真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第四十九話
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 赤・青・白・黄。

 

 様々な光が明滅する闇の中を、一人の男がゆっくりと歩いていた。

 

 カツン、カツン、と。

 

 男が歩くたびに、高い金属音が静かな闇の中に響き渡る。彼が歩いているのは、金属製の細い橋の上。その左右には、さらに深い闇が広がる。

 

 突如、男は歩みを止め、その闇が広がる眼下へと視線を送る。

 

 

 闇が広がる中、かすかに見えるのは大量の人影。だが、その人影たちは直立不動のまま、微動だにしない。

 

 「……フン」

 

 男はその人影たちに一瞥をくれると、再び歩き始めた。その先に、ひとつの扉が見えてきた。金属製の、かなり頑丈そうな扉である。

 

 「……識別コード、SMW−015」

 

 その扉の前で、男がその野性的な声を発する。すると、

 

 『……IDコード確認。ロックを解除します』

 

 どこからともなく流れる、その抑揚のない声。それとともに、扉が自動的に、左右に開く。

 

 男はその扉をくぐり、中へと進む。

 

 その先は、一寸先も見えない闇。

 

 その闇の中、男の侵入と同時に、別の、若い男の声が響く。

 

 

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 「……君か。何の用だい?」

 

 「……報告だ。司馬懿が魏領を制圧、晋国の建国宣言を済ませた」

 

 「そうか。これで計画は最終段階に入ったね。……君にも、そろそろ本格的に動いてもらうことになりそうだ」

 

 「……承知している」

 

 野性的な声の男が、若い声の男にうなずく。

 

 「五神将と虎豹騎の様子はどうだい?今のところ、異常は無さそうだけど?」

 

 「問題ない。……いや、少々精神面が不安定のようだが」

 

 「それは仕方ないよ。あの娘たちは元々、”そういう風に造ってあるんだからね”」

 

 ククク、と。若い声の男が笑う。

 

 「……」

 

 「君はどうだい?”向こう”から流れてきてから、一度しかメンテしていないけど」

 

 「……心配無用。……それに、別に死など恐れているわけでもない」

 

 「へぇ。……じゃ、君には怖いものなんて無いんじゃないの?君ほどの武人が死を恐れないのなら、他には恐れるものなんか無いだろ?」

 

 若い声の男が、野性的な声の男に問う。

 

 「……恐れるもの、か。以前ならば一つだけあったが、今はもう、それも解消済みだ」

 

 「……どういうことだい?」

 

 「貴様には関係の無いことだ。そんなことより、システムの調整は出来ているのか?”外の人形”どもが使えねば、この計画が頓挫することになりかねんぞ」

 

 「それこそ君には関係の無いことさ。君はただ、お飾りと彼女たちの監視だけ、気に留めていればいい」

 

 「……ふん。……ならば、俺は”外”に戻る。時間は多く残っていない。そのこと、ゆめゆめ忘れぬなよ、”仲達”」

 

 「……君もね、”呼厨泉”さん」

 

 ガコン、と。

 

 呼厨泉と呼ばれた男が部屋から退出するとともに、再び扉は閉じられて、闇が再び支配するその室内には、仲達と呼ばれた男だけとなる。

 

 「さて、と。人形遊びもそろそろ終盤か。フフ、……神の造りし人形たちと、僕の造った人形たち。さて、終末の使者たちを迎え撃つことになるのは、果たしてどっちだろうねぇ?ククク。クク、ク、クハハハハハハハハハ!!」

 

 暗闇に響く”仲達”の、狂気ともいえる笑い声。

 

 カチリ、と。

 

 仲達のひじが何かを押した。

 

 「おっと」

 

 その瞬間、その背後にあった、クリスタル状の板に、次の文字が映しだされた。

 

 『Time-Limitte = 1Year and 2Day』

 

 

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 場面は再び、襄陽の病院。

 

 「会いたかったわ〜!ご主人さま〜!!」

 

 「ひっ!くるな!ひっつくな!ほおずりするなぁーー!!」

 

 筋肉だるま−漢女の貂蝉がに抱きつかれ、全身に鳥肌を浮かべた一刀が、全力で悲鳴を上げていた。

 

 「ちょっ!!一刀に何すんの!?」

 

 「こらっ!一刀から離れなさい、この化け物!!」

 

 「だああああれが、身の毛もよだつような、未知の怪生物ですってーーーー!?」

 

 「あなたに決まってるでしょうが!」

 

 「んも〜、久しぶりに会ったっていうのに、冷たいわね〜、桃香ちゃんてば」

 

 口から泡を吹き、痙攣し始めている一刀を抱きしめながら、貂蝉が劉備にそう語る。

 

 「あなた!桃香の真名を勝手に呼ぶとはどういう了見よ!!」

 

 「あ。あ〜ら、ごめんなさい。つい、いつもの癖で呼んじゃった。訂正するからゆ・る・し・て♪」

 

 ウフン、と。自分に絶を構える曹操に、しなを作ってみせる貂蝉。

 

 「き、気持ち悪……」

 

 「……で、いつまで一刀に抱きついてるつもり?」

 

 ちゃき、と。

 

 靖王伝家を貂蝉の首筋にあてがい、恐ろしく低い声を出す劉備。

 

 「あら。ごめんなさいね、ご主人様。久しぶりに会えたものだから、嬉しさのあまりつい」

 

 ぱ、と。一刀を開放する貂蝉。

 

 「……桃香。おれ、死んだ父さんに会ったよ」

 

 「ちょ!しっかりしてよ、一刀!」

 

 「ていうか、何で俺のことをご主人様なんて呼ぶんだよ!?思いっきり初対面だろうが!!」

 

 「……そうね。そうだったわね。今度のご主人様は、そうだったわね」

 

 一刀に初対面、と言われてさびしげな表情になる貂蝉。

 

 「……どういうこと?」

 

 その貂蝉に、劉備が思わず問いかけたその時、

 

 「ああっ!!おまえ!いつぞやか私の邪魔をしてくれた、化け物ではないか!!」

 

 「……今更だと思うぞ、姉者」

 

 「そう。こいつが例の化け物なのね。確かに、秋蘭の報告どおりだったようね」

 

 貂蝉が以前、宛で自分を邪魔した存在だったことを、今になって思い出す夏侯惇に、呆れた表情の夏侯淵と、納得と言った感じの曹操。

 

 「……話を戻すけど、漢女貂蝉、だっけ。あんた、いったい何を知っているんだ?」

 

 「ほとんど、って所かしら。あ〜んな事から、こ〜んな事まで。……仲達ちゃんの事とか、ね」

 

 『?!』

 

 貂蝉の発言に驚く一同。

 

 「……全て、聞かせてもらえるのかしら?」

 

 「もちろん。その為に、ようやく許可をもらってきたんですもの。ご主人様、出来れば、魏・呉・蜀、全ての国の関係者を、集めてほしいのだけど」

 

 「ご主人様はやめろっての。……美羽たちもか?」

 

 「ええ」

 

 「……わかった。桃香、すぐに手配を頼むよ。三日もあれば、みんな集まれるだろ」

 

 「うん、わかった」

 

 一方その頃、旧漢都にして、現・晋朝帝都の?では。

 

 

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 「どこ行ってたのさ、呼厨泉のおっさん」

 

 「……仲達のところだ。報告をしにな」

 

 「そ。……んで、仲達さまはなんて?」

 

 「……何も」

 

 「なーんだ、つまんないの」

 

 ?城の謁見の間。そこに晋の五神将のうちの四人、貂蝉と蔡?、禰衡と祝融らが集まっているところへ、呼厨泉がその姿を見せていた。

 

 「……それより、皇帝はどうした。姿が見えぬが」

 

 「いっちゃん?誰か知ってる?」

 

 「司馬の帝なら、中庭で山陽公と遊んでるわ」

 

 「……そうか」

 

 くるり、と。きびすを返して、その場を去ろうとする呼厨泉。

 

 「ねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ。あんた、なんでそんなに、あのお飾りをそんなに気にかけるわけ?」

 

 「……我はあの方の剣。……ただ、それだけだ」

 

 禰衡の問いにそれだけ答えて、呼厨泉は謁見の間を出て行く。

 

 「……ふん。格好つけて」

 

 「所詮拾われ者よ。どっか他の外史から、流れ着いただけの、ね」

 

 「あの呼厨泉の名も、記憶の無かったあの男に、仲達さまが与えたものだしね」

 

 呼厨泉が立ち去った後、出て行ったその扉を見やりながら、そんな風に毒づく蔡?と貂蝉、禰衡の三人だった。

 

 

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 その頃、呼厨泉が向かった中庭では。

 

 「はーなー」

 

 「はい、お花ですねー。綺麗ですねー」

 

 「あー、そーらー」

 

 「お空ですねー。青いですねー」

 

 蒼い髪の少女が、まるで無垢な幼子のように、庭園の中をちょこちょこと動き回る。

 

 その少女を、少し離れたところから見守る、黒髪の女性。

 

 「あー、こちゅー」

 

 「こちゅー、ですか?……あ、呼厨泉さんですね?……え?」

 

 自身のほうを指差す少女の言葉を理解し、驚いて後ろを振り向く女性。

 

 「こちらでしたか、皇帝陛下」

 

 「呼厨泉さん」

 

 呼厨泉に皇帝と呼ばれたその女性。晋の初代皇帝となった司馬懿仲達は、呼厨泉の顔を見て明るい笑顔を浮かべる。

 

 「……山陽公も、お元気なようで」

 

 「こちゅー、あそ、あそ」

 

 「……遊べ、ですか?」

 

 「ん!」

 

 呼厨泉の脚にしがみつく、山陽公と呼ばれた少女。――もと、漢の十四代皇帝であった、劉協、その人である。

 

 「……完全に、幼児退行しておりますな」

 

 「はい。……こんな後遺症が残ると知っていれば、あんなモノ、使いなんかしなかったんですけどね」

 

 「……陛下」

 

 劉協を膝の上に抱きかかえ、自嘲気味に苦笑する司馬懿。

 

 「皇帝になりたいと願ったのは、確かに私自身です。その為に、仲達どのの誘いに乗りました。そして、今こうして、帝位に登れたことには、本当に感謝しています」

 

 「……」

 

 「けど、私は所詮、お飾りでしかなかったんですね。……実際に帝位に就いてからは、政にはまったく関与させてもらえませんし」

 

 いつの間にか、司馬懿のその瞳には涙が滲み始めていた。

 

 「……」

 

 呼厨泉はその司馬懿に、何も言えないでいた。慰めの言葉をかけたところで、何も変わりはしないのだから。

 

 「情けないですよね、本当に。……呼厨泉さん」

 

 「は」

 

 「……もしものときは、この娘のことを頼みますね。……こんな私の、道連れにすることは、出来ませんから」

 

 「……御意」

 

 いつの間にか眠ってしまっていた劉協を抱きかかえたまま、呼厨泉を見上げて司馬懿は微笑んだ。

 

 (……この方は、俺が命に代えてもお守りしてみせる。……その相手が、たとえお前であったとしてもだ。……いつでも来るがいい、一刀。……わが、弟子よ)

 

 

説明
刀香譚、四十九話目です。

さて、今回は仲達たちの秘密の一端が、ほんの少しだけ、

明かされます。

では、今回もとんでも話に、逝ってみよー。
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コメント
なにがなんだが わからなくなってきた(qisheng)
一部答えらしきモノがでてきてもより謎が増えた気が^^; ・・・しかし、やはりここの桃香って強気に強いですね〜一刀の為って事が大前提にしろ、あの筋肉な漢女さまに挑むとはw(深緑)
お師匠様登場か…何ともまぁ両陣営複雑に…期待www(ちくわの神)
一刀の師匠だと!ますます混沌してきて、先が読めないな。(hokuhin)
なんんだこれは・・・一話見逃しただけでこの展開・・・漢女なんぞは置いといて、仲達さん・・・一刀のお師匠さん・・・どうなってるんだ(よーぜふ)
いろいろと気になるところも出てきましたね。二人の仲達に謎の施設。そして一刀の師・・・(東方武神)
はりまえさま、そう、それは必然なのです!といっても、最終話手前ぐらいになると思いますが^^。(狭乃 狼)
村主さま、さて、何の事でしょうか?わたしにはとーんとww(狭乃 狼)
まさかの師弟の戦いになる!?これも必然か!?次回更新待ってます(黄昏☆ハリマエ)
呼厨泉さんの声が脳内再生されました まさか某親分ないしXXXXを護るk(←シャットダウン(村主7)
瓜月さま、はい、もっと前をよく見てみましょうね。とっくに出会ってますよ、二人のちょーせん^^。(狭乃 狼)
紫電さま、そーですか。超特急すぎましたか。でも、この調子はもう止まらないのだwwはっはー^^。(狭乃 狼)
紫電さま、つまり、コメントの仕様が無いほど、呆れ返ってるという事で?とんでも展開でごめんなさいorz(狭乃 狼)
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恋姫 刀香譚 一刀 桃香 仲達 

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