一刀の記憶喪失物語〜袁家√PART4〜
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―――雪蓮が戦場についた時、思わず目を疑った。

 

 

 

若い男たちが戦っているならいざ知らず、中には女や子供、そして老人までもが剣や槍、もしくは包丁などを持って戦っていた。

 

 

しかもその弱者たちが考えられないほどの覇気を見せ、そして勇敢に戦っているのだ。盗賊たちもその姿に怯み、形勢は村人たちが勝っていた。

 

 

だが、結局は村人たち。力もなければ武芸の心得もない。すぐに逆転されて殺されてしまう。もし、雪蓮たちがもう少し遅かったら、今とは違った光景になっていたかもしれない。

 

 

 

「孫呉の兵士たちよ!悪逆非道の盗賊たちを血祭りにあげよ!」

 

 

 

「「わーーー」」

 

 

 

 

 

こうして、雪蓮の兵士たちが村人たちを援護し、そして無事に盗賊たちを壊滅まで追い込むことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

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雪蓮と冥琳は戦を終えると、部下に村人たちへの治療と炊き出しを命じ、二人は村の中へと入って行った。

 

女や子供、そして老人までもを戦わせる非道な大将を見るためだ。

 

二人の歩く道の端には怪我をした子供や女、そして虫の息となっている老人たちに溢れかえっていた。

 

 

 

「最低の奴ね。こんなか弱い人たちを戦わせるなんて」

 

 

 

「そうね・・・・でも、周りを見てごらんなさい。誰一人として悲観していないわ。むしろ、晴れ晴れとした顔をしている」

 

 

 

「そんなの、初めて人を殺して狂ってしまったのよ」

 

 

「本当にそうなのだろうか・・・・」

 

 

「あ、あそこに若者が居るわ。ちょっと聞いてみましょう。それにしても、珍しい格好ね」

 

 

「確かに、何処かの移民だろうか」

 

 

「おーい、そこの少年」

 

 

「あぁん!?なんだてめぇらは」

 

 

声をかけただけなのにこちらに向けてくる明らかな敵意。普通の人なら怖がって何も聞けないだろうが、さすが孫呉の王と軍師、ひるむことなく質問した。

 

 

「ねぇ、この戦の大将って何処にいるのかしら。知ってる?」

 

 

「しらねーよ。つーか、そもそも大将なんていねーからな」

 

 

「いない?でも、確かに村人たちを先導して戦った人がいるのは確かよ」

 

 

「だからしらねーっつってんだろ。おい、じいさん」

 

 

 

 

 

その少年は道端で座って休んでいる老人に声をかけた。頭から血を流しており、包帯で止血されていた。

 

それでもその若者は気にすることなく荒い言葉遣いでその老人に聞いた。その行いに、雪蓮と冥琳は不快に感じずにはいられなかった。

 

 

 

「お、おぉ、北郷さまではありませんか」

 

 

 

「よぉ、まだ死んでねーのか」

 

 

 

 

「ほっほっほ、私には孫がおりますからな、そう易々と死ねませんよ。見て下され、この老体であろうとも、見事に守り切りましたぞ」

 

 

「よかったじゃねーか、後は孫と一緒に暮らしてさっさと老衰しろや」

 

 

「そういたしますよ・・・・ところで、何か御用ですかな」

 

 

「あぁ、こいつらの質問に答えて欲しいんだよ。おら、さっさと言えよ」

 

 

 

そう言って一刀はその老人の隣に腰を下ろした。それと同時に雪蓮が老人の前に立つ。

 

 

 

「ん?おぉ!孫呉の王、孫策さまではありませんか!」

 

 

「あら、よく知っているわね。それよりごめんなさい、来るのが遅れてしまって、そんな怪我までさせてしまって」

 

 

「何を言いますか!私は・・・いえ、私たちはみな不満などありません!確かに盗賊たちと戦い、怪我をし、そして死んだ者もいますが、それぞれ未練も何もございません!」

 

 

「で、でもお爺ちゃん。村を守るのは私たちの役目で」

 

 

「村・・・・?あぁ、そう言えばそうでしたね。あまり考えておりませんでした。自分を守って、あとは孫を守るので精一杯でしたので」

 

 

「そ、そぅ・・・・ところで、この戦の大将って知ってるかしら?」

 

 

「大将ですか・・・・知りませんね」

 

 

「でも、お爺ちゃんを戦わせたり、女子供までを連れ出した奴がいると思うのだけど。だって、あれだけまとまって行動してたのだから、誰か指揮官が居るでしょ?」

 

 

「??おりませんよ?そもそも、私たちは別に共に戦っていたわけではないので」

 

 

「えっと・・・よく分からないけど・・・・そうだ!確か村人たちの先頭を歩いた、白い人がいたでしょ?」

 

 

「あぁ、それなら俺だ」

 

 

と、雪蓮と老人の会話に割り込んだのは、隣で面倒くさそうに話を聞いていた一刀だった。よくよく見れば、上着は脱いで腰に巻いていたので、分からなかったが、白く輝いている。

 

 

「あなた。名前は?」

 

 

「あぁん!?まず自分の名を名乗るのが礼儀ってもんじゃねーのか?王様だがしらねーけど、人としての礼儀だろ」

 

 

「そ、そうね・・・えっと、私は孫策。孫呉の王よ。そしてこっちは軍師の周喩」

 

 

「そうか、俺は北郷一刀」

 

 

「??変な名前ね。ところで、北郷。この戦のことを聞かせて欲しいのだけれども・・・・」

 

 

「めんどくせーし、疲れたし、よくしらねーからパス」

 

 

「あなた・・・・彼女は王なのよ!?そんな振舞いが許されると思うの!?」

 

 

その言葉を聞いていた冥琳が思わず一刀に食いかかったが、雪蓮はそれを引き留める。確かに、王である自分に対する振舞いではないと思っていたが、それ以上に王である自分を目の前にしても態度を変えない、この若者に少し興味を持ち始めていたのだ。

 

 

「それじゃあ、近くに私たちの天幕があるから、そこでお話しましょう。もちろん、情報料としてお金もあげるわ」

 

 

「あぁ?面倒だけど、しょうがねーな。おーい!斗詩!猪々子!ちょっと来てくれ!」

 

 

一刀がゆっくりと立ち上がると、怪我人の看病をしていた斗詩と猪々子に声をかけた。その声に二人は「はーい」「おー」と返事をすると、すぐさま一刀の元にやってきた。

 

そして、雪蓮と冥琳を見て

 

 

「まさか孫策さん!?」

 

 

「あら、そちらは袁家の顔良と文醜じゃない」

 

 

 

 

 

と、連合軍以来の再会をはたしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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それから、雪蓮の案内のもと天幕に入り、それから今までのことを話した。

 

一刀が流星に乗ってやってきたこと、しばらくは一緒に旅をしていたこと、そして記憶を失い、そして麗羽と別れて3人で旅をしていたこと。

 

斗詩は真剣に一刀のことを話し、そして彼が天の使いであることを雪蓮たちに伝えていた。が、肝心の一刀は、猪々子とお茶を飲みながらご飯を食べていた。

 

 

雪蓮と冥琳は斗詩の説明を聞きながら、そして品定めをするように一刀を見た。

 

 

 

「何だ?」

 

 

「ねぇ、さっきの戦いは自分と自分の大切な物を守る戦いだと言っていたらしいけど、それはどうして?」

 

 

「あぁん?」

 

 

「だって、普通に考えてみなさいよ。私たちがたまたま早く助けにこれたから、村人の大半は助かったけれど、もしもう少し遅かったら皆殺しにされていたのよ?貴方の一言で、村人全員が死んでいたかもしれない事態になったのに」

 

 

「だから何だ?」

 

 

「だからって・・・・」

 

 

 

 

「なぁ、村人が死んだかもしれない。だから何?さっきも聞いたと思うけど、あいつらは斗詩と猪々子を盗賊に引き渡そうとしてたんだぜ?あいつらは自分さえ助かれば、他はどうなってもよかった。そう思っていたんだろ?だから俺も同じで、別にあいつらが死のうが関係ねーんだよ」

 

 

 

 

「なっ・・・・何を言っているの!?貴方は天の使いなんでしょ!?大陸に平和をもたらし、民を救う・・・・」

 

 

 

 

「・・・・なぁ、孫策。俺は王様ってのがよくしらねーんだけどよ、王様ってのは神様か何かなのか?」

 

 

 

「何を言っているの。人間に決まっているじゃない」

 

 

「そうか。それじゃあ、あんたは俺が何に見える?神様?天使?それとも人ならざる者か?」

 

 

「それは・・・・人でしょ」

 

 

「あぁ、そうだよな。それじゃあ、村にいたあの老人は何だ?」

 

 

「それももちろん人よ」

 

 

「だろ。つまり、王様であろうとも天の使いであろうとも、ただの村人であっても、結局は人なんだよ。人が出来ることなんて限られている。分かるか?お前一人が大陸を救うって躍起になっても、結局は人なんだよ」

 

 

「・・・・」

 

 

「そんで、人である俺が村人たちを全員救えると思うか?無理に決まってるだろ。でもな、斗詩と猪々子だけを守る、それだけだったら、俺でも出来るかもしれない。まぁ、俺は弱いから、死ぬかもしれないけど、村人全員を救うよりは出来ると思うぜ」

 

 

「そうね・・・」

 

 

「自分に出来ること、自分に出来ないこと、それを自覚しろ。それは王であってもあの老人であっても同じだ」

 

 

「・・・・なら、もし大陸を平和にしたいと思っているなら、どうすればいいの?私だけでは出来ない・・・・だったら諦らめろっていうの?」

 

 

「あん?そんなの簡単だろ。お前が出来ることをすればいいだけじゃねーか」

 

 

「私に出来ること?」

 

 

「王様なんだろ?なら、王様で出来ることをしろ。あの老人は孫と自分を守るので精一杯だったが、お前なら何が出来る?」

 

 

「・・・・・・分からないわ」

 

 

 

そう小さくつぶやいた雪連に一刀はどうでもよさそうに大きく欠伸をして、そして雪連たちに投げかけるように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっそ。なら考えろ。そんで自覚しろ。自分に出来ないことを。

 

 

 

 

 

そんで今度はそこにいる周喩にでも聞いてみろ。そんで二人でも出来ないことを自覚しろ。

 

 

 

 

 

それでも分からなったら、俺に聞いてみろ。そうすりゃあ、三人でも出来ないことを自覚させてやる。

 

 

 

 

 

それをずっと繰り返していけば、いつかは自分たちで出来ることぐらいは分かるんじゃねーの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・誰もが無言になった。

 

 

 

 

先ほどまで王に対する無礼な振舞いに怒っていた冥琳でさえも、今では目を閉じて一刀の言葉に聞き入っていた。

 

 

どうしてかは知らない。

 

 

でも、一刀の言葉には重みがあり、そして深みがあった。それは至極当然のことのようで、そして誰もが忘れてしまっていたことを思い出させてくれる。

 

 

 

「・・・・そうね。ごめんなさい。私が間違ってたわ」

 

 

「おぅ、分かればいいんだよ」

 

 

「それで、これからどうするか宛てはあるの?」

 

 

「ない。金を稼いで、また三人で旅をしようと思う」

 

 

「なら、呉に来ない?冥琳もいいでしょ?」

 

 

「あぁ。少々口が悪いが、こいつのような男が居れば、きっと呉は・・・いや、大陸が変るだろう」

 

 

「そうだな・・・・斗詩、どうする?」

 

 

「私は賛成です。行く宛てもありませんし、それに一刀さんが天の使いであることを大題的に公表すれば、きっと大陸は今よりもよくなると思います」

 

 

「別に俺は天の使いじゃなくてもいーし、それに大陸の平和なんて、それぞれの国の王様に任せればいいだろ」

 

 

「でも、七乃さんは待ってますよ?一刀さんが、迎えに来るのを」

 

 

「・・・・んだな。よし、孫策、呉に行くよ」

 

 

「よかったわ。それじゃあ、信用の証として、私と冥琳の真名を授けるわ」

 

 

「別にいらねーけど、まぁ、いいや。それじゃあ、俺のことは一刀って呼んでくれ」

 

 

「えぇ、よろしくね」

 

 

「あぁ、よろしくされてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀と雪蓮はお互いに握手をした。

 

 

 

 

 

 

その時の一刀の気持ちは、自分を見送ってくれた七乃が今どうしているのか、それだけだった。大陸を平和にする、そんなことは全く思っていなかった。さきほどの言葉通り、武力もない、策もない自分が大陸を救うなど、そんな身の丈に合わないことは考えてない。

 

 

ただ、七乃と会いたい、と思った。

 

 

 

 

 

対して、雪蓮と冥琳は一刀のことをとても気に入っていた。

 

自分に出来ること、出来ないことを自覚しろ。

 

そんな当たり前のことを忘れていた自分たちを恥かしく思い、そして言葉は悪いが、とても優しい人であることも分かった。

 

そうでなければ、斗詩と猪々子が麗羽を捨ててまでも旅に同行するわけがない。

 

 

 

 

そして、もう一つ思ったことは、雪蓮の妹であり、次期呉の王である蓮華のことだった。

 

 

 

 

 

―――一刀なら、もしかしたら蓮華を変えられるかもしれない。

 

 

 

 

そんな、淡い期待を抱いていた。

 

だが、そんなことよりも雪蓮と冥琳が今、考えていたことは。

 

 

 

「・・・・・いい男」

「・・・・だな」

 

 

 

 

小さく、本当に小さく呟いた言葉だった。

 

 

まるで囁いたような言葉だったにも関わらず

 

 

 

「か、一刀さん!はやくこっちに!」

 

 

 

斗詩が一刀の腕を掴んで、自分の後ろに隠すと、雪蓮たちを睨む。

 

 

 

 

「がるるるぅ!」

 

 

 

 

と、番犬のように唸ったのだった。

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 

 

説明
PART4です。

うーん、今は一日一本あげてますけど、あともう少しでストックがなくなってしまうので、只今急ピッチで制作しています。
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コメント
あー七乃も気になりますね〜小話で出てこないかな?^^; 最後の斗詩が可愛すぎます!(深緑)
ふむ…何を青臭い事をとか思ってたけど中々おもしろい話でしたw言ってる事は3本の矢なんだけどそれを思考におきかえて言うとは…(ポポ)
ジェラシーwwww(スターダスト)
この作品の一刀って、態度はまるでチンピラですが、放つ言葉は賢者の至言ですよね。こんな一刀も面白いですね。(クラスター・ジャドウ)
斗詩が威嚇してますね。可愛すぎる!!!(BX2)
『あっさり呉に行った』について追加ですが、これはあくまで袁家√なので、その場に永住することはありません。それに、戦争の時にもどこかに肩入れするということもありません。(戯言使い)
嫉妬がかわいい♪♪(ペンギン)
この一刀と蓮華の出会いを早く見てみたいですね。(ue)
次に多かったのが『蜀に殴りこみ』ですが、これも安心してください。ワイルド一刀さんに敵はいません(戯言使い)
コメアリガト!(´▽`)まず、斗詩が結構人気らしくて何よりです。安心してください。斗詩はメインヒロイン的な立場なので、これからもどんどん嫉妬は出します(戯言使い)
なんというあっさり。 そして威嚇するとっし−・・・にやにやがたくさんできそうでたのしみですw もち、わいるでぃーな一刀サンの活躍も楽しみにしてますよ?(よーぜふ)
案外、あっさりと呉にいきましたねw でもこれは面白い(´∀`*)続き期待してます〜(みっちー)
呉に身を寄せると、後で七乃の展開になるとき盛り上がりそうですね。(huyu)
各国一刀抜きの状態でしたね そうなると蓮華の様子ってどうなってるのやら(なにやらきな臭い様子?) そして頭に鬼太郎みたくアンテナが立ってそうな斗詩の姿がw(村主7)
蜀編は一刀のやばいくらいの雄姿が見れそうww(イタズラ小僧)
斗詩かわいいww これは他の短編だったものよりも長くなりそうですね。(TAPEt)
嫉妬のオンパレードになりそう、七乃と早く合流してほしい(黄昏☆ハリマエ)
斗詩が病まないことを祈るのみw(だめぱんだ♪)
口が悪い上条さんみたいなかんじだな。(btbam)
蓮華も落とすのか?そして斗詩がさらに嫉妬。(ポセン)
斗詩が嫉妬する姿とか珍しすぎるwww(poyy)
この先の展開がとても気になります(yu-ji-n)
斗詩可愛いなぁw(闇羽)
うん、やっぱこの作品の斗詩は最高だw(根黒宅)
タグ
真・恋姫†無双 一刀の記憶喪失物語 袁家√ 斗詩 猪々子 ワイルド一刀 主人公一刀 

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