変わり往くこの世界 14
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  薄暗い謁見の間。その中央で床にねじ伏せられ、首に恐らくは遺伝子組み換えの

   何かだろう、ゆっくりと半透明の液体が体に侵入してくる。

  いやだ…。いやだ! 体に力を入れ跳ね除けようとするが圧倒的な力の差か、

   逃げる事も出来ず。

   「安心しろ。見た所、お前ならそこらの者達の様に、自我を失う事もなかろう」

  余計だ! 自我があったまま化物にされてたまる…か! 更に力をいれるが、

   それも空しく半透明の液体が体に侵入していく…くそ。

   「ユタから離れろこの化物ぉぉっ!!」

  俺に意識を集中していたのか、リフィルから意識が外れていたのだろう。

   油断したガイアスの左手をゼロブランドが捉え、そこから彼の左腕が凍りつく。

   が、触れたのは一瞬であり、俺から離れ飛びのいた瞬間、

   中身のまだ入った注射器だろうそれが、地面に落ち音を立てて割れる。

  四つんばいになり、首を抑える俺に彼女が近寄り声をかけるが、邪魔を

   されて怒ったガイアスの声がかき消した。

  瞬く間に間合いを詰めたガイアスの右腕が腹を捉え、彼女の体が大きく宙に浮き、

   そのまま地面に幾度か跳ね上がり叩きつけられた。

  「リ…フィル…。 ガイアス…てめぇ」

  その言葉に、俺の方を向き右手を彼女の首にあてがう。

  「まだ憎まないか? ならば…次はこの娘の血肉でも浴びてみるか?」

  彼女の首を掴み、軽々と片手で持ち上げ俺の前へと歩み寄り、力を入れたのだろう。

   リフィルが苦しそうに声をあげ両手で、ガイアスの右手を押しのけようと必死だ。

  「さぁ、半端で終わったとはいえ、お前もワシ同様に力を得ただろう。

    見せてみろ」

  くそ…。何か体の至る所が焼ける様に痛い。息が出来ない…。

  「それ、始まったぞ。さぁ…お前も化物となってワシと戦え」

  いやだ…化物になんてなりたくな…ぐふ。

   胃からだろうか、何かが大量にこみ上げ、耐え切れずそれを床に吐き出す。

   苦い…痛い、熱い。

  「ユ…タ…」

  余りの痛みと苦痛に床を転げ周り、血の混じった吐しゃ物を吐き散らす。

   謁見の間を自身の悲鳴とも取れる声が木霊し…それを見ながら歪に歪んだ口元

   の獣の顔が目に入った。黒い毛並みの狼…ワーウルフ。

  いや、戦いに飢え狂ったベオウルフという所…か。く…そ。

  「見ろ、お前もワシに似てきたぞ」

  なんだ…と、のたうちながら自分の腕を見ると、灰色の体毛…?俺もかよ…。

   だんだんと痛みが治まり、息を荒げて四つんばいになる。

  「ユタ…嘘」

  恐れを抱いたかの様な目で俺を彼女は見、、

   期待に胸が張り裂けんばかりに笑むガイアス。…。

  「貴様…よくも! アリアを…許さねぇ…殺してやる!!」

  大きく吼える様に叫び、立ち上がり力任せにガイアスに掴みかかり、殴り飛ばし、

   一緒に飛ばされたリフィルを捕まえ、後ろにかくまう。

  「貴方…」

  声が震えている、戸惑い、恐れといった所。…。

  「逃げろ。どうやらこいつの目的は俺だけのようだ」

  その言葉に何も答えず、まるで眼中に無いとばかりに、

  横を走り去るリフィルに何もしないガイアスが俺の方を見て笑っている。

  「味方にまで見捨てられたか? その姿なれば仕方ない事」

  凍った左手を、右手で打ち砕き…痛みが無いのか? まるで意に介せず、

   両手を広げ、俺に戦いを促してくる。…。 軽く左拳を床に叩きつけると、

   簡単に床にヒビがはいった…痛みもさして無い、それを確かめる俺に、

   戦いを急かすガイアス。こうなったらせめてコイツだけでも…。

  大きく身構え、右足で地面を蹴ると床が砕け散り、一瞬でガイアスとの間合いが詰まる。

   余りの速度に俺自身が戸惑いを見せた瞬間、奴の右拳が顔を捉え、大きく殴りつけられた。

   然し、痛みも大して無く、目は奴を捉えたまま、顔に向けてクロスボウを撃つ。

   弾が奴の片目に命中し、白い液体の様なものが飛び散るが、脳には達しなかったのか、

   反撃を受けて大きく後方に蹴り飛ばされ、床に爪あとを残しつつ片膝をついて体勢を

   整え、地面を蹴り、右手で殴り体が仰け反った所に、

   弾を撃ち込んだが…余り効果が無い。

   「良い。良いぞ…、もっとだ…もっと力を見せろ!」

  左腕の無い両腕を広げ、大声で叫ぶと、近場に居たセドニーのクローンを容易く打ち砕いた。

   飛び散る血と肉片、臓器が舞う中、地面を強く蹴り俺の足元へと潜り込み、

   右肩を俺の腹に強く打ち、抱え上げる様に持ち上げ走り、壁へと俺は叩きつけられる。

   「ぐはっ…」

  その瞬間、壁に亀裂が走り、崩れた瓦礫が降ってくる。 

   壁に半ば埋めつけられた俺の腹部に、ガイアスの右拳が幾度も叩きつけられ、

   どんどん壁に埋め込まれて、ついに隣にあったのだろう部屋へと貫通し殴り飛ばされる。

  起き上がり周囲を見回すと、どうやら広いテラスの様だ、空が伺える。

   「この期に及んで、まだその様な隙を見せるか小僧ぉぉっ!!」

  恐ろしい事に、穴の開いた壁を更に殴り壊して、口を大きく開けてこちらに飛び掛ってくる。

   どんだけ身体能力上がってるんだこいつは…! 慌てて飛びのき、テラスから上、

  城の屋根の部分へと跳躍し、一旦身を引く。どうもここは狭い。

   城の後方周囲が見渡せる屋根の上、力を溜めて待ち構える。

   追ってきたガイアスが、屋根に着地する瞬間を狙って先程撃ち抜いた右目。

   右に移動し死角から奴の胴を蹴り飛ばすが、来るだろうと読まれていたのか、

   右腕でガードされ、屋根の一部を抉りながら少し押し下げた程度だった。

   「賢しいわ…小僧!」

  くそ…。どうすりゃ勝てる。この化物に。

   考えを一瞬でもしたのが、見抜かれたのか、瞬く間に間合いを縮められ腹に右拳が

   抉る様に打ち込まれ、内臓が少しやられたのか? 口から鉄の味のする何かが。

   そのまま大きく後方に殴り飛ばされ、落下し地面に叩きつけられ土煙をあげる。

   「ユタ!?」

  この声は…。そうか。やばい。

   「逃げろ!早く…遠くへ!!」

  右手を強く払い周囲にいる騎士達に声を…その瞬間、俺の右足に槍が突き刺さり、

   その槍の先には、恐れ怯えた若い騎士がこちらを見ている。

   「やめろ!その者はユタだ!敵じゃない!」

  …。リフィルの声が届くはずも無く、今度は背に矢…か。

  屋根の上を見ると、ガイアスの姿は無く、一体どこに…。視線を周囲に戻すと、

   音も無く降りていたのか、若い騎士達を蹴散らし、こちらに歩み寄ってくる。

   リフィルを庇い身構える俺に、落胆した様に溜息を吐く。

   「…どうやら、実はまだ青い様だ。もう少し実が熟すのを待つとしよう」

  そう言うと、 騎士達を踏み潰し、一足で城の屋根へと跳躍し、

   一度こちらを振り返ると、そのまま姿を消してしまった。

 

   

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「よ、寄るな化物!」

 ガイアスが去った後、どうやらここの国の人の成れの果て、トカゲ達の一掃も済んでいた

  その場所で、俺は味方に武器を突きつけられていた。

  「やめろと言っているのが判らないか!!」

 それを両手を広げて庇おうとするリフィル。 信じられないのだろう顔をして、

  その場を見ているリヴェルト達。 …。

  「ユタ!?」

 耐え切れなくなったのか、俺は地面を蹴り、崩れた城壁を飛び越え、

  無我夢中で走っていた。 何処に? 判らない。ただ足が動くまで走った。

 恐ろしく速い、風景がまるで線がいくつもかかった様にゆっくりと流れている。

  息も切れない…どれだけ走ったのだろう。辿り着いた先は、リアルトのあった所。

  何故ここにきたのか、いや、考えるのを止め、ただそこに座り込んだ。

  「ユタ。申し訳ありません。一度組み替えられた遺伝子を戻す方法は

    この時代では…」

 判っている。大きく裂けた口で大きく溜息を吐く。

  「ですが、不幸中の幸いか、中途半端に遺伝子組み換えを行われた。

    その結果、また苦痛は伴いますが、人の姿には戻る事が可能かと思われます。」

 …本当か? 戻れるのか? クリスを見せ尋ねると、前例がある様だ。

  中途半端な量だと、完全には変異しないどっちつかずになるらしい。

  どうりでサイズ的に、同じ類のガイアスと差があると思った。

  「然し。残念ながら遺伝子そのものは書き換えられたまま。

    貴方も私達の消去対象になり。

   同時に、貴方は誰にも子を残す事は許されません」

 俺まで抹殺対象かよ…。その場に倒れ込み赤く焼ける空を仰ぐ。

  くそう…涙が止まらない。右腕で涙を拭う俺の隣に誰かが歩み寄ってきた。

  普通逃げるだろ、こんな化物が横たわってたら…。

  「その武器。ユタかい?」

 この声、アルヴァか?驚いて起き上がり、アルヴァを見ると、彼女の方が驚いた顔を

  している。一体どうしてそんな姿に…と、事の顛末を告げると。

  こんな俺を恐れもせず、抱きしめてきてくれた。

  「そうかい…。すまないね、アンタばかりに重荷を背負わせて…」

 不意に涙がこぼれると同時に、全身に走る痛みを訴えながら

  彼女を払いのけ這い蹲る。心配し、近寄る彼女を右腕で押し止め、

  痛みに耐え続け、ようやく痛みが治まった自分の右腕を見ると、元に戻っている。

  息を荒げ、仰向けになり再び赤く焼けた空を見上げ、大きく溜息を吐き、

  驚いて見ている彼女に尋ねた。殺意の無い者は戦場に立つ資格は無いのだろうか…と。

  「ガイアスかい? そうだねぇ…。殺意は大事だよ。

    それに間違いは無い。殺意…敵意。それなくして力という剣は扱えない。

    殺意無き剣で人は斬れない。斬れない剣では動物も殺せないさ」

 そりゃそうだ。でも、それに呑まれた奴の成れの果てがアイツだろう。

  俺の横に座り込み、俺と同じ方向に視線を移し、続けて彼女は教えてくれた。

  「けど、殺意も大事だけどね。それを間違った方向に向けない強靭な精神力。

    目的意識を忘れては駄目さ」

 目的意識…。大義名分なんて振りかざしても偽善で終わらないか…と尋ねると、

  首を横に振り、大義名分じゃなくてもいい。

 自身の在り方、進み方を見失い見誤らなければ、

  どんな小さい事、他人が笑う様な事でもいい、と。 

  そう言うと、軽く俺に笑いかけ、ラザみたいな子が良い見本じゃないか、

  あの子は、どうしようもない子だけど、間違った道はきっちりと避けていると、

  そう、教えてくれた。 …そういえばそうだよな。

  「ま、どうやらカタはついた様だね。暫く休む!

    それからゆっ…くりと考えな!」

 いでぇ!背中を叩かれた。…そうか。うん、そうだよな。

  今は考えるのをやめて、少し休もう…疲れたわ。

 そう言うと、俺はアルヴァと共に陽の沈む廃墟と化した村を眺め続けた。

 

 

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あの時、何故彼女がそこに居たのか。後から聞いた所、遺跡に用事があった様だ。

  判り難い様に、入り口を埋めていたらしい。 場所はあの人の子供。

  リフィルだろう、それから子孫に伝えていくとの事。

 距離の所為もあり、俺は一足先にアンシュパイクへと帰り、自室のベッドで寝転び、

  色々と考えていた。ノアと言う女のするべき事。

 ノアといえば箱舟、大洪水だが…。ただ名前が同じだけだろうが、

  一応気には留めておくか。ベッドから起き上がり外を見ると、日が暮れかけている。

 何日たったのだろうか、余程疲れていたのか結構な日数を寝ていたらしい。

  然し、どうしようもなかったとはいえ、ノアをこの大陸から出してしまった。

 恐らくは他の大陸でまた似たような事をする気だろうか…。

  だが行き先も判らない現状、後手に回るしかなくで…お? 扉が勢い良く開き…。

  「馬鹿者が!!!」

 問答無用の罵倒と右拳が俺の右頬を抉る様に捉え、ベッドに叩きつけられた。

  「馬鹿者が…どれだけ探したと!!!」

 俺の腹の上で泣きっ面で、顔を掴んで殴るな! 流石に痛かったのか、

  彼女の腕を掴んで謝ると、今度は泣き付いてきた。…何この展開。

 何?吊り橋効果みたいものか? それとも単純に心配して怒ってるのか?判らん。

  「う〜…」

 今度は唸り始めたぞ。あ〜判ったよしよしと、頭を撫でるとぶん殴られた。

  暫くどうにもこうにも対応に困り、フリーズしていると、扉から茶化す声が。

  ラザか…。そのまま抱いてしまえばいいのに何してるんだ大将と。

 お前と一緒にすんな! 全く、まぁその代理はディアナが行ってくれた様で、

  ラザが大きく前につんのめった。

  「無事でしたか…。あの姿はリフィルから聞きましたが、一体どう言えばいいのか」

 どうもこうも、男の人生の楽しみ99%奪われたよ。そう笑って返すと、

  目を丸くしてラザを睨めつけ、貴方が変な事を吹き込むから!と、つんのめっている

  ラザの頭を踏みつけた。何気にいいコンビだなこの夫婦漫才。

 で、俺は早くこの胸元で張り付いて離れないリフィルを何とかしてくれないかと、

  目で彼女に訴えたが、笑顔で首を横に振り、ラザの首根っこを掴んで出て行ってしまった。

 …変な空気読むな! 帰って来い!助けろよ! 

  去っていった二人を掴もうと出した右手が素晴らしく空しさを醸し出している。

  「…」

 …。 どうすればいいこの空気。

  「心配…したのだぞ」

 だから謝ってると。それを言うと謝って済む問題かと殴られた。どうすりゃいいんだよ!

  くそ…。あの事告げとくか?いや、彼女に余計な罪悪感を持たせるだけか。

  両肩を掴み、彼女を引き剥がすと…うわ。鼻水が俺の胸元から糸引く様に伸びてやがる。

  ぐずってヒキツケ起こすみたいに息がし難いのか、顔が真っ赤。目も真っ赤。

  下から睨みつけて、何か言いたそうに…だから殴るな。

 はぁ。まぁ、そんだけ心配していたんだろう。4騎士の時もそうだったしなと。

  俺は軽く彼女を抱え上…鎧が重くて無理。と思ったら本当に軽く抱え上げてしまった。

  腕の力だけで…どうやらこの状態でも身体能力が底上げされている様だ。

  酷い泣きっ面の彼女を横に移し立ち上がり、らしくねぇな。そう笑うと今度は怒り出した。

 ま、それでいい。そっちの方がらしいわなと言い、彼女の頭を軽く叩いた。

  「…っく。 で、元に…戻れたのはいい…っが」

 まともに喋れない程泣いてたのかよ。 テーブルにおいてあった水を手に取り、

  彼女に手渡すと、それを一気に飲み干した。そのまま暫く彼女が納まるのを待つ。

  10分程だろうか、彼女がようやく平静を取り戻し、俺にこれからどうするのか。

  それを聞いてきた。 ソレに対し、後手に回るしか無い現状、他大陸からの情報を

  待ちながら、自身を鍛えて待つしかない…と。そういうと納得したのか、

  ふらふらしながら部屋から出て行った。 どうやらま、心配していただけの様だ。

 彼女は確か憧れている騎士がいたよな?うん。一人で納得し、再びベッドに潜り込み

  また寝る事にした。

 

 

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それから、約一ヶ月経ち、屋敷の前で剣を構え、俺を睨むリヴェルト。

  周囲には、アルヴァやリフィル、ラザやディアナ…

  ハザトは子供達と楽しそうに戯れている。

  「余所見をしている余裕は…無い」

  そういうと、いわゆる青眼の構えだろうか、そこから剣を突き出してきた。

   突き出された剣から目を離さず、少し頬をかすめたが、一気に詰め寄り手元から

   右手に持った長剣で打ち払い、そのまま体当たりをして、彼の姿勢を崩し、

   馬乗りになり顔目掛けて左手のクロスボウを向けた。

  「ま、参った」

 その言葉に俺はリヴェルトから離れ、地面に長剣を刺し、彼に右手を差し出す。

  右手を掴み立ち上がった彼は、以前の様な無駄がかなり無くなってきたと、褒めてくれた。

 何にしても褒められるというのは嬉しい事で、俺は頭をかいて照れている。

  「中々やるようになったねぇ。 じゃあ…」

 頭をかいてる俺に、後ろから斬りかかってきたのは、なんと言う事かアルヴァ。

  妙に背中が焼ける様に熱い。どうもマジで斬られたようだ。

  「本気で行くよ…」

 待て! いくらなんでもアンタは!! うぉっ! 正面から突っ込んできた、

  そう思ったら、右足を蹴り急に方向を左へと、そのまま下から斬り上げてきた。

  慌てて下からの斬撃を仰け反ってかわし、地面に刺した長剣を掴みつつ、

  地面を転がり体勢を整えて間合いを取る。 

  彼女に戦えなくなったんじゃないのか!と突っ込むと戦うのと教えるのは違うと。

  …同じじゃねぇか! そう言うや否や一瞬で間合いをつめられ、右斜め上から今度は

  袈裟斬りだろう。振り下ろし、ソレに対し剣で受けようとした瞬間、刃の軌道が逸れて

   首を狙ってきて、あと少しで本当に首がすっ飛ぶ所で止まり、熱く焼ける背中に反し、

   冷や汗という奴か、今度は体温が急に下がってきた。

  「どうしたい? ガイアスやセドニーはもっと強いんだよ」

 この人をもってそれを言わせるか。くそ。左手で彼女の足元にクロスボウを撃ち、

  一瞬気を引いた瞬間に飛び込んで、下から斬り上げるが真紅の剣で受け止められる。

  そのまま鍔迫り合いに持ち込み…本来なら負けるのだろうが、単純な身体能力なら

  もう俺は普通じゃない、そのまま彼女を押し切り剣を弾き飛ばして、

   長剣をよろめいた彼女に突き出した。

  「ふう。なんて腕力だい。参ったね…」

 技量的にはとてもじゃないが、追いつけないが体力勝負に持ち込めばなんとかなったようだ。

  ちょっと嬉しそうにしている俺に、彼女は真紅の剣。フランヴェールの柄を俺に向けて

  …なんだ。

  「ほら、何してるんだい。 こいつはアンタが持っていきな」

  貰っちゃって…いいの? うそん。遠慮無くそれを握り締めて、

   左手にあるアイシクルフィアと、右手にあるフランヴェール…力は失ってはいるが。

   材質的にも他の剣より遥かに優れている事は判る。それ以上に何かこう…格好よくね?

   などと、喜びを露にしていると、頭を殴られた。

  「アンタ子供じゃないんだから…」

 溜息交じりにそう言われ、周囲にも笑われてしまった。

  まぁ然し、冗談は抜きにしてあれから剣を学んでいたが、そこそこは強くなれた様だ。

  殺意の篭った一撃が出せるかは別として…だ。

  それは実践でしか会得出来ず、教えられるモノでは無いとも言われた。

 それから、アルヴァが、この国と貿易をしている他大陸で、謎の化物に襲われた国が

  出ていると。街に来ている貿易商から聞いたらしく。 ノアの居場所も特定出来た。

  リフィル達を見て互いに頷くと、俺達は旅の支度をし、翌朝ここから少し離れた所にある

  港町の船着場に立っていた。

  「アタシは行けないが、頼んだよ」

  名残惜しそうにアルヴァの前で立っているリフィル。その頭を彼女は軽く撫でてている。

   どうやらもう伝わっているらしく、彼女を抱きしめていた。

   ん?何か周囲で女の悲鳴が…ラザお前。見も知らぬ女の尻やら胸やら触って逃げるな!

  相変わらずというか、見境無しか貴様!それを代弁するかの様に

   追い掛け回しているディアナ。船に先に乗り色々と手続きをしているリヴェルト。

   港町の子供と遊んでいるハザト…子供好きだなあの人。

  それぞれだが、俺も一足早く、船に乗ると船内へと入っていく。

   狭く、ちょい木造船らしく木の匂いと潮の香りが混じってなんとも言えない。

  船室へ行き、荷物を下ろすと、再び船外へ。そうすると皆、船に乗ったらしく

   デッキに集まっていた。 船着場から手を振るアルヴァ。何か言っている様だが、

   岸壁から離れていく為、良く聞き取れなかったが、それは生きて帰って来るんだよ。

   と、言っているんだろう。それは場に居る全員がそう思ったに違いない。

  風を帆に受け、遥か水平線へと大陸を離れ向かう帆船。

   向かう場所は地図で調べたが…どうやら地中海周辺の様だ。

   あれだけ大きい溝というか穴というか、それが開いたのはそこしか思い浮かばなかった。

  俺達は、今度こそあのノアと言う女を止めなければ、どうなるか判らない。

   ガイアスも然り。 互いに打倒を誓い船室へと。

 

  そして俺は…。いや、余計な事は考えないでおこう。今はただ、ガイアスが遣した力で、

   奴等を倒す。それだけを考えておこう。

 

 

            第2章 狂乱の渦中へ  終  

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