それはそれで
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 ある休日。女子寮に顔パスでフリーパス、というの

もそれはそれで嬉しいのやら悲しいのやら、良く分か

らない心境で理樹はたたずんでいた。

 鈴を探して三千里、女子寮の中まで潜り込んではみ

たものの、気まぐれ猫の影さえ見えない。

「鈴、どこに行っちゃったんだろう……うん?」

 寮の食堂の中にちょっとだけ見知った顔があった。

笹瀬川佐々美。唯我独尊の女王猫様だ。どうやら冷蔵

庫の中をごそごそあさっているように見える。

「うーん、ハムと卵と野菜くらいしかありませんわね」

 テーブルの上に食材を並べ、なにやら難しい顔をし

て腕組みしている。理樹は恐る恐る声を掛けた。

「あの……笹瀬川さん」

「ひゃうっ!」

 佐々美はそれこそ天井にぶつかりそうな勢いで飛び

上がった。

「な、なんですの。このわたくしに何か御用?」

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「鈴見かけなかったかなぁって……あれ、お昼ごはんのしたく?」

 佐々美は顔を真っ赤にしてかぶりを振る。

「ま、まさか! このわたくしが自炊だなんて! 昼食は優雅に外食でいたただきました

わ。をーほっほっほ!」

 ぐうぅうぅうぅうぅうぅうぅうぅうぅという地鳴りにも似た音が、どこからともなく理

樹の耳に聞こえてきた。

「ごめんなさいウソです」

 珍しく神妙に佐々美が言った。

「うん、事情は聞かないけどお小遣いの使いすぎかな? そんなとき僕もよく自炊の真似

事するんだよ」

 あはは、と笑う理樹に対し、佐々美の顔が引きつっていたのはどうやら理樹の推測が図

星だったようだ。

「でもこの食材じゃ野菜炒めくらいしかできませんわ」

「……! 緊急時用のレトルトご飯があったよ! これでチャーハンができる」

「でも緊急時用ですわ。勝手に食べるわけには……」

 ぐうぅうぅうぅうぅうぅうぅうぅうぅ。

「緊急時だね」「そうですわね」

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 意外にも佐々美は器用だった。包丁の扱いにも慣れているようだ。

「直枝さんもご一緒なさいます?」と佐々美。

「え、悪いよ。笹瀬川さんに料理させるだなんて」

「あら、気を遣ってくださるのですね。でも料理を作るのは一人分も二人分も一緒ですわ!

そーれ、っと!」

 実に見事な手さばきで中華鍋を振り回す佐々美。

「それに食事は一人よりも大勢で食べる方が美味しいのですわ」

 理樹は正直意外に思った。佐々美の料理の手際にではない。あの、いつもケンカを吹っ

かけてくる佐々美が、ほんのささいなことで心を開いてくれたことに。

 今日の昼食は、いつものメンバーとではなく。

「はい、直枝さんの分出来上がり!」

 普段はぶつかり合っている佐々美と一緒に。

 それはそれでいいことなのかもしれない。

 もしかしたら、もしかしたら何かが変わるのかも、と理樹は思う。

「いただきます」

 理樹と佐々美、二人で出来立てのチャーハンの前で手を合わせた。

 

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 次の休日。理樹は鈴から呼び出しを食らった。場所は女子寮の食堂。

「来たな。待ってろ」

 鈴は理樹を椅子に座らせると、真っ黒なナニかを理樹の前に突き出した。

「鈴、これは何?」

「見て分からんか、アホ。チャーハンだ」

 鈴が自分のために料理を作ってくれたことに理樹は感動しつつも。

 それは即ち先週の佐々美との一件を鈴に見られていたわけであって。

 このコゲた米の山を食べきるという責任と共に。

 それはそれで胃が痛くなることのように理樹には思えた。

 

 

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