月明かりの道 【四】
[全11ページ]
-1ページ-

 

 

 

 閉会式が始まった。

 メイン会場の壇上に妹様が立って、挨拶をしている。

 連合側の偉いさんの挨拶はもう終わっていた。

 月が、合戦場の野原をしらじらと照らしている。

 お客さん達はざわざわとしながら、閉会の挨拶に耳を傾けている感じだ。

「今回、選手の活躍により、我が山の陣営が合戦を制し、勝利いたしました。選手の皆さん、敢闘ありがとうございました」

 妹様は壇上で頭を下げた。

「ですが、今回選手の一部が重篤な反則行為を起こしたため、我々は勝利を返上し、反則負けとさせていただきます」

 観客席がどよめいた。

 勝利の返上などは、勝敗にこだわる魔物としてはあり得ない行為だから当然だろう。

「重篤な反則行為というのは、選手による人狩です。古い家系のみなさんは、人狩ぐらいでそれほどめくじらを立てないでもと思うかもしれません。ですが、今回の事件はあまりに悪質でした。まず、合戦ルールが及ばない県境での狩り、しかも、その正体を隠すため、姿を変化系の術で変えていました。合戦に勝つために正々堂々と人狩をして、あとは狩り手を待つ、ということであれば、こちらとしても理解しなくもないのですが、これはあまりに卑怯で醜い行為です」

 会場はしんと静まりかえり、咳一つ聞こえない。

「山の陣営は、ほとんどが中央に属する家です。中央のスローガンは『人との共存』ですので、これを見過ごすわけにはいけません。いかに相手が強力な家系といえどもです」

 会場の広場に獣頭の五人が押されるように引き出されてきた。

「濡れ衣だっ! 僕たちはそんな事をしてないっ! 火龍っ! 証拠があるなら出してみろっ! ふざけるなっ!」

 獣頭のリーダーが吠えた。

「証拠固め? 裁判? われわれは魔物なので。もうすこし、スマートな形での処理をしたく思いますわ」

 やれやれ、妹様は派手好きで困るな。

 僕は会場の広場に足をすすめた。

 うわ、僕をスポットライトで照らすなよ。

「エキビシジョンマッチで、決着をつけましょう。獣頭チーム五人と、合戦の総責任者である三砂氏との対決で。彼を倒せたら罪は一切不問といたします」

-2ページ-

 会場の大型モニターが点った。

『これは大変な事になってきました。人狩をした獣五匹と、運営責任者の対決ですか、これは中央が彼らの罪を逃すための陰謀ではないでしょうか? 先生どうおもわれますか?』

 先生はうふうふと笑っていた。

『これは中央の良い演出ですな。そうきましたか』

『え? 三砂氏はお強いのですか? あ、客席から一人の女性が』

『おや、助太刀ですかな』

 新城さんが走りよってきた。

「新城さん」

「助太刀する。あんた一人で強化された獣頭、五匹は無理だ」

 新城さんはいつも通りぼそりと言った。

 顔がほころぶのを僕は感じた。

「ありがとう、でも平気です」

「三砂さんは強そうに見えない」

「大丈夫、僕がカズキですから」

 新城さんは棒立ちになって僕をみていた

『彼は毛池老師の三番弟子ですからの。今回活躍した黒狗の兄弟子にあたりますわい』

『なんと、あの名門の! それは凄いですねっ!』

 新城さんの顔は、月の影になって、表情がよく見えない。

「新城さんに嘘をつきました、ごめんなさい」

 僕は頭を下げた。

「どうして、そんな嘘を」

「僕は自分のために武道を使う事をやめたのです。でも新城さんを初めて見たとき、僕の中の何かがうずいて、戦いたいって思いました。だから、とっさに知らないふりをしました」

「私と……」

「あなたの筋肉の張りぐあい、歩き方、所作を見て、練習をすごく沢山した良い戦士だというのが一目見て分かりました。でもそれは自分の欲望を満たす戦いです。なので、僕は逃げました」

「奴らを倒したら、倒せたら……。立ち会って欲しい。私は今、カズキとではなく、三砂さんと戦いたい」

 真剣な声だった、真面目な願いだと解った。

「……わかりました、待っていてください」

 もう、逃げられないね。

 新城さんは小さくうなずいた。

 彼女と戦える。

 とても懐かしい、戦士の気持ちが僕の中に蘇ってきた。

 

-3ページ-

 僕は振り返り、獣頭の方へ歩いていった。

「カズキかなんかしらねえが、牛女に助太刀してもらったほうがいいんじゃねえのか?」

 あざ笑うように獣頭のリーダーが言った。

「いりません、それより申し訳ありませんね、公開処刑のようになってしまって」

 僕はネクタイをゆるめ、ワイシャツのボタンを外した。

 服を脱ぎながら変態を開始する。僕は変態しても体積があがるたちではないので、こういう事ができる。人前で全裸になれる犬子ほど僕は羞恥心を消すことができない。

 獣頭たちも変態を開始する。彼らは獣戦士系なので、筋肉が倍ぐらいにぼこりぼこりと膨らんでいく。

 ズボンを脱ぎ捨て、完全変態をはたす。

 完全な僕の狢の獣形を見て、馬の頭を生やした獣頭達があざ笑った。

 観客からも失笑とも、苦笑とも取れる声が上がった。

『なんとも、貧相な獣形ですねー』

『黒狗は少女から変化すると十倍ぐらいに膨らんで勇ましいのですが、狢の家系だとああいう感じですな』

『それに対して、獣頭チームは恐ろしくたくましい姿です。勝負になるのでしょうか、先生?』

『まあ、見ていましょう』

 

 獣頭たちは試合用の金棒を手に手にもっていた。

 ふむ、重い物を持ってるいのは好都合だ。

 僕はトントンと足踏みをして、ダッシュ、獣頭の群れの中に飛び込んだ。

 獣頭たちは、いきなり僕が突っ込んでくるとは思っていなかったらしい、おのおのすこし腰を浮かせて得物を振り上げた。

 僕は五人のうち、奥側左の一番弱い奴から処理する事にした。

 リーダーは最後だ。

 

 振り下ろされる得物をかいくぐり、左の獣頭のわきから、立ち上がりざま、奴の肘に手を置いて下に押した。

 重い得物の加速度が付いて、体に巻き付くように奴の右腕が曲がる。

 揺れた獣頭の踵をちょんと横に蹴り奴の重心をさらに斜め方向に動かす。

 左手でつかむようにして、奴の腕の運動の方向を曲げる。

 枯れ木を折るような嫌な音がして、獣頭の右腕がねじくれた。

 吠え声を上げて奴は体を捻る。背中を回転方向に少し押し、足の甲に蹴りを入れて軸を固定する。自分の力で奴は空中で回転し、地面にたたきつけられた。

 転がる体を追って、眼窩に指を入れ、頭蓋全体を抱えるように捻る。

 力は必要じゃない、奴の体の動くタイミングにあわせて頸骨を脱臼させる。

 接触した胸の上で骨がゴキリとずれる感触がして、奴は動かなくなる。

 獣頭たちが固まってこちらを見ていた。

 

 さあ、次だ。

-4ページ-

『な、何があったんですかっ、いったい、手品をみているようなっ!』

『カズキ氏は毛池老師の弟子の中でも、特に関節技と合気の技を得意としておりますな。いやあ、毛池流の関節系の技を実際に見れるのはなかなかありませんぞ』

『あ、また行きました。凄い、あの重そうな獣頭の体が自分から飛び跳ねるように破壊されていきます。これはカズキ氏の腕力も強いのですか』

『話に聞いたところ、ほとんど力は使ってないそうですわ。タイミングと方向を合わせて、相手の力を利用するとのことですぞ』

 

 二匹目の首も同じように捻り折った。同じチームだからか、動き方が似ていて技をかけやすい。

 三人目にして、ようやく武道の練習をした感じの奴に当たった。

 だが、まあ、たいした腕ではないな。

 左から飛び込んで、右脇腹を軽く打つと、面白いように動きが誘導できる。

 ねじり回転させ重心を揺らし地にたたきつけ、急所を打って防御を崩し、あごから斜めに捻り折る。

 獣頭の体の構造は人とあまり変わらないので、掛けられる技は多い。

 人を食って得た力は、単なる腕力の上昇と少々神経系の働きが早くなる程度の物だ。

 逆に力が強いほど僕の技を働かせる余地が多く、決まった時の破壊力も大きい。

 四人目も地面にたたきつけ、頭蓋を割った。

 これはもう、勝負というよりも、本当に狩りに近い。

 ごめんなさいね。

 

 リーダーが金棒を構えていた。

 彼は少し出来るけど、まあ、問題外だね。

「な、なんだよ、おまえ、そ、そんなに強いのにっ、どうして里人なんかと混じって働いているんだよっ!」

 なんですか、君は変化しながらしゃべれるのですか。器用ですね。

 ちなみに僕は顔が狗型に変化するので、人語はしゃべれなくなる。

「ちくしょう、お前みたいな恵まれた奴に、俺たちの気持ちなんかわからねえよっ!! 合戦で勝て勝てって、ずっと言われてっ!家の面子とかっ! 絶対に活躍しろって、だから、だからよおっ!」

 すみません。僕はあなたの家の事情にはまったく興味ありません。

 

 僕は無造作に間合いを詰めた。

 金棒の突きがうなりを上げて突進する下をくぐり、足の出足を払う。

 奴の崩れた体勢に肩で打ち当たってさらに加速させる。

 左手を取って軸を固定すると、バキバキと音を立てて二の腕がねじ曲がる。

 そのまま左足首を抱えるようにして極めて足首関節を砕く。

 悲鳴を上げて捻り暴れる胴体の動きを追って、膝蹴りを打つ。

 これも回転する動きを加速させて後頭部を地面に打ち当てるための蹴り。

 最後に、いち兄に教わった唯一使える打撃技でアゴを打ち上げ宙に浮かせ、首筋に足刀を当てて、地面に落とし、頸骨を砕いた。

 五匹の獣頭たちは、全て地面に倒れ、動かなくなっていた。

 あたりが、しんと静まりかえった。

 ただ、波の音だけが、繰り返し繰り返し、沈黙の合戦場に轟いては消える。

-5ページ-

 サクサクと草原を踏んで、新城さんが近寄ってきた。

 彼女は黙って、真っ赤なコートを肩から落とす。

 するすると彼女は服を脱ぎ捨て、全裸になる。

「新城薫子、試合を申し込む」

 僕はしゃべれないので、うなずいた。

 

 新城さんは、両手を開き、背を丸めて一瞬で変化した。

 四対の大きな足、その上に牛の頭。異形の魔物が月の光の中堂々とした体躯を表して吠える。

 獣頭の奴らよりも、何倍も強そうじゃないですか。

 

 ふうっと、呼気を吐いて闘気を高めて、草原を走った。

 新城さんは巨体をゆらゆらと揺らして、僕の出方を待つ。

 間合いが詰まって、足の長い新城さんの攻撃が入る距離になった。

 左右、前腕がうなりを上げて僕を襲ってきた。

 思ったよりもずっと早い。

 前腕を避けながら懐へ飛び込もうと速度を上げる。

 新城さんは跳ねるように後退する。

 雷のように、左右の前腕が僕に向けて落下してくる。

 僕はくるりくるりと巻くように、杭のような前腕の攻撃を避ける。

 草が飛び散り、土煙が上がる。

 上手い上手い。

 そう、遠間合いが新城さんの距離で、それを維持するのが正解だ。

 僕は避けながら前進し、彼女は前腕を振りながら円を描いて後退する。

 つっ、彼女の前腕が僕の頬をかする。

 僕は彼女の視界を計算して、前腕の影に隠れ、引きこむ動きに沿って前に出る。

 一瞬彼女の動きが止まった。

 僕の姿を見失ったのが分かった。

 大きく下がって姿を探そうとする彼女の中腕の動きを、抱え込むようにして軽く横にずらす。

 中腕が捻れて、力が重なって、もう折れる、という瞬間、ぐわりと新城さんの全身が宙を回転して、応力をはずした。

 土煙を引いて宙を一回転して、新城さんは地に立った。

-6ページ-

 やるなあ、新城さん。

 獣頭よりも力は弱いが、体の動きの練り込みが比較にならないほど高い。

 ずっと練習を重ねて、修練に修練を重ねて、生み出された軽い動きだ。

 人食いなどの安易な方法を選ばず、馬鹿みたいに毎日毎日修行した動き。

 一目見て解っていました。

 あなたは、僕たち、本当の武芸をする魔物の仲間だって。

 避けるのやめて、新城さんの前腕の攻撃を受け止めた。

 胸の上に摩擦で焼けるような痛みが走る。

 力の直撃を避けながら、斜めに抱くように前腕を受け止める。

 一瞬、僕の力と新城さんの力が拮抗する。

 もとより体の大きさが違うので、こちらが押されてしまう。

 その押す力の動きを捻り、ひねる。

 新城さんが体全体を使って、僕の折掛けを避けようとする、大きな動きに合わせて、細かい反対の動きでブレーキを掛け、回転の芯をわずかに斜めにずらす。

 前腕を抱きかかえたまま、新城さんの動きと一緒に一回転し、着地の動きに合わせ、懐に入り、全身を使って体当たりをする。

 斜めにずれた回転の芯の方向へさらに力を加えて、新城さんをひっくり返した。

 起きあがろうともがく左の中足を抱きかかえ、捻り、外した。

 吠え声と共に飛び上がるようにして起きた彼女から離れて立つ。

 よし、足一本。

 

 軟体や炎や水に変化する者以外の魔物には必ず関節がある。

 関節は長さ、短さはあるが、それは力学の範囲内で、必ず折れる方向や、極められる方向がある。

 僕が師匠に教わったのは、簡単に言うと、それだけの事だ。

 僕は感で、力の方向や応力の掛かり方が解る。

 師匠はよく「おめーは頭が良いから、一瞬で全部計算できるんだなあ」と言っていた。

 

 新城さんの戦意は、足を一本殺しただけでは全く落ちてない。

 戦意は落ちていないが、移動する速度は目に見えて落ちていた。

 僕は新城さんの懐に飛び込み、僕の距離、零距離で関節に向けて力を加え、合気を使い投げる。

 四対ある足を、ぽきぽきぽきと僕は折って行く。

 それでも新城さんは、まったく意に介さずに、僕に向けて、足を振り、角で突き、粘液をはきかける。

 最後の足を極めた。

 暴れる応力を使って、新城さんを空中に持ち上げる。

 高い位置から新城さんを投げ落とすと、やっと彼女の動きは止まった。

-7ページ-

 ふうと、僕は大きいため息をついて、空を見上げた。

 凄い才能だな、新城さんは。

 ちゃんと技を覚えたら、すごく強くなる。きっと。僕なんかより。ずっと。

 

 新城さんは気を失ったのか、変態が解けていた。

「生きていますか?」

「負けた〜……」

 僕が声を掛けたので、目をさましたようだ。

 四肢の関節が外れていて痛ましいが、八本あるうちのどれが腕でどれが足だったのか解らなかったのでしかたがあるまい。

 僕は服を手早く着た。

 

「さあ、救護テントまで送りますよ」

 僕も関節をはめる事ができるが、女性の股関節をはめるとなると、すこし抵抗がある。

 新城さんの服はどうなっているか解らないので、真っ赤なスーツの上着で裸体をつつんで、彼女を背負った。

 

 僕らが合戦場の出口に向かって歩き出すと、観客席から海鳴りのような歓声が上がった。

『三砂さん、エキビシジョンマッチありがとうございました。素晴らしい戦いを見せてくれた彼に、惜しみない拍手を!』

 まったくもー、そのうち呪われますよ、妹様は。

-8ページ-

28

 

 新城さんは、大柄なので、……重い。背中にずっしりきますね。

 救護テントは会場の外だ。少し遠い。観客席を作るのを優先したので、大型テントを入れる場所が端にしか取れなかったのだ。

 

「私も……。あいつと同じ事を聞きたい。なぜそんなに強いのに……。それを人生に生かさないんだ?」

 僕は月を見上げた。背中に新城さんの体温が暖かい。

「親友がいましてね。彼は恐ろしく馬鹿だったので合戦で出世したくて、人狩を始めたのですよ」

「人狩……」

「そいつは、三百人ほどパクパクと食べましてね」

「三百人! そんなにっ!」

「馬鹿ですよね、人を食いすぎて、すっかり獣になりました。今日の獣頭たちも、すごく短気でいらいらしていたでしょ。人食いすると魔力が増大しますが、精神にも影響がでます。三百人食べた親友はもう、人の自我を失い、飢えた魔物となりました」

「それを倒したかったの?」

「止めたかったのですね。またこちらの世界に戻したかった、元のあいつに戻ってほしかった。だから僕は武道を習いました」

「戻せたの?」

 僕は首を横に振った。

「そんな状態の魔物を元に戻せる訳が無いんです。だけどその時の僕は、そんなことを思うのも嫌だったのですよ」

「三百人食いの獣。今日の奴らが小僧に見えるわけだ……」

「関節技と合気で、なんだか不思議な形になった親友と戦いました。一昼夜ほどして、ずたずたになって、気が付いたら、友達が倒れて息をしてないのですよ。信じられなくて、愕然として、そしてとても悲しくて、むなしくて僕は泣きました」

 ふうと、新城さんが息をついた。

 海風が僕たちを追い越して松の木を揺らして天に上がっていく。

「だから武道を自分のために使うのに抵抗があるのです。あの武道は親友のため習って、そして親友の息の根を止めたしろもので、だからもう、なるべく使わないように決めたのですよ」

「そう、だったのか。なるほどね」

 春日部の事を思い出すから、吉池に会わないようにしていた時期もあった。

 いっそ、この街から逃げて東京に行こうと思って荷造りをした時もあった。

 でも、なんだか、逃げることはできなくて、先観海岸に隠れているうちに時間が経って、辛さも少しずつ消え始めている気がする。

-9ページ-

「電話、教えて……」

「事務所の電話ですか?」

「あー、その、一樹さん個人の……」

 あれ? これはまさかね。

「また再戦する時のためですか」

「あー、その、時々私から掛ける。で、その、わ、技とか、教えて……」

「ええ、新城さんは強くなり……」

「ちがうっ! 私そんな事考えてないっ! なにを言ってるんだ、私はっ!」

 新城さんが急に大声を出したので、僕はびっくりした。

「そのあのっ、一樹さんに、たまに遊びにつれていってもらったり、ご飯を一緒にたべたり、私はしたい……」

 新城さんは消え入りそうな声で言った。

 その木訥な求愛もなんだか新城さんらしくて、ちょっと胸の中がほっこりと暖かくなった。

「僕なんかで良かったら、喜んで」

 僕は微笑んで言った。

 僕の背に当たっている、新城さんの胸が細かく震えるのが解った。

-10ページ-

 夜の底、遠くに救護テントの屋根が見えてきた。

 ここまでくると木々は連なり、林になっていて、月のあかりが、野原を区切って、白く細く照らしていた。

 月明かりの道だな、と僕は思った。

 僕たち魔物は夜の底に住んでいる。

 魔物の世界には、暗い茂みやどこまでも深い藪が沢山あって、みんなそこに落ちたり、迷い込んだりする。

 だけど、月明かりの道のように、夜の中にも、少し明るい部分は必ずある。

 僕は、そんな場所を選んで、新城さんとずっと歩んで行きたい。

 そんな事を僕は思っていた。

 月明かりの道は、救護テントの明かりへ導くように、僕らの前に長く細く延びていた。

 

(了)

-11ページ-

 

月明かりの道、補足テキスト

 

今作には狗張子シリーズとサカナシリーズの関係者が一杯出てきましたので、出典などを少々説明しますですよ。

魔法少女サカナはサカナ・ノベルというサークルで作者がだしたノベルゲーム。

 

 

三砂一樹(初出演)

狢の変化さん。普段は隣県のホテルで働いています。

 

新城薫子(初出演)

岡山の牛鬼の家系の人。でかくて粗暴だけど、綺麗。

 

犬吠埼犬子(狗張子シリーズ)

狗の変化さん、禿といって初変態の時の姿のままなので年齢が解らないが、この話の時点で二十歳ぐらい。

 

ウー(お面売り)

仮面を被って変態する空蝉という魔物さん。言葉がしゃべれないのでうーうー唸る。

 

桜庭深雪(お面売り)

珠姫市の合戦場を運営する、大蛇の家系のおねえさん。

 

相原織絵(サガシモノ)

ぶっきらぼうな少女。鳥鬼という魔物で一般人が再顕現した。

 

鹿島麻美(政治少年サトシ)

カマイタチの家系だが、まだ初変態をすましていない。

 

青柳伸介(初出演)

灰坊主という魔物の家系のお兄さん。

 

柿崎柳太郎(初出演)

寮船台大学の教授。魔物関係の著作が多数あるが、売れる物ではないので自費出版。狸の変化だが、変化はできないぐらい血がうすい。

 

吉池純子(初出演)

狸の魔物だが、この人も血が薄い。たぬきの里という割烹系飲み屋を経営している。

 

獣頭の若者(初出演)

馬頭の家系の五人組。リーダー、リーダーの弟、従弟が三人である。

茨城の名家の出。

 

貴船さん(初出演)

普段は青果業を営む、野槌の家系の警備系荒事専業者。

 

笹城さしみ(初出演)

京都の術系魔物の名家の出。狐の変化。テンションが高い。

 

北見星見(初出演)

京都の術系魔物の名家の出。狐の変化。

 

三島健一郎(初出演)

県警の魔物連絡係の人。

 

御館様(魔法少女サカナ)

実は眠り姫である。青龍の化身で、死ぬはずの赤ん坊に転生したため体の具合が悪い。

 

妹様(魔法少女サカナ)

実は辰巳である。火龍の化身で、相変わらず実務家。

 

出来るキャリアウーマン風のメガネのお姉さん(狗張子シリーズ-魔法少女サカナ)

実はキョロリンである。大学に通いながら、中央で、犬子の所属する部署の管理職をやっている。

狗張子シリーズで、犬子にドケチメガネとか呼ばれていたりする。

 

三池三太(魔法少女サカナ)

今回、先観海岸来ているのだが話には全く出てこない。

山側の軍師をやっていて、馬鹿な作戦を立てたのは三太である。

 

サカナ(魔法少女サカナ)

今回、来てるのだが話には全く出てこない。

ホテルオライオンでぐーたらしている。

 

 

飯坂の長(初出演)

狢の名家の出。この地方を治めている。狐狗狸、狢系の魔物さんは喰えないタイプの人が多いようだ。

 

有栖川とね(初出演)

子供おばあちゃん。雷獣の家系で、一時期は合戦で横綱枠を取っていた事もある。

現在は厚生省の要請で養護施設を点々として暮らしている。

 

天狗の人(帰る場所)

天狗の健さん。いつもは空中からライフルで狙撃するタイプの荒事師をやってる

 

――おしまい――

説明
月明かりの道、完結です。

最後まで読んでくださった方に大感謝を(^^)
書き溜め版の狗張子はこれで終了です。
あとは、別の短編か、狗張子新作を投稿しようかと思ってます。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
520 514 1
コメント
まめごさん>ありがとうございます(^^) 大感謝です。(うーたん)
面白かったでーす^^(まめご)
タグ
オリジナル 伝奇 狗張子 アクション 

うーたんさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com