リリカルなのはstrikers if ―ティアナ・ランスターの闇― act.6
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 時空管理局 通信班にとって、その通信は あまりにも奇妙なものだった。

 

 まず、通話相手が名前を明かそうとしない。

 この通信の信頼度をえるため、身元を確認するために名前を聞いても「名前は故郷においてきた」だの「私はタバコと結婚したのよ」だの返答に要領を得ず、無駄口だけが往来する。

 しかしながら発信元は、間違いなく病院内部。

 このあまりにも重要な情報を提供し、しかし信頼するには あまりにも危険そうな協力者を、通信班のスタッフはもてあました。

 なので判断を、もっと上の人間に委ねることにした。

 

 現場の最高責任者であるフェイトが、シャリオ、エリオ、キャロをつれて通信班テントにやってきたのは、その数分後だった。

 

 

   *

 

 

 フェイトがマイクに向かって呼びかける。

 

フェイト「ご協力を感謝します。――私は本事件の対策本部総指揮、フェイト=T=ハラオウン執務官です」

 

 

スピーカー≪―――ブフォッ≫

 

 

 何故か通信機の向こうの通信相手が噴き出した。俗に言う「コーヒー噴いたww」と同じ状況である。

 

フェイト「え? え? なんで?」

 

 別段ボケた覚えもないフェイトは、通信相手の過剰なリアクションに大困惑。

 

 

   *

 

 

ティアナ「なんでフェイトさんが……?」

 

 通信機に拾われぬよう小さな声で、悪態めいた独り言を呟くティアナ。予想だにしていなかった知り合い登場で、吸いかけたタバコの煙を一気に肺まで入れてしまった。

 ティアナにとって、フェイト=テスタロッサは機動六課時代に世話になった教官の一人。

 分隊の所属が違ったり、フェイト自身の職務上、訓練に参加する機会は なのは ほど多くなかったが、ティアナが当時 執務官コースを希望していた関係で、他のフォワードメンバーより指導を受ける機会は多かったように思う。

 ……もし あの頃、ティアナが変な 気まぐれを起こさず、皆の希望に 身を委ねていたら、ティアナは執務官となるために まず彼女の補佐官から始めていたはずだった。

 そうしたらフェイトは、ティアナにとって なのは以上の恩師となっていたかもしれない。

 

ティアナ「……………」

 

 しかし それも仮定の話だ。別の選択肢をとった以上、フェイトの下で歩んだかもしれない執務官への道は、ただの夢想に過ぎない。

 ティアナは気を鎮めるように、今度は ゆっくりとタバコの煙を吸い込んだ。

 

 

   *

 

 

 スピーカーから新しい声が届くまで、通信班テントに集う一同は、沈黙せざるをえなかった。

 

スピーカー≪あー、あー。………ぐほん、失礼しました≫

 

 通信機の向こうの相手が気息を整えるのを、フェイトたちは待つしかなかった。

 

スピーカー≪地上の事件に執務官が出張ってきてるのに驚きましてね。……っつか、なんで本社の人間が所轄のヤマに顔出してるんですか? 事件は会議室で起きてるんじゃないんですよ?≫

 

 スピーカー越しに指摘される問題点は、実に正論そのものだったのでフェイトも戸惑う。

 

フェイト「えっ、ええと、あの、………すみません」

 

 ミッドチルダ本土で起きた事件は、ミッドチルダを守るために組織された地上本部が担当する。それが時空管理局始まって以来守られてきたルールだった。

 ゆえに海――広域にわたる時空世界の事件捜査――を担当する執務官が出てくるのは縄張りが違う、特に本局を毛嫌いしてたレジアス中将 存命時では、執務官が地上の事件を総指揮するなど絶対にありえないケースだった。

 

シャリオ「しっ、仕方ないでしょう! 管理局にだって事情があるんですよ、事情が!」

 

 見かねた補佐官のシャリオが助太刀に入る。

 

シャリオ「JS事件で損失した人的資源は、5年経った今でも回復できないし! 特にエージェントとしての個人能力に、オフィサーとしての指揮能力の両方が求められる執務官は なり手が少ないのよ! 有能な人間が倍 働くことになるのはしょうがないでしょう!」

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スピーカー≪ほう、ではフェイト執務官は有能な人だと?≫

 

シャリオ「そうよ! 文句あるッ?」

 

フェイト「やめてよシャーリー、恥ずかしいよ……」

 

 思わぬ褒め殺しにフェイトはオドオドと戸惑う。

 スピーカーの向こうから聞こえてくる声は、電気信号に変換される過程で声質がかなり変わっており、それを聞くフェイトたちにわかるのは、それが若い女性の声であるということぐらいだった。

 ディスプレイには『Sound Only』の表示。

 通信機の向こうにいる人間が、かつてともに戦ったティアナ=ランスターだということに気づくには、様々な隔たりがありすぎた。

 

 

   *

 

 

ティアナ「ま、私にとっちゃ その方が都合がいいんだけど……」

 

 通信機に拾われぬように、ティアナは小声で呟いた。

 

 

   *

 

 

スピーカー≪では有能なフェイト執務官さんに、私からお願いがあるんですけど≫

 

フェイト「なんですか? アナタを病院内から脱出する支援なら、すぐにでも……」

 

スピーカー≪病院内に魔導師を突入させてください。急いで。できれば一時間以内に≫

 

シャリオ「なんですってッ?」

 

 その無茶とも言える要求に、補佐官のシャリオが色めき立つ。

 

シャリオ「アナタ、何を考えてるんですかッ? そんな慌しい突入作戦なんてありえませんよ、病院内には100人近くの一般市民が人質として拘束されてるんです。もし無理に突入したら、その中から どれだけ死者が出るか……!」

 

スピーカー≪人質の総数は、103人よ。……ああ、私を入れれば104人か≫

 

シャリオ「えっ?」

 

 突然出てきた正確な数字に、通信班テントに居合わせる者は誰もが息を呑んだ。

 

スピーカー≪人質と犯人の数、そして位置は私が逐次 把握しています。それで突入作戦の成功確率もグンと上がるでしょう? だから迷わずGOしなさい≫

 

シャリオ「それでもッ、事件解決の方法は実力行使だけとは限らないでしょうッ? ネゴシエーターによる交渉、要求を呑むと見せかけて犯人を誘き出す手もある。その中でも突入作戦は、人質に危害を加えかねない一番危険な手段なのよ、そう安々と使えるわけはがないじゃない!」

 

スピーカー≪しばらく見ないうちに管理局も質が落ちたわね≫

 

シャリオ「なんですってッ?」

 

 挑発的な口調に、通信班テントに険悪さが漂う。

 その中で、指揮官のフェイトだけは一人冷静に、謎の協力者が何故それほどまでに突入を急がせるのか、その理由を考えた。

 たしかに、突入作戦は対テロ事件における諸刃の剣だ。

 この切り札を使えば、もともと武力において大きく上回る国家権力が、アングラ犯罪者を圧倒するなど容易い。魔導師としての実力を考えれば、フェイト一人で乗り込んでもよいぐらいだ。

 だが敵も、それを わかっているから人質をとっている。武力で上回る相手を、弱い部分を攻め立てることで、その動きを封じている。

 突入作戦は、相手を一気に圧倒する代わり、人質にとられた一般市民を危険に晒す悪手でもある。できれば最後の手段としておきたい。使えるならば、もっと人質の安全を確保できる手を使いたい。事件を解決させる側に回れば誰だって そう思うのが自然。

 しかし通信機の向こうの、顔の見えない相手は、その最後の手段を真っ先に使えという。

 その一見無謀と思える主張の裏にあるものは何か?

 

フェイト「あの、……よろしければ、アナタが突入作戦を推す根拠を聞かせてもらって いいですか?」

 

シャリオ「フェイトさん! そんなの聞いたって無駄です! 大体こんな正体もわからない……!」

 

スピーカー≪簡単です、今回の事件には、犯人との駆け引き なんて まだるっこしいことを やってる余裕なんてない。即断即決、やるならそれしかない≫

 

シャリオ「即断即決ッ? だから何でそれしかないって言えるんですか?」

 

 通信機の向こうのティアナが、決定的となる一言を、言った。

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スピーカー≪ここが病院だから≫

 

 

フェイト「ッ! …そうかッ!」

 

 言われた瞬間、フェイトの瞳が光った。

 

シャリオ「……どうしたんですかフェイトさん? 一体 何に気付いたんですか?」

 

フェイト「シャーリー考えて、ここは病院、そして病院にいるのは どんな人たち?」

 

シャリオ「それは、医者と患者でしょうか?」

 

フェイト「そう、当然 人質となっているのも お医者さんか、患者の人たちよ。……人質は、長い間 銃で脅され、命の危険に晒され、健康な人でも耐えられないくらいの多大なストレスを強いられる。それが、ケガや病気で 健康を崩した患者さんに耐えられると思う?」

 

 そう言った瞬間、対策本部は凍りついた。

 

スピーカー≪それだけじゃない≫

 

 ティアナが追随した。

 

スピーカー≪入院患者の中には、定期的に点滴や透析を受けなきゃいけない人もいる。急な発作で、医師の措置を必要とする人もいるでしょうね。でも、それをおこなうべき医者も、今はテロリストに自由を拘束されている。患者が死にそうだから措置をさせてくれ、って言って、聞き分けてくれる相手とも思えないでしょ?≫

 

エリオ「それじゃあ やっぱり………」

 

シャリオ「悠長にやってる余裕なんてないじゃない……!」

 

 唇を噛むフェイト、そして電光のように指示を伝える。

 

フェイト「エリオッ! キャロッ! すぐに突入隊を編成して所定場所で待機ッ! 急いで!」

 

エリオ&キャロ「「はいッ!」」

 

 二人が飛び出していく。

 それと同時に他のスタッフたちも 慌しく動き回る。この事件には、許される時間が あまりに少ないことを全員が気づいたのだ。

 

シャリオ「フェイトさん、…差し出がましいようですが、犯人と交渉して、重病患者だけは優先して解放するように仕向けてはどうでしょうか? そうして解放された患者さんを、別の病院に搬送して……」

 

フェイト「ううんダメ、犯人が もしそこまで読んで犯行場所を ここに選んだんなら。それこそが犯人にとって有効な交渉カードになる。私たちは希望を通すために、必ず何らかの対価を支払わなきゃならなくなる」

 

スピーカー≪よしんば その交渉が上手くいった としても、解放されるのは命に関わる重病人、他病院への搬送だって体力的に耐えられるかどうか わからないわ。移動中にポックリいかれたら、交渉によって支払った代価そのものが無意味になる≫

 

フェイト「患者の安全のためにも、犯人の思い通りにならないためにも、この事件で交渉の選択肢はない……! シャーリー、悪いけどネゴシエーターチームは解散させて。対策本部は これより、突入作戦一本に方針を絞ります!」

 

シャリオ「は、はい……ッ!」

 

 シャリオは慌てて、テントの外へ駆け出した。

 

 

   *

 

 

ティアナ「さすが……、と言うべきかしらね」

 

 ティアナは、病院内のマリエル技官私室に潜みながら、自身の手のひらが粟立つ感覚を、今だ抑えられずにいた。

 これが第一線の緊張感というヤツか。

 自身の下す決断の一つ一つが、被害者の安否に直結する。自分の口から出る言葉が、人の命を左右する。迷えばその分だけ事態は悪化し、救える命も救えなくなる。

 そんな重い決断を、フェイトは日頃から下し続けている。

 機動六課時代から、雲の上の存在として畏怖し続けてきた人物の一人、フェイト=T=ハラオウン。

 

ティアナ「やっぱ、ただ者じゃなかったわね」

 

 彼女が身を置き続ける世界に触れてティアナは、自身の心臓が静かに、深く鼓動を打つ音を聞いた。

 もし自分が執務官になっていたら。

 こんな緊張感を毎日のように味わうことができたのだろうか?

 ………詮ない妄想だった。

 

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   *

 

 

シャリオ「(……あの、フェイトさん……)」

 

 突入作戦の準備が急ピッチで進む中、フェイトの耳元に寄り、小声でささやく。

 

フェイト「どうしたのシャーリー?」

 

シャリオ「(あの、今さらなんですけど、あの相手、信用できるんでしょうか?)」

 

フェイト「あの相手って……」

 

 フェイトの視線が、今は静かなスピーカーを向いた。

 

シャリオ「(あの自称協力者、あやしくありませんか? テロリストの目が光ってる病院内で自由に動けるのも謎だし、通信班の話では絶対に名前を明かそうとしないって…。もしかしたら突入を急がせるのも……)」

 

フェイト「罠かもって?」

 

 ズバリそのものを言われ、シャリオはたじろぐ。

 

フェイト「私は、大丈夫だと思う」

 

シャリオ「また自信たっぷりですねフェイトさん……。どうして そう思えるんです?」

 

フェイト「だって状況的に時間の余裕がないことは事実だし、協力者さんは指摘しても、しなくても、それは同じでしょう? それに突入作戦は、他に手がない中でとられた窮余の一策だけど、だからって私たちが追い詰められてるわけじゃない。……協力者さんが教えてくれる犯人と人質の位置は、驚くぐらい正確。おかげで作戦の成功率は、8割を超えるよ?」

 

シャリオ「だから、その情報自体が罠ということも……ッ!」

 

 

 

スピーカー≪ヒトを疑うのは、大事なことよ≫

 

 

 

 突如として沈黙を破るスピーカー。

 その急所を突き刺すような鋭い声に、シャリオは、ウワサしていた幽霊が目の前に現れたかのように慌てふためく。

 

シャリオ「あわ、あわわわわわわ……!」

 

スピーカー≪特に、仕事に『駆け引き』って項目のある職種にはね。……もっとも内緒話はヒトの聞こえないところでするべきだけど≫

 

 フェイトは微笑を絶やさず、通信機の向こうの人物に答える。

 

フェイト「気を悪くさせてしまったら すいません。…ですが、重ねて言いますが私はアナタのことを信じています。アナタからの情報は、突入作戦の重要なファクターを占めています。アナタのことを信じていなければ、作戦実行は無理ですから」

 

スピーカー≪その覚悟は お見事と言うべきですが、リアクションで言うなら、さっきの補佐官の人の方が正常だと思いますよ。 フツーなら こんな正体不明の声だけの相手、簡単に信じる方が おかしいでしょう?≫

 

 シャリオが「あうう」と頭を抱える。

 そしてフェイトの方は依然 落ち着きを崩さずに、

 

フェイト「いいえ、私には、アナタを信頼すべきだと思う理由が二つあります」

 

スピーカー≪へえ…≫

 

フェイト「まず一つは、…私も何度か黄昏教団のテロ事件を扱ってきましたが、敵が、そこまで手の込んだ罠をかけてきたことは一度もありませんでした。だから これも罠である可能性は極めて低いと思います」

 

 戦歴豊かなベテランらしい言葉だった。

 

フェイト「そして 二つ目は、………アナタが、管理局の人だから」

 

スピーカー≪………ッ!?≫

 

フェイト「もしくは、元・管理局員」

 

スピーカー≪…なぜ、そう思うんです?≫

 

 機械越しにも、声に宿る戸惑いの感情はありありと見て取れる。

 

フェイト「『しばらく見ないうちに管理局も質が落ちた』、さっきアナタはそう言いました。それは、質が落ちる前の管理局を知っていなければ出てこないセリフですから」

 

 スピーカーからは沈黙しか返ってこない。

 

フェイト「それにアナタの思考法とか、問題への対処の仕方とか、端々に管理局流が見れます。………だからでしょうか、アナタとの会話に親近感を感じるのは?」

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スピーカー≪知りませんよ、そんなこと≫

 

フェイト「シラを切ってもダメです、私たち時空管理局員は仲間意識が強いですから、たとえ離れていた仲間であっても信頼します。それがアナタを信頼する理由です」

 

スピーカー≪……けっこう恥ずかしいことを臆面なく言いますね≫

 

フェイト「大切なことは言葉にして伝えなさい。私は、親友と母と子供たちから そう教わりました」

 

 

   *

 

 

 一瞬茶化そうとしたが、そのための言葉を見つけられないティアナだった。彼女にとって、人の善性を 素直にさらけだせる人間は、なんというか、眩しい。

 苦しくなってタバコを吸った。

 苦しくなって、タバコを吸った。

 

 

   *

 

 

フェイト「それでですね……、アナタが元・管理局員であることを見込んで、お願いしたいことがあるんですが……」

 

スピーカー≪なんですか? …ってか、変な決め付けしないでください!≫

 

 気分がささくれ立っていることを隠し切れない。

 

フェイト「いえっ、あのですね……、これから決行される突入作戦なんですが、その手伝いをして欲しいんです」

 

スピーカー≪手伝い?≫

 

フェイト「アナタからの情報のおかげで、テロリストの位置が正確に把握できて、そのおかげで作成の成功率は随分上がったんですが……、それでもまだ完全じゃありません。人質の安全を考えれば、突入作戦には万に一つの失敗も許されないから……」

 

シャリオ「その万に一つを埋めるための処置が、あの協力者だと?」

 

 やっとこさで会話に加わることのできたシャーリーさん。

 

フェイト「うん、実はね、この協力者さん とっても強い魔導師だと思うんだ。……元管理局員の経歴、病院内部をスキャニングした魔力制御の精密さ、事件の特徴を見抜いた現役執務官並みの観察眼。それらが、この人を有能な魔導師だと教えている」

 

シャリオ「でも、それだけで協力を求めるのは危険なんじゃ? だってそれだけの考察じゃ、彼女が どんなタイプの魔導師かまでは わかりませんよ? 支援タイプの魔導師だったらどうするんです?」

 

スピーカー≪いや、だから そーいうことを本人の聞こえるところで言うなと……≫

 

フェイト「ううん大丈夫、この人はバックアップじゃなくて、フォワードタイプだと思う」

 

スピーカー≪聞いてるアンタたち? ヒトの話 聞いてる?≫

 

フェイト「魔導師としてのタイプって、性格にも影響出るもんじゃない? フォワードだと行動的な性格になるし、バックアップだと慎重派って感じで。………このヒトは事件の状況を見て、他に手段がないって知ると、すぐさま突入攻撃の選択を取った、それってバックアップの人には出せない判断だと思うの」

 

シャリオ「だから、協力者はフォワードタイプの魔導師だって……?」

 

 さすがフェイト、第一線で活躍する執務官というわけか。欠片みたいな情報を掻き集めて真実を よく見抜く。

 ティアナは、色々観念したように投げ遣りに、言う。

 

スピーカー≪……あー、まあよく見てますね、って言いたいところですが。残念ながら協力はできません≫

 

シャリオ「なんでよッ、ここまで情報提供しておいて、いざ実行となると協力を拒否するのッ?」

 

スピーカー≪もう完全に私が戦闘可能な魔導師として話を進めていることに思うところはありますが、とにかく無理なもんは無理です、理由はちゃんとあります≫

 

フェイト「理由?」

 

 神妙な口調で言う協力者に、フェイトとシャリオは耳を傾ける。

 

スピーカー≪今、デバイスもってないんです、私≫

 

フェイト&シャリオ「「は?」」

 

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   *

 

 

 皆さんは覚えているだろうか?

 機動六課を出奔したティアナが、それ以降 使用していたデバイスは、非人格型アームドデバイス・フェントムレイザー。拳銃でありながら拳銃にあるまじき巨躯をもったモンスターデバイスである。

 ティアナがミッドチルダ入国時、入国管理局から審査を受けた際、その亡霊の刃は「あまりにも物騒すぎる」という理由で没収されてしまっていた。

 多分今は入国管理室の保管庫の中である。

 そんなわけでティアナの手の中には、武器と呼べるものが何もない。

 

ティアナ「こんなことになるなら審査官に色目使ってでも守り通しとくべきだった……」

 

 後悔先に立たず。

 無論、ティアナとて実動フェイズで人任せにして後ろで見物しているなど性分ではない。しかしそのために必要なデバイスがなければしょうがないではないか。もっとも旅の途上で百の修羅場を潜り抜けてきた大人ティアナである、たとえ丸腰であったとしても、テロリストの一人や二人叩きのめす自信はある。

 が、十人二十人ともなれば さすがに無理だ。

 彼女とて、人質の中にいるアレクタやシャマルのことが心配でないわけがない。だからこそ中途半端に作戦に介入して、かえって知人たちを危険にさらしたくはないのだった。

 

ティアナ「と、いうわけですから、作戦実行は是非とも そちらの手駒だけで お願いしたく………」

 

 そのときだった。

 

 

 

 

 Buw!! Buw!! Buw!! Buw!! Buw!!

 

 

 

 

ティアナ「なにッ?」

 

 突如として、ティアナの潜む電子化室に鳴り響くアラーム音。

 その異常は、通信機を通じてフェイトらにも届いたらしく。「どうしたのッ?」という切迫した声がインカムから聞こえてくる。

 

ティアナ「わかりません…! とにかく一度通信を切ります、一分以内に戻らなければ、通信途絶と思ってください」

 

 そう言って通信機器から離れるティアナ。意識を、周囲の異変へ向ける。

 

 

 Buw!! Buw!! Buw!! Buw!! 

 

 

 アラーム音は、部屋の奥から聞こえていた。

 どうやらテロリストたちが こちらを発見した、という事態ではないようだが、だったら一体なんだろうか?

 ティアナは、改めて部屋の内装を見渡してみる。

 彼女には存在理由からして理解できないような、精密機器の展覧会。それらの一つが、何かの誤作動を起こしたのだとしたら? どうしよう。

 精密機器の知識など一切ないティアナに解決策はない。

 

ティアナ「…最悪、テロ連中に見つかる前に この部屋を捨てるしかないわね」

 

 それでも、このアラーム音の正体を確かめるために、部屋の奥へ進む。

 そして行き着いた奥で、彼女は発見した。

 

ティアナ「これって……」

 

 ティアナは息を呑んだ。

 恐らく この部屋の主であるマリエルが用意したのだろう。

 調整用の魔法デバイス台座の上に、一枚のカードがセットしてあった。

 タロット大の金属性カード。

 その表面には、二本の線を十字に交えたクロスの飾りが施されてあり、そのクロスが、センサーのようにしてティアナのことを見据えていた。

 そして、ティアナがやってきたことを確認すると、アラーム音が鳴り止む。

 

ティアナ「…アンタが、私を、呼んだの?」

 

 枯れる声で尋ねる。

 何故コイツがここに、ティアナの脳中は疑問で溢れかえりそうになった。

 彼女は この金属製カードを知っていた。見覚えがあった。彼女が半人前の頃、力を求めて もがき、足掻いていた頃、常にともにあった存在。

 魔導師にとって相棒ともいえる魔法デバイス。

 

 

 

 Long time no see. My master.

(お久しぶりです、我がマスター)

 

 

 銃型インテリジェンスデバイス・クロスミラージュ。

 機動六課時代のティアナが愛用していた、かつての唯一無二の相棒。

 彼を駆っていた若き少女は、今、くすみ成熟した大人となって再び 相棒に出会った。

 

          to be continued

説明
リリカルなのは のifモノ。ティアナを主人公に、strikersのラストから5年後のストーリー。ティアナが執務官の道に進まなかったとしたら? 放映当初の、他人を寄せ付けない彼女のまま成長したら? という仮定の下に妄想される話です。

 今回フェイトのキャラを掴むのに意外に苦労しました。
 フェイトって頭よさそうに見えて実は頭悪い? そういうキャラって知恵を働かせていいのか困ります。
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リリカルなのは if ティアナ フェイト エリオ キャロ 

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