大好きだから… 〜They who are awkward〜 第8話
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「じゃあ茉莉子行ってくるな」

 

「うん、帰りは遅くなるの兄さん?」

 

「遅くても夕方までには帰ってくるよ。勉強もしなくちゃいけないし。いってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

次の日、俺は先輩がいる病院に行ってみることにした。

 

茉莉子は、今日は友達の家で勉強会があるらしい。

 

昨日の影はどこへやら、いつもの茉莉子だった。

 

多分最近の俺は体調を崩し過ぎているから茉莉子に心配をかけすぎて、昨日の行動をとってしまったのだと思う。

 

多少引っかかる点はあるがそう結論づけた俺は家を出た。

 

 

 

面会謝絶と先生が言っていたらしいので会える可能性はほぼ無いが、それでもこうでもしないと俺の気が済まないのである。

 

行っても時間の無駄になるだろうことは予想できたので誰も誘わず、俺一人で向かった。

 

 

 

病院に着き、早速確認をするために受付に向かった。

 

「あ、すいません知人の病室を探しているんですけど……」

「はい、お名前と何科であるか教えてください」

「名前は佐久島澪で、申し訳ないんですけど何科かわからないんです」

「佐久島さんですね少々お待ちください」

 

 

少しの間待っていると、

 

「はいお待たせしました。えーとですね、佐久島さんは面会謝絶となっていますので家族の方以外はちょっと……」

 

「やっぱり…ダメですかね?」

 

「すいません。こればかりは……」

 

「ごめんなさい無理を言ってしまって。ありがとうございます」

やっぱり無理か。まぁしょうがないか……

 

 

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「君の名前は?」

 

声をかけられ後ろを振り向くと男の人が立っていた。

 

誰だろうか。困惑しつつ俺は答えた。

 

「神原悠樹と言います。失礼ですけどあなたは…?」

 

「そうか君が………。悠樹君今時間はあるだろうか?」

 

「時間はありますけど……えっと、その前に貴方はどちら様でしょうか?」

 

「あぁ、すまないね。私は澪の父だ。まぁ立ち話もなんだ座って話さないか?」

 

俺と澪先輩のお父さんは待合所に向かった。

 

 

 

「飲み物はお茶でいいかい?」

「あ、お構いなく大丈夫ですから」

 

そう言ったにもかかわらずお茶を差し出してくる。

 

これは受け取らないと失礼だろう。

 

「ありがとうございます」

 

澪先輩のお父さんは缶コーヒーを買って席に着いた。

 

「言い忘れていたが私の名前は佐久島亮司だ。よろしくな悠樹君」

 

「えーと、よろしくお願いします。

あの…すいません、今さらなんですけど澪先輩のところへ行かなくても良かったんですか?」

 

澪先輩のお父さんに尋ねた。

 

「澪には妻がついているから平気さ。私も仕事の都合が付いたからようやくこっちにこれたのさ」

 

「そう…なんですか」

 

「ふふ、娘の一大事にもかかわらず仕事をしている父親なんてって思ったかい?」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「実際そうだと自分でも思うよ。だが私にも責任があるし、勝手に切り上げてしまっては大勢に迷惑をかけることになる。まぁそれも言い訳に過ぎないのだろうがね」

 

「いえ、それが普通なんだと思います。ただ、一般的な人よりそれが重いんだろうと思います」

 

資産家、と澪先輩が言っていたのを思いだしていた。

 

「そう言ってくれるなら助かるよ。ただそうなのだとしても今も昔も父親失格ということは変わりはしないがね」

 

ふーっ、と息をついていた。

 

その顔には仕事という名の責任と良き父でありたいという願望の間で苦しんでいるのが垣間見えた。

 

 

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「澪先輩の容態はどうなんですか?」

 

「そうだね、妻の話によると手術自体は成功している。

だが手術から、3日が経ち未だに意識を取り戻さないらしい」

 

 

「命に別状はないんですよね?」

 

「その心配はないさ。ただ成功したとは言え、危ない状況だったのは確かだったのに加え意識も戻らないこともあり、しばらくは様子を見ようということらしい」

 

が、命に別状がないことに安堵の表情を浮かべていることを窺わせる。

 

「そうですか。でも良かったです、澪先輩が生きていてくれて」

 

「私もそう思うよ。まったくもって澪を襲った犯人は許せない。が、実は少し前の澪はそれこそ自分から命を絶ちかねないように見えるときがあってね」

 

ふと、その表情に陰りが見えた。

 

「私は幼い頃の澪に「何においても一番であれ」、と言ってしまったんだ。

仕事で不在がちの私達がいなくても常にトップでいることによって強くなってもらいたかったし、

なによりそんな人間は他人から好かれるだろうし、友達がたくさん出来るようになると思ってね」

 

 

そこで苦笑する。

 

「澪は確かに私の言ったこと守り、努力を続けトップを走り続けた。

だが皮肉にもそれは他者との差を広げ、結果としてあの子をひとりぼっちにしてしまった。

そのせいで苦しんでいる澪を見てしまった私は、それでも何も出来なかったよ。

今さら言ったこと覆すなんてしたら、あの子のこれまでがなんだったんだということに成りかねない。

ただひたすらにあの子に友達が出来ることを祈っていたよ。そして去年のことだ」

 

澪先輩のお父さんは微笑んだ。

 

「私達が自宅に帰ったときはご飯を一緒にとっているんだが、それまでの澪は学校のことには一切触れず当たり障りのない話をしていたがいきなり学校の話をするじゃないか。

そこで悠樹という子のこと、その子の友達と仲良くなったこと、楽しそうに話してくれてな。

私は自分の部屋で年甲斐もなく目から涙をこぼしてしまったよ」

 

澪先輩のお父さんは俺のほうに顔を向け真面目な顔をする。

 

「どういう経緯であれと仲良くなったのかは知らないし詮索するつもりもない。

だが、これだけは言わせて欲しい。ありがとう、本当に感謝してもしきれない」

 

頭を下げられる。

 

「いや、いやいや頭は下げないでくださいよ。俺は別に特別なことはしてませんって。

逆に俺のほうがラッキーなんですよ?あんなに美人な澪先輩と知り合えたなんて、

俺の人生の大半の運を使い果たしちゃってますって」

 

「だが、君は外見に釣られたわけではないだろう?

澪の話しぶりと今、話していて感じたが君はそんな人間ではない」

 

「買いかぶりですって。俺はそんなに上等な人間だとは思ってませんから」

 

「それは君が自分を過小……いや、これ以上は多分何を言っても不毛なんだろうな。なんだかそんな気がするよ」

 

澪先輩のお父さんは瞬時に俺の性格を悟ったようだった。

 

「ええ、そうだと思います」

 

俺は笑いを含ませながら言った。

 

 

 

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今日は時間を取らせてすまないな」

 

俺が病院から出口に向かおうとする途中。

 

 

「いえ、澪先輩の容態を聞かせていただいたし、お話も出来て嬉しかったです」

 

「仕事人間の愚痴と父親失格な奴の昔話だけだがね」

 

自虐めいた笑みを浮かべて言った。

 

「それでもです」

 

俺は言った。

 

「本当は君を澪に会わせてあげたかったんだが……」

 

「いえ、気にしないでください。意識を取り戻したらまた来ますよ」

 

「ああ、そうしてくれると私も澪も喜ぶよ。意識が戻ったら君に一番に連絡するよ」

 

「ありがとうございます。では俺はここで。澪先輩にみんな待ってるって伝えてください」

 

「必ず伝えるよ。また会って今度は普通に話が出来ること楽しみにしている」

 

澪先輩のお父さんは自分の妻と娘が居る病室に向かった。

 

一方俺は帰路に着くべく病院を出た。もう、日が傾いていた。

 

その最中、公園の横を通って帰っていた。

 

「公園か………」

 

何気なく覗いてみると二人の子がボールで遊んでいた。

 

一人の子がボールを強く投げすぎたのだろうかもう一人の子が上手く取れずこちらに転がってくる。

 

俺はそのボールを拾うと走ってきた二人に渡そうとする。

 

 

「「ありがとーおにいちゃん」」

 

 

二人を見て驚く。同じ顔だ。

 

「二人とも暗くなったら危ないから早く帰るんだぞ」

 

「おかあさんがむかえにくるからへいきだよー?」

 

「そうなんだ。じゃぁ今みたいに飛ばさないように注意するんだぞ?」

 

 

「「はーい」」

 

 

二人がを返事する。どうやら双子の姉弟のようだ。

 

「まったく、あんたがうまくきゃっちできないからでしょー?」

「おねえちゃんがつよすぎるだよぉ」

「おとこのこなんだからしっかりしなさいよー」

「うぅぅぅ………」

「まぁいいわ。わたしがついてるからあんしんしなさい」

「ぼくだいじょうぶだもん。おとこのこだからおねえちゃんいなくてもへいきだもん」

「いい?くちごたえしないの。わたしがおねえさんなんだから。わたしのほうがえらいの」

 

「仲のいい姉弟だなぁ」

つい口からこぼれると、二人が言い争う声を背に俺は再び家へ向かう。

 

 

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おねえちゃん………か。

 

「もしいるなら……会いたいな」

 

昨日茉莉子に否定されたばかりだが、それでもまだ俺は納得していなかった。

 

証拠が欲しかった。いないならいない、いるならいるという決定的な。

 

そうでないと足が宙に浮いているようでなんとなく不安なのである。

 

考えているうちに家に着く。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー」

 

挨拶を返してくれる人がいるというのは嬉しいものである。

 

「佐久島先輩に会えたの?」

 

「いや、やっぱりまだ面会謝絶だってさ」

 

「そっか……元気だして兄さん。きっとすぐ会えるよ」

 

「ああ、そうだよな」

 

 

 

そして茉莉子が既に用意していた晩御飯も食べ終わり、ゆっくりしていると、

 

「ねぇ兄さんところで……勉強はしなくていいの?明後日からだよテスト」

 

 

………………………忘れていた。

 

いや、だってしょうがないじゃないですか?

 

今日は色々あったし。うん、しょうがない。

 

 

「勉強はしなくちゃ駄目、です」

 

 

「……………はい」

 

怒られた。俺は渋々部屋に行き勉強の用意をする。

 

あーテスト、いやだなぁ……………

 

 

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*** あとがき ***

 

8話です。

なんだかんだで続いてます。

実は自分が投稿しようと思ったのは友達に触発されてなんですよねえ。

そんな私が出している小説(笑)を読んで楽しんでいただけているのなら幸いです。

この先も誠意創作中ですのでもう少しお待ちくださいませ

説明
日曜日。 悠樹はあるところへ向かうことにするのであった
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コメント
コメントありがとうございます。今後も精進していきます(みーくん)
伏線が見え隠れで今後の展開が楽しみです。 妹は天使。(sase)
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