隅の同人
[全4ページ]
-1ページ-

「その部屋は完全な密室でした」

 彼女は僕に向かってそういった。

「そこで三人の人間が倒れていたんです」

 知っている。救急車が来ていた。

 担架に掛けられたシーツはどれも――

「三人とも、意識はなくて」

彼女たち自身の血で、真っ赤に染まっていたのだ。

 

 僕たちがいるのは放課後の保健室だった。

 彼女と僕はベットに腰掛けて、向かい合っていた。

 恐ろしいほどに赤い夕焼けが部屋に差し込んでいた。

 オレンジ色ではなく、深紅の光が部屋を埋めている。

 シーツもカーテンも、真っ赤だった。

「それで?」

 僕の声は、自分でもあきれるほどに冷静だった。

「西園さんは、僕に何をしろというの?」

 彼女はほんの少し目を細めた。

-2ページ-

「なにを? 違いますよ。直枝さん」

 彼女は身じろぎすらせず、僕を見返す。まるで人形のような無表情。

 まっすぐ背筋を伸ばし、顎を引き、きれいな膝小僧を合わせて腰掛けている。

 まるで、白磁のビスクドールのようだった。

「このままでよろしいのですか? と申し上げています」

「まるで」

 僕はかすかに笑って見せた。

「あの惨劇に僕が何か関係しているかのような物言いだね」

「そう、申し上げています」

「へえ!」

 大げさに驚く。この僕がどうして男子一人と女子二人を血まみれにして病院送りにしな

くてはいけないのだろうか?

「じゃあ、現場に行こうか。証拠が見つかるかもしれない」

 僕はそういった。隠しようもなく、挑戦的に。

 探偵ごっこには付き合いきれない。

「私は構いませんが、今、教室は警察が来るまで現場保存されています」

 証拠隠滅をさけるためだ。のこのこ現場に行ったら、即容疑者扱いだろう。

-3ページ-

「じゃあ、ここで話すしかないのかな」

 僕は笑いをこらえて言った。こんな茶番にいつまでも……

「アームチェア・ディテクティブ! それが西園さんの望み?」

「いったい、何を明らかにするために? 決めるのはあなたなのに」

 僕は手を振った。時間がない。さっさと話しを進めよう。

「状況を説明してよ」

「……そんなことより、覚悟を決めてください」

「警察が来るまでに決めるんだろう? 決めるよ。だから説明してほしいな」

「わかりました」

 彼女はため息をついて状況を説明した。

「教室は完全な密室。前後の扉は閉まっていて、窓も鍵が掛けられていました」

 なぜ、そんなに厳重な戸締りを。

「彼女たちがしたのだと思います。窓にはカーテンがひかれていました」

 完璧だった。そこで惨劇が起きた。

「じゃあ、そこに犯罪の起こる余地はない。原因はそこにある」

「そう。彼女たちと彼が血まみれになった原因は、部屋の隅にあった一冊の本です」

 ああ、そんなことだろうと思った。

-4ページ-

「だから! それに僕が何の関係があるのさ!」

 僕は大きく手を振った。

「それが、西園さんの同人誌だったってオチだろう! 鼻血が出るくらい過激なっ」

 そんなオチはたくさんだっ。ミステリーだとおもったのに。

「違います」

「何が違うのさっ」

「私の同人誌ではありません。いえ、それはそれで正しいのですが」

 今更なんだというのか、現場検証で痛い思いをするのは彼女であって僕ではない。

「西園さんの同人誌じゃないのなら、誰の同人誌だっていうのさ!」

「私の同人誌ではなくて」と、すっと彼女は眼を閉じた。

「直枝さんと恭介さんの、同人誌です」

「――は?」

「夏コミ用に、私が友達と描いた、お二人の……」

 ぽっとほほをそめてうつむいた西園さんを茫然とみた後

「の、のおおおおおおおおおおおっ」

僕は叫び声をあげて、保健室から飛び出した。間に合わないと知りながら。

 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきた。 

説明
ま、まにあうかー
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
3016 2925 3
タグ
ct017ngm リトルバスターズ! 

竹屋さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com