一刀の記憶喪失物語〜袁家√PART15〜
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一刀と七乃が蜀を出て数日がたった。

 

二人旅と言うこともあり、しかも馬を使っているので、予想以上に早く移動することが出来ている。また、七乃が安全な公道を選んで進んでくれているお陰もあり、盗賊とも遭遇することなく、無事に魏への道を進んでいた。

 

二人は途中、魏領の中でも特に大きい街に立ち寄ることにした。

 

理由は食料と水が尽きかけていたからだ。また、最近は野宿続きでゆっくり休むことも出来なかったので、今日はゆっくりと宿屋で休もうと言うことになった。

 

 

「しっかし、賑やかだな。この街は。たいしてでかくもねぇのによ」

 

 

「そうですねー、確か、張三姉妹と言う、旅芸人の本拠地らしいですよー。出し物は・・・・歌と踊りらしいです」

 

 

七乃が先ほど配られた瓦を見て一刀に説明する。

 

しかし、一刀は「ふーん」と大して興味なさそうに返した。そしてうーん、と体を伸ばす。

 

それと同時に一刀が背負っている鎧刀が衣服にすれる。

 

 

「そう言えば、その背中のなんですかー?もうそろそろ教えて下さいよー」

 

 

「あぁん?鎧だ」

 

 

「もぅ、そればっかり。前使ってた刀は置いてきちゃうし、全く、私が一刀さんを守ってあげないといけませんねー」

 

 

「安心しろ。それは俺が引き受けてやるよ」

 

 

「??よく分かりませんが、期待しないでおきますねー」

 

 

と、七乃はそう言ったっきり、押し黙った。

 

七乃と二人きりになるのは、実はこの旅が初めてだった。ゆえに、何を話せばいいのかが分からず、二人は時々今のように黙りこくることがあった。

 

七乃は相変わらず、一刀の後ろを歩いていた。

 

どうして隣を歩かないんだ?と聞いたら、七乃は

 

 

「どうしてって、こんな変な格好した人の仲間だと思われたら嫌じゃないですかー」

 

 

と、相変わらずの悪態をついた。

 

 

「はぁ・・・・んで、次は何買うんだ?」

 

しかし、答えが帰ってこない。

 

 

「七乃?」

 

 

一刀が振り返ると、七乃が街の露店の前で品物を見ていた。普段の七乃にしては珍しく、じーっと見ている。

 

 

「何見てんだ?」

 

 

「あ、一刀さん。見てくださいこれ」

 

 

「あぁん?」

 

 

「指輪ですよー。綺麗ですねー」

 

 

七乃が指さした先には、質素ながらも、光輝く指輪があった。値段もそれなりに高かったが、けして買えない額ではない。

 

 

「へぇ。確かに綺麗だな・・・・・買ってやろうか?」

 

 

「余計なお世話ですよー。第一、私は手袋をしていますから、必要ないですし、それに仕事の邪魔です。装飾品なんてー」

 

 

と七乃はそう言ったきり、先を進んで行ってしまった。

 

一刀はそんな七乃にため息をつき、そして露店の親父に声をかける。

 

 

「おい親父。これをくれ。出来れば安くしてくれ」

 

 

「ん?それはどうしようかねぇ」

 

 

「実はな、俺たち新婚なんだよ。んで、何か記念に贈り物してぇなぁって思ってんだよ。なぁ?頼むよ」

 

 

「うーん、仕方がないねぇ。よし、持ってけ泥棒!」

 

 

人がよさそうな親父さんはにっこり笑うと、表示額の半額ほどの値段でその指輪を売ってくれた。

 

 

「ありがとよ。また来るよ」

 

 

一刀さんは親父さんにお礼を言うと、その光景を少し離れた所から見ていた七乃へと近づいて行った。

 

 

「ほら」

 

 

「さらりと嘘を言わないでくださいよ。誰が新婚ですかー。まったく、身の程を弁えてくださいよー」

 

 

「似たようなもんだろ」

 

 

「全然違いまーす!こんなのと夫婦だと思われたら、もう外を歩けませんよ」

 

 

「はいはい・・・・ほら、やるよ」

 

 

「もぅ、全く。何無駄遣いしているんですか?私、こんなのいりませんー」

 

 

「なら俺の代わりに捨ててくれ」

 

 

「・・・・・しょうがないですねー。帰ったら斗詩ちゃんにでもあげます」

 

 

そう言って七乃は一刀から指輪を受け取ると、どうでもよさそうな顔をして、適当に袋に入れると懐にしまった。

 

さすがに折角の贈り物をそう扱われるのは、送り主としてはとても複雑な気持ちだが、一刀は対して気にしていないように、先ほどと同じように街を歩いた。

 

七乃はその後を数歩遅れて歩き、こうしながら二人で街を見て回った。

 

 

 

 

 

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夜。街も多いに見ることが出来、二人はとても満足していた。

 

そして、今日泊まる宿を探していると、どこも満席。どうにか一つだけ見つけることが出来たが、それは一人用。しかし、時間も時間で、何処も開いてなさそうだ。

 

仕方がない、と言うことで、二人はその部屋に泊まることにした。

 

しかし、若い男女が一つの部屋にいるにも関わらず、一刀は相変わらずで、そして七乃も特に意識していないように振舞っている。

 

 

「いいですか?変なことをしたら、噛みつきますからね?」

 

 

「はいよ。さっさと寝ようぜ」

 

 

「わかってまーす。はい、おやすみなさーい」

 

 

七乃は蝋燭の火を消すと、ベッドの隅っこの方でうずくまった。

 

一刀はそんな七乃を見てため息を漏らすと、七乃とは逆の方に顔を向けて横たわった。本当は床で寝ようか?と一刀が提案したのだが、七乃が別に気にしないから同じベッドで寝よう、と言ってきたのである。何だかんだ言いながら、七乃は一刀に優しかった。

 

 

「・・・・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

二人の間に会話はなく、お互いに本当に気にしていないように目を閉じていた。外では虫の鳴き声が聞こえ、静寂の部屋にはよく響いていた。

 

 

「あの・・・・起きてます?」

 

 

「あぁ。起きてるよ」

 

 

「私のかけ布団の面積、とっても狭いです。なのでもう少しならこっちに来てもいいですよ」

 

 

「はいはい」

 

 

と一刀は寝返りを打ち、そして少しだけ七乃の方に近づいた。

 

少しだけ移動した・・・・・にも関わらず、何故か一刀の顔の目の前には、七乃の顔があった。

 

 

「おい。近すぎ」

 

 

「布団が狭いんだから仕方ないですよ―」

 

 

「そうかい・・・・さっさと寝ようぜ」

 

 

「そう言えば、枕を一刀さんに貸してあげたので、私の枕がありません」

 

 

「あぁん?なら返すよ」

 

 

「いいです。ちょっと失礼・・・・」

 

 

と、七乃は少し上半身を起こすと、一刀の腕を持ち、そして腕の上に頭を下ろした。所謂、腕枕だった。

 

 

「寝心地最低ですが、ないよりはマシなので使ってあげますねー」

 

 

「そうかい・・・・・お休み」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

一刀は目を閉じる。

 

 

腕には微かに感じる七乃の重み。その重みが逆に心地よかった。

 

 

 

ぽすん

 

 

 

少し衝撃を感じたので一刀が目を開けると、七乃が一刀の胸に顔をうずめ、一刀の体を掴んでいた。

 

 

「どうかしたか?」

 

 

「お嬢様、どうしてるでしょうか」

 

 

「・・・・・」

 

 

ぽつり、と脈来もなく七乃が呟いた。

 

声は埋もれて、とても小さかった。

 

 

「いつもお嬢様と一緒に寝ていたんです。でも、お嬢様を捨てて、一人で旅をして分かったんです。ベッドは、私一人には大きすぎるって」

 

 

「・・・・・」

 

 

「でも、それはきっとお嬢様も同じなんだと思います。いいえ、私以上にベッドが大きく感じているに違いありません」

 

 

「・・・・・」

 

 

「泣いていないですかね」

 

 

ぐす、と七乃が鼻をすする音が聞こえた。泣いているのはお前の方だろ、と一刀は心の中で思った。だが、口には出さず、いつも通りに気のない返事をかえす。

 

 

「さぁな」

 

 

「やっぱり、戻ってあげて、お嬢様の傍にいた方がいいですかね」

 

 

「さぁな」

 

 

「・・・・もぅ。一刀さんのために私はここまで来たんですから、少しぐらい優しい言葉をかけてくださいよー。この鬼畜―」

 

 

「わりぃ。俺は優しくないから、優しい言葉なんてかけれねぇよ」

 

 

「・・・・・」

 

 

「だから、美羽のためにお前に「帰れ」なんていえねーよ。俺はお前に居て欲しいから」

 

 

「・・・・・」

 

 

「優しくねーよ。俺は我がままだ。だから言う。七乃、傍にいろ」

 

 

うぅ、と今度は鼻をすする音とうめき声が一緒に聞こえた。七乃が一刀を握る力が強くなった。

 

 

「私は、斗詩ちゃんみたいに女の子らしくないです」

 

 

「知ってるよ」

 

 

「私は蓮華さんみたいに素直じゃないです」

 

 

「知ってるよ」

 

 

「体型だって、私より良い人がいっぱいいます」

 

 

「知ってるよ。全部知ってる」

 

 

一刀が七乃の頭を撫でてやった。すると、少しだけ七乃の呼吸が落ち着いてきたように思えた。

 

 

「・・・・・だ、だけど、私だって頑張ってるんです。お昼に買ってくれた指輪だってしてるんです。でも、見られると恥ずかしいから手袋で隠していて、それに今だって、口であんなこと言っても、凄く緊張してて、ドキドキしてて・・・・・」

 

 

「そうか」

 

 

「私、初めてなんです。こんなにもドキドキしてるの・・・・・でも、どうやって甘えればいいのか分からなくて・・・・こう言う時、斗詩ちゃんならどうするんですかね」

 

 

「しらねーよ。お前はお前の好きなようにしろ。俺は嫌とはいわねーから」

 

 

「・・・・節操がありませんね」

 

 

「言ってろ」

 

 

「好きです」

 

 

突然、七乃が呟いた。会話の流れもあったものじゃないが、七乃はしっかりと呟いた。そう言えば、七乃が直接一刀に言ったのは初めてであった。

 

 

「好きです。大好きです」

 

 

「・・・・あぁ」

 

 

「ごめんなさい。女の子らしくないけど、好きなんです。うまく甘えられないけど、好きなんです」

 

 

「あぁ」

 

 

「素直に言えなくてごめんなさい。でも好きなんです」

 

 

「あぁ」

 

 

「いっぱい酷いこと言ってごめんなさい。でも好きなんです」

 

 

「あぁ」

 

 

「傍にいさせてください。お願いします」

 

 

「・・・あぁ」

 

 

「七乃、頑張ります。一刀さんの傍に入れるように頑張ります。だから、一人にしないでください。一人は寂しいです」

 

 

「・・・・あぁ」

 

 

「お嬢様も捨てて、今は一刀さんしかいないんです。だから、七乃を捨てては駄目です」

 

 

「分かってるよ。嫌と言っても傍に居てやるから」

 

 

「七乃の傍に居てください・・・・」

 

 

まるで幼子のようにしがみつく七乃の頭を一刀は撫でてやる。

 

そう言えば、斗詩には猪々子が居て、猪々子には斗詩が居て、結局あいつらは二人だった。でも、七乃は一人で旅に出て、そして一人で寝て、一人でご飯を食べて・・・・。いつも美羽と一緒だったから、一人になるのは初めてで、寂しくて、苦しくて。

 

でも、自分の性格上、人前で一刀に甘えることは出来ない。だから今まで、その寂しさを抑え込んでいたのだろう。

 

 

「七乃」

 

 

「・・・はい?」

 

 

「自分で七乃って言うの、可愛いな」

 

 

「・・・・馬鹿」

 

 

「また言ってくれよ」

 

 

「いやでーす。そう言えば、一刀さん、顔にゴミが付いていますよ」

 

 

「その手には引っ掛からねーよ」

 

 

「そうですか。ならそのゴミ塗れの顔のまま外に出ればいーんですよ」

 

 

「はいはい」

 

 

「全く、一刀さんはやっぱり優しくないですねー」

 

 

「だから言っただろうが、俺は我がままだって。何があれば強引にでも自分のしたいようにする」

 

 

「はいはい。頑張ってくださいね」

 

 

「あぁ、頑張るよ」

 

 

一刀は強引に七乃の顔を掴む。

 

いきなり顔を掴まれた七乃は当然ビックリして、一刀に文句を言おうとした瞬間に、一刀の口で口をふさがれてしまった。

 

 

 

 

しばらくして、どちらかとなく、唇を離した。

 

 

「強引ですね」

 

 

「強引だよ」

 

 

「でも嫌いじゃないです」

 

 

「そうか」

 

 

「またしてくれますか?」

 

 

「またいつかな・・・・」

 

 

「七乃・・・・・待ってますよ」

 

 

「あぁ」

 

 

「それではお休みなさい。せいぜい、悪夢を見てください」

 

 

「お前もな」

 

 

最後にもう一度だけ口づけをして、二人は目を閉じて眠りに入った。

 

 

 

 

 

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次の日の朝、七乃はいつも通りに振舞い、そして一刀もいつも通りだった。まるで昨夜の出来事が夢であるかのように。

 

でも、確かにあれは夢ではなかたった。

 

 

 

 

 

なぜなら、いつもなら数歩後を歩いていた七乃が

 

 

 

 

 

 

 

 

「一刀さん。遅いです。亀の方がまだ早いですよー」

 

 

 

一刀の手を引いて前を歩いていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その七乃の天の邪鬼ぶりに一刀は思わず笑みを浮かべていたが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ちくらみがしたので、一刀は一度立ち止まり、眼を少し閉じた。すると、すぐに立ちくらみなどなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

―――気のせいか。

 

 

 

 

 

一刀は先を行く七乃の後を追いかけた。

 

 

 

 

次回に続く

説明
ようやく続きができましたー。今回は七乃がヒロインです。

あと、重大報告。

実は今、ゼミのセレクションのレポートをしなければならないので、投稿が遅れるかもしれません(´Д⊂グスン
ネタがない、大学のレポート、このふたつのせいで、どれほど遅れるかは分かりませんが、必ずこのお話は完結させてみせます。なので、安心してください
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コメント
一刀に嫌な感覚がきたな・・・悲しみの序曲にならなければ良いのですが・・・。 七乃の甘え方が可愛くて悶え転がりそう^^; 斗詩もそうだがこんな良い娘を泣かせる結末なんぞ誰も望まない!気のせいなら気のせいで問題ないが、もしもの時は・・・。 兎に角今後も楽しみです!(深緑)
フラグ・・・なのか・・・(りゅうじ)
七乃可愛いのぉ……!(よしお)
消えないデーーー!!!(BX2)
立ちくらみ!?しかしここでは・・・三国に干渉した事がフラグになるのか?「単なる目眩でした」で済んでくれることを願うばかりですが、果たして(村主7)
な、何やらフラグがたった気がするんですが…(ちくわの神)
ベッドと七乃が言っているのが気になったなぁ(natsume_lily)
…どうやら、危惧していた事態が、起き始めてしまっているようだ…。はてさて、一刀は如何なる?(クラスター・ジャドウ)
戻るのか?消えるのか?気になるな。(ryu)
まさか!?ここで元に戻るフラグ発生か!?(スターダスト)
このまま突き進んで欲しいが ここにきてフラグ…(bal)
ひらいてる行間が怖い(((( ;゚д゚))))アワワワワ(ペンギン)
おい最後のは一体何なんだ?すごく気になるよー!!そして七乃さんかわいいww(ROXSAS)
フラグが・・・・(七夜)
なんかいやな予感が……(紫炎)
立ちくらみ!? まさか魏ルートの消失が....。(yama)
とりあえず、次は魏で華琳と対決、そして次は説教と相変わらずの流れです。そして魏の次は・・・・・?それはまたのお楽しみということで〜(´∀`*)ウフフ(戯言使い)
コメアリガト!(´▽`)立ちくらみが、いい具合にみなさんをひきこんでいますねー(´∀`*)(戯言使い)
P2までニヤニヤしてたのに最後のページで一気に笑みが消えました・・・(イタズラ小僧)
これは・・・。(中原)
七乃さん・・・かわいいよぉw そして立ちくらみ・・・気になりますな(よーぜふ)
立ちくらみ・・・・記憶が戻るのか?(黄昏☆ハリマエ)
七乃はかわいいなぁ。(poyy)
まさか・・・魏√フラグか?!(btbam)
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