真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜 
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                            真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜

 

                                 第五話 深紅 後篇

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」

 

 紅と漆黒、二つの色の武人は、全く同じリズムで肩を揺らして対峙していた。

 恋はその美しい顔に澄んだ汗を滴らせ、汗を掻けない黒狼は、口を大きく開いて長い舌を出している。

 既にその斬り合いが何十合に及んでいるのか、当の二人にすら分かっていなかった。

 それぞれの斬撃を、薙ぎ、払い、往なし、避け、互いに一度の決定打も許さぬまま、四半刻以上の間、同じ事を千変万化の軌跡を描いて繰り返す。

 

 その光景は余りに峻烈で、余りに激しく、余りに静かで、何より美しかった。

 

 だが、それもそろそろ限界が近い。

 二人は、命を糧に舞う卓越した踊り手同士ならではの阿吽の呼吸で、敏感にその事を察していた。

 

 だから、ただ待っている。

 

 互いの呼吸が、意識が、刃が、肉体が、静かに流れる刻の一点に直列する、その瞬間を。

 

 シンと静まった空気が、二人に纏わり付くあらゆる柵(しがらみ)や雑念を洗い流し、周囲が真っ白な空間に変わった様に感じられた刹那、二人は同時に跳躍し、その刃と肉体を交差させた。

 

「見事・・・・・・!」

 

 一瞬の静寂の後、土埃を上げて大地に倒れ伏したのは、黒狼だった。

 

 恋の最後の剣閃は、正に“見事”としか言い様がなかった。

 フェイントなどと言う言葉では到底言い表せないその刃の軌跡は、まるで“予めそう定められた”様に黒狼の刃を寸分だけずらして軌道を外させ、蝶が風に遊ばれながら舞う様な優雅さで、黒狼の脇腹を切り裂いたのである。

 

 黒狼にとって、敵の剣を“美しい”と感じたのは、戦う為だけにこの世に生を受けてから今迄で、初めての経験だった。

 

 正直に言えば。

 

 脇腹を斬られた瞬間は、その軌跡の描き手である少女に、完全に魅入っていた。

 

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「佳キ戦デアッタ・・・・・・。惜シムラクハ、勝者ノ貴公ニ、コノ首ヲ呉(ク)レテヤレヌ事ヨ・・・・・・」

 黒狼はそう言うと、己を恥じる様に口を歪めた。

「佳イナ、人間ト言ウ生キ物ハ・・・・・・。タッタ一ツノ“約束”デ、己ノ運命スラ覆ス事ガ出来ル・・・・・・。定メラレタ“チカラ”ノ限界スラモ」

 黒狼は、遠い空を見ていた蒼い瞳を恋に向けた。

「サァ、止メヲ刺セ。武人ニ余リ恥ヲ晒サセルモノデハナイ」

 

 恋は黒狼の言葉に小さく頷くと、支えにしていた方天画戟を再び肩に担ぎ上げた。

 

 黒狼は、自分を破った美しい戦神の姿を眼に焼き付けて静かに瞼を閉じた。

 瞬間。

 

「黒狼―――――!!」

 

 聞き慣れたしゃがれ声が、黒狼の安息の時を打ち破った。

「全ク・・・・・・。“雑食ノ奴等”ハ、ドウシテコウ無粋ナノカ・・・・・・・」

 黒狼はそう呟いて、獲物を振り上げたままの体勢で声のした方を見つめていた恋に、再び視線を向けた。

「済マヌナ、構ワズニヤッテクレ」

 恋は静かに方天画戟を下ろすと、フルフルと“触覚”を揺らして首を振った。

「何故ダ!?マサカ、コノ後ニ及ンデ情ヲカケルトデモ言ノカ!?」

「違う・・・・・・」

 恋は、黒狼の悲痛な叫びに答えて、声の方を指差した。

「ご主人様が、一緒・・・・・・」

 黒狼が首を擡げ(もたげ)て見遣ると、確かに恋の言う通り、黒狼の馬の横を黄金の魔人が凄まじい速さで並走している。

「きっと、何かあった。ご主人様が良いって言うまで、待つ・・・・・・」

 

 恋はそう言うと、方天画戟を肩に担いだまま、奇妙な組み合わせの軍団が向かって来る様を静かに見つめた。

 

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「黒狼!!」

 魔魅は、転げ落ちんばかりの勢いで馬から降りると、黒狼を抱え上げて馬に乗せた。

「離セ、魔魅!俺ハ・・・・・・!!」

「何も言うな!!」

 魔魅は、大声で怒鳴り、黒狼の言葉を遮った。

「奴らとは、停戦した。お前がここで死んだら、誰が武で饕餮(とうてつ)様を支えるのだ!」

「シカシ・・・・・・!!」

 黒狼が恋に視線を投げると、恋は小さく微笑んだ。

「おあいこ・・・・・・」

「ナニ?」

「恋も、一回負けた。だから、おあいこ・・・・・・」

 恋は、茫然とする黒狼の眼を、正面から見返して言った。

「次で、決着・・・・・・」

 

 黒狼は、恋の瞳からその言葉の真意を見て取り、低く唸った。

 将は時に、己の誇りに殉じるよりも、泥水を啜って生きねばならない。

 軍を率いるとはそう言う事。

 だから、『勝負は預けた』と料簡(りょうけん)して、ここは引け。

 恋の瞳がそう言っているのを、彼女と命を張り合った黒狼は、確かに感じ取ったのだった。

「無念・・・・・・」

 黒狼はそう呟くと、力を抜いて魔魅に身を委ねた。

 

「どうして、逃がすの?」

 恋は、歩み寄って来た一刀に、その紅い瞳を向けて尋ねた。

「ちょっと、確かめたい事があったんでね。まぁ、この程度の数の敵を見逃がして確証が得られるなら、“トントン”てとこだな」

 二人がそんな会話をしている間も、マシラの大軍が二人の周りを、まるで岩を避ける川の水の様にして左右に別れながら、峡間に向かって走り去って行く。

 

「さて、じゃあ、俺はもう一仕事してくる。恋はここで、ねね達が来るのを待っててくれ」

 恋は、そう言って罵苦の大軍の後を追って走って往く一刀の背中を暫く見つめていたが、やがてストンと大地に胡坐をかいて、空を見上げた。

 

「疲れた・・・・・・」

 

 恋はそう呟いて、少しだけ空に笑いかけた。

 

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「こいつはデカい・・・・・・」

 一刀は、無数の低級種たちが吸い込まれて行く空に浮かんだ巨大な魔方陣を見つめて、そう呟いた。

 龍王千里鏡が、随分前から視認出来ない程の速度で、無数の数字や古代文字を吐き出しながら解析を行っているが、未だに終わる気配が無い。

 何十にも重ねられた円状の外周は、それぞれが違う方向に違う速度で絶えず動いている為に、パッと見れば、精巧な絡繰り仕掛けの大時計の様だ。

 

「やっぱり、西洋魔術の影響がある、か」

 漸(ようや)く解析を終えた龍王千里鏡が導き出した結果に、一刀はひとりごちた。

 上空に鎮座する、直径二里にも及ぼうかと言う巨大な“外法”の産物を構成する呪術理論の内の約三割が、東洋のものでは無いというのである。

 しかもその事実は、エッシャーの騙し絵の様に、複雑な術式の中に巧妙に隠されていた。

 恐らく、起動中の術式を念密に解析しなければ、卑弥呼や貂蝉でも見抜くのは難しいのだろう。

 

「また、随分と凝った事するもんだ。最も、そのおかげで“脆い”場所が出来ちまったんだろうけど・・・・・・」

 龍王千里眼のターゲットサイトが赤く差し示す外周部分を見つめながら、一刀は、最後の罵苦がそこを通り抜ける瞬間を、静かに見守った。

 

「飛雲雀!」

 

 巨大な魔方陣が、全ての罵苦を呑み込んで活動を停止しようとしたその刹那、一刀は言霊を込めた叫びを発して跳躍した。

 跳躍が最高到達点に届こうとした瞬間、皇龍鎧の肩甲骨付近の装甲が上下に開き、そこに、漏斗(じょうご)を逆さまにした様な形状の噴射口を持った、一対のバーニアスラスター、『雀王翼』が出現する。

 

 雀王翼は、賢者の石を介して流れ込む一刀の膨大な氣の力を、白く輝くフレアを伴った推進力に変えて、一刀の身体を更なる高度にまで押し上げた。

 

「吼えよ青龍!龍王脚!!」

 

 空中で体勢を変えた一刀が、蒼い焔を纏った右足を魔方陣に叩きつけた瞬間、爆音と閃光が、蒼穹を満たした。

 

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「いやぁ、一回言ってみたかったんだよね。この台詞♪」

 一刀は、着地するなり満足げにそう言うと、何事も無かったかの様に悠然と流れる雲を見遣った。

 

「さぁ、帰るか」

 

 一刀は、今朝とは違う穏やかな気持ちで、今朝と同じ道を走り出した。

 

「おっ!帰って来たみたいやで!」

 土煙を上げて向かって来る黄金の鎧を纏った人物をいち早く見つけた霞は、嬉しそうに手を振って叫んだ。

「おう、霞!久振りだな!それに祭さん、穏も!」

 一刀は速度を緩めながら“鎧装”を解くと、懐かしい顔ぶれに手を上げて答える。

「おぉ!鎧が消えるとは、面妖な・・・・・・」

「はぁ〜、どんな技術なんでしょうねぇ〜。考えただけで、身体が火照っちゃいますぅ〜♪」

「なんや、便利なもんやなぁ!」

 

 一刀は、相変わらずの反応を見せる三人の顔を見渡して、嬉しそうに微笑んだ。

「ただいま、みんな!相変わらずみたいで嬉しいよ」

「応、おかげ様でな!お主の方は、また随分と男振りが上がった様で、何よりじゃ!」

「そうですね〜。早く、新しい天の国の知識を教えて頂きたいです〜♪」

「せやけど、久々の大戦で一刀にええトコ見せられる思て張り気っとったのに、ちょーっとばかし拍子抜けやわ〜」

 豪快に笑って一刀の背中を叩く祭と、息を荒げながら身体をくねらせる穏を余所に、霞は頬を膨れさせている。

 

「そんな事ないさ。霞や皆が、あの絶好の時機に来てくれたから、あいつらを追い払えたんだ。十分大活躍だと思うぞ?」

「そ、そかな?そんなら、まぁ、えぇか・・・・・・」

 

「おい、張遼!いつ私を紹介する気だ!」

 

 一刀に頭を撫でられて頬を染める霞の後ろから、女性の大声が響いた。

 

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「霞、そちらは?」 

 一刀は、霞の後ろに仁王立ちした、銀髪の女性に視線を向けた。

「なんや、もう少し浸らせてくれてもええやんか。相変わらずいけずなやっちゃなぁ」

 霞はやれやれと言う様に肩を竦めると、身体を斜に向けて一刀の視界を開けた。

「こいつは華雄、ウチの元同僚や」

「北郷殿、直接お会いするするのは初めてになるな。元董卓軍驍騎校尉、華雄だ」

 銀髪の女性はそう言うと、包拳の礼をとって深々と頭を下げた。

 

「華雄って、あの水関で鈴々と戦った!?生きてたんだな・・・・・・」

「うむ。落ち延びたあと、部下達と共に隊商の用心棒などをして口を糊していたのだが、半年程前、成都の市で董た・・・・・・、ゲフンゲフン。月様と詠に偶然に再会いたしてな。月様のお取り成しで士官が叶い、今は巴郡の警備隊長として出向している身なのだ」

 

「そうか。だからここに来たんだ」

 一刀が得心して相槌を打つと、華雄は頷いて言葉を続けた。

「あぁ。主の命の恩人と戦友の危機と聞いて、馳せ参じた次第だ」

「主の?あぁ、その事か。もう随分昔の事だし、そんな・・・・・・」

「いや、命に関わる程の恩義に、昔も今も無い。北郷殿、改めて礼を言わせてくれ」

 一刀は照れ臭そうに頬を掻いて華雄の頭を上げさせながら、ふと気が付いた事を口にした。

「でも、巴郡の警備隊の華雄は兎も角、魏と呉の重臣の皆が、どうして此処に?」

 

「おぉ、三国の共同事業である街道整備で蓄積された技術を各国で活かす為に、我が孫呉からは穏が、曹魏からは稟が、蜀の街道筋と宿場町を視察させてもらう事になっておってな」

「その護衛として、祭様や霞ちゃんに付いて来てもらってたんですよぉ〜」

 祭の言葉を引き継いだ穏が、のんびりと締め括った。

「そしたら今朝、恋の部隊の鎧着た伝令が、ウチらの逗留しとった宿に泡食って駆けこんで来てな?ここで罵苦の大軍と恋の部隊が大立ち回りしとるから、加勢せぇって。せやから、途中で費?っちや高順の部隊と合流して駆け付けたんやけど・・・・・・。何や、一刀の勅命やって伝令のおっちゃんが言うてたけど、違うんか?」

 

「それは、私が御説明致します」

 

 一刀が霞の疑問に答えようとすると、後方から聞えて来た声がそれを遮った。

 

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 両腕の裾を顔の前に合せて進み出て来たのは、費?こと聳孤(しょうこ)だった。

 その横には魏の軍師、郭嘉こと稟が付き添っている。

「ショウコ・・・・・・。それに稟、久し振りだな」

「ええ、一刀殿。よくお戻りに。しかし、積もる話は後ほど・・・・・・」

 一刀はその言葉に頷くと、聳孤に視線を戻してその言葉を待った。

 

「伝令の内容を、我が君の勅命と致しましたのは、私の独断で御座います」

 聳孤はそう言って息を一つ吐き、再び口を開いた。

「罵苦の総数、凡(およ)そ四万。しかも、統率された軍勢であると聞いた時点で、出城に残った兵に警備隊の兵力を足しても、約一万五千の兵力では、とても万全とは到底言い難い、と、私は考えました。罵苦の将がどれ程の力を持つのかも、正確な人数も把握出来ておりませんでしたので・・・・・・」

 

「確かに、それは大きな不安要素ですね。現に、罵苦の将の一人は恋殿と互角に戦い、もう一人は、妖術を以て一瞬で本陣の守りを崩したと言う話でしたし・・・・・・」

 聳孤の説明に自身の見解を重ねた稟の言葉に、穏も大きく頷いている。

「はい。恋様や華雄様の武で互角に戦う事が出来ても、追い詰めた後の“詰め”が甘くなってしまったら、手痛い逆撃を喰らいかねないと言う不安もありましたので」

「そうですね〜。そこまで考えると、同じだけの兵数の確保が難しい場合、恋ちゃんのずば抜けた武力を計算に入れても、優秀な将が率いた精兵が、あと一万は欲しいですねぇ〜」

 さっきとは逆に、今度は穏の言葉に、稟が頷いた。

 

「しかし、我が蜀の本国である成都は山岳地帯に囲まれております故、緊急の増援を要請をするにも、兵を発するにも、時間が掛り過ぎます。他の郡にしても、時が掛るのは同じ事ですし、小規模に散らばっている兵を同じ場所にすぐ集めると言うのは、やはり困難ですから。そこで、魏と呉の臣将から成る視察団の方々が、?陵からこの巴郡に入られると聞いたのを思い出しまして・・・・・・」

「成程。他国の兵に、速やかに蜀領で軍事行動を取る事を決断させ、後事にも響かぬようにする為に、一刀殿の名前を出した、と」

 萎んでしまった部分を引き継いだ稟の言葉に、聳孤は悲痛な面持ちでコクリと頷いた。

 

「如何様(いかよう)なお叱りも、お受けいたします」

 

 聳孤はそう言って、一刀と諸将を見渡して平伏した。

 

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「だ、そうなんだが・・・・・・」

 一刀は、その場に居並ぶ将達の顔を見遣って意見を求めた。

 事が国の枠を超えたものである以上、一刀が独断で採決を下す訳にもいかないからだ。

「ウチは、別にかまへんと思うで?華琳が居たら、やっぱし“往け”って言うてたやろし・・・・・・」

 霞はそこで、平伏している聳孤をそっと見遣った。

「何よりウチは、肝の据わった奴は好きやからな」

 

「そうですね。どれ程大胆な策を練れても、命を張って実行に移す胆力がなければ、軍師とは言えません。彼女は、三国を巻き込んだ大博打を見事に成功させた。同じ軍師として、尊敬に値します。事の良し悪しは、一刀殿のご判断にお任せしましょう」

 稟も、霞に同意してそう言った

 

「儂も、魏の連中と同じじゃな。そもそも、北郷が命の危機に瀕しておった時にのんびり街道筋を旅していたなどど知られたら、蓮華様や小蓮様に何と言われるか・・・・・・。のう、穏?」

「はい〜。どちらかと言えば、知らせてもらえて助かったくらいですからね〜」

 穏は、祭の言葉に頷いて、ほにゃっと笑った。

 

「よし!じゃあ、この件は不問。決定!」

 一刀はそう言うと、平伏したままだった聳孤を立たせた。

「しかし、それでは他国の王に示しが・・・・・・」

「じゃあ、俺が華琳と蓮華に一筆書こう。『皆を借りてごめん』ってな。事態が起きたのは蜀だけど、その結果は大陸全土の命運に関わる事だったんだ。華琳も蓮華も、許してくれるさ」

 一刀は、聳孤の膝を叩いて砂を落としながら微笑んだ。

「それで良いのでしょうか・・・・・・」

 

「良いと思う・・・・・・」

 

 戸惑いながら俯く聳孤に答えたのは、いつの間にか現れた恋だった。

「恋、目ぇ覚めたんか!」

 恋は、霞の言葉に頷きながら、可愛らしい欠伸をして、聳孤の元に歩み寄った。

「恋、寝てたんだ?」

「うん。ちょっと、疲れたから・・・・・・」

 恋は、一刀に答えながら、聳孤の頭を優しく撫でた。

「しょうこは、頑張った。だから、良い・・・・・・」

「恋様・・・・・・」

 

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「どうしても嫌なら、これから、もっと頑張る。死ぬのは、良くない・・・・・・」

「恋様・・・・・・、はい!」

 恋は、漸く顔を上げた聳孤の頬を優しく撫でてから、一刀に向き直った。

「ご主人様、お帰りなさい・・・・・・」

「ん?あぁ、ただいま、恋」

 一刀は暫く振りに、ゆっくりと恋の顔を見て帰還の挨拶をした。

 

「ご主人様、恋、頑張った・・・・・・」

「うん。そうだな、恋。本当に、ご苦労様でした」

「恋、約束も、守った」

「おう、凄く嬉しかったぞ」

「だから・・・・・・、ごほうびが、欲しい・・・・・・」

 一刀は、恋の唐突な申し出に少し面食らいながらも、その率直な物言いが『如何にも恋らしい』と思い直して、思わず頬を緩めた。

 

「おぉ、良いぞ。久し振りに、町中の点心食べ歩きでもするか?」

 恋はピクリと“触覚”を動かして暫く考えると、フルフルと首を振った。

「え!?違うのが良いのか?じゃあ、ねねやセキトと、弁当持って遊びに行くのはどうだ?」

 恋は、今度も同じ様に逡巡して、首を振った。

「うぅむ。これも駄目となると、あとわっ!?」

 

 恋は一刀のコートの左右の襟を持ってグイと引き寄せると、そのまま一刀と自分の唇を、強く重ねた。

 

「ん・・・・・・、恋!?」

「ちゅ、ごほうび・・・・・・」

 

 一刀は最初こそ驚いたものの、すぐにその甘さに酔いしれて、強く恋を抱き寄せた。

 

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 一刀がハッとして恋を離し、周囲を見渡したのは、それからたっぷり一分程してからの事だった。

「まぁ、今回の敢闘賞は恋やからなぁ、ええトコは譲ったるわ。それにしても一刀、えらい情熱的な“ごほうび”の上げ方やったなぁ?稟、我慢しぃや。ここには風がおらへんねんから」

 霞はネコ耳を出してそう言いながら、必死で鼻を摘まんでいる稟をポンポンと叩いた。

「ほぉ、あの恋が、なぁ・・・・・・」

 華雄は華雄で、腕を組んで何やらしきりに感心しているし、聳孤に至っては、顔を茹で蛸の様に真っ赤にしたまま絶賛放心中だった。

 

「いや!これは、だな!!」

「何を今更赤くなっておるか、あれだけ見せつけておいて!」

 祭はバンバンと一刀の背中を叩きながら豪快に笑う。

「ほんとですよぉ〜♪こんなに大勢の前で、あんなに情熱的に、音を立てて舌までなんて〜」

 

「ぷはぁーーーーー!!」

「アホ!稟、我慢せぇ言うたやろ!こらアカン、衛生兵!衛生兵――――!!」

 

 穏の言葉がトドメになったらしい稟が盛大に鼻血を吹き出し、場が更に渾沌とし始めたその時、一刀の背筋を冷たいものが走った。

 

ドドドドドドドドド!!

 

『避けなければ!』

 

 そう考えるのだが、身体は蛇に睨まれた蛙の様に動かない。

 避ければ大切な何かを失う、と、頭の奥の誰かが叫んでいるのだ。

 

「ちーんーきゅーーーーうーーーー!!」

 

『ままよ!』

 一刀は覚悟を決めて振り向き、衝撃と靴底の感触に身構えた。

 

「にーぶろーーーーーっく!!」

 

「って、“きっく”ちゃうんかーーーーーい!!」

 

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 こめかみに鋭角な衝撃を受けながらも、完璧なタイミングでツッコミを入れた一刀が吹き飛ぶその刹那、空中の音々音は不敵に笑った。

 

「続いて!ちんきゅー“すぴん”きーーーっく!!」

 

「何ぃいいいいいい!?」

 

 音々音は、一刀のこめかみから跳ね返った膝の勢いをそのまま回転に変え、一刀の腕に強烈な回し蹴りを放って吹き飛ばすと、クルクルと回りながら華麗に着地した。

「ふふん、変態誅滅!なのです!」

 

「“ちんきゅーにーぶろっく”からの、“ちんきゅーすぴんきっく”は、禁止・・・・・・」

 

 その後、一刀が意識を取り戻してから恋に連行されて来た音々音は、恋に拳骨を喰らって叱られた。

 ちょっと音が痛そうだったのは、あの必殺コンボの危険性故か、はたまた良いところを邪魔されて不機嫌だったからかは、聞かぬが華だろう。

 

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                     あとがき

 

さて、今回のお話、いかがでしたか?

本当は、旧董卓軍の話をもう少し書こうかと思ったのですが、あそこで終わった方が綺麗にオチるかな、思って締め括る事にしました。

ちゃんとオチてましたか?

不安ですwww

 

次回は、恋と音々音の拠点イベント的な話にしようか、さっさとストーリーを進めようか思案中であります。

ご意見等ありましたら、早めに頂けると幸いです。

 

では、また次回、お会いしましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
投稿十四作目です。
恋・音々音編クライマックスです。

では、どうぞ!
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コメント
深緑さん ねねは軍師であれだからいいんですよwww(YTA)
恋は頑張りましたな〜一息ついたら一緒に点心の食べ歩きでもしてあげないと^^ ねねはもう軍師の枠からはみ出ているなw(深緑)
さむさん やはり、そう思われますかw華雄はTimamiユーザーさんの愛を一身に受けているキャラなので、書く時に緊張しますwただ、熱血肌の好漢(?)なイメージなので、そこから広げてみたい、とは思ってるんですが・・・。(YTA)
次回をどうするかは華雄の扱い次第じゃないでしょうか。これからも彼女を話に絡めませていくつもりなら、何らかの形で一刀と直接の繋がりを作っておいた方がやりやすいでしょうね。(さむ)
砂のお城さん 最初はニーブロックだけにしようかと思ったんですが、音々音はやはり“きっく”だろうとwwwそれでも頑なに「軍師なのです!」と言い張るのが、音々音クオリティーな気がします(笑)。(YTA)
namenekoさん うけて頂いて良かった・・・・・・!時代的に、本音と建前に命賭けなきゃいけない、それも宮仕えの厳しさ、と言う事で・・・・・・。(YTA)
オチがうけた。魏王も呉王も動かなかったらあとでうるさいよな(VVV計画の被験者)
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