変わり往くこの世界 10 第2章
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           第2章 狂乱の渦中へ

 

  不味っ。なんだこれは。数日が過ぎ、ある程度体調も戻り夕食を取っているが…。

  アルヴァの作った料理にしては酷いぞ。しかし残すわけにもいかず、

 ましてや顔に出して吐き出すわけにも…。周囲を見ると子供達は美味そうに食べている。

  俺の味覚が狂ったのか?…どう考えても野菜が生煮えだったり、皮が残っていたり

  味付けがそれ以前に狂っている。…まさかな。 視線を少しリフィルの方へと…。

 お前か!! お前が作ったのかこれは! ほぼ生煮え、下処理も酷い。

  見てくれ、この炒めた野菜の中にある赤みの残った肉!塩の塊!!ひでぇ!!!

  …アリアの料理は美味かったのになぁ。血は繋がってないとはいえ、一応妹だろう

  がよ! 表情には出さず、それらを食べ終えると水を飲み、さっさと自室に向かう。

 いや、悟られたくないんだ、この青ざめた顔。 相当酷いモノだったんだろう。

  体がそれを隠しきれない。足早に自室に戻ると、ベッドに倒れ込み唸り声を上げている

  俺を心配そうにクリスが声をかけてきたが…。それよりもだ。

 ザンヴァイクだ、あの国が次に狙うとしたらここだろう。見た感じこの国に防衛能力が

  あるとは思えない。はっきり言えば商人の国みたいなものだ。

  あのドラゴン数体でもこられたらそれこそ一巻の終わりだろう。

 待っていれば、負けるは明白。ならば…逃げる? 違うだろ逃げてどうする。

  ザンヴァイクに打って出る方が良い。 今だに良く判らないゼロブランドの能力と、

  アイシクルフィアの能力。ただ判っているのは強力過ぎて味方にまで被害が出ると言う事。

 ベッドから起き上がり、隅に立てかけてあるクリス…アイシクルフィアに、ゼロブランド

  の能力を尋ねてみると。戻る事は不可能だが、万一の事を考えて詳しい事は言えないと。

  そりゃそうだな。軽く溜息を吐いた俺に、アイシクルフィアは、大気中の成分を集め、

  生成する能力があり、ゼロブランドは全く別。周囲の熱を吸収・開放する能力と言う事。

 はぁ…成る程。周囲の熱を吸収してるからあれだけ温度が下がり、竜にトドメさした

  高熱はその吸収して増幅でもした熱エネルギーといった所か。

  …使い道によってはもっと化ける能力じゃないか。

 軽く、クリスに礼を言うと、未来から来た改変者がどういう奴か。容姿等を尋ねるが、

  答えたくないのか、黙り込んでしまった。ふむ、何かしら縁ありき…か?

 まぁ、その時にならないと判らないな。ただ教えてくれたのは、狂っているという事だけ。

  はぁ…ま、狂ってなきゃ、あんな化物作り出したりはしないよな。

 そのまま、ベッドに倒れ込み、天井を見る。 体調も戻った、リフィルも調子は戻った様だし

  ゼロブランドと何とかやっている様だ。 ザンヴァイクに攻めるには…うん。

 俺はベッドから降り、部屋を出てアルヴァを探して子供が走り回る通路を行く。

  男の子も女の子も関係無く、元気に走り回っている。いいことだ。

 何に対して頷いたのか良く判らないまま、赤い絨毯の敷かれた通路を歩いていくと、

  向こうの方からアルヴァの怒鳴り声。これは相変わらずらしい。

 彼女の声のする方へと歩いていくと、裸の男の子が逃げ回っている。

  元気過ぎるだろ、小さいモノぶらつかせてそんなに自慢か? などと思いつつ

  その子供を後ろから捕まえ…俺の顎を殴る子供を彼女に引渡し、

  セイヴァールが壊滅したのは聞いたが、完全に壊滅…では無いだろう事を尋ねた。

  連合国家だしな、多少なりと戦力は残っていると思える。

 ソレに対し頷いて子供を抱きかかえると、ザンヴァイクに向けて

  残った戦力で攻め入る準備をしていると。首を横に振りつつ、

  壁際にある窓の外へ視線を移し、玉砕するつもりか…と溜息を吐いた。

  「セイヴァールはもう無いさ。残った騎士達がこれからどうするか…。

    アタシの指揮を待っているのだろうね」

 そうなるわな、過去の英雄が前回の戦で動いた。ともすれば今回も…か。

  彼女の顔を見ると、確かにアルバートの言う通り、セドニーみたいな

  覇気とでも言うのか、それが全く感じられない。彼女はもう戦えないのだろう。

 だとすれば…。 向こうで子供を同じように追い掛け回していたリフィルに視線を向ける。

  「この戦いには新たな女王が必要ってやつか」

 戦いにおいて士気は重要だと、あの戦いを通して良く判った。

  何より、彼女がゼロブランドを手にした時点で、アルヴァの娘だと隠す必要性も無い

  だろう。 …。考え込む俺の肩をアルヴァが軽く叩き、任せたよと。

 そのまま、彼女と判れ再び自室へと足を運びつつ考える。 

  士気を上げる…生き残った騎士達を奮い立たせる方法。

  「任せる…か」

 俯いたまま、扉を開け自室に入り再びベッドに倒れこむ。

  何か良い方法は無いものか、クリスに少し尋ねてみた。

  ゼロブランドの人格に対し少将と言った…とすりゃ軍人だろう。戦術指南を受けて

  おいて損は無いだろうしな。起き上がり、

 隅に立てかけてあるクリスに、事の全てを話すと、彼女は答えなかった。

  どうも力は貸すけれど、知識的な物を与えるのは禁則事項の様だ。

 期待していた収穫は得られず、そのままベットに倒れこむ。

 …士気か。ああ! こういう事にうってつけの人物いるじゃないか。

  勢いよくベッドから起き上がり、右手で左の掌を一度打つ。

  過去を知り、現在も知る吟遊詩人が。士気は彼の詩にかけるとしよう。

 茶番臭い気もするが、士気を出来る限りあげておきたいんだよな、

  攻め入る場所が場所だけに。 胸の中がスッキリしたのか、そのまま俺は眠りについた。

 

 

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翌朝、目が覚めるといつもの様に朝食をリフィルが運んでくる。何気に朝早いよなこいつ。

  丁度良いので、彼女を呼び止めて話をしようとすると、若干憎まれ口を叩きながら、

  用事があると、足早に出て行った。うーん、まぁ…調子は戻ってそうなので良しとする

  か。明らかにいつもの触り難い空気に戻っている。一応、今晩でも暇な時に、

  話があるからゼロブランドを持って着てくれと、そうは伝えたので…時間を待つ。

 その間に、俺は街中を歩き、アルバートを探す。恐らくは噴水だろうと、街の中央へと。

  「赤茶色のレンガを敷き詰める…。その真意は、長く語られていなかった」

 お? 詩の続きでも出来たのか。ここに来た時初めて聴いた詩の続きの様だ。

  子供に混じって聴いてみようかと座り込むと俺に気付いたのか、竪琴を奏でるのを

  やめ、俺の方へと。なんだよ続けろよ。

  「これはこれは。本日はお日柄も良く…」

 畏まって深く礼をするアルバートに釣られる様に、俺も礼をすると、彼に力を貸して欲しい。

  俺はそう伝えると、嬉しそうな顔をし、彼女を支え様と称え、唄いつづけたが結局

  彼女を苦しませるだけにしかならなかった。そんな私に何か出来る事でも?と。

 うーん…まぁ、結果的にはそうなったかも知れないが、時と場合だろう。

  彼に一つ。心身共に傷ついた騎士達を鼓舞させる為、リフィルの詩を一つ頼みたいと。

  勿論、騎士達に聴かせるのはアルバートだと。

 サーガに憧れて騎士となったなら、共に新しいサーガを創り、大陸を守ろうと。

  まさに茶番だが、効果はあるだろう。そこを隻眼の女王の娘が言えば。

  「ふむ。これは責任重大ですね。…そのご様子だとザンヴァイクへ?」

 頷き、ゼロブランドとアイシクルフィアの二つは、守るよりも攻める方が使い易い。

  特にアイシクルフィアのあの一撃は、先手を打つ事で初めて効果があるだろう。

  そう伝えた。それなりの危険は伴うが…現状これが最良だろう。

 笑顔でそれに頷き、彼は詩を創るのにゼロブランドの力とアイシクルフィアの力、

  その二つを尋ねてきたが…この時代の人間に熱吸収とか言っても判らないし、

  クリス達もそれは望まないだろう。 少し首を捻った後、俺は彼にこう説明した。

 ゼロブランドは、数多の精霊の恩恵を受けた剣。

 アイシクルフィアも、同じくして氷の恩恵を受けた弓だと。

  実際は違うが、この時代の人間には神秘的な力。それ以外の何者でもないからな。

  「精霊の力を宿す武具だったのですか…。それは素晴らしい」

 すまん、嘘だ。が、いいだろこれで。

  何か閃いたのか、続きを急く子供に引っ張られながらも、懐から紙と羽ペンを取り出し、

  詩を書き始めた。 こっちはこれで良いか。

 そんなアルバートから背を向けて再び屋敷へと歩いていく。

  その戻る最中、戦えそうな者はいるのか…と街中を探りつつ帰ったが、

  やはり残念ながらその期待には出会えなかった。

 

 

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その日の夜。自室にて、リフィルを待っていると扉を叩く音がしたので振り向くと、

  …おい。何警戒してる。ゼロブランドの柄に右手をつけて何か警戒している。

 まさか俺がとって食うとでも思ってるのか? 馬鹿な。

  「な、何か用か」

 顔が強張ってるがどうでもいいわ。彼女に少し街の外に行こうかと言うと、

  何をするつもりだと、剣を抜こうとした。 抜くな!そんな物騒なもの易々と抜くな!

 ったく。 ゼロブランドに尋ねたい事、彼女に伝えたい事があると、真剣な顔をして

  言うと、それに警戒しながらも頷きついてきた。

 屋敷を出て、寒い夜空の下を歩き人気の無い街中から街の外れへと。

  「ここらならいいか」

 周囲に人が居ない事を確認し、ゼロブランドに吸収から開放のエネルギーは調整出来る

  のかと尋ねると、それに対し肯定してきた。ともすれば氷から高熱。

 その他に、氷から風、更には雷も下手したら使える剣と言う事になるな。

  それも尋ねると可能だと。間で聞いていたリフィルは目を丸くしている。

 当然だろうな。そんな多岐に渡る能力持ってるわけだから。

  その辺りの調整はゼロブランドが戦況に応じて行ってくれると言う事。

  そこはそれで良し。 後は…。

  「どうした? 私の顔を見て」

 少し照れた様な表情で睨んできたが、どうでもいいと、君の母親の事は誰かに聞かされて

  いるかと尋ねると、物心つく前に亡くなったと聞いたと。…そうだわな。

 さて、どう切り出すか…。

  「気にはなっていた。アルヴァが開けた門が、何故私が開けたのか」

 ん? ああ、薄々感づいていたか。それに頷き、理由は判らないが、彼女の

  血縁がどうやらあの門を開く事が出来ると言う事を告げる。

  「そうか…。私にはまだ家族が居たのか」

 少し嬉しそうだが、それよりも戸惑いの方が大きい様だ。表情が沈んでいる。

  と、お? 険しい顔に戻ったと思えば私にどうしろと。

 どうしろも何もする事は一つ。アルヴァの代わりに、この大陸に残された騎士達の

  先陣に立って貰うと。 …首を横に振った。まぁ、あんな事があったからな、

  自信喪失していてもおかしくない。何より表に出過ぎて悪い結果を招いた後で、

  表に立てと言われて出られる筈も無い…か。

  「君が立てば良いだろう? 私はもう…」

 俯いて溜息混じりに弱音を吐いた彼女の肩を軽く掴み目を見て、こう話した。

  君は今まで、ゼロブランドを手に入れるまで守られる必要があった。

  だが、ゼロブランド。恐ろしいまでの力を手に入れた今、今度は君を守ってきた

  者とその遺志を守らなくてはならない。違うか? と。

 その言葉に、目を丸くして少し寒い所為か?頬が赤みを帯びたかと思うと、

  目を背け、そんな事は判っている!と言い切ってくれた。 

 そうかそうかと、彼女の頭をポンポンと軽く叩くと、嫌そうに左手で振り払う。

  まぁ、これで良しと、後はアルヴァに頼んで何とか大陸に残った騎士達と、

  連絡を取る方法見つけて貰わないとな…ん? 何だよ。

 さっきからジッと俺を見ているが、何かついているのか…なわけないよな。

  さて、用事も済んだしこの寒い夜風に余り長い事当たってると風邪引きそうだ。

  俺は彼女を連れて屋敷に戻り、心配していたのか入り口で立っていたアルヴァに

  少し怒られた。その時に連絡はどうにか取れないかと尋ねると、逆に何をするのか

  それを尋ねられた。…まぁ、そうなるわな。彼等と連絡を取り、ザンヴァイクに

  攻め入ると彼女に告げると、任せておきなと笑って答えてくれた。

 これで、準備は出来た。然しあの化物がわさわさといるだろう一種の魔城と化した

  ザンヴァイクに攻め入る。我ながら自殺行為じゃないかとも思うが、

 ゼロブランド・アイシクルフィアの性能を引き出せれば、それは不可能では無い。

  そう思えるわけだ。あの竜を一撃で気化させる程の攻撃力に加え、

  多様性に優れる近接戦闘の剣、ゼロブランド。

  隠密性に長け、近距離・中距離射撃に加え、城壁・城門破壊に大いに役立つだろう

  欠点はあるにせよ、一撃の大きいアイシクルフィア。

 城一つ攻め落とすには、十分な武器である事に変わりない。

  アリアやセドニー達の弔い合戦。必ず勝たないとな。

 

 

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