それでも皿は廻っている。一番地 廻る目(事件編)
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 それでも皿は廻っている。

 

 

 私服の店 ――

それは店員のコスチュームが自由なお店といってもいい。

昨今の不景気もあいまって、和洋折衷なんでもありのお店が激増している。

 でも工場は作業服、

 消防士は消防服、

 そして寿司屋はさっぱりと鉢巻き、さらしを巻いた、いなせな半袖姿で

 あって欲しいものだ。

なぜなら物事の熟練は、まず見た目を、コスチュームを正すことから

始まるといわれているのだから――

 

 

 一番地 廻る目(事件編)

 

 浅草と秋葉原の電気街、それに横浜が混然一体となったような小さな商店街の街、

名古屋の大須。

 およそないものはないというぐらい、日本各県の名所や世界の文化の

ごった煮の街でもある。

 そしてあの〈メイド喫茶〉発祥の地としても知られている。

 そんな小さな商店街の片隅に老舗の回転寿司屋〈ジェノサイド〉はあった。

 それは親父と娘二人だけのささやかな店であった。

 あまりの殺風景さに来客も一皿食べてそそくさと出て行く、常に客より店員の方が多い、

 そんな店であった。

「ねえ、とーちゃん、なんでうちの店、客来ないんかな〜〜、こんなカワイイ子が

メイド姿で寿司屋のウェイトレス(茶運び)やってんだよ!?」

 娘のリーナがぼやく。

「いや、着目点はいいと思うんだ。寿司屋にメイドだろ? 高級じゃねぇか。

流行らねぇわけがねぇ。

やっぱし娘がバカだからじゃねぇかな!?」

「なんだとーっ、わたしのどこがバカだーーっ!?」

「じゃあ、流れてくる寿司をゆびさすから名前言ってみな」

「バカにするのもいい加減にしろーーっ!、よぉーしこいっ!!」

 ガラガラ音を立てて、少ない寿司が皿にのってこちらに廻ってきた。

「これは?!」

「とろろ?」

「バカ、トロだ。寿司屋の看板商品だ! じゃあ、これは?!」

「オクラ?」

「バカ、イクラだ!! 普通寿司屋にそんなもんねぇだろーがよ!!

じゃあ、これなら判るだろ、海苔巻いたきゅうりの寿司だ、寿司屋の基本中の基本よ」

「バカにするなーーっ、河童だ!!」

「バカ野郎、かっぱ巻きだ! 妖怪巻いてどうする!? そらみろ売り物の名前

すら知らねえバカだろうが」

「ううーーっ!! だってイギリスと日本のハーフに寿司なんかよくわかんないよーーっ、

メイドなんだもん紅茶とかコーヒーならわかるよ」

「俺は紅茶やコーヒー作るのめんどくせーから嫌いなんだ。粉茶置いとけば

客が勝手に作って飲むだろ」

「じゃあ、なんのために、わたしがいるんだっ!?」

「そりゃあ、おまえ、ですぷれー代わりだよ」

 

 ガラガラッ

 誰かがのれんをくぐり、戸が開く。

 

「ほ〜〜ほっほ、それは((display|ディスプレイ))ですわ、おじさま」

「おっ、晴美ちゃんか、毎度!!」

「はるみん、まいど!!」

「バカだねぇ…… おまえなんのためにメイドのカッコしてんだい!? 

そこは「メイドっ!!」だろ」

「う〜〜ん、はるみん、メイドっ!!」

「統一感のない寿司屋さんね…………」

「はるみん、なんにいたす…………」

「あんた、なに噛んでんのよ。いいわよ私適当にとって食べるから」

「珍しいじゃん、はるみん、なにしに来たの!?」

「お寿司食べに来たにきまってるじゃない。ほんの気まぐれよ。

さっさと食べて二度と来ないから安心して」

「客が来た理由なんてどーでもいいんだよ!」

「痛てッ、とーちゃん、どつかなくてもいいじゃないのさ」

 

 ガラガラッ

 また誰かがのれんをくぐり、戸が開く。この店にしては珍しい客入りだ。

 

「まいどっ!! らっしゃ〜〜い!!」

「メイドっ!!」

「すみません、あの、回転寿司…… ジェノサイドはここ……ですか?」

「ああ、ここだよ」

「あっ、ハルロー先生じゃない! とーちゃん、担任で英語教師のハルロー先生だよ」

「ああ、いつもうちのバカ娘が世話になって済みませんねぇ」

「ねぇねぇ、先生、こんな放課後になんの用? えへへー、ひよっとして〜〜、先生、

メイド姿のわたしに惚れちゃった? ていうか惚れてるね?」

「え? なに言ってるんだ? 僕は今日初めてここに伺って、君のメイド姿を見せて

もらったんだけど?」

「!!!! ちよっ!! ちょっとちょっとリーナさん、あんたちょっとこっち来なさいっ!!!!」

 いきなり奥のトイレにひきずられていき、晴美に尋問されるリーナ。

「リーナ、あんた晴郎先生とどーいう関係!? い、いつも先生ここに来るの!?」

「だって、メイドのわたししか売りのないこんな寿司屋に来るんだよ、

そんなのわたしに惚れてるか、メイドが好きかのどっちかに決まってるじゃない」

「そうか、そうなのね…… 先生はメイド好きなの…… そうなの…… 

よぉぉ〜〜しっ!!!!」

「わたしに惚れてるって選択肢はないんですかい!」

「マスター、メイド服の残りありませんかっ!?」

「おれはマスターじゃねえよ大将だよ。メイド服なら奥に替えがいっぱい

ぶら下がってるから好きなのとって着な」

「はぁ〜〜い♪」

 

 

 …………英語でミイラはマミーポコ。 

 

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「じゃ〜〜ん、メイド2号!! どう!?」

「おおっ、リーナより似合ってるじゃねえか」

「イギリスと日本のハーフのわたしよりメイドが似合ってるって、そんなんありーーっ!?」

「フフン、メイドにはね、ブルネットメイドっていうのもあるのよ〜〜、

ほらほら、タイトスカートをひるがえし〜〜、くるくるくる〜〜り♪

(森薫さんのシャーリー風に(笑)」

 バックに舞う、ファンシーなフラワー。

「おおっ」

「晴郎先生、今日から入店になりましたメイド2号です〜〜♪ よろしく〜〜♪ 

お好きなお寿司選んで下さいな、すぐに私がお持ちいたします〜〜♪」

「ああ、ど、どうもじゃあ、かっぱ巻きもらおうかな」

「大将、かっぱ巻きお願いしま〜〜す♪」

「とーちゃん、河童だってさ。先生給料日前かな、とろろとかさ、もっと高いの

頼めばいいのに」

「バカだねぇ、ホントバカだね。まだ寿司のことがわかってねぇ。あれでいいんだよ。

初めはあっさりした物から頼んでって真ん中あたりで濃い味の寿司を頼んで、

最後にさっぱりした寿司で締めるって組立するのが通(つう)ってもんだろが」

「うざ〜〜。そんなの海鮮丼頼んでさっさと済ませちゃえばいいじゃん。イキじゃないよ。

それでも江戸っ子かい!?」

「身も蓋もねぇヤツだね、ったく……」

「ところで、リーナくん、今日ここへ伺ったのは、君にお願いがあって来たんだけど」

「えっ、なになにわたしにお願い!? 大抵のことならさせちゃうよ」

 ポカポカッ

「痛いな〜〜。二人とも寿司桶でなぐらないでよっ」

「実は……」

 先生は持ってきた大きな風呂敷鼓をほどいて三枚の人物を描いた油絵を取り出した。

「この絵がなんのために、どんな意味をこめて描かれた物なのか推理して教えて欲しい。

なにかの間違いとは思うけど全校知能テストでIQ201を叩きだしたという

君の頭脳に期待してお願いしたい」

「なにかの間違いだろ」

「IQ数値が高いから頭がいいとは限らないわ。人のお役に立てるオツムじゃ

なかったら無意味だもの」

「し、失礼な連中ね! いいわよ名探偵ホームズが腰抜かす推理見せてやる!」

「犬の方かい!」

 

先生が取り出した三枚の人物画は正方形のキャンバスに同じ人物が描かれていて、

 

 一枚目に描かれた老人の眼は四つ。

 二枚目に描かれた老人の眼は七つ。

 最後の三枚目に描かれた老人には鼻と口はあるが眼は描かれていなかった。

 しかもペろっと舌を出していた。

 

「先日亡くなったゲーム好きなお爺さんの形見でね、絵が趣味で生前に

描かれた物を形見分けしたのは、いいんだけど、なにかいかにも意味ありげな絵だろ。

気になってしょうがないから頼むんだ。なるべく早く教えてほしい。それじゃあ」

 言いたいことだけ言ってかっぱ巻きだけ食べてハルロー先生はそそくさと帰っていった。

「なんだよー、やっぱり給料日前だったんじゃん」

「あんた、惚れてるねとか大抵のことさせるとか恋する乙女みたいなこと言うなら、

今日は体調が悪かったんだーとか、少食な人だったんだーとか、なにか、いい解釈して

あげなさいよ」

「う〜〜、それにしても、こんな三枚の絵だけ見てなんの意味があるのか謎を

解けって無茶だよ」

「あら、そう? 私判ったわよ」

「俺も判った」

「ふぇ〜〜っ!? 判んないのわたしだけ〜〜!?」

「教えて欲しい〜〜?」

「う〜〜、うん……ギブアップ。教えて……」

「ふっふふ…… ズバリ、この絵は六枚の絵を組み合わせてできるサイコロの一部よ!!

それが形見分けの時にバラされてその一部が先生の手元に渡ったのよ!!

キャンバスが正方形で人物画の目が四つあるのはサイコロの目を表してるのよ! 

そのくらいピンとこなきゃ!!」

「その通ぉ〜〜り!! 俺は元ネタの漫画も読んだし、アニメも見たッ! それが正解だッ!!」

「………くっ……」

「ん?」

「くっくっ くっ……」

「なんだ?」

「くっくっく………… あっはっはは!! 二人ともハァ〜〜ズレ〜〜 ブッブ〜〜!!」      

「なっ、何っ!?」

「ど、どうしてハズレなのよ!?」

「うふふ、教えましょー。その理由は三つもあるよ。

 まず一つ。サイコロの目は必ず対面と対面の目の合計が七になるようにできてます。

よって七つ目の絵がある段階でサイコロは成立しません。

 もう一つ。同じように目がないサイコロはないのでそんな絵が混じっている段階で

サイコロは成立しません。

 最後にうふふふ……、目が七つのサイコロなんてありませ〜〜ん!

や〜〜い二人ともたんさいぼーー!! へっへぇ〜〜ん! 笑えるね!!」

「むかつくわね…… くそ小憎たらしい…… 腹立つ……」

「バカにバカにされる、このバカバカしさ、どうしてくれようか、このアマ……」

「とは言うものの、二人を相手に日頃のうっぷんを晴らしても謎が解決したわけじゃなし、

どうしたもんか、う〜〜ん……」

「そうよ、偉そうに。そういう生意気は謎を解いてから言いなさい!」

「ゲーム好き……、サイコロじゃない……、それでもキャンバスがあえて正方形……」

「しかし気持ち悪い絵ね、目が七つなんて多すぎよ」

「目が七つで多……い、…………そうか!! わかった! わかりましたよワトソンくん!!」

「ワトソンくんって誰よ!?」

「このつづきは解決編でね!」

 

 

 …………最終巻で矢吹君あなたのことが好きだったのよとか

       言われても、もう手遅れポコ。 

  

 

 一番地 廻る目(解決編)につづく

 

説明
祝アワーズ万歳!
京アニと並び、今をときめくシャフトのアニメ化で
まーやんのDOWN TOWN OPとは最強じゃないすか(笑)
そうとう時間かけてシャフトの説得頑張ったんだろね(笑)
Yさん、良かったですね〜 まちがいなく傑作です!
これで長年のアニメ化の不遇(雑誌もか(笑))に
一矢むくえたって感じがして憂さが晴れて気分爽快な
気がしますよ(笑)
というわけで、ささやかながら画報社のYさんたちに
エールの気持ちを込めて、うちのリーナお嬢様一同が
リスペクトパロディを演じます(笑)
しかし13話はもったいない。
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それでも町は廻っている メイド リーナ 二次創作 パロディ シャフト 

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