変わり往くこの世界 16
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 おりょ? 港に近づいた途端、潮の香りがきつく。…? なんでだ。

  首を傾げ、犬の様に嗅いでいると、近くに居たアルバートが、波が何かに叩きつけられ

  舞い上がった海の水が風に乗り、運んでくれる香りですよ、と。

 成る程! 知らなかった。どうりで海のど真ん中だと潮の香りがしなくなったと。

  掌を右手で打ち、納得する俺は、そのまま周囲を見ると。どこか忙しくなく、

  そして、緊張感のある空気が張り詰めている。 近辺で魔物化の疫病が流行っている

  為だろう。それはすぐに判った。

 そのまま辺りの建造物なぞを見てみると、これ運べるのか? 恐ろしく大きいタル!樽!

  何が入ってんだありゃ…。気になりつつ、木造の倉庫だろうそれが横一列に立ち並ぶ方を

  見る。何か藁…か?それで編まれた袋に入ってるんだろう、それが積み上げられている。

 こうやって見知らぬ土地の見た事の無い物を見るのは、非常に楽しい。

  良く見ると、網が石造りの地面にこれでもかと、無造作に並べられていて、

  港町の人だろう。座り込んで…ああ、破れた所を修繕している。

 少し近寄ってみてみると…。うわ! 生臭いだと!?生臭いというか、

  魚の腐った臭いがたちこめて…うげぇ。たまらん。鼻を押さえて、その場から逃げて

  リフィル達のもとに。

  「何をしていのだ?」

 いや、何って見知らぬ土地に対しての知的好奇心をうんたらかんたら…。

  子供かお前はと言わんばかりの表情で、溜息を吐かれた。

 どっちが子供だくるぁ! ったく。こう言う状況把握する事を常にして、

  それを戦闘にだなぁ…おい聞け! 無視して町中へと行くな! 

  「苦手な物を互いに補い合う事も、大事ですぞ」

 そう、白髪の混じったオールバックで茶髪のリヴェルトに肩を叩かれた。

  この中では一番年長。余り口数は多くなく、しっかり者というよりも堅物というイメージ

  があるなぁ。実際の所、良く知らないので不明だ。まぁ、納得。

 俺達も、先へ行ってしまったリフィルの後を追い町中へと。

 目に入ったのは、オール木造建築かと思いきや、石造りの家もありで。

  というか、少し暑いな。 胸元を引っ張り服の中に空気を入れるが、

  やはり少し暑い。 あの大陸とは違い温暖なのだろう。こりゃ着替える必要ありだな。

 この厚着で、戦ったらたまらんわ。 そのまま、町中を歩き宿へと入る。

  どうやら、あの大陸と貿易が盛んらしく、言葉は通じる様だ。

 早速、宿を取り各自それぞれ室内へと…俺はラザとか。嫌な予感が。

  「大将〜、お姫さん抱いたのかい?」

 早速かお前! 相変わらずの本能に忠実な奴だ。首を大きく横に振ると、

  呆れた顔でこっちを見ている。…やめろ、そんな目で見るな。

  「あの状態で抱かないって大将。 それは飾りか?」

 どこを指差している。 駄目だ、コイツといると調子狂う。無視して上着を脱ぎ、

  半袖になり、…ズボンはどうしようもないな。厚手のズボンはそのままで外に出る。

  「あら、ユタ。ここは暑いですね」

 お、ディアナだ。軽く挨拶すると、ディアナも着替えたのか、薄着になっているが、

  長袖というか薄手のあのドレスみたいな服を着ている。

  肩程で無造作に切り分けられた茶髪。前髪は目にかからない様に羽飾りで左で止めている。

  元気なそうなイメージの髪型ではあるが、冷静な女性だ。

 彼女はどうやら、アルバートから聞いた疫病の事を詳しく聞きに町中へ行く所らしく、

  丁度良いので俺も同行する事に、と。思ったらリフィルの傍に居てあげて下さいと、

  すげなく断られたわけで。渋々とリフィルの居る部屋へと向かい、

  扉をノックして彼女を呼ぶ。 間違ってもいきなりあけて着替え中なんて事になったら、

  俺は氷像と化しているだろう事は、手に取る様に判ると。

  「ユタか、少し待っていろ」

 相変わらずのこの命令口調。一応、セイヴァールの一隊長だったしな。

  それにしても見事な自爆フラグ回避。危ない危ない。

  暫く扉の前で待つと、彼女が出てきた。…お前は平時までそれを着るか。

 アルヴァのおさがりなコンポジットアーマーに、ディアナと同じ様な薄手のドレス。

  色気も何もあったものじゃなし。なのに何故かたまに色気づくわけの判らない奴と。

  「…おかしいか?」

 慌てて首を横に振ると、少し不機嫌そうに可愛らしい口を尖らせた。

  扱い難いわ本当に。まぁ、そんな事より情報収集に行くかと、誘うとついてくると。

  彼女と二人で宿を出て町中へと行くと、真っ先に目に入ったのが、ハザトだ。

 こいつは目立つ。巨人かと思う程に大きいからな。またしても町中の子供達と

  戯れている。本当に子供が好きな様だ。短い髪にやや面長の顔。

  表情はとても穏やかであるが、子供に害を成す者と戦うと、スレッジハンマーを

  軽々と振り回し敵を圧殺して歩く、ミノタウロスと化す。

 …。こうしてリフィルの付き従っている4騎士を改めて見ると、

  自分の何かをきっちりと確立させて戦っている。だからこそ強いのだろう。

   俺もそこまで思えるものが欲しいな。いや、アリアとの約束はあるにはあるが、

   それは約束であって信念といえるのか? 判らない。

  「どうした? 浮かない顔だが」

 うん?ああ、顔に出たか、まぁ…俺の、俺自身の戦う理由。それが見つからなくて

  困っていると言うと、笑われて…。

  「馬鹿者が」

 馬鹿言われたよ。全く、人の気苦労も知らんとまぁ言ってくれるわ。

  軽く溜息を吐いて、俺達は酒場に足を運ぶ。まだ陽も高いので人は少ないが…。

  お! 

  「おおおおおおおおっ!!」

 思わず脳内と口から出た言葉がリンクしてしまう程の喜びを口にした。

  何事かと俺の方を驚いて見るリフィルを他所に、それへと走り、

  腰を当てて左右に押し開き薄暗い店内へと。 あぁぁぁ、これやりたかった…。

 目を瞑り、右手を握り締めて喜んでいる俺。

  「まさか…。この入り口を通って喜んでいるのか?」

 その通り。このテキサスあたりにしか無いんだろうと思っていた、扉!

  これを開けて見たかった…! …うわ。子供かといわんばかりの表情で見られた。

  仕方無いだろう、こういうのは男のロマンの一つなんだよ。

 気を取り直して、奥のカウンターにいる店主だろう、

  髭を蓄えた黒髪オールバックの中年男性に話しかけ、疫病について何かしらないか尋ねる。

  …反応が無い。 あれ? 

  「はぁ…。何をしている。 店主、何か飲み物と軽い料理を貰えるか?」

 それに対して、酒か果物をすり潰したいわゆるジュースだろう、尋ねてきた。

  ああ、成る程。何か頼まないと聞ける事も聞けないのか。ふむ。

 リフィルが、酒は飲めないのでジュースを頼むと、木製の中ジョッキくらいの大きさに

  並々と注がれたブドウだろうか、紫色の液体がはいった物が、二つ同時に置かれた。

  かなり大雑把に置いたらしく、少し中身がはねて零れ落ちるあたり、

  こういう酒場の雰囲気に合ってるなぁと思わされた。

 見るからに、果実100%荒絞り!という感じで、皮が浮いているが、こりゃ美味そうだ。

  船の上で一ヶ月近く、味気の無い物ばっかだったからな、早速口に運ぶと、

  やっぱりブドウだ。濃厚というか皮の所為か渋みがちょいキツくね?

  と、口に入れた瞬間、そう思ったが。 後で果実の甘みがじんわりと広がり、

  その渋みと相まって物凄く美味しい。うわー…たまらないわこれ、癖になりそう。

  「美味そうに飲んでいるな。そんなに美味しいか」

 そりゃもう、こんな美味いブドウジュース飲んだ事ねぇよ。とばかりに一気に飲み干す。

  それを見ていた店主が、笑いかけてきて、リフィル同様そんなに美味いかと。

  どうやら、顔に出ているらしい美味いという事が。

  気に入られたのか、別の色した飲み物を出してくれた。…なんだこりゃ。

  ミカンか? いやミカンは日本のだよな。オレンジか、うん。

 文字通りオレンジ色の液体が並々注がれた中ジョッキを、一気に口に運んだ瞬間噴出した。

  「すっぱ!!!」

  隣に居たリフィルに噴出したオレンジジュースがかかったのか、わき腹に肘を入れられた。

  テーブルに這い蹲り、痛みを堪える俺。懐から取り出した布で顔を拭うリフィル。

  その二人の前に今度は料理が一品だけ並べられた。

 お〜…肉! 焼きたてらしく香ばしい匂いがなんとも、

  さっそく添えたあったナイフとフォークで…お? 硬いな…ギリギリとナイフ押し付けて

  ようやく切りおわると、口に運ぶ。肉は硬く、コショウが効き過ぎた感が強い。

  お世辞にも美味いという類では無いが、店主の機嫌損ねるとだめそうなので美味そうに

  平らげた。そうすると、気分を良くしたのか店主が疫病の事を教えてくれた。

 一ヶ月と少し前に、突然化物になった人が、暴れ始め、タルワールの国を壊滅に追いやった

 と。そして、今も化物の巣窟と化したタルワール城には、

  助けを求める様な化物の吼え声が響き渡っていると。…ふむ。

 察する処、ノアはいなそうな気がするが、放ってはおけな…いや置かないよな君は。

  リフィルの方を見るとやる気まんまんである。然し、戦力が…化物の巣窟にこの人数でか。

  …少し考えておく必要ありだな。 俺達は食事を済ませテーブルに銀貨数枚置いて酒場を

  後にしたが、その時に店主から近いうちに果物の収穫があるからまたきなよ…と。

 そりゃ行くわと、振り向いて答えると俺達は酒場を後にし宿屋へと戻った。

 

 

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宿屋に戻り、俺はリフィルと分かれて自分の寝室へ。そこには誰もおらず。

  どうやら、ラザも情報収集に…女の尻おっかけてそうだな。

 肩を軽くすくめると、木製の壁。街の内側についている窓を見る。

  向かいにも建物が…あれも宿屋か?それっぽいのが邪魔をして見通し悪し…と。

 そのまま、柔らかいベッドに倒れ込み、一つ忘れていた事を思い出した。

  イレイザという女性の事だ。気難しいとしか今の所判らず。

 ま、次の機会でいいか…軽く伸びをしてやや広いベッドを楽しむ。

  何せあの船のベッドは硬いわ狭いわ寝苦しいわ。そんな所に一ヶ月も押し込まれて

  …少し暴れたい気分がするな。などと縁起でもない事を言った矢先に外で何やら

  怒鳴り声が。 なんだろうかと窓を押し開いて見てみると。

 ガラの悪そうな鼻の低いおっさんが、お菓子を持って歩いていた子供とぶつかって…。

  と言う所か、服の汚れを見る限り。子供に何をやってんだ大人気ない。

 壁に立てかけてあるフランヴェールとアイシクルフィアを手に、俺は外へと出る。

  子供が泣いているのに、それを畳み掛ける様に怒鳴り散らして…。

 それよりも周囲の奴は何してんだ。そんなやられキャラ丸出しな奴に怯えた顔をして。

  仕方無い…なと。思ったら何やら、薄着のかなり鍛えられた体をした奴が。

  手にはえらく長い棍…か。ほうほう。こりゃ出る幕なさそうだなと、壁に寄りかかり

  それを観戦。するも何も、威嚇しているのか男が顔から無防備に歩み寄ってきた所を

  手にした棍…割れた? 連接棍…それもかなり長い。確か対騎馬用のフットマンズ・

  フレイルとかなんとか言う奴じゃないか。それで、下から振り上げ掴みかかろうとした右

  の脇の下をくぐり正面から後頭部に棍をぶつけやがった…。

 その場に蹲る男を踏みつけ、子供の方を見…あら? 目を瞑ってるな。盲目か?

  判らんが、顔がこっちに向いたので判ったが、どうやら女。フレイル…女。

 まさか、彼女がイレイザ? 然しやたら傷だらけの体だな。目の周りにも横一線大きい

  傷が走っている。一体何したらあんな傷が…。

 俺は、丁度良いと彼女に駆け寄ると、短い金髪に褐色の肌の女が俺に気づいたのか、

  棍をこっちに突きつけてきた。

  「貴様もこいつの仲間か?」

 気の強そうな低い声。然しどこか冷たく感情が余り感じられない気がしなくもなく。

  俺は慌てて、子供を助けようと出てきたら君に先をこされてしまい。その上、探して

  いた女性だったので話しかけようとしていた事を告げる。

  それに対し、俺と話す事は何も無い。と、そのまま向かいの宿に入っていってしまった。

 あ〜…こりゃ確かに気難しそうだ。だがこの手の人は強いぞ。警戒心が強く、さっきの

  フレイルの使い方。相当な人物だと判る。何より心優しいという所が良い。

  「兄ちゃん、イレイザ様と話したいのなら諦めた方がいいよ?」

 お? 考えてる俺に、助けてもらっていた子供が何か知ってるらしく。

  ここは丁重にお持て成しをして…いや変にお菓子などで釣ると危ない人に思われるか。

  どうするか。ま、普通に聞くか。俺はこの港町に来たてでイレイザ様の事を良く知らない。

 良かったら教えてくれるかい? そう頭を撫でて笑顔で尋ねた。

  それに笑顔で応えてくれた少年は、色々と教えてくれた。

 タルワールの女闘士で、連戦連勝無敵無敗…すげぇなおい。

  並み居る屈強な男を倒し続けて10年も王座に君臨し続けていた人だと。

 過去形か。と言う事は負けたのか? それを聞いてみると、余りに勝ち続けた為に

  試合中にいくつもの妨害工作を受け、それでも長い事勝ち続けた。、

  同時に、同じくして多少負けてはいたものの、彼女が愛していた男と、

  ついに試合が組まれ、試合中に彼女を抱きしめてプロポーズした。

 ふむふむ。いい話じゃないか。 続きは?と少年にねだると…。

  「喉かわいた!」

 お前は紙芝居屋の親父か!!なんというしっかり者。ま、ちょうどいい。

  さっきの酒場でゆっくり聞いてみるか。俺は少年を連れて先程の酒場へ。

 店主が、まだ収穫してないぞと笑いながらこちらを見たが、別用でジュースを

  頼むと、俺達の前に例のブドウジュースが並べられ、少年が美味しそうに飲む。

 んで、俺は続きが気になったのでそれを尋ねると。店主がイレイザ様とあったのかいと。

  ここの港町の人は様とつけるのか。ふーむ。

 で、子供はジュースに必死で続き話せ! と、軽く揺すると店主がどこまで聞いたのかと。

  途中までの事を簡潔に話してくれた。

 プロポーズをうけたイレイザが、それを受け取り。皆が祝福する中で油断した彼女は、

  長い事愛し合っていた男に、両の目を奪われた。

 …。そういう事かよ。やるせねぇ…。

  怒りを露にして、テーブルを叩くと壊すなよと怒られてしまうが、許せないぞそれは。

 その怒りを見て少年が、でもそのお兄ちゃんも悪くないんだよと。

  どういうこっちゃ? ああ、男の妹を人質に取られていてそうするしかなかったのか。

 成る程。その後、男は妹を無事救出した後。それを企んだ奴等を全員倒していった。

  そして、イレイザの目の前で自分の両の目を潰してしまったと。

  「やるせねぇな…」

 そんな行き所の無い怒り?空しさ?良く判らない感情でジュースを飲んでいると、

  その男が最近化物化して、国の人どころか自分の妹すら手にかけて暴れ狂っている。

 妙な疫病は瞬く間に広がり、既に国は化物の巣窟と化して、辛うじて生き延びたイレイザ

  は、この港町で傷を癒しては討伐に向かっての繰り返しだと。

  「すげぇだろ兄ちゃん!」

 何か自分の事の様に胸張ってお前…。ふむ…だとすれば彼女も強い仲間を求めている可能性

  が高いな! 後で尋ねてみるか。よし決めた! 

 テーブルに銀貨を置き、店主と少年に礼を言うと、町中へと戻り、並ぶ屋台で何か手土産は

  無いものかと…ふーむ。食べ物…花?は無いな。 色々な店を回り考えていると、

  リヴェルトと出くわした。 軽く挨拶すると、彼も軽く頭を下げると何も言わずに去って

  しまった。 …首を傾げつつもまぁ、無口だしな。と、手土産を探す。

 しまった、何も思いつかないぞ。 人通りの多い町中で突っ立って考えていると、

  少し遠くで女性の怒る声が…どうせラザだろうと無視して店を回る。

 結局、一時間探して決めたのが…この裁縫道具が色々入ったモノ!

  なんでこんなものにしたのかと…、いや戦ってると服破けるの酷いからな。

  こういった実用性のある物の方が喜ばれるかなと思い、購入。

 そして紙袋に詰めて、うまくいくかな…と、向かいの宿屋へと向かいだす。

 

 

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向かいの宿屋に辿り着き、店の店主に話しかけ、イレイザ様に少し用事があると、

  そう告げると紙袋の中身を確認したいと…えらい警戒されてるな。

 まぁ、袋を差し出して中身を見せる。中身を確認した上で、次は帯剣している武器と

  クロスボウを置いて貰おうと。まるで国王にでも会うみたいだなおい!

  流石にこれは下手な所に置けないので、宿屋にいって置いてくる。

 そういって出直してきてようやく、部屋へ案内して貰った。

  ドアをノックして出てきたのが、さっきの女性。 

  「先程の…何か用事かしら」

 俺は、先ず紙袋を彼女に渡すと、タルワールの化物を一掃しに来たんだが、

  良ければ共に戦って貰えないか、そう尋ねると…。

  「断る。貴様がどれ程強い力を持っていようとも、どうにもならない問題だ」

 すげなく断られた…が、紙袋の中身を手で確認したのか、ん?何の心境の変化か、

  室内に招かれて、椅子に座っている俺。

  「礼を尽くしてくれる相手に、先程はすまなかった」

 礼儀を重んじる人なのか、頭を下げて謝罪してくれた。

 …リフィルの先生になって貰えないかなと思いつつ、彼女の言葉に耳を傾ける。

  「化物の数も数なのだが、何よりフイルドは私の手で葬ってやりたいのだ」

 ふむ。どうやら、半ば自我が残っているらしく、妹を手にかけたフイルドは、

  自責の念に苦しみ続けている。だが余りに速く、余りに強い為、

  周りの化物も相手にしてでは、とてもじゃないが彼を救う事が出来ないと。

  「それに貴様にあの国を救って、何か利益が有るとも思えない。

    勿論、私も何も礼をする事が出来ない。あるとすれば、この身一つ」

 そういうと、自分の体を触ると、やはり気にしているのか大きく溜息を吐いた。

  「ご覧の通り傷だらけ、顔の傷も酷いだろう? 女としての価値など何一つ」

  そういうと、落胆して肩を落としてしまった。…どれ程の豪傑かと思えば、

  弱い女性である事に代わりは無く…か。いや、あれ程の不幸を身に受けて、

  正気で居られるだけ凄いか。俺は彼女の肩を軽く掴んで、先ずはこちらを売り出した。

 隻眼の女王、その力と意志を継いだちょっと向こう見ずだが、強さは折り紙つきの

  白銀の凍姫…てうおぉっ!? 掴んだ腕を払いのけられ、逆にに両肩掴まれた。

  「万の化物を退けた騎士か! 居るのか?この港町に!!」

 何で知って…アルバートか。どこでも唄うなあいつは…助かったが。

  肩をがっちり掴まれた俺は、それに頷き、それに付き従う4騎士と、オマケの俺。

 計6人しかいないが、どうだろう。タルワールの化物退治を手伝う代わりに、

  その後も他国で起こるだろう化物化を一緒に解決してくれないかと。

 そういうと、急に肩から手を離して、手を握り締め、

  どの道、この大陸から奴等を根絶やしにする気だったので願っても無いと。

 ただ、その表情は険しく、本当に化物を憎んでいるみたいだな。

  …俺も気をつけないと、やられかねないぞ。冗談抜きにして。

 うん。よし、じゃ明日あたり皆と顔合わせして貰おうかと、それを伝えると快諾してくれた。

  これで戦力は7人。7人で…いけるのかわからないが。この港町にそんな戦えそうな奴も

  いないしなぁ。仕方ない、なんとかするしかない。

 一人で頷くと、俺は彼女に軽く一礼をして、宿屋を出て自分の寝室に戻った。

 

 

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「お?大将かえってきたか。 どうだったい?」

 何がだよ、それどころかお前、また町中で女の尻追っかけまわしていただろう。

  それをベッドに寝転がっていたラザが聞くと、たりめーよ!俺が男の尻おっかける

  とでも思ってるのかよ!と。胸張って言う事か! 自分の掛け布団をおもっきりラザ

  に向けて投げつけると、それを掴んで丸めだし…なんだ。丸めた掛け布団に

  抱きついて…。おい。俺の掛け布団で何してんだお前!

 あろうことか、俺の掛け布団に抱きついて激しく腰を振ってやがる。

  「ユタ…愛してる。 リフィル…も俺もだよ。 …こんな事出来る大将は

   羨ましい!」

 お前…ぶん殴る!!!! ラザのベッドに飛び込み、ラザからマウントポジションを取り、

  ぶん殴ろうとした時、扉が開く。

  「何をしている。騒々し…」

 …。

  「…」

 おい。無言で扉静かに閉めて出て行ったじゃないかリフィルが!!

  首を掴んで激しくベッドに何度もラザの頭を叩きつけ、怒りを声にあげる。

 どう見ても今の。アーッな方向に誤解されたぞ!絶対にあれは!

  慌てて、扉を開けてリフィルとディアナの寝室に飛び込んだ俺は誤解を解こうと…。

  「…ユタ?」

 や、やめて。ゼロブランドを引き抜いて青眼の構えで歩み寄ってこないで…。

  驚いて胸元をタオルかなんかで隠すディアナに目もくれず

  慌てて部屋から飛びでて、自分の部屋に戻ってきた。

 息を荒げて中腰になると、脳裏に過ぎったモノ。

  ディアナ、予想よりでかかった…う、後ろから追跡者の殺気が。

 中腰になり息を荒げる俺の背後。その扉の向こうからドス黒いオーラの様な

  モノが噴出しているでは無いか。錯覚だろうが…。

  扉が開くと、ゆっくりと迫り来るリフィル。それを面白そうに見ているラザ。

  「ユタ…?」

 何度も両手を合わせて謝るが歩は止まらない。 一歩一歩ゆっくりと…。

  完全にゼロブランドの間合いに入った。…やべぇ…どうしようか。

  必死で弁解を考えるが思いつかず、…うわー睨んでる睨んでる。 

  「…。そんなに私は、魅力が無いか」

 え? 予想外の反応。ゼロブランドを下ろして肩を落とし、塞ぎこんで出て行ってしまった。

  いや、え!? 何、どうしんだありゃ。 普通、殴るかすると思ったら。

  「あ〜あ、大将ほんとに女の扱い下手糞だねぇ?」

 ぶん殴るぞこら。 んな簡単な問題じゃないんだっつの。

  ったく。…取り合えず部屋にいって誤解といてくるか。

 そう言うと、俺はラザを無視してリフィル達の寝室へ。

  今度はノックして、出てくるのを待つ。出てきたのは少し怒っているディアナと…。

 謝ると、それよりもリフィルは一緒じゃないのかと。…おろ?

  いや、戻って着て無いのか? 一体どこに…。 

  俺は宿屋を飛び出し、誤解をときに町中へと探しに行く事となる。

  

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