リトバス短編コンテスト参加「手引書!」
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恭介「俺達、学校に何を残せるんだろうな……」

バカミッション臭プンプン。昼休みの食堂、激辛麻婆

豆腐のカプサイシンが脳にまわったな、と理解した。

理樹「何も残さなくて、いいと思うよ。」

なるべくさりげなく、そう助言してみた。

謙吾「恭介、話しの続きを聞こう。」

真人「俺も参加するぜ。謙吾が残せるのは、小手や面

のツンとくる臭い宮沢家バージョンだけだからな。」

ちょこんと水面に落とした最初の1投で、バカ2尾いっ

ぺんに釣れた。それぞれ、ちょっと離れたところにい

たのに、プレートを手にやってきた。

鈴「で、具体的には何を残すのだ?」

これで俺は詰みだな。投了するか?その苛立ちから、

鈴に「食堂に猫を連れてくるな」とクレームをつけた。

恭介「俺は、もっとも充実すべきこの3年間。思うこ

とは何も出来なかったなと、悔やんでいるんだ。」

いや、恭介は誰よりもやりたい放題だった。

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恭介「始めて、そして一度きりの高校生活。右も左もわからず、気が付けば卒業。」

謙吾と真人が黙って頷くが、常に制限解除であるお前らに、俺は同意できない。

恭介「そこで、誰もが充実した高校生活を送れるよう、手引書を作ろうと思う。」

お前らに書く資格は無い。だが危惧すべきは、説得力に満ちた文章で書かれた場合。具体

的には恭介と謙吾が監修した文章だ。信じた後輩の3年間を台無しにするにとどまらず、

悪意無く第3者に被害を与える、こいつらの正統後継者をつくり出してしまうのでは?

理樹「な、なぁ。お前らがこの学校でやってきたことを、ちょっと思い出してみなよ。」

謙吾「なるほど、自分達の経験から手本足りえる何かを見出すわけか。」

違うぞ。俺は、目を瞑り記憶をたどっているはずの4人に、真人と謙吾の喧嘩騒ぎなど事

件の数々を念で送った。リトルバスターズは反面教師……たのむ、気がついてくれ。

一番に目を開けたのは真人。悟りを開いた聖人のような表情。

真人「全ての高校筋肉がムキムキと輝く、そんな未来を見た。」

俺は心底がっかりし、「人間ってな、筋肉以外にも骨や脂肪や脳などがあるんだぞ。知っ

てるか?」と言った。過去を思い出せつったろ!?未来を捏造してただけか!?だが、この様

子なら提案する内容はトレーニングメニューだろう。安全だと、胸をなでおろした。

真人「短期間で筋肉を強化するため、危険な禁止薬物の使用もやむないか。」

なでおろした胸をかきむしり、気が付けば「謙吾たのむ!!」と叫んでいた。

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木刀で真人の首筋を痛打。油断していたらしく、気絶させることに成功した。

鈴「にゃぁぁん。」

虚空の一点に幻想を見ているようで、頬を赤く染めうっとりとしている。

鈴「300匹を超える学校大隊が、新たな世話係に可愛がられている。すてきな未来。」

お前も妄想の未来か!皆、前向きすぎるのか、それとも過去を忘れたいのか。ところで学

校大隊?この学校で飼っている大量の猫たちってことか?たぶん無断なんだろうな。

俺は鈴の両の肩を握りしめ、ちょっと驚いた丸い目を射抜くように見て言った。

理樹「学校大隊はお前が卒業するまでに、他の場所に全て移すんだぞ。」

鈴「難しいな。極東猫司令部の集約プランに便乗して、学校大隊を愁琶辺キャンプ場へ移

設する話があったのだが、前世話係が反故にしてしまったのだ。その後、移設計画は復活

したが、前任者の対応が悪く、後任の私は非常に発言しにくい立場にあるのだ。」

理樹「なんで高度に政治的なんだよっ!!安全保障上の問題なのか!?」

恭介「鈴、相手に合わせてレベルを下げて話さないと、理解してもらえないぞ。」

いっけなーいと肩をすくめる猫娘に、正直イラっとした。話題を変えよう。

理樹「最近、麻婆豆腐をよく食べるね。その辛さをご飯もなしでさ。」

恭介「ああ、実は前世で好物だった。性格も前世の反動……なーんてな。」

真人「ところで、手引書の俺担当分は紙に書いて、理樹に渡せばいいのか?」

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なぜ俺?しかし、もう目をさますとは回復が早いぞ。謙吾、手を抜いたのではあるまい

な?顔を向けると、壁際で刀を抱えたまま座禅を組み、完全瞑想モード。まぁ、このまま

放っておけば無害か?佐々美が隣に座り、吐息がかかるほど近くに顔を寄せる。手にお茶

碗。謙吾の意識は俗世から遮断され、気付いていない様子。佐々美は鼻息荒く箸を運ぶ。

佐々美「おかわり3杯いけるわ。」

ご飯がおいしそうで、なによりだ。呆れ顔の俺の肩を恭介が突っつく。俺の役目は、皆が

書いたメモの清書だという。俺だけアイディアを出す気が無いと了承させられた。ではパ

ソコンで書いてメールで送るというと、そうではないという。

恭介「清書する場所はB棟の南面だ。ロープを一本渡す。ぶら下がって書いてくれ。」

B棟は、4階からセットバックした5階建ての、背の高い校舎だ。

理樹「校舎に書くって正気か!?第一、ぶら下がりながらって、ムリだろ!」

真人「B棟は校門入ってすぐ、右手にドーンと目に入るからな。嫌でも読むだろーが。」

謙吾「しかも南面は室内階段で、窓がほとんど無く、文字を書くのに都合がよい。」

恭介「ムリってことはないだろ?リハーサルがてら、ちょっと飛んでみるか。」

担ぎ上げられ、B棟の屋上に強制連行。縄は俺の足首と手摺をつなぐ。

恭介「じゃ、いって来い。」

たかが17mと背を蹴られ、生まれて始めてのバンジージャンプ。轟く悲鳴に4人合掌。

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