くまずきんくんにきをつけてっ☆3かん☆
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くまずきんくんにきをつけてっ☆3かん☆

 

 

■さいかい

さいごなの? さきにすすむ

いらないの? いまをかえる

かなしいの? かけぬける

いかなきゃ… いくぜっ!!

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「ああもうっ!なんですのっ!!さっきから草や葉っぱが邪魔で邪魔でしょうがありませんわっ!!せっかく作ったお洋服が台無しですわ!!」

 

 

不慣れな森の中を歩きながら、レミーはイラついていた。

 

その前を案内するように先ほどレミーの肩に止まっていた小鳥が羽ばたいている。

 

 

「ふふ…でも…もうすぐ…もうすぐですわ…『生命の水』…!!」

 

 

レミーは小鳥の向こう側を見据えながら、手元の小枝をパキリとへし折った。

 

 

―――――――――

 

 

 

「…そんな…まさか、ロゼがあの『生命の水』とは…」

 

 

「ああ…」

 

 

ベルジェに事のいきさつを話したグレンが椅子の背もたれに背中をどっかりと預けると、腕を組んで難しそうな顔をする。

 

 

ベルジェは正直苦手なタイプだが(どうも俺に対して殺意が…)、コイツの魔法と剣の力は、誰よりも貴重な戦力になる。しかもロゼに関わる事だからなおさら必死になるはず…。

 

そう思ったグレンはベルジェに協力を求めるため、やってきたのだ。

 

 

「もちろん人熊のヤツらにロゼを渡すワケにはいかない。…だが、下手にウォルフシュミットに情報を持ち帰り、欲深いヤツらが『生命の水』の存在を知ることになれば、それこそ国中に混乱を招く。」

 

 

「…我先にロゼを奪いに来るでしょうね…」

 

グレンの隣に座っていたロゼがそれを聞いて身震いした。

 

 

ベルジェが優しく微笑む。

 

「大丈夫ですよ、ロゼ。あなたは私が必ず守りますから…!」

 

 

「フ…ッ。そんな大口叩いて…ここで平和ボケしてて腕なまってんじゃねえのか?」

 

 

「…ならば、今ここで試してみますか…?」

 

 

グレンに向かってニッコリと微笑む。が、ロゼに向かってのそれとはまるで正反対の微笑み…

 

グレンは挑発的なベルジェの顔を一瞬睨んだが、すぐに視線を元に戻し、余裕の笑みを浮かべた。

 

 

「フン…いつでも相手になるぜ。…と言いたいところだが、今はそんな事をしている時間もない。ヤツらも焦っているはず…すぐにまたここへ来るだろう」

 

 

「…そうですね…。ロゼは我々で何としても守らなければ…!!」

 

ベルジェが真剣な表情で決意を固める。

 

 

「……」

 

初めて見るベルジェの表情に、ロゼは彼を改めて頼もしく思う。

 

 

…が、

 

守られるだけではだめだ。

 

 

『自分の身は自分で守れ』

 

 

ウチの掟その3だ。

 

オレだって、それなりの力は付けてきたハズ…。幼い頃からパパにその術(すべ)は教わってきた。

 

 

…すべてはこのためだったのか…?

 

パパは、オレが『生命の水』だと知っていて…?

 

 

 

『運命』

 

 

 

…これがオレの運命なら、堂々と勝負してやろうじゃん…!

 

狼も、熊も、そしてオレたち人間も…争わずにすむ方法が必ずあるはず…!!

 

オレがそのカギになるなら…!!

 

 

 

ガタンッ!!

 

 

 

「…グレン…!!ば…ベルジェ…っ!!!」

 

 

 

急に真剣な顔で椅子から立ち上がったロゼに、二人は驚いた表情を見せる。

 

 

 

「オレは…っ!!」

 

 

 

 

…ぐう〜〜きゅるる〜…

 

 

 

 

 

「…っ!!…は…腹減った…っ!!!!!!」

 

 

 

…ちょ…な、なんでこんなときに限って腹がなるんだ…っ!!(汗)

せっかく主人公らしいカッコイイセリフを言いたかったのに…っ!!

 

 

ロゼは顔を真っ赤にしながら言葉を言いかえた。

 

 

「…あー…は、腹が減ってはなんとやら…だろ?あはははー…」

 

 

 

あー…完全にKYだ…

 

 

 

「…ふふふっ…そうですね。ご飯にしましょうか」

 

ベルジェは笑いながらキッチンへと向かった。

 

 

 

「あうう…」

 

 

…カッコつかない…

 

 

 

 

その様子に横のグレンが笑いを堪えながら呟く。

 

 

「…『オレも戦う!!』…とか言うつもりだったんだろ?」

 

 

代わりに言われて余計に恥ずかしくなる。

 

 

「…そ、そうだよ…っ!!オレだって強いんだからな…っ!!」

 

 

ロゼは悔しくて、赤い顔のままぷいっとそっぽを向いた。

 

 

 

「……お前みたいなヤツなら…何か変わるかもしんねえな…」

 

 

「…え?」

 

 

何気なく呟いたグレンの言葉に思わず顔をまたグレンに向き直した。

 

目が合い、グレンは少し焦ったように目を逸らす。

 

 

「…いや…なんとなく…な…」

 

 

「…変えるよ…変えてみせる…!この世界全部…!!」

 

 

ルビー色の瞳に炎が灯る。真っ直ぐ前に向かれたその瞳に吸い込まれるように惹かれてしまう。

 

「フ…、期待はしないが…賭けてみたい気はするな…」

 

 

「な…っなんだよそれっ!!」

 

 

「…あー。俺も腹減ってきたな…」

 

そう言ってニヤッとロゼを見遣ると、急に慌てておとなしくなった。

 

 

「…こ、ここじゃムリだかんな…」

 

 

 

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なんだか気まずくなって、ロゼは家の外に出た。

 

 

「…ずるい…」

 

目を伏せ、赤い顔のまま呟く。

 

 

少し風にあたって頬の熱を冷まそうと家の裏側へ回ると、ベルジェが食事の準備をしていた。

 

 

「…っ!!」

 

しまった!見つかる!…と思い、引き返そうとしたが、

 

 

「ああ…ロゼ、どうしたんですか?」

 

 

……遅かった…

 

 

「え!?いや…あの…」

 

 

突然の事に言葉が出てこない。

 

 

ベルジェは作業の手をとめ、顔をロゼには向けず、独り言のように話し掛けた。

 

 

「…ねえ、ロゼ…」

 

 

「えっ!?な…なにっ!?」

 

 

真っ赤な顔がバレたかと思い、あたふたしてしまう。

しかし、ベルジェはそんな事は気にもとめていないようで、真剣な顔と低い声で問うてきた。

 

 

 

「……王子に『生命の水』…差し上げたのですか…?」

 

 

 

ドキッ!!!!!!

 

 

な、なんでそれを…っ!?

 

あの時の、脳裏に焼き付いて離れないグレンの言葉を思い出す。

 

 

『俺専属の『生命の水』だ』

 

 

「いや…あの…」

 

 

あー!!オレのバカっ!!

これじゃ認めてるみたいじゃないか…っ!!

 

 

 

「ふふ…私も人狼族。鼻は利くんですよ?…グレン王子にすっかり先を越されてしまいましたね…」

 

 

「え…」

 

 

「『生命の水』…ヒトの遺伝子を欲する種族ならば、誰でも本能的に惹かれてしまう…。もちろん私だって例外ではない…」

ロゼはドキリとする。

 

…まさか…

 

 

「…私にも…少し分けて頂けませんか?ロゼ…」

 

 

ベルジェがゆっくりと近づいてくる。

 

狼の耳…牙…そうだ…

ば…ベルジェも…

 

『人狼』

 

なんだよな…

 

アメジストの瞳が近づいてくる…何故か足がすくんでしまって動けない。

 

心臓の音だけがどんどん速くなっていく。

 

 

「…っ!!」

 

 

ロゼは覚悟を決めてギュッと目を閉じた。

 

 

しかし…

 

 

「…っ!?」

 

 

ロゼの予想に反する感触に、はっと目を開く。

 

 

 

…頬に触れるだけのキス…

 

 

 

「…え…ぁ…?」

 

 

ベルジェはクスッと笑うと、いつもの優しい顔でロゼを見る。

 

「ふ…っ。気をつけて下さい。これからは、これだけじゃ済まされない事態もありえますからね。」

 

 

 

「ば…ベル…ジェ…」

 

 

ロゼは頬に掌をあてたまま、ぽかーん…。

放心状態だ。

 

そんなロゼを知ってか知らずか、ベルジェは何事もなかったかのように家の中に入っていった。

 

 

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「…熊のヤツらにこの3人でどう立ち向かうか…作戦を練らなくてはな…。」

グレンは腕を組み、考え込む。

 

 

テーブルの上に並べられた温かいスープから静かに湯気が上がっていた。

 

 

「……」

 

 

「どうした?ロゼ?やけにおとなしいが…。何かヘンなモンでも拾って食ったのか?」

 

 

「……」

 

 

…?

いつもならすぐに何かしら反論してくるハズのロゼが何も言わない。

 

…何かあったのだろうか?

 

 

 

「…なんだか…嫌な予感がするんだ…。気のせいかもしれないけど…。ざわざわする…。」

 

 

さっきベルジェにあんな事を言われたせいなのか…ロゼにはわからなかった。

 

ただ…心が落ち着かない…。

 

 

「まさか…熊のヤツらが嗅ぎ付けてきやがったか…?」

 

グレンは家の外に出ると、自分の周りの気配に神経を集中させ、研ぎ澄ませる。

 

辺りは既に薄暗く、森は夜の闇に包まれようとしていた。

 

 

…ヤツらがくれば、匂いや気配を感じることができる…集中しろ…

 

 

グレンは心の中で自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

 

…ガサッ…

 

 

 

人間の耳では聴こえないほど、小さく葉の擦れる音がした。

 

誰かいる…近づいてくる…

 

誰だ…?

 

何者かを特定しようとした、その時だった。

 

 

 

 

びゅんっ!!!!!!!!!!

 

 

 

「!!」

 

 

 

何かが足元に向かって飛んできた。

グレンは素早く後ろに飛びのき、避ける。

地面に刺さったものを確かめる。

 

 

…これは…

 

 

 

 

 

「やあ!!待たせたねっ!!」

 

 

木の上から声が降ってきた。

 

 

…この声は…

 

 

 

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「わっはっはー!!ヒーローは遅れてくるものなんだぜっ!!!!!…ですっ!!」

 

 

 

「…降りて来い…クソガキ…」

 

グレンが呆れた声で言った。

 

 

「…あ、あれ…っ?…その声は…狼ヤロー…??」

 

 

「…てめえは、敵も味方も分からず攻撃すんのかっっ!!!!!!」

 

 

「あれ…?熊かと思ったのに…てゆっか、狼も敵なのです!!だから問題なっしんぐ!なのです!」

 

 

声の主は、ひょいと木から飛び降りると、こちらに向かって歩いてくる。

にぱっ☆と無邪気な笑顔を浮かべたピノを家から漏れる光が照らした。

 

 

「ジョニーたちがさっき『知らないヤツを見た』って言ってたから…急いでロゼ兄のとこへ飛んできたですが…。えーと…。」

ピノは辺りをキョロキョロと見渡した。

 

 

「熊はまだ来てねえよ!」

 

 

「ええっ!!!?そ…っそうなのですかっ!?!?せっかくロゼ兄のピンチに颯爽と現れるしちゅえーしょんだったのにぃーっ!!」

 

ピノは悔しそうに地団駄を踏んでいる。

が、そんなピノは気にも留めず、グレンは真剣な眼差しでピノに問う。

 

 

「…動物たちが言ってたのか?『知らないヤツを見た』と…」

 

「そうなのですよ!きっとまたロゼ兄を狙って…!」

 

 

「……近いな…」

 

確信したように呟く。

 

 

「ピノもロゼ兄をまもるために戦うですっ!!!!!!」

 

「…足手まといだ…ガキは帰って寝てろ。」

 

 

「うるさいです狼ヤローっ!!ガキガキゆーなですっ!!ロゼ兄のコトはピノがまもるって昔から決めてるのですっ!!狼ヤローがなんと言われてもピノはぜぇーったい帰らないですからっ!!!!」

 

 

高い声で一気にまくし立てられ、耳がキンキンする…。

 

…コイツには何を言ってもムダか…

つーか俺の体力のムダだ…

 

 

早々に諦めたグレンは、そっぽを向いて吐き捨てるように言う。

 

「フン…勝手にしろ。ただし、邪魔だけはすんなよ、クソガキ。」

 

「むっきぃぃーっ!!覚えてろです!!ばか狼ヤローっ!!」

 

ピノは怒りMAXでプンスカジタバタすると、後ろ姿のグレンにおもいっきり「イーッ!!」をしてやった。

 

 

 

「……っ!!!!!!」

 

 

 

突然、グレンの耳が何かを察したレーダーのように反応し、ピクリと動いた。

 

 

……来たか!?

 

 

 

「グレン…っ!!」

 

 

ベルジェも気配を感じ取ったのか、ロゼと共に外へ出てきた。

 

 

しばらくすると、人影を現すと同時に、女の声がした。

 

 

「…さすが、狼は鼻が利きますわね…。奇襲はかけられない…ってことかしら?」

 

 

「貴様は…」

 

 

「お久しぶりですわね。ちゃんとお会いしてお話するのは初めてかしら?…グレン王子…」

 

 

徐々にこちらに近づいてくるとともに、姿がはっきりしてきた。

 

 

白く長い巻き髪に、熊の耳…。

 

人熊族の王女であることは間違いない。

 

しかし、グレンが以前見た時のドレス姿ではないとはいえ、何か昔とは雰囲気が違うように思えた。

 

 

「デュカスタン王国・第一王女、レミー・フィズ・デュカスタンですわ。」

 

 

「…妹の敵討ちってところか?」

 

 

「妹…?うふふっ…ああ…アルマの事ね。やはり女の子に見えまして?」

 

 

「えっ?違うのか…っ?」

 

ロゼが思わず口を開く。

 

 

「あら、アナタが『生命の水』の坊やね?…うふっ…そうよ。アルマはれっきとした男の子。あたくしの可愛い弟ですわよ。ふふっ」

 

「ええーっ!?…うっそぉーっ!?まじでっ!?女の子かと思ってた…」

 

「うふっ♪あたくしの作ったお洋服、可愛いでしょう??」

 

「へえ〜。おねーさんも服作るの好きなんだあ〜!!ウチのママも好きなんだぜ!…オレもよく女の子の服着せられるんだよなあ〜…」

 

「…っ!?なっ、なんですって!?あなたも『男の娘』!?『生命の水』が『男の娘』ですって…!?!?」

 

 

「ふえ?『おとこのむすめ』?なんだそれ?」

 

 

 

「……オイ…何、意気投合して盛り上がってんだよ、てめーら…」

 

痺れを切らしたグレンがツッコミを入れる。

 

 

「で、どんなお洋服なのかしら?見てみたいですわあ〜!!写真はありませんの!?」

 

「…あると思うけど…見せたくないよ…」

 

 

 

…ブチッ…(何かがキレる音)

 

 

「人の話を聞けぇぇっ!!!!!!!!!!!!」

 

 

完全に無視されているグレンが大声で怒鳴ると、さすがに二人はグレンの方向へ顔を向けた。

 

 

 

 

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「…で、貴様の目的は『生命の水』…なんだろ?」

 

 

「ふふっ…話が早くて助かりますわ。じゃあ頂いていこうかしら?」

 

 

「…って言われて簡単に渡すワケねえだろ?」

 

 

「ふっ…そうね…」

 

 

そしてレミーはロゼに向かって目線を合わせるように屈み込む。

 

「ロゼくん、アナタもせっかくVIP待遇でお迎えしてさしあげますのに…。今ならわたくし手作りのお洋服も着させて差し上げますわよ?」

 

「…い、いらないよそんなの…」

 

 

「まあ…それは残念ですわ…きっと似合うと思いますのに…」

 

レミーは本気で残念そうな顔をする。

 

 

「とにかく『生命の水』は貴様らなんぞに渡さねえ。…コイツは俺様のモンだ。」

 

そう言うと、グレンは片手でぐいっとロゼを自分に引き寄せた。

 

「わ…っ!!」

 

グレンの胸にすっぽり収まり、ロゼは突然の事に小さく声を上げた。

 

背後の二つの視線が痛いが気にしないでおく。

 

 

 

「まあ お二人はラブラブですのね☆『生命の水』…既に戴いてしまわれただけありますわね…ふふっ 」

 

 

「…っ!!!」

 

ロゼの顔が火が付いたように真っ赤になる。

 

…な、なんで知って…!?

み、見られた…!?

 

 

顔からしゅんしゅん湯気を出しているロゼを知ってか知らずか、グレンはニヤリと笑んで自慢げに言う。

 

 

「ああ…それはもう、たっぷりとな…」

 

 

…なっ!!なんでまたそんなコト言うんだよ!?グレンのバカッ!!

 

 

「きゃあ ほんとにやっちゃってしまわれたのねっ 萌・え・る・わ〜っ (≧∀≦)夏の新刊ネタ頂きですわねっ 」

 

 

 

『モエル』ってなんだ?

『ナツノシンカンネタ』ってなんだ?

 

…つーか、このひとはなんでこんな喜んでんだ?

 

ロゼの頭上に『?』がたくさん浮かぶ。

 

うーん…この世界はまだまだ知らないことだらけだ…。

 

 

 

「さあ、いいネタも頂いたコトですし…そろそろ『生命の水』も頂いて帰りましょうかしら?」

 

レミーの目つきが変わった。

同時にグレンも身構える。

 

 

「ロゼくんがイヤっておっしゃるなら…残念ですけど、力付くで奪うしかないようですわね…」

 

「フン…最初からそのつもりだったんだろ?さっさとかかってこいよ…返り討ちにしてやる。」

 

 

「…あたくし、高飛車な男は嫌いですの…。弱いクセにエラそうな事をおっしゃる殿方は特にね!!」

 

言い終わる前にレミーの手から腕にかけて、黒い焔が上がった。

 

「…な…っ!?あれは…!?」

 

ベルジェが驚く。

昔、書物で読んだ事があった。

 

 

「闇…魔法…!?…まさか、王女は魔族に…!!」

 

 

魔族にしか使えないと言われている闇魔法を習得しているということは…

魔族に取り付かれているのか…

 

 

…もしくは、自ら

 

『魔族に心も魂も売ってしまった』

 

のか…

 

 

「…なんという事を…」

 

 

 

「…後悔なんてしていませんわ…あたくしは誰にも負けない力が欲しいの…手段なんて選ぶ余裕も時間もありませんの…急がなくてはなりませんの…!!」

 

 

「…っ!させるか…っ!!」

 

 

「狼風情が…っ!!」

 

 

グレンが先手をとるべく、素早く背後へと回り込んだ。蹴り上げようと脚を伸ばすが、突如、レミーの腕から黒い焔が火の玉となって彼女の周りをバリアのようにぐるぐると回る。

 

「チッ…!!」

 

当たる直前で脚を止めたグレンが舌打ちする。

 

 

「…あれでは近づけない…っ!!」

 

ベルジェが言うと、自らも魔法を使うべく、手を翳した。

 

…闇魔法には敵わないかもしれないが…一瞬消す事ならできるかもしれない…!!その隙に…っ!!

 

 

ベルジェの手から光の玉が、レミーに向かって真っ直ぐに飛び出した。

 

 

――バチッ!!!!

 

 

(消えた!!)

 

瞬きもできないほど、ほんの一瞬だった。

 

 

グレンは見逃さなかった。

 

 

その隙にレミーの背中を蹴りつける。

 

 

「うぐっ…!!」

 

 

グレンは、よろけて屈み込んだレミーの隙を突き、前に素早く回り込むと拳を突き上げる。

 

 

「…な…っ!!」

 

 

声を上げたのはグレンだった。

 

腕が黒い焔に包まれる。

 

「ぐあ…っ!!」

 

 

「グレン…っ!!」

 

叫び、駆け寄ろうとするロゼをベルジェがくい止める。

 

 

「…あたくしが女だからって、ナメないで頂きたいわ…能無し狼が…焼き尽くして差し上げますわ…」

 

レミーの怒りに呼応するように黒い焔はさらに燃え上がる。

 

「うぐあっ…!く…そ…」

 

 

「王子…っ!!」

 

ベルジェが援護魔法を唱えようと呪文を詠唱する。しかし…

 

「…っ!!」

 

いつの間にか黒い霧のようなものが辺りに広がり、呪文はかき消されてしまった。

 

「…魔封じ…だと…!?」

 

 

ベルジェの額に汗が滲む。

 

闇魔法…ここまでとは…!!

 

 

――万事休す…

 

 

言葉が浮かんだ。

 

「く…っ!!」

 

 

「あきらめちゃダメ!!」

 

 

…はっ、と我に返り、声の主を見る。

 

 

 

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ぎゅんっ!!!!!!

 

 

ドッ…!!!!!!

 

「…っ!?」

 

 

瞬間、何かがものすごい勢いで飛んできて刺さる音。

 

「…な…」

 

グレンがその衝撃に、声を上げる。

 

 

「…な、何を…!?」

 

ベルジェが驚き、グレンの背中を見た。

 

「弓…矢…?」

 

 

「ピノ…っ!!!!」

 

ロゼが顔を向けた方向に、ピノが弓を構えて立っていた。

 

 

「情けないですっ!!狼ヤローっ!!」

 

 

「なん…だと?」

 

言い返そうとしたその時、キラキラと体中が光りはじめ、黒い焔が消えてゆく。

 

 

「…そうか!ピノ君の魔法は弓に自らの魔力を宿すから…魔封じが効かない…!!」

 

 

ピノは大きな木の枝から叫んだ。

 

「ロゼ兄はピノが守るですっ!!…で、でも…っピノはまだ見習いだから…弱いから…っ!だから、みんなで守るです…っ!!」

 

「ピノ…」

「ピノ君…」

 

 

「…チッ…ガキに借りを作ってしまったな…」

 

グレンが苦笑しながら立ち上がる。

 

 

「…ふうん…『みんなで』ねえ…。美しい友情ってヤツかしら?」

 

レミーはニヤリと笑むと、人間と人狼を見比べる。

 

「…じゃあお望みどおり、『みんな』まとめてあの世に送って差し上げますわ…っ!!」

 

レミーが魔法を繰り出そうと構える。

 

邪悪な黒い焔が再び現れた。

 

 

 

バン…ッ!!!!!!

 

 

 

「う…っ!!」

 

突如、レミーが右手を弾かれ、呻いた。主を失った黒い焔が一瞬のうちに消える。

 

 

 

「…あいにく、オレはどっかのゲームみたいに、誰かに守られて、自分は遠くで祈ってばっかのお姫様とは違うんだよ…」

 

ロゼの構えた銃から煙が上がっていた。

 

 

 

「ロ…ロゼ…!?」

 

ロゼの意外な姿にベルジェは驚きを隠せない。

 

無邪気な可愛らしい少年が大きな銃を片手に…

 

 

「仲間を傷つけるヤツは許さない…。」

 

 

「…仲間?狼が…あなた達を喰らう狼が仲間ですって?」

 

 

「狼でも熊でも関係ない。お互いが信じ合えるなら、仲間だ…っ!!」

 

 

「うふふ…っ…あはははっ!!何ですの?それ…!?漫画の読みすぎじゃなくて?坊や?」

 

 

 

 

 

「……そうとは言い切れないかもしれませんよ…ねえさま…」

 

レミーの背後から聞き覚えのある声がした。

 

 

 

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「…っ!?ア…アルマ…っ!?」

 

ゆっくりと歩いてくるアルマの姿にレミーは驚く。

 

「あなた…今まで一体何処に…!?」

 

 

「…すみません…ねえさま…国には…帰りたくなかったんです…」

 

 

「…な、何を言うの…?アルマ…」

 

 

「ねえさまは…今のねえさまは…ボクの知ってるねえさまじゃない…。昔みたいに、優しくて…毎日ボクに会いに来てくれて…」

 

「やめて…っ!!もうあたくしは違うのよ…!!あの時のあたくしはもういないの!!」

 

 

「…いない…?ねえさまはここにいる…消えてなんかない。消えたのは…ボクの方だ…。」

 

 

「アル…マ?」

 

レミーはアルマの異変に気づく。

 

「…人間の森…人間だった母様がいたかもしれない場所…。ボクはあれからずっとここに居ました。どこか懐かしい優しい風…母様みたいに。」

 

「…何が、言いたいの…?」

 

「ボクの中の母様も父様も、消えてなんかいない…。顔すら覚えていないハズなのに…全部ボクの記憶の中で生きてるんです。でも…魔族に心を売ってしまわれたねえさまの中に…ボクは、居ますか…?」

 

「どうしたの…?アルマ…」

 

 

「…ねえさまの答えによっては…ボクはねえさまの敵になるかもしれません…」

 

「なん…ですって…!?」

 

 

「消されたくないから…っ!!ボクは…此処に居たいから…っ!!誰かのために生きたいんだ…!!」

 

 

「アルマ…あたくしはあなたの姉ですのよ?あなたを忘れたことなんて…」

 

「嘘だっ!!今のねえさまはボクを道具としてしか見ていない…!!役に立たなくなったらゴミみたいに捨てられて…。そして何もなかったみたいに記憶から消してしまうんだ…!!母様や父様みたいに…っ!!」

 

 

 

「…アルマ…」

 

ロゼが悲しそうに呟いた。

 

アルマのママは人間だったんだ…。

 

 

「人間と人熊の子供とは…禁忌を犯した罪人の子…」

 

 

ベルジェが隣で独り言のように言った。

 

それを聞いたロゼが叫ぶ。

 

「…どうして?…どうして人間と人熊の子供はだめなの…!?アルマは何も悪いことなんかしてない…。アルマのパパとママだって…仲良しだっただけなのに…っ!!!」

 

 

ふと、ロゼはグレンを見つめた。

 

 

…好きになっちゃ、だめなの…?

 

 

 

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…間違ってる…

そんなの間違ってる…!!

 

 

「アルマは消えたりなんかしない…っ!!オレが消させない…っ!!」

 

 

「ロゼ…!?」

 

突然の言葉にグレンが驚いた顔で振り返る。

 

 

同じようにアルマもロゼを見つめる。

 

「…お前…」

 

 

「人間が狼を…熊を…好きになって何が悪いんだよ…っ!?仲間だって思って何が悪いんだよ…っ!?」

 

 

「ロゼ…」

「ロゼ兄…」

 

 

「そんな間違ったコトなんか、宇宙の果てまでぶっとばしちゃえよ!!」

 

 

「……」

 

呆然と立ち尽くすアルマに、レミーがゆっくりと口を開く。

 

「アルマ…あたくしは…あたくしは、あなたの事を本当に…」

 

悲しげに言いかけた。

 

…が、

 

 

「…っ!!こ…っ今回だけは見逃してさしあげますわ…っ!!」

 

 

何かを振り切るようにこの場から去っていった。

 

 

 

「…ねえさま…」

 

アルマは去ってゆくレミーの姿を見つめながら呟いた。

 

 

 

「…アルマ…」

 

ロゼがアルマに歩み寄る。

 

 

「…ど、同情なんて要らないから…っ!!」

 

「アルマ!!」

 

立ち去ろうとするアルマをロゼが引き止めた。

 

 

「…っ!?何をする離…っ」

 

 

 

 

パチンッ!!

 

 

 

いきなり両頬に衝撃を受けた。

ロゼの両手に顔を挟まれ、軽く揺さぶられる。

 

 

「オ・マ・エ・も!!消えるとか消されるとか言うなっ!!アルマは今ここにいるじゃんか!!アルマの心の中にいるパパやママだって、アルマのコト消したりなんかしてないだろ!?」

 

 

「……」

 

 

「だぁーいじょーぶだって!!オレたちでなんとかしてやるって!!」

 

 

…なんとかって…

 

 

「…痛い…」

 

 

「生きてるから痛いの!!」

 

 

「…!」

 

 

 

…生きてる…

 

…ボクは…

此処に、居る…?

 

 

 

 

「ロゼ…お前、そいつまで仲間とかなんとか言うつもりか…?」

 

グレンが「やっぱりな…」と言わんばかりに呆れ顔で問う。

 

 

「だって…言っちゃったし…『オレが消させない』って…」

 

 

 

…『消させない』

 

…マーテルも同じ事を言っていた…

 

 

 

「お前…」

 

「ロゼって呼んでよ!」

 

「ロ…ロゼ…。君は…」

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

 

「……バカだね…」

 

 

 

「!!んな…っ!!」

 

いきなり言われてガーン!!なロゼを見て、アルマはクスッと笑った。

 

 

 

「あっ!!笑ったです!!」

 

ピノが指差すと、アルマは恥ずかしそうに急いで元の表情に戻そうとした。

 

 

 

-10ページ-

 

 

「…ぷっ…!!ロゼ…お前、散々バカって言われてんなあ〜」

 

グレンが吹き出す。

 

ベルジェがそれを見て睨む。

 

「ロゼはバカじゃありませんっ!!人一倍優しい子なんですっ!!」

 

 

「そーですっ!!バカは熊のおねーさんにボコられた狼ヤローです!!」

 

 

「…んだとぉ!?このクソガキっ!!」

 

 

「ピノが助けてあげなきゃ今頃オダブツちーんなのですっ!!ふひひっ♪」

 

 

「こんのガキャー…っ!!」

 

 

「ロゼ兄〜!!恩知らずの狼ヤローがいじめるですーっ!!」

 

ピノがロゼの後ろに隠れて、チラッと顔を覗かせると、グレンに向かってあっかんべーをする。

 

 

「あーもーお前らいいかげんにしろよー…ま、『ケンカするほど仲が良い』ってママが言ってたからいっか♪」

 

 

 

「!!」「!!」

 

 

 

それを聞いた二人の動きが同時に止まった。

 

 

「フ…ッ!こんな生意気なクソガキと仲良しだあ?ヘドが出る!ヘド出すのももったいねえよ!!」

 

 

「ピノだってこんなバカ狼ヤローなんかと仲良くしたくないですっ!!べーっだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…ヘンなヤツら…」

 

狼と人間が織り成す世にも不思議なやり取りを眺めながら、アルマはまた小さく微笑んだ。

 

 

母様の風がアルマの髪を優しく撫でた。

 

 

 

 

-11ページ-

 

 

■おおかみのくに

 

おおきな なみ けっして

おぼれてはならない

かわってゆく…

みいられる…

のがれられなくなる…

くわれたのは

にんげんではなく…

-12ページ-

 

曇天の空と同じ色をした石造りの城がそびえ立っていた。

城全体に霧が立ち込めているため、その輪郭はぼやけている。

 

城の最上階にある薄暗い部屋。

 

 

そこにきらびやかな衣装を身に纏った背の高い男が立っていた。

 

 

 

「…グレンのヤツは何をしておる…」

 

 

口調はゆっくりだが、イラ立ちを感じる低く重い声が部屋に響いた。

 

 

「熊の連中に先を越されて、私が恐くて帰れない…とか言うのではあるまいな…?」

 

 

「…いえ…グレン様に限ってそんな事は…」

 

家身の一人がグレンを庇うように言う。

 

 

 

「ならば何故王である私に連絡ひとつ寄越さぬ!!」

 

 

ウォルフシュミット王・アンドリューは、掌でテーブルをたたき付けると、怒りの表情を見せた。

 

その場にいた家身たちがビクリと震え上がる。

 

 

 

 

「…王様…。」

 

 

いつの間に現れたのか、一人の男が王の前にひざまづく。

 

 

「どうした、ダルモア…」

 

 

「私が王子の元へ参りましょう…もしかすると何かを掴んでおいでかもしれません。」

 

 

「……うむ…そうかもしれぬな…。わかった。行け…。」

 

 

「はっ」

 

 

『ダルモア』と呼ばれた男は一瞬でその場から消え去って行った。

 

 

 

 

…グレンは既に『生命の水』を見つけ出し、私に隠しているのか…?

 

 

それとも……

 

 

 

 

『生命の水』に溺れたか…

 

 

 

 

ウォルフシュミット王は、大きな銀の椅子に腰掛けると、足を組み、膝に肘を立て、考え込む。

 

 

………。

 

 

 

薄暗い部屋に静寂が戻っり、わずかに聞こえる風の吹き込む音がより際だって聞こえる。

 

窓から見える灰色の雲が空を速く流れていた。

 

 

 

-13ページ-

 

 

 

――――――――

 

 

 

「…っふ…あ…」

 

ロゼの部屋に甘い声が響いていた。

 

 

「グレ…ン…っ!」

 

「おま…っ!喰いすぎ…っ!…っん…っ」

 

 

「…力を使うと腹が減る…」

 

「だ、だからって…」

 

 

「フ…お前だって、相当よがってるじゃねえか」

 

「な…っ!!ちが…っ!!」

 

 

「おねだりが随分と上手くなったな…俺様の調教の賜物か?」

 

 

赤面するロゼにグレンが笑う。

 

 

ここ2・3日はずっとこんなかんじだ…

むしろ、日ごとに『喰われる』回数が増えてる気もする。

体力には自信があると思ってたけど…さすがに…。

 

…でも…

 

何度もこんな恥ずかしいコトされてるのに…イヤとか、やめてほしいとか…言えない自分がいる。

 

グレンに触れられてると、すごく落ち着くってゆーか…なんだろ?

 

キモチイイ…?

 

白くなめらかな肌や、長い指…程よく鍛えられた身体…金色の瞳…揺れる度に色が変わる銀の髪…全てに魅せられてしまう。

 

単なる

『憧れ』

…とは違う何か…

 

このままマシュマロみたいにとろけてしまいそうな…

 

自分の中にこんな自分がいたなんて…。

 

 

 

「イイ顔だな…ロゼ…」

 

「…っ!!…ふぁ…っ…あ、あんま見んな…よ…っ!」

 

恥ずかしくて両腕で顔を隠すが、力が入らないため、あっさりと解かれ、頬に口づけられる。

 

 

「…もっと見せろよ…その顔、すっげえそそられる…」

 

「…っ!ばかっ!!もう十分だろっ!?」

 

 

うあー…もし…もし、こんなトコ誰かに見られたら…

 

…考えただけで生きている心地がしない…

 

 

でも…レミーはなんで知ってたんだ?

盗聴器とかカメラでも付けられてんのかな…?

 

 

 

「…何ぼんやり考えてんだ?」

 

「え…っ?」

 

そんなに難しい顔をしてたかな?

我に返ったロゼにグレンが尋ねる。

 

 

「あ…レミーはなんでオレたちがこうしてるコト知ってたのかな…って…。」

 

 

「…鳥がいた」

 

「鳥?」

 

「窓の外の木に小鳥が止まっていた。その鳥がアイツに伝えたんだろ…」

 

 

「レミーも鳥と喋れるのか…」

 

「…なんだよ?」

 

「案外、いいヤツかもな」

 

 

「はあ!?…何言って…アイツは魔族に心を売った挙げ句、俺たちを殺しにきたんだぞ!?」

 

「…でも…どこか悲しそうだったんだ…。もしかしたら、まだ…」

 

「悪魔に成りきれていないとでも?」

 

「…うん…まだ助けられるかもしれない…」

 

「……」

 

「『お人よし』…ってゆーんだろ?…わかってるよ…。けど、もしできるなら…1%でも可能性があるなら、助けたいんだ。アルマのためにも、ね。」

 

 

 

-14ページ-

 

 

 

ロゼの発言にグレンはしばらく考える。

 

 

「…まあ…、本来、異世界の者である魔族がこちら側に絡んで来ているとするなら…狼も熊も互いに争ってばかりはいられないだろうな…。」

 

 

「そうだよ!!人も狼も熊も…みんなで協力しあえば、魔族にだって勝てるかもしれない…!!」

 

 

「…相変わらずポジティブだな…」

 

「できるよ!!絶対!!」

 

 

「…お前がそう言うと、無茶苦茶な事でもできそうな気がする…不思議だな…」

 

フ…と笑うグレンにロゼは抱き着く。

 

 

「大丈夫っ!!オレ、グレンとなら…みんなとなら何でもできるよっ!!」

 

お互いの肌が触れ合い、体温を直接感じる。心地好い。

このままずっとこうしていられたら…

 

 

グレンは自分に抱き着いたままのロゼの顎をつい、と引き上げる。

ロゼは察したのか、ゆっくりと目を閉じた。

 

ゆっくりと…深く、口づける…

 

 

「…ん…っ」

 

 

…どうしてロゼが…人間が、こんなにも愛しい存在なのか…

 

ここに来るまでは予想もしなかった。

『エサでしかない人間』

そう教えられてきたハズなのに…。

 

 

 

常識の崩壊。

 

感情の変化。

 

 

そして、新たな想い。

 

 

 

どれも無理矢理押し込まれたものではない。

 

自然と体に溶け込む感覚…

 

 

 

そう…

まるで『水』のように…。

 

 

 

 

「…ぅん…ふぁぁ…っ」

 

気持ち良さそうに声を上げるロゼにまた欲望を掻き立てられてしまう。

 

 

…だめだ…

 

俺はもう…

 

コイツに完全にハマってる…

 

無くては生きられない程に…

 

 

 

「…ふあ…グレン…す…き…っ」

 

「ああ…わかってる…」

 

 

 

ブレーキが効かない。完全にイカレて、もはや自分ではとめられなくなってしまっている…

 

 

「ひあ…っぁ…!ぐれ…きも…ちいよぉ…っ…!!」

 

 

まるで麻薬だ…

 

ダメだとわかっているハズなのに、どんどん深みにハマってしまう。

 

先の見えない道をコントロールもできないまま突き進んでゆくようで、グレンはそんな自分を恐ろしく思った。

 

 

 

-15ページ-

 

 

 

―――――――

 

 

「…あ。そろそろ行かなきゃ、ベルジェのトコ。」

 

「…ああ…もうそんな時間か…」

 

「今後の作戦会議だなっ!」

 

「……」

 

ベルジェんトコか…行きたくねぇな…

 

 

グレンは後ろめたい気分で渋々立ち上がる。

 

きっと毎日のように『生命の水』を摂取していることくらいベルジェにはすぐにバレてしまうだろう…。

 

 

気が向かないまま外へ出ると、すぐにカン高い声が聞こえてきた。

 

 

「ロゼ兄〜っ!!迎えにきたですよっ♪」

 

「ああ!ピノ、ありがとなっ!」

 

ロゼはピノの頭をぐりぐりと撫でた。

 

「うひひ〜」

 

嬉しそうなピノを見ながら、グレンは、気だるい体で森を歩く。

 

 

 

この森に来て何日経っただろう…。

 

父上はどうしてるだろうか…?何の連絡もしてないんだから怒ってるのは間違いない。

 

もしかしたらそろそろ使者を寄越してくるかもしれない…ああ…面倒だな…。

 

 

 

「なーに疲れた顔してるですかっ!?狼ヤローっ」

 

 

急にぴょこんと目の前に出てきたピノに声をかけられ、はっとする。

 

 

「…るせぇ…森を走り回って遊ぶのが仕事のガキんちょとは違って、一国一城の王子である俺様は色々あるんだよ」

 

 

「むっ…!!せっかく心配してやったのにぃ…っ!!ヒドイですっ!!ねーっ!?ロゼに……」

 

 

 

どさっ…

 

 

 

ピノが目をやった瞬間、ロゼは地面に崩れ落ちた。

 

 

 

「ロゼ兄…っ!?ロゼ兄ぃっ!!!!」

 

 

「おい!!ロゼ…っ!!!!!」

 

 

グレンが駆け寄り、抱き起こす。

顔色が悪い。貧血でも起こしたのか…?

 

 

「あううーっ!!はっ…早くベルジェのトコに運ぶですっ!!!」

 

グレンはぐったりとしたロゼを抱き上げると、ベルジェの家へ向かって走り出した。

 

 

 

…まさか…俺が…

 

俺のせいなのか…!?

 

 

いくら『枯れない水』だとしても…

ロゼは『人間』だ。

しかもまだ幼い子供…

 

 

それを俺は自らの欲望のままに…!

コイツは…ロゼはいくらツラくても断らないだろう。

 

 

…畜生…

 

何で言わねえんだよ…!!!!

 

 

それはロゼに向けた怒りではなく、自分自身に向けた怒りだった。

 

 

グレンは奥歯を噛み締めると、自身の不甲斐なさを振り払うように、さらに走る速度を速めた。

 

 

 

-16ページ-

 

 

 

バンッ!!!!!!

 

 

グレンはロゼを抱えたまま、ベルジェの家の扉を足で乱暴に蹴り開けた。

 

 

焼菓子をテーブルに並べていたベルジェは血相を変えて息も荒く急に飛び込んできたグレンに驚き、ひっくり返しそうになった。

 

 

「…ど…、どうしたんです…!?…ロ…ロゼ…っ!?」

 

 

グレンに抱えられてぐったりしているロゼを見た瞬間、ベルジェもまた血相を変えて駆け寄る。

 

 

 

「…た…倒れ…たんだ…!ここへ来る…途中で…っ!」

 

息を切らしながら必死に説明しようとするが、頭が混乱してしまい、上手く言葉が出てこない。

 

 

「…と、とにかくこちらへ…!!」

 

 

急いでベッドに寝かせると、ベルジェはロゼの容態を確かめるため、額に触れたり、脈をとったりしている。

 

 

グレンはその横で後ろめたさを感じながら見ている事しかできなかった。

 

俯いて奥歯を噛み締め、拳を握る。

 

 

…俺のせいなのか…?

 

 

罪の意識に苛(さいな)まれる。

 

 

 

「…かなり疲れているようですね…。王子、ここ2〜3日、ロゼに何か…ありましたか?」

 

 

答えを見透かされているように重くのしかかる質問にグレンは言葉を失う。

 

 

「……『生命の水』…」

 

 

ボソリと呟くベルジェにドキリとする。

やはり…彼にはすべて分かっていたようだ。

 

「……俺の…せいだ…」

 

 

「…『喰いすぎた』…と?」

 

 

「…すまない…まさかこんなに疲れさせてしまうとは…」

 

 

「…無知のまま『生命の水』を使用するのは危険です…貴方も、ロゼも…」

 

大声で怒鳴る事なく、ゆっくり、淡々と語るベルジェは余計恐ろしく感じる。

 

 

「『生命の水』はいわば『麻薬』のようなもの…依存性が極めて強いのです。そもそも『水』は全ての生物に命を与える必要不可欠な存在。…しかし、同時に命をも奪う両刃の剣でもあるのです。多くの水に溺れて足を取られてしまえば…」

 

 

「……」

 

 

「…まだこれくらいの状態だったから良かったものの…。これ以上溺れてしまうような事があれば、命の保証はありませんよ。」

 

 

「…すまない…本当に…」

 

 

グレンは俯き、拳を強く握り締めた。やがて握りしめた間から血が滲み出す。

 

 

「もしロゼに何かあれば、たとえ貴方が王子であろうと…私は容赦致しませんから…ゆめゆめお忘れなきよう…」

 

 

そう言い残すと、ベルジェは水を汲みに外へ向かった。

 

-17ページ-

 

 

ベルジェが向かった裏口の扉が閉まる音がすると、グレンはベッドに横たわるロゼに近づき、腫れ物に触るようにゆっくりと、そっと頬に触れる。

 

 

熱い…熱があるようだ。

 

 

「ロゼ…すまない…俺が無知だったばかりに…」

 

 

心からの言葉…精一杯の言葉だった。

 

グレンは血の滲んだ掌を自分の服で拭うと、苦しそうに息をしているロゼの手を両手で包み込むように優しく握りしめた。

 

 

 

ガタン…

 

小さく物音がした。

 

見ると、そこにはアルマの姿があった。

 

 

「あ…」

 

アルマはグレンの姿を見ると小さく声をあげた。

 

彼は先日の一件の後、しばらくベルジェの家に住むことになったのだ。

 

 

「…グレン王子…」

 

 

「『グレン』でいいぜ、アルマ」

 

「あの…ロゼは大丈夫…?」

 

「ああ…しばらく休めば大丈夫らしい…」

 

 

「…どうして、大丈夫なのにグレンは悲しそうなの?」

 

 

「…俺が…もう少しでコイツの命を奪うところだった…」

 

 

「でも…狼は、人間の命を奪い、喰らう者でしょう?」

 

 

「…コイツは…ロゼは、この世界にとって…いや、俺自身にとって…特別な人間だ」

 

 

「特別…?『生命の水』だから?」

 

 

「いや、違う。コイツがたとえ『生命の水』でなくとも…コイツは俺の特別だ」

 

 

「…ロゼは幸せだね…。みんなにとても大切にされてる」

 

 

 

「…バカで生意気で自分勝手で悪戯ばっかしやがるどうしようもないクソガキだがな。何故なんだろうな…不思議なヤツだ。」

 

 

「…グレン、嬉しそうだ。」

 

 

「…っ!!」

 

 

「ふふ…ロゼの事、『愛』してるんだね」

 

 

 

―――『愛』

 

 

これが『愛』というものなのか…?

 

人狼族に足りないモノ…手にすれば、この世界全てに平和が訪れるという…

 

 

 

「ボクの父様も母様も、ボクの事を『愛』してくれていた…。『愛』の形は色々…たくさんあるんだって…ベルジェが言ってた。」

 

 

「ベルジェが…」

 

 

「この森にいると、これまでの常識が吹っ飛んでく事ばかりだ…って。書物にはない発見がたくさんあるんだ…って、ボクに教えてくれたんだ。」

 

 

ベルジェはやはり、既に『愛』を手にしていたのか…

 

形…か…。

ベルジェの『愛の形』とは何なのだろう…?

 

 

 

-18ページ-

 

 

「ロ…ロゼ兄〜っっ!!!!」

 

グレンよりだいぶ遅れて到着したピノは息を切らしながら扉を開けると、ロゼに駆け寄る。

 

 

「…熱があるが…しばらく休めば大丈夫だそうだ…」

 

「…そ、そうですか…ロゼ兄、風邪ひいちゃったですかねぇ…?」

 

 

「……」

 

 

本当の事は言えるはずもなく、グレンはただ黙ってピノが心配そうにロゼの額に手を当てているのを見ていた。

 

 

「…あ!!ピノが、ししょーに風邪に効くお薬貰ってくるです!!」

 

 

「…っ!!」

 

 

…ちょ…っ!!

いやいや…違う!風邪違う!

ロゼは風邪じゃなくて…!!ええと…な、何て言えば…!!

 

 

今にも飛び出して行きそうなピノを止めようとするが、焦って言葉が出てこない。

 

 

「…素人判断は良くないよ、ピノ」

 

 

アルマが言う。

 

 

…ぐ…グッジョブ…!!アルマ…!!!!

 

思わぬアルマの助け舟にグレンはほっとする。

しかし、

 

 

「じゃあ、ししょーに来てもらうです!!」

 

 

「!!」

 

な…っ!!うあーっ!!何なんだコイツは!!ウゼぇぇえー!!しつけぇええ!!おとなしくしてろよクソガキっ!!

 

 

すぐに引き止めたいのを堪えて心の中で毒づくが、意志を固めて立ち上がったピノに開けっ放しだった扉の向こうからベルジェの声が近づいてくる。

 

 

「待って下さい、ピノ。あなたのお師匠様ならば、私たちが人狼、人熊である事はすぐに分かってしまいます…どうか、ロゼの事は私に任せてもらえませんか?私にも医療の知識は少しありますから…。ね?」

 

 

にっこりと微笑み、優しく諭すベルジェにピノはおとなしく部屋に戻った。

 

 

…た…助かった…

 

 

力が抜ける。

 

すると、ベルジェが「感謝しなさい」とばかりにチラリと目だけをグレンに向けた。目が合う。

 

 

…くそ…ベルジェに借りを作ってしまったな…

 

 

グレンは後ろめたさと悔しさで、すぐに視線を逸らした。

 

 

 

 

「ロゼ兄はだいじょーぶですか?すぐになおるですか?」

 

今にも泣き出しそうに問いかけるピノに、ベルジェは優しい口調で答える。

 

「ふふ…っ少し遊び疲れたのかもしれませんね。…ずっと王子と一緒にいたからはしゃぎ過ぎたのでしょう」

 

 

…それは俺に対するイヤミか…?くそう…覚えてやがれ…

 

顔が引き攣るのをこらえる。

 

 

 

「…ねえ、どうするの?これから…」

 

 

アルマが本題に入る。

 

 

 

「皆が狙う『生命の水』であるロゼがこの状態ですからね…。この家に結界を張っているとはいえ、ロゼ一人にするわけにはいきませんね」

 

 

「ここでまたアルマのねえちゃん…人熊族の襲撃を受ければ…ヤバイな…完全にこちらが不利だ」

 

 

「魔族の力を手にした彼女は一人でも充分に手強い相手…」

 

 

「ねえさま…」

 

グレンとベルジェの言葉を聞いて、アルマが申し訳なさそうにつぶやいた。

 

 

「アルマのせいじゃないですよ!おねーちゃんもきっと前みたいに優しいおねーちゃんに戻るですっ!!」

 

「…ピノ…ありがとう…」

 

アルマは頬を染めながらふわりと微笑んだ。

 

 

 

 

「…それと…もうひとつ…」

 

一方のグレンは眉を寄せ、苦々しい表情で切り出した。

 

「…そろそろウォルフシュミットから遣いの者が俺を捜しに来るだろうな…」

 

「…遣い…王の側近…まさか…」

 

 

「ああ…恐らくアイツだろうな…」

 

「彼は…」

 

ベルジェは躊躇い、口をつぐむが、グレンはそれを察したのか「構わない」とばかりに続けた。

 

 

「確かに俺の事を良くは思っていない…ヤツは隙あらば俺の命を奪い、次期国王の座を狙っている」

 

 

「やはり…噂は本当でしたか…」

 

 

「毎日見ていれば分かる事だ。親父はやたらヤツを信頼しているがな…」

 

 

「これはますます厄介ですね…人熊族に、王子の命を狙う人狼…」

 

 

「フ…自国の者にまで命を狙われるとは…まさしく四面楚歌だな…」

 

 

 

 

「あ…!あの…っ!ボクも…戦うから…っ!!」

 

重い空気の部屋にアルマの声が響く。

 

 

「…し、しかし…相手はあなたのお姉様ですよ!?お姉様とあなたが戦うなんて…」

 

 

ベルジェが諭すように言うが、アルマは首を横に振る。

 

 

「…あれは、もはやねえさまじゃないよ…『魔族』だ…」

 

 

「ア…アルマ…!おねーちゃんはきっと悪魔にだまされてるだけですっ!!きっと元に戻るですよっ!!」

 

 

「そう。だから…ボクがねえさまを助けたいんだ…!!ねえさまがずっと暗闇の中にいたボクを救ってくれたみたいに…!!」

 

 

強い決意がアルマの瞳を輝かせている。

 

 

「…わかった。正直アルマの魔力は貴重な戦力になる。一度決めたからには、途中で宣戦離脱なんてのは許さないからな。」

 

 

「望むところだよ、グレン。ボクも君たちの協力が必要なんだ!!」

 

 

「ふひひっ♪狼と熊が手を組んでるなんて、なんだかすごいですっ!!」

 

 

椅子に座って地面に届かない足をぶらぶらさせながらピノが嬉しそうに言った。

-19ページ-

 

 

窓の外からオレンジの光が部屋に差し込んできた。

 

部屋が少しずつ薄暗さを増してゆくのがわかる。

 

 

 

…ロゼはまだ目覚めない。

 

 

ベルジェの作った薬が効きいたのか、熱は下がったようで、先ほどまでの苦しそうな表情からいつもの寝顔に戻っている。

 

 

グレンはひとり、ロゼのそばで看病と護衛をしていた。

 

 

ピノはロゼの母親に、今日は『ばーちゃんち』に泊まる事を伝えに向かった。

 

ベルジェは薬の材料を探しに、アルマは家の外で見張り役だ。

 

 

 

グレンは椅子に座り、ロゼを見つめていた。

 

規則正しい寝息に自分もついウトウトとしてしまいそうになる。

 

…だめだ…いつヤツらが襲ってくるかわからないというのに…!

 

ここへ来てからすっかり平和ボケしてしまったのだろうか…?ウォルフシュミットにいた頃では居眠りなんか考えたこともなかった。

 

 

…平和…

 

 

ウォルフシュミットにも…、この世界全てに平和な日が来るなんて有り得るんだろうか?

 

常に命の危険を感じながら生きなくてもよくなる日が来るのだろうか?

 

 

 

コイツ…ロゼは、人間、人狼、人熊がお互いに協力しあう事が「絶対できる」と言った。

 

 

『絶対』なんて言葉ほど信じられない言葉はない。

 

…だが、コイツが言うとそんな当たり前の考えすら変えてしまうほどの威力がある。

 

つくづく不思議なヤツだ…。

 

グレンはロゼを見つめながらわずかに苦笑した。

 

 

ここへ来て、コイツ…ロゼに出会ってからというもの、自分の中の常識が崩れることばかりだ。

 

 

それに、ウォルフシュミットにいた頃は、病人の看病なんかしたこともなかった。

看病と言っても、先ほど出かける前のベルジェに教えられたことしか自分にはできない。

 

これまでウォルフシュミットの王子として、それなりの教育は受けてきた。

しかし、この世界は自分の知らない事ばかりだ。むしろ知らない事のほうがはるかに多い。思い知る。

 

 

グレンは汗で額に張り付いたロゼの前髪をタオルで優しく拭いてやった。

 

ふと布団から覗く首筋に目をやると、体も汗で濡れているようだ。

 

 

…拭いてやったほうがいい…よな…?

 

 

グレンはロゼを起こさないよう、そっと布団をめくると、服の隙間からタオルを差し入れる。

 

 

「ぅ…ん…」

 

 

くすぐったいのか、声を上げ、身じろぐロゼにドキリとする。

 

 

 

…あ、あぶねえ…

 

 

そんな声を出されたらまた…

 

 

つい思い出して心臓が高鳴る。

 

 

『生命の水』の依存症…そんな話、初めて知った。

あやうくロゼも俺も死んでしまうところだったなんて…

 

 

 

…じゃあ…

 

もうコイツとは…?

 

 

い、いや…べ、別にそんな事ばっかしたいワケじゃ…

 

誰も見ていないのにグレンは一人焦る。

 

 

 

「…グレ…ン…」

 

 

「っ!?」

 

 

そんな事を考えているときに急に名前を呼ばれて心臓が跳ね上がる。

 

 

「…な、なんだ…寝言かよ…」

 

 

そういえば…前にも寝言で名前を呼ばれたな…。

俺はコイツにとって、それほど夢にまで出てくる存在なのだろうか?

コイツの夢の中の俺はどんな存在なんだろう…?

 

 

胸の奥がじんと熱くなる。

 

 

でも…

 

これだけなら…

 

いや…

せめてこれだけでも許してくれ…

 

 

グレンはロゼの唇にそっと触れる程度に優しく口づけた。

 

 

 

「…くそ…早く目ぇ覚ませよ…」

 

 

ロゼの顔を間近に見ながら、グレンは悔しげに顔を歪め、ひとり呟いた。

 

 

あれだけウザくて嫌だったはずの少年…毎日ドタバタ騒がしく、振り回される日々が今は懐かしく、愛おしくさえ思い出される。

 

 

ついさっきまでとは打って変わっておとなしくなってしまったロゼを自分は見ているだけ。

あまりの無力さに自らを憎らしく思う。

 

『強くありたい』

 

幼い頃からそう思ってはきたが、それは他人から自分の身を守るための強さだった。

 

今は、どうにかしてコイツを守ることができる強さが欲しい。

 

 

コイツに出会ってからというもの、これまで生きてきて一度も感じたことのないおかしな感情ばかりが心の奥底から沸き上がってくる。

 

自分が内側から明らかに変化しているのがわかる。

 

しかし、決して拒絶したいような嫌な変化ではない。

 

 

 

 

 

ガチャッ!

 

 

 

急に背後からドアが開く音がしてグレンの心臓がまたしても跳ね上がる。

 

 

…ちょ…まて…っ!!

誰…!?いや…今この状態は…

 

 

ロゼの体を拭いてやろうとしたのに、ロゼが動くものだから服は乱れ、肌がすっかり露出したままだったのだ。

 

 

…これじゃまるで…

 

 

「王子…?何をしていらっしゃるのです…?」

 

 

その低い声には憎しみがたっぷり含まれているのがわかる。

 

…よりによって一番見られたくないヤツに見られてしまった…

 

 

-20ページ-

 

 

「か…体を拭いてやろうとしたんじゃねえかっ!!汗かいてたから…!っつーかノックぐらいしろよ!バカ!!」

 

 

「ふふ…それは大変失礼致しました。ロゼが気になって仕方なかったものでつい…。そうですか。体を拭いて差し上げてらしたのですね…さすが王子…お優しい方ですね…」

 

ベルジェはニッコリと微笑むが…

 

 

…コイツ…絶対疑ってやがる…

 

 

グレンはその真っ黒な微笑みを睨み返した。

 

 

ベルジェはそれを気にもとめない様子の明るい口調でグレンに話しかける。

 

「さあ、薬の材料も充分揃えましたから、しばらくロゼの事は私にお任せ頂き、王子は少しお休みになられてはいかがです?」

 

追い出さんばかりの言い方にグレンはムッとするが、ロゼの服を元に戻し、布団を掛けると、仕方なく部屋を出ていった。

 

 

 

「…ふう…」

 

扉が閉まると、ベルジェはため息をついた。

 

 

ロゼは、グレン王子の事を…どういうふうに見てるのだろうか…

 

 

『生命の水』

これだけ与えた…というのならば、決して嫌がって与えたのではないのだろう…。

 

ロゼが『提供者』として目覚めてしまったのか…

 

 

それとも…

 

 

ロゼが幸せならば、自分はそれで構わない。

 

…でも…

 

 

「ふ…。嫉妬なんてみっともないですよね…」

 

渇いたロゼの前髪を触りながら苦笑する。

 

 

人狼族である自分が『生命の水』を本能的に欲する事は仕方のない事だ。

実際、何度もその衝動に駆られた。

 

この森へ来てから人間を喰らう事なく過ごしてきたのだから尚更だ。

魔力も駆使して本能を必死で押さえている。

 

 

ただ、それも限界がある。

人狼として生きるためには人間の遺伝子が必要不可欠なのだ。

 

 

 

昔の自分ならば、生きるために何の躊躇もせず喰らっていただろう。

 

しかし…今はそんな自分の事よりももっと大切な何かを胸の奥に宿してしまった。

 

 

ロゼは、この混沌たる世界を変える希望の光…そんな気がしてならない。自分の中の野性のカンがそう伝えてくるのがわかる。

 

まだまだ小さくて頼りない光だが、やがて輝きを増してゆくだろう。

 

 

裏切りのない世界…

 

他人を、自分を信じて共に生きる事ができる世界…

 

その可能性がひとかけらでもあるなら、自分はそれに賭けてみたい。

 

 

信じていた…かもしれない仲間に裏切られ、殺されかけたのち、ウォルフシュミットを追われてこの森に来て、そしてロゼに救われた。

一度失いかけた命…彼に捧げるのであれば惜しくはない。

 

 

 

いつの間にか部屋は夜の闇に包まれつつあった。

 

ベルジェはベッドのそばのランタンに火を燈す。

 

 

「…あなたの好きなシチューもパイもたくさん用意してありますから…目が覚めたらみんなで食べましょうね」

 

 

ベルジェはロゼの頬を撫でながら、優しく語りかけた。

 

 

 

小さなランタンの優しい明かりがふわふわと揺らめいていた。

-21ページ-

 

闇夜には慣れていた。

 

 

闇の中、何度も奇襲をかけてはいくつもの国を滅ぼしてきた。

 

 

狼にとって闇は戦略的要(かなめ)。絶好のチャンスなのだ。

 

 

 

月明かりすらない闇の中をひた走る。

 

視覚、気配、臭い、全ての感覚を研ぎ澄ませ、捜す。

 

 

 

「…近い…」

 

 

男は確信したのかニタリと藁う。それも一瞬。

 

 

 

「又とないチャンス…逃してなるものか…!!」

 

 

 

闇夜を駆ける人狼の瞳は、おぞましく、不気味に光の帯を作り出していた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「ロゼ兄…まだ起きないです…」

 

 

テーブルに並べられた料理を見ながら、椅子に座ったピノが悲しげに呟く。

 

いつもなら、料理がテーブルに置かれた瞬間、皿にがっつくはずなのに…料理はすっかり冷めてしまった。

 

 

「私たちだけでも食べましょう。ロゼの分はちゃんと取ってありますから。きちんと栄養を取っておかなくては、敵に勝てませんよ。」

 

 

「うん…」

 

 

「見張り、交代してやるか…」

 

グレンは家の外にいるアルマを呼び戻しに出た。

 

 

 

家の中から漏れるわずかな光だけで、外はすっかり夜の帳を下ろし、暗闇に包まれていた。

 

月明かりすらない。

 

 

人狼にとって暗闇は別にどうってことない。目も見えるし、鼻も利くため、むしろ有利な状況だ。

 

 

「アルマ、交代だ。」

 

「…そう…」

 

「どうかしたか?」

 

「…いや…何でもない…風の音を聴いてただけ」

 

「…?」

 

「じゃあ、頼むね」

 

 

グレンは家の中に入ってゆくアルマを不思議そうな目で見ていた。

 

姉のことでも思い出していたのだろうか?そういえばアルマの母親は人間だったな…やっぱりこんな森に熊や狼に脅えつつ、ひっそりと住んでいたのだろうか?

 

ならば、何故人熊の男なんかと…?

 

アルマの母が『生命の水』の持ち主なわけでもない…なのに人間に惹かれてしまった人熊…。

 

 

 

グレンはふと、人熊であるアルマの父親と自分を重ね合わせてみる。

 

 

…俺が人間のロゼに何故惹かれてしまったのか…?

勿論、最初はロゼが『生命の水』であるからだと思っていた。

 

 

しかし…それだけであれば、今自分はこんな状況にはいないはずだ。

 

ロゼをさっさとウォルフシュミットへ持ち帰り、自国のため、自分の地位、名誉、欲望のために利用するだけ。

 

至極簡単な事である。

 

 

 

…なのに…

 

 

胸の奥に芽生えてしまった新しい、おかしな感情が今の自分を思わぬ方向に動かしている。

 

 

-22ページ-

 

 

―――『禁忌』

 

 

 

わかっている。

 

 

ロゼと俺…。

人狼と人間、そして性別をも超えているのだ。

 

 

しかも人狼国を統べる者が禁忌を犯すなど…

 

 

もはや俺の処刑どころの問題ではない。

 

王族への反逆、混乱、内乱、紛争…そして、そんな状況下では他国からすれば絶好のチャンスとばかりに攻撃を仕掛けてくる。

確実に国は滅んでしまうだろう。

 

 

 

禁忌を犯してまでも、国を捨てる覚悟をしてまでも、ロゼを信じる…そして『愛』する事が自分にはできるのか…?

 

 

 

ひんやりとした夜風が銀の髪を撫でる。

 

木々がざわざわと音をたてる。

 

それはまるで城の前に集まった大勢の国民たちのざわめきのようにも聞こえた。

 

 

国民に向かって、俺はどうするだろうか…?

何と説明するのだろうか…?

誰かに試されているような感覚に陥ってしまう。

 

 

…俺は…

…国を…

…国よりも…

 

 

 

「…人間がお好きなられたのですかな…?」

 

 

 

「…っ!!?」

 

 

突然暗闇から声がした。

気配を感じなかった…いや、気配を消していたのか…

 

聞き覚えのある声。

嫌気がさすこの声…。

 

 

「…ダルモア…!」

 

 

「フフフ…。グレン王子、あまりにもお帰りが遅いので心配してお迎えに上がりましたよ…ご無事で何より…」

 

 

「…親父の使いか」

 

 

「国王様も大層ご心配なされておいでですよ…王子から何もご連絡がありませんでしたから何か理由でもおありなのではないか、と…」

 

 

「…何が言いたい?」

 

 

「『生命の水』…如何です?手掛かりはおありでしたか?…もしかして…既に発見された…とか?」

 

「…だとしたら、貴様はどうするつもりだ?」

 

 

「フフフ…。当然ウォルフシュミットの御為、国に持ち帰りますが…何か問題でも?」

 

 

「…ああ、あるな。大ありだ」

 

 

「…っ!?」

 

 

「『生命の水』は俺様のモノだからだ。アレは危険なモノだ。よって、しばらくは俺様が預かる」

 

 

「ほう…さすが、我らがウォルフシュミットの王子…既に見つけられていたとは。…しかし、黙って独り占め、とは良くありませんねぇ…」

 

 

ダルモアはニタリと目を細め、微笑う。

 

 

「…渡して頂きましょうか…?」

 

 

「断る。ぜってぇ渡さねぇ」

 

 

「『水』に『溺れ』ましたかな…?」

 

 

「フ…ッ。羨ましいか?」

 

 

「それはそれは…結構な事で…そのまま溺れ死んでしまわれたほうがさぞかし楽でしたでしょうに…」

 

ダルモアは細身の剣を腰に挿した鞘からするりと抜くと、グレンに向かって突き付ける。

 

 

-23ページ-

 

 

「ほう…。それは、王族への謀反と捉えていいんだな?」

 

 

「死んで頂きましょうか…」

 

 

「そういう事だと思ってたぜ、ダルモア…。貴様とはいつか殺り合う時が来ると思っていた。今回は絶好のチャンスだったな」

 

「ククク…ッ。ウォルフシュミットは私が統治しますゆえ…安心してお任せ下さい、グレン王子」

 

 

「俺様の国をてめえみたいな変態国にされてたまるか!!バーカ!!」

 

「へ…っ!?だ、誰がヘンタイだと…っ!?」

 

 

「てめえの変態伝説は国中みんな知ってんぞ!?○○を××した事や、△△を●●して□□した話とか…後は…」

 

 

「わあああっ!!な、な、なんでそれを…い、いや…っ違うっ!誤解だっ!」

 

「くっ…!あっはははは!やーい!!ヘンタイヘンタイ〜!!」

 

「い…言わせておけば…っ!!ガキが!!死ねぇえっ!!!!」

 

 

図星を突かれて顔を真っ赤にしながら、もはやヤケクソ状態のダルモアはグレンに向かってめちゃくちゃに剣を振り回す。

 

 

グレンはそれをヒラリとかわしながらニヤリと笑みを浮かべた。

 

…上手くいった。

これだけ混乱させて精神的ダメージを与えておけば、コイツの剣の腕も鈍る。

 

 

グレンは、そんなダルモアの隙をつくと、剣を蹴り落し、顎から真上に向かって拳を突き上げた。

 

 

「うぐ…っ!!」

 

 

見るも鮮やかにアッパーカットを決められ、ダルモアは闇へと吹っ飛ばされる。

 

 

「フン…拳が汚れた。ヘンタイが移る」

 

グレンは汚れを落とすように右手を振るう。

 

 

「く…そ…ナメやがって…!!」

 

 

ダルモアは顎を押さえながらどうにか体を起こすと、呪文のようなものを唱え始める。

 

 

コイツ…!!いつの間に魔法を…っ!!

 

刹那、ダルモアの掌から火の玉が飛び出す。

 

しかし火の玉が狙ったのはグレンではなく…

 

 

な…っ!!しま…っ!!

 

グレンはヒヤリとした。

 

 

…っ!!家…っ!!

 

 

グレンが振り向いた瞬間、ベルジェの家から爆発音と爆風が襲い掛かる。

 

 

…な、なんてことだ…

 

 

…ロゼ…!!

 

 

アルマ…!

 

 

ついでにピノとベルジェ…。

 

 

家は炎に包まれている。

グレンは呆然と見つめるしかなかった。

 

 

 

「クククッ!!ヒャハハハハ!!…そこには大切な『仲間』がいらしたんでしょう!?じきにさぞかし美味い丸焼きになるでしょうねえ〜!!」

 

 

「貴様…ッ!!!!!!」

 

 

「『仲間』なんて甘っちょろいものを作るからこうなる!!守るモノが増えれば増えるほど自ら足枷を増やす事になる!!」

 

 

 

-24ページ-

 

 

 

…『仲間』

 

 

他人と関わりを持つから…

 

そうだ…。

 

だから俺達は他人と関わることを避けてきた。

 

 

…でも…、俺は…っ!!

 

 

 

「王子ひとりではないことも忘れられては困りますね…ダルモアさん…?」

 

 

「!!」

 

 

炎と砂埃からうっすらと姿を現したのは…

 

 

 

「ベルジェ!!アルマ!!」

 

 

みるみる内に家を包み込んでいた炎が消えてゆく。

二人は魔術で炎に対抗する水の被膜を作っていたのだ。

 

 

「森で火遊びは厳禁ですよ…お二人さん」

 

 

「お、お前は…べ、ベルジェ…!?」

 

「お久しぶりですね。ダルモア卿…」

 

「い、生きていたのか…」

 

「ええ。残念ながら、ね」

 

ベルジェはニッコリと笑う。

 

 

「貴方ともあろうお方がこんな小さな家に何の御用でしょう?」

 

「…出してもらおうか…『生命の水』を!!」

 

「何のことでしょうか?」

 

「とぼけるなっ!!そこに居るのはわかっているんだ!!」

 

「…『生命の水』を手にしてどうするつもりです?」

「勿論、国に持ち帰り、我が国王へ献上…」

 

「…するワケねぇな」

 

「な…っ!?」

 

「ですね…」

「ヘンタイだもんね…」

 

グレンにベルジェとアルマも同意する。

 

 

「悪リィが、アレはヘンタイにやるワケにはいかないんでな。ヘンタイはさっさと帰って大人しく●●でも××ながら□□してな!!」

 

ベルジェはグレンの言葉に、黙って素早くアルマの耳を塞いだ。

 

「??」

 

 

「コホン…とりあえず…ここにあろうがあるまいが、貴方に渡すわけにはいきません。お引き取り下さい」

 

 

「うるさいっ!!さっきからヘンタイヘンタイと…っ!!力付くでも…」

 

「できるの?ボクたちに勝てると思ってるの?ヘンタイおじさん」

 

「ガキ…っ!!…っ!?」

 

アルマがゆっくりと帽子を脱ぐと、熊の耳が姿を現す。

 

「アルマ!!」

 

隣のベルジェが驚き、焦るが、アルマは真っすぐとダルモアを見据えている。

 

「そうだよ。ボクは人熊…しかも、デュカスタン国の王子、アルマ・ヘネシー・デュカスタンだ」

 

「な…っ、な…んだ…と…!?」

 

 

「ふふっ…びっくりしたでしょう?人狼の王子と人熊の王子が仲間だったなんて…」

 

 

「お…王子…お気は確かか!?」

 

「は!?その言葉、ヘンタイには言われたくないな…」

「熊と狼とで争ってるヒマなんかないんだ…!!闇が…魔族が、この世界を滅ぼそうとしてる…!!」

 

「ば、バカな…!!異世界の魔族がこちら側にやって来るなど…!!」

 

「ウォルフシュミット王はまだ気付いてないの!?この世界に魔族の手が迫っている事を…!!」

 

 

-25ページ-

 

 

やみのちから

 

やくそくの ち

みるも おぞましい

のぞみ なき せかい

ち の においが たちこめる

かみ に みはなされ

らっか してゆくのは…

 

 

-26ページ-

 

「デュカスタンの王妃が謎の死を遂げたのは知っているだろう?王妃は魔族の化身だった。そしてアルマの姉、王女が魔族に魂を売った。魔族のこちらへの侵略は着々と進行している。とにかく時間がない…」

 

グレンは驚き呆然と立ち尽くしているダルモアに説明する。

ベルジェはグレンのそれに、協力を仰ぐような口調で付け足した。

 

「早急に熊、狼、両国の王にお伝えして同盟を結び、対策を取らなければ…このままだとウォルフシュミットもデュカスタンも…この森も…すべてが闇に支配されてしまう…!!」

 

 

「…な、何が何やら…どういう…」

 

「とにかく、君はすぐに国に帰ってウォルフシュミット王に伝えて!!ボクもお父様に伝えに行く!!」

 

 

「お前ら…魔族に、立ち向かうつもりか…!?正気か!?ヤツらは神の一族だぞ!?次元が違う…勝てるはずがない!!」

 

「…だからって、俺たちは黙って見てんのかよ!!ヤツらの言いなりになんのかよ…っ!!」

 

「勝てる可能性が全く見えない戦など…無駄なだけだ!!」

 

 

 

「だれが…可能性ゼロだって決めたんだよ…っ!?」

 

 

 

一同が待ち望んだその声に一斉に振り向く。

 

 

「…っ!!」

 

「ロゼ!!」

 

 

扉の前に立っていたのはロゼだった。

 

 

「可能性なんか作ればいいんだ!!ほんの少し…チョコひと欠けらの可能性があっても、全然なくても、オレはあきらめない!!この世界には、だいじなひとがいるから…っ!!」

 

 

「…なんだ…このガキ…」

 

 

「オレが『生命の水』だよ」

 

 

「…っ!?な…っ!こんなへんてこりんなガキんちょが…『生命の水』だと!?」

 

「へ…へんてこりん…っ!!ヘンタイに言われたくないよっ!!」

 

「ぐ…っ…」

 

「さあ!!早く王様に伝えて!!アルマのパパと力を合わせて…」

 

「…くくく…自らノコノコと名乗り出てくるとは…バカなガキだ…」

 

「…っ!?ロゼ!!」

ロゼを引き寄せようと伸ばしたベルジェの手が空を掴む。

 

「…っ!!」

 

一瞬のうちにダルモアに腕を取られ、壁に押さえ付けられてしまった。

近づくダルモアの顔にロゼは反射的に顔を背ける。

 

「…ほう…間近で見ればなかなかに可愛らしい…」

 

「は…離せ…っヘンタイ…っ!!」

 

「王子が溺れそうになるのもわかりますな…どんな味がするのか、ワタクシにも分けて頂きたいですなあ…『生命の水』とやらを…」

 

「や…っいや…だ…っ!!やめ…っ」

 

-27ページ-

 

ダルモアは片手でロゼの顔を無理矢理正面に向かせると、口を開く。

抵抗しようとするが大人の男の力には敵わない。目をギュッとつぶる。

 

 

 

ガッ…!!

 

 

 

「むごっ!?」

 

 

「ハイ、そこまでー」

 

 

ロゼが目を開くと、そこには、後ろからダルモアの口に太い木の枝を噛ませたグレンが立っていた。

 

 

「なるほどねぇ…皆にヘンタイと言われるワケだ」

 

「むごっ!!んがぐぐ!!」

 

焦るヘンタイ、ダルモアにロゼがここぞとばかりに足で急所を蹴り上げた。

 

「んがあっ!!!!!!!!!!」

 

ダルモアは涙目である。

 

「ふんっ!!ざまーみろっ!ガキだからってナメんなっ!!」

 

ロゼは素早く避けるとヘンタイダルモアに向かって、あっかんべーをする。

グレンは必死で笑いを堪えているが、一方のベルジェは正反対の恐ろしい顔つきだ。

ロゼを喰おうとするダルモアをすぐさま止めようとしたところをグレンに阻止されたのだ。

 

 

「…ってゆっか…っ!グレン!!オマエ…っ!なんでじっと突っ立って見てたんだよ…っ!!!」

 

「…いや…お前がどういう反応すんのかなーってな」

 

「あ…有り得ませんっ!!王子…っ!!ロゼにこんな恐ろしい思いをさせて…っ!!」

 

ベルジェはわなわなと拳を震わせて怒り心頭だ。

グレンはそれをも楽しげに見ながら言う。

 

「フ…。これから先はこんなモンじゃすまねぇぞ?お前が『生命の水』である以上、こんな事態はいくらでも起こりうる。俺達が居れば助けてやれるが、お前一人だったらどうするつもりだ…?その覚悟はできてんのか?」

 

 

「…っ!!」

 

 

ロゼは黙ってしまう。

 

 

そうだ…

 

『生命の水』は本能的に全ての人熊と人狼を引き寄せる…

グレンはそれをわかっててオレに教えようとして…

 

 

「グレン…ごめん…ありがとう…」

 

 

「ふ…っ、まあ…お前がイヤがって抵抗する姿が見れてよかったがな」

 

 

「…ヘンタイ…!!グレンのへんたいぃぃーっ!!!!!!」

 

ロゼは真っ赤になってグレンにダダっこパンチを繰り出す。

 

 

「ふふ…二人はほんとに仲良しさんだね」

 

「……(王子ぃぃぃっ!!!!)」

 

 

一方、完全に蚊帳の外になってしまいつつあるヘンタイダルモアは、ロゼの蹴りが余程強烈だったのか、まだ地面に倒れ込み、うずくまったままだった。

 

 

 

―――続く・・・

 

 

説明
★腐女子&腐男子向け★
ショタ好き、けもみみ好きならなお良し(笑)

元気少年ロゼと人間を喰らう狼や熊達のラブコメ×シリアスな不思議物語☆

3巻です(^ω^)

★ただいま連載中★
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オリジナル   ショタ 少年 メガネ 擬人化 BL ボーイズラブ けもみみ 

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