蒼翼-アオバネ- 第二話
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「私と……ゲームを、しよ?」

 

 

目の前の氷柱の言った言葉。

 

 

正直驚いていた。最初に会った時こそボーッとしているもんだからもっと口数が少ないのかと思っていた。

 

 

そんな氷柱は現在進行形で「じぃーっ」と音になるくらい俺を見ている。

 

 

(どうするか……。)と考えてる内に軽く携帯で時間を確認した。

 

 

時刻は17時30分を回ったところ。病院に入って直ぐのカウンターにあった退館時間思い出す。

 

 

多分、そろそろ退館時間だ。

 

 

よし……。

 

 

「今日はもう退館時間だからまた今度ってことで……」

 

 

そう言うと氷柱はうなだれた。ガッカリさせて悪いけど……。

 

 

「ここの病院でのカウンセラーにはね、退館時間とかはないんだよ。」

 

 

…………ぇ?

 

 

「だからぁ、断る理由にはならないよ。」

 

 

なんだその哀れみの眼!

 

 

「なんで……?」

 

 

何で一応のカウンセラーの俺が知らないんだ。

 

 

「よくね、私にはカウンセラーが付けられるんだってさ、だからなんか分かるんだ。」

 

 

「ふーん……。」

 

 

……ん?

 

 

今確か、よくカウンセラーが付けられると言っていたか?

 

 

「やめざる負えないんだよ、カウンセラーの人達は。」

 

 

こちらが何を思ったのかに気付いたのかそんなことを言った。

 

 

その所為でもう一つの引っ掛かりが消えてしまった。

 

 

「どうして……?」

 

 

「……ヒントをあげるよ。カウンセラーの生き甲斐は何?」

 

 

「生き甲斐……?」

 

 

「あぁ…と、カウンセラー関係ないや。全ての人って言った方が…、ああもう!なんかしんみりしちゃったじゃん!」

 

 

今のナシ!と手をパタパタすると氷柱は深呼吸をした。

 

 

「ふぅ……今日はもう、帰って良いよ。」

 

 

「え?」

 

 

時刻は18時前。

 

 

今までゲームだのなんだの言ってたのに、今は帰してくれると言っている、流石に面を食らった。

 

 

「い、良いのかよ?」

 

 

そのまま帰れば良いのに俺は何故かそう聞いていた。

 

 

「良いよ。だって、これから一週間来るんだから。」

 

 

何故だろう。

 

 

氷柱は、帰って欲しい、と思っているし、帰って欲しくない、とも思っている。

 

 

理由は分からないが、そんな感じだと思った。

 

 

「分かった。今日はもう行くから。」

 

 

「……うん。また明日、来てね。」

 

 

「あいよ。」

 

 

不思議だ。

 

 

言葉には表せられない気持ちがあった。

 

 

でも一つ分かるのは、俺は明日また来る事に、全く抵抗がないことだ。

 

 

病室を出る前に振り返り、

 

 

「じゃな。」

 

 

と氷柱に片方の手を上げて言った。

 

 

向こうはニコリとしながら手を振り返して来た。

 

 

それを確認して、

 

 

―ガラガラ。

 

 

・・・

今度は優しく、病室のドアを閉めた。

 

 

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病室の中、ただ音も無く、秋乃くんがいなくなった出入り口のドアを見ていた。

 

 

「はぁ……。」

 

 

私は、馬鹿だと思う。

 

 

人は、過ちを繰り返す生き物なのだろうと考えてしまう。

 

 

「んー。」

 

 

時刻は、19時だ。もうそろそろ、一日が終わる。

 

 

日付が変わるまで5時間もある、と解釈出来るが、5時間しか、としか言えない。

 

 

今から寝てしまえば確実に一日は終わる。そして時間が経てまた、秋乃くんと会える。

 

 

   ・・・・

そう、今日の彼には会えないのに。

 

 

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氷柱の病室を出た後、エレベーターに乗り一階へ。

 

 

そして、一階に着き、エレベーターのドアが開くと霰霜聡太郎院長がいた。

 

 

「―あの子は、どうだったかな?」

 

 

眼が合うなりいきなり質問をしてき……、院長!顔近い!

 

 

俺は慌ててエレベーターの"閉"のボタンを押した。『ドアが閉まります』とともにドアが閉まる。

 

 

「……ぬぅ。」

 

 

エレベーターが閉まるギリギリで院長が退いた。

 

 

だがしかし、エレベーターのドアは閉まったのだがそれは無駄だった。院長が"△"でも押したのだろう、ドアが直ぐ開いた。

 

 

「えぇと、不思議でしたね。簡単に言うと、思ってたより明るくて……、やんちゃ?」

 

 

俺は何も無かったかのように質問の返答を返す。

 

 

すると院長はさっきまでの雰囲気が消え、途端に冷酷(?)な目になった。

 

 

「本当、かね?」

 

 

「は、はい。」

 

 

俺は嘘を付いていないのに、焦ってしまった。

 

 

「そうか、じゃあまた明日も頼むよ。引き止めて悪かったね。」

 

 

さっきのはなんだったんだ?

 

 

冷酷(?)な目は一瞬だけで、すぐその目は穏やかになった。

 

 

「……はい、さよなら。」

 

 

……一体なんだったのだろうか。

 

 

そんなことを軽く考えながら俺は病院から去った。

 

 

病院から家までの時間は約一時間。もう嫌がらせのレベルだな。

 

 

「あぁやっぱ明日来ることに抵抗があったかも……。」

 

 

かなり進んだところから見慣れた風景へ。

 

 

これから帰ったらレポートを書かないと……。そんなことを考えながら進むと、もう自分の家が見えた。

 

 

そして、家に着くとそこには―

 

 

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スタッフオンリーの部屋。そこにはいつもどおりの何も無い風景が広がっている。

 

 

そんななかで霰霜聡太郎はそこらへんにおいてあるイスに座り、思想をしていた。

 

 

 

 

―あの子が"明るくてやんちゃ"か。

 

 

「ふふはっ……。」

 

 

軽くした笑い声とは似つかない声が自分から発せられた。

 

 

何故なら、嘘のようで本当のことだから。

 

 

この病院の院長を22年間やって来た、それを説に私には治すことのできない病があるとは思わなかった。

 

 

なんて、これは病気じゃないのは分かっている。

 

 

だからこそ分からない。私は一体どうすればいいのだ。

 

 

あの子を助けるために、"あの子を助ける努力をするのか"、"あの子に関わる人を助ける努力をするのか"この二択に他ならない。

 

 

私は選んだ。

 

 

・・

二つとも、な……。

 

 

彼は、彼ならきっと解決できるかもしれない。

 

 

私は、もう祈るしかない。

 

 

様々な人を救った自分の手で、持っていた御守りを握りしめた。

 

 

すまない。

 

 

すまないと思っている。

 

 

「……氷柱。」

 

 

 

―その声は、電気が点いていないスタッフオンリーの部屋の暗闇に消えていった。

 

 

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                        高瀬 秋乃

 

 

 

説明


前回の続きです。

もっと早く投稿できればよかったのですが、私の能力不足です。

一応第三話の物語も今進めています。

出来ることなら三日以内に投稿したいです。

キャラクターの絵も描きたいなと思うとやはり遅くなってしまいそうです。

今回はささやかながら主人公の絵を描かせていただきました。

見苦しいですがどうぞ!

では、蒼翼-アオバネ- 第三話です!

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