真・恋姫?無双〜霞を訪ねて万里行・序〜
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これは、大切な部下、そして友を探すラブラブイチャイチャマイペースな主従と、それに従う青年の旅路を描いた。きっとハートフルになると信じずにはやっていけない黒き歴史書……の導入部分である。

 

 

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中華は広い。と言われてもピンとこないだろうが、ユーラシア大陸の三分の一を占める国家はまず感覚からして我々のそれとは違う。

そんな大陸で、たった一人の人間を探し出すという事がどれほどのものなのか…想像するだに恐ろしい。

「まあ、そんなことをこれからしようって言うんだが」

「誰に向かって御話なのですか?北郷様」

 

魏の種馬・北郷一刀、天より再臨す。その報は大陸に凄まじい衝撃をもたらした。

魏の象徴、魏の要、そして魏王曹操の玩具。彼の帰還に魏は国を挙げてのドンチャン騒ぎ、街は山車が練り歩き神輿が踊り露店は仕入れが追い付かない程の賑わいを見せた。

そんな宴は七日七晩続き、冷めぬ熱を抱きながらもこれ以上は何かと差しさわりがあると判断した華琳の命により終息に向かう事となる。

とまあ、熱烈な歓迎と共に迎えられた一刀。北郷隊に泣きつかれ、春蘭に泣きながら斬られかけ、桂花には顔を赤くして嫌味を言われ……かつての日常が戻ってくると誰もが確信する中。

 

 

あの青年は将軍職を剥奪され、一介の使用人になっていた。

 

 

「あら、誰のせいで霞が城を出て行ったのかしら?それにあなた、伝え聞くところによると出会うなり一刀を殴りつけたそうじゃない」

とは華琳の言葉。確かに空気を読まずに并州と幽州の境目付近などという脈絡のない所に現れ、牢の中で間抜け面をさらしていた一刀を思わず殴ってしまったのは確かに軽率だった。

しかし青年にしてみれば、好いている女の想いを成就させるために気持ちを押し殺して背中を押してみたら、肝心な人物が自分の後ろで胡坐をかいていたようなものだ。

殴りたくなる気持ちもわかる。

 

その後、魏の諸将に対して一刀が種馬ぶりを発揮し終わるまで青年は身に降りかかった不幸を趣味のお菓子作りで発散し、その後に戻って来ない霞の捜索を一刀と共に言いつけられて今に至る。

「……で、何故貴方もついてきているのですか?華琳様」

青年の言葉に、一刀と馬を並べていた少女はいつもの悠然とした笑みを浮かべて。

「霞が出て行った直接の原因はあなただけれど、私の失態があった事も事実よ。あなたの進言通り様子を見ていたらまた違った結果になっていたかもしれないわ」

「で、罰は自分も負うべきだと?」

「そうよ」

小さ…ゲフンゲフン、慎ましやかな胸を張る華琳に青年はニコリと微笑み。

「御託はいいですから本当の理由を教えてください」

「……一刀を独り占めしたかったから」

「……でしょうね」

その為に王が城を抜け出したのかという突っ込みはあえてしない。

「華琳…そんなに俺の事を……」

「馬鹿…あたりまえじゃない。城じゃ皆がいるから甘えられないし……」

「……私はいいのですか?」

「あなたはいいのよ。軍籍に身を置く前は曹家の家令候補にまで登り詰めた言わば腹心中の腹心じゃない」

一刀を取られる事もないだろうし。

「そう言えばそんな事もありましたねぇ……霞に誘われてホイホイ仕官してみたら何の手違いかあなたの御屋敷の家事手伝いに任じられて」

「おまけに霞がそのことを報告しなかったものだから結局半年間は使用人として働いていたわね。他の使用人や侍女や達もすっかりなじんで、地域住民から曹家のおにいさんで通っちゃってたわ」

「ああ、その噂は聞いた事があったよ。華琳の家に凄腕の使用人がいるって話は」

「結局、あなたに直談判して軍籍に身を置く事になりましたが、まあ今はこうしてまた使用人に逆戻りですが」

「あー大丈夫よ。霞が見つかったらちゃんと将軍に戻してあげるから」

「約束ですよ?」

そんな感じで三人が話していると、痺れを切らしたのか一人に男が声を荒げた。

 

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「おいてめぇら!!何時まで俺達を無視しやがるんだ!!」

「あら、ごめんなさい。醜いものは目が拒否しちゃって」

「曹魏の使用人たるもの、差し出がましい真似はできません」

「いや、何となく触れない方がいいのかなって」

三者三様の答えに、男は剣を握った手をぶるぶると震わせる。

今、一刀達を囲むように三十人ほどの男達が白刃を手に殺気だった目をしていた。

「流石に国境付近になると治安も落ちてくるわね……もう少し地方にも目を配らなくてはいけないわね」

「そうだな…主要都市ばかり治安が良くても末端がそうじゃないんじゃ安全な国とは言えないからな」

「それはそうと御二方。今夜のご夕食にご希望はございますか?できるだけ善処しますが……」

「ふざけんじゃねぇ!!」

キレた野盗の一人が華琳めがけて矢を放つ。あわてて一刀がそれをかばおうとするのを制して、青年は飛んできた矢を左手の中指と人差し指で挟み取った。

「……私よりも北郷様に助けれた方が良かったですか?」

「いいえ、一刀を傷つけさせるわけにはいかないもの。それよりもさっさと掃除をしてくれないかしら?」

「畏まりました」

恭しく一礼し、青年は馬を下りて野盗達に向き合う。

「何だひょろい兄ちゃん。痛い目に会いたくないならとっとと……」

失せろ。そう言いかけた口の中に何かが入った。それが鋭くとがれた銀色の小刀だと認識するまでも無く、男は崩れ落ちる。

その表情は完全に何が起こったのか気付いていないかのように喋っていた時のままだ。

「残念ながら、掃除中にゴミと会話をするほど私は可哀そうな人間ではありませんので」

そう言って青年はごそごそと懐から何かを取りだす。明らかに収納していた場所にサイズの合わないそれは、一本のはたきだった。柄は鉄製で房の所が刃物になっている以外は普通にどこにでもあるようなはたきだった。

「いやいや。あんなのどこにでもないだろう」

「野暮は言わないの」

主達の会話を背に、青年は一歩踏み出す……良い笑顔で。

「な、何なんだお前は!!」

「私ですか?私は曹魏の使用人…主の身と家を護る曹家の『鬼』いさんですよ」

 

 

 

「お待たせいたしました。青椒肉絲です。山塞の裏に若い筍がありましたので採ってまいりました。筍の歯応えと肉の柔らかさをご堪能具ださい」

「付け合わせは茸の羹(あつもの)になります。この時期にしか取れない茸をふんだんに使っております。深みのある香りをお楽しみください」

「食後の甘味として、以前北郷様がおっしゃっておられたケーキなるものを作ってみました。独自に手を加えておりますので北郷様の仰るそれとは違うかもしれませんが。甘さを控えめにした後味のすっきりしたものにしております」

「御茶は都より持参していた鉄観音でございます。この茶には消化を助ける働きがあり、また香り高さも特徴です」

すらすらと述べて卓に皿を並べていく青年。

それを片や上品に、片や…まあ普通に頬張る主二人。

野盗を蹴散らした後、三人は近くにあった野盗の山塞に殴り込みをかけてこれを占拠すると遅めの夕飯を取ることにした。

無論。山塞の食料を使って。

「……見事ね。相変わらず絶品だわ」

「恐れ入ります。北郷様はいかがでしょうか?」

「そうだな…この味を率直に述べると」

「述べると?」

「びゃあああ!!美味いぃぃ!!!」

「……ありがとうございます」

主の奇行にも丁寧に答える青年。返って一刀が固まっている。

「それはそうと…今私達は荊州にいる訳なんだけど。これから呉と蜀、どちらに向かうべきかしら?」

「そうですね…霞の性格からいって、恐らくまずは呉に向かったものと思われます」

「その心は?」

「あいつは暖かいところが好きですから」

「………」

「………」

「……じゃあ、まずは呉に向かいましょうか」

「畏まりました、我が君」

恭しく華琳に頭を下げ、青年は手にした盆に空になった食器を乗せていく。

その時、ようやく硬直から解かれた一刀が青年に話しかけた。

「そう言えば、一つ聞きたい事があるんだけど」

「何でしょうか?」

作業の手を止めて青年は一刀を見る。

「いや、ものすごく今さらなんだけどさ。このままにしとくのもあれだし……」

「はぁ……」

言いにくそうにする一刀に首を傾げる青年。しかし次の瞬間、その顔が凍りつく。

「君…名前なんだっけ?」

 

ガシャアアアアアン

 

盛大な音をたてて、固まり立ち尽くした青年の手から食器が崩れ落ちた。

 

 

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あとがき

 

なんじゃこりゃな話ですが、導入なので勘弁してください。

一応これは、行く先々で騒動に巻き込まれる一刀と華琳。それを助けるために奮闘する青年のお話です。次回からは一刀と華琳様の出番も増えます。

 

ちょっとだけ紹介を

 

北郷一刀

言わずと知れた魏の種馬。さまざまな艱難辛苦を超えて魏に戻ってきた。その過程で以前よりも武力、知力共に向上しているが、周りが化け物クラスばかりなので目立たない。男に対して空気が読めない。だから青年との間にフラグが断つことは無い(はず)。行く先々で無自覚にフラグを乱立し面倒を増やす。

 

華琳

言わずと知れた魏の覇王。半年の歳月を得て一刀と再会。その間に一刀分が摂取できなかった反動か、前作に比べてカリスマが減少気味。一刀と二人で良い感じになるためだけに国を飛び出したというキャラ崩壊ぶり。しかしその結果、他国に一刀菌をばら撒くこととなる。青年の事を信頼している。

 

青年

言わないとわからない魏の執事。真面目に仕事をした結果、恋心を砕かれ仕事をクビになり今また厄介な主従のお守をする羽目になった苦労人。家事全般にスキルが高い。ちゃんと本名はあるが作中で明かされるのだろうか?普段は温厚な『お兄さん』だが仕事のことになると『鬼いさん』と化す。ちなみにあくまで執事なあの方とは関係ない。主には忠実だが時折容赦がない。ついでに書いとくと真名は『蔵人』。復職が現在の悲願。

 

言わずと知れた魏の驍将。青年にたきつけられて城を飛び出した結果、一刀と行き違いになったうえに消息を絶つ。実は青年にも惚れられているという罪作りな人。彼女がどこにいるのか、それが物語の鍵になる。

 

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次回予告

 

「へぇ…あなたが北郷一刀か、なかなか良い男ね。呉に来る気はない」

「あら雪蓮……良い度胸じゃない」

 

「申し訳ありませんが、汚い手で我が主に触らないで頂けますか?鈴の甘寧殿」

「貴様…許さん!!」

「ちょ、ちょっと二人とも!!」

 

「ここでしっかりと混ぜる事が、ほいっぷくりーむを作る上で重要なのよ」

「ほいっぷくりーむはゴマ団子に合うでしょうか?」

「さあ…どうでしょう」

 

「お猫様〜」

「ああ、まさかこれほどの美女にこんな処で出会うとは……」

 

「待て!俺にそっちの趣味はない!!」

 

「大丈夫…痛いのは一瞬ですよ」

 

「く…これは孔明の罠よ!!」

 

次回〜霞を訪ねて万里行・破之一〜

 

「天下人の使用人たるもの…主君の純愛を守れずしてどうします」

 

説明
前作『君のところに遼来々』の続きをという声がありましたので書いてみましたが、正直今回は恋姫的な要素はほとんどありません。前作ではキャラの薄かった青年の個性をつけてみただけです。

また原作キャラのキャラ崩壊が凄まじいのでお気を付けください。

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コメント
クォーツさん→何らかの形で霞と青年には想いに決着をつけさせるつもりです。完璧執事については…私も書いてて思いました(笑)(宵闇の賢者)
YTAさん→ですよね。隠れた名将って三国志には多いですが、魏はとりわけ多いですからね。青年が歴史的に有名な将なのかは…これから明かされると信じたい(ヲイ)(宵闇の賢者)
とんぷーさん→きっと彼は報われます……報われないと私も会われすぎて(宵闇の賢者)
としおさん→次回からは彼にも頑張ってもらう予定です…種馬として(宵闇の賢者)
よーぜふさん→あえて我儘な華琳様を書いてみました。カリスマな華琳様より難しかったです(笑)鬼いさんは…怖いですよ(宵闇の賢者)
ロンギヌスさん→ありがとうございます。『鬼神』の異名はそこからきていた…という話です。(宵闇の賢者)
執筆お疲れ様です。関係は無いと言われても、此処まで完璧執事だと思い浮べない訳にわ!?次も楽しみです。ああ、霞が青年に靡かねかなぁ・・・じゃないと余りに不憫 次作期待(クォーツ)
正史でも、曹家には地味ながら優秀な人材が掃いて捨てる程居ますからねぇ。夢が広がりますwww(YTA)
青年が哀れすぎる・・・(涙(とんぷー)
もうちょっと一刀が目立ってもいいのでは?w(よしお)
鬼いさん・・・こわっw てか華琳さん、自分に素直すぎww(よーぜふ)
油断してたところに「曹家の『鬼』いさん」に吹きました。 これからもこの三人の珍道中に期待大です。(ロンギヌス)
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真・恋姫?無双 華琳 一刀 青年 

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