真・恋姫†無双 ?白馬将軍 ?徳伝? 第2章 黄巾の乱 1話
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東へ、東へ、東へ・・・行軍中。

 

1ヶ月前、水鏡学院から東に向けて旅立つ直前、涼州の林檎(馬騰)から急遽帰還する命令が来たのである。しかも、荊州の西北方面を北上して長安を通過して帰還せよ、とあった。

 

その帰還途中の長安。連絡係の忍びから伝えられた情報によると、中原で黄色い頭巾を被った者共が大挙して反乱を起こしたのだと言う。所謂黄巾の乱がついに始まったのである。

 

しかも、帝都洛陽と副都長安の中継地点でもある、弘農郡に置いても賊徒が呼応するかのごとく暴れ始めたのだと言う。張白騎と名乗る者が首領であり、其の賊徒は総数5万もおり、黄巾党もそうだが、今の王朝に鎮圧する直属の兵は居ないため、各地の諸候に鎮圧の命令を出す事になった。

 

そして長安の西に位置する涼州と并州には、張白騎を鎮圧する勅令が下り、それを受けた馬騰は鷹を帰還させ、涼州軍を率いさせて帝都洛陽と副都長安の間に現れた賊徒共を殲滅させる事にしたのである。

 

 

并州からは騎兵3万。并州牧である董卓本人が率い、呂布、張遼、華雄と、并州軍の主力将軍全員と、軍師として賈?と陳宮が従うなど、兵数以外は并州の総力を挙げた陣容である。

 

 

 

一方の涼州からは騎兵3万を鷹が率い、副将に翠と蒲公英。鷹の本軍に、鷹が荊州から連れて帰った七と所縁。いずれも鷹が推薦して、涼州軍の将軍として起用された。一応、姜維軍とケ艾軍が構成されているが、其の二軍は直接鷹の指揮下に入る事となった。

 

ただ、彼女達は今回始めて大規模な軍を指揮するのである。訓練も少なめだったので独立して行動させるより、鷹が直接二人を操る方が良いと判断したのである。

 

 

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両軍は長安から東に向かった所にある関、潼関で合流する計画である。

 

しかし、涼州軍が潼関に到着した時には、まだ并州軍は到着していなかった。

 

 

「鷹さん、合流地点の潼関や長安の北の視界に移る範囲に、まだ并州軍の影は見えません。」

 

「そうか。やはり先に到着したのは我々か。」

 

 

七の報告に、鷹はやはりと言った様子で答える。

 

并州軍は勅令が下ってから軍の編成に多少時間がかかり、また物資の調達に少し苦労していたので、出発が涼州軍に比べて遅れると言う情報が入っていたのである。

 

一方の涼州軍は常時軍を遠征出来る備えが整っていたため、編成から行軍計画まで僅かな時間で終わり、出発が非常に早かったのである。ただ、これは涼州が匈奴との大戦を完全勝利して、鹵獲物資や内政開発が進んだ事と、匈奴に対する警戒が無用になったため、その余力を回せたのが大きい。そもそも涼州だけで3万もの大軍の遠征を支える物資がある事の方がずっと珍しいだろう。

 

そして涼州軍のその行軍能力は、今更言うまでもないだろう。さっさと長安を通過し、潼関(長安側)に到着したのである。

 

 

「では、私達は先行して潼関を通過、陣営の建設準備に入ります。」

 

「頼む。ただし、さっきも言ったが本軍が潼関を通過するまでは準備に止めておく様に。偵察部隊を各所に散らせるのも忘れるなよ。」

 

「了解!」

 

「次に蒲公英様。」

 

「はい!」

 

「所縁と共に軍を率いて、建設部隊の護衛に当たっていただきたい。潼関から借りた建設部隊は七が指揮を執っていますから、一時的に七の指揮下から外れた軍は所縁が指揮を執ります。」

 

「解った!」

 

「聞いたな所縁、張白騎が陣営建設部隊の妨害に来た場合、お前の部隊が最初に激突する。準備は怠るな。

いきなり俺と少し離れるが、蒲公英様はお前よりも軍指揮に慣れている。その指示に従え。」

 

「了解なの!」

 

「良し、俺と翠様の軍は最後に潼関を通過する。速やかに行動を開始せよ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

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「なあ、鷹。」

 

「む、どうしましたか翠様?」

 

「今回、と言うかいつもだけど、総大将は鷹だろ? 何でいちいち様なんてつけるんだよ。いつも言ってるだろ、こそばゆいからやめろって。」

 

「・・・まあ確かにそうなんだが、昔から教え込まれた事は中々消えんさ。そもそも?家は馬家に使えて来た一族だしな。」

 

「でも、元々は同格だったじゃないか。」

 

「代々積み重ねて来た事は、そう簡単には変わらんさ。」

 

 

色々忘れがちだが、鷹からしたら翠は上司なのである。何しろ主君馬騰の娘なのだから。最も、基本的に猪突猛進な翠では、領地経営は愚か、戦場に関わる事にも不安が大きいのである。威名はそれなりに知られているが、実際には与えられた戦場で武を振るう才能しか無いのである。

 

それに対し、鷹は戦争から内政まで幅広くその実力を発揮して来たので、既に次期涼州牧は鷹であると言われる程になっている。翠もそうあるべきだと思っているので、鷹が翠の上司になる事には、はっきり言って問題無い。

 

ただ、鷹や翠の先祖達の歴史を遡ると、そうも言いきれないのだ。

 

ここで、翠が元々は同格と言い、鷹が代々積み重ねて来た事、と言う言葉が重要になる。

 

 

 

現当主である馬騰は、遡れば春秋戦国時代の七雄である趙国の三大天(前期)が一人、馬服君趙奢を祖先とし、新王朝を滅ぼして後漢王朝を築いた光武帝劉秀に仕え、建国に多大な貢献をした馬援の子孫でもある。

 

この時代、馬騰は後漢王朝の北西の地、涼州にて匈奴等遊牧民族の侵入を防ぎながら涼州の統治も担当する、言わば涼州の行政長官である州牧の位に既に就任していた。

 

同時に後漢王朝の北西部の守護も担当していたので、征西将軍でもあるのだ。中央との関わりがそれほど深い訳では無いものの、名門貴族と言っても差し支えない人物である。

 

その一人娘である馬超は、その後継者であり、鷹からすれば馬騰と変わらぬ存在、主君なのである。

 

 

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一方、鷹の一族、即ち?家は馬氏に代々武官として仕え、長らく最前線を荒らして回った武人の一族である。

 

その始祖は馬氏と同じく趙国の三大天(後期)として名を馳せ、秦国六大将軍として名を馳せた摎、王騎や燕の大将軍であった劇辛等他国の名将軍を次から次へと討ち取った猛将・?煖である。

 

翠の言う通り、始祖の格で言うなら同格である。しかし?煖の一族、?家は秦によって趙が滅んだ後、一族郎党含めて族滅の危機に陥った事がある。何しろ秦の大将軍二人を討ち取った猛将の家である。それが何時か復讐に燃えて秦に害を為すのではないかと恐れられ、当時秦の大将軍であった王翦によって、?家は根絶やしにされそうになったのである(しかも?煖は王翦軍によって討ち取られた。その復讐を恐れたのだろう)。

 

この時、危機に陥った?家を救ったのが趙家、即ち後の馬氏であり、林檎や翠、蒲公英の祖先であった。?家の者達を庇い、?家は生きながらえた。数名を除いて、?家の者達は趙家の尽力に依って生き残ったのである。

 

当然?家はこの事に感謝し、以後趙家が馬家となってからも代々優れた武人を輩出し、その武力で馬家を支えたのである。鷹が翠や蒲公英にも敬語を使うのは、こうした両家の歴史背景も大きい。

 

 

 

「でも、母上の跡を継いで涼州を統治するのはお前だろ。もう母上から伝えられただろ。あたしだってその場に立ち会ったんだし。」

 

 

長女翠の軍才は傑出しているものの、内政面での力量を持たぬ事に早々に見切りをつけた林檎は、同年齢であり、共に育ってきながら様々な方面に抜群の才覚を見せた鷹を、統治者としての後継者に決めていたのである。

 

かつての涼州ならば、軍閥達が反発したであろうが、その軍閥やそれを取りまとめていた韓遂は既に亡く、林檎の意向に異を唱える者は居ない。ましてや鷹は匈奴軍40万を壊滅させ、北の脅威を取り除いたのだから、実績に置いても文句無しである。加えて人望もあるのだから、林檎が長女を差し置いて後継者を鷹に据えるのも、不自然では無いだろう。

 

しかし、鷹はなかなかに律儀な性格であった。

 

 

「だからと言ってまだ俺が後継者である事を内外に示した訳でもなし。まだ極内々の話さ。余計な波風を立たせたくは無いだろ?」

 

「そりゃあ、そうだけど。でももうお前があたし達の上に立つってのは、もう涼州の皆が解っている事だと思うぞ。今更気にしなくても良いんじゃないか?」

 

「だからこそ、さ。大事な事だから二回言うが、余計な波風を立たせたくは無いんだよ。

 

さ、無駄話は此処までだ。もう七の軍が動き出す・・・? 何かあったか?」

 

「もう潼関を通過し始める頃だけど、どうしたんだ。七の奴?」

 

 

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先陣を任された七の軍が、未だに潼関の前で留まっているのだ。その疑問は、直ぐに明らかとなる。七が蒲公英や所縁にも伝令を出し、涼州軍の将軍が再び総大将の前に集まり、その説明を始める。

 

曰く

 

 

「既に、張白騎が展開していたのか。」

 

「はい、潼関から目視で確認出来る距離でした。その総数は恐らく5万に届くと。」

 

「向こうの総数って5万だったの。と言う事は向こうの総力を挙げて来ているってことなの?」

 

「うん、十中八九間違いないよ。張の旗も見えました。潼関に攻め寄せようとしているのかもしれません。ゆっくりですがこの潼関に現在も迫っている様です。」

 

「攻城兵器等を向こうは持っていたか?」

 

「距離が遠いので確認出来ませんでした。現在は斥候の報告待ちですが、恐らく井闌や雲悌は流石に所有していないでしょう。」

 

「此処潼関を攻めるのに梯子だけって、あり得ないと思うけど・・・」

 

 

蒲公英が呆れながらつぶやく。此処潼関の守りは非常に堅牢で、城壁は高くて抜くのは極めて困難な地点なのだ。

 

とは言え、こちらに攻め寄せて来なくとも、張白騎の5万を殲滅する必要がある以上、無視出来るはずも無い。

 

 

「だったら、さっさと潼関を通過して奴らを野戦で打ち破った方が良いんじゃないか?」

 

「お姉様、出来るとは思うけどまだ并州軍も来ていないうちから戦端を開くのは不味いんじゃない?」

 

「いや、この際だ。翠様の言う通り、野戦で奴らを叩きのめそう。長安と洛陽の連絡が絶たれた状況がこれ以上続くのは不味い。

七、所縁。予定変更だ、二人共俺の指揮下に戻れ。潼関を最初に通過するのは俺の本軍2万。次いで翠様、蒲公英様が通過。翠様と蒲公英様はそれぞれ第二陣、第三陣で独自に行動して下さい。潼関前は平野が広がっているから涼州軍の機動力を最大限活かしてください。

俺の本軍は潼関を通過したら錐行陣を敷き、翠様と蒲公英様の準備が整い次第、突撃する。いいな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

「では、直ちに行動に移れ!」

 

 

鷹の指令一つで、諸将が散開し、しばらくして軍が動き始めた。鷹は自らの本軍を従えて潼関の門を通過する。通過するや直ちに潼関から少し離れ、軍を展開する。

 

最早会戦まで時間は僅かである。訓練の行き届いた涼州軍2万は僅かな時間で陣を形成し、翠と蒲公英のそれぞれ5千を率いた第二陣と第三陣もあっという間に通過し、鷹の本軍の左を翠、右を蒲公英が固める。二人は基本の横陣を選んだ様だ。

 

そして、涼州軍の陣が完成する頃には、張白騎も総数5万を従えて現れた。張白騎は普通に横陣を敷き、構えた。

 

 

「涼州軍先鋒、前へ!」

 

 

何とその先鋒を直接率いるのは鷹。自ら先頭に立ったのである。鷹の後ろの兵士達が、武器を掲げて歓声を上げる。

 

宝刀を肩に担ぎ、程よい緊張感を漂わせたその佇まいは、いつも通りの鷹の姿であった。

 

 

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「そろそろ始まるの・・・」

 

 

鷹の本軍でも後方の位置する場所には所縁の姿があった。その表情は硬い。これほどの規模の戦争は、一回も経験していない。始めての大戦を、これから彼女は戦い抜かねばならないのだ。

 

後方とは言え、彼女の役割は、その騎射能力を活かした前線の援護と、戦線の状況を見極めて増援に回る事。戦場全体を見極めねばならないと言う重圧も大きい役割であった。

 

 

「ケ艾将軍、ご安心を。」

 

「迷当さん?」

 

 

緊張する所縁を見て声をかけて来たのは、羌族出身の迷当と言う老兵である。涼州軍では千人将に値する軍長と言う役職に就いている。その迷当らが率いるのは比較的装備の軽い軽装騎兵部隊である。その分、装備している矢が多めであり、騎射を攻撃の中心にしている部隊である。

 

 

「儂らの軍がおるのです。あの様な賊徒共等雑魚の集まり。恐れる事等ありませぬ。それに何より、?徳将軍が先鋒を行くのです。賊徒共が哀れになる様な光景が広がる事でしょうぞ。ぬははは!」

 

 

呵々大笑する迷当に釣られて笑顔になる所縁。少し緊張もほぐれた様だ。

 

 

「それに、?徳将軍の奥方様となるお方には指一本触れさせませぬ。ご安心を!」

 

「にゃ! にゃに言ってるの迷当さーん!!」

 

 

真っ赤になってあたふたする所縁。その様子を見て兵士達にも笑顔が広がった。

 

 

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一方、七は鷹の先鋒と、後方の所縁の間に居た。鷹と同じく重武装の騎馬隊を率いる事になった。役割は先鋒の鷹に続いて波状攻撃をかける役割である。巨大な斧槍を携え、凛とした佇まいは、しかし所縁と同じく緊張の色が濃い。

 

 

「緊張しておいでですな、姜維将軍。」

 

「あ、李烈さん。うん、こんなに大規模な戦争は始めてだから。」

 

「はっは。ご安心あれい。我々は様々な修羅場をくぐり抜けて来た猛者の集まりです。姜維将軍は後ろの事は気にせず思いっきり武勇を振るって下されい。

本来なら直接お使えする事となるお方には先頭ではなく後ろで指揮を執っていただきたいのですが。」

 

「いえ、鷹さんに見出してもらって、将軍になったんですから。絶対にあの人の期待に答えないといけません。」

 

「はっはっは。若殿は素晴らしい未来の奥方様を見つけられたようで、じいも安心ですじゃ!! はっはっはっは!!」

 

「いい!! ちょっと李烈さん! 確かに鷹さんは格好いいし素晴らしい人だけどまだお付き合いしている訳じゃ!!! あ・・・」

 

 

七の爆弾発言。いきなり李烈に未来の鷹の妻と言われて驚いてしまった七の口から、ものの見事に本音が飛び出てしまい、それを聞いたのは李烈だけでなく、旗下の兵士達もである。皆驚いた後は、その表情ににやにやとした笑顔が浮かんでいた。

 

 

「これはこれは! どうやらそう遠く無い未来に若殿の御子を拝めそうですな!」

 

「あ、あうぅぅぅ。」

 

 

真っ赤になって潰れた七・・・開戦前とは思えぬ程和気藹々としていた。

 

 

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うっし、お盆の最中に一本投稿!

 

 

やっぱり戦争になると筆が進みやすいです。

 

 

七と所縁は旗下の部下達にいじられながら鷹への思いを募らせて行く様です。

 

 

 

 

ちなみに、長江を下る旅を書くとか言いながら書かなかったのは、ネタが思い浮かばなかったからです。サーセン・・・

 

 

今回出て来た張白騎、迷当は正史に登場する人物です。両者が登場した年代は大きく異なりますが、そこはまあ外史と言う事で。

 

 

それではまた次回でお会いしましょう。

 

 

 

説明
白馬将軍?徳伝、第2章に突入です。

漸く戦争を書けるパートになりました(実際には強引にしました)。

それでは、どうぞ!
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コメント
いい味を持った古参達がいますね〜こういう軍は強いですもんね^^b(深緑)
PONさん コメントありがとうございます。実は何となく適当に名前付けたら「そう言えば蒼天航路に李烈ってのが居た!」と言う次第です。(フィオロ)
李烈は蒼天航路からですか?なんという広い知識…(PON)
BookWarmさん 毎回コメントありがとうございます! 次回は?徳無双(多分)(フィオロ)
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