【南の島の雪女】第1話 雪女は家庭科室の冷蔵庫の中にいる(終)
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【牛乳の悪夢】

 

「ごめん、白雪。機嫌直して〜。

 なんか急激に吐き気がきちゃって。

 やっぱりあの牛乳腐ってたみたい」

 

後頭部に2〜3のたんこぶを作った風乃は、

白雪をなだめていた。

 

「うるさい!

 俺を腐った牛乳まみれにしおって!

 あ〜もう! 風呂にでも入らないと臭いが

 落ちんではないか!」

 

白雪は、風乃にたんこぶを作ったあと、

顔を真っ赤にして、

全身についた牛乳をふきとっていた。

 

そのとき、ぐきゅるるる、という腹の音が鳴る。

風乃・白雪、両名の腹から聞こえた音だった。

 

「またお腹が鳴ったぞ…」

 

「白雪も腹の音が鳴ったの?

 私も鳴ったよ」

 

「お腹が空いている音…とは思えない。

 なあ、俺たち、腹をぶっこわしたんじゃないか。

 なんかだんだん…おえ…気持ち悪く…

 なってきたのだが」

 

白雪は、お腹をおさえて、その場でうずくまった。

 

「わたし、うんこ出そう!」

 

風乃は明るい声で言い放った。

 

「心の声をストレートに言える人って

 うらやましいな…」

 

白雪はため息をついた。

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【トイレは満員】

 

「誰かいますか〜!」

 

女子トイレに入った風乃は、トイレ全体に響き渡る声で、

さけんだ。

トイレは電気がついてなく、真っ暗だ。

 

「おい、風乃。

 今夜中の23時30分だぞ。

 誰もいるわけないだろう。

 さっさとトイレ入ろうぜ〜

 もう耐えられん」

 

「ううん、いるのよ。

 この時間帯はなぜか混むのよね〜」

 

「いるって…何が」

 

「女学生がいるのよ」

 

「女子トイレに女子学生がいるのは当たり前だろう!

 男子学生が入っていたら怖いわ!」

 

「女子学生じゃなくて、女学生。

 昔、戦争で死んだ女の子たちの霊が

 集まっているのよ」

 

「おいおいおい!

 嘘つけ!

 いくらなんでもそれはないだろう!

 もうトイレの電気つけるぞ!」

 

白雪はトイレの電気のスイッチを押した。

 

「はあ!?」

 

白雪は女子トイレの光景に驚愕する。

女子トイレのドアはすべて閉まっていた。

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【トイレを探して】

 

「風乃…

 校舎すべての女子トイレが埋まっていたではないか。

 女学生多すぎだろ…

 いったいどうするのだ…

 俺はもう…もたんぞ」

 

がくがくと震えながら歩く白雪。

両腕は、お腹を守るように組まれている。

 

「うーん、どうしようかな…

 私ももう…だめかも。

 ここでしようかな」

 

風乃はスカートに手を伸ばす。

 

「おい! やめろ!

 ここは校庭だぞ!

 人が見ていたらどうするのだ!」

 

「誰もいないから、平気だよ…」

 

「俺がいるだろ!」

 

「白雪は女だから、見られても大丈夫だよ」

 

「女同士だから大丈夫って問題じゃないだろう!」

 

「ちぇ、白雪のケチ」

 

「とにかく、外で出すのは最終手段だ!

 もっと手はあるだろう!

 …男子トイレとか、あいているんじゃないのか?

 気はすすまないが、それしかない」

 

「男子トイレに入るのはいや!

 絶対いや!

 男子トイレに入るくらいなら、全裸で校庭一周する!」

 

「…男子トイレは嫌で、校庭でするのはOKの

 基準を教えてくれないか?」

 

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【ひらめき】

 

「そうだ! いいこと思いついた!」

 

「なんだ?」

 

「私の家のトイレに行けばいいんだ!」

 

「おいおい、馬鹿を言うな。

 お前の自宅まで我慢しろと言うのか?

 絶対もたんぞ。

 男子トイレに行くほうがまだマシだ」

 

「大丈夫だってば」

 

「何が大丈夫なのだ」

 

「だって、学校の隣が自宅なんだもの!」

 

校門から距離にして100m足らず。

風乃の家がそこにあった。

風乃宅の門の前で立ち尽くす白雪。

白雪はぽかーんと口を開くばかりだった。

 

「…家が近いなら、最初から言え」

 

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【両親の許可】

 

「さあ、トイレにれっつゴーよ!」

陽気な声で、白雪の腕をひっぱる風乃。

 

「おい待て風乃!

 俺は雪女だぞ!

 そんな簡単に人の家に入って大丈夫なのか!」

 

「大丈夫よ」

 

「なぜそう言える」

 

「わたし、小さいころから

 幽霊をよく連れて帰ってきたの。

 だから、両親も幽霊には慣れてるの!

 雪女程度なら大丈夫だよ!」

 

(こいつの部屋の中、幽霊だらけなのでは?)

 

白雪は、うーんと悩み、頭をかかえるのだった。

 

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【ふたりでおトイレ】

 

「さあ、トイレにれっつゴーよ!」

陽気な声で、白雪の腕をひっぱる風乃。

 

「おい待て風乃!」

 

「もう、何なの。

 両親なら大丈夫だって、さっき言ったよ?」

 

「トイレは1つしかないのだろう?」

 

「そうだよ」

 

「1人ずつ順番にしか入れないではないか!

 くそっ…早く入りたいのだが」

 

「2人で入ろうよ、トイレ」

 

「何を考えている!

 そんなことができるか!」

 

「え〜、がっかりだなぁ」

 

「お前は何にがっかりしている!?

 何を期待していた!?」

 

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【先に入って】

 

「わたしなら大丈夫。

 白雪、先にトイレ入って」

 

「しかし、風乃は…」

 

「白雪、さっきからすごく苦しそう。

 わたし、そんな白雪を見てるの耐えられない」

 

「風乃…お前…」

 

「ほら、早くトイレ行ってきなよ」

 

「ごめん、風乃!

 先に行く!」

 

「わたしは、庭で出すから」

 

「ごめん、風乃!

 先に行け!」

 

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【トイレでばったり】

 

「ふぅ…生き返るぜ」

 

トイレでひとまず用を足した白雪は

ほっとして胸をなでおろしていた。

 

「なっ!?」

 

トイレのドアが、突然開いた。

あわててトイレにかけこんだせいで、

白雪はカギをかけていなかった。

 

ドアから、中年女性の顔がのぞいている。

「こいつ誰だ? 母親か?」と雪女はしばし絶句した。

 

「こ…こんにちは」

 

中年女性は、トイレの中の白雪に笑顔を向けて

挨拶する。

 

「こんにちは」

 

「あのー、

 夜だから『こんばんは』が正しいと思いますよ」

 

「ああ、親子って似るんだな」

 

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【もう寝よう】

 

「さっきはお母さんがいきなり入ってきてごめんね〜」

 

「やはり、さっきのは風乃の母親か… 

 びっくりしたぞ」

 

「さて、もう夜も遅いし、寝よっと。

 白雪も、寝床用意しといたから

 そこで寝ててね」

 

「おお! ありがたい。

 まともに家の中で眠れるなんて久しぶりだ」

 

白雪は、沖縄に来てからの数日間を思い出した。

野宿。野宿。野宿。の連続。

まともに室内で眠れた日がなかった。

やっと布団のうえで眠れる。そう思うと、

感激で涙が出てきそうだった。

 

「ほら、ここが寝床」

 

風乃は冷蔵庫を指差した。

 

「…布団で寝たいのだが」

 

「ええ!? 冷蔵庫に布団をしくなんて難しいよ」

 

「いや、畳の上にしいてくれ…」

 

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【金縛り】

 

風乃の寝るベッドの横に、

白雪は布団をしいて寝る体勢をとっていた。

 

「う…」

 

「どうした、風乃?」

 

「その、身体が動かないの」

 

「何? 金縛りか」

 

「ううん、違うの」

 

「は?」

 

「霊が、身体のうえに乗っかっているの」

 

「それこそ金縛りだろうが!」

 

「大丈夫、ダイエットしたって言ってるよ」

 

「なら止めない」

 

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【就寝前】

 

「ねぇ、白雪」

 

「なんだ。俺はもう寝るぞ」

 

「くさい」

 

「そう言えば俺、風呂に入ってなかったな…

 悪い。くさかったな」

 

「ううん、白雪じゃないの。

 あそこのおじさんが、くさいの」

 

「さて風呂行くか」

 

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【風呂】

 

風乃は、白雪を風呂場に案内した。

 

「私、シャワーしか使わないから、

 お湯はためてないの。ごめんね」

 

「いや、それだけで十分さ。

 シャワー、使わせてもらうぞ」

 

白雪は衣服を脱ぎ捨て、

きゅっきゅと、シャワーの蛇口をひねる。

 

「じーっ」

 

「おい、風乃。何を見ている。

 俺の裸を見てもつまらんぞ」

 

「ううん。違うの。

 この風呂場、たまに悪霊が出るから

 白雪を見張っているの」

 

「おい誰か! 塩! 塩!」

 

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【風呂2】

「なんだ、騒々しい。

 もう夜の12時を過ぎてるぞ!」

 

「あ、お父さん」

 

「あ、お父さん、じゃないだろう。

 今何時だと思っているんだ。

 ん? 誰か風呂に入っているのか?」

 

「雪女が入っているんだよ、お父さん」

 

「はっはっは。なんだ、雪女か。

 まあ仲良くするんだぞ」

 

「はーい!」

 

「理解がありすぎて困るぞ、お前ら!」

 

「ほら、お父さん、見てみて!

 本物の雪女だから」

 

「お、おい! 風乃!

 のぞかせるな!」

 

「遠慮するよ。

 入浴中の女性を見る趣味はないんだ」

 

(父親は、常識人のようだな。娘とちがって。

 安心した)

 

「お父さんは、入浴中の自分の身体を見て、

 うっとりする主義なんだ」

 

「いいご趣味をお持ちのようで…お義父様」

 

白雪は、あきれたような声で言った。

 

 

 

【南の島の雪女】第1話 ミルクウナリ 完(次回に続く)

 

 

説明
※食事中の方は、いったん食事を止めて読んでください。

【前回までのあらすじ】
風乃は、夜の校舎をうろつくのが大好きな女の子。
ある夜、風乃は家庭科室冷蔵庫にて
「白雪」という雪女に出会った。

それはさておき、
風乃はお腹が空いていたため、牛乳を飲んだ。
しかしその牛乳は賞味期限から10日も経過していた。
風乃は腐った牛乳を吐き出した。
それは白雪に見事に命中し、白雪は牛乳まみれになる。
牛乳まみれにされ、怒る白雪であった。
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コメント
>ko-jiさん 感想ありがとうございます。環境は大事だということが実感(?)できる回ですね。ご心配なく。このあと白雪はもっとひどい目にあいます。(新原)
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