真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 序章・終幕 『運命始動』
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 「では、そなたは天の使いではないと?」

 

 「いや、まあ。私がいた世界は、この世界とは比べ物にならないほど、文明も技術も進んでいますから。天の国……といっても、差し支えはないとは、思いますけど」

 

 天の国とはどんなところか、と。劉弁に問われた一刀が、自分は実際には天人ではなく、今から千八百年後の、未来の人間だということを、思い切って話してみた。……理解されるされるかどうかは、正直分らなかったが。

 

 で、その反応が、先の劉弁の台詞である。

 

 「千八百年、ですか。……なんだか、気が遠くなるような数字ですね」

 

 「せやな。正直、いまいちピンと来んわ」

 

 「……よく、わからんが。一刀はやはり天人だと。そういうことでいいのか?」

 

 一刀の説明を理解出来ていなさそうな風の徐晃が、眉間にしわを寄せて、その首をかしげる。

 

 「徐公明の申すとおりでよかろ。どのみち、千八百年も未来の人間だといわれたところで、大多数の者は、理解することなどできぬであろうしの。……余もまあ、完全に理解したとは、言いがたいしの」

 

 クイ、と。その手の中の茶器を口につけ、劉弁は、中身の茶を一気に飲み干す。

 

 先の騒動からすでに二日。

 

 とりあえずの事後処理が一段落し、少し休憩でも、となったところに劉弁が現れ、一刀の話を一度じっくり、聞いてみたいと言い出した。そのため、良い機会だからと、徐庶らも同席しての茶会と相成ったわけである。

 

 ……もっとも、最初のうちは徐庶も姜維も、そして徐晃も、皇太子が同席するということで緊張の面持ちであったが、三十分も話しているうちに、すっかり緊張の糸が解けたらしく、今ではかなりくつろいで会話を行っていた。

 

 「……あの、殿下?それはそうと、一つお聞きしたいんですが」

 

 「おう。何かの?」

 

 「いえ、その。……先ほどから、あそこでこっちを見ている女の人は……」

 

 と言いつつ、一刀がちらりと、その視線を少し離れた場所の木の陰にいる、一人の女性に向ける。

 

 「ああ、彦雲か。あれは、王?といってな。漢の司徒、王允の姪にあたる者じゃ。ま、余の護衛役みたいなものだの」

 

 「……こちらに、お呼びしなくていいんですか?」

 

 「うむ。余もあれに、参加するよう誘ったんじゃがの。自分は遠慮すると言って訊かんのだ。ま、気にせずにおいてやってくれ」

 

 『は、はあ……』

 

 その、王?の突き刺さるような視線を気にしつつも、一刀たちは一応、劉弁の言葉に従い、会話を再開する。

 

 で、その王?はというと。

 

 (ああ……!!ご主人様がこんなに近く居るって言うのに、せっかく”本来の姿”で来れたっていうのに、”ルール”があたしを縛り付ける〜〜〜っっっ!!ああっ!早くお傍に行きたい!思いっきり抱きしめたい!そのお顔にほおずりしたいぃぃぃっっっ!!)

 

 めきめき、と。

 

 その抱きついている木の幹に、両手の指を突き刺しつつ、大量の涙を流し、そんなことを考えていたのであった。

 

 

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 「で、じゃ。話を元に戻すがの。その、おぬしが居た時代では、余らはその名を歴史に、残しているほどの人間である、と。それは真なのか?」

 

 「はい。殿下も、それから、ここに同席している三人も、です」

 

 もっとも、貴方は違う意味で有名なんですが。とは、口が裂けてもいえない一刀であった。

 

 「なるほどな〜。せやからカズは、最初にウチらの名前を聞いたときに、あないな反応をしたんやな?」

 

 「では、ほかには、有名なものは誰がおる?」

 

 「そうですね。一番有名なのは、劉備に孫権、あと曹操「孟徳じゃと?!」……ご存知ですか?」

 

 曹操の名を聞いてビクッと、一瞬体を震わす劉弁。……少々顔を青くして。

 

 「ご存知も何も、都でアヤツを知らんものは、かなり少ないと思うぞ。なにせ、罪を犯したものは上官ですら平気で、その場で”仕置き”をするくらいじゃ。……余も、少々叱られた事があるが、……怖かったぞ、あれは」

 

 詳しいことは聞かないでくれ、と。劉弁は手を合わせて、一刀たちに頭を下げる。

 

 (……相当怖い目にあったんだな。……曹孟徳、この世界でも、油断のならない人みたいだ)

 

 

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 「ところで一刀さん?そちらとこちらの私たちですけど、何か大きな違いみたいなものって、あったりするんですか?」

 

 「そうだな。あたしじゃないあたし、ってのも少しばかり気になるし。どうなんだ?一刀」

 

 徐姉妹(といっても、血縁はない。義姉妹ではあるらしいが)にそう問われ、

 

 「……あるけど。……その、さ。ここに居るみんな、あっちに居る王陵さんも込みで、なんだけど。……全員、男、なんだよね」

 

 『……へ?』

 

 ポカン、と。あっけにとられる一同。

 

 「……私が、男、ですか?」

 

 「はあ〜。ウチがおとこな。……ねえさんやったら、男でも不思議はないけど」

 

 「由。それはどういう意味だ?」

 

 「あ〜、いや、べつに」

 

 徐晃ににらまれ、姜維があわててそっぽを向く。

 

 「……ふ〜む。余が男、なあ。妙な感覚じゃ」

 

 『……はい?』

 

 「?……あ。いや!余は元々男であったの!はははっ!すまんすまん!つい、話の流れというものじゃ!はっはっは!……あ、はは」

 

 しら〜〜っと。

 

 場に流れる変な空気。

 

 「んっ!んんっ!!と、とにかくじゃ!天の世界の話、とても興味深いものばかりじゃった!感謝するぞ、北郷」

 

 と、笑顔を引きつらせながら、無理やり話をまとめようとする劉弁であったが、

 

 (……おもいっきり、話を不自然に逸らしましたね)

 

 (せやな。ま、そこはつっ込まれたないんやろ。ほしたら)

 

 (そだな。あえて触れずにおくか)

 

 (?)

 

 と、一刀たちには、隠し事をしていることがバレバレなのであった(約一名除く)。

 

 

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 「……ところで北郷よ。今ひとつだけ、聞いておきたいことがるのじゃが」

 

 「え?……あ、はい」

 

 先ほどまでとはうって変わって、真面目な表情で一刀を劉弁が見つめる。それを見た一刀も、居ずまいを正して、真剣な顔を彼に向ける。

 

 「……おそらく、大陸はこれより、大きな”変化”の時を迎えるじゃろう。それこそ、その形は様々にな。ともすれば、漢が”滅亡”することも、あるやもしれぬ」

 

 「……」

 

 「むろん、余とてただ流されるだけで、終わる気は毛頭ない。じゃがそれでも、大きく強い歴史の流れには、逆らうこと叶わぬかも知れぬ」

 

 す、と。

 

 席を立って一刀たちにその背を向け、劉弁は、朱色に染まった、夕暮れの空を見上げる。

 

 「……のう、一刀。皇帝として、いや人の上に立つ者にとって、もっとも必要なものとは何であろう。……そなたには解るか?」

 

 夕空を見上げたまま、一刀にそう問いかける劉弁。その問いに対し、一刀は暫し思考をめぐらした後、こう答えた。

 

 「……自分が、独りではないことを知る。人の言葉を、素直に受けられる。そして、他人(ひと)を、信じられる。……では、ないかと」

 

 「……そうか」

 

 ポツリと。一刀の答えに、一言だけつぶやいて、劉弁は完全に押し黙った。茶会も、気がつけば夕餉の時間となっていたため、そのままお開きとなった。

 

 

 そして、翌日。

 

 洛陽へと帰還するため、劉弁が?を発つ時刻となった。

 

 

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 「北郷よ。此度はそなたらのお蔭で、とてもよい経験が出来た。改めて、礼を申すぞ」

 

 「は。ありがたきお言葉」

 

 城の城門前。馬車に乗り込もうとした直前、劉弁がふと、その動きを止めて一刀にその顔を向けた。

 

 「……昨日のな、余の問いに対するそなたの答えじゃが、……余は、それに当てはまっておるかの?」

 

 「……少なくとも、私を初めとして、ここに居る三将の言葉には、その耳を貸してくださいました。……あとは、”これから”、です」

 

 にっこり、笑顔で答える一刀。

 

 「……そう、か」

 

 す、と。

 

 一言だけで一刀の答えに返し、劉弁は馬車へと乗り込む。そして、その扉が閉じられようとした、その直前、

 

 「……白亜」

 

 「え?」

 

 「余の真名は、生涯の伴侶にしか、教えることが出来ぬ。故に、余の字を、そちに託す。……今後は、そう呼んでくれ」

 

 姿は見せず、その声だけを一刀に送った。

 

 「……殿下の字、確かにお受け取りいたしました。……息災で、白亜さま」

 

 「さま、も良い。今後はもっと砕けた話し方でかまわぬ。……息災でな、北郷」

 

 「一刀、でいいよ。白亜も、元気で」

 

 パタン、と。

 

 馬車の扉が閉じられ、ゆっくりと動き出す。

 

 その車中では、劉弁がその顔を、真っ赤に染め上げていた。

 

 これから、と。

 

 そう言った時の、一刀の笑顔を、思い浮かべて。

 

 

 それから半月後。

 

 一刀たちの下に、朝廷からの勅が届けられた。

 

 『北郷一刀を、冀州刺史、?郡太守に封ずる』

 

 

 黄巾の乱の勃発、その一月前の事であった。

 

                                 〜序章・完〜

  

                                〜第一章に続く〜    

 

 

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 てなわけで、序章はこれにて終了にございます。

 

 

 次回はとりあえず、拠点イベント、をお送りする予定です。

 

 

 というわけで、タイトルコールは無しの、次回予告。

 

 

 「次回、真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 幕間の章・一幕」

 

 「どうぞご期待くださいね」

 

 

 それでは、みなさん、また次回にて。

 

 

 『再見〜!!』

 

 

説明
さてと。

北朝伝、序章の締めでございます。

正直、短いです。

一刀たちの休息の一時を、覗いて見ましょう。

では。
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コメント
連絡です。王?の名前を正しいものに直しました。では。(狭乃 狼)
アレン★ゼロさま、さあ、はたしてヒロインの座は?!今後にご期待ください!(オイww(狭乃 狼)
mokiti1976−2010さま、さあ?どうでしょか?^^。(狭乃 狼)
瓜月さま、師匠は出ませんww(狭乃 狼)
hokuhinさま、あれ?王陵って、字は「凌」←でした?・・・調べとこ。(狭乃 狼)
シンさま、それは作者にもわからない(マテww(狭乃 狼)
2828さま、縛りはきついですからね。あ、ルールって意味ですお^^。(狭乃 狼)
紫電さま、規制の内容はおそらく後半になってから明らかに、です。(狭乃 狼)
砂のお城さま、両刀・・・wwwいや〜、さすがにそれは・・・^^。(狭乃 狼)
筋肉マッチョがおんなに!? 護衛か陛下か真のヒロインの座は誰の手?(アレン★ゼロ)
弁さんルートか?弁さんメインヒロインか?(mokiti1976-2010)
史実の王允の甥の王凌が元ネタだったのか王陵wしかしパワーが変わらないので、安心したw(hokuhin)
これからオリキャラが何人出るのか。(シン)
ぶるぁぁが大人しいw(2828)
よーぜふさま、実際無印のとき、”あれ”は仮の名だと言ってましたし、姿だって、もしかしたらと・・・。とりあえず、白亜ともども、出番は当分ありませんがww(狭乃 狼)
本来、か・・・まぁ漢女が本来だったら本気で・・・ですもんねぇw 弁さん改め白亜さん、どう動いていくのか楽しみです、いろんな意味で(よーぜふ)
はりまえさま、ほほほ。・・・いまさらネタばっかですいませんm(_ _)m(ペコリ)(狭乃 狼)
力はそのまんまの漢女さん、美的感覚がかなりずれている漢女?さん。弁はまさかの女設定!?つうことは協も!?(いまさら)(黄昏☆ハリマエ)
村主さま、やっぱりそこに食いつきますねー。くすくす。(狭乃 狼)
ロンロンさま、誰も漢女なんて一言も書いてませんよー^^。弁はまあ・・・エヘww(狭乃 狼)
しかし見かけ(恐らく声も?)女性な御t・・・もとい「ぶるわぁぁぁ」な方w いつものパンツ一丁筋肉おさげが懐かしい・・・ハッ、まさかこれがsayさんの罠なのか!?(村主7)
あの筋肉達磨が実は女!? 漢女じゃないじゃん!!? 弁も実は女なんじゃあ。(龍々)
森羅さま、そんなに驚かなくたって・・・いや、まあ、気持ちはわかりますけどねw(狭乃 狼)
ぶ・・・ぶるぁぁぁがおんなになった!?(森羅)
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