雲の向こう、君に会いに-魏伝- 二章
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「恐い夢を見た・・・」

 

 

 

そう言って、枕を抱きしめながら私に言う姉者

 

 

半べそをかきながら・・・

 

 

あの勇猛果敢で知られる夏侯惇がこのような表情をするなんて、恐らく誰も思いもしないだろう

 

 

 

ああ、まったく

 

 

 

姉者は可愛いなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・と、普段ならば言うところだ

 

いや、今だって充分に可愛い

 

可愛いんだがな

 

 

 

 

「すまん姉者、一回殴っていいか?」

 

「え? いったい何をいってぶ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流石の私も、まだ日が昇ってすらいない時間にそんな理由で起こされたとなれば・・・怒りたくもなるというものだ

 

いつかの北郷の話を思い出し、苦笑する・・・これが私の限界か、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》

二章 春想い、秋焦がれ

 

 

 

 

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「で、なんなのだいったい・・・その恐い夢というのは」

 

目が覚めてしまったので、部屋に明かりを灯し姉者を椅子に座らせる

その向かいに私が座り、姉者へと話を切り出した

 

実際、気になる

 

あの姉者が、私の部屋に駆け込んでくるほどの恐い夢とやらが

 

 

「ああ、そうだ

それがな・・・あ」

 

 

私に聞かれ、語りだそうとした姉者の口が・・・ピタリと止まる

 

 

「ぅぅ・・・」

 

 

そしてあろうことかそのまま、顔を真っ赤にし俯いてしまった

 

 

いったい、どんな夢を見たんだ?

ま、ますます気になってきたのだが・・・というか、姉者はやっぱり可愛いなぁ

 

 

 

「あ、姉者・・・よければ、聞かせてくれないか?」

 

物凄く気になるし、とは言わない

 

私に言われ、姉者がゆっくりと顔をあげる

その瞳が、潤んでいた

 

 

「だ、誰にも言わない?」

 

「ああ、もちろんだとも(まずい、稟ではないが鼻血が出そうだ)」

 

「そ、そうか・・・なら、言うぞ?」

 

「ああ」

 

 

そう言って、何度か深呼吸をする姉者

 

吸って吐いてを繰り返すこと数分・・・覚悟が決まったのか、姉者がまるで『戦場』にでも向かうかのような鋭い目つきで私を見つめてくる

 

 

す、凄まじい気合の入れようだ

 

 

 

「い、言うぞ!?」

 

「ああ、こい姉者!」

 

 

自分でもよくわからないままに、私達は椅子から立ち上がり見つめあう

 

 

そして、ついに姉者が口を開いた

 

 

 

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、北郷が・・・一刀が消えてしまう夢だ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の予想を遥かに上回る、姉者の性格を考えても想像することすらできなかった内容だった

 

 

 

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「・・・は?」

 

 

ガツンと・・・まるで季衣の持つ反魔にでも殴られたのではと錯覚してしまう程の衝撃

私は、言葉を発することが出来なくなってしまった

 

だが姉者はそんな私の様子に気づかぬまま、話を続ける

 

 

 

「どこか・・・綺麗な川原の前

華琳様の背に向かい微笑みながら、一刀の姿が少しずつ消えていくのだ」

 

 

 

姉者が、たった一人の男のことで・・・このような表情をするところを、私は見たことがあっただろうか?

 

 

いや、ない

 

 

これが華琳様の夢というのならばわかる

 

だが、姉者は言った

 

北郷が・・・一刀が消える夢を見たと

 

そしてそれが、『恐い夢』なんだと

 

 

「私が何度逝くなと言っても、アイツは聞いてくれない

私を見てくれない

その間にも、どんどんとアイツの体は消えていって・・・」

 

 

ポロリ・・・姉者の瞳から、雫がこぼれる

 

姉者が、泣いている

 

 

一人の男を、【北郷一刀】という男を想って

 

 

 

 

「だけどな、最期・・・本当に消えてしまうその直前、アイツは私を見たんだ

それから、こう言った

  『ごめん・・・華琳を、頼む』って

悲しそうに、普段のアイツからは想像もつかないような苦しそうな表情で・・・言ったんだ」

 

 

言って、姉者は・・・子供のように泣いた

 

ポロリと、零れたのは姉者の涙?

 

いや違う、これは・・・私の涙だ

 

 

なんだ、そういうことか

 

 

 

「いつの間にか・・・こんなにも、一刀の存在が大きくなっていたんだな」

 

 

 

私の中にも、姉者の中にも

アイツは、こんなにも広く場所をとっていたのだ

 

それこそ、私と姉者のように

 

まるで己が体の一部のように・・・こんなにも、想っていたのだな

 

 

 

「姉者・・・」

 

「ぅ・・・?」

 

 

未だ泣き続ける姉者に向かい、私は声をかける

 

姉者は泣きながらだが、顔を上げてくれた

 

そんな姉者の手をとり、私は微笑む

 

 

そして、こう言ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ姉者・・・一刀のところへ」

 

 

 

 

 

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「なぁ秋蘭・・・こんな時間にいっては迷惑ではないか?」

 

「何、あいつのことだ・・・受け入れてくれるだろう」

 

 

多少、さっきの私の気持ちを味あわせようなどとも思わなくはないが

 

まぁきっと一刀のことだ

 

最初は驚きこそするだろうが、すぐにまたあの笑顔を見せてくれるに違いない

 

 

「ふふっ・・・」

 

「秋蘭」

 

「ああ、なんでもない

気にしないでくれ・・・っと、ついたな」

 

 

灯りが照らすのは、一刀の部屋の扉

その前に立ち、二人で顔を見合わせる

 

 

「とりあえず、『のっく』をするべきだろうか?」

 

「いや、どうせ寝ているだろうしな

このまま入ろう」

 

「う、うむ・・・そうだな」

 

 

姉者の言葉を合図に、私は扉へと手をかける

 

 

そして・・・ゆっくりと、その扉を開いた

 

 

瞬間、照らされる一刀の部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中心に・・・倒れる一刀の姿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・?」

 

「かず・・・と?」

 

 

 

 

 

 

 

時間が・・・止まった

 

そのような錯覚に襲われる

 

体が動かない

 

 

 

「ぅ・・・」

 

 

その状態を脱出する切欠となったのは、小さな声

 

倒れている一刀から聞こえた、呻き声のようなもの

 

 

「「一刀!」」

 

 

私達は同時に駆け出していた

そしてすぐさま、一刀の体を抱き上げる

 

 

「一刀、しっかりしろ!」

 

「あ・・・れ? 春蘭?」

 

「私もいるぞ」

 

「秋蘭まで・・・?」

 

『どうしてここに?』と、一刀は頭をおさえながら言う

それからチラリと周りを見つめ、何か思い出したかのように表情を歪めた

 

 

「俺・・・もしかして、寝てた?」

 

「寝てた、というよりも倒れていたぞ

部屋の真ん中で」

 

「・・・まじで?」

 

 

その言葉に、私達は揃って頷いた

一刀はそれを見て、困ったように笑っていた

 

 

「あはは・・・ごめん

なんか疲れてたのかな?」

 

「体は、大丈夫か?」

 

「ああ、うん

なんともないよ」

 

 

よかった

どうやら疲れて、そのまま眠っていただけらしい

全く・・・心臓に悪い

 

 

 

「立てるか?」

 

「うん、大丈夫だ」

 

 

 

 

『ふう』と、一刀は自分の力でその場に立った

そして窓から外を見つめ、深い溜め息をついていた

 

 

「まいったな・・・っていうか、二人はどうしたの?

こんな遅くにさ」

 

「ああ、それは姉者がな・・・」

 

「秋蘭!!!」

 

 

ああ、慌てる姉者も可愛いなぁ

 

まぁ、言えるわけがないか

 

 

一刀の夢を見て、恐くなって来た・・・なんて

 

 

 

「何、昨日の礼がしたいと姉者がな」

 

「春蘭が?」

 

「ああ、なぁ姉者?」

 

「う、うむ! というわけだ、ほら早く部屋の灯りをつけろ!」

 

「俺は、まぁいいけど・・・さっきまで寝てたし

けど、二人は大丈夫なの?」

 

「問題ないさ」

 

「うむ、さぁ今日は飲み明かすぞ!」

 

「ええ!? 待って、いつ酒盛りの話になったの!?」

 

「いいから付き合え! あと、酒を出すんだ!」

 

「しかも俺持ち!? お礼はどこいったんだよ!?」

 

「ええい、細かいことなど気にするな!!」

 

 

 

 

姉者が・・・笑顔になった

 

たった一人の男が、姉者の心をこんなにも満たしてくれている

 

 

無論、私の心も・・・だ

 

 

 

「む?」

 

 

ふと、私の足元

一枚の紙が落ちていた

 

私はソレを拾い上げる

 

 

そこには、書き殴ったような字で・・・こう書いてあった

 

 

 

 

『味× 嗅△ 触△ 視○ 聴○』

 

 

 

「これは・・・暗号か何かか?」

 

意味のわからないその紙の内容に、私は首を傾げる

ふむ、天のことか何かだろうか

 

まぁいい

 

 

とりあえず今は・・・

 

 

 

 

 

 

「ほら飲め一刀!!じゃんじゃん飲め!!」

 

「飲めって、これは俺のなんだけど・・・」

 

「何か言ったか?」

 

「イエ、ナニモイッテマセン・・・」

 

 

 

 

あの幸せな光景の中、この身を漂わすとしよう

 

これからも続くこの幸せを願い、一緒に笑うとしよう

 

 

 

 

紙を机の上に置き、私は歩き出す

 

目の前に広がる幸せに、頬を緩ませながら

 

 

 

 

 

 

一刀・・・これからもずっと、姉者と私の心を温かな想いでいっぱいにしてくれるのだろう?

 

 

 

 

 

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あとがき

 

秋蘭のターンww

次回は三羽鳥の予定です

ていうかあれですね、やろうと思えば人間できちゃうもんですね

 

流石にもう限界ですが

 

あ、あと作中に出てきた『暗号』ですが

わかっても、心の中に仕舞っておいていただければ幸いですww

多分、すごく簡単なんでww

 

 

それではまたお会いしましょうw

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
一章を書いてから、少ししてから
『ああ、今ならノリでもう一話いけんじゃね?』みたいな感じでPCを起動ww
まさか一日で二話いけるなんてww
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コメント
もう、味を感じないのか・・・(valeth5)
じわじわ死んでいく感じで恐怖心が凄まじいと思うのに、それを隠して空元気をして・・。かわいそ過ぎる・・・。(風見海斗)
うう(readman )
なぜか、もう涙腺が(アルトアイゼン)
この先を知るのが何か怖い;(深緑)
最初は2828してたのに冷や水ぶっ掛けられた気分(BX2)
『暗号』に関してなんですが、厳密に言えば・・・実は、少し違うんですwそれも、これからの話で書いていきます(月千一夜)
おかしいな…最初はにやにやしたはずなのに…視覚と聴覚まで影響がくると隠し通すのはきびしくなってきますな(よーぜふ)
味覚無しってことで凪・春蘭・流琉あたりでばれそうなヨカーン。これは一気に消えちまうより怖い消え方かもしれんなぁ(闇羽)
味覚がないから、そのあたりでばれちゃうのかな? 次回更新に期待します(ぱろろ)
味覚×ってなってしまうと流々涙目だな。今後の展開が気になる。(shimon)
一刀、五感が・・・そうか、内緒で華陀を探した方がいいんじゃないか?・・・一刀にはこれからの選択を後悔して欲しくはないな。(サイト)
原作でもありえたかもしれないカウントダウンの表現ですね。。。(kurei)
マジ、ヤバイじゃないか・・・でも味覚がダメって考え方によっては良いことなのか?(春蘭の料理とか凪の超激辛料理が普通に食える)(シュレディンガーの猫)
五感が衰えてきてるのか…(北斗七星)
味がわからなくて、においと触った感覚がいまいちわからない、見るのと聞くのは大丈夫、て感じかね?(zendoukou)
あの暗号はやばい気が できることなら少しでも長く幸せな時のあらんことを(neko)
できることなら、幸せなまま終わってほしいです。(t-chan)
暗号が何なのか気になる。(poyy)
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真・恋姫†無双  北郷一刀 春蘭 秋蘭 

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