隠し事
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3月の下旬、まだ寒い空気が残る季節。

「せんせーーーい」

風浦可符香はその特有の幼い声色で窓の奥にいる望に向かって手を振る。

糸色望は窓を開け少女の声に応える。

「風浦さんじゃないですか、一体どうしたんですか?」

外にいては寒いだろうと望は可符香を部屋の中に招き入れる。

「一体何の用事があるのでしょうか?」

望は少し警戒をしながら可符香に用件を聞く、なぜなら彼女の行動に関わってしまうと

何か災難に巻き込まれるからだ。

「先生、何をそんなに身構えているんですか?」

「あなたと関わるとロクな事がありませんからね、そんなことが毎回あるのでは警戒するなと言うの

は無理という話でしょう!」

そんな望を見て楽しそうに言う

「でも先生そんなに嫌がってはいませんでしたよね?」

「嫌がってましたよ!」

「本気で断ろうと思えば断れる時もいっぱいありましたよね?」

「うぐぐっ…」

負けじと反撃したが痛いところを突かれ言葉が出なくなる。

結局のところ望は彼女に振り回される日々を楽しく思っているのである。

(やっぱりこの子には勝てそうにおもえません…)

「いやだなぁ、先生が一度でも私に勝てるわけありませんよ」

「人の心を読まないでください! 大体あなたは…」

「そうそう、この近くに遊園地があるんですよ」

輝いた笑顔を見せながら広告を望に見せる。

「私の話聞いていませんね…」

(おや…?この遊園地は…)

「遊園地ですか、いいですね」

「せっかくの春休みなので明日皆で行こうと思っているのですが先生もどうですか?」

「そうですね、どうせ暇ですし御一緒させてもらいましょうか」

「そうですか!では楽しみにしていますね」

可符香の無邪気な笑みを見て望は優しい笑みをする。

望は外を見るとすっかり景色が暗くなっているのに気付いた。

「おっともうこんな時間ですね、あなたもそろそろ帰ったほうがいいんじゃないですか?」

「そうですね、先生それでは遊園地で会いましょう」

可符香はうれしそうにくるりと回りながら帰っていった。

望はその後ろ姿が見えなくなるまで外を見つめていた。

「さてっ、そろそろ小森さんが夕飯を作って待ってくれている頃でしょうね」

望は部屋の窓を閉めて宿直室に戻っていった。

 

 〜〜〜〜〜 当日 〜〜〜〜〜

 

「いやーやっぱり春休みなので人が多いですね」

望は約束の1時間も早くやって来ていた。

少し経って見覚えのあるクロスのヘアピンを付けた少女が目に入る

「あっ、先生ずいぶん早いんですね」

「ええ、遅れてしまうのは申し訳ないですからね」

(実は楽しみで早く来てしまったとは死んでもいいません!)

可符香は望を見て悪戯な笑みを浮かべた。

「あら先生そんなに楽しみだったんですか?」

ぎくっ!

「先生はやっぱりわかりやすいですね」

「言わないでください…もう泣きそうです……」

可符香は図星を突かれすっかりうなだれている望を見て満足げに笑っていた。

そんなやり取りを続けているうちに時間はすぐに経ち、次々と2のへの仲間たちが集まってきた。

楽しそうに奈美が言った

「まず最初にメリーゴーランドに乗ろうよ」

「最初にメリーゴーランドとはつくづくあなたは普通なんですね」

「普通って言うな! じゃあ先生はなにがいいんですか?」

望はチラリと近くにあるメリーゴーランドを見た。

「少なくともこの年でメリーゴーランドは避けたいですね想像するだけで悲しくなって来ます」

「確かに小さい子供たちの中に一人だけ大人がいるのは少し嫌ですね…」

奈美は想像して少し表情を歪めた。

しかしそんな時に悪魔の一言が

「そんな事ありませんよ、ぜひ乗ってみるといいです、きっと可愛いですよ」

「うーん…そうかもね!」

「アリアリアリ…」

可符香の言葉に2のへの全員が賛成した。

「えっ!何をいっているんですか!?」

望の顔がどんどん青ざめていく。

「これはいつぞやのアリアリ詐欺です!だまされちゃいけません!」

しかし望の言葉に耳を傾ける人はいなかった。

「い、い、いやーーーーーーーーーーーーー!」

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

一人でメリーゴーランドに乗せられ、挙句の果てに千里によってキッチリとカメラにも収められた

望は遊園地の中心にあるベンチでめそめそと泣いていた。

「機嫌直してくださいよ」

可符香がとなりに座って微笑んだ。

「嫌です!大体あなたが言いだした事じゃないですか」

「でもとっても可愛かったですよ、恥ずかしそうな顔をして馬にまたがる先生」

「言わないでください!!」

可符香は『絶望したっ!』と今にも叫びそうな望を見て何かいいものがないかと周りを見渡すとある

乗り物が目に入った。

「先生、一緒にあれに乗りましょうよ」

そう言った可符香の声に望は顔をあげるとこの遊園地の一番人気の観覧車があった。

「ちょうど他の皆は別の乗り物に乗っているようなので」

望はその言葉にふと気付いた。

(風浦さんは、私のために何も乗らずに我慢していたんですか)

そう思うと少し申し訳ないような、気恥ずかしいような気持ちになった。

少し機嫌を直した望は可符香の手を握り誘われるがままに歩いて観覧車へ向かった。

可符香は顔をほんのり赤らめて、望には教えていない広告に書かれていた文字を思い出していた。

 

 

二人で乗る事によって自然と向かい合うような立ち位置になって座った。

やっぱり観覧車で二人っきりは望でも意識してしまうのかあまり可符香のほうを見ようとしない。

観覧車の高さが半分より高くなった時、可符香が沈黙を破った。

「先生、実はこの観覧車にはちょっとした噂があって…」

「この観覧車の一番高いところで二人同時に告白をしたらその相手と幸せになれる…でしたっけ?」

「えっ…!」

なんで知っているのかと可符香は首をかしげる。

「いやぁ、実はこの遊園地には一回来たことがあるんですよ、もちろんその事も知っていました、私から

誘うつもりだったんですがまさか先に誘われると思ってませんでした」

可符香はすぐに落ち着きを取り戻し望をみて笑った。

「先生は、チキンですからね」

「あはは…これは手厳しい、ですが今回は逃げませんよ」

そう言っているうちに観覧車の頂上は近付いてくる。

「では、風浦さん私の正直な気持ちを聞いてください」

可符香は望を見てゆっくりと頷いた。

「先生も、私の気持ちを聞いてください」

 

「私は風浦さんの事を愛しています」 「私は先生の事が大好きです」

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「先生に可符香ちゃん一体どこに行ってたんですか?」

ずーっと探してたんですよ、何してたんですか?と言われ、まさかさっきあった事を話す事が出来るわけなく

二人は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。

話を少しずつそらして何とか誤魔化し、全員が解散した後に

(ずっと一緒です、離したりなんかしませんよ)

望はそう心の中で呟いた。

すると可符香が満面の笑みで望を見て

約束ですよと言った

少し驚いた表情をして望は

あなたに隠し事はできませんねと苦笑いをして可符香に優しい笑みを見せた。

 

 

 

 

 

……『隠し事』……

少女が考えついた可愛い隠し事

でも辛い時は話してください…

あなたの傍にずっといるんですから…

 

説明
自分が初めて書いた話です。
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タグ
さよなら絶望先生 糸色望 風浦可符香 

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