真・恋姫†無双 ?白馬将軍 ?徳伝? 第2章 黄巾の乱 2話
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「賊軍と言う割に統率はそれなりに取れているな。」

 

 

鷹の目からして、眼前の5万の賊軍は大きく3つに別れており、中央に3万、左翼と右翼に1万ずつ。張白騎の元には5万の兵だけでなく、衛固と高幹と言う将が居るらしく、賊軍としてはそれなりに統率が取れている。そのため、装備こそ立派だが優れた将帥もおらず、練度も士気も低めな洛陽や長安の軍勢では敵わず、撃退された。

 

もっと言うなら、当初からこの洛陽と長安の間に現れた賊軍を甘く見過ぎた事も大きい。

 

なぜなら、中原に勃発した黄巾の乱を沈めるために、皇甫嵩、朱儁、盧植と言った主要な将軍を派遣したために、弘農郡の叛乱を鎮圧させる将軍が居ないのである。

 

なんであれ、張白騎を鎮圧する事も中央からの指令に入っている上、洛陽に行かねばならない以上、眼前の敵を打ち倒さねばならない。しかも并州軍の到着を待っていると中央がどうなるか解らない。

 

 

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軍服と肩甲部分が競り出た甲冑をまとい、額宛と小手と脛当てを装備し、右手に自らの宝刀の大矛を手に、二本の長剣と弓と矢。他にも投擲用の短剣を携えた鷹の姿に、凄まじい威を感じ取っている涼州兵達。

 

涼州兵達は知っている。今、涼州軍3万の先頭に立つ男こそ、涼州の武の象徴であり、自分達が仕える主である。敬意、憧れ、畏怖。鷹に対してそれぞれではあるが、共通している事がある。

 

それは、鷹と共に戦える事に、誇りを抱いていると言う事。鷹と共に、戦場を駆け抜ける事を、自らの誇りにしている事である。

 

鷹がいちいち檄を発する必要は無い。鷹がその場に立つだけで、涼州兵一人一人がその責務を果たすべく死力を尽くすのである。

 

見る人が見れば、と言うものではない。誰が見ても解る鷹の威。それを感じているのは涼州兵だけではなかった。

 

 

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冷や汗が止まらない。戦を前にして、昂る心と逸る肉体を感じながらも、何故か前方から何かに押さえつけられる様な不快な感覚に、男は戸惑いを必死に押し殺そうとしていた。

 

だが自分だけではなく、周囲の兵士達もが戦争を前にして畏れの感情が強いのが見て取れる。

 

明らかに、自軍が眼前の敵軍に気圧されている。この事実に、騎乗している男、張白騎は苦渋の表情となっていた。

 

 

「ぐ、ぬ・・・此処は先手を取って乱戦に持ち込むべきか、相手の攻撃を迎え撃つべきか・・・」

 

 

当初は、潼関に篭る敵を挑発して釣り出してやろうかとほくそ笑んでいたが、眼前に完全武装の騎馬軍が現れてからは、そんな余裕は完全に消え失せた。

 

当初は本当に潼関から釣り出せたのであれば、数をたよりに押し潰してなだれ込むか、篭ったままなら強引に攻め寄せずに近辺で略奪を続けようと考えていた。

 

たしかに、敵軍はおよそ3万。数においてはこちらが2万上回っている。ただし、向こうの軍3万が全て騎馬隊で構成されているとは夢にも思わなかったのである。

 

 

「上将軍! 敵が動き始めました!」

 

 

考え事に沈んでいた張白騎の思考を断ち切ったのは供回りの騎兵であった。眼前を見れば、先頭に立っていた大男が宝刀を大上段に構え、それを振り下ろす。と、一斉に敵騎馬軍が一気に全速力で突っ込んで来る。

 

三角形を形作ったその陣形は、錐行陣。約1万だろうか。

 

 

「落ち着けい! 先頭の歩兵達は密集して槍を構えよ! 狙うのは敵兵ではなく、馬を狙え! 伍を崩さず、しっかり組んで集団で戦うのだ!

 騎馬の勢いさえ止めてしまえばどうと言う事は無い!!」

 

 

張白騎は内心、安心していた。一番怖かったのは、敵騎馬軍による高い機動性を活かした遠距離攻撃。即ち騎射を恐れたのである。歩兵が主体の自軍は、騎射に対する対抗手段が、敵の矢が無くなるまで必死に堪え忍ぶしかない。おまけに向こうには潼関、その後方には長安があり、補給路ががっちり固められている。

 

つまり、ほぼ無尽蔵に矢の雨が降り注ぐ事は間違いなかったのだ。だから真っ直ぐ突撃して来た事に、張白騎は安堵したのである。

 

だが、彼のその考えが致命的な間違いであった事に、直ぐに気付かされる事になる。

 

 

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隣の歩兵と槍を構え、密集して槍襖を作る。歩兵は常にそうだ。向かって来る敵を迎え撃つためにしっかり固まって、敵を後ろに通さない事が最初に求められる。

 

次に、接敵して乱戦状態になったら、伍を組んで戦う。

 

開戦して、最も血が流れる戦場となるのは、歩兵の居る場所である。何故なら、歩兵は最も数が多いが、最も立場が弱い。しかしその歩兵が、乱戦になると最も重要なファクターを締める事が多い。

 

騎兵の足が鈍り、弓矢で援護がしにくくなった乱戦状態の戦場では、強力な騎兵の突進能力が制限され、弓兵や弩兵は至近距離では槍や剣の餌食になる。

 

だから、歩兵に生きるか死ぬかは、最初の激突で多くが決まる。最初を生き延びても死ぬ可能性は当然あるが、生き残る可能性は確実に高くなる。

 

そう、最初をくぐり抜ければ・・・

 

 

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あれは何だ?

 

 

夥しい騎馬兵共を従えて先頭を走るあの男は何だ?

 

 

右手に大矛を構え、迫り出した肩当てが目立つ甲冑に身を包んだあの男は何だ?

 

 

外套をはためかせ、まるで巨大な怪鳥が羽を広げたかの様な姿で突っ込んで来るあの男は何だ?

 

 

悲鳴を上げたいのに声が出せない。逃げ出したいのに体が全く動かない。

 

 

何も、出来無い・・・何も・・・何・・・

 

 

なんで俺はこんなに高く浮いてるんだ?

 

 

なんで俺は落ちて行ってるんだ?

 

 

なんで?

 

 

なん・・・な・・・

 

 

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その歩兵は、首を切られた自らの頭部が宙に舞っている事を認識出来ず、訳が解らない、と言った表情になっていた。

 

 

 

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鷹が先頭を走り、その後ろに錐行陣で続く涼州軍本軍1万。全ての兵士が手に槍等の長柄武器を持ち、甲冑を纏い、吶喊する。一万の兵士達が、一つの生き物と化して張白騎軍に殺到しようとする。

 

鷹には見えた、もうすぐ接敵する歩兵達の表情が。最早恐れすら通り越して、顔面蒼白。自らを眺めながら、槍を堅く握りしめていた筈の両手に、最早力は篭っていなかった。

 

動物は、逃れられない死に直面した時、肉体は凍り付き、思考が止まる。

 

例えるならば、巨大な雪山で大雪崩に飲み込まれる直前、海で大津波に飲み込まれる直前、巨大な岩の下敷きになって轢死する直前。

 

まさしく、鷹とこれから接敵する敵歩兵達は思い知ったのだ。

 

今から自分達は、死ぬのだと・・・

 

 

 

 

ヒュオン! と、まるで細い竹棒を思いっきり振るった様な音が響くと、其処に現れた光景は、7つの人間の首が胴体から離れていた。

 

鷹の宝刀の薙ぎ払いが、一度に7人の歩兵を屠ったのである。

 

さらに宝刀の返しの薙ぎ払い、また薙ぎ払いと、白影を走らせながら、次から次へと死体の山を築いて行く。

 

まるで無人の野を行くがごとく、鷹と白影の走りは止まるどころか、速度が落ちない。

 

 

 

そして・・・

 

後に続く涼州軍が、さらに張白騎軍を蹂躙してゆく。

 

凄まじい速度で走る涼州軍が駆け抜けた後には、張白騎軍の歩兵達が躯となって転がっていた。

 

上空から俯瞰図で見れば、長方形の陣形を取っている張白騎軍の真ん中へ、三角形の陣形(錐行陣)をした涼州軍が、突き抜けようとしているのが解る。

 

戦局は、最初の激突で最早大局が決しつつあった。

 

鷹自ら軍の先頭を走る時、涼州兵は闘神と化す。

 

並の歩兵や騎兵程度の張白騎軍に、なす術は無かった。

 

 

 

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ヒュオン!

 

また一振りで一気に複数の敵を殺す。また一振り、一振り。

 

だが、怒号と轟音の響く戦場にあって、鷹は殆ど声を発さなかった。発する必要が無いのである。

 

武器を振るうたびに一々声を発する必要等無い。ただ宝刀を振るだけで敵は死ぬ。

 

それだけだ。

 

今、鷹の意識にあるのは、眼前に見えた敵将の姿。

 

(見えた、捕らえたぞ張白騎)

 

まさしく獲物を見つけた鷹(たか)の様に、白影の走りは張白騎への最短距離を走る。

 

捕捉された事に、やっと気付いた張白騎が、後方をどかせて逃げようとする行動を取った、が

 

(時既に遅し、終わりだ)

 

鷹は宝刀を左手に持ち換えると、鞍に付けてある短剣を右手で掴み、それを鷹に背を向けて逃げようとしていた張白騎に思いっきり、投げつけた。

 

兜で頭部を保護していた筈の張白騎の頭に、その短刀は見事に深々と突き刺さった。

 

当然、そんな一撃を喰らえば即死する他無く、馬上の人間が死ねば落馬するのも当然な訳で、其処から一気に動揺が広がった。

 

 

「賊将張白騎、この?令明が討ち取ったぞ!」

 

 

そして鷹の名乗りでさらに全体に知れ渡り、総崩れとなった張白騎軍は、ただただ涼州軍の前に蹂躙されるだけであった。

 

 

 

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あまりにも呆気無い幕切れだった。戦闘が始まって1時間も経たないうちに片方の総大将である張白騎が命を落とし、両翼の副将達もそれぞれ翠と蒲公英率いる軍に散々に打ち負かされ、逃げようとする所を衛固は七が、高幹は所縁がそれぞれ討ち取って、張白騎が引き起こした乱を鎮圧した。

 

太陽が西に消え、空が蒼からオレンジ色に染まる頃まで掃討戦が行なわれ、張白騎が集めた賊兵は、完膚なきまでに叩きのめされた。

 

まだ日を改めて残党狩りをする必要があるのだが、それは最早涼州軍の仕事ではなく、弘農郡や長安、洛陽の守備兵を少し差し向けて捜索、駆除させるだけで十分だろう。

 

夜の帳が降りる頃には、涼州軍は潼関を通過して長安側に戻った。

 

そして戦勝後、戦後処理を済ませたらやる事がある。

 

酒宴だ。

 

 

「まずはお疲れ様、そして敵将を討ち取った功績をたたえて、乾杯。」

 

「「乾杯!!」」

 

 

チンッ、っと杯を鳴らし、注がれた酒を一気に飲み干した。翠や蒲公英はそれぞれの部隊で酒宴中だ。

 

鷹としては、初陣で見事に将軍を討ち取る功績を上げた二人を、直接労いたかったので、3人で酒宴をする様にしたのである。

 

 

「二人共、まさに獅子奮迅の働きだった。俺が張白騎を討って大して時間が経たないうちに副将を討ち取ってくれて、実に楽な戦になった。」

 

「凄いのは鷹さんだと思う・・・」

 

「同感なの・・・ちなみに潼関じゃ無いの。」

 

「寒い冗談だぞ所縁。

 俺と俺の部下達だ。訓練された敵が大軍でも蹴散らす自身はあるし、相手の練度はさほど高く無かったしな。あれくらいは当然だ。

 実際、俺の精兵を預かってそれぞれ思う様に指揮が出来ると、その力がどれほどのものか、まさに机上で思い描く理想以上のものを現実に出来るとは、二人共今日の戦の前までは信じられなかっただろう。」

 

 

こくん、と二人は頷く。

 

七は自らが先頭に立ち、後ろに精鋭部隊が続けば敵の陣形を突破して攪乱させる事は出来ると思っていたが、敵将の居る本陣に一直線に押し通り、敵将を討ち取る、等と言う事が出来るとは、現実に出来るのかどうか不安だったのだ。

 

だが実際に、鷹の重装騎兵部隊の先頭に立ち、軍を率いて衛固の陣に突撃した後、余りにも呆気無い程敵陣が崩れて行く光景に、驚きつつも自分の得物を振るって高速で駆け抜け、必死に逃げる衛固を突き殺したのである。

 

 

所縁は翠率いる騎馬軍によって混乱した高幹の軍の側面に回り込み、高幹の本陣が乱れた所に矢を大量に射かけつつ高速で移動を繰り返し(つまり騎射)、高幹軍はさらに大混乱に陥った。

 

最早体勢を立て直せないと諦めた高幹が部下をおいて逃げた所を、所縁が狙撃して討ち取ったのである。

 

二人共、自分の持ち味を活かした戦いを出来た事が、今後の黄巾党との戦闘でさらに自分達を錬磨しつつ勝利を重ねて行く力となるだろう。

 

 

 

 

 

しかし、黄巾党との戦を少し軽く見ていた鷹に取って、その慢心を戒める報告が翌日、飛び込んで来た。

 

張白騎が存在しながら決死の覚悟で放たれた伝者によるその報告は

 

 

 

 

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討伐軍総大将皇甫嵩、許の戦争で黄巾党に破れ戦死

 

 

 

 

 

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今回も拙作をお読みいただいてありがとうございます。

 

 

今回の戦争ではとにかくさっさと終わらせる電撃戦が書きたかったのですが、自らの執筆能力の無さを思い知らされる結果となりましたorz。

 

 

 

さて次回、いきなり飛び込んで来た皇甫嵩の戦死の報に、鷹はどうするのか。

 

 

初陣で大功を上げた七と所縁に、更なる戦場が待ち受けています。

 

 

それでは、次回でお会いしましょう。

 

 

 

説明
白馬将軍?徳伝第2章2話目です。

張白騎との戦争はどうなるのか。

七と所縁は初陣を飾れるのか。
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コメント
鷹率いる部隊は流石ですね。しかし討伐軍総大将皇甫嵩の戦死の報ですか・・・これで今後どのような方向へ向かうが気になります。(深緑)
BookWarmさん 毎回コメントありがとうございます! まあ、今回はインパクトのある終わり方を目指しました。(フィオロ)
suiseiさん コメントありがとうございます。作者がキングダムファンですのでどうしても色々使いたくなってしまいまして。次回も頑張らせていただきます。(フィオロ)
これはキングダムファンにとっては最高の作品ですね!!  次回も楽しみにしています^^(suisei)
PONさん 毎回コメントありがとうございます。まあ、インパクト優先で考えたら皇甫嵩を殺すと言う事にしました。後、そんなに魅惑の唇様の台詞が出たら使いたくなるじゃないですかwww(フィオロ)
皇甫嵩が…後漢初期三将軍の中でも随一の知略を誇るのに…ところで怪鳥って見るたびに吹くんですがw鷹「ンオフゥ」(PON)
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