真・恋姫†無双 ?白馬将軍 ?徳伝? 第1章 放浪の鷹 3話
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雲一つ無い快晴の青空の下、2頭の騎馬と2頭の馬に引かれた荷馬車が、街道を走る。

 

無論、鷹と姜維、ケ艾の3名である。荷馬車の御者をケ艾が務め、左右を鷹の愛馬白影と姜維の馬が並走している。

 

 

(むぅ、朝食の一件以来、どうも二人と上手くコミュニケーションが取れん・・・もうちょっと別の言葉にすべきだったか?)

 

 

涼州で姉や主君とその娘との付き合いで、色々女性に関しては鍛えられたと思っていた鷹ではあったのだが、問題なのはその付き合いのあった女性達が真っ当な女性とは言い難い、強烈な個性の持ち主ばかりであった事が、認識のズレを生んだと考えた(実際には全く関係ないのだが)。

 

確かに姜維とケ艾は優れた武人で、鷹が付き合いのあった女性達も、皆武人であった。だから、自分を大事にする様励ませばそれで立ち直るかな? と考えた助言は、ある意味正解だったが、ある意味間違いであった。

 

 

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そして、もう一つ姜維とケ艾との間がぎくしゃくする原因として、困った事に鷹は自らの事を理解している様で理解していない面がある。

 

鷹は自らの武と軍略、政略手腕にはかなりの自信を抱いている。実際結果を出しているのだからそれは当然だ。

 

そうして鷹が抱く自負が、鷹の佇まいに威厳を与え、周囲の人間からすれば其処に鷹が居るだけで全身を覆い尽くされる様な、凄まじい威を感じ取るのである。それも、誰が見ても解る程に・・・。

 

そして、?徳の背丈と容姿もまた、並の人間ではないと思わせるに十分だった。程よく整ったその表情は精悍と呼ぶに相応しい容姿で、背丈は8尺強(190センチ前後)もの高さを誇る。

 

そして、その全身は一見しただけでは解らないが、肉体は非常に鍛え込まれており、衣服の下にはしなやかでありながら頑健な筋肉が隠れている。両腕は長い上に太く、重い長柄武器である鷹の宝刀を軽々と振り回す怪力に相応しい。指と掌は、長年武器を振り込んだり局所鍛錬の影響で硬質化している。

 

 

 

そんな外面と内面双方が突き抜けた男性等、姜維とケ艾は見た事が無い。歴史書等で様々な人物は其処に居るだけでその威が解る、と言う記述を見た事があるだけで、実際にそんな雰囲気を持った人物等知る佳しも無い。想像出来無かった。

 

だからこそ、二人共鷹の存在に驚いたのだ。そんな偉大とさえ言える男性から、口説かれた(二人はそう受け取った。実際そう認識しても不思議ではない鷹の台詞であった。)。

 

最初の衝撃に付け加え、更なる衝撃だったのだ。

 

だからどうして良いか解らず、結局無言のままになってしまった訳だ。

 

 

むぅ、と左手を顎に持って考え込む鷹の姿をチラチラ横目で見る二人。そして見る旅に顔が熱くなって視線を前に戻し・・・その繰り返しであった。

 

 

(うう、どうして?徳さんをつい見ちゃうんだろう・・・なんでこんなに気になるんだろう・・・)

 

(うにゃ?、?徳さんをどうしても見ちゃうの・・・でも見たら見たで恥ずかしいの・・・)

 

 

結局そのまま状況は進展せず、青空の元疾走する2つの騎馬と1台の荷馬車は襄陽から山中にある水鏡学院とその麓の町への街道を直走って行った。

 

 

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本人達は兎も角、行程は順調そのもので予定を上回る速度で水鏡学院のある山の麓にある町に到着した。

 

流石に走りっぱなしで此処まで一気に来たせいで、咽も乾いたし少し何かを摘みたくなる時間帯である。昼は干し肉と小麦粉を水で練って焼いた物をさらに乾燥させた、かなり簡素な携帯食料と水で済ませた。そのため、3人共空腹と疲労を感じたので一息入れたかったのだ。

 

町とは言ってもその規模は小さく、周辺には農地と農村が点在し、その中心の町には周囲の農村から食料を売りに来る農民達が、小さいながらも市を形成していた。それ以外にも様々な物が売られており、暮らすだけならば此処でも十分な生活が出来る町の様に感じられる。

 

喫茶店で一息入れた事で、姜維もケ艾も少し落ち着いたのか、疾走して来た時の様にぎくしゃくはしなくなっていた。鷹も甘い物と良い香りのする玉露呷りながら、ふーっと一息ついた。

 

 

「なかなか良い町だな。長閑だが活気がない訳ではない。」

 

「は、はい! 普段は此処で食料や日用品を調達しているんですが、今回はちょっと学院の長である水鏡先生や、他の生徒の人達から頼まれて注文していた物を購入しに行ってたんです。」

 

「ふむ、態々襄陽で仕入れなくとも、この町で必要な物は揃うのではないのかと思ったが。」

 

「学院で使う紙や筆、墨と言った筆記用具は此処だと入って来ていない場合がありますし、新しい本やまだ学院に無い歴史書とかは襄陽に行かないと手に入らないの。だから一月に一回位の頻度で今日みたいに、襄陽で一泊する買い出しに行くんです。」

 

「そうか・・・学院か・・・考えたら俺は独学だったからな。しかも学んだ事は基本中の基本だったし、指導者がついて学べると言うのは少し憧れるな。」

 

「え? ?徳さんは独学で軍の指揮を学んだのですか?」

 

 

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鷹の一言に驚いた声を上げたのは姜維。武人として超一流なのは見れば直ぐに解ったし、荊州牧劉表の委託を受けて1000以上の兵士を操って賊殲滅活動をして来た鷹の経歴も聞いたので、鷹の故郷である涼州で様々な指導を受けて成長して来たのだと思ったのだ。

 

しかも、預けられた1000の兵士は元々江夏の戦争には派遣されなかった、質の低めな、言ってしまえば雑兵に近い兵士達だった。

 

それが鷹と共に賊退治に出陣し続けた結果、精兵と呼ぶに相応しい兵士に変貌したと言う。実際にその兵士達が江夏へ派遣される前に、偶然ではあったが出立しようとしていた3人と鉢合わせした際、別れの言葉として鷹が訓辞を与えたのだが、その兵士達にから漲る自信と鷹に対する畏敬の念を感じ取れた。

 

兵から信頼され、その命を預けられると言う事は、凄まじい重責を負うと共に、絶大な栄誉も手中にする。ただ単に武に秀でているだけでは将は務まらない。数多の死線をくぐり抜け、数多の功を挙げた者で無ければ、武将にはなれないのだ。

 

それだけに、個人の武以外にも状況に応じた軍指揮と地形の把握、天候や敵の情報・・・上げればきりがない程武将のやるべき事は多い。だから武将の責務を独学で学んだと言うのは、普通あり得ない事なのだ。

 

 

「全て一人で経験した訳ではないがな。補佐してくれる配下が居たから上手く出来た。俺一人では出来る事も限られているし、そもそも今の様にはなれては居ないさ。

経験豊富な配下達が、俺の至らない所を指摘してくれたり穴埋めしてくれたり、そうして配下や仲間達に支えられて、俺は将軍としての実力を身につけられた。

 

まあ、現場でどう戦うのか、戦術や戦略は殆ど自分一人で決めていたからそう言う面では独学と言えるかもしれん。時折指摘も受けたがな。

将軍と言うのは、難しい上に責任も絶大だからな。一人で務まる様な地位じゃない。」

 

「「・・・・・・」」

 

「む? どうした、二人とも。」

 

「あの、?徳さんって、涼州出身って仰っていましたけど、涼州で将軍職に就いていたんですか?」

 

「? 所縁、何言っているの? ?徳さんは、涼州では名門と言える家の出自なのよ。将軍であってもおかしく無いわ。」

 

「にゃ? 七ちゃんは知ってたの?」

 

「あ、そう言えば所縁にも私の出身地は話した事無かったか・・・今はお母様がこの町に来てるけど、まだお父様が生きていた頃は涼州の天水に居たのよ。

10年前の匈奴との戦争でお父様が命を落としてから、こっちに移ったの。」

 

「10年前の戦争? まさかあの悲しみの丘、か?」

 

「はい・・・後でそう呼ばれる様になったと聞きました。涼州ではお父様が傭兵をして生計を立てていたのですが、お父様が戦死してからはお母様の生家のあるこの荊州に移り住んだのです。

そうしないと、生計が立てられませんでしたから。蓄えはありましたけど、それも稼がないといつかは尽きてしまいますし、当時子供だった私を育てるには荊州の方が良かったのもありました。」

 

「そうか・・・あの敗戦の死者の娘だったのか。俺と同じ様に」

 

「そ、それは・・・?徳さんも?」

 

「ああ、姉上と俺を残して?家の人間は皆命を落とした。

 

その知らせを聞いて、少し経った頃か。俺が匈奴に対し、激しい怒りと憎しみを抱き、長年続く匈奴との争いを終わらせるために、匈奴を攻め潰すために、将軍として力を付け、涼州に生まれ育った者として、貧しい涼州を豊かな地に生まれ変わらせる事を決意したんだ。

ま、今はその事業も終わって、涼州は安定期に入った。だから俺は故郷の事に一段落を付けて、こうして念願だった旅に出て、今に至ると言う訳だ。」

 

 

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喫茶店で、見目麗しい女性二人を侍らせてお茶を呷り、お菓子を摘みながら話す事にしては、あまりに重過ぎる内容ではあったので、最後は鷹も軽い口調で話した。

 

それでも、姜維もケ艾も姉と自分以外戦場に散ったと聞いて悲しそうな表情になった。

 

 

「ふふ、君達が悲しむ事では無い。それに俺の一族は俺も姉上も含めて武人肌の一族だ。力及ばず散る事を恐れて戦場に出ない事等あり得ん。

思い残す事はあっただろうが、戦場で散った事を誇りに思いながらあの世に行っただろう。」

 

「・・・私は、その・・・」

 

「そうか・・・姜維殿、あなたはあくまで当時は子供であったし、涼州から故郷に移り住んだ貴殿の母親の決断は至極真っ当なものだ。其処に俺の意思等介在する余地は無い。気に病む必要などなかろう。」

 

「でも・・・私は結局辛い事から逃げ出して「姜維殿、それ以上は駄目だ。あくまであなたの母親が下した決断に、俺達の介在する余地等無い。貴殿は無事荊州に住み着いて今こうしているのだ。むしろその事こそ喜ばしい。貴殿の父上を死地に追いやったのは、当時の涼州だったのだから。

だから貴殿の責任等無いし、むしろ貴殿が責任を感じる事の方がおかしいだろうよ。」

 

 

姜維は強い責任感と優しさからか、自分が苦境に陥った涼州から逃げ出した者だと考えてしまったのである。それを感じ取った鷹が、姜維の言葉を遮った。

 

 

「?徳さんは、辛く無かったの?」

 

「む?」

 

「その、ご家族を失って、?徳さんの家は?徳さんとお姉様だけになってしまったんでしょ?

それで、匈奴と戦うために将軍になるって決めたけど、すっごく辛い事でしょ?」

 

「まあ、むしろ当時の俺は将軍になって匈奴を滅ぼすために行動する事で、あの時の自分を保っていた様な気がするからな。辛いと感じる事さえ出来なかったと言うのが実情だろうな。

ははっ、若気の至りと言う奴だな。今は全てに決着が着いたし、自分の思い出でしかないさ。」

 

「?徳さん・・・」

 

「はは、自分で振っておいてなんだが辛気くさい話は此処までにしよう。折角美味しいお茶とお菓子を堪能中なんだ。それに俺からすれば折角美女二人を侍らせてお茶会なんだ。こういう一時を楽しまないとな。」

 

 

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無理して明るく振る舞って居る訳ではない。それが解るだけに姜維とケ艾は、唖然呆然と言った表情である。

 

そして、徐々にこんな思いが彼女達の心に生まれる。この人と共に生きて行きたい、と。

 

幸せから一転して、復讐に身を焦がし、持てる力と知恵を出し尽くして過去から決別した鷹の存在に、二人共敬意の念を抱かずにはいられなかった。

 

 

「あの、?徳さん。」

 

「む、どうした?」

 

「私の真名、七と言います。以後は七と呼んで下さい。」

 

「む・・・真名を俺に?」

 

「はい、是非?徳さんには私の事を真名で呼んで欲しいのです。」

 

「解った、ならば俺の事も鷹と呼んでくれ。」

 

「はい! 学院まで輸送が終わってからも是非お話が「ちょーっと待つの七ちゃん!」

 

「ちょ・・・どうしたの所縁。いきなり大声出して。」

 

「どうしたもこうしたも無いの! ?徳さん、私の事も所縁って呼んで欲しいの。」

 

「・・・いちいち聞き返すのは無粋だな。なら所縁も今後は俺の事を鷹と呼んでくれ。」

 

「! ありがとう、鷹さん!!」

 

「鷹さん、その、これからもよろしくお願いしますね。」

 

 

ぱあっ、と花が咲く様な笑顔になる七と所縁。鷹も思わずドキッとさせられる、花が咲く様な、綺麗な笑顔であった。

 

 

「俺からもよろしく頼む。」

 

 

鷹が茶碗を少し前に差し出すと、七と所縁も茶碗を前に出してカチン、と軽くぶつけ、残っていたお茶を飲み干した。特に何かを誓った訳ではないが、こうして真名で呼び合う存在になった事を祝っての、乾杯であった。

 

 

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太陽が最も高い場所からある程度西に沈み、影が物体から西側に現れる頃、麓の町から出発した鷹達3人は、既に整備された山道に入っていた。

 

その道は竹に囲まれながらも、人の手が入れられているために余計な雑草も無く、広く解りやすい道筋であった。

 

鷹ですら、思わずキョロキョロしてしまう程整った竹林道に、七と所縁がくすっと微笑んだ。

 

 

「凄いな・・・こんな綺麗な竹林は見た事が無い。良く手入れされているのだな。」

 

「私達もたまにお手伝いするんですよ。」

 

「今は冬ですけど、春になれば筍を収穫して学院の皆で食べるんです。とっても美味しいですよー。」

 

「ふむ、取れ立てならそのままたき火に入れて皮を焦がして中を食べるのが美味と聞いた事があるが。涼州だと筍はなかなか手に入らないからな。」

 

「涼州は北の地ですから、どんな物を食べていらしていたんですか?」

 

「ああ、寒い地方なので麦を麺にした物が主だ。それに牧畜や狩猟が盛んだから獣肉や乳製品が多いな。遥か西から訪れる商人達が、かなりの香辛料を持って来てくれるからそれらと塩を調味料にしているがな。」

 

「遥か西・・・古の張騫や班超が向かった、西域のさらに西から、ですか?」

 

「ああ、遥か西にもまた、様々な国家が存在し、そしてその地で人は育んで来たのだろう。話を聞いた事もあるが、漢とは根本的に宗教観等も違う様だしな。

向こうでも様々な学問が発達しているらしいから、4年前に学問の書物を持って来て欲しいと頼んだのだが、何せ非常に遠い場所なのだろうか未だに手に入らない。」

 

「遥か西の国の書物・・・是非読んでみたいの。」

 

「私もです・・・よし。」

 

「お、開けた場所・・・建物が見えて来たぞ。」

 

「はい、あれが水鏡学院です・・・あれ? 何か様子が変ですね。」

 

 

竹林を抜け、開けた場所に建てられた木造の立派な建物。其処こそ様々な学問を教える水鏡学院。

 

静謐の中、未来を担う幼く、または若い者達を教え導くその学院に、山賊の魔手が及んでいたのである・・・。

 

 

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白馬将軍?徳伝第1章3話を読んでいただき、ありがとうございます。

 

最初のコメントにもありましたが、まさか七と所縁の元ネタの指摘が無いのは予想外でした。

 

ってな訳で今後オリジナルキャラを出した時、もしかしたら今回の七と所縁の様に、元ネタがある様にして、それを当てたらリクエストに応えようかな、と考えています。

 

最もリクエストと言っても拠点イベントを誰にするかとか、そう言う方面に限られてしまいますが、あまりオリジナルキャラを出し過ぎると原作キャラが潰れてしまいますので(もう潰れつつあると言うツッコミはご勘弁を)、少しだけ出そうと考えています。

 

また、オリジナルキャラでも元ネタ無しの場合もありますので、その辺はその都度告知しようと思います。

 

 

 

さてさて、山中にある水鏡学院に目をつけた山賊共、その蛮行を当然見過ごす事は出来ない鷹。

 

その最中で鷹は淵に眠る龍と、鳳凰の子供に巡り会います。

 

それではまた次回でお会いしましょう。

 

 

 

説明
白馬将軍?徳伝第1章3話目です。
前回出したオリジナルキャラの元ネタを誰も指摘しなかったのでちょっと落ち込みました。
むう、当てた人には何かおまけでも付けようか・・・。
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コメント
ああなるほど、ちゃんと天水出身だとわかってやってたんですね、前回余計なことを言ってしまいました。こんなちゃんと調べてる人がそんなこと見逃すわけがなかったか。徐庶ファンとしては徐庶を忘れないでほしいですねぇ(PON)
BookWarmさん 毎回コメントありがとうございます! 誤字指摘ありがとうございます。別の形に訂正させていただきました。(フィオロ)
Disさん コメントありがとうございます! ああ、やっと指摘してくれる人来たー! そう、リリカルのあの二人です(フィオロ)
Nightさん 毎回コメントありがとうございます! ?徳無双は確定です(フィオロ)
面白いです。無理せず創作活動してくださいね。ただ、一点だけ思ったことが有ります。姜維とケ艾の会話がリリカルな二人にしか思えませ〜ん。真名からしても・・・ねぇ。リリカル好きなんで個人的には良いですけど。(Dis)
お疲れ様です。さて、出会いがどんな形になるのか楽しみです(Night)
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