それがあなたの望むことならば~雛から凰まで~十二歩
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前書き―歯痒い

 

一成「雛里お姉ちゃん」

 

雛里「うん?何?」

 

一成「ううん、呼んでみただけ」

 

雛里「……」

 

一成「……雛里お姉ちゃん」

 

雛里「もう、何、一成ちゃん?」

 

一成「…えへへぇ……」

 

雛里「もぉ……呼んで減るってものじゃないけど、あんまりそんなに何度も呼ばないで。恥ずかしくなるから」

 

一成「だって……」

 

 

 

星「ふふっ、未来の天の御使い様は、とってもほのぼのな方になるようだな」

 

百合「……あの、これって、私も真名譲ったほうがいいのでしょうか、星さん」

 

星「何だ、まだしてないのか?」

 

百合「え、でも、今までは雛里ちゃんがゆるしてないのに私だけ許すのも何だかなぁって思っただけですから…なんか一人だけで残っていかれちゃった気分ですわ(しゅん)」

 

 

 

一成「雛里お姉ちゃん」

 

雛里「もぅー、怒るよ」

 

 

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河北まで後もう少しってところです。

 

ここまでは特に何事もありませんでした。

 

途中で山の盗賊たちを何人かあったことはありましたけど、全部星さん一人やっつけちゃいました。

 

星さんはとっても強いです。

 

今この時期にでも、どの太守のところに行っても重用されるはずなのに、どうしてこんなに放浪しているのでしょうか。

 

「まだ、己の武をささげるほどいい主を見つけておらんのでな。何より、この世で官軍に身を託すというのも気に入らん」

 

星さんはそういいました。

 

「だったら、相応しい人が現れたら、その人に仕えるってことですか?」

 

「まあな。だが、私は相当目が高いのでな。それに、今はもう少し自由に大陸を歩き回りたい。どこかに定着するのはまだ先だ」

 

「はぁ……」

 

「雛里もそうだろ?この後、どこかに仕えるようになるとしたら、自分の知に相応しき主を探すことは、自分がその知を磨いてきた年月を考えれば当然のことだ」

 

「それは確かにそうですね…」

 

仕官…私は…

 

「…うん?雛里お姉ちゃん?」

 

「……えへへ」

 

「うん?うん?何?私の顔に何かついてるの?」

 

まだ、先の話ですから。

 

「ううん、何でもないよ」

 

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「この先に美味しいメンマの店のある村がある」

 

「星お姉ちゃんの旅は本当にメンマしかないね」

 

「メンマと酒があるところに私あり、だからな」

 

「わたしは、もうそろそろメンマは飽きてしまったんですけど…」

 

「何を言うか、百合殿、そもそもメンマというものはだな…」

 

一度メンマのことを話し始めたら、星さんは口を挟むことを知らずに村についてメンマを口に入れるまでずっと話し続けます。

 

聞いてるこっちとしては、凄く失礼だとは思いますが、ちょっと黙って欲しいです。

 

「…?ねぇ、星お姉ちゃん」

 

「何だ?今からが重要なところなんだが」

 

「星お姉ちゃんが言った村って、あそこのこと?」

 

「うん?…!!」

 

「アレは!!」

 

一成ちゃんが指した方向には、大きくて黒い煙が上がっていました。

 

そしてその下には、

 

燃えている村の姿が……

 

「!馬鹿な…!」

 

星さんは馬を走らせて、村の方に駆けだしました。

 

「うわっ!」

 

「星さん、待って!」

 

百合お姉さんと私が乗っている馬は、その後を追いましたけど、武官の星さんが操る馬の速度にあわせることはできませんでした。

 

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一成side

 

「星お姉ちゃん!」

 

「少し我慢していろ、一成!」

 

星お姉ちゃんがあまり馬を早く走らせて、私は一瞬馬から落ちるかと思いました。

 

その後は、ずっと馬の首を抱きついて目を閉じていました。

 

ひひいぃぃー

 

やっと馬が止まって、星お姉ちゃんは武器の槍を持って燃えている村の中に入りました。

 

「星お姉ちゃん!」

 

私もその後を追いました。

 

走っていたら周りの景色が目に入りました。

 

村が燃えていました。

 

家たちが、近所の森が、

 

「……」

 

一体何が起きたの?

 

・・・

 

「星お姉ちゃん!!」

 

「!」

 

追いついた星お姉ちゃんは、村の真ん中の一番大きい家にいました。

 

「っ!来るな!」

 

「?!」

 

星お姉ちゃん。

 

一体何が…

 

 

 

私は星お姉ちゃんが言うことを聞かずに、その家に足を運びました。

 

 

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雛里side

 

「ひどい…」

 

星さんの馬がある場所でたどり着いた私たちの前に見えるのは、燃えている村。

 

一体誰がこんなことを……

 

「星さんたちはどこに…」

 

「…ぁぁ……」

 

「!百合お姉さん、あんなところに人が…」

 

「!!」

 

家の中に、男の人一人が唸っていました。

 

「大丈夫ですか!」

 

「…た、すけ…」

 

「しっかりしてください!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「と…盗賊が……妻を……息子を……」

 

「!!」

 

「ぁ…」

 

男の人はそこまで言ってまた気を失いました。

 

「…雛里ちゃん、馬においておいた鞄を持ってきて頂戴」

 

「はい!」

 

私は百合お姉さんの言うとおり、旅の途中で必要な時に使おうと詰めておいた薬草がある鞄をとりに行きました。

 

 

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一成side

 

目の前に広がれていたのは…

 

村の人たちでした。

 

「お父さん!お父さん!!」

 

「あなた、しっかり!」

 

「親父!」

 

人たちが叫んでいました。

 

気を失った自分たちの妻を、夫を、子たちを親の側で泣いていた。

 

「何だ、これは…」

 

「一成」

 

「星お姉ちゃん、一体ここで何が起こったのですか?」

 

「解らん。しかし、村が燃えているのに、ここの人たちは何もしていない。このままだとこの村は…」

 

 

 

「星さん!!」

 

その時、後ろから子瑜お姉さんと雛里お姉ちゃんが来ました。

 

「百合殿!」

 

「盗賊たちが襲ってきたようです!」

 

「何だと?いくら盗賊たちとは言え、ここまで酷いことをしたというのか?」

 

「解りません。確かに盗賊なら村を奇襲して金と食料を奪い取ることが一般的ですけど、村をこんな風に燃やそうとするなんて…」

 

「とにかく、今は村にある火を消すことが優先だ。ここに居る人たちを説得して、火を消さなければ」

 

「はい」

 

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雛里side

 

百合お姉さんと星さんが人たちを説得して、動ける人たちは星さんと一緒に消火作業に入り、私たちは怪我した人たちを治療しました。

 

「多すぎるよ。薬草は何人分しかないのに…」

 

「やるだけやるしかないわね…一成ちゃん、近所に使えそうな薬草があるか探して見てくれる?」

 

「うん」

 

「私も行きます」

 

「お願い」

 

百合お姉さんを家に残して、私と一成ちゃんは村の後側にある森に行きました。

 

・・・

 

「…雛里お姉ちゃん、これは?」

 

「…うん、それも薬草だよ」

 

そうやって二人で暫く薬草を集めていました。

 

「…雛里お姉ちゃん」

 

「何?」

 

「…私、見たよ。人たちが…家族たちを呼びながら泣いているの」

 

「…うん、私も見たよ」

 

「私……天の御使いなん、だよね」

 

「……」

 

「なのに私、何もできない。あの人たちを救えることも、村を守ってあげることも、私にはできないよ」

 

「一成ちゃん」

 

早かったです。

 

あまりにも早かったです。

 

一成ちゃんに、この世界をこのような一面を見せ付けたくありませんでした。

 

だからどうか、こんなことが起きませんようにと毎晩毎晩祈っていたのに…

 

結局、一成ちゃんは見てしまいました。

 

 

 

一成ちゃんはまだ子供です。

 

天の御使いという名はあると言っても、それは人たちが認めてくれなければ何の意味もいないもの。

 

その仮想の名に一成ちゃんが押しつぶされることは見たくないです。

 

その名を背負うには、一成ちゃんはまだ幼すぎるのです。

 

「誰も、今の一成ちゃんに皆を救えなさいって言わないよ。そんなこと、誰にもできないもの」

 

「雛里お姉ちゃん」

 

「いつかね、一成ちゃんが民たちを守ることができるほど強くなったら、その時はその力を尽くして皆を守ってあげて。でもね、今は…こうして私たちにできることをするの」

 

「……」

 

「これが、今の私たちの全力だよ、一成ちゃん。私たちに出来ることは少ないよ。だから、私たちはもっと強くならなきゃいけないの。一成ちゃんも、私も…」

 

「…うん」

 

「私も頑張るから、一成ちゃんも頑張って。こんなところで絶望していたら、この先にいる人たちも苦しむことになるから」

 

「……雛里お姉ちゃん」

 

「うん?」

 

「私、本当にそんな人になれるかな?」

 

「なれるよ、きっと。もしできなかったら、私怒るんだから」

 

「…頑張る。鳳統お姉ちゃんに怒られたくないから」

 

「うん」

 

「鳳統お姉ちゃん」

 

私は頭を上げて一成ちゃんを見ました。

 

一成ちゃんも私を見ました。

 

一成ちゃんの目が、真っ直ぐに私を見ていました。

 

「…頑張るよ、私」

 

「……うん、私も」

 

 

 

私たちはお互いを見ながら、互いの覚悟を確認して、また薬草を探す作業に戻りました。

 

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薬草を採って帰ってきたら、村の火は大分消火されていました。

 

「百合お姉さん、薬草採ってきました」

 

「ありがとう、これで一息つくわね…」

 

「はい。…でも」

 

相当の盗賊たちがここにいるとわかったから、暫くはここから移動できないね。

 

「暫くはここで人たちを看病しながら様子を見てみましょう。盗賊たちが一度ここまで攻撃した村をまた襲う理由はないから」

 

「はい」

 

 

 

「百合殿!!」

 

その時、星さんが外から戻ってきました。

 

「星さん、消火はもう終わったのですか?」

 

「ああ、でもそれが問題ではない。村の外から砂塵が来ている」

 

「!!」

 

「嘘!また盗賊たちが来るの?!」

 

「解らん。まさかこんな短い間で二回も…」

 

「どうしましょう。ここの人たちでは、迎撃することもできませんわ」

 

もしかして本当にまた盗賊たちが来るのだったら、この村はもう本当にお仕舞いです。

 

「とりあえず、私一人で出てみよう。もし盗賊だったら、私が時間を稼げるから百合殿たちは人たちを避難させてもらおう」

 

「そんな、無茶だよ!本当に盗賊団だったら、そんな大数いくら星お姉ちゃんでも」

 

一成ちゃんは星さんを止めましたが、

 

「私のことは心配するな、一成。こんなところで下種な賊どもに命を落とす私ではないからな」

 

「でも…」

 

「安心しろ、一成。約束する。無事に戻ってこよう」

 

「…約束だよ」

 

「ああ」

 

「絶対だからね」

 

「絶対だ。…それじゃあ、百合殿、後を頼む」

 

「はい」

 

星さんはそう言って外に出ました。

 

「二人は外にいる人たちにこの話をしてちょうだい。私も急いで残りの人たちを動けるほどに治療するから」

 

「「はい」」

 

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人たちに急いで避難するように告げていたら、あそこから星さんが戻ってきていました。

 

「星さん!」

 

「星お姉ちゃん!大丈夫だった?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「あの砂塵は…」

 

「安心しろ。賊ではない。官軍だ」

 

官軍!

 

「じゃあ…」

 

「村人の誰かが城に連絡したようでな。盗賊たちを討伐してからこっちにきているようだ」

 

「そうですか…」

 

でも、村のことより討伐の方を優先するなんて…その間村は滅ぶ寸前まで行っていたのに。

 

「……」

 

・・・

 

・・

 

 

「村の人たちを助けてくれたこと、感謝する」

 

官軍を率いている人は、この辺りを制している孫堅軍の周瑜という人でした。

 

「…どうして村ではなく盗賊を討伐することを優先したのですか?」

 

百合お姉さんが問いました。

 

百合お姉さんは少々怒っているように見えました。

 

周瑜さんは百合お姉さんより拳一つぐらい背が小さい人でしたけど、その目はちゃんと百合お姉さんを見つめながら説明をしました。

 

「あの賊たちはかなり長くこの辺りで動いている盗賊らだった。でも、あまりにも動きが早くて今まで一足二足遅くなることが多かった。だから、これ以上の被害を抑えるために位置を把握した賊たちの討伐を優先した」

 

「……」

 

「村人たちには本当に申し訳ないと思っている。復旧に必要な物資は確実に提供するつもりだ」

 

「…そうですか…」

 

百合お姉さんはその話を聞いて怒りは少し収まったように口を挟みました。

 

「盗賊らは完全に討伐したのか?」

 

「今また一つの部隊が賊たちの後片付けをしている。そろそろ終わる頃だな」

 

「めーりん」

 

「……」

 

 

声が鳴ったところを見たら、あそこから周瑜さんと同じく褐色の皮膚に桃色の髪をした人がこっちに来ていました。

 

「盗賊の討伐はもう終わったのか?」

 

「ええ、全部片付けたわよ」

 

「それは良かったな」

 

「良くないよ。もっと楽しいだろうと思ったのに、あいつら全然弱いもの。せっかくお母さんなしで出陣できたのに…」

 

「「「「!!」」」」

 

私たち四人の顔が一瞬に変わり、その人を睨みました。

 

「伯符!!」

 

「あ」

 

周瑜さんも同僚の無礼な言動に怒りだしました。

 

「…お姉さんたち何なの?」

 

「一成ちゃん」

 

一成ちゃんが口を開けたのはその時でした。

 

「村の人たちよりも盗賊たちの討伐が先だって?その間村は燃えつけていたよ。私たちが来なければこの村は全焼していたよ!人たちもたくさん死んだんだよ!」

 

「あ……」

 

「なのになんだよ、そこのお姉さんは。まるで盗賊たちに遊び半分の心で戦いに行ったみたいにして!」

 

「…同僚の失言は謝ろう。だが、私たちはあくまで全体的に見て一番建設的は動きをとろうとしただけだ」

 

「……」

 

官軍の人が言う言葉に間違いがあるわけではありませんでした。

 

確かにこの人の話通りにすると、もしあの場で盗賊を追っていなければ、またどこかで被害が起きているでしょう。

 

でも、目の前で人たちが苦しむことを見た私たちにとって、その話は話としては納得できても、心では納得できない話でした。

 

「伯符。あなたは城に戻って必要な物資を持ってきてもらおう」

 

「…はーい」

 

伯符という人が行って、周瑜さんは話を続けました。

 

「あなたたちさえ良ければ、一緒にしろに行って、礼を言わせてもらいたいのだが」

 

「…いらない」

 

一成ちゃんはそう言って後を向いて歩いていきました。

 

「気持ちだけ受け取りましょう。先を急いでいますので…」

 

百合お姉さんもそう言いながら、礼を行って馬をおいておいたところに向かいました。

 

「私たちも行くぞ、雛里」

 

「あ、はい」

 

星さんと私もそのまま官軍の人を後にして私たちの行く道を行きました。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

説明
義を持っても力がないもの。
力があっても義で動かないもの。

どっちも本当に民たちを助けることは…難しい。
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コメント
そちらの言葉でいうと、「私」はチョヌン、「僕」はナヌンみたいな感じではないでしょうか?「ナヌン」は普通に友達や親しい間柄で使う言葉ですよね?だから「僕」でいいと思いますよ。…偉そうに言ってしまいましたが、別に無理に変更しなくてもいいと思いますよ。(ptx)
ptx さん>>まだちゃんとした外史が始まる前、っていう設定です。ネタバレしますと桃香や白蓮もまだ勉強している頃ですよ。後、…やっぱり僕の方は良かったのでしょうか。今カラ変えたほうがいいのでしょうかね。そういう細かい感覚は良くわかりませんから.(TAPEt)
百合はめーりんより背が高いのか…意外でした。あと、今更ですが小さい男の子が自分のことを「私」と呼ぶのはやっぱり違和感がありますね…。次回も楽しみにしてます!(ptx)
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