マッスルカー
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「おい、理樹! これ見ろよ!」

 男子寮の自室。珍しく自動車の本を読んでいた真人

が興奮した声で言った。どうやら外車専門の中古車雑

誌らしい。

「『マッスルカー』だってよ! カッコいいなぁ、どう

やってクルマを鍛えるのかなぁ! 想像しただけでワ

クワクするぜ!」

「いや、クルマはトレーニングしないから」

「いやいや、あながちそうとも言えんぞ」

 ツッコミにツッコミつつ、突如、背後から声がした。

「うわぁ、恭介! いつからいたのさ!」

「面白そうな話題だったのでな。ついフラフラっと登

場してしまった」

 ……恭介のシュミが分からない理樹だった。

「そもそも『マッスルカー』って何なのさ、恭介」

「おう、俺もそれが知りたかった」

 ……真人。自分が本読んでいて分からなかったのか。

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「うむ。元々は60年代から70年代初頭にかけて、アメリカで流行したハイパフォーマン

スカーの一種だ。V型八気筒。排気量は5〜7リッター。レース用のエンジンをそのまま

積んだクルマさえあった」

 淡々と話す恭介と、それを聞いて熱狂する真人。

「すげーっ! レース用かよ! 乗りたいなぁ! 今でも買えるのか?」

「ただ、そのほとんどがオイルショックと排気ガス規制で生産中止になってしまったが」

 がくーんとうなだれた真人がぼそりと呟く。

「……ちっ、どんな時代にも筋肉は不当な扱いを受けるのか」

 ふと、理樹は真人が読んでいる本に眼を落とした。

「これ、中古車雑誌じゃない? 中古車ならいまでも買えるんじゃ……」

「おお、さすがは理樹! アタマいいぜ!」

「いやいや、普通気付くでしょ」

 じっくりと記事に目を通す真人。その頭上に「?」マークが点り始めた。

「なぁ、コレ値段書いてないぜ。全部『価格応談』になっている」

 どれ、と恭介が本を手に取った。

「うん、マッスルカーは希少価値が高いからな。程度にもよるが、有名なドイツ製スポー

ツカーと同じくらいの値段だろう」

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 真人は真っ白な灰になっていた。

「そんなんじゃ買えるワケねーだろーっ! 無茶言ってどーもすいませんでしたーっ!」

「ま、俺たちが買えるのは軽自動車くらいだろうな」

 ちょっと寂しげに恭介は言う。

 しかし、理樹は想像する。真人が運転するならば、どんなクルマでも筋肉車、すなわち

「マッスルカー」になるのではないだろうか、と。

 たとえそれが軽トラックであっても。

 むしろそっちの方が似合っているし。

「どうした、理樹」と真人が言った。

 どうやら知らぬうちにくすくす笑っていたらしい。怪訝そうな真人の表情が可笑しい理

樹だった。

 

 

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