さくら☆ぼっしぶる!
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うげ、本当に気持ち悪い……。なんで新入生の俺にこんなに酒飲ませるのかね寮の奴らは。もう飲みすぎて吐きそうだ。なんでこんな馬鹿な奴らとこんなに酒を飲まないといけないんだ。飲み屋から出たのがもう1時。他の先輩とかはまだどこか飲みに行くとか言いだしたから逃げてきた。ふらふらになりつつ歩く深夜の公園。この公園は真ん中に大きな桜の木がある。この木は、俺が生まれたころにはもう桜の花は咲かなくなり、ただその幹が残るだけになった。しかし、そんな木であっても、公園の街灯に程よく照らされたこの夜桜は、なんだか妖しい雰囲気を醸し出している。そういえば、何かの本では「桜の木の下には死体が埋まっている」なんて言われてたけど、そう言われても納得しちゃう程何とも言えないオーラを放っている。なんか、幻想的というか、厳かみたいな。ただ、普通に見たら見とれるような大木も、今は何とも思えない。というか気持ち悪い。もう限界。ちょっとこの木の下に吐いちゃおうか……。

「こぉら?!こんなところで吐いたりするなぁ?!」

ん?だれかなんか言ったか?でも、誰もいないし、気のせいだなこれは。というか吐かないと死ぬぞこれは。もう我慢できねぇ……。

「だぁかぁらぁ?!ここで吐くなっていってるでしょお??!?」

そんなこと言ったって限界なもんはしょうがねぇ。もう無理。地面は土だし、養分になってこの桜も育つだろ。ウプ、さすがにもう……エレエr……

「吐くなってばぁ?!」

くぎゅううぅぅぅぅぅ!

「ぐ、ぐげ、ぐげげげげげげえぇ!」

な、なんだなんだなんだ?何がどうなってアルファがベータでかっぱらったんだ!?というか誰だ首絞めた奴!もう少しで雲の上の人になるところだったじゃないか!

「あんたが悪いんだからね!こんなところで吐こうとするから……」

声の発するところを反射的に見る。そこには……

「あ、あに゛ゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!お、おば、おばばばばばば……」

「もう、『おばけ』なんて、そんな呼び方しないでよ。私は、この桜の木に憑いている幽霊なんだからね!!」

「そ、そんなことより、おまえ、あ、あしは??」

「はい?そんなもの当然ないわよ?幽霊なんだから」

改めてその「女の子」の足元を見てみる。やっぱりない。そうかそうか、幽霊だったんなら足がなくて当然だな。納得納得……

「そんなもん納得できるか?!!」

この俺を脅かすなんて大した度胸だ。この女、後悔させてやるぜ!ぐへ、ぐへ、ぐへへへへへへ……

「きゃぁあぁぁぁ!やめてぇぇぇえ!けだものぉおおぉぉ!」

俺が触れるはずだったやわ肌。しかしその感触を得られぬままに生じる衝撃。そこは堅い土の地面。

「こ・れ・で、わかったでしょ!私は、幽霊なの!」

うぅむ、これは納得しにくいが、納得せざるをえない。事実、その娘をすり抜けて地面に激突したわけだし。そして顔が痛いわけだし!・・・というか、おばけが見えるとかどうなったんだろうな俺は。今まで霊感とか強いとは思ってなかったんだがな。

「なぁ、おまえ、なんでこんな所にでt……」

「ねぇ、遊ぼ!暇だしさ!」

……暇だからなのか。そーなのかー。それだけの理由で首絞められていろいろ痛い目に遭ったのか……。……ん?そういえば、あいつはおばけなのに、なんで『俺に触れたんだ?』

「ああ、それね?。幽霊って、自分の意思で自分の体を具現化できるんだって。だから私はあなたに触れるし、あなたも私を見ることができるってわけ。わかった?」

なんというご都合設定だこれは。もう少し考えて書けよ作者。まあいいけどさ。謎が一つ解明したし。

「と、ところで、お前の名前は?」

「もー!忘れちゃったの?まあ、いいわ。私は櫻井彩花。アヤカって呼んでね☆」

え?忘れちゃった?俺はこんな奴は見たことはない。というよりは女にほとんど縁のない生活を送っていた。だが、あいつは俺を知ってるらしい。ただ、何か感じる。あったのは初めてじゃない。そう思ってしまう感覚。気のせいだよな……?でも、もしかしてどこかで会ったのか?でも、幽霊に会うことなんてこれが初めてだし……。

「ねぇ、そんなことより、早くあそぼ?夜が明ける前に!」

ああ、そうか。あいつの人懐っこさがそういうふうに感じさせるのか。まあ、酔って頭が痛いのも治まってきたし、遊んでもいいかな。なんかさっきの痛みで眠気も飛んじゃったし。

「よし、遊んでやるかぁ。何したい?」

「え?っと、じゃあ……麻雀?」

「いや、二人しかいないし。メンツいないぞ?」

「大丈夫大丈夫。今から呼びだすから。お?い!ちょっとこっち来て?!」

……なんかいやな予感が。あ、あの?、あやかさん?そのメンツって…もしかして…

「紹介するね。4年前にこっちに来た来た誠君と世界さん。って見えないか。まだ完ぺきに実体化できないらしいけど大丈夫だよね?☆」

いや、丁重にお断りさせていただきます!というかこっちって言ってるけどそっちは冥界でここは葦原中国ですから!その前にこのキャラは使っていいんですかそうですか。もうちょっと頭使えって作者!少しは自重しろ!

「い、いや、それよりもっと別のにしようぜ。例えば……」

「桃鉄とか?1ね」

「古!というかなんなのそのチョイスは!ここは公園で電気来てないし!また2人でやっても面白くないものだし!」

「電気なんか気合でどうにでもなるわよ!健一が自転車こぐとかして!」

「そんなの今じゃテレビでも見ねえよ!というか遊びたいんならちょっとは真面目に考えろ!」

「わかった、わかったわよ……。じゃあ、ケードロね。」

「二人だぞ?二人!鬼ごっこでいいじゃん!」

「ほ?ら警察さん?私を捕まえてごら?ん?」

もう始まってるし!なんだ?これは『あはははは 待て?♪』とかいえば言えばいいのかこれは?そんなこと絶対言わないぞ?。そんなお約束なことなんか言うもんか!

「ほ?ら、ほ?ら♪(チラチラ)」

そんなチラチラこっち見てもあんなセリフ言いませんからね!

……というか、アヤカ、本当に足速いな…。足には若干の自信があったのにな……というか浮いてる!足だけ実体化してない!早い訳だよ!これは反則じゃねえの?ちょっと、本当に、待てよ、もう、足が、動か、な、い・・・。

 

ハァ、ハァ、ハァ……。駄目だ、もう、疲れ、た…。ちょっと、休ま、セ、て…。

 

「ねぇ、健一?」

な、なんだ、こんな時に…。疲れてるから、手短に、な…。

「この桜の木、どう思う?」

「ん?どうした急に。」

「この木ね、私が生きてる頃からもう咲く事がなかったの……」

そうだったな。確か20年は咲いていない。それも枯れたわけではなく、原因は不明。その幹は健康そのものだが花だけが咲かない。そんな木だった。そういえば、この木、あいつ好きだったな……。

「私、この桜が咲いてるところが一回でも見たくて、毎年春に出てくるのね。まあ、無念とかそんなんじゃないけど。やっぱり、この木が咲いてるの、見てみたいじゃない?」

こんな大木は日本中どこを探しても滅多にないものだろう。この木が桜の花で覆われたら……。想像するだけでも圧倒されそうな気がする。花がないこの状態でもこれだけ俺を圧倒してくるのだから。

「でね、この間県庁の偉い人が来てね、この木、もう切っちゃうんだって。この公園自体つぶして、アパート建てるんだって。私、悲しくなっちゃった。だって、この木、もう見れなくなっちゃうんだよ?この木はどこも悪くないんだよ?確かに花は咲かないけど、いつか咲くかもしれないんだよ?そんな桜の可能性を潰しちゃっていいの?」

『…ぶしちゃっていいの?』

心に響く言葉。頭のどこかで繰り返される言葉。どことなく聞き覚えのある声……。

「この木だって、本当は咲きたいのかもしれないのに!なんで切っちゃうの?なんで今しか見ないで決めちゃうの?」

『…を潰しちゃっていいの?』

「この桜もね、いつ咲くかわからない。もう一生咲かないかもしれない。まあ、私には一生なんてもうないけどさ。それでも、咲く可能性が1%でもあるんなら、その可能性を潰しちゃっていいの??」

『可能性を潰しちゃっていいの?』

突然胸の奥に響いてきた声。俺が胸の奥に封印していた『声』。

 

3年前の冬。あの桜の木の根元には俺と幼馴染の女の子。

「自分の可能性を潰しちゃっていいの?」

「そ、そんなもん仕方ないじゃん!偏差値5足りねえんだから!」

「健一ならきっと合格できるよ!今からでもいいから頑張ろうよ!」

「そんな慰めなんか要らねえよ。じゃあな!」

その場をかけだした俺が彩花を見ることはなかった。高校は別のところだったが、持病が悪化して高校生活のほとんどは入院、そして高校1年の3月、ちょうど桜前線が俺らの県に差し掛かる直前に亡くなったらしい。

 

「自分の可能性…か…」

自分がなんにでもなれるとか思っていたのはいつまでだったかな。中学?高校?いや、もっと前にもう捨てていたのかもしれない。学校も、学部も全部『今の自分の学力で入れるから』選んだ。彩花と出会った幼稚園の頃、俺は彩花に誓ったっけ。「医者になって、彩花の病気を治してやる」って。あの頃はなんにでもなれるって思ってた。自分の可能性を潰したりしなかった。

 

「彩花、俺、間違ってたのかな……」

 

全部思い出した。自分の心の奥に封印していた記憶全部。

「彩花があんなに言ってくれたのに、俺は自分で可能性を潰してた。彩花を治すって約束も果たせなかった……」

「もう、やっと思い出してくれたのね。まあ、思い出してくれただけでよし!ねえ、健一?」

なんだよ彩花。俺はどうしたらいいんだ?教えてくれよ!

「私ね、自分の可能性に挑戦することって、どんなに遅くてもいいと思うの」

「もう遅いよ!もう大学入っちゃったし、今から勉強するにも時間がなさすぎるよ……」

「そんなことないよ!今からでも、やろうって気持ちがあれば…あ、見て…」

「なんだよ急に見てって……あ…」

今まで自分たちが立ってた桜の木のした。上を見上げるとそこには……。

「この木も、やっと咲いたね…他の木よりも何倍も、何十倍も時間をかけて……」

「ああ、そうだな……」

「私、最期にこの桜が咲くのと健一の元気な姿を見れて安心した!私、もう逝くね!」

「おい!ちょっと待てよ!俺、お前のことが!」

「健一!私、健一に会えて幸せだったよ!私、ずっと健一のこと見てるから!それだけ覚えておいてね!」

 

……

 

真っ白な時間。ただ時間だけが過ぎていく。その目の前にいたはずの彩花はもうそこにはいなかった。

「おい?彩花?姿消しただけなんだろ?また実体化して出て来いよ!彩花?彩花!なんで…どうして……」

そう呟く俺を朝日がやさしく照らしていた。

 

……

 

そして4月。あの桜が咲いたことによってこの街のシンボルとなり、アパート用地にするという案は廃案となった。俺は今、彩花みたいな持病を持つ子供たちを救うため、医学部に入るために勉強中。正直仮面浪人は誘惑も多くて大変だけど、自分の可能性は潰したくはないから。そのための努力はいくらでもする。まあ、それはいい。ただ……

「ちょっと健一!帰るの遅いよ!何やってんの?」

「彩花、なぜにおまえはそこにいる」

「え?、別にいいじゃない。健一がちゃんと頑張ってるか監視よ監視!」

成仏しようと思ったが、三途の川の船頭の死神がサボってたために閻魔様の裁きが受けられなかったらしい。どこまでが本当かは俺には知る由もないが。

「そ・れ・に!健一が最期に言おうとしてたことが何なのかも知りたいしね♪さ、勉強勉強!」

そんな悪戯猫のように笑う彩花を見ながら、俺は机に向かう。彩花との生活はまだまだ続きそうだ。

説明
大学に入学し、平凡な生活をしている健一。そんな彼が寮の飲み会からの帰り、咲かなくなった桜の木のふもとで吐こうとした時、サクラと名乗る女の子が現れて……?
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