真・恋姫?無双 虎琥の出会い 2
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?についた翌日。

凪は一刀に充てられた部屋へと向かっていた。

もちろん、一刀を起こすためである。

昨夜の酒宴で結局、一刀は飲みすぎで気を失ってしまい凪に部屋まで運ばれていた。

ちなみに凪はその際にしっかりと一刀の寝顔を小一時間ほど鑑賞してその日を終えている。

そのことを思い出してか、凪は顔を赤くし普段から想像つかないようなニヤケ顔を浮かべながら部屋へと急いだ。

そして、凪は一刀の部屋へとたどり着くと、戸を開けた。

 

「隊長!朝ですよ!起きて…」

「うん…?」

 

凪の声にまだ、まどろみの中にいた一刀は体を声のした方へと向ける。

 

フニッ!

 

といきなり顔に柔らかいものが当たった。

 

(何か、柔らかいクッションが…)

「すー…うんっ…」

 

と一刀がクッションと考えたものが小さく声をあげる。

一刀は寝ぼけてはっきりしない頭でそれが何なのか触って確かめようとする。

 

フニフニッ!

 

「アンッ…!」

 

と、声が上がった途端、一刀は体を一気に起こした。

ゆっくりと凪の方を見てそのまま自分の隣にあるものに視線を落とす。

 

「だぁめだってばぁ…かずとう…んふふ…♪」

 

そこには涎をたらし、実にだらしない顔で眠る悠の姿があった。

 

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「何で、悠が…?」

 

一刀が視線を入口の方に向ける。

その入口にいた凪は、

 

「あ、凪…」

「た、隊長の…不潔ー!!!!!」

 

一刀が呼びかける間もなく全力で部屋から逃げ出した。

 

「…何で、悠が俺の布団の中にいるんだよ」

「るさい…なぁ…ん〜…」

 

一刀は起きるととりあえず悠を起こした。

悠は若干二日酔い気味らしく頭を押さえている。

 

「あー…昨日、確か…一刀に伝え忘れていたことがあったの思い出して一刀を追っかけて…一刀が寝ていたから…」

「そのまま俺の布団にもぐりこんだのか?」

「うん」

 

どうやら彼女は凪が立ち去った後に来たのだろう。

しかし現状の通り、悠はおそらくかなり酔っていたのだろう、定まらない頭のまま一刀の眠る布団の中にもぐりこんだようだ。

 

「うん、じゃないよ。おかげで確実に凪に誤解されたよ…」

「いーじゃん。私の胸、堪能したろ?」

 

にしし、と笑う悠。対する一刀は少し顔を赤くしながら、

 

「気が動転していて堪能する暇もなかったぞ…ていうか用って何だ?」

 

ひとまず悠の用事を終わらせようと用事を訪ねた。

悠は思い出したように手を叩く。

 

「おーっとそうだった…。いやな、昨日紹介した虎琥、孫礼だけど…」

「うん。彼女がどうした?」

「いやな。あいつに警備隊を任せようとしていてな…前任がこの間賊の鎮圧で討ち死にしちまってな、空いてるんだよ警備隊の隊長の席が。そこで今回一刀と凪に指導してもらいたいってわけだ」

「あの子をか…」

 

一刀は虎琥のことを思い出す。

 

「なんだ?不満か?」

「いや、そんなことは無いよ。わかった、どのみちここの警備状態を調べるところだったから」

「そっか、頼むぜ」

 

悠はそう言うと部屋を出て行く。

すると外から、「あれ華琳?どうした?」と悠の声が聞こえた。

一刀は背中に冷たいものが流れる。

そう言えば、さっき俺は凪に…。と考えていると、

 

「か・ず・と…わかっているでしょう?」

 

とても良い(?)笑顔の華琳が凪と共に部屋に入って来た。

 

「…弁護士を連れて来てください」

 

それから一時間ほど一刀は拷問に近い折檻を受けることになった。

 

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「で…悠にあの虎琥って子を指導してほしいって頼まれたのね?」

「はい、そうです…悠はそれを伝えに来てそのまま俺の布団の中にもぐりこんでいたわけです。俺は何もしていない、無罪なんです…」

「そう、それは悪いことしたわね」

「ホントに悪いと思ってるのか…」

 

弁明する一刀は華琳の折檻によりだいぶボロボロになりながら半べそをかいていた。

その一刀は正座に後ろ手で縛られ、膝の上には大きな石の板が乗せられている。

結局誤解なのだが華琳は悪いとは思っていない。しらっとしている。

むしろ悠と同じ布団で寝た事実が華琳にとって重要なのだろう。

 

「た、隊長もそうと言ってくれれば…」

「うん。気づいたら凪、もういなくなっていたよ」

「うう…///」

 

凪は申し訳なさそうに顔を赤くしながら俯いている。

自分の早とちりのせいで一刀を酷い目にあわせてしまった、と思っているのだろう。

 

「凪、そんなに気にしなくていいよ。誤解を受けるのは当然なんだし」

「隊長…///」

 

一刀は膝に石を乗せつつも凪に笑顔を向ける。

若干頬をひきつらせているところを見るとかなりきつそうだ。

一刀はそれでも凪を心配させまいと笑顔を浮かべる。

しかし、現状を見るとまるで効果はなさそうだ。

ていうか正座に後ろ手、拷問器具って状況で心配させないようにするのは至難の技だろう。

 

「はい、そこに二人。朝からいちゃいちゃしないっ」

「かっ華琳様!?///」

「そんなつもりはない…ていうかそろそろこれ、退かしてくれないか?」

「…はい」

 

一刀がそう言うと隣にいた凪は不機嫌そうな返事を返した。

その後、一刀は凪に拷問器具を退かしてもらい事なき得た。

 

「じゃあ、俺たちは警備隊の方に行くから」

 

拷問から逃れた一刀は凪達と朝食を取った後、それぞれの用事を済ませることにした。

ついさっき悠が虎琥と一緒に中庭で待っているとのことだった。

 

「一刀、ちゃんと仕事するのよ」

「わかっている。凪もいるんだし問題は無いだろ」

「ハイ!お任せください!」

「そう。それじゃまたあとでね」

 

一刀と凪は悠の待つ中庭へと向かった。

 

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そこには悠と警備隊の人間だろう、二、三十人の兵士が集まっていた。

 

「おーう、来たか」

「悪い、待たせたな」

「男が女を待たせるもんじゃないぞー」

 

悠はニヤニヤしながら答える。

一刀はやれやれといった様子で、

 

「別にデートってわけでもあるまいし…」

「でーと?なんだそりゃ?」

「逢引って所だ…とそれよりも警備隊の方だ」

「おう、集まってもらっている。虎琥!」

 

悠は警備隊の面々をまとめていた虎琥を呼ぶ。

虎琥はこちらを見るとすぐに走ってくる。

 

「悠様、お待たせしました」

「おう来たか。今日はこの二人に警備隊の指導を頼むことになっている。虎琥もこれから警備隊をひいきいることになるから、一刀に指導してもらえ」

 

悠がそう言うと虎琥の表情が僅かに変わった。

その時、一刀はその表情を見逃さなかった。

 

「…わかりました。北郷様、よろしくお願いします」

「あ、ああ。よろしくな、虎琥。じゃあ凪はもう一隊の指導お願いできるか?」

「わかりました!」

「…」

 

その後、悠は「じゃあ頼んだぞー」と言い残すと槍片手に去っていった。

どうやら華琳に部隊の調練を見せなければいけないらしい。

一刀達も二手に分かれ警邏をする流れとなり、一刀は虎琥のことを気にしながらも仕事に向かった。

 

「虎琥は警邏って初めて?」

 

一刀は隣を歩く虎琥に尋ねた。

 

「…悠様が代理でやっていた時に一緒にやっていました」

 

虎琥は一刀の方を向くことなく答えた。視線はただまっすぐ、前を向いていた。

まるで常に周囲を警戒するように。さながら抜き身の刃のような雰囲気だ。

そんな雰囲気の虎琥を一刀は不思議に思う。

昨夜の酒宴の時に紹介された時はこんな雰囲気ではなくもっと明るかったはず。

悠やあの郭淮…春美って子に比べれば確かに真面目そうな子であることは確かだ。

それに今は警邏の最中。しかし、こんなに変わるものだろうか。

 

(俺、何かしたか?…て言っても昨日会ったばかりだし)

 

と、そんなことを考えている時だった。

 

「おい、ケンカやっているらしいぞ!」

「なぁ、行ってみようぜ!」

 

どうやらこの先でケンカが始まったらしい。

何事かと見物しようとする野次馬が騒ぎの方に集まって行く。

 

「どこもやっぱりこういう騒ぎはあるんだな…みんな行こう!って虎琥!?」

 

一刀が後方にいた警備兵に声をかけた時、虎琥は既に騒ぎの方に向かっていた。

 

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「このッ!」

「ってぇなぁ!!」

 

虎琥が騒ぎの中心に来た時、騒ぎの張本人はすでに殴り合いを始めていた。

互いに顔が赤く、どうやら昼間っから酒を飲んでいるようだ。

虎琥は剣を抜くと二人に向かって叫ぶ。

 

「あなた達!今すぐ騒ぎを止めなさい!さもないと捕縛させていただきます!」

 

その声に暴漢二人は虎琥の方を向く。

 

「なんだ?てめぇ!やんのか!?」

「勝手に首突っ込んでんじゃねぇよ!」

 

だが二人は頭に血が上っているせいか、聞く耳を持つ様子は無い。

そればかりか、互いに向けられていた不満を虎琥に向けようとする。

自身に向けられる怒気を感じると虎琥は愛用の細身の剣を握る。

すると虎琥の背後がざわつき始めた。

何事かと虎琥と暴漢二人は声の方を見る。

 

「間にあった〜。ほらほら三人共落ち着いて、虎琥は剣を治めてね」

 

そこに現れたのは一刀だった。

 

「…(チンッ)」

「ありがとう。このまま暴れられると周りの人たちが危ないから…」

 

虎琥は少し納得のいかないような表情を浮かべるも剣を鞘に納めた。

暴漢二人は突然現れた見知らぬ人間を怒鳴りつける。

 

「何だ!てめぇも怪我してぇのか!?」

「うん、怪我はしたくないね。まぁ落ち着いてよ、とりあえずケンカの理由が知りたいから。このまま暴れられると周囲の人たちが危ないし…」

 

一刀はひとまず暴漢二人をなだめようとする。

しかし、暴漢は聞く耳を持たなかった。

 

「うるせぇ!よそ者にわかるか!」

ゴッ!

 

しかし、暴漢の一人が一刀を殴り飛ばした。

 

「…グッ!」

 

周囲から悲鳴が上がる。

殴られた一刀はそのまま背中から地面に倒れてしまった。

 

「へっ!よそ者が出しゃばんじゃねーよ!」

 

一刀を殴った暴漢はそのまま追い打ち掛けるように足を進める。

 

「…貴様、何をしている」

 

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と、暴漢の背中から怒気の籠った静かな声が聞こえる。

暴漢は後ろを向こうとした瞬間、宙を舞った。

背中から叩きつけられた暴漢が見た先には顔に大きな傷を持つ少女、凪がいた。

 

「何だてめ、ぐぼ!?」

 

仰向けにされていた男は凪にみぞおちを叩かれ気絶してしまう。

凪はゆっくりともう一人の方を振り向く。

 

「…」

 

凪の視線の先にいた男はその表情を見て恐怖を覚える。

 

「あわわッ…!」

 

もう一人の暴漢はすぐにその場を離れようとする。

だが振り向いた瞬間、その望みは絶たれた。

暴漢の周囲には警備兵が事の成り行きを見ていた人々を守るかのように立っていた。

暴漢達が一刀に意識が言っている間に凪は警備兵を配置していたのだ。

 

「おとなしく縄につけ。…二人を捕らえろ!」

 

 

 

 

「隊長…。無茶をしないでください」

「あはは…ごめんね、凪」

 

一刀達はあの後、詰所に来ていた。

暴漢に殴られた一刀は念のため、凪の治療を受けていた。

その頬は赤くはれていて見るからに痛々しい。

 

「本当に反省していますか…!?隊長を殴った男、懐に小刀(ナイフ)が入っていたんですよ!もしそれを使っていたら…」

「してるって…。それに刺されなかったしもういいじゃないって痛ててて!」

「本当に、反省してください!…隊長に何かあったら、私は…」

 

凪は治療をする手を少し乱暴にすると顔を悲しそうに歪める。

本当に心配したのだろう。一刀はそんな表情をする凪を見て、

 

「わかったよ。ごめん、凪」

 

と言うと一刀は微笑みながら凪の頭に手を乗せ、撫でた。

 

「あ、ああ、あの、たっ、隊長…。あう〜…///」

 

一刀の笑顔と頭を撫でられたせいだろう、凪は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

擬音が着くならば「プシュー」といった音がしているところだ。

同僚の二人がいれば真っ先にからかわれているところだろう。

一刀は『何故か』俯く凪に声をかける。

 

「凪?どうした?」

「いえ!なんでもありません!///」

 

凪は顔を何でもなかったかのように答えた。

顔を赤くしたまま。

 

「…失礼します」

 

と、外から虎琥が詰所に入って来た。

 

「先ほど捕まえた男たちを牢へ連れて行きました。…この後の処遇はいかがいたしますか?」

「わかった。とりあえず簡単に取り調べなきゃ」

「隊長はここで休んでいてください。…まだ殴られた所が痛むでしょう」

「いやでも「痛みますよね?」…休ませていただきます」

 

そういうと凪は詰所から出て行った。

 

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凪が詰所から離れるのを物音で確認した一刀は虎琥の方を見る。

虎琥は視線を会わせようとしない。

 

「…」

「…虎琥って呼んでいいのかな?…俺に、話があるんでしょ?」

 

一刀がそう言うと虎琥は鋭い目つきで一刀を見る。

一刀は今まで虎琥を観察していて気付いた。

何かを言いたがっていることに。

 

 

「…なぜあなたがあの人の、凪様の隊長をしているのですか」

「なぜか、か…。まぁ簡単に言えば華琳の命令なんだけどね…」

 

一刀は凪と出会った時のことを簡単に話した。

それでも彼女はその目つきを変えることは無い。

虎琥は少し俯くとゆっくり話し始めた。

 

「…私があの方を初めて見たのは官渡の戦いの時です。まだ私はその時、士官先を探している旅している時でした。たまたま路銀を稼ぐために官渡で袁紹軍にいたんです。その時でした、あの方が戦っているのを見たのは…。向かってくる敵を体術とその身一つで戦うあの人の姿に、憧れたんです。結局その時の戦いで私がいた部隊は凪様の部隊によって壊滅状態になって…私も負傷して落ち延びたんです。その後、戦いが終わって傷が癒えた頃になって悠様が降伏していたことを知りここに仕官しました。もっと自分を鍛え、凪様のお役に立てるように…でも同じころに知ったんです。あの人はある人の部隊の副官をしているってことを。私は思いました。なんであの方が副官なんて位置に甘んじているんだろうかって。私は…」

 

虎琥は顔をあげる。

そして、一刀を強い感情を持って見つめる。

 

「何でこんな人があの人の隊長をしているのかって」

 

一刀は心の中で成程、と思っていた。

確かに桂花と同じような視線をしている。

もしかするとそれよりも強いかもしれない。

つまり、

 

 

 

彼女は俺のことを嫌っているのだ。

尊敬する凪が俺の副官にいることが我慢できないのだ。

 

 

 

「今日のあの時だって…あなたはあの人が来るのを待ちましたね。…自分で解決することなくあの人の力を使って。凪様であればあんな場面私と凪様で片付いたのに貴方は力が無いからあの人の力を力を借りるしかない。ならなんであの人の隊長なんかしているんですか?あの場もあの人が適切に対応していました。あなたはただ殴られただけ」

 

 

 

「あなたは何なんですか?」

 

 

 

 

「私は」

 

 

 

 

 

「あなたを」

 

 

 

 

 

 

「隊長なんて認めない」

 

 

 

 

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虎琥は一気に自分の感情をさらけ出すように喋ったせいか、肩で息をしている。

しばしの時間、外の喧騒だけが聞こえた。

 

「言いたいことはそれだけ?」

 

一刀が口を開いた。

 

「…さすがにここまで言われるとへこみたくもなるけど…たまには隊長らしくしないと、また華琳や凪達にどやされそうだ」

 

一刀は椅子からゆっくり立ち上がる。

 

「俺は警備隊の隊長を華琳から任されている。それに…凪や真桜、沙和、秋蘭、春蘭達の信頼と任された責任がある以上、俺は隊長を辞めない、辞めることなんてできない」

 

一刀ははっきり答えた。虎琥の強い感情を真っ向から受けて。

 

「俺が隊長に相応しくないのは俺だってわかっている。だけどもし、俺が辞める時は…」

 

 

「彼女たちに愛想を尽かされた時だけだ」

 

一刀ははっきり答えた。虎琥の強い感情にも負けない心の強さで。

 

「…あなたが何と言おうと私は貴方を認めません。…失礼します」

 

虎琥はそのまま詰所から出て行った。

 

一刀は額に手を当てるとゆっくりと椅子に腰を下ろす。

 

「はぁ…。結局警備隊の指導、ちゃんと出来なかったな。…この感じじゃ出来そうもないし…。さてどうしたものか…」

 

と考えていると凪が入ってくる。

 

「隊長、失礼します、ってあの…虎琥がいませんが…」

「ああ、…ちょっと休んでもらったよ」

「そうですか。っとそうでした…隊長、華琳様からご連絡がありました」

「連絡?何かあったの?」

「はい、それが…」

 

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「と言うことで明日、虎退治に向かうわよ」

 

広間に集められた武将たちは華琳の指示をただ静かに聞いていた。

お昼頃、調練場にいた華琳達は近隣の村から使いが来た。

内容はこうだった。

 

「虎退治か」

 

一刀がそうつぶやくと華琳が答える。

 

「先ごろ、農耕の牛が突然いなくなっていたらしく村人が牛を見張っていたら大虎が現れたそうよ。その後、虎に襲われる被害が発生…これにより重症者多数、死者も出ているわ…。この虎を狩らないと村人に平穏はないわ」

 

静まり返る部屋の中、秋蘭が静かに声をあげた。

 

「…これは、確かに酷いですね」

 

報告内容が描かれた資料を見てそうつぶやいた。

 

「何を言う!秋蘭!この私が居るのだ、虎の一匹や二匹ぐらい狩ってやるわ!」

「ふふ、そうだな期待しているよ、姉者」

「おう!華琳様この春蘭にお任せください!」

 

春蘭が自信満々に言うと、華琳は笑顔で答える。

 

「そうね、私も期待しているわよ」

「だけど、華琳よう…この虎の噂、袁紹軍にいた時聞いたことがあるぜ。凄腕の武将や狩人が狙って誰も帰ってこなかったって…こりゃ用心した方がいいと思うぜ」

「悠の言う通りかと思います。私達もこの虎のことは調べていましたがここしばらく目撃談がありませんでした…しかし、かなり危険な虎であることは間違いないかと」

 

悠と菖蒲が忠告するように答えた。

 

「そうね…一刀?あなたはどうする?」

 

と、いきなり一刀に答えを振る。

 

「って俺かよ…、ん〜、まずこの荒らされた村の支援に人を回す必要があるんじゃないか?…牛がやられているんじゃ色々と困るだろうし…。そうだな、今後こんな事態にならないとは限らないんだから…周囲に囲いを作らせるなりしないと」

 

一刀の答えに満足なのか、華琳は笑みを浮かべる。

 

「一刀の案ももっともな意見だわ。では明日五百の兵をで村の復興支援と虎狩りを行うこととする。ここにいる面々、皆ついてくるように、良いわね?」

 

全員、異論はなくこの場にいる華琳に春蘭、秋蘭、凪、一刀、それと悠、菖蒲に春美、虎琥の面々で虎狩りを行うことになった。

 

 

 

翌日、朝早くに出た一行は昼になる前には村に着いた。

 

「おお!これは曹操様!私達の願いをお聞きしていただきありがたき幸せ…!」

「あなたが村長ね、礼は虎を狩り終わってからにしなさい。…では指示を出す!一刀、凪、虎琥は200人ひきつれて村の整備を担当しなさい。その他は虎を狩るわよ!」

 

華琳が号令をあげると兵達はすぐさま行動を始める。

一刀は前方の部隊に着くことになった春蘭に声をかける。

 

「春蘭、気をつけてな」

「何だ、北郷。私が獣ごと気に負けるとでも思っているのか?」

「そんなわけじゃないけど…心配なんだよ。怪我、しないでくれよ」

 

一刀はそう言うと春蘭の手を握った。

 

「そっそうか!き、期待して待ってろ!///」

 

春蘭は顔を真っ赤にするとさっさと行ってしまった。

 

「なんだ北郷。姉者を口説いているのか?」

「おうおう〜さすが種馬!こんなところでも手が早いね〜!」

「あんなことさらっと言えるなんて…すごいっすね!」

「大胆です…///」

「別にそんなつもりはないって何度も言わせるな!てか悠!誤解を生むようなことは言わない!…ただみんなが怪我をしないか心配なだけだ」

 

一刀はプイっとそっぽを向きながら一言そうつぶやいた。

 

「「「…///」」」

 

一刀の周りにいた面々は苦笑いしながら顔を赤くしていた。

 

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それを遠目で見ていた華琳と凪は、

 

「あれだから始末に負えないのよね…全く…///」

「いいなぁ、春蘭様…///」

「凪…?あなた…」

「…いっいえ!なんでもありません!///」

 

とりあえず、みんなを心配している一刀だった。

 

 

 

「じゃあ仕事を始めよう。凪は村の入り口を担当してくれ。虎琥は西の森側を頼む。俺は北の方をやるから。…それでいいかな?」

「わかりました!」

「問題無いです」

「東は村長さんにお任せしてもらっていいですか?」

「かまいませんよ、村のためです」

「ありがとうございます…じゃあみんな仕事にかかってくれ!」

 

こうして村に土塁を作る作業が始まった。

この土塁は獣の侵入を防ぐ以外にも野党などに襲われた時はそのまま防塁として使えるように計画されている。この村は過去に何度か野党に襲われていることがあったらしく、それならば、と言うことで作ることが決まった。

村にしては少々大きい場所だったので数日かかるだろう、とのことだった。

 

「みんな、少し休憩しようか」

 

一刀の一言に土を運んでいた兵士と村の人達は思い思いに腰をおろして休憩を始める。

一刀もいつもの白い制服を脱いで作業に参加していた。

 

「はぁ〜…こりゃ明日は筋肉痛だな…」

 

一刀はそう言って近くの岩に腰を下ろす。

すると小さな子供が一刀に近寄ってくる。

 

「ねぇ、お兄ちゃんはえらい天の御使い様なんでしょ?」

「ん?まぁそういうふうに言われているね」

「なんでお兄ちゃん働いてるの?」

 

と言う言葉に周囲がざわつく。

すると、その子の母親だろうか。恰幅のいい女性が慌てて飛んできた。

 

「これは御使い様!申し訳ありません!何を言ってるんだい、お前は!」

 

女性は慌てた様子で子供を叱ろうとする。

 

「大丈夫ですよ。…そうだな、君はお外で遊ぶよね?」

「うん!」

「お外で遊んだ後、みんなで食べるご飯はおいしい?」

「うん、おいしい!」

「それと一緒だよ。お兄ちゃんもみんなと一緒に働いてみんなで一緒においしいご飯が食べたいから働くんだよ」

「んー…じゃあ僕もお兄ちゃんのお手伝いする!」

「嬉しいけど今は危ないからね…これが終わったら遊んであげるよ。それならいいよ」

「やったー!じゃあ、みんなに行って来るね!」

 

子供は嬉々として走り去っていった。

周りにいた兵士や村人はポカンとしていた。

ここが許都であれば当然のように取られていただろう。

しかし、ここにはまだ北郷一刀がどんな人物か知るものは少なかった。

その光景を虎琥も遠くから見ていた。

 

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「…」

 

子供に柔らかい笑顔で接する天の御使い。

変な奴、と虎琥は思う。

 

「虎琥だったか…そんなに不思議か?」

「…凪様!」

 

虎琥の隣に凪が来ていた。

 

「隊長はいつもこうだ…。街の子供と警邏の最中に遊ぶし、屋台によれば買い食いはするし、ケンカをしていた男たちに酒をおごって一緒に騒ぐし。時には情けないな、と思うことだってある。…だけど、」

 

虎琥は黙って聞いていた。と言うよりも凪の表情に目が離せなくなっていた。

 

「…あの人は…」

 

凪は少し誇らしそうに、少し顔を赤らめて言った。

 

「優しいんだ。誰にでも、どんなことがあっても自分より他人を優先する…。私は、そんな隊長の下にいることが出来る…。そのことが何よりうれしいし、誇りなんだ」

 

凪は目を細め、村人たちと会話をする一刀を嬉しそうに眺める。

虎琥は凪の顔を見れなくなってしまう。あまりにも眩しくて。

 

「私には…わかりません」

「そうか。確かにあの人は最初わからないところがある。私もそうだった…。だけど接する内に分かってきたんだ…あの人の優しさと凄さを。虎琥、お前もわかる時が来ると思う」

 

じゃあ仕事に戻ろう、と言って凪はその場を離れた。

一刀達も仕事に戻っているらしく、皆持ち場に移動していた。

だが、虎琥はその場を離れなかった。

 

「私には…わからない」

 

と虎琥がつぶやいた、その時だった。

 

「…!今の悲鳴は!?」

「大変です!西側に例の大虎が!」

 

一刀は返事を待たず走り出した。

 

一刀が虎琥の担当する西側の地区にたどりつく。

そこには凄惨な光景が広がっていた。

 

「…みんな!大丈夫か!?」

 

そこには腕、背中、足等を噛まれたのか爪で引き裂かれたのか、血だらけの兵士が何人もいた。

 

「北郷様、この場では死者はいませんが…。兵が一人森に引きずり込まれ、それを孫礼様が追って森の中に…虎はかなりの大きさです…」

 

その言葉に一刀は顔をゆがめる。

 

「何だって…!クソ!動ける人はけが人を運んで!凪!」

「ここに!」

「いつまた虎が来るかわからない。村人とけが人の避難と護衛を頼む!俺は虎琥を追う!」

「そんな…!危険すぎます!」

「今行かないと彼女と引きずり込まれた兵士が危ないんだ!…何人かついて来てくれるか!?」

 

一刀は凪の言葉を無視すると兵士に呼びかける。すると、五人ほど兵が集まった。

 

「項と言います。あまり大人数では森の中はかえって危険です。私達がお供します」

「わかった。項、だな…頼む」

 

そう言うと一刀は剣を手にして森に向かおうとする。

すると、

その手を凪がつかんだ。

 

 

 

「隊長…!」

「凪…」

 

凪は悲しそうな表情で一刀を見つめる。

行ってほしくないのだ、相手は人間ではなく虎なのだから。

 

「楽進様。北郷様は私達が必ずお守りします」

「でも…!危険です!」

「凪…。ちょっと待って」

 

一刀は上着を脱ぐと凪に手渡す。

凪は上着を受け取ろうと一刀の手を離した。

 

「隊長…?」

「預かってて、それ。…行こう!」

 

一刀は笑顔でそう言うと凪から離れる。

そして、森の中へと入って行った。

 

「…隊長!」

 

一刀はあっという間に森の中へ入って行った。

凪のまわりに兵士が集まる。

 

「楽進様…ご指示を」

 

凪は立ちあがるといつもの表情を見せる。

 

「…東側に村人とけが人を集めろ!早馬を出せ!虎狩りの部隊に知らせるんだ!」

 

凪が指示を飛ばすと兵達はすぐに行動を始めた。

 

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虎琥編、中盤です。

ここまで読んでいただいた方ありがとうございます。

今回、二章で終わらせようかなって思ったら…全部で2万文字近い状況になりましたんで分けました。思ったより長くなってしまった…。

と言うわけで新キャラ紹介。郭淮です。

郭淮字伯済

三国志での初登場は漢中攻防戦ごろの夏候淵の部下として出てきます。夏候淵が定軍山で敗れるとそのまま張?を代理の司令官として推薦。漢中防衛に尽力します。

諸葛亮が北伐を開始した際は曹真、司馬懿の下でその侵攻を防ぐ。

その後は雍州・涼州の防衛をし続けた名将のひとりです。

演技だとやられ役になってますが…

でこっちは恋姫的郭淮…真名は春美(シュンメイ)

ボーイッシュイタズラ好きキャラ。たぶん蒲公英と気が会う。髪短め。服装は前の開いた長めのスカートに武装はナイフ+投げナイフ。

ナイフと体術を駆使して戦う近接戦闘+投げナイフ。武官ではあるが知力も高いタイプ。

虎琥とは仲良し。長めのスカートの下にナイフを大量に隠し持つ。

と言うキャラにしています。真名の由来はモデルにしたキャラから。

 

と紹介はここまでです。しかし新キャラ物を投稿してみましたけど…閲覧数が伸びず若干へこみました。やっぱ新キャラは扱いが難しいです。

 

ではいつも通り、誤字等ありましたらどうぞよろしくお願いします。

 

説明
遅くなると言った割には早く作ってしまいました。
それではどうぞ。
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コメント
大事には違いないけど、華琳をはじめそこまで豪華メンバーで行動するのは凄すぎる^^;(深緑)
ヒトヤ犬さん>んーと…普通はそうかもしれません。しかし、今回虎琥は一刀に感情をぶつけたんです。一刀もそれになんとなく気付きぶつけさせたんです。理性で動くなら合理的な方に行くでしょうけど、今回は嫌いな相手に嫌いだと言ったに過ぎないんです。…こんなんでよろしいでしょうか?(同人円文)
アラトリさん>そんなところですね。ただしポセンさんの所でも言ったように…です。(同人円文)
よーぜふさん>すぐに続きを!(同人円文)
ポセンさん>百合…ではないですけど後5レベルほどアップしたら百合に進化するかも…です。(同人円文)
heikelさん>ありがとうございます!魅力的な一刀を書いていけるよう頑張ります。(同人円文)
何故一刀が隊長か、それを何で一刀に聞くんだ?普通凪本人か一刀を隊長に任命した魏王に聞くのが普通じゃないか?俺だって会社で何でこの部署なのって聞かれたら一刀のように上の命令としか言えないよ(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
百合とは、ちょっと違うんじゃない?・・・なんだろ?崇める対象?師みたいな感じで見てる様な気がする。(アラトリ)
うがぁぁぁぁぁ!!! 続きが・・・・ごふっ・・・(よーぜふ)
虎琥最初は百合だったのか・・・・・・いや?今も変わらないか。(ポセン)
氏の書く一刀君は魅力的だなぁ、これからも楽しく読ませていただきます。(heinkel)
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