レベル1なんてもういない 1−2
[全7ページ]
-1ページ-

この世界にやってきてラフォードという人に出会って、そして歩き始めて数日が経った。

 

ラフォードは話しかけない限りは無言で歩を進めるだけ。

何を聞いても殆ど答えてくれないし。

その辺りも葵にそっくりだ。

 

この数日で気付いた事、気になった事、元の世界とは明らかに違っている事がいくつかあった。

1つは夜の暗闇がないこと

ラフォードが言っていた通り無数の星々がこの大地を映し出している事で太陽とは違った明るさが新鮮な明るさだ。

 

ラフォードはこの時を藍色の時間と言って、星の位置で今いる位置や方向を判断しているようだ。

星座の勉強もしておくんだったな。

 

 

もう1つ気になった事

生物どころか植物にすらに全く出会わない。

辺り一面砂だけが広がっている世界でも少し位はいるであろうに、この静けさの中に2人の足跡以外は何も存在していない。

それにこの地面の土、何をしたらこんなにボロボロになるのだろう。

少なくても人間の出来る業ではない。

 

本当にこの世界には生物はいるのか不安はちっとも解消されない。

 

でも一度上を見上げると、目の前に在る見えない風と遥か上空に見える雲だけはどこの世界でも変わっていない。

少し年寄りじみていると思うがそこは悪い事じゃない。

-2ページ-

「なあ葵、ウチら何にも出会わないけどさ、大丈夫なの?」

 

「私ラフォード。

 その心配はいらない。ここはそういう所」

 

「だって陸の生物も空を飛んでる鳥も全く見ないんだよ

 この星に生物なんているの?」

 

何を考えていたのか少し間を置いて

 

「この辺りは昔世界を闇に変えようとする者と勇者が戦った所。

 勇者が戦うと敵だけじゃない

 星の生命も削り取ってしまう。

 そして戦う自分自身も。

 だからエルも戦わない」

 

「マジかよ…気をつけるよ。

 ん?勇者って?」

 

「前に世界を救いに来た人は勇者と名乗ってた。

 その者が戦ったから結果として勇者は世界は護った。

 だから勇者は…

 …言っては駄目な言葉」

 

急に会話を止める。

 

「だから勇者は…どうした?

 世界を救われたのならいいことじゃない?」

 

「そんな簡単にヒトは幸せを感じない」

 

「どういう意味だ?」

 

「…なんでもない」

 

会話はそこで途絶えてしまった。

ラフォードにはよくあることなので、こうなるともはや突っ込んでも応えてはくれないだろう。

機を見て聞くことにしよう。

 

 

 

それにしても世界の一面を削り取って不毛な地に変えてしまうほどの力ってどんなものだろうか。

足元に広がる地面の砂も元々は何かを形作っていたのだろうか。

 

 

-3ページ-

 

「それにしてもさ、風の強い所だよな」

 

「それは近くに高いものが無いから

 海から陸地に向けて吹いてくる風がそのまま来るの」

 

「お陰でウチのスカートがさ、なびきっぱなしだよ

 まあその、葵になら恥ずかしがる事もないけどな」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「何かにおわないか?」

 

「私が?」

 

「違うよ。葵からじゃなくって何かが近づいてきたんだと思う。

 このにおいは…

 このいやな感じは…

 血、だよな」

 

ラフォードには感じていないらしく鼻に集中しているもののそれを感じ取る事は出来てはいないらしい。

 

その前にそこで気にし始めるラフォードもおかしかった。

 

「ねえ葵

 この辺には間違いなく生物はいないんだよね」

 

「私ラフォード

 削られた星はしばらく元に戻らない

 命が戻るのはもっとずっと先」

 

「そっか

 これから先に会うやつには気を付けよう

 血のにおいなんて穏やかじゃないしね」

 

「その前に。

 どんな大事になってもエルは戦わない。コレは守って」

 

「ああ、解ったよ

 頼むよ、ラフォード」

 

「! ま、任せて」

 

何を噛んでいるのやら

 

こちらに注意をしながらもずっとにおいをかぎ付けようと鼻をクンクンさせるラフォードもなんだか可愛い。

 

 

-4ページ-

 

しばらくすると

2人の足音とは別の方向から音がし始める。

ガラガラガラとゆっくりと回る車輪の音のようだ。

 

先ほどから放たれている血のにおいも刻々と強くなってくる。

 

次第にその姿も目で確認できる所まで近づいてきた。

この世界でやっと二つ目の遭遇。

馬車だ。2頭の馬が1つの幌を引っ張っている。

その馬の動きがやたらとゆっくりなのが気になる。

 

2人と馬車の距離はだんだんと狭まってくる。

ラフォードはその間ずっとにおいを嗅いでいる所を見ると未だ何も得られていないみたいだ。

こんなに近づいているのに、風邪で鼻が変なんなっているのだろうか。

 

 

そしていざすれ違おうと言う瞬間

あと20m

 

…10…5…

1mの所で

 

バッと

 

馬の前に立ちはだかってやった。

 

馬に急ブレーキをさせる御者。

馬はすんでの所でキっと停止する。

 

「危ないじゃないか。馬に蹴られて死んじまうぞ」

 

御者が怒鳴ってくる。それほど急に飛び出したつもりも無かったんだけど。

むしろ緊急停止した馬との間は10センチ以上は空きがある。

 

余裕を見せて腕組みをしてやる。

 

「聞こえないのか。退いてくれって言ってるんだよ」

 

 

そんな台詞には興味がない。

応える気にもならない。

それよりも知りたい事があるんだ。

 

それはラフォードにも知らないような事。

いや、ラフォードからは言えない様な事。

-5ページ-

「ねえ、ここってどこ?」

 

「ここって、何だフリージアの事か?」

 

あっさり答えがわかった。

 

 

「へえ、そういう名前なんだ」

 

「有名な所だぞ

 ちょっと前までは花と水と風が綺麗な良い街だったんだが、今はこの有様だ。

 勇者とか名乗る馬鹿が全てを消し飛ばしちまって今は風しか残ってねえ」

 

「勇者が?」

 

「何でも何処からとも無く現れて、あらゆる街も大地も生態も破壊して歩くって話だ。

 自分の家じゃないからやりたい放題だよ」

 

「おじさんはその勇者って人は見た事あるの?」

 

「直接見たことはないが…

 街で聞く話では星を救った天使のようだとも星を破壊して歩く悪魔とも言われてる。

 まあ、どちらにしろ化け物が人を語ったんじゃないかって言う所は変わらないな」

 

エルは馬の真ん前で腕組を崩さず話を聞いている

 

「この辺の者なら誰もが知っている嫌な話だ。故郷を失ったんだからな

 もういいだろう、そこを退いてくれ」

 

「故郷……」

 

後ろで聞いていたラフォードが急にちらっとつぶやいた。

 

「うん、ありがとうね」

 

「お、おう

 被害を受けていない街があっちに向かっていくとある

 女の子2人でこんな所は大変だろう」

 

「そっか街は近いんだ」

 

「気をつけてな」

 

「あのさ」

 

さっさと行こうとする所を引き止めてみる。

どこかの推理ドラマみたいだ。

-6ページ-

「…おじさんに聞くけどさ

 怪我人を沢山乗せて街を離れるの?」

 

 

 

「何を言ってるんだい?

 中に人なんていない

 この中は今朝刈り取った藁だけだよ」

 

「そうなんだ

 その藁の中に潜んでいるのは何だろうね?」

 

「…」

 

「ずっと前からにおうんだよね

 大量の血と油がかき混ざった鼻が曲がっちゃいそうなにおい

 其の中に怪我人がいないのならこのにおいは返り血なのかな?」

 

「お嬢ちゃん、適当なことを言っちゃいけないな」

 

「そう。

 適当、そう言ったよね

 じゃあ当たっているんじゃないの?」

 

「それにウチはさ、「勇者」だから悪い事は見逃さないんだよ」

 

「!」

 

「勇者…!?」

 

これには御者もそうだが傍から見ていたラフォードも驚きの表情を見せる。

出会って一番の驚いたラフォードの表情だ。

 

「もっともこの地をこんなにしてしまったのは先代の勇者だけどさ」

 

「今この時から新しい勇者のウチが頑張っちゃうんだから。

 ヨロシクね」

 

即興で考えた決めポーズを見せてみる。

-7ページ-

 

「…」

 

「勇者、其の名のせいでどれだけの人間が故郷を失ったか、

 適当な思いつきで其の名前を出したとしても…

 お前ら生かしておかねえからな!!」

 

目の前の穏やかそうな馬と対照的にまるっきり穏やかじゃない目つきになり出した御者。

御者が馬車の幌に声を張るとの男達がぞろぞろと姿を現しだした。

その数は全部で…14人。

数まで予想と同じだ。

 

「やっぱりすごく嫌われてるんだね…

 勇者、か…フフ」

 

「エル!勇者は駄目…」

 

「葵!」

 

近寄ってくるラフォードを遮るように手を出す。

 

「ケンカを売る形になっちゃってゴメンね

 勇者って、そう言い出した事は後で説明するよ。

 …でもいい機会かもだよ。

 見せて欲しいな、葵の実力ってのを」

 

「…

 わかった」

 

ゆっくりと頷いて前に出る。

くるりと此方を向いて一言

 

「私ラフォードだから」

 

毎回言い直す気か。

そう言いながらもいつも携えている包帯に巻かれたラフォードの身長ほどの長さ得物を包帯に巻かれたまま構えだした。

 

 

ん?

あんなもの、いつも、持っていたかっけ。

それともいつの間に取り出したのか。

思い出せないな。

 

しかしこの概視感…

間違いなく「葵」と動作が被っている。

構え方までが小さい頃からよく見ていた葵の姿とまるっきり一緒で

武器を鞘から抜かずに構えるという世間で言う日本の居合いの構えだ。

 

流派が一緒とかそんな程度の同じではない。

重心のかけ方や細かい癖、呼吸方法まであらゆる所が完全にシンクロしている。

 

 

 

「こんな所で女に会うなんてついてるんじゃねえ?」

 

「それに2人もだぜ」

 

「仕事の後はそういう気分にもなるし」

 

「あまり傷をつけるなよ。

 ヤツと一緒に売ると良い値になりそうだ」

 

挑発じみたような声が聞こえてくる。

その言葉を聞いているのかいないのかラフォードは自分の手元に集中し始めている。

このまま戦いの方も葵のそれと一緒ならば目の前に広がる者達がどれほど屈強であろうがおいそれと負けることも無いだろう。

仮にも世界を救うっヤツの方が戦えずに高見の見物なんておかしい話だ。

 

「…」

 

「…」

 

「さあ力みなぎる、私が相手だ」

説明
何もないと思われた世界に現れたものは…みたいな感じで。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
524 452 0
タグ
オリジナル レベル1 小説 

hutsyさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
コレクションに追加|支援済み


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com