真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第三十話
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 許都。

 

 豫州・頴川郡、許昌がもともとの地名である。

 

 一地方都市に過ぎなかったこの町が都とされたのは、洛陽からの脱出後、曹操の庇護下に置かれた劉協が、亡き(と思っている)姉の後を継いで帝位に就いた後、新たな都として定める勅を発してからである。

 

 曹操本人はこれまで通り、陳留を本拠として活動。青州・徐州を瞬く間に制圧し、いつの間にか死んでいた張譲の支配下にあった洛陽も、その支配下に置いた。

 

 その張譲の死の知らせをもたらしたのは、最近劉協の側近として台頭してきた、司馬仲達という女だった。

 

 青・徐、二州の制圧と、洛陽制圧も、その仲達という女の献策で、劉協からの勅として、曹操に命じられたものだった。

 

 そして、ある日のこと。

 

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 「麗羽が宣戦布告、ね。ふ〜ん」

 

 陳留の玉座の間。

 

 この日、曹操の下に河北を支配する袁紹からの、宣戦布告の書簡が届けられた。

 

 「袁紹軍の戦力は二十万とも三十万とも言われています。対してこちらは十万を少し超える位です。少々戦力的に、不安があるかと」

 

 曹操にそう危惧の念を語るのは夏候淵。字を妙才という。旗揚げ時からの曹操の腹心の一人である。

 

 「何を気弱なことを言うんだ、秋蘭!たかだか二倍、三倍の戦力など、私がいればたいしたことはない!」

 

 夏候淵に対し、胸を張って言うのは、片目に眼帯をした女性、夏候惇。夏候淵の双子の姉である。

 

 「脳筋のいう事は放っておくとして。華琳さま、たとえ数は倍以上であっても、士気や練度は決して高くありません。勝算は十分にあるかと」

 

 猫耳のフードを被った少女荀ケが、いきり立つ夏候惇を尻目に、曹操にそう意見を述べる。

 

 「そうね。春蘭のことはともかく、わが精兵を持ってすれば、麗羽なんて大したことはないわ。でもね」

 

 いったん言葉を区切り、立ち上がる曹操。

 

 「何か腑に落ちないのよ。この書簡、書いてあるのはたった一言だけ。『帝に仇なす身中の虫に、天誅を下す』……それだけよ」

 

 「華琳様が身中の虫!?ふざけたことを!!」

 

 一人激高する夏候惇。だが、夏候淵と荀ケ、そして、同じくその場に同席していた二人、郭嘉と程cも、不可解な顔をする。

 

 「ど、どうしたのだ?」

 

 わけがわからず、疑問を口にする夏候惇。

 

 「(姉者は本当に可愛いなあ)……いいか、姉者。袁紹は書簡に、一言も華琳様の名を書いていないんだ。つまり」

 

 「袁紹さんにとって本当に倒したい相手は、華琳様ではなく、別の誰かかもしれない、と。そういうことですよ〜」

 

 夏候淵と程cが、首をかしげている夏候惇に、そう説明する。

 

 「そういうことよ春蘭。だから一度、麗羽と話を」

 

 そこまで言ったときだった。

 

 

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 バタン!と、扉が思い切り開かれ、一人の人物が部屋に飛び込んでくる。

 

 「孟ちゃん、おるか?!都から勅使が来たで!!」

 

 「霞」

 

 その人物は張遼だった。

 

 洛陽からの脱出の際、曹操と共に劉協を連れ出した一人だ。その後、張遼は曹操に帰順し、配下となっていた。

 

 「……随分、間が良いじゃない。……稟、案内を」

 

 「は」

 

 拱手して部屋を出る郭嘉。

 

 そして、勅使がもたらした勅命は、曹操たちの予想通りのものだった。

 

 「逆賊・袁紹を討て」

 

 勅命には逆らえない。たとえ、その裏に誰の、どんな思惑があろうとも。

 

 こうして、世に言う『官渡の戦い』が開始された。

 

 曹操は、最初の舌戦で袁紹の真意を問おうとした。だが、

 

 「お話しすることは何もありませんわ」

 

 袁紹は舌戦に乗ってこなかった。ただ一言だけ言って、全軍に攻撃開始を命じたのだ。

 

 

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 戦の序盤は、戦力に勝る袁紹軍が、有利に戦を展開した。

 

 だが、袁紹配下の許攸という人物が曹操の下を訪れたことで、状況は一変した。

 

 許攸からもたらされた情報により、袁紹軍の食料貯蔵地である烏巣を、少数の兵で奇襲し、焼き払った。それで、戦局は決した。

 

 士気が下がり、逃亡する兵が続出した袁紹軍は、虎豹騎が戦線に加わると、瞬く間に壊滅していった。それを見ていた曹操は、

 

 「……一体なんなのかしらね。あれは」

 

 怯むという事をまったくしない虎豹騎の兵たちに、えも知れぬ不気味さを覚えていた。

 

 その後、袁紹と、その腹心である顔良・文醜の三人は生死不明となり、河北は曹操の支配するところとなった。

 

 袁紹勢の残党狩りには虎豹騎があたる事となり、そのまま河北に駐留することとなった。

 

 「……気に食わない、わね」

 

 帰還の途上、そうポツリとつぶやく曹操だった。

 

 そして、官渡の戦いから数日後。

 

 曹操は劉協からの招聘を受け、許へと参内した。

 

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 「臣を魏王に?」

 

 待っていたのは、曹操にとってまったく予想だにしていなかったものだった。

 

 「それだけの功が、貴女にはある。陛下はそう仰っておいでです」

 

 「……」

 

 許の謁見の間。御簾の向こう側に座っている劉協と、その前に立つ一人の女。

 

 司馬懿・仲達。

 

 役職は太博。皇帝の教育係という名ばかりの名誉職。それが本来の役職だった。だが、仲達は実質上の宰相として、劉協のそば近くに仕えていた。

 

 「どうされたのです?まさか、陛下よりの下賜がお気に召さないとでも?」

 

 曹操に問いかける仲達。

 

 「……いえ。余りにも身に過ぎた事ゆえ、恐縮いたしておりました」

 

 そう答えながら、曹操は思った。

 

 (ここに来てから、まだ一度も帝のお声を聞いていない。まさか……)

 

 と、ある疑念が頭によぎったときだった。

 

 「仲達」

 

 「!!」

 

 劉協が仲達の名を呼んだ。

 

 「朕より直に、孟徳に言葉をかけたい。構わぬか?」

 

 「……は」

 

 横に下がる仲達。

 

 「孟徳よ。これまでに至る働き、まことに大儀である。……いろいろと思うところも多々あろう。だが、朕は何より、この大陸に安寧をもたらしたいのだ。姉上が夢見た、争いなき世を。そのために、これからも孟徳の協力が必要なのだ。……よろしく頼む」

 

 御簾の向こうから聞こえた声は、間違いなく劉協のものだった。

 

 「……。陛下の想い、確かに承りました。この”魏王”曹孟徳、必ずや陛下の夢、叶えてご覧に入れましょう」

 

 深々と頭を下げ、そう答える曹操。

 

 そして、それから数日後。

 

 吉日を選んでの、曹操の魏王就任の儀式が執り行われた。居並ぶ文武百官を前に、曹操は声高に宣言した。

 

 「皇帝陛下の御名の下、魏王・曹孟徳はここに宣言する。大陸を平定し、安寧なる世へと導く!我が精兵達よ!奮起せよ!漢に昔日の繁栄を取り戻し、民に安らかなる日々を与えん!」

 

 おおおおおおおおおっっっっ!!

 

 曹操の心には、もはや迷いは無かった。

 

 (陛下のために、全力を尽くす)

 

 そして、その為なら、

 

 (一刀。たとえ貴方でも容赦はしない。陛下の理想を妨げるのなら、貴方を討つこともためらわない)

 

 曹操が南征を宣言したのは、それからわずか三日後のことだった。

 

 

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 一方、江東の地でも騒乱が起きていた。

 

 「許貢が反乱ですって?」

 

 「はい。呉郡と会稽郡の豪族たちに声をかけ、兵を挙げました。その数、三万」

 

 孫堅にそう報告する諸葛謹。

 

 「母様」

 

 「……まずいわね。先の江夏攻めで、大半の船を失ってるから、戦力差以上に不利だわ」

 

 爪を噛み、そう呟く孫堅。

 

 「荊州に援軍を求めるしかありませんね。劉翔、もしくは袁術のどちらかに」

 

 と、周瑜が孫堅に献策する。

 

 「……同盟結んで早々に、か。ま、それしかないね。明命、すぐに襄陽に発って。兵は良いから、船をなるべく多く送ってほしい、と。そう伝えてくれ」

 

 「はい!!」

 

 返事をして部屋を出て行く周泰。

 

 「戦の場所はどのあたりになるかしら?」

 

 孫策が地図を見ながら言う。

 

 「そうだな。荊州からの援軍の速度と、反乱軍の侵攻速度から考えると、……ここ」

 

 地図の一点を示す周瑜。

 

 「……赤壁」

 

 うなずく周瑜。

 

 荊州と江東。それぞれに大戦の嵐が吹き荒れようとしていた。

 

 

説明
刀香譚もついに三十話です。

今回は一刀達が荊州の乱を治め、州牧になっていた頃の、

華琳の話がメインです。官渡に至るまでと、その後。

その辺を少し簡単ですが、ご紹介します。

ちなみに、一刀たちは一切出てきません。 

では。
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コメント
当人達は自らの思惑の下なんでしょうが何か妙な雰囲気が各所にあるような?とにかく今後の推移に期待です!(深緑)
hokuhinさま、おそらくかなり難産になると思います。少々UPは遅くなるかも。(狭乃 狼)
よーぜふさま、ほんと、自分でもなんかややこしく・・・wwちょっと整理しないと^^。(狭乃 狼)
北と南で戦の気配が・・・一刀達はどうこの危機を凌ぐのか、今から楽しみです。(hokuhin)
ややこしくなってまいりましたなぁ。 素直?な麗羽も気になるし・・・(よーぜふ)
nakatakさま、堅お母さんの運命はすでに頭の中では決まってます。結果は近々ご報告を。(狭乃 狼)
もしかして、生きながらにして操り人形?それと、私個人としては堅さんには死んでほしくないww(nakatak)
砂のお城さま、協さん、まだ死んではいませんよ〜。生きてますよ〜。いちおう、ね。(狭乃 狼)
村主さま、なかなか予想外だったでしょ?で、許貢は単独犯?それとも・・・?(狭乃 狼)
天覧の傍観者さま、反西涼連合後の華琳は、漢に対してめっちゃ忠臣になってます。なので、劉協を支えることが、華琳にとって今一番大事なことです。(狭乃 狼)
東方武神さま、ちょっと、いや、かなり強引ですけどねww(狭乃 狼)
紫電さま、正直無理やりすぎるかな〜?とは思ったんですが、呉陣営の大戦=赤壁だよな〜。と、あいなりましたwww(狭乃 狼)
仲達さん、魏軍師では無く帝側近だったとは そして赤壁・・・相手許貢!?まあ裏で誰かに尻叩かれての所業でしょうがwこの展開は予想外でした(村主7)
うp乙です!大一番の『赤壁』ですか〜。司馬仲達の真意も気にはなりますが、なんとなーく思惑にはまってしまっている華琳さんに不可解さが生まれました。次回作で一刀の活躍や、祭さんの活躍に期待をしつつ、次回作をお待ちしております。(天覧の傍観者)
更新乙です♪いよいよ赤壁ですか・・・次回が楽しみです♪(東方武神)
リョウ流さま、さてどうなるんでしょうね?お楽しみに^^。(狭乃 狼)
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恋姫 刀香譚 一刀 華琳 司馬仲達 魏王 

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