真・恋姫†無双 〜祭の日々〜29
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「…とまあ、こんなことがあったのだ」

 

そういって話を締める秋蘭に、俺はしばらく言葉を継ぐことができなかった。

何度も何度も口を動かそうとして失敗する。発するべき言葉を見つけられないからだ。

 

「桃香…が」

 

ようやく出たのは、そんな言葉ともいえないようなもので。

ただ俺は、ひどく感動していたのだった。

 

俺は桃香に会ってまだ日が浅いけれど、桃香のことをよく知っているとは口が裂けても言えないけれど――彼女のの悩みの一片くらいは知っているつもりだ。

桃香がどれだけ悩んで、どれだけ苦しんだか、ほんの少しだけは慮れているつもりだ。

だから、うれしい。

俺が何をしたわけじゃない。何をしてあげられたわけでもない。けれど、桃香が自分で考えて、自分で立ち上がれたことが、俺はどうしようもなくうれしかった。

 

「…わかっているのかな、お前は」

「へっ?」

 

気づくと、感動にうち震えている俺を、秋蘭がなにやらジト目で睨んでいた。

「どうしたの、秋蘭…?」

「…いや」

言いたくないとばかりに首を振って話を断ち切る秋蘭。

 

「体調はどうだ?悪くないか」

「ん、あ、ああ…大丈夫。ぴんぴんしてるよ。毒とか本当に信じられないくらいさ」

 

手を開いたり閉じたりしてみるけれど、全然違和感がない。

刺された腹はもちろんジクジクと痛んでいるけれど、毒がどうとかは正直実感が持てなかった。

「あまり動くな。そういう毒なのかもしれないだろう」

「うーん…」

 

襲ってきた男のことを思い出す。

刺されたりとか、毒だとか…あいつは一体何者なんだろう?俺は彼に、一体なにをしたんだろうか。

刺されるのも大概だけど、毒とかもう、恨みが半端じゃない感じがするよな…。

 

「さて、では私は皆にお前が目覚めたことを伝えてこよう」

「ん、わかった。頼むよ」

 

そういって秋蘭が立ち上がり、俺は座ったまま見送ろうとする…と。

不意に頭を引き寄せられ、唇になにかが触れた。すぐに気づく。触れているのは、秋蘭のそれだ。

 

「しゅう…らん…」

「お前は本当に、もう…」

「いでっ」

 

唇を軽く噛まれ、悲鳴を上げる。

それを意に介さないまま、秋蘭は振り向かずに部屋を出て行った。

 

 

「…わかっているのかな。桃香殿があんなに頑張ったのは、お前のためだろうに」

 

そんな声が、聞こえた気がした。

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秋蘭が出て行って、俺は手持無沙汰になってしまった。

なにせ病人だ。動いたら傷が痛むし、そもそも何をしても怒られそうな気がする。

かといって何もしないというのもつまらない…。

何か考えようとするのだけど、それもまとまらない。浮かんでも益体のないことばかりで、すぐ消えてしまうのだ。

「うーん…大事なこと…大事なことを考えよう」

大事なことならば考えも長持ちするはずだ。そう、せめて、秋蘭が帰ってくるまで持てばそれでいいのだから…。

「あ…」

と、不意に浮かんできたものがあった。

決して忘れない、忘れるはずがない、大事なひとたちのこと…。

 

「…あ、れ?」

 

頭が重くなる。視界が暗くなって…靄が、かかる、みたいに。

 

「…俺、今なに考えてたんだっけ…」

 

わからない。

頭が霞んで、思考が回らなかった。

なにかを考えていたのに…大事なことを、考えていたはずなのに。

 

ぞくり、と背筋が震えた。

何かはわからない。でも確かに俺は何かを恐れている。何かが嫌で仕方がない。何かは…わからないのだけど。

胸になにかがつかえているからか。

 

体調が悪いから?なら、少しでも寝たほうがいいかな…××が戻ってくるまで。

 

「んん…?」

 

また、違和感。

自分の考えたことに自信が持てないこの感じ。

 

「やばいなー…やっぱ寝よ。起きたらきっと…」

 

きっと治っているだろうから。

この違和感も、胸につかえているなにかも、消えてくれるだろうから…。

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「なに、一刀が起きたと?」

 

外で待機していた面々が、秋蘭のその言葉に顔をほころばせた。

「ああ、体調は悪くないらしい。それもある意味不安ではあるがな…」

「意識が戻らないより、ずっといいわ」

「そうですねっ、もう会っても大丈夫なのですか?」

「ああ、大丈夫だと思う」

 

皆がぞろぞろと一刀の部屋を目指して歩いていく。と、秋蘭はひとりだけ身動きしない人間がいるのに気がついた。

 

「祭殿…?」

「ん」

 

呼びかけて、ようやく気づいたように面を上げる祭。

「なにか…?」

「ああ、いや。ちいとばかし、嫌な気がしただけじゃ」

「嫌な気?」

肩をすくめて見せる。

「気持ちの整理…ついたと思っておったんじゃがなあ。我ながら情けない。まだしこっておるのかな」

守れなかったこと。みすみす傷つけられたこと。

「…あまり、気に病まれないほうが。土から出てくるなどと、そんな妖しげな術を使われては…」

「ああ、わかっておる。行こうか。一刀にも、気を抜くなと説教してやらんとな」

 

ふたり、連れだって歩きだす。

祭はそれでもまだ…心にひっかかっている不安を取り除けずにいた。

 

説明
…えー、お久しぶりです。生きてます、Rocketです。
一か月近く投稿拒否ですみませんでした。
一度書いてから、「あれ?なんか違う」と思ってデータを自ら消したのが運の尽き。そこからさっぱり思いつかずに時間が経ってしまったのです。なんかイマイチ祭さんが出ませんが、まあラストに向けての前フリってことで…。
楽しんでもらえたら幸いです、ではでは!
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コメント
更新まだかなぁ?(2015年)(pmanman)
更新まだですか?(夜叉若)
更新まだかなぁ。(迷い猫@翔)
続きが気になる! 復活待ってます。(きの)
まぁ病気云々は医者王さえいれば色々あるだろうけど最後には解決してくれるはず!(corn)
次々とフラグをうち立てている一刀君ですが、あのガチホモ組が仕掛けた『毒』は随分と陰湿なもののようですね…もし効果が文中通りのモノだとしたら、この『外史』のファクターであろう一刀君はどうなるんだろう?曹魏だけではなく、ようやく呉や蜀にまで伸びた一刀君のフラグなのに…雪蓮さん並みに勘が鋭い祭さんの悪い予感…的中しなければ良いのですが…(レイン)
秋蘭にちょっと唇噛まれたい、とかおもってしまいました。 毒で記憶ってことになると、管理者からの記憶にたいするPCウィルスみたいなものでしょうかね?(よーぜふ)
記憶を消す毒?(2828)
更新待ってましたっ!!!!!!お疲れ様です。一刀の記憶に障害でも起きたのでしょうかねぇ、と思ったり、周囲の気苦労を絶やさない彼ですねww(gmail)
お久し振りです、待ってましたよ〜♪ 一刀の身に何が起きているのか、祭の予感は当たるのか、今後が非常に楽しみですね〜♪(峠崎丈二)
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