変わり往くこの世界 2
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   凍える寒さといえばその通り。吐く息は白く、鼻と耳がかなり痛い。

   凍傷にならないだろうな…そう思いつつ、皮の手袋をつけた両手をすり合わせ

   両耳を塞いで少しでも温めようとする。 そのまま周囲を見回すと、

   そのまま周囲を見回すと厚着をした村人が武器を取り、狼煙の方を警戒している。

  中には子供も、桑などを持って見回っていたりもしている。

   「凄いもんだなぁ。 あんな小さい子まで…」

  思わず感嘆の息を漏らす俺の横に、爺さん…セドニーが着た。

   チェインメイルをつけているのに寒く無いのか? まるで寒さに動じない様だ。

  …何か、言いたそうな顔で俺を見…。ふむ。あまり聞きたくない言葉だった。

   俗に言う死亡フラグという部類に属するのだろう言葉。

   「セドニーさん。余りそう言うのは聞きたく無いですよ」

   軽く鼻で笑われたが、眼は笑っていない。あの先発隊(想定)の中に、

   どうやらこの爺さんの宿敵みたいな奴がいるらしい。

  それも相当に強い者だと言う事。…また頭痛の種が増えたな。

   数でも負けてるというのに、質でも負けてるのか…どうする。

   「判りましたけど、セドニーさんも負けず劣らず。違います?」

  長い事戦いから離れた者では勝ち目は無い。そう、また鼻で笑われた。

   まぁ、巧い事催涙弾食らわせて、セドニーを有利に持っていかせないとな。

  現状見るに、唯一のこの勢力の武将といった所だ。せめて火薬があれば、

   即席でニードルボムなりつくれたんだがなぁ…無いものは仕方無いか。

  …ん? まだ何か言いたげだな。俺の方を見て…視線そらした、なんだよ。

   言いたい事があるならはっきり言ってくれ、そういう視線でセドニーを

   見ていた俺。その後ろから今度はアリアが声をかけてきた。

  どうやら、妹さんの事らしい。…彼女の性格、直情径行。

   そして、漁夫ろうとするセイヴァールか、察する処、

   命令を無視して加勢に来るという可能性が高いな。と言う事は、

   時間差で武将が一人増える。そう考えていいか。だが問題はそれでも勝てる

   見込みは薄いと言う事だ。来るかは判らないがある程度想定出来る事は、

   考えておくべきだ。実践なんてものは初めてだし、臨機応変に対応出来る

   とも思えない。 …ん? 考える俺にアリアが更に言葉を連ねてきた。

  成る程。元々この村リアルトは、ある国の隻眼の女王アルヴァ。

   その者より遣わされた者達らしい。国の名はアンシュパイク。

  かつて、強大な魔物がこの大陸で暴れ狂った時、アルヴァ率いる一個騎士団が、

   それを退治したと…ん? 魔物!? いやまて魔物とかいる筈が無いだろ!

  慌てて突っ込みをアリアに入れたが、驚く事に体を鉄に覆われた巨大な獣

   が居たらしい。鉄に覆われたって…鉄!? 生物じゃないのかよ。

  というかどうやってそんな化物倒したんだよ。そう聞くと、アルヴァの傍らにある

   真紅の剣。フランヴェールと呼ばれている高熱を帯びた剣があったらしい。

  現在は高熱を発する事もない真紅の剣となってはいるが、それを垣間見た者も多く、

   どうやら嘘でも無いみたいだ…が、何か剣と魔法の世界みたいになってないか。

  その一振りは、地面に高熱の壁を創り出す…か。凄いな。

   その事に関してあれこれと聞いていると、突然、

   ザンヴァイクの駐屯地から馬の蹄、嘶きが聞こえてきた。音の方向から察する処。

  やはり正面突破の様だ。後は巧いこと罠が動いてくれればいいのだが…。

   俺達は、ザンヴァイクがくるであろう方向を睨みつけ武器を手に待ち構える事となる。

 

  

  

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森の方で何か、悲鳴というよりも馬を取り押さえようと必死な叫び。

   どうやら、巧く罠が作動してくれた様だ。本来なら光や音で馬を…がいいんだが。

  生憎と素材が無い。だもので馬には可哀想だが、

   板切れやら尖った物に刺さって貰った。森から馬だけが何頭も飛び出してくる。

  そして、それを追う様に落馬して多少怪我したのか、ぎこちない走り方でザンヴァイク

   の騎士達が飛び出してき…早!? それを確認する俺の視界に入ったのは、

  落馬した騎士達を容赦なく、大振りの戦斧で腕や足を容易く両断していくセドニー。

   この爺さん…見た感じ重装歩兵的な印象を受けるが、動きが早い!

  早いというよりも、素人目からでも一振りに無駄が無い。

   一人の右腕を両断したかと思えば、その勢いのまま背後にいた敵兵を横腹を

   薙ぎ払う。よくよく見てみると、視線が攻撃する敵を見ていない。

  次に攻撃する敵を既に見ている。剣での連撃は判るが、この爺さんは斧、

   それも両手斧をまるで鞭でも振るってるかの様に振り回している。恐ろしいな。

  つかセドニーはどうも無双爺さんの様なので、宿敵と対峙するまでは大丈夫そうだ。

   先手の罠で見事に相手を撹乱出来た様で、敵数約300…ぐらいだろうか。

  コッチの数は、村人合計50という所だ。帝国というわりには数が少ないな。

   先発隊と断定していいだろう。 慌てて次の敵に駆け込もうとするセドニーに

   後から増援くるだろうから体力使い過ぎないでくれよ。と声をかけたら、

  若造に言われんでも判っている。と、怒られた。そのまま周囲に視線を移すと、

   手に槍や槌・桑を持った村人がチェインメイルや…ハーフアーマーか?

  それっぽい鎧を着た騎士と戦っている。兜をつけてくれている事もあり。

   作っておいた催涙弾の粉が顔から拭き取れず、身を屈めて武器を振り回している

   騎士一人に対し、三人から四人で確実に仕留めていっている…あれ?

   「強くないか? 普通に戦い慣れてないか?」

  愕然とした顔で俺は、戦う村人を見ていると、俺の横で槍を携えたアリアが着た。

   …成る程。隻眼の女王に遣わされた…か。これは嬉しい誤算。

  罠で撹乱された敵兵を多対一で取り囲み確実に削っていき、

   撹乱されなかった敵を、セドニーが圧倒していく。…どうやら先発隊は問題な…。

  そうも言っていられない様だな、姑息にも子供を捕まえて人質に取り出す奴が

   出始めた…が、なんたる事か、子供だと油断している敵兵の顎に向かって

  頭突きを食らわして自力で逃げた。…子供すら足手纏いにならないのかここは。

   アンシュパイク。一体どんな国なのか、戦闘中ながら思わず考えてしまった。

  少し、俺は場を下がり周囲を確認する。敵数が半数以下になり、こちらの被害は無い

   に等しいが…やはり怪我人も出ている。まともに戦えるとも思えない俺は、

   怪我人の下に駆け寄って肩を貸しつつ、安全な所へと運ぶ。

  子供ですら戦っている最中、情けない話だが…足手纏いだからな。

   12名程の負傷者、中には深手を負っている者も居て、上腕からの出血が酷い。

  脇の下を布で縛り止血をして、寝かせるが…応急処置すら判らない。

   そこへ何人かの女性が駆けよっきて…うわ。切られた部分を太い糸で縫いつけて。

  余りにグロかったので、戦いの最中へと視線を移すと…。

  ロドニーの動きが止まり、真っ黒いコンポジットだろうか、皮と鉄の合成鎧を

   纏った同じく老人と見てとれる騎士と睨みあっていた。

  あいつか、アイツが先発隊の大将だな。ともすりゃ…慌てて走り出し、

   傷ついて激しい出血をし、うめき声をあげている敵兵を横目に駆け寄る。

   「セドニー。こいつなのか? だったら俺も…」

  言葉は続かず、大きな左腕が俺の視界を遮った。不敵な笑みを浮かべている

   セドニーの宿敵だろう相手。あの笑みは単純に戦いを楽しんでいる愉悦の笑み。

  そう見て取れた。どうやら、罠による想定外の事態が彼を悦ばせているようだ。

   何故か、言葉で伝えてきたからだ。セドニーに罠を張るだけの頭があったのかと。

  然し、セドニーの視線が一瞬俺を見たんだろう。罠を張ったのが俺だと彼は認識し、

   何故か礼を言ってくる。 その言葉に半ば怒りが混じった声を荒げる。

  いい加減に目を覚ませ…と。どうやらただの宿敵では無い様だが…。ん?

   彼の方が、俺に名前を聞いてきた…認められたのか? 多分そうだろう。

  セドニーに隠れる様に居た俺は、彼の視界に入り、自らの名前を告げてみた。

   いや、何か格好よくね?的に。うん。

  そうすると、これまた攻撃的というか、巨大な突撃槍を俺に向かって突き出し、

   彼は名前を告げる。ガイアス=イグライト…と。そしてそのまま、槍の穂先を

  遠くに向け、俺にこう連ねて告げた。貴様は逃げ延び大国に仕官せよ!と。

   …は? 何で敵になる様なのを逃が…、疑問はセドニーの言葉によって即座に

   解消された。相変わらず争いの種を作るのが好きな奴め…と。

  どれだけ戦闘狂な爺さんだよ。逃げ延びて我が脅威となれ。そんな所らしい。

   にしても解せないな…なんでこんな余裕がある?

   どう見ても敵さんが劣勢だろう…成る程。そういうか。

 

  

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傷ついた敵兵が横たわり、死に切れずうめき悶える姿が散らばる村の森に近い場所。

   その森にいつ着ていたのか、明らかに先程の数とは比べ物に

   ならない数が潜んでいる。月夜に照らされて鈍く光る鎧が場所を教えている。

  …? なんだ、ありゃ。ちょっと待て。何か妙なのが混じって無いか!?

  闇夜の所為で良く判らないが、人の形はしているが妙にこうツヤツヤヌメヌメ。

   爬虫類の様な光沢が月の光に照らし出されている。

   「リ…リザードマン?」

  待て!なんでだ。どう見てもリザードマンだろアレ! 

   百歩譲って魔物が居たとしてもだ、なんで人間と共闘してんだよ!つか…やべぇ。

  そう思った瞬間、ガイアスの槍が天高く振り上げられ一瞬、彼の表情が歪にゆがむ。

  そして、振り下ろされた槍と同時に、数え切れない程の騎士と、リザードマンが

   さながら雪崩の如く押しかけてきた。 …完全に想定外だろ!

  増援は判っていたが、魔物連れてるなんて聞いてないぞ。 

   瞬く間に、村中に侵攻され村人が女子供容赦なく斬られ、突かれ倒れていく。

  洒落にならないそんな中、アリアが複数のリザードマンに囲まれてしまっている

   のに気づき、セドニーに声をかけたが、心配すらせず、ガイアスを睨んでいる。

  おいおい、孫に等しいだろう? ちょっとぐらい心配…うへ。

   する必要なかった様だ。一定の距離を保ちつつ確実にリザードマンの目を突いて

   確実に倒していっている。セドニーみたいな華やかさ、豪快さは無いが、

  確実に相手の戦力を奪ってから倒している。と…そんな余裕出している暇も

   なくなってきたのか、俺にまでリザードマン数対が飛び掛ってきた。

   油断していたのか、彼らの持っている手斧から身をかわす術もなく完全に

   それを喰らうしかない。思わず反射的に強く目を瞑り、痛みに備えた。

  無様に両腕をまげて前にだし、腰を屈めて目を瞑った間抜けな姿勢の俺。

   そして、その前に立ちはだかりリザードマンを薙ぎ払ったのは、

   セドニーと、あろうことかガイアスだった。

  大振りの戦斧と巨大な突撃槍の穂先が俺の目の前で交差し、

   地面に突き刺さっている。そのまま互いの武器を振り払う様に弾き飛ばし、

  二人は数歩分ぐらいだろうか、飛びのいた。

   「おっさん。あんたが何で俺を助けるんだよ」

  ガイアスの視線はセドニーを捉えつつも、それに答えてきた。

   見ただろう。この村を殲滅させた大将が誰なのか、憎むべき相手が誰なのか。

   そして、戦力差が判ったならば逃げ延びろ。と。

  とことんだなこのおっさん。まぁ、しかしこの二人の傍にいるとそれだけで命が

   幾つあっても足りない。そう本能で悟った俺は慌てて二人の元から遠ざかる。

  その途中、何かセドニーがガイアスを説得しようとしていたが…

   聞く余裕もなく、とりあえず近場にあった荷車に積んである弓と矢を手に取る。

  どう考えても俺は近接戦闘経験は無い…が、狩猟経験なら少しある。

   なんとかリザードマンと敵兵の目を盗み、近場の家の屋根へと、

   積み上げられた薪を利用してによじ登ると同時に薪を蹴り崩す。

  屋根から改めて周囲を見回すと、酷い有様だ。村人はもう10人と生きていない。

   アリアは…やばいな。結構な数の騎士とリザードマンに取り囲まれている。

  弓を引き絞り、なるべくアリアから離れたリザードマンに狙いを定め、

   張り詰めた弦を離し、矢を飛ばすが…目標のリザードマンも止まってはいない。

  命中せずに足元に突き刺さってしまったが、敵の意識はその矢に集中した。

   その一瞬を見逃さずアリアは、近場のリザードマンの喉を一突きし

  引き抜くと同時に、柄の方で反対外にいた騎士の額を突く。

   戦い慣れてるなぁ。見た目ただの村人のお姉さんなのに。

  紺のドレスと白いエプロンを翻して、槍を自在に扱う姿が妙に頼もしい。

   引き続き弓を引き絞り命中精度の低い矢を射る。 今度は当たったらしく、

  リザードマンの左腕を貫いた。…ってうぉお!? 気がついたら足元。

  家の周囲に敵兵が囲んでいた。…当然か、これだけ目立つ場所で矢を射れば。

   しかし近距離で矢を消費したくもなく…これだ。

  足元にある屋根に敷き詰められている赤茶色のレンガを剥ぎ取り、それを

   敵の頭上からぶん投げる。これだけ近距離+薪割りで培ったそこそこの腕力。

  頭に喰らえばそれなりだろう。特に兜を被っている騎士には有効だったらしく、

   バタバタと倒れていく。 ある程度片付いたのか、再びアリアの方に視線を

  移すと…数に押されたのか右腕の生地が破れ、血が滲んできている。

   結構な深手らしいのは表情で見てとれ、敵兵がゆっくりと間合いを詰めている。

  慌てて屋根から飛び降り、切り株に刺さっていた手斧を掴んで走り、

   敵の背後から脳天めがけて手斧を振り下ろした。流石に不意を疲れたのか、

  見事に頭をカチ割っていたが…何か変な色したモノが垂れ出てきている上に、

   斧が抜けない。諦めてそいつがもっていた手斧を奪い、

  蹴り飛ばしてアリアの前に立って手斧を構えた。

   「逃げた方がいんじゃないか? どう考えても勝ち目が…」

  遺跡を他国に渡す訳にはいかないと、怪我しても相変わらずの頑固一徹。

  くそ、思わず飛び込んでしまったが…悪手だなこりゃ。逃げ場なくしてしまった。

   俺に背を合わせて傷ついた右腕を庇う様に槍を構えるアリア。

  見た目はいいんだろうが…完全に詰みだぞ、畜生。 少しセドニーの方へと視線

   を移したが、ガイアスで手一杯の様だ。彼等の戦いに巻き込まれたのか敵兵の

  無残な死体が無数に転がっている。 やるしかない…か。

   叫びにも似た声を上げて、一番近い奴に手斧で斬りかかったが、

  軽くそれを弾き飛ばされた…戦闘経験無しじゃこんなもの…お?

   俺の脇の下からいきなり突き出てきた槍が、その騎士の腹部にある鎧の隙間を突き、

  そのまま強く地面を踏んだのか、俺には背中から体当たりを食らった様に思えた。

   なんというか、ホントに隙を突くのが巧いなこのお姉さん。

  まぁ…やるしかない。 無様で危険でもアリアに攻撃させる隙ぐらいは作れるだろう。

   まだ腰にぶら下げていた催涙弾を、敵に投げつけ視力を奪う。

  そいつを攻撃するのかと思えば、視界が奪われてない奴に攻撃を仕掛けている。

   うーん、成る程。脅威順か。遠慮無く俺は、視力を奪った敵の右肩めがけて手斧

   を振り下ろし、心臓部に達しただろう部分まで切り裂いた…が、恐らく抜けない。

  だもので、すばやく手を離し敵の握っていた剣を奪い取り蹴り倒す。

  そしてアリアの方を見ると、やばいなやっぱあっちのが脅威とみなされてるんだろ。

   囲まれている。慌てて後ろから不意を突こうとした、その瞬間。

  右腕に鈍く、焼ける様な痛みが走った。判りたくも無いが、斬られたんだろう。

   余りの鈍痛に耐えかねたのか、地面に座り込み、右腕を押さえ歯を食いしばる。

  その瞬間、背筋が凍りつく様な感覚を覚えた…頭上から振り上げられている

   血がこびり付くというよりも、纏わりついたロングソード。それが

  俺の頭を明らかに捉えて今にも振り下ろされるだろう。

   血が纏わりつき、切れ味の鈍ったロングソードとは対照的に、鋭い視線が先ず

   俺を貫いてくる。明らかに必殺の意志というべき視線の槍。

  ソレに対してか、自分の腰から下の力が抜け…身動きが取れず。

   アリアもそれに気づいたのか、俺を助けようとするが、包囲されていて、

   それすらも叶わない。 ゆっくりと時間が流れる錯覚、走馬灯とはこの事か?

  アリアの声も妙に鈍く聞こえる。 そして、何より振り下ろされたロングソードが

   まるでスローモーションの様に落ちてくる。 痛みも…スローなのだろうか。

   恐怖に囚われ、全く身動き出来ず、ただ…それを見ているしかなかった。

  

説明
http://www.tinami.com/view/160236 1話目です。
・追記 誤字修正しました。
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