昇龍伝、人 十四章、――終幕。
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――終幕

 

 冀州国境付近、何かが近付いてくる。耳を澄まさないと聞こえないほどの低い音は、徐々に大きく、大地を震わせながら近付いてくる。

 

 それは百近い馬の群れが一度に走る、迫力ある音。荒野の道をもの凄い速度で駆け抜けていく。

 

 その先頭を走る少女は、後頭部に高く束ねた桃色の髪を靡かせながら、溜息を一つ吐いた。

 

「……何でかなぁ」

 

 腕と胸腹を守るだけの必要最小限の装備。それは身軽さを重視した彼女の戦装束で、武人としての正装でもある。

 

 この日のために新調した白鎧は、彼女の身分に相応しい輝きを放ち、また白馬に跨り颯爽と駆ける姿を見て、後に普通、残念と叫ばれる姿を一体誰が想像できようか。

 

「……なぁ越? 『啄郡の太守に任命するから洛陽までこい』 なんて使者を寄こすならさ、何で任命する使者を出さないんだろうな?」

 

 普通はそうだろ? 何故そんなまどろっこしいことをするんだと、彼女はまだ幼さを残す少年に問う。

 

「中央の考えることですからね。見栄を張っているのでしょう」

 

「見栄、ねぇ……」

 

 そう言って、彼女は真新しい鎧を眺める。

 

「言っときますけど、姉さんは違います! 姉さんはこれから太守になられるのですよ。あんな傷だらけの鎧を着ていては、配下の者に示しがつきません!」

 

「まぁ、そうなんだけどさ。でもちょっと煌びやかすぎないか? おっと、町が見えてきたな」

 

 町に近付くに連れ、彼女の口数が減っていく。

 

 何かがおかしいと、眼を細めた。

 

「――微かに、血の匂いがするな」

 

「姉さん?」

 

「越、皆を急がせろ! ――ハッ!」

 

 彼女の名は公孫?。字は伯珪。白馬に跨り、騎馬隊を手足のように動かすことから、異民族からは白馬長史(白馬に乗っている長史)と呼ばれ、恐れられている人物である。

 

 ちなみに、この時はまだ白馬は数えるほどで、彼女が本格的に白馬を集め出すのはもう少し後のことである。

 

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 町にはやせ細った官軍の兵士達がいた。飯を平らげ、憔悴しきった顔でじっと遠くを見詰めている。

 

 越の話によると、この町にいた責任者は、賊の討伐に出ていた官軍の将に斬り殺されてしまったそうだ。何でも賊と結託していたらしい。

 

 そして官軍は……。

 

「追い詰められて、村を見捨てて生き延びた、か」

 

 そこで初めて、この官軍の将らしき人物が現れる。

 

「何も知らぬ癖にほざくな! 兵糧攻めに遭い、死に物狂いでこの先にある砦を突破してきたのだ。?州側にも賊がいて道を塞いでいる! 兵糧の無い村に留まって戦うなど、できるものか!」

 

 男は兵士を指差す。

 

「……見ろ! もう誰一人戦える兵はおらん! 我等にできることは、援軍を要請することしかできぬのだ!」

 

 だがその一言に、越は笑う。

 

「ふん、中央で安穏と過ごしてきたから、賊ごときに後れを取ったのではないのか?」

 

「き、貴様―っ!」

 

「煽るんじゃない、越。――すまなかった。身内の無礼を許してくれ」

 

「ふん、ならば援軍として出向かれいっ!」

 

「――何だとっ!」

 

「あぁ、もう。話がややこしくなるから、引っ込んでおけ」

 

「ですが、姉さん!」

 

「分かった。行ってやる。その代わり、指揮権はすべて私に委ねてもらうぞ」

 

 その一言で、男は肩の荷が下りたと言わんばかりに、満面の笑みで歩いていった。

 

「……姉さん」

 

「そう落ち込むな、越。丁度良い実践になるだろ? 新しい陣形とか戦法も試せる。そうと決まればぐずぐずしている暇はないぞ。越は輜重隊の準備を。食糧は……多めに用意しておけ」

 

「私は騎馬隊を率いて先に援軍に向かう。――騎乗せよ!」

 

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 砦に近付くに連れ、死体の数が増えていく。――暗い門の中を通り抜けた瞬間、世界が黒く変わった。

 

 道の両側には、黒く焼け焦げ、見るに耐えない死体が乱雑に並べられてる。

 

「――何だ、この違和感?」

 

 しばらくして彼女は気づいた。砦を突破してきたと言った官軍の将。その割には、真新しい死体がほとんどないのだ。

 

 次第に道幅が広くなり、徐々に村が迫ってくる。

 

 ――見えた!

 

 叫び声を上げながら、村では無く別の何かを囲む賊たち。

 

「まだ戦っている! 間に、あっ……」

 

 それ以上、彼女は言葉を紡げなかった――。

 

 村の横を走り過ぎたとき、見えたのだ。たった一人の少女が、全身を赤く染めて槍を振るう姿が。

 

 まるで武人の最後を飾るかのような大舞台。そこで彼女は淡々と舞っていた。

 

 一瞬で相手の命を散らせ、その一瞬を紡いでいく。じっと見ていると死に魅了されそうな、そんな危うい光景だった。

 

 ――だが、余りにも無謀すぎる。

 

 彼女の周囲には死体の山が幾つも、幾つもすでに築かれている。このままではいずれ体力が底を突き、彼女もまたその山の一つとなることは明白だった。

 

「ば、化物か!?」

 

 誰かが言った。彼女が一人で相手にしている数は、百や二百ではない。千に近い。

 

 先頭の白馬が速度を上げて、単騎で駆けていく。

 

「は、伯珪様、お待ちください!」

 

「――え、援軍がきたぞ!」

 

 賊からは悲鳴が上がるも、村からは何も聞こえない。

 

「たった一人相手に、寄って集る賊共がっ! 幽州の公孫?がお前達を成敗してくれるっ!」

 

 馬に跨ったまま弓を射ると、矢は鎧を貫通して死に至らしめる。四馬身ほど引き放された兵士達が彼女に続いて弓を射ると、その周辺は阿鼻叫喚の巷と化す。

 

 賊の本隊を抉り取るかのように走り抜けると、距離を取って矢の雨を降らす。成すすべもなく、矢の餌食となっていく。

 

「ち、ちくしょう!」

 

 歩兵が距離を詰めようとすれば……。

 

「――ハッ!」

 

 その機動力を生かして、また抉るように賊の横を駆け抜けては離れていく。

 

「――なっ!?」

 

「賊兵ごときがこの公孫?を止められると思うな! 弱き者達を踏み躙り、傷つけるお前達を、私は決して許しはしない!」

 

 馬の上で剣を抜いた公孫?が賊の前を横切る。

 

「――放てーっ!」

 

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 公孫?の騎馬隊を前に、賊は成すすべもなく撤退していく。が、公孫の兵士達は追撃の手を緩めることなく、手元の矢が尽きるまでその背中に矢を突き立てていった。

 

 公孫?が馬から降り、真っ赤に染まった少女の前に立つ。

 

 構えを解かず、血を滴らせて、たった一人戦場で立ち尽す少女。

 

「……終わったぞ」

 

「……」

 

 赤い涙を流すその少女を公孫?が抱きしめると、彼女は槍を落として立つことを止めた。

 

「……遅くなった。許してくれ」

 

「……貴女の、所為ではない」

 

 そして意識を手放したのだった。

 

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 ……血の匂いがする。

 

 最悪の目覚めだった。身体は重く、思うように動かない。

 

 徐々に意識がはっきりとしてくる……。

 

 ここは……、部屋? そうか。私は気を失って……

 

「大丈夫か?」

 

 心配そうに声を発して、恐る恐る私の顔を覗き込んできた人は、同い年くらいの女性だった。

 

 彼女は、確か……。

 

「えっと、飯食うか?」

 

「……頼む」

 

「良し! 作ってきてやる。待ってろ!」

 

 そう言って、彼女は走り去ってしまった。扉から視線を戻すと、寝台の傍に椅子があるのに気付いた。

 

 ようやく身体を動かせるようになったころ、彼女は粥を持って戻ってきた。

 

「一人で食えるか?」

 

 指を動かす。

 

「……あぁ」

 

 体力をつけねば……。私は粥を掬い口の中に入れる。

 

 ――これは!?

 

「何だよ、一口食べたら固まって。そんなに不味かったか?」

 

 私は首を横に振る。

 

 美味くもなく不味くもないことを、言葉に包み込んで彼女に伝える。

 

「いや、そんなことはない。……以前、病に倒れたときのことを思いだしてな。――あの人が作ってくれた粥は、何故あんなにも甘かったのだろうかと……」

 

「――お、おい! 泣くほど不味いなら、無理に食べなくても!?」

 

「いや、違うのだ。別に泣くほど不味い訳ではない……」

 

 ……気づいてしまった。もう愛する人はいないのだと。

 

 私を助けるために、そして村を頼むと言い残し、崖から落ちて死んでしまったのだ。

 

 ――あまりにも無力だった。愛する人すら守れない。守るどころか、私は守られてしまった。

 

「気遣い感謝致します。確か……」

 

「あぁ、自己紹介が遅れたな。私の名前は公孫?だ。字は伯珪という」

 

「我が名は趙雲、字は子龍。伯珪殿、村を救って頂いたこと、本当に感謝致します――」

 

 もし村を守り通せなかったら、私は……。

 

「いや、そんなに頭を深く下げないでくれ。――偶然だったんだ。洛陽に用事ができて、たまたまその道を賊が塞いでいた。だから退治して洛陽まで行ってきた。う、運が良かったんだよ!」

 

 ――と、顔を真っ赤にしてしまった。

 

 だが、私は彼女の台詞を覚えている。彼女もまたこの時代を憂う者。でなければ、賊に囲まれ、いつ死んでもおかしくない私を助けようなどと、誰も思わないだろう。

 

 私は目を閉じる。

 

「通りかかったのが伯珪殿で、本当に良かった……。あの人との約束を果すことができたのだから」

 

「……疲れてるだろ? もう休め」

 

「……いや、全身が血の臭いで落ち着かんのだ。きっとまた悪い夢を見る。……伯珪殿、言伝を頼めないだろうか。私が湯を張ってほしいと、村の者にそう伝えて貰えないだろうか?」

 

「分かった。準備が出来たら呼びにくるから、それまでちゃんと横になってるんだぞ」

 

 彼女は立ち上がって、静かに部屋を出ていった。

 

 ――限界だった。

 

 止め処なく溢れてくる涙。

 

 楽しかった。彼と旅して過ごした日々が。今にして思えば、ほんの一瞬でしかない。

 

「……続くはずだったのに」

 

 奪われた彼との時間。……私はもう、取り戻すことはできない。

 

 言い残した沢山の言葉と、彼に伝えきれなかったこの想いを胸に、私の意識は深い闇の底へと沈んでいく。

 

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 ――夢なら貴方に逢えるだろうか。

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 ■■■■■、■……■。――■■■……■■■■……

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「おい、子龍! 大丈夫か!?」

 

 どうすることもできない闇の中から連れ戻される。伯珪殿が心配そうに私を覗きこんでいた。

 

「あぁっ……」

 

 緊張で強張った身体を起こし、まだ震える手で顔を覆う。

 

 夢の中でさえ何もできず、私は彼を救うことが……。

 

 すぐにそれを否定するように首を振る。何を馬鹿なことをと。

 

 心が落ち着いてきたところで大丈夫だと言葉を紡ぎ、一呼吸置いて、そこでやっと大きく息を吐き出すことができた。

 

「湯が張れたって……」

 

「……そうか」

 

 立ち上がろうとすると、彼女が私を支えてくれる。

 

「何から何まで、申し訳無い」

 

「いや気にしないでくれ。あ、あのさ……」

 

「……何か?」

 

 彼女は何やら言いにくそうにして、結局。

 

「いや、やっぱり後でいい。私の質問は子龍が落ち着いてからでも構わない」

 

「……ふむ」

 

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 湯気が立ち込める浴室で、湯に浸した布でひたすら身体を擦り続けた。

 

「髪の毛一本に至るまで、清めなければ……」

 

 全身が焼けるように痛い。隅々まで身体を洗い流す。湯船に肩まで浸かった後、頭の天辺まで沈む。

 

 己の身体から血の臭いがする。今はもう耐えられなくなってしまった。本当に武人なのかと問いたくなるが、武人の前に歴とした一人の女。……いや、それでもここまで毛嫌いすることは無かった。

 

 彼が私の匂いを気に入ってくれたときから、意識した。――嬉しかったから。

 

 だから私の残り香に彼が心ときめいてくれたことが、凄く恥しくて……、でも嬉しかった。ただ、その行為に及ぶ彼の姿は少し変態染みていて、傑作で……。

 

 ……己のことを棚に上げて、よく言ったものだ。

 

 二人粥を分けあったとき、いざ受け身になり、恥しいのを我慢して、覚悟した途端に肩透かしを喰らって……、耐えられなくなった私は彼の寝台へと逃げ込んだ。

 

 だが彼の匂いが先ほどの行為を思い起こさせる。甘く切なくて堪らない。身体が痺れていく。ずっとここにいたいのに、己の鼓動が煩くて、眠れなくて、おかしくなりそうで……、我慢できずにそこから逃げ出した。

 

 ……なのに忘れられず、翌朝、彼が朝食の準備で部屋から出ていくと、すぐさま彼の寝床へと潜り込んだ。まだ残る彼の温もりと残り香を、私の身体全身に擦りつけた。

 

 果して、どちらが変態なのか……。

 

 息苦しくなってきたので、そろそろ良いだろうと立ち上がり、己の臭いを確認する。

 

「……よし」

 

 湯船から出て身体を丁寧に拭いていると、伯珪殿がやってきて呆れながら叫んだ。

 

「いくら何でも、長すぎるっての!」

 

 ――ごもっとも。

 

 だがこれがその成果だと、髪の先を彼女に差し出す。

 

「……どうだ?」

 

「ん? ……あぁ、匂いか!」

 

 彼女が近付けて匂いを確かめる……。

 

「うん、血の臭いはもうしないな。湯上りの良い香りがしている」

 

 私は大きく頷いて、下ろし立ての服に身を包んで部屋へと戻る。

 

 その途中で伯珪殿が何やら耐えきれずに、興奮気味に私の名を呼んで、今一番聞きたくない者の名を口走った。

 

「なぁ、子龍。桃……いや、劉備を探している、んだけど、そ、そんなに睨むことないだろ!?」

 

 ……その名を聞くだけで、怒りが静かに湧き上がり、形ある物を壊したい。そんな衝動に駆られる。ただその質問に知らないとだけ答えたあと、彼女の両肩に手を置いた。

 

「伯珪殿」

 

「……な、何だよ」

 

 伯珪殿も誰も、知らないのだ。

 

 劉備が村を裏切ったことを。あの下郎が大手柄を立てたと、誰もが思っている。

 

 ――悔しい。北郷がいなければ誰一人助からなかった! それなのに、それだというのに――、私の心の中で彼が微笑んでいる。本当に良かったと。――それが悔しくて堪らない。――私に耐えろと呟き掛ける。

 

「もしその者を見つけたら、ぜひ私の前に突き出して頂けると助かるのですが……」

 

「わ、分かった」

 

 止めていた足を前へと踏み出すと、後ろで伯珪殿が何だよと呟く。

 

 事情を知らない彼女からしてみれば、確かに腑に落ちんだろう。だが説明する気にもなれない。説明しても無駄なのだから。

 

 気まずい雰囲気に耐えられなかったのか、彼女がまた口を開く。

 

「そ、そうだ。北、郷って言ったっけか? 官軍と合流して隣町に援軍を要請しに行ったって聞いたんだけど、まだ村に戻ってきてないらしい。お前があんな姿になってまで戦っていたのに、顔一つ見せないなんて! 私が引き摺ってでも連れてきてやるよ!」

 

 伯珪殿は何も知らない。それは残された村の者達の士気を保つために、私が流した苦し紛れの策なのだ。

 

 部屋の前で立ち止まり、扉に手を掛けて真実を告げる。

 

「――崖から落ちて死んだ。私の目の前でな」

 

 彼女は言葉を詰まらせて立ち止まる。

 

 それを横目で見届け、部屋に入って預かっていた彼の服を手に取り、そのまま彼の部屋へと向かう。

 

「――お、おい」

 

 突然別の部屋へ入っていく私の行動に、彼女は理解できず急ぎ足で追いかけてくる。

 

 伯珪殿の前で、構わず彼の服を着込んだ途端、――彼の匂いが切なくて――、強く、己を抱きしめた。

 

「その服――」

 

 遮るように、私は彼女に謝罪する。

 

「――無礼を許されよ、伯珪殿。まだ冷静になれぬのだ。――心がまだ、痛くて辛い」

 

 彼女は肩を落としてしまう。その姿が少し不憫でならない。

 

「すまなかった。まさか……」

 

 私は首を横に振る。彼女は何も悪くないのだから。

 

「今は亡き主も、私も。この村にいる誰もが貴女に感謝しております。ですからそう肩を落とさないで――!?」

 

「ど、どうした?」

 

「……違う」

 

「はっ?」

 

 寝具が真新しくなっていた。洗濯籠に目をやると、そこには別の寝具が無造作に入れられたままになっていて……。

 

 迷わず籠から取り出し、顔を近付けて匂いを確かめる。新しいのを洗濯籠へと放り込み、寝床を整えながら彼女に伝える。

 

「明日の朝、必ず貴方の話を伺いましょう」

 

「そ、そうしてくれると助かるよ。……私も北郷って奴に、一度会ってみたかったな」

 

 寝床へと私は潜り込み、大きく息を吸い込む。

 

「……我が主の匂い。少し嗅いでみますかな?」

 

「え、遠慮しておくよ。……って普通そんなこと言わないぞ?」

 

「ふふっ、そうですな。……本当に申し訳ない、伯珪殿」

 

 眼を閉じれば、全身の力が嘘のように抜けていく。

 

「今だけは……、今だけは愛した人だけを想っていたい。彼の部屋で、彼の寝床で、彼の匂いに包まれて、私は眠りたい――」

 

「……あぁ。お休み」

 

 彼女の優しい声に見送られ、意識の底へ、ふわりふわりと降りていく。

 

 そこは草原。風が頬を擽る。吹き抜けるような青空が広がり、暖かな日差しが私に降り注ぐ。

 

 ――そう。空には日輪が輝いている。

 

 手を伸ばそう。もう二人で歩くことはできないけれど……。

 

 この手で掴み取って見せる。もう誰も悲しまないように。辛い想いをしないで良いように。私は前に進みます。

 

 ――主。

 

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 楽快との戦いを制し、見事姉の仇を討った趙子龍。

 

 だが彼女は愛する人を失ってしまう。

 

 目指した空は闇に消え、想い描いた夢は叶わない。

 

 それでも彼女は決意する。

 

 そこにあるのだと信じて、昇り続ける。

 

 公孫?と出会い、彼女の客将となり共に幽州へと向かう。

 

 そこで彼女は武を惜しみなく披露する。

 

 幽州に公孫?ありと、彼女の名を幽州全土にまで響かせるほどの働きをこなす。

 

 が、その間にも漢王朝は滅亡の道を突き進む。

 

 そして彼女は劉備、関羽、張飛との運命の出会いを果す。

 

 物語の歯車が動き出す。まるでそう定められているかのように……。

 

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 部屋に優しい風が吹き込んできては、私の髪をそっと撫でる。

 

 携帯と呼ばれる不思議な道具の中で、最愛の人が頬笑みを浮かべていた。

 

「……主」

 

 そっと指で撫でる。寂しさだけが募っていく。

 

 机の上に置いた途端、彼は闇に包まれて消えてしまう。

 

 窓の外を眺める。また季節が変わろうとしている。

 

「――遠い」

 

 彼と目指そうとした場所は、辿りつくどころか、遠く懸け離れていく。

 

 腰に輝く剣に触れ、遠く輝く日輪へと手を伸ばす。

 

 この想いが、天に届くと信じて――。

 

 

 

 

 

 

 

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あとがき

 

――まずは謝罪から。

 最後の最後で二カ月以上間が開いてしまったこと、お詫びします。この間に人生を左右する出来事が多々ありまして、重圧に弱いテスがそんな中で小説を書けるはずもなく、面接対策や、現実逃避でサボッ……忙しくしておりました。

 山場を無事乗り越えることができ、ほっとしたのも束の間、これからまた仕事が慌ただしくなるので(去年も同じようなことを言ってましたが)、執筆活動ができるのは来年一月の後半辺りからになります。その間は仕事に、雑用、隙あらば執筆、プロットの作成などなどなど、色々と勤しみたいと思います。

 

――本題に戻ります。

 ここまで読んで下さった皆さん! 本当に有難うございます! 第一章からお付き合い頂きまして、約一年が経過したところで、一区切りとなりました。

 

 ここまで続けてこれたのも、皆さんの応援があってこそでした。反応が悪いようならこの辺りで『打ち切り』も視野に入れていたんですが……。

 

 ――さて、十四章どうでしたか?

 

 色々と突っ込みどころが満載かと思いますが……、絶食してそんなに暴れられるのか、ご都合展開、最後の最後で白蓮投入とか、命を助けて貰ったくせに、真名は許さないのか、死亡フラグ、愛の台詞、楽快(笑)、突然の森、そして定番の崖。……もう、数え切れません。

 

 ……大ポカしてないか本当に心配だ。

 

 取り敢えず『昇龍伝、人』はここで終端です。『昇龍伝、地』の最後辺りで、二人を再会させたいなぁと考えておりますが……。

 

 これからの流れをざっと考えてみました。『幽州、三姉妹編(仮)→どこかの陣営で黄巾の乱(仮)→政変(仮)→同僚は曹孟徳(仮)→十常侍と董卓(仮)→逃避行(仮)→反董卓連合(仮)→青州黄巾(仮)』という感じで予定(仮)しておりまして、しばらく星の出番はありません。星、辛い想いをさせてごめんね。そして相変わらず呉の色が薄い! 

 

 ――『俺得』以外の何ものでもありませんが、勉強不足ですぐには書けそうにありません。

 ということで、嗜好を変えて別の作品を書きながら、勉強するのもありかなぁと考えたり。例えば、魏軍の出番がほとんどない、魏afterとか……誰得? あ、勿論俺得です。

 

 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております!

 

説明
○この作品は、真・恋姫†無双の二次著作物です。

○十四章を分割した『残り』になります。この作品をクリックした方は、インスパイア元から読み進めてください。

○注意
 不快な表現が多々あるかと思いますが、ご了承ください。
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コメント
MATSU様――”夢の中でしか会うことができない、寂しい曲”とのこと。作品とリンクしててほろりほろりと……彼女の心の悲鳴が。うん、二人が再開するまで頑張らねば。そして、期待に未だ答えられず申し訳無いorz(テス)
↓をこの作品を読んだ後是非聴いてほしい! ほんとテスさん最高だ。で、いつ発売ですか?(真顔)(MATSU)
http://www.youtube.com/watch?v=zeqpZqD-gOE(MATSU)
samidare様――大好きの一声でもう大満足ですよ! 自分にしてみればお金より価値がありますし! 作品の本化ですか!? ぜ、全部完成させてからですねw(その頃にはきっと、忘れているはずですw)(テス)
久しぶりにTINAMIにきて更新されていた分一気に読みました。やっぱりこの作品大好きです!!これからも頑張ってください!!応援し続けます。・・・・・・・・・本気(マジ)で本にして売り出ししません?一冊1000円でだって買いますよ(samidare)
rikuto様――ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます! 星の戦いは続き、その中で焦り、苛立ちといった感情を伝えられればと。地編は人の延長線と思って頂ければ。地編(幽州三姉妹編→他)と、まだプロットができておらず、へんてこりんな状況ですが、お付き合い頂けると嬉しいです!(テス)
最っっっっっ高ぅ!!に面白かったです!!!第一章からここまで、お疲れ様でした!甘く切ない最後がたまりません!しかも「人」ってなんだろと思ってたら「地」に繋がる伏線……だと!?本当にお疲れ様でしたwいつまでもご健勝を願って、次回作をお待ちしておりますw(rikuto)
毛布にくる丸様――ここまで読んで貰えたこと、嬉しく思います! これからの展開が非常に悩み所であります。むむむ。(テス)
恋姫系統で久しぶりに夢中に読めたお話でした。これからの展開にも期待!(毛布にくる丸)
アンタレス様――孟徳さんと絡ませるまで、まだまだ先が長いですけど、他のキャラにも萌えて貰えるような展開を構築できたらなと現在考え中です。お待ちください!(テス)
出番なくても足りなくなったら人(ジン)読み返して星分セルフ補給するから無問題。星は勿論、ここの孟徳さんも大好きなので(仮)展開にも淡く期待を込めておきます。(アンタレス)
G-on様――こ、更新のたびに全話読み返しですと!?――はっ、はわわーっ!! ありがとうございます! 彼女と再会するため幽州へと向かう一刀に、三姉妹をぶつけていきたいと思います! 気長にお待ちください〜(テス)
更新の度に全話読み返してます。星が原作の小悪魔っぽさを持ちつつデレる様はまさに三國無双ですねw 続きはしばらく先のようですが楽しみに待っています。(G-on)
ポポ様――おぉ、良かった! でもこれからが大変だなぁと、痛感しております。むむむぅ〜。この先どうしたものかなぁ〜と。(テス)
やるなあ…やっぱりケタ違いに面白いわあwこの先の展開が楽しみでならない。これ程のクオリティなら1年でも待てるぜ!(ポポ)
よしお。様――また二人が肩を寄せ合えたらなと、テスもそう思います! まだまだ書きたいことが沢山あるので! 一刀の訃報を知ったあの少女のこともしかり。物語はまだまだ続きそうです。(テス)
はぁ……思わずため息が零れてしまうほどに切ない……。こういう話、いいですね。心にグっとクるものがあります。良い作品に出会えて感無量です……。願わくば、一刀と星が結ばれますように!(よしお)
うぃる子様――星、可愛かったですかぁ、ニヤニヤ。嬉しいお言葉ですw ありがとうございます!w 機会があれば、ぜひ別作品も見てやってください。お願いします!(テス)
人編お疲れ様でした、こんなに星が可愛く見える物語は初めてでした、次の作品もハァハァしながら待っておりますw機会があったら別の作品も見てみたいなぁ(ボソッ(うぃる子)
yu-ji-n様――ありがとうございます! 気長にお待ちいただけると助かります! しかし、続きが期待外れになりそうで、早くも心配しております;(テス)
続きが読めるのを楽しみに気長に待ってます(yu-ji-n)
とらいえっじ様――ふふっ! 安心するのはまだ早、ゲフンゲフン。続きも気にいって貰えるように頑張りたいと思います!(テス)
KG様――ありがとうございます! 少しずつでも進めて行けたらなぁと思ってます! 頑張ります!(テス)
aoirann様――お待たせしました! あえて試練を与えてみました。二人にはせひ再会してもらいたいです!(テス)
終幕と聞いてほんのり切なくなったが続編があると聞いて安心した。(とらいえっじ)
お久しぶりの更新ですね。続き待ってますので頑張ってください(KG)
更新を心待ちにしていました。目頭が熱くなりました。今後も楽しみにしています(aoirann)
ジョン五郎様――死が当り前、別れが当り前の世界。それでも彼のことが忘れられない星。ここがポイントです。創作意欲が湧いて何よりです! ありがとうございます。大きな一区切りを迎えて、ホッとしております。次は地編に向けて頑張りたいと思います!(テス)
更新お疲れ様です。ええわあ。切ない話ってええわあ。ジェットコースターみたいな展開の連続に引き込まれて噛り付きながら読みましたよ。読み終わったら、久しぶりに筆を執りたくなりました。最後ですが、終端おめでとうございます。『昇龍伝、地』楽しみにしてますね(ジョン五郎)
Jackry様――ありがとうございます! 切なさが少しでも伝われば嬉しいです。(テス)
clock111様――ありがとうございます! なるべく早く地編に進めるように、プロットを練りたいと思います!(テス)
ツミリ様――良かったです! 地編、皆さんにお気に召して貰えるように、プロット練りたいと思います!(テス)
砂のお城様――お待たせしました! 星と桃香の出会い。黄巾の乱に入る前に描ければ良いのですが……。お、お待ちください! PS体調を崩しやすい日が続いています。砂のお城様もご自愛くださいませ。(テス)
scotch様――お待たせしました! 次々回も楽しみだと言って貰えるか、難しい課題になりそうです。(テス)
更新お疲れ様です。昇龍伝、地編も楽しみにしてます。(clock111)
面白かったです!!地編楽しみに待ってます!!!(ツミリ)
更新お疲れさまです。久しぶりの更新ということで、すごい楽しみにしてました。次回の更新も楽しみに待ってます。(scotch)
アラトリ様――ありがとうございます! 戦いが愛する二人を別つ。そのとき、二人が取った行動とは! 確かに面白そうなのですが、テスにそれが書けるのか、正直疑問であります!w でも本当に敵勢力になったら、どうするんだろうなぁ。(テス)
はりまえ様――再会は難しいのですが、三姉妹が公孫?の城を尋ねたときに、彼女の見上げる空は晴れるはずです。ここは我慢ですよ!(テス)
dorie様――なんとか一部完って感じです。人、地、天編の三部作の予定です。い、一年でまだ序盤なのかぁ……。三部作なので、単純に計算してあと2年ほどでしょうか?w ――考えたくないでござる!!(テス)
でも互いに別の勢力にいるのもおもしろそうだが・・・どうなるかねぇ、あ! 更新乙♪(アラトリ)
ジョージ様――や、やってしまった! 報告ありがとうございます。そうですね、落ち着いたらまた執筆を始めたいと思います。(テス)
このまま別れたままだと切ないので早めに再開してほしいです・・・・。(黄昏☆ハリマエ)
流狼人様――できるところまで、頑張りたいと思います!(テス)
久しぶりに読みましたがやっぱりおもしろいです。第一部完!ってな雰囲気ですねw もうずいぶんと続いてる気がしますが大陸平定まで考えるとまだ序盤もいいとこですね、すごい。あと10年は戦える……?w (dorie)
リアルが忙しいのは仕方ないでしょう、自分のペースでいいんですよ。続きを心待ちにしております。……あ、あと一応aft『e』r ですよ?(峠崎丈二)
続き期待してます(流狼人)
悲しみや痛みを乗り越えて、前に進む彼女を描けたらなと。期待に応えられるように精進したいと思います(テス)
なんか涙が出てきました…。続きを期待して待ってます。(poyy)
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