「こんにちは。お元気ですか？」

　その言葉が流れた時、私は涙を流した。　色々な言語で繰り返される、挨拶の言葉。55回繰り返される挨拶の言葉。

　始まりは、地球の温暖化。たったの一度、平均気温がそれまでより上がった。たったの一度と人は言うかもしれない。

　だが、零度が一度になれば氷は溶ける。たったの一度には、そんな致命的な変化を引き起こす最後の一線が含まれていた。

　最後の一線を越えて、冷たく暗い海の底で眠っていたメタンハイドレートが目を覚まし、メタンが解放される。

　二酸化炭素の21倍にも及ぶ温室効果は、更なる気温の上昇を招き、更なるメタンを解放する。

　後はその繰り返し。フィードバックループが形成されて、地球は第二の金星と化した。

　そうして、私達は滅んだ。私ひとりを残して。ボイジャーという名の人類の遺産を拾った異星人の船の中、私は一人涙を流す。

　50億の人類が孤独のあまり、見知らぬ隣人へと向けて打ち上げた挨拶の言葉を聴きながら、青かった惑星への追憶に涙を流す。