように泣きながら抱き締めた。

  「め、冥琳・・・?」

  冥琳のその意外な行動にポカンとする雪蓮。

  「よくぞ・・・、よくぞご無事で・・・」

  泣きながらに喋る冥琳。祭は子供をあやすように冥琳の頭を優しく撫でる。

  「ははは・・・、泣くならもっと泣いてもかまわんというに・・・。なぁ、冥琳?」

  祭の一言に顔を赤くする冥琳。すぐさま祭から離れ、眼鏡を外し涙を急いで拭ったのであった。

  「・・・み、見苦しい所を見せてしまいました」

  照れ隠しの様に、冥琳はきりっとした軍師の態度を取るのが可笑しく思えたのか、くくく・・・

 と喉を鳴らす祭。

  「よいよい。今程のお前さんの顔は儂の心の中に閉まっておいてやるからのぅ」

  「あ、鼻が出てる・・・」

  「・・・・・・っ!?」

  「冗談よ、冗談♪」

  「・・・し、雪蓮!!」

  冗談を言って冥琳をからかう雪蓮。その冗談に冥琳は雪蓮を叱るが、その声に怒りの感情は

 こもっていなかった。そんな二人を祭は微笑みながら見ていた。

  「さ、早くこの事を他の皆にも知らせないと!皆も冥琳のように泣いて喜ぶわ、きっと!!」

  「雪蓮・・・!!」

  そう言って、雪蓮は天幕から出ようと出入り口の布に手を掛けようとした・・・。

  「あぁ待たれよ、策殿」

  だが、雪蓮は祭によってその行動を止められてしまった。

  「え、何よぉ〜?・・・あ、もしかしていきなり皆に合うのは照れ臭い・・・とか?」

  けらけらと笑いながらそう解釈する雪蓮。しかし、肝心の祭は逆に真剣な表情へと変えていた。

  「皆に会う前に、二つほど誤解を解かせて頂きたい」

  「誤解・・・?祭殿、それは・・・」

  「まず一つ、儂は生きていたわけでは無い・・・。あの時、確かに夏侯淵の放った一矢により

  儂の命は絶たれた・・・」

  ポカンとする雪蓮と冥琳・・・。祭はいきなり何を言い出すのだと、そんな顔をしていた。

  「祭・・・?あなた、何を言っているの?あなたはこうして生きているのよ。と言うか、

  あなただってさっき死んでいないって!?」

  雪蓮の指摘通り、子供でも分かるその祭の話・・・。祭は赤壁の戦いで死んだ、しかし今二人の

 目の前にいる祭は生きているという、この矛盾。祭はこの雪蓮の疑問に両腕を組んで唸り出す・・・。

  「ふむ・・・、それなのじゃが、それを説明するにはこの儂の頭はそう賢く出来ておらんでな」

  どうやら、祭でもこの矛盾をちゃんと説明するのは難しいようだ。それでも必死になって答えを

 導きだそうと頭を捻る。そして苦心の末に出した答えが・・・。

  「・・・強いて言うなら、蘇った・・・と言った方が一番近いやもしれん」

  「蘇ったって・・・、五胡の妖術でも使ったの?」

  真剣真顔で言う祭、そんな彼女の言葉が信じられず若干冗談気味に聞く雪蓮。

  「妖術とはまた違うのだが・・・そう受けとってもらって構わん。女渦という物好きな男に

  よって再び生を得た次第・・・」

  「じょか?」

  誰それという言わんばかりの顔をする雪蓮。一方、黙って聞いていた冥琳はその単語に反応した。

  「女?・・・、古代中国神話に登場する蛇身人首の女神の名前だが・・・」

  「じゃあ何?死んだ祭を神話に出て来る神様が生き返らせたって・・・そう言う事?」

  「雪蓮、女?は女神だ。祭殿はその者を男と言っているのだからその結論は違かろう・・・」

  「あぁそっか・・・、祭は・・・そのじょかとかいう男の妖術で蘇ったって・・・そう言うの?」

  祭が言った事を雪蓮は要点をまとめた内容を口にして出すと、祭は無言で頷いた。

  「ちょっと祭、頭大丈夫?もしかして、どこかで頭をぶつけたりとか?」

  「・・・・・・」

  二人の疑心の目・・・。祭はやっぱりという顔をしながら軽くため息をついた。

  「やはり信じてはもらえないようだな。・・・まぁ、別にこちらはどうでも良いのだ。

  わしが一番言いたい事は二つ目の方なのだからな」

  「二つ目って・・・」

  そんな雪蓮の言葉を受け流し、祭は話を続けた。

  「そして二つ、わしがここに参っ理由・・・。二人の期待を裏切ってしまう形になって

  しまうのは少々心苦しいのだが・・・、そなた達の力になるべくして参ったのではないのだ」

  「・・・?」

  冥琳はここでようやく止まっていた思考を動かした・・・。そもそも何故、祭がここにいるの

 だろうか?そして祭が身に纏っている白装束・・・。感極まり、軍師としての自分を見失っていた

 冥琳は急ぎ、論理を組み立てていく。この時、冥琳の脳裏に残酷な結論が過った。

  「なら、祭はここに何をしに来たっていうのよぉ!?」

  祭がさんざんじらされ、我慢の限界に達した雪蓮は祭に向かって思わず怒鳴ってしまった。

  「うむ、それはだな・・・」

  そう言うと、祭は両腕を組み直した。

  「雪蓮・・・!!祭殿から離れ・・・!!」

  「こうするためなんじゃ!」

  冥琳が話しきる前に、祭がその話を遮ると同時に、組んでいた両腕を勢いよく広げる。

 その際、祭の両手から金属片数本が雪蓮に向かって飛んでいく。

  「・・・っ!!」

  「雪蓮っ!!」

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  ザシュッ!!

  天幕の出入り口から勢いよく側転しながら出て来る雪蓮。その右肩には金属製の小型の刃

 (果物ナイフのような)が刺さり、傷口からは血が流れる。

  「くぅっ・・・」

  雪蓮は右肩に刺さっている小型の刃を引き抜くと、その辺に捨てる。周囲を見渡すと、恐らく

 祭の仕業であろう。天幕の前で護衛していた兵士達が気を失って倒れていた。

  「・・・何がどういう事よ?」

  この時、雪蓮はひどく混乱していた・・・。まさかあの祭からこのような仕打ちを受けるとは

 思いもしなかったからである。一体どうしてこんな事を、祭は・・・。考えた所ですぐに分かるはず

 も無かった。そんな事を頭の中でぐるぐると駆け巡らせながらも、左手で出血する右肩を押さえていた。

  ビュンッ!!!

  「・・・っ!」

  雪蓮は咄嗟に避ける。彼女が立っていた地面に数本の先程の小型の刃が三本ほど刺さる。

 そしてそのまま木箱が重なっている所に身を隠した。追い打ちをかける様に、雪蓮が隠れた木箱に

 小型の刃が刺さるのであった。

  「策殿〜!どうしたのですかなぁ!そんな不様な姿、小覇王の名が泣きますぞぉ?」

  ザッザッと土をわざとらしく音を立てて踏み歩きながら、両裾から小型の刃を取り出すと祭は

 至って陽気な感じで雪蓮に話しかけた。

  「祭!あなたいきなり何をするのよ!」

  木箱に背中を預けながら、祭に問いただした。

  「何を?見ての通り策殿に刃を投げつけておるのですが・・・」

  「なら、どうして私にそんなものを投げて来るのよ!?当たったら危ないじゃない!

  すでに当たっちゃってるけど・・・」

  最後の方がやや聞き取りにくい声で喋る雪蓮・・・。

  「それは勿論・・・、策殿を殺す為じゃよ」

  「それ・・・、本気で言っているんじゃないでしょうね!」

  「雪蓮っ!!」

  遅れて天幕から出て来た冥琳。左手には護衛用の剣、そして右手には南海覇王が握られていた。

  「冥琳っ!!」

  冥琳の声に雪蓮は木箱の影から出て来る。その時、すでに冥琳の右手には南海覇王は無かった。

  ビュンッ!!!

  祭はそこを逃すまいと両手に持った小型の刃数本を投げ放つ。雪蓮は前に飛び込み前転して、

 その刃を避ける。着地した所で雪蓮は右手を天に高く伸ばした。そしてその手に南海覇王の

 柄が収まる。

  「ありがとう、冥琳!」

  そう言って雪蓮は無形の構えを取り、祭と対峙するのであった。

  「祭!今ここで謝るんなら、あなたがした事は全部冗談として流してあげるわ!」

  「ほう・・・、本当ですかな?とはいえ、私は別に冗談でやっているわけでは無いのですが・・・」

  「雪蓮!そ奴は蓮華様達が遭遇したという謎の白装束だ!!周囲に気を付けろ!何処かに仲間が

  隠れ潜んでいる可能性が高い!!」

  「何じゃ、冥琳?このわしをそ奴呼ばわりとは・・・。ちと言葉が悪いのではないか?」

  「・・・・・・っ!」

  祭の言葉に思わず、苦虫を噛んだ顔をする冥琳。と、そこに・・・。

  「姉様、どうかなさいましたか・・・、え?」

  何も知らない蓮華がその場に現れた。

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  蓮華は考えていた・・・、一人でずっと考えていた・・・。あの時の事を、自分の前に現れた青年の

 事を・・・。蓮華は青年の言っていた内容、南海覇王について雪蓮達に報告せずにいた・・・。

 調査の内容から逸れていたという理由、その青年の正体が分からず、なおかつその情報が不確かなもの

 であったという理由から、生真面目な蓮華は報告をためらっていた。

  しかし、青年が持っていた剣・・・。あれは紛れもなく孫家代々伝わる伝家の宝刀『南海覇王』で

 あった。そんな唯一無二の剣・・・、この世に一つとしかない剣が何故二本存在しているのか、

 そしてそれを何故彼が持っていたのか?その身を朱色で身に纏う青年・・・、信用できるはずの無い

 男の言葉・・・のはずであった。

 

―――奴等には気を付けろ・・・

 

―――特に・・・、女渦は孫権を狙っている・・・

  

  そのまま切り捨てればいいはずなのに。どうしてかそれが出来ず、頭の中に居座り続ける。

 だが、不思議と嫌な気分にはならなかった・・・。蓮華には青年のその言葉に偽りや悪意を感じら

 れなかった。むしろ逆・・・、自分の身を心から案じる彼の優しさが込められている様に感じていた。

 そして、その背中には何か大きなものを背負っているかのようにとても大きく感じた。

 

  蓮華はこの行軍の中、そんな事ばかり考えていた。そのせいもあって、思春からお体の調子が悪い

 のですか?と言われてばかりいた。

  「・・・やはり、姉様に相談してみるべきなのかしら?」

  悩んだ挙句、蓮華はそう自分に言い聞かせるように言った。一体誰が言い出したのか・・・朱染めの

 剣士などと呼ばれるようになった謎の青年の事を雪蓮に思い切って打ち明けてみよう・・・。

 そして、天幕の外にいた思春に大方説明をし、雪蓮のいる天幕へと向かう。

  「自分も同伴致します」

  案の定、思春が言ってきたが蓮華は大丈夫と言い、一人で雪蓮の元へと向かって行った。

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  蓮華の目に映ったのは、あまりに意外な光景であった。右肩から血を流しながら剣を握る雪蓮と

 同じく剣を握る冥琳・・・、そして何より彼女を驚かせたのはその二人の間に立っていた人物・・・。

 その人物が身に纏う白装束を、蓮華は知っていた。以前、思春とともに遭遇した謎の戦闘集団の

 恐らく首領格であろう人物が身に纏っていたそれと全く同じものであった。そしてそれを身に纏う

 人物も・・・、蓮華は知っていた。

  「祭・・・!?」

  彼女の声に反応し、その三人が彼女の方に目を向けた。

  「蓮華っ!」

  「蓮華様っ!」

  「おぁ、これは蓮華様。お久しゅうございますなぁ!」

  祭は蓮華の方に顔を向け、再会を喜んだが、蓮華は祭がここにいる事に戸惑いを隠せなかった。

 開いた口が塞がらない状態で、蓮華は思わず際に疑問をぶつける。

  「どうして・・・?」

  「・・・・・・」

  「どうして、あなたが・・・その服を着ているの?」

  「蓮華様、その者は・・・!」

  「どうしてその白装束をあなたが着ているの?」

  冥琳の忠告は、現状が把握出来ていない蓮華の耳に届かなかった・・・。

  「っ!蓮華、逃げなさい!!」

  「えっ!?きゃっ―――!!!」

  ビュンッ!!!

  蓮華が気付いた時には、祭が蓮華に向かって小型の刃三本を投げ放っていた。

  キィイイインッ!!!

  鋭い金属音・・・、蓮華に放たれた小型の刃は全て弾かれ、地面に落ちる。そのうちの一本が地面に

 突き刺さった。だが、これは蓮華のしたことでは無く、これを為したのは彼女の身を庇うように前に

 立ち塞がった人物であった。

  「思春!」

  蓮華は目の前に立つ人物の真名を叫ぶ。

  「ご無事ですか、蓮華様!」

  それに答えるつつ、思春は祭に警戒を示し、蓮華を自分の背中に隠して守る。

  「思春、あなたどうして・・・?」

  「申し訳ありません、やはり蓮華様の身を案じ・・・」

  蓮華の問いに、思春はばつが悪そうに答える。蓮華はやっぱりと言いたげな顔をする。一人で

 大丈夫と言われて、その場で待機していたものの、やはり居ても経ってもいられず、体が自然と

 赴いてしまったのであろう・・・。

  「思春、久しいのぅ・・・。あれから少しは口の方も達者になったかのう?」

  「・・・っ!黄蓋殿、やはり貴殿でしたか・・・」

  鋭い眼光で祭を睨みつけながらそう言う思春、それに対してやれやれといった感じで聞く祭。

  「何を今さら・・・、お主とはあの時既に顔合わせをしたではないか?」

  「・・・・・・」

  祭の言葉に思春は言葉を失くしてしまった・・・。

  「・・・そうか。策殿や冥琳が妙に儂を警戒していなかったのは・・・、お主が報告を怠慢したせいか?」

  そうかそうか、とけらけらと思春をあざ笑う祭。

  「思春、あなた知っていたのね!?白装束が祭である事を・・・!」

  蓮華は思春を問い詰める。

  「・・・申し訳ありません」

  蓮華はそれ以上の追及はしなかった。自分も彼女と同じ様に青年の言葉について黙っていたのだから、

 自分の事を棚に上げて責めるのは筋違いだと蓮華は考えた。

  ドォォオオオオオオンッ!!!

  「なっ!?」

  突然、銅鑼の音が陣内に響き渡る。一度、二度、三度・・・、間を取りながら三回鳴った。

 寝ずの番で周辺を警戒していた者、天幕の中で休息を取っていた者・・・、仲間内で談話していた者

 ・・・、陣内のいた者全てその音に反応する。何だ何だと天幕から急ぎ出て来た兵士達は周囲に敵が

 いないか、周辺を見渡し警戒体勢を取る。非常の事態に兵士の間で何があったのかを確認し合うが、

 混乱により、全兵士に事態が上手く伝わらず、必要以上の時間を浪してしまうのであった・・・。

  「冥琳様ぁ!」

  「・・・穏か」

  そんな中、自分の部下達を引き連れて冥琳の元へに駆けつけてきたのは穏であった。穏はこの事態を

 把握するべくして、冥琳の元へと駆け付けたのであったが・・・。

  「先程の銅鑼の音、誰の仕業だ!?」

  「申し訳ありません。どうもそれを見たって人は誰もいなかったみたいでして・・・」

  「・・・他の兵士達の様子はどうだ?」

  「皆、かなり混乱しちゃってます。奇襲かー!って具合に・・・、早く対処した方が宜しいかと」

  二人の軍師が情報の交換をしている傍ら、穏が引き連れてきた部下の一人がある事に気付く。

  「おい、あれって・・・黄蓋様ではないか?」

  その兵士の一言に他の兵士もその指を指す方向に目をやる。

  「ほ、本当だ!」

  「あの人は・・・黄蓋様!でもどうしてここに・・・!?」

  部下の間に動揺が走る。それに気づいた穏は冥琳を見ると、冥琳は無言で視線を逸らす。視線の先に

 は祭がいた。はっと目を大きく見開く穏。驚きはしたものの、その感情を抑え、穏は目の前に繰り広げ

 られている状況から大まかながらに現状を把握した。

  「現状は理解できました。私は今から何が起きても大丈夫なよう、これから兵の皆さんを落ち着かせ、

  臨戦態勢を整えておきます」

  「頼む」

  はい〜と伸びやかな語尾を残して穏は部下達と一緒に下がっていった。

 その様子を横目で見ていた祭は、皆に見えるよう右手を上げる。その右手は親指と中指の腹同士を

 合わせた状態にあった。

  「何をする気、祭っ!?」

  「役者が一通り揃ったので、次の展開に進ませようかと・・・」

  祭はなんでもない様に言った後、合わせていた親指と中指を擦らせ、パチンと空気が弾けた音が鳴る。

 それが合図だったのか、同時に暗闇の合間から黒い影が複数、呉軍陣内へと侵入してきた。

  「・・・祭、あなた・・・!!」

  雪蓮が発した声は低く、南海覇王を握る手に力が込められる。雪蓮達の周囲をその黒い影、黒い甲冑

 をその身に纏い、顔全体を包帯で隠し、その右腕には二本の刃がまるで爪の様に備わっている武具で

 固める、それは洛陽を襲撃した傀儡兵そのものであった・・・。

  「こ奴等・・・、あの時の連中に似ているが、随分と兵装が代わっている」

  思春は背に蓮華を隠し、鈴音を構えつつも冷静に目の前の敵の姿を分析する。

  「思春!」

  「蓮華様、私から離れないように!こ奴等・・・、蓮華様を狙っております」

  思春に言われ、蓮華は目の前の敵を見てみる。身を屈め、今にも飛びかからんとする体勢を取り、

 その視線は自分から逸れる事無く定まっていた。

   

―――奴等には気を付けろ・・・

 

―――特に・・・、女渦は孫権を狙っている・・・

  

  あの時の、彼の言葉が、蓮華の脳裏をよぎる。蓮華はこの時、不思議と何処かその言葉に

 あぁ、やっぱり・・・そう言う事かと納得する。そして帯刀していた剣を鞘から抜き取り、背中を

 思春に預け、剣の切っ先を敵に向け牽制する。その後方から援軍か、呉の兵士達が自分達の安否を

 確かめんと自分達の名前を叫びながら駆けつけて来る。

  「・・・っ」

  その声に気を取られる蓮華。

  「ッ!!!」

  バッ!!!

  一人の傀儡兵が蓮華達に仕掛けていくと、それに呼応して、次々と二人に襲いかかるのであった。

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  「祭ぃいいいいいいっ!!!」

  ガギィィインッ!!!

  一本の剣、一本の小型の刃が交差する度に火花を散らし、鈍い金属音が鳴り響く。雪蓮の怒涛の叫び

 と共に放たれる攻撃をその小さい刃にて軽く受け流す祭。そこに背後から襲いかかる傀儡兵に雪蓮は

 気が付かなかった・・・。

  ザシュッ!!!

  肉を引き裂く斬撃音と共に地面に崩れ倒れる傀儡兵。

  「突出過ぎよ雪蓮!!あなたの悪い癖!」

  敵の攻撃から雪蓮を守った冥琳、すかさず雪蓮の悪い癖を指摘する。

  「冥琳!助かったわ!!」

  雪蓮は振り返る事無く、冥琳に礼を言うと、果敢に祭に仕掛けにいった。

  「・・・・・・・・・」

  この時、冥琳は考えていた。陣内はすでに混戦状態・・・、あちらこちらで呉の兵と敵の兵とで

 白兵戦が展開されているが、天幕、篝火といった様々な物が障害となり、従来の大部隊での陣形は

 あまり意味を為さない。

  そのため、呉の兵士達は賊討伐で利用する、四人一組の少数隊にて迎撃を主にして展開していた。

 これも穏の指示であろう、流石は我が軍きっての軍師であると感服する。だが、それ以上に感服する

 のは敵方だ。

  祭が率いるこの戦闘集団・・・、今まで賊とは明らかに類を逸脱していた。兵力では恐らくこちらの

 半分にも満たない数でありながら、この異様なまでに調律された傀儡兵間の連携、まるで全体が一つの

 意志で支配されているかのようなその機械的な統率、一体何者がこれ程の指揮をしているのだろうか。

 周囲を見渡してもそれらしい人物はおらず、強いて言えば、祭が最もなのであるが、見ている感じでは

 指示を出している様子はまるで無い。更に敵兵一人一人の兵としての純度が非常に高く、その機動性、

 攻撃性、耐久性、その質の高さからこちらの戦力と同等の戦力を発揮しているのだろう。

  最も、向こうにはあの祭が付いているのだから、こちらの戦いにおける癖を知っているのはある意味

 では当然と言えば当然かもしれない・・・。

  「ぐぁあああっ!!!」

  「雪蓮・・・っ!」

  突然の雪蓮の悲鳴に反応し彼女を見やる。雪蓮の右肩を掴み、肩の傷口に親指の先で強引に抉る祭。

 やっと止まった血が再び流れ、雪蓮の表情が苦痛に歪む。

  「己の弱点を相手にさらさないのは、実戦の基本でしょうに・・・」

  そう言いながら、祭は親指に更に力を込め、傷口を抉り抜く。苦痛で表情を一層歪めながらも、

 雪蓮は祭を振り払うと、お返しと南海覇王で祭に斬りかかるが、雪蓮の放った横薙ぎを、祭は地面を

 蹴って後ろに引き下がる。

  「ん?」

  雪蓮から一旦距離を取った祭は目の前の雪蓮達とは別の気配を感じ取った。

  「ぐ・・・っ」

  再び血が流れ落ちる右肩の傷口を左手で押さえもう一度圧迫して止血しようとするが、今度は中々

 止まる様子が無い・・・。

  「雪蓮、傷を見せなさい!」

  そこに冥琳が自分が身に着けていた長手袋を外しながら駆け寄って来る。雪蓮は言われた通りに

 傷口を冥琳に見せると、冥琳は外した長手袋を使って傷口を塞いでいく。

  「せぃっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  思春の放った一撃が空を切る。それは蓮華や他の兵士にも同じく言え、特に甘寧隊、孫権隊直属の

 兵士達はそれが顕著に見える。以前接敵した傀儡兵よりも強い目の前の黒尽くめの傀儡兵。しかし

 この短期間で如何な手段を使い、ここまで錬度を上げたのか?思春はこちらとの距離を測りながら、

 詰め寄る傀儡兵達を警戒しながら防戦一方の戦いが展開されていた。

  「どうなっている・・・、どうして向こうはこちらの手が分かるのだ?」

  それは単純な強弱では無く、こちらの動きが逐一読まれている・・・、そんな気味悪さを思春は

 感じていた。武の達人であれば、相手の体の動きから何を仕掛けて来るかを読み取る事は出来る

 だろうが、こいつ等全員が達人の領域に達している言うのか・・・?

  「シャァッ!」

  ブゥオンッ!!!

  奇声を上げ、敵が二本の爪で思春に襲い掛かる。

  「ちぃっ!!」

  二本の爪を鈴音の刀身で受け止め、思春はその爪を横に受け流す。前のめりに体勢を崩した傀儡兵に

 背中に斬撃を放つ。

  ザシュッ!!!

  「・・・ッ!?」

  肉塊となって地面に伏せる傀儡兵。しかし、その直後に別の傀儡兵が思春へと襲い掛かる。

  「くぅっ!」

  ブゥオンッ!!!

  攻撃の直後であったが、思春はその攻撃を寸前で回避し、敵の一撃は彼女の脇をすり抜ける。

  「これではきりが無いわ!!」

  思春の傍で肩で息をしながら剣を構えていた蓮華。そんな彼女に問答無用に敵の凶刃が襲いかかる。

  ブゥオンッ!!!

  「しまっ・・・!」

  ガギィイッ!!!

  その一撃を剣で受け止めるが、傀儡兵はそこから更に押し込み、疲弊していた蓮華は後ろへと押し

 のけられ、地面に倒れ伏してしまった。

  「く・・・っ!」

  「シャアッ!」

  ブゥオンッ!!!

  傀儡兵の二本の爪が倒れ伏せた蓮華に襲い掛かる。

  「蓮華様ぁあああっ!!!」

  思春が蓮華の前に飛び出す。

  ザシュッ!!!

  二本のうち、一本の爪の切っ先が思春の左鎖骨の下を刺し貫く。

  「思春!!」

  思春の身を案じる蓮華。彼女の心配させまいと思春は膝を折らない。

  「ぐぅ・・・、蓮華様はやらせはしない!!」

  思春の体を貫く爪の刃が腹の部分で折れる。そして彼女の鈴音が敵の首を跳ね飛ばした。

  ザシュッ!!!

  「・・・ッ!?」

  首から上を無くした傀儡兵の体は後ろに倒れ、思春も片膝つく。思春は自分を刺し貫く刃に手を

 かけると、一気に引き抜き、自分の足元に捨てる。

  「思春・・・!」

  思春を抱き寄せる蓮華。出血そのものは大したものでは無かったが、じわじわと傷口から血が流れ、

 服を赤く濡らす。だが、そんな思春の状態など知るか言わんばかりに、残りの傀儡兵達が彼女達との

 距離をじわじわと詰めていく。思春はそんな連中に切っ先を向け、蓮華は思春を庇うように彼女の

 前に出る。

  「「・・・・・・・・・」」

  二人の額に一筋の汗が流れ落ち、頬を伝い、雫となって落ちた・・・。

  ブワァ―――ッ!

  ・・・その時、汗の雫が風によって吹き流される。それは二人にも感じ取れない様な微弱な風では

 あったが、その微弱な風が吹き抜けた時、今度は彼女達の眼前を何かが一瞬過った・・・。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  聞こえる肉を裂く斬撃音、残ったのは・・・肉塊と化した傀儡達の亡骸。そして長い外套を靡かせ、

 蓮華と思春の前に新たに現れたのは・・・、血が滴る片刃の刀を下に振り下ろす男の後ろ姿。

  「お前は・・・、あの時の・・・!」

  思春がその青年の姿を確認する。見間違うはずが無い、その鮮血の様な朱色の外套を身に纏い、

 鉢巻で目を隠した男。

  「朱染めの剣士・・・?」

  巷で呼ばれているその男の通称を蓮華が口にする。

  「あれが・・・?」

  それを聞いて、雪蓮もその男を朱染めの剣士と認識した。朱染めの剣士は目に立ちはだかる傀儡兵達を

 牽制しつつ、祭と雪蓮達がいる場所へと歩み寄っていく。傀儡兵達は先程の攻勢を失い、彼を警戒して

 遠ざかっていく。そして朱染めの剣士の姿を見て祭は言った。

  「ほう・・・?お主が・・・そうか。女渦の小僧が言っておったのはお主の事か!」

  一人勝手に納得する祭。女渦から彼の事を聞いているのであろう。彼に出会え、祭は子供の様に

 無邪気に嬉しそうな顔をする。そして祭は先程まで対峙していた雪蓮を放って、小型の刃を彼に投げ

 つけ、自分も彼へと駆けて行った。

  「待ちなさい、祭!!あなたの相手は私よ!!」

  祭の後を追う雪蓮。しかしそれは横から割って入って来た傀儡兵達が阻む。

  「ちぃ・・・!邪魔するんじゃないわよ!!」

  苛立ちから雪蓮は舌打ちする。襲いかかって来る敵達を返り討ちにすべく南海覇王を振るった。

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  キィイインッ!!!

  祭が投げ放った小型の刃を刀で叩き落とすと、朱染めの剣士も祭に立ち向かって行った。

 互いに近づく二人、先に仕掛けたのは朱染めの剣士の方であった。

  ブゥオンッ!!!

  やや低めの横薙ぎの斬撃、祭はそれを小型の刃で刀の刃先を受け止め、そのまま剣の根元まで

 擦り着けながら朱染めの剣士の間合いの内側へと入り込むと、そこから反対の方の手に取った小型の

 刃で彼に斬りかかるが、彼の左手に手首を取られる。朱染めの剣士は祭の腹部に前蹴りを放ち、祭を

 押しのけようとするが、それを察知した祭は咄嗟に身を引く事で、間合いを取ると同時に彼の攻撃を

 回避した。

  「ほっ!」

  体勢を整えながら、必要以上に後方へと下がっていく祭。

  ブゥオンッ!!!

  ガッギィイッ!!!

  彼女の後を追い、一気に間合いを詰めると朱染めの剣士は祭に刀を振り下ろすが、祭は小型の刃で

 彼の刀を受け止める。

  「懐かしいのぉ・・・、よくこうやってお主に稽古を施してやった」

  「・・・っ?」

  刃と刃が拮抗し合う最中、突然祭が朱染めン剣士に語りかけてくる。急に何を言い出すのかと

 朱染めの剣士は眉をひそめる。稽古を施す・・・、この言葉が彼の頭を駆け巡る。

  「そして決まって次の日には全身筋肉痛になっておった、がな・・・!」

  ガッゴォオッ!!!

  語尾を強めると同時に、祭は朱染めの剣士の刀を彼の頭上より高く弾き返すと、小型の刃で彼の

 腹部に斬りかかるが、朱染めの剣士は後方宙返りを決め、その斬撃を回避する。祭は宙に舞い上がった

 朱染めの剣士に小型の刃六本を投げ放つ。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  朱染めの剣士は朱色の外套を広げ、自分の姿を隠す。祭が投げ放った刃は広げた外套に衝突すると、

 その勢いを急速に失い、そのまま地面に落ちる。朱染めの剣士は無傷の状態で地面に着地する。

 この時、朱染めの剣士の脳裏をある光景が過る。そして全てを理解する・・・。

  「そうか・・・、そう言う事、か。あなたは・・・」

  理解した彼を見て、祭は不敵な笑みを零す。

  「ふむ、わしの正体に気付いたようじゃのぅ?頭のキレも相変わらずじゃな!」

  「・・・っ!」

  朱染めの剣士は祭に向かって刀を振り上げるも、祭はくるりと回って横に避ける。その回転を活かし、

 手に持っていた刃で朱染めの剣士に突きを放つ。朱染めの剣士は祭の手首を受け止め、祭の横腹に

 横薙ぎを放つ。だが、祭は剣士に掴まれた手首を軸にし、自分の体を捻る事で、彼の放った横薙ぎを

 かわす。しかし祭はそこから次の行動に移る。

  「はっ!」

  「・・・!?」

  体を捻った事で浮きだった下半身、祭は捻りの勢いを使い、朱染めの剣士に回し蹴りを放つ。

  ドガァッ!!!

  回し蹴りは朱染めの剣士の横顔に入り、祭の手首を掴む手が緩む。それを感じ、祭は地に足を付ける

 と、今度は朱染めの剣士の手首を掴み、そのまま背負い投げに移行、朱染めの剣士は背中から固い地面

 に叩きつけられる。祭は彼の顔面に拳打を叩きこもうと拳を振り上げるが、仰向け状態に倒れた体勢から

 朱染めの剣士が祭に向かって蹴りを放つ。

  ドガァッ!!!

  「くっ!」

  朱染めの剣士の蹴りを喰らい、祭は堪らず後ろへと後ずさると、朱染めの剣士は体を起こし、再び

 立ち上がると、祭に仕掛けていく。

  ブゥオンッ!!!

  朱染めの剣士が放った斬撃を紙一重で避ける祭。

  「く・・・、やりおるわ!だが・・・!」

  ブゥオンッ!!!

  祭は剣士が放った横薙ぎ、更にその頭上を飛び越えると、傀儡兵と戦っていた弓兵の背後へと着地

 する。そして弓兵の首筋に小型の刃を立て、躊躇い無くその首をかっ切った。

  ザシュッ!!!

  「ぐぎゃあっ!!!」

  首から大量の血を流しながら倒れる兵士の手から弓と二本の矢を取り上げる。

 近づいて来る朱染めの剣士に標準を定め、二本の矢をまとめて弓の弦で引き、彼に撃った。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  二本の矢が朱染めの剣士に飛んでいく。一般兵に支給される弓で二本の矢を同時には放つ所は

 さすが黄蓋公覆。しかし、朱染めの剣士はその二本の矢を刀の一振りで叩き折ると、今度は地面に

 刺さっていた剣を走りながらに抜き取って、そのまま祭に投げ放つ。祭は体をずらす事でかわすと、

 彼女の後ろに立っていた天幕の柱に突き刺さる。そして再び彼に目を向ける祭であったが、そこには

 当の彼の姿が無かった。

  「は・・・っ!!」

  咄嗟に気配を感じ、上を見上げるとそこに彼はいた。飛び上った朱染めの剣士は剣を振り上げながら、

 祭に頭上に落ちる態勢に入っていたのだ。

  「ちっ!」

  矢で迎撃するにはもう合わないと判断し、舌打ちする祭。 

  ブゥオンッ!!!

  朱染めの剣士は祭に刀を振り下ろした。だが、振り下ろされた刀の切っ先は祭を掠りもせず、朱染め

 の剣士は片足をつき、しゃがみ込む形で着地する。

  ガギッ!!!

  「・・・ッ!!」

  刀の峰の部分が足で踏みつけられる。刀の切っ先は地面に埋まり、朱染めの剣士は刀を持ち上げる

 事が出来ない。見上げれば、そこに近距離から彼を射抜こうとする祭の姿。後は張った弦から手を

 離せば、矢が彼の眉間を貫くだろう・・・。朱染めの剣士は咄嗟に左手を外套の中へと潜らせると、

 祭は掴んでいた矢の羽を離そうとした。

-8ページ-

 

  ガギィイッ!!!

  朱染めの剣士が外套から再び左手を出すと、そこにはもう一本の剣が・・・。そしてその剣の刃が

 器用に矢の先端を捉え、祭は矢を放てない状態になる。その朱に染まった外套の中から見える下の服。

 それは外套と同様、否、それ以上に血の独特の赤黒さが一層際立った色で染まっていた。

  「「・・・・・・」」

  数秒間、二人はその体勢で硬直する。周囲の者はその数秒がとても長く感じてしまう錯覚に襲われる。

 だが、彼女達を一番驚かせたのは朱染めの剣士がその左手に持っていた剣であった。ただ蓮華一人を

 除いては・・・。

  「あ、あれは・・・!」

  雪蓮は自分が持つ剣と朱染めの剣士が持つ剣を見比べる。それはまさに瓜二つ、彼が持っているのは

 南海覇王そのものであった・・・。

 

  朱染めの剣士は祭の隙を付き、足で踏みつけられていた刀を引き抜くと、その態勢から祭との距離を

 一気に詰めると右切り上げの斬撃を放った。

  ザシュッ!!!

  斬撃を放たれた先にすでに祭の姿は無く、あったのはその斬撃で破壊された弓と矢、そして彼女の

 左腕のみ・・・。持ち主を失ったそれらはそのまま地面に音を立てて落ちる。持ち主である祭は音も

 立てずに天幕の頂上に着地する。当然ながら彼女は左腕を無くし、傷口を右手で押さえるも、指の合間

 から血が流れ落ちる。

  「ほぅ・・・、あの頃よりも随分と腕を上げたではないか・・・。最も、それも無双玉とやらの

おかげなのであろうがな」

  「・・・・・・」

  朱染めの剣士にそれだけを言うと、祭は雪蓮達の方に顔を向ける。

  「策殿!」

  「!」

  「皆の顔を見れてこの黄公覆、満足ですぞ!」

  「祭殿・・・!」

  「祭!」

  「儂等はある事をするべく、この場を失礼させてもらう!!縁があればまた相見えましょう!」

  「祭殿!!」

  「祭様!!」

  「では、さらばじゃ!!」

  そう言い残して祭は天幕の反対側へと消えていく。それに合わせるように、陣内にいた傀儡兵達も

 その場を離脱、暗く深い林の中へとその身を隠していった。

  「逃がさない・・・!」

  朱染めの剣士も祭の後を追って天幕の頂上へと素早く飛び移る。

  「待ちなさい!あなたは一体に何も・・・!!」

  立ち去ろうとする彼を雪蓮は止めようとするが、彼女の言葉を振り切って朱染めの剣士は天幕の

 向こうへと姿を消し、そこに残されたのは雪蓮達だけとなった。その場は先程までとうって変わり

 沈黙に支配される。

  「朱染めの剣士・・・。あなたは・・・、あなたは何のために?」

  蓮華は今に掻き消えそうな声でそう呟いた・・・。

-9ページ-

 

  「あ、お帰り〜。そっちはどうだった?」

  「久しぶりに他の娘共の顔が見れたし、あ奴も現れたのでな。儂は程良く楽しめたぞ♪」

  「そう・・・、それは良かったぁ♪でも、少しはしゃぎ過ぎたんじゃないのかなぁ〜?」

  「ふむぅ〜確かにな。女渦、悪いがこの切り落とされた腕を直してくれんか?」

  「あらあら、これは本当に思いっきりやられたもんだぁ。けど、その程度なら僕だけでどうにかなる

  から問題無いよ。ほら、見せて頂戴♪」

  「済まんのぅ。そちらは如何だった?」

  「僕がへまする様な男に思う?」

  「変態だとは思うがな・・・」

  「ですよねぇ〜♪」

  「「あっはっはっはっはっ!!」」

  「・・・ところで女渦。あの娘共は一体どうした?」

  「え?・・・ぁあ、あれは影篭を拾うついでに拾って来たんだよ。個人情報がその辺の人間なんか

  の比ではないからね。きっと優秀な颯が出来るはずだよ」

  「楽しそうだなぁ」

  「そりゃそうだ!あっはははははははは!!でなきゃこんな事をするわけないもん♪」

  「あっはっはっは!!違いない!違いない!」

  「「あっはっはっはっはっはっはっ・・・・・・!!」」

説明
 運営から自重しろと削除されてしまいました。ですので、自重版を再投稿します(次やったら追放だそうです)。僕の渾身の描き下ろしは運営には解って貰えなかったようですwww。弁論ではありませんが、この所・・・妙にはっちゃけたい気分に駆られているため、あんなぶっちゃけたのを上げてしまったんです。というか、どして小説だけ年齢制限2までなの?イラスト、漫画は3までなのに・・・何が違うん?

 真・恋姫無双 魏・外史伝 再編集完全版 第十四章〜君は何がために〜をどうぞ!!

※今日、気づきました。プロフィール情報内に「アダルトコンテンツの表示」の項目がある事に(15歳未満禁止までしかないのに・・・orz)。
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コメント
あれ?でも塗ってる方はまだ生きてるんですね〜(スターダスト)
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