変わり往くこの世界 3
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  「ユタ!?」

  アリアの声だろう…。然しどうする事も出来ず、時間の流れが遅い錯覚の中、

   ただその振り下ろされてくる剣を見るしか無かった。

  ここで終いか。思えばつまらない人生だったな…一瞬で色々と脳裏を過ぎったが、

   大半はゲームであり、何より長く視たのはここでの半年間だった。

  余程、楽しかったんだろうな。…だんだんと近づいてくる刃先が、俺の額に触れるか

   否か。数センチの所で、剣は別の剣に弾かれた。表情が恐怖で固まったまま、

   目を丸くし守ってくれただろう剣の持ち主を見た。

  冷たい夜風に揺れる薄い紫…月の光の所為か銀色にも見てとれるが、

   頭の両サイドで縛られた髪がなびいている。見た所女性の様だが、

  分厚い皮の服にハーフアーマーを身に纏う俺と大して歳が変わらないだろう少女。

   安否の言葉も無く、その視線は敵と認識した者へと向けられ続けている。

  「あ、どうも助かったよ。…君は?」

  …返事が無い、見向きもしない。そのままアリアを取り囲んでいる

   ザンヴァイクの騎士とリザードマンに向かっていく。 不意をついたのもあるのか、

   単純に彼女が強いのか、判らない。

  が…一体の背中を貫き、そのまま手奥の敵めがけて押し込み死角から

   剣を引き抜き二匹同時に首をはねた勢いのまま、

   右足を軸に体を回し、右側に居たリザードマンを蹴り飛ばし、そのまま蹴り足を地面に

   強く叩きつけ…腹めがけて剣を突き刺すと、衝撃と痛みからか地面に叩きつけられた

   リザードマンの体が大きく、くの字に仰け反った。 

  余りに大味な攻撃だったのか、少し隙が出来た所を騎士が斬りかかったが…。

   それすら誘いであったと思い知らされた。隙を見せて攻撃させ、その攻撃する隙を

   見逃す事無くアリアが背後から喉を刺し貫いていた。…息の合った連携というか。

  取り囲んでいた半数を、数瞬で倒してのけたぞ。 

   そんな彼女の勇姿に恐怖が解かれたのか、俺は起き上がりアリア達に近寄る。

  が…、まだまだ敵の数が減ったわけでも無く。下手すればまだ森の奥にいる可能性も

   ある。然しまぁそんな中でもお顔を拝見したく思い、チラリと横目で彼女を見る。

  髪型に合っているのか、まだ少し幼さが残る顔立ちにツインテール。前髪は短く切り揃え

   られていて、オデコがでている上にやや釣り目。

   う…睨まれた。見た感じ頼り無さそうな少女だがそれとは裏腹に

   剣と体術で豪快な戦い方をする。まさかとは思うが…ああ、アリアが懐かしそうな声で

   腕を上げたのねと、彼女の名前だろうリフィルと呼んだ。

  どうやら寸での所で援軍武将到着…と言いたい所だが、劣勢に変わりない。

   悔しいがガイアスの言う通り逃げた方がいい。なんとか逃げ…ん?

  リフィルが剣を振り上げて、何か号令と共に剣を腰あたりまで振り下ろす。

   そうすると、周囲に隠れていた幾人かの男が敵兵に襲い掛かっていた。

   「うお!? ありゃ…なんだ」

  岩かと思う様な大男が、面白い程に大きい槌で複数の騎士を薙ぎ払い。

  対照的に小柄な男が短剣で鎧の隙間を突き倒していく。 同時に屋根の上からだろう。

   俺とは全く違う命中精度の高い矢を射て、リザードマンの頭部を射抜いていく。

  そして、兜から少し覗く顔から察する処、その中で一番年長だろう重鎧の男が、

   こちらに走ってきて、リフィルに跪いた。 余りの事に呆気に取られている俺。

  それに対して、近寄ってきたアリアが形勢が有利になったわね…と。

   いやいや、5人増えたからっ…てちょっと待て。パッと見、村の中だけで500近く

   いたのに、今のやり取りの間に半分は減ったぞ。なんだこいつら…。

   「セイヴァールの騎士ってのは、こんなに強いのかよ」

  うわ、リフィルに睨まれた。可愛らしい口が初めて開いた言葉は…。

   「…敵が弱過ぎるだけだ」

   弱過ぎるっておい。こうしている間にも形勢を押し返していくセイヴァールの騎士達。

  それはいいとして、今気がついたが、アリアの機嫌が少し悪いみたいだ。

   その原因はリフィルにあるらしく、何故ここに来たと言わんばかりに彼女を見ている。

  …ああ、そうか。命令違反か。 それに対して、彼ならこうしている筈だ。と、

   何処かにいるだろうと言う視線を寒い夜空に移し答えた。

  彼…ね。騎士を志した理由になった人。恩人という所だったかな確か。

   軽くリフィルは深呼吸をすると、薄紫の髪をなびかせて走り出した。

   「ちょ、どこにいくんだ?」

  慌てて周囲を確認すると、敵兵がほぼ倒されている上に、加勢に来た騎士達が暇そうに

   している。…余裕だなおい。軽く失笑しそうになった俺の横で、安心したのか軽く

   槍と右膝を地面に突きたてた。 そういや怪我…慌てて近寄り右手で彼女に

   触れようとすると、振り払われる。

   「リフィルをお願い。 遺跡と…彼女だけは守らないといけないから」

  何だ?遺跡以外にも…成る程。妹にしちゃ髪や目の色が違うなと思ったが。

   傍にいた年長の騎士が、アリアの代わりに口を開き教えてくれた。

  公どころか、彼女自身すら知らない事実。隻眼の女王の実の娘であり、

   ある理由から、ここに物心つく前からアリアと共に居たと。

   理由…恐らくは遺跡と何か関わりがあるのだろうな。

   軽く頷くと俺は彼女のあとを追った。

 

  

  

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強烈…いや激烈といえばいいのか、巨大な突撃槍がセドニーの左肩を捉えた瞬間

   を見てしまった。

   「鈍ったかセドニー!」

  然し、セドニーは軽く左手に戦斧を持ち替えて軽々しく振り下ろす。

   まるで効いていないと言いたいのだろう。

   恐ろしいやり取りがそこで繰り広げられ、巻き込まれた騎士やリザードマンの死骸

   があちらこちらに横たわっている。そんな危険地帯のど真ん中に、

   何の躊躇いも無く飛び込み、両手で持った剣で胴を薙ごうと、右足を軸に

   渾身の力で振り回したリフィルをあざ笑うかの様に、容易く弾き飛ばすガイアス。

   「貴様か…多少腕を上げた様だが…。 まだ若いわ!!!」

  そういうと、盾の役割をも持つ突撃槍で彼女を押し払い、近くの木へと叩き付けた。

   相当な衝撃が走ったのか、木に叩き付けられた彼女の目は見開き、

   木に背を預ける様にずるずると力なく座り込む様に倒れる。

  どうやら意識を失った様だが…あの子たら強くなかったか? 

   それを子ども扱いして一蹴? どんだけ強いんだこの爺さん二人。

  慌てて気絶した彼女に駆け寄り、彼女の安否を確認する。

   …どうやら剣の腹で受けていた様で、目だった外傷は見当たらず。

  衝撃で意識が飛んだだけの様だな。少し安心したのか、安堵の息を漏らすと同時に 

   セドニー達を見ると、その後方からアリア達が駆け寄ってきている姿も見えた。

  どうやら村の方は片付いた様だが…恐ろしいな。あの少人数で。

   「あら…? 安心するのはまだ早いわよ? 先兵を倒した程度でね…ボウヤ」

  なんだぁ!? いきなりねっとり絡みつく様な声で、耳元に息を吹きかけられ、

   慌てて飛びのいて声の方向を見ると、やたら髪が長くウェーブのかかった

  これまたスタイルの良い女性が立っていた。戦闘に不向きな薄手のゴシックドレス

   というのかこれは。そんな感じの服を着てセドニー達を見ている。

  誰だよ。次から次へと。 気絶しているリフィルを抱え込み警戒すると、

   それに気づいたのか再び視線をこちらに向ける。まるで蛇の様な印象をうける美女。

   「先兵って、まだいるのかよ!」

  右手を口に当てて、左手で右腕を掴みやたら胸を強調させて不敵に頷いた。

   そして、見たい?と俺に尋ね返してきたが、お引取り願いたいと言ったが、

  釣れない子ねぇ…と、またねっとりとした言葉遣いで返してくる。

   どっかに隠れてやがるのか…どこ…ど…ギャーーーーーーーーーーーーーっ!

  また、在り得ない物体が俺の顔の横で舌なめずりをさせていた…。

 

  

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浅黒い…いや濃い茶色か、闇夜の所為で色の判別がしにくいが、

   無駄に大きい顔が俺の顔の真横にあった。…またしても爬虫類。

  リザードマンといい、この女といい爬虫類尽くしだな。しかしサイズが今度は

   桁違いに大きい…このサイズで爬虫類。嫌な予感がしつつも、振り向くと、

  一つの蛇の胴体にいくつもの頭が生えている…ヒュドラかよ!?

   無茶過ぎる! 慌ててリフィルを抱え込んで逃げ…ようとしたが、

   彼女のハーフアーマーの重さが酷く、走れない。くそ。

   外そうにも外し方が判らない。逃げようにも重くて動けない。

  そんな俺を見て軽く笑っている名も知らない女。

   だが、何故か敵意は感じられない。…その疑問を察したのか、彼女は

   ガイアスが貴方を逃がすと言った以上、下手に手を出すとこっちが危ないと。

  成る程。…というかあの爺さん、このヒュドラより強いってのか? 在り得ないだろ。

   そう言うと、俺達を一瞥した後、セドニー達のいる方へとヒュドラを連れていった。

  …その地を這う巨大な蛇の背を見つつ、気絶したリフィルを抱え、

   俺の足はあらぬ方向へと向いていた。 恐らく気がつけば彼女は怒るだろうが…。

  アリア達から守ってやってくれと言われた事。

   何より機密事項だろうソレを俺に告げた事を考えると、この選択が正しいのだろう。

  彼女を守り、一度アンシュパイクに行くべきだろう。遺跡の事は気になるが…。

   聞いた所だと早々に開くとも思えない。すべき事は、彼女を安全な所まで無事送り届け

   る事だろう。あの言葉はそういう意味だと俺は考えた。

  …怖いという感情も否定はしない。だがここは引くべきだと…。

 

  

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あれから、数時間かけて村からかなり離れ、ザンヴァイクが東、セイヴァールが西。

   そのどちらでもない北を目指して彼女を抱えて、重い足を引きずりながら逃げてきた。

  流石に体力に限界がきたのか、小川をずっと北上してきたので、彼女を木に預け。

   水を手でくみ上げて飲む。…本来なら手もつけられない冷たさだろうが、

  激しい運動の後の所為か丁度いい冷たさに感じ…ぐは! 飲んだ瞬間、俺の頭部に

   鈍痛が走った。 右手で頭を押さえて振り向くとそこには気がついたリフィルが

   両手を組んで俺を睨みつけていた。…さて、どう説得するかねこの猪娘さん。

   「どうして私がここにいる? 他の連中はどうした?」

  言葉が威圧的でかたっくるしいな。まぁいいが…どう伝えるべきか。

   隻眼の女王の娘だと言う事は伏せておくとして…。

  再び、頭を鈍痛が襲う。正体がわかった、剣の鞘だ。それで頭をどついていたな。

   「言えないのか。ならば私は戻る」

  お、おい待て待て!慌てて立ち上がり肩を掴んで、嘘八百を並べる俺。

   「…そんな馬鹿な事がある筈」

  やぶへび!? 更に確認しようと戻ろうとする。 え?何を言ったかって?

   全滅したと。すっぱり諦めてついてきてくれると思ったんだがな。

  ええい何か無いか。何か…そうだ。俺は強く彼女の肩を握り締めて、真顔で

   こう伝えた。アリアさんから君と一緒にアンシュバイクの女王に事を伝えてくれと。

   「…そうか。お前だけで行くといい。私は戻る」

  だーっ! 何言ってもダメ? ダメなのか!? じゃあ、これはどうだ。

   ガイアスにただの一撃で一蹴された君が戻った所で足手纏いになるだけだろ。

   だから、別の事を頼まれた。そいつは守らなくていいのか?姉さんの言う事だぞ。

   「…。そうか、一撃でまた私は」

  なんだよあの爺さんと以前にやりあったのか。 二度目も惨敗…という所か。

   「判った。では向かおうか、アンシュパイクに」

  納得してくれた!っておい。 早っ、あれだけ重い鎧つけてるのに関わらず山道を

   ほいほいと歩いていくぞ…足腰強そうだ。

  そんなこんな俺達は、一路アンシュパイクへと向かう事となる。

説明
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