真・恋姫無双 EP.2 猫耳編(2)
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 桂花は必死だった。これは最後の機会なのだ。奴隷として売られた時は諦めていたが、袁紹の屋敷と聞いて微かな希望が生まれた。

 貴族にはロクなのがいなかったが、その中でも袁紹は名家であり、桂花の中の評価ではマシな部類に入る。ずっと居るつもりはなかったが、何かの足掛かりになればよい。そのためには、まず奴隷という身分から抜け出さなければならなかった。

 

「お願い! 袁紹様に会わせて!」

「うるさいぞ!」

「何よ! あんたなんかに用はないの! さっさと袁紹様を呼んできなさいよ!」

「何だと?」

 

 カッとなった兵士が、持っていた槍で檻を叩いた。

 

「ちょっと! 危ないじゃない!」

「うるさい! 奴隷のくせに!」

 

 怒鳴りつけた兵士は威嚇するように、檻に近付いて殴る真似をする。思わず身をかばった桂花を見て、兵士は鼻で笑うと持ち場に戻ろうと背中を向けた。その隙を狙って、手を伸ばした桂花は兵士の服を掴むと、力の限り引っ張ったのだ。

 突然、後ろに引かれてよろめきながら、後頭部を檻に思いっきりぶつけた兵士は、その場にうずくまった。

 

「ふん!」

 

 勝ち誇る桂花を兵士は睨み付けると、猫耳を掴んで殴りつけた。

 

「この女!」

「やっ! やめなさいよ!」

 

 すっかり頭に血が昇った兵士は、手加減もなく桂花を何度も殴る。だが振り上げた手を、突然、何者かに掴まれ驚きの表情で振り向くと、二人の女性が居た。

 自分の手を掴む黒髪の女性と、金色の髪をロール状にした女性だ。

 

「あ、え、袁紹様!」

 

 慌てる兵士の腕を、黒髪の女性がねじ上げる。

 

「っ!」

 

 逃げるように身をよじりながら兵士がその場に座り込むと、ようやく腕を解放してくれた。

 

「この奴隷は、あなたのものなのかしら?」

 

 金色の髪の女性――袁紹が兵士に問う。

 

「えっ? いや……」

「どうなんですの?」

「えっと、ち、違います」

「では、誰のものかしら?」

「袁紹様です」

「そう。あなたは、私のものを好き勝手に殴ったというわけね」

 

 不機嫌そうにスッと目を細めた袁紹に、釈明をしようと兵士が口を開き掛けるが、そばにいた黒髪の女性が有無をいわせず殴り飛ばした。

 

「あなたはクビです。ごくろうさまでした」

 

 にこやかに女性が言うと、奥から別の兵士たちが現れて、かつての同僚を抱えるようにして連れ去った。

 

「まったく、あんな野蛮な者はわたくしの部下にはいりませんわ」

「最近は兵の質も落ちてるんですよ」

「しっかりと躾をしないからですわ。それよりも斗詩さん、この子の手当をしてあげなさい」

「はい、姫」

 

 女性が檻を開けて、桂花を外に出す。

 

「大丈夫? ごめんね」

「……あ、あの!」

「どうしたの?」

「袁紹様! 私を使ってもらえませんか!」

 

 頭を下げる桂花に、袁紹は少し困惑した。

 

「まあ、何ですの?」

「私を軍師として使ってください。必ず、お役に立ちます!」

 

 そのあまりの剣幕に、袁紹はどうしたものかと視線を彷徨わせた。

 

「ちょ、ちょっと斗詩さん!」

「袁紹様!」

 

 桂花の勢いは止まらない。

 

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 後に文醜は思う。あれほど思い出すのも嫌になるような、おぞましい戦いがあっただろうか。間違いなく、最悪の一戦だった。

 

「ひっ!」

 

 うっふぅぅぅぅぅん!

 

「ぎゃ!」

 

 むっふぅぅぅぅぅん!

 

「うにゃっ!」

 

 一刀が両手に持った剣を振るう度に、嫌な声と文醜の悲鳴が響いた。

 

「くっそー。この両刀使いめ!」

「誤解を招くような事を言うな!」

「もう! 何でもいいから、とにかくこっちに来るなよ!」

 

 戦士としてではなく、乙女としての勘が言うのだ。あの剣に斬られてはならない、と。文醜はひたすら、逃げ回るしかなかった。自分の剣で受けるのも、出来れば避けたい気持ちだったのだ。

 

「負けを認めろ。そしたら止めるぞ」

「ぐぬぬぬ」

 

 一刀の言葉に、文醜は歯ぎしりをする。悔しいが、この戦いに勝ち目はなさそうだった。

 

「……わかった。あたいの負けだ」

 

 どかっとその場に座り込み、深い溜息とともに文醜は負けを認めた。

 

「それじゃ、袁紹様に取り次いでくれよ」

 

 そう一刀が言った時だった。何やら騒がしい声が、こちらに近付いて来る。

 

「お願いします!」

「しつこいですわ!」

「袁紹様!」

「あっちへ行きなさい!」

「一度、私を使ってみてください! そうすれば役に立つことがわかります!」

 

 見ると、3人の女性が何やら言い合っているようだった。というよりも、先程の猫耳娘が金髪ロールの女性に一方的に話しかけている。

 

「どうしたんだ、斗詩?」

 

 文醜が声を掛けると、女性たちがこちらに気付いた。

 

「文醜さん、何をしていますの」

「いや、あのー」

 

 困った様子で一刀を見る文醜の態度で、どうやらこの金髪ロールの女性が袁紹らしいとわかった。すぐさま一刀は、袁紹の前まで言って土下座をする。

 

「袁紹様!」

「今度は何ですの!」

「奴隷たちを解放してあげてください!」

「はい?」

「とりあえず、今はこれくらいしかないですが、足りない分は何か仕事をして稼ぎます。だからあの――」

 

 言いながら一刀が顔を上げた時、不意に猫耳の少女が間に割り込んできた。

 

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 どうしてなのか、わからない。ただ、一生懸命に奴隷を助けようとする目の前の男を見た時、心が騒いだ。それはまるで、何かに嫉妬するような感情だった。

 

(この男は嫌いだ)

 

 そう思うのに、一方ではそばにいたいとも思う。いや、そばにいなければならない気がした。

 

(この男のそばにいれば、運命が開く気がする)

 

 勘だ。しかし、確かなものを感じる。賭けるに値する勘だった。だから自然と体が動いて、気が付いたら口から出ていた。

 

「袁紹様、私がこの男と共に行くことをお許しください」

 

 きょとんとする人々を置いて、桂花は続けた。

 

「私は袁紹様に買われた奴隷です。ですが、この男とともに行きたいと思います。袁紹様さえお許しくだされば、ですが……」

「えっ? いや、ちょっと」

 

 男が何か言いかけるが、キッと睨み付けると口をつぐんだ。

 

「お願いします」

「ま、まあ、わたくしは構わないというか、その方がいいというか」

「では、よろしいですね?」

「もちろんですわ!」

 

 厄介払いが出来たという表情で袁紹が承諾すると、桂花は頭を下げて歩き出す。

 

「何してんのよ、早く来なさい!」

「いや、待てって!」

 

 困惑したままの男が、桂花の後を追い掛けた。

 

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 何がどうなったのか。一刀は猫耳少女を追って、屋敷を出た。

 

「ちょっと待って! 俺、このまま帰れないよ!」

「いいから」

「だから、他の奴隷も――」

「どうするの?」

 

 猫耳少女が足を止め、一刀をじっと見る。

 

「奴隷を解放できたとして、その後は?」

「えっ?」

「解放された奴隷はどうするの? 彼らはもう、帰るところなんてないのよ。あんた、面倒みられるの?」

「それは……」

「結局路頭に迷って、別の貴族の奴隷になるか、盗賊にでもなるかしかないのよ。助けたいって気持ちは立派だけど、それだけじゃ誰も救えないわ」

 

 一刀は何も言い返せなかった。助けたい一心で乗り込んだが、何か考えがあったわけではない。助けた後のことも、何か仕事でもすればいいくらいの程度だった。

 

「袁紹は少なくとも、奴隷をちゃんと人として扱ってくれる。楽は出来ないでしょうが、まあ、他のところよりはマシなはずだから」

 

 落ち込んだ一刀を見て、猫耳少女がそう言った。

 

「もしかして、慰めてくれてる?」

「なっ! 違うわよ! バカ! 変態!」

「誰が変態だ! 猫耳!」

「何よ! 私には荀ケって名前があるんだから!」

「俺は北郷一刀だ!」

「じゃあ、バカ北郷!」

 

 街の人々が奇異の目を向ける中、二人の罵り合いは続いた。

 

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 1万の軍勢が、まるで蜘蛛の子を散らすように追い払われてしまう。始めからこうなることはわかっていたのだ。敵は自分が知る限り、最強の戦士である。

 

「それでも……私は負けられないのよ!」

 

 賈駆は唇を噛みしめた。視線の先には、戦意を喪失した部下たちと、それをじっと見ている一人の少女の姿があった。深紅の髪の少女、呂布。

 大空を舞い、兵士たちを威嚇する赤竜が呂布のそばに降り立った。呂布一人でも強敵なのに、赤竜まで相手にするとなると、とても1万では足らない。だが、これ以上の兵力はどこにもないのだ。

 

「月……私はどうすればいいの」

 

 悲痛な声は、けれど誰にも届かない。

説明
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。今回は急ぎ足で進み、大した展開もありません。なので最後にちょっとだけ、付け足しました。楽しんでもらえれば、幸いです。
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コメント
どんな修行すればたった一年で武将より強くなれるんだろう?(永遠の二等兵)
・・・・・・・・・・誰も、一刀と戦いたくないだろうなぁ・・・・・(汗(うたまる)
呪われてるよね…絶対。 皆○しの剣よりも性質が悪そう(汗(かなた)
・・・なぜだろう恋より一刀のほうが怖いw;(sink6)
タグ
真・恋姫無双 北郷一刀 桂花 

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