PSU-L・O・V・E 【ユエルの居る情景】
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レリクス・ミッションから二週間―――。

ヘイゼルはユエルと過ごす、騒がしい日常にも慣れてきていた。

人の順応能力とは侮れない物だ。

そんな時、不意にヘイゼルの部屋をビリーが訪れた。

「たまには男同士、友情を深めようぜぇ!」

などとビリーは言っていたが、彼の目当てがユエルなのは明らかだ。

「友情ってどうやって深めるッスかね?」

と、訊ねるユエルに、ビリーは近くで買い物して来たと思われるビニールの袋から、何かの瓶を取り出して見せた。

「男の友情を確認するには、これ飲んで語り合うのが一番なんだぜ!」

ビリーが取り出したのは、『ショウ・チュウ』と呼ばれる穀物から蒸留した酒だった。

「また、酒か……」

ヘイゼルは多少、辟易した表情をするが、その誘いを断る事はなかった。

「じゃあ、私は何かおつまみをお作りしますね」

「あ、私も手伝うッスよ〜!」

ジュノーの気を利かせた申し出に、ユエルも同調する。

「Oh! 有り難い! 二人とも悪いんだぜぇ」

ビリーが二人に感謝するが、二人は役に立てる事が単純に楽しそうだ。

「何を作りましょうか……?」

「腕の見せ所ッスね! ……材料があるから、これなんてどうッスかね?」

何を作ろうか迷っているジュノーに、ユエルは彼女のナノトランサーから、材料と基板を検索し指差した。

 

『シュク・リーム』(カスタードクリームをパイ生地で包んだお菓子)

 

「甘くて、とってもスイーツな一品ッスよ!(゚∀゚)」

「待て、それで俺達に何を飲めと言うんだ! Σ(´Д`lll)」

ヘイゼルが突っ込む。

その速さは正に神速!

ユエルが現れてからというもの、彼のこの技術は上がりっぱなしだ。

嬉しくはないが……。

「ヘイゼルさん、洋菓子は苦手だったッスか!?Σ(゚Д゚;」

「酒に合わんと言ってるんだ!(#゚Д゚)」

「じゃあ、これなら……」

代わってジュノーが選んだ物は……。

 

『ダンゴモチ』(餡子を餅で包んだ、ニューデイズに古くから伝わるお菓子)

 

「変わらNEEEEEEEEEEEEEEE―――!」

「和菓子も駄目ッスか!? Σ(゚д゚lll)」

「でなくて、甘い物から離れろよっ!(#゚Д゚)」

そのやり取りに、ビリーが呆れた表情を見せている。

「折角、わざわざ二人が作ってくれてるのに我侭言うなよなんだぜ?」

「良し、解った。じゃあお前がそれを食え! 俺は自分で選ぶ!」

結局、ヘイゼルは『スモークドッグ』(燻製肉を挟んだパン)と『スパイシア』(モトゥブの伝統的な煮込み料理、辛い)を作るように二人に命じた。

後に、本当に自分が『シュク・リーム』と『ダンゴモチ』を食べさせられる羽目になるとは、その時のビリーは知る由しもなかったのである。

「マジでっ!? Σ(´Д`lll)」

 

 

場所を移し、二人はヘイゼルの部屋で酒盛りをする事にした。部屋といっても間仕切りで仕切られただけで扉も無い部屋なのだが……。まあ、そんな事は関係なく、酒が入れば取り留めの無い話が続くのは世の常である。

「そう言えば、お前の部屋ってベッドが一つしかないよな?」

ふと部屋を見渡し訊ねるビリーに、ヘイゼルは「ああ」と頷いた。

「まさかテメエ……家主の立場を盾に、ユエルちゃんと同衾しているんじゃあるまいなっ!」

「なわけあるか! 床で寝てるよ」

その言葉にビリーが「ほう」と感心する。

「お前がか? 偉いな」

「何で家主の俺が……あいつがだよ」

「はぁ!?」

ビリーが素っ頓狂な声を上げた。

「何だそりゃぁ! どんな関白宣言だよ! ダセエぜ、イケテねえぜ、ロックじゃねえぜ!!」

「それが嫌なら俺の所に居る事はねえ! つーか、何でロックが関係あんだよっ!」

……等と口論になってしまった。

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数日後、街へ出たヘイゼルは、通り掛ったショッピングモールに大手のインテリア・ショップがあるのを知り、ふらりと立ち寄ってみる事にした。

陳列された低反発枕を手に取ったり、買いもしないカラーボックスを眺めているだけで、良い時間つぶしになる。

そんな中、ヘイゼルは通り掛ったソファー売り場で、ふと足を止めた。ずらりと並ぶ様々なソファーの金額表を眺め、ヘイゼルは呟いていた。

「意外と安い物なんだな……」

ソファーの中には、ベッドにも転回できるタイプのソファーベッドもあった。

(そう言えば部屋には、こんな感じでゆったりできる椅子がなかったな……どうせだし買っていくか、あいつのベッド代わりにもなるし、丁度良いだろう)

「……うん、ついでにだ」

ヘイゼルは、あくまでそこを強調し店員に声を掛けた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ただいま……っと」

「お帰りなさーい!」

「お帰りなさーいッスよー!」

ヘイゼルが部屋に戻ると、留守番をしていたジュノーとユエルの出迎えを受けた。二人の元気な様は子犬のようである。毎度の事だが、これには慣れない。

「ヘイゼル様もお戻りになられたので、早速夕飯の支度に掛かりましょうか」

「了解ッスよ〜!」

この二人は本当に息が合っている。

「じゃあ、今日の夕飯は―――!」

「甘いものは要らないからな?」

「……( ゚д゚ )」

ヘイゼルに機先を制され、ユエルは表情を失っていた。その顔を見て、ヘイゼルが『勝った』とほくそ笑む。

すごすごと夕飯の準備の為、キッチンに向かうユエルをヘイゼルは呼び止めた。

「あ、待て。土産を買って来てたんだ」

「お土産……ッスか?」

「ああ、リビングが殺風景だったからな」

ヘイゼルはナノトランサーに収納していた、ソファーを室内に転送した。

「これは……ソファーッスね?」

「それだけじゃない。ここをこうすると……」

ヘイゼルがソファーの下部に付いたスイッチを押す。するとソファーは自動で変形を始め、数秒でベッドに形体を変えた。

『おー』

と声を上げ、ユエルとジュノーは関心している。

「こんな感じでベッドにもなる。……お前が寝る時に使え」

「了解ッス〜……って、これ私が使っても良いッスか!?」

ヘイゼルの言葉を理解し、ユエルが大袈裟に驚く。

「わぁ、良かったですねえ、ユエルさん! ユエルさんは今まで、時代錯誤も甚だしく、身分制度の最底辺の方々のように、床で眠っておられましたからねぇー」

ニコニコと微笑みながら毒を吐く、ジュノーに目を移す。

(俺に対する嫌味なのか、ユエルに対する嫌がらせなのか!?)

本当にパートナーマシナリーなのかどうか疑いたくなるほど、彼女の言葉は辛辣だ。

だがジュノーは悪気等無い様にニコニコしているし、ユエルも全然気にせずに、ジュノーに「ありがとー」と礼を言っている。

「ヘイゼルさんも、有難うッスよ〜!」

ユエルがヘイゼルに向き直り、軽く頭を下げながら礼を述べた。本当に嬉しそうな笑顔である。予想以上の反応にヘイゼルは気恥ずかしくなってしまった。

「か、勘違いするな! 買ったソファーが、たまたまソファーベッドだっただけだ! 別にお前の為に買ったわけじゃないからな!」

その空気が耐えられず、ヘイゼルは冷たく言い放つと、ふいっと外方を向いてしまった。それを見たジュノーが、にこやかな笑顔で「うわぁ……」と呟いている。

(ヘイゼル様……そのテンプレな反応はイロイロとがっかりです)

多分、酷い事を考えているんだろうな……と、ヘイゼルは内心感付いていた。

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夕食を終えた後は特にする事もなく、ヘイゼルはソファーに仰向けになり雑誌を読んでいた。不意に生じた欠伸を噛み殺し、時計を確認すると時刻は深夜に差し掛かっていた。

「もう、こんな時間か…そろそろ寝るか……」

「あ、じゃあ私もそろそろ寝るッス〜」

ジュノーと一緒にテレビを見ていたユエルも、ヘイゼルを真似て寝ると言い出す。

キャストは本来、睡眠を必要としないよう造られているのだが、スリープモードに切り替え、頭脳体を休ませる事でデータの最適化や整理を円滑に行う事ができるのだ。

勿論、それだけが理由では無い。そこには、より『生命体』らしさを求めたいという、キャストの無意識の思いもあるのだろう。

二人は就寝の準備を始めた。

ヘイゼルは部屋に移動すると、シャツと靴を脱ぎ捨て、ベッドに横になり目を閉じる。暫くするとヘイゼルの耳に何かが床を引き摺る耳障りな音が聞こえて来た。

目を開けるとユエルが例のソファーベッドを、一生懸命運ぼうとしていた。黙って見ていると、彼女はそれを引き摺って、ヘイゼルのベッドのすぐ脇に設置する。

「ふぅ……これで良しッスね」

「待て、これは何のマネだ?」

ヘイゼルの質問にユエルはキョトンとした顔を見せた。

「何のって……寝る準備ッスよ? ベッド使って良いって、ヘイゼルさん言ったじゃないッスか?」

「言ったが、何で俺の隣に置く!?」

「今までだって此処で寝てたじゃないッスか?」

何を今更という表情のユエルにヘイゼルは口篭る。

確かにヘイゼルとユエルは一緒の部屋で寝起きしている。ユエルを最初に部屋に泊めた時は、風邪をひいていたヘイゼルの看病をするという大義があった。その後は済し崩し的に、一緒の部屋に寝る状況になっていたのだが、それでもユエルが床に寝ていたので、取り留めて気にしていなかった。

改めて隣り合ったベッドで寝るという事に抵抗があるが、当の本人は全然気になっていない様子だ。

(これでは俺だけが意識しているみたいじゃないか!)

ヘイゼルはそれが癪に障った。

「ヘイゼルさん……何で顔赤くしてるッスか? また風邪ッスか?」

(クッ! 天然め……だが、そっちがその気なら……!)

「クソッ! もう良い、俺は寝るぞ!」

「変な、ヘイゼルさんッスね〜?」

何を怒っているのかがユエルには解らず、背中を見せるヘイゼルに眉を顰めていた。

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寝入りと寝起きは良いつもりだった……。

だがその日、ヘイゼルは真夜中に目を覚ましてしまった。

ぼんやりとした月明かりが差し込み、部屋を蒼暗く照らしている。

起き抜けの頭が夢と現の境を彷徨い、音の無い世界を揺蕩う(たゆたう)。

ふと、横を見ると、愛くるしい少女の顔があった。

蒼白い月明かりを受け、微動だにしない彫像を思わせる寝顔……。

全てが幻想的な光景の中で、ふと彼女も現実では無いのではないかという思いが過ぎり、ヘイゼルは彼女の存在を確かめようと、そっと手を伸ばし頬に手を触れようとし……たところで我に返った。

(待て! 俺は何をしている!?)

バクバクと早鐘を打つ心臓を押さえ付け、ヘイゼルは無理矢理自分を落ち着かせようとする。

(こいつ相手に何をやっている! 落ち着け、落ち着いて眠ってしまうんだ!)

動揺を抑え、再び眠ろうとはするのだが、昂ぶってしまった神経は中々平常に戻らない。

ヘイゼルは悶々と時を過ごし……。

「ふぁ〜……あ〜、よく寝たッスね〜」

翌朝、日の出と共に再起動したユエルは大きく伸びをした。床からベッドに代わったお陰か、朝一でもフレームの動きもスムーズだ。

(うん、快調、快調ッス〜♪)

ふと横を見ると、ヘイゼルは既に目を覚ましており、上半身を起こしてベッドに座り込んでいた。彼が早くから起きるのは珍しい事だ。

「ヘイゼルさんおはようッスよ〜……今日は早いッスね?……って、ヘイゼルさん、どうしたッスか!?」

目の下に濃い隈を作ったヘイゼルが、力無い挨拶をユエルに返した。

説明
今回から表題の方を略称とし、サブタイトルを加えていきます。

そして物語は此処からが本番!

……に、なるのですが今回はイキナリの息抜き回です (ノ∀`)

EP07【ユエルの居る情景】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

レリクスでのミッションから二週間……。

ヘイゼルの周りは相変わらずで、ユエルの記憶も戻る様子はなく、賑やかながら穏やかな日々が続いていた。

Phantasy Star Universe-L・O・V・E

それは戦火に彩られた“L・O・V・E”の物語……。

読んで頂ければ幸いです。

登場人物紹介を作りました!
でも此処ではSS(スクリーンショット)の使用はご法度なので、興味がある方は此方をどうぞ!

http://moegami.moe-nifty.com/blog/2010/09/psu-love-4903.html
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