真★恋姫†無双-真紅の君-第参話
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〜荊州・南陽

 

 

「やっとついたっスね、【鈴蘭ちゃん】」

 

「ああ、そうだな【向日葵】」

 

 

荊州南陽にある、“ある人物”が治める街

その城門の前、二人の少女の姿があった

 

一人は赤いバンダナを頭に巻いた、短い黒髪の背の低い少女

 

もう一人は同じバンダナを巻いた、紫色の長髪に背の高い少女

 

彼女達は互いに顔を見合わせると、ニッと笑いあった

 

「ここに・・・いるんスね」

 

「ああ、ここに・・・アタシ達が探す『英雄』がいる」

 

そう言って、城門の向こう・・・活気に包まれる街並みに視線を向ける二人

 

 

「そしてその英雄に、私達は仕えるんスね」

 

「ああ、そのためにアタシ達はここまで来たんだ」

 

「そうっスね」

 

「ああ、そうさ

だからいくぞ向日葵、アタシ達の探す英雄のとこに!」

 

「はいっス!」

 

そして二人は歩き出す

 

この城壁の向こう、広がる街並みに向けて

 

まだ見ぬ、英雄のもとへと・・・

 

 

 

〜南陽・孫策の屋敷

 

 

「あらぁ〜・・・」

 

沢山の・・・それこそ山のような書簡が積まれた部屋の中

二人の女性の姿があった

 

その中の一人・・・おっとりとした雰囲気を漂わせた女性が、小さくそんな声をあげた

それを聞き、もう一人の女性・・・黒い長髪に眼鏡の女性が、何事かと声の主へと視線を向ける

 

「【穏】・・・どうかしたのか?」

 

「【冥琳様】〜、実はもう墨が切れちゃったみたいなんですよ〜」

 

そう言って、溜め息をつく彼女

その言葉に、冥琳と呼ばれた女性も溜め息をついていた

 

「ああ、そうか・・・まぁここ最近の賊の増加に伴い、この仕事の量

そのせいで、すっかり忘れていたな」

 

「でもないことには、仕事になりませんし〜

私、今から街にいって買ってきますねぇ

その間、冥琳様はお休みになっていてください」

 

「ああ、その言葉に甘えさせてもらおう

穏も、適当に街で休んでから戻ってくるといい」

 

「はい、それでは行ってまいります〜」

 

そう言って、彼女は街へむけ歩き出した

その足取りの軽さに対し、重そうに胸を揺らしながら

 

 

偶然か偶々か、或いは必然だったのか

 

彼女たちはこの日、出会うことになる

 

 

この世界に降り立った、一人の賢者と・・・

 

 

 

 

 

≪真★恋姫†無双-真紅の君-≫

第参話 英雄を探す少女、英雄を知る少女

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

〜荊州・南陽

 

 

 

「ほう・・・これはまた、見事なもんじゃ」

 

城門を抜け、街の入り口

賑わう街並みを見つめながら、彼は小さくそう呟いていた

真紅の瞳をもつ、女性のような顔立ちの青年

その青年・・・太公望は、その街の様子に何度か満足そうに頷く

 

 

「さすが雪蓮、といったところかの

このような時代の中、よくぞここまで賑やかな街を作り出したものじゃ」

 

このような時代

太公望は昨日、雪連から今がどんな世なのかということを聞いていた

どれだけ、今の世が乱れているのかということを

 

だからこそ、この街の賑やかさに目を細める

 

「ふむ・・・ここなら、色々と聞けそうじゃ」

 

呟き、彼は笑う

それが、今回の彼の目的

 

確かに、雪連からある程度のことは聞いた

だが、それはあくまで“誰かから聞いたこと”

 

自分の目で見たことではない

 

“百聞は一見にしかず”

 

まず彼は、自分の目でこの世界を見ることから始めようと・・・そう決めたのだ

 

そこで彼は一番近い雪蓮が治めるという、この街にやってきたというわけだ

まぁ治めるというか、治めさせられていると雪蓮は言っていたようだが・・・

 

「さて・・・早速、ゆくとするかの」

 

そして彼は歩き出した

 

賑わう街の中、新たな決意をその胸に秘めながら

 

 

 

 

 

・・・などと、そんな想いで歩いていたのはついさっきまでのこと

 

現在、彼・・・太公望は

 

「ぬぬぬ・・・」

 

物凄く不機嫌だった

腕を組み、こめかみをピクピクとさせながら歩く彼

 

何故、彼はこんなにイラついているのか?

その原因は、彼のその両目

 

『真紅の瞳』

 

その瞳に対する、周りからの反応だった・・・

 

「なぁ、アイツの目・・・」

 

「なんだあれ」

 

「やだ、恐いわ・・」

 

 

耳をすませば・・・いやすまさなくとも、聞こえてくる声に

太公望は、乱暴に頭を掻いた

 

 

「くそっ・・・」

 

(何故ワシは、こんなにイラついておるんじゃ?

こんなもの、慣れておるはずじゃったろうが・・・!)

 

 

『気味が悪い・・・』

 

そうだ・・・確かに慣れていた

だが、彼は同時に思い出す

 

その冷たい言葉と共に、暖かな言葉があったことを

 

 

 

『師匠の瞳の色・・・自分は好きですけど』

 

『僕も、大好きだよ♪ そんなこと言う人達、僕が殺して・・・』

 

『って、−−は物騒なんだよ

まぁでも、俺も好きだぜ

その・・・お前のその目は・・・・よ』

 

『ああー! 姫発様、顔真っ赤だあーーwww』

 

『な、ち、ちげぇよ馬鹿!!』

 

 

(そうじゃ・・・いつもワシの周りには、『あやつら』がおった

あやつらが、いつもワシを支えていてくれた

じゃが今は、あやつらはいない

それに・・・)

 

 

『ねぇ・・・君も、一人なの?』

 

 

(あの時、ワシに向かい差し伸べられた手も・・・ここにはない

ここでは、ワシはたった一人

一人しかおらん

そう・・・ワシはまた、一人になった)

 

 

ーそれでも・・・ー

 

 

「ワシは・・・歩いていくと決めたんじゃ」

 

そう呟き、彼は空を見上げる

痛む胸をおさえながら、辛そうに表情を歪めながら

 

そんな状態だったせいだろう

 

目の前に飛び出す、小さな影

それが自分に向かってくるのに、気づけなかったのわ・・・

 

 

 

ドンッ!!

 

 

「・・・む?」

 

「きゃっ!?」

 

突然、胸元にくる衝撃

彼はその衝撃のする先へと、視線を向ける

 

そこには、赤いバンダナを頭に巻いた背の低い少女が尻餅をついていた

少女は痛そうに、頭をさすっている

太公望は申し訳なさそうに、その少女に向け手を差し伸べた

 

「すまんの・・・少々、ぼ〜っとしておったみたいじゃ」

 

「いえ・・・こちらこそ、前を見てなかったみたいっス」

 

そう言って、太公望の手をとる少女

太公望は少女の体を立たせると、改めて頭を下げる

 

「本当にすまんかったの」

 

「い、いや私も悪かったっスか・・・ら・・」

 

太公望の謝罪に、同じように謝罪を返す少女

だがその言葉は、途中で止まってしまう

 

どうしたのだろうか?

 

そう疑問に思う太公望・・・が、その視線の向かう先に気づき彼はピクリと体を震わせた

 

彼女は・・・太公望の瞳を見つめ固まっていたのだ

あぁ・・・と、太公望は心の中で深い溜め息をついていた

きっと、彼女は怯えているのだろう

 

この瞳に、この真紅に

 

彼女は怯えているのだろう

 

 

『近寄るな・・・この化け物!!』

 

 

 

ズキン・・・!!

 

(ああ、くそ・・・なんじゃ、これから歩き出す

そう決めたのに、ワシは・・・こんなにも『弱い』)

 

ブンと頭を振り、思い出したことを頭の片隅へと追いやる

それから、彼女に軽く頭を下げる

 

早くここから離れよう

 

そう思いながら、彼はその場を離れようと歩き出そうとした・・・その時だった

 

 

「綺麗な瞳・・・」

 

「は・・・?」

 

 

彼女の口からこぼれたソレは、彼が予想していたものとは・・・まったく違うものだった

 

流れる、奇妙な沈黙

その沈黙を破ったのは、他ならぬ彼女自身だった

 

「・・・ってわわ私何言って、ごごごごめんなさいっス!!」

 

勢いよく頭を下げ、謝罪する少女

その顔を、何故か真っ赤に染めながら・・・

 

そんな少女の姿に、太公望は・・・笑顔を浮かべていた

頭をおさえ、空を見上げる彼

 

「ああ、本当に・・・」

 

 

〜ワシは、救われてばかりじゃ〜

 

「頭をあげてくれ・・・謝る必要などないんじゃ」

 

「で・・・でも!」

 

「よい・・・むしろ、礼を言いたいくらいなんじゃ」

 

「えっ?」

 

ゆっくりと、顔をあげる少女

そんな少女の頭に、ポンと・・・のせられる手

 

彼、太公望の手だ

彼はその手で、彼女の頭を優しく撫でる

その表情は先ほどまでとは違う、優しい笑顔

 

「ありがとう・・・おかげで、ワシはまた歩いてゆける」

 

「あっ・・・」

 

笑顔のままそういった彼に、少女は魅入ってしまう

打算も保身も下心もない・・・純粋な“笑顔”

 

彼女は太公望の笑顔に、何か胸が温かくなるものを感じた

 

「それでは、ワシはもうゆくぞ

次は、気をつけるんじゃぞ?」

 

そんな中、彼女の頭から消える温もり

 

「あ・・・」

 

太公望は笑顔のまま彼女に手をふると、その場から去ろうと・・・歩き出した

少しずつ、離れていく太公望

 

その背中に向かい、少女は何かを言おうと口をパクパクとさせている

だがやがて何か・・・覚悟のようなものを決めたのだろう

 

彼女は・・・・

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

 

「・・・で【向日葵】、“ソレ”はなんだ?」

 

「ご・・・ごめんなさいっス」

 

「いや、謝るんじゃなくてだな

ソレはなんだと聞いてるんだ、アタシは」

 

「いや、そのこれは・・・」

 

「まて、それ以前にさっきからワシをモノみたいに言うでない

ていうか、ワシは完璧に被害者じゃよな?」

 

背の低い少女と、向かい合うように立つ背の高い紫色の髪の少女

その少女がさっきからジト目で見つめる先

 

そこに・・・“何故か”ボロボロになった太公望が縄でグルグル巻きにされた状態で、背の低い少女の足元に転がっていた

 

 

・・・何故?

 

それは、あの時・・・彼女と太公望が別れる直前にまで遡る

 

 

 

『あ・・・あぅぅ』

 

ぶつかってしまった挙句、意味のわからない発言までしてしまった

それでも、彼は笑って許してくれた

 

なんだか、申し訳ない

 

あの時、彼女はそう思っていたのだ

 

あの言葉に、彼が・・・太公望がどれほど救われたのか、知らずに

故に、彼女は思った

 

『何か・・・お詫びをしたい』

 

だけど、そのための言葉が出ない

生来の人見知りが災いして、中々口に出来ない

 

『ああ・・・』

 

段々と離れていく背中・・・焦る彼女

 

『う・・・うぅ』

 

そんな状況の中・・・

 

『うあああああああ!!』

 

彼女の中で、“何か”が切れた

 

『な、なんじゃ!?』

 

その声に振り向く太公望

その彼に向かい、放たれる

 

『ごごごご、ごめんなさいっすーーー!!』

 

『げふぅっ!!??』

 

凄まじい回転の加えられた、まさに神速の一撃

腹部を的確にとらえたその一撃・・・あまりの威力に一瞬体が浮かぶ太公望

 

その一瞬の間に、少女はどこからか取り出した縄で太公望の体にグルグルと巻きつける

 

そしてそのまま、彼の体を肩に担ぎ走り出したのだ

その間、僅か数秒

 

そして時は戻り、現在に至る・・・

 

 

「ほ、本当にごめんなさいっス!!」

 

「いやあまりの手際の良さに、逆に感心したくらいじゃよ」

 

ようやく縄から開放され、溜め息と共に出た言葉

その発言は、嘘半分に真実半分

 

手際が良いというか、自分を持ち上げ走ってきた彼女の体力には素直に感心していた

まぁ何故か腹部に一発もらった時よりボロボロになっているところを見る限り、何度かぶつけたり落としたりしたのだろう

 

太公望は、痛む頭と腹部をおさえそんなことを考える

 

「・・・」

 

「む?」

 

ふと・・・彼は、自分に向けられている視線に気づく

それは背の低い少女のすぐ側にいる、背の高い少女からのものだった

彼女はしばらく、無言のまま太公望を見つめていた

 

『警戒』

 

そのようなものが、その視線から見て取れる

 

が、それもすぐに消え去った

 

「怒らないんだ・・・変わってるよ、アンタ」

 

そんな言葉と共に、僅かだが笑みを浮かべる彼女

つられて、太公望も笑顔になる

 

「流石に、二度目は勘弁してもらいたいがの」

 

「悪かったね

向日葵はけっこう人見知りが激しくてさ

たまに、あんな風にちょっと混乱しちゃうんだ」

 

「あれで『ちょっと』・・・じゃと?」

 

・・・流石に、笑えなかった

 

「とにかく・・・アタシの連れが迷惑かけたみたいだから、何かお詫びをしたいんだけど?」

 

「うむ、しかしのう・・・」

 

「遠慮しなくてもいいよ

多分向日葵も、そのつもりでアンタを掻っ攫ってきたんだろうしな」

 

「いや、あれは完璧に人攫いのそれじゃったが・・・」

 

「・・・まぁ、そこは触れないでやってくれ」

 

「うむ・・・ワシも、まだ死にたくないのう」

 

「二人とも、何の話をしてるっスか?」

 

「ああ、まだ自己紹介がまだだったなぁって話だよ」

 

流石に手馴れているというべきか・・・鮮やかに、嘘をつく彼女

太公望もそれに合わせ、頷いていた

 

「そうじゃな、まだお互い名を知らんかったな

ワシは太公望という

おぬしらの名は?」

 

太公望が名乗ったのに合わせ、少女はニッと笑う

それから、その手を太公望に向かいスッと手を差し出した

 

「アタシは【将欽】

よろしくな」

 

「わわ私は【徐盛】っていうっス!

その・・・よろしくお願いしますっス」

 

「うむ、よろしく頼む」

 

太公望はその言葉と共に、差し出された手をとった

 

これもまた、ひとつの始まりなんだろうか?

少なくとも・・・先ほどまでの悩みがどこかへと飛ばされている

 

そのことを思うと、むしろお礼をすべきは自分の方だ・・・と、太公望は微笑む

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「お詫びといったら、やっぱり飯をおごるに限るってね♪」

 

そう言って、彼女・・・将欽は笑う

彼女の言葉の通り、太公望たち三人は今食事を取るべく移動していた

 

なにやら将欽が良い場所を知っているとのことで、そこを目指している

 

先頭に徐盛

その後ろを、太公望と将欽が

 

何故か口笛など吹きながら上機嫌に歩く徐盛が、二人よりも大分前を歩いていたのだ

 

「♪〜〜」

 

その足取りは、とても軽い

 

「のう将欽よ・・・徐盛は何故、あんなに楽しそうなんじゃ?」

 

「さぁ? 向日葵・・・徐盛の頭ん中は、いつだって春真っ盛りだからねぇ」

「ひどいことを言うのう」

 

「ほんとのことさ♪」

 

彼女の言葉に、太公望は苦笑いだ

 

(しかし・・・二人とも、中々の『実力者』のようじゃが)

 

心の中で呟き、彼は見つめる

二人の体、その身から漂う『氣』を

 

(ふむ、しかしまだ『発展途上』といったところか)

 

それでも、一般人とは比べるまでもないだろう

その結論と共に視線を向けるのは、先頭を歩く徐盛

未だに口笛を吹きながら歩く彼女に、太公望は思わず頭をおさえる

 

「おい徐盛よ

そのように余所見をしていると、また誰かとぶつかってしm・・・」

 

 

ドンッ!!

 

 

「きゃあっ!?」

 

「ふわあっ!?」

 

「・・・遅かったみたいじゃな」

 

「あの馬鹿・・・」

 

目の前の光景に、太公望は溜め息を

将欽は頭をおさえながら・・・目の前に広がる『惨劇』を見つめていた

 

「わわわ・・・せっかく買った、私のお昼がああぁぁぁぁ」

 

「ごごごごめんなさいっスぅぅ!!!」

 

あたり一面に広がるのは『元・食べ物』

ぐちゃぐちゃになった肉まん達

その中心に、あたふたとする二人の姿

 

背の低い徐盛・・・それとは対照的に、色々と大きな女性

 

 

少なくとも、お詫びをする人数が増えたことだけは・・・太公望と将欽には、すぐに理解できたのだった

 

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ーーーー†ーーーー

 

「ほんっとに、ごめんなさいっス!!」

 

 

賑わう店内

響く、少女の声

 

いくつかの視線が、その席に集まる

 

「向日葵

ちょっと静かにしろ、かなり見られてるから」

 

「うむ、まずは落ち着くのじゃ徐盛よ」

 

その様子に呆れ、宥めるのは二人の男女

 

太公望と将欽だ

それを聞き謝っていた少女・・・徐盛もようやく周りの視線に気づいたのか、顔を真っ赤にしたあと慌てて席についた

 

「ご・・・ごめんっす」

 

「はぁ・・・あんた、相変わらず周りが見えてないんだね」

 

「あはは、面白い子ですねぇ〜」

 

座り、未だ顔を真っ赤にしたままの徐盛

そんな彼女の様子に、彼女の向かいに座る少女が笑う

徐盛がぶつかってしまった少女だ

 

「それにぃ、私は別に気にしてませんから〜」

 

ニコニコ顔でいう彼女

『良い人だなぁ』と、将欽も笑った

 

 

 

あの時、彼女は徐盛とぶつかったさい・・・持っていた昼食の肉まんを、全て地面にぶちまけてしまった

それで将欽は、そのお詫びとして彼女をこうして昼食の場に誘ったのだ

最初は『別にいいですよ〜』と断っていた彼女

だが、将欽もそこは譲らない

 

そこらへんのケジメをしっかりとつけておかないと、彼女は気が済まないのだ

 

『いや、でも・・・』

 

『ですから〜・・・』

 

それからしばらく続く攻防

それに終止符をうったのは意外にも・・・

 

『のぅ、いつまでそのようなやり取りを繰り返すつもりじゃ?』

 

彼、太公望だった

彼は呆れたように二人を交互に見ると、はぁと深い溜め息をついた

 

『いつまでもそんなくだらんやり取りを繰り返すのなら・・・』

 

『わわわっ!?』

 

『うわわ!?』

 

『歩きながら、というか目的地に向かいながらでもすればよいじゃろう』

 

そう言って二人の手をとり、スタスタと歩き出す太公望

二人は顔を真っ赤にしたまま、彼に引っ張られ歩いていく

 

『ほれ徐盛も、はようついてこんか

将欽よ、道はこっちでいいんじゃな?』

 

『あぁ・・・ってか、はずぃから手を離してくれよ』

 

『何を言うか

これ以上さっきのやり取りを繰り返しておれば、またあの人攫いが暴走するぞ?』

 

『た、太公望さん! 

この街、人攫いなんて出るんスか!?』

 

『う、うむ・・・わりと近くでな』

 

『こ、恐いっスね』

 

徐盛の言葉に、太公望と将欽は苦笑する

まさか気づいていないとは・・・

 

そんな中、一人・・・先ほどの彼女だけは、何か考えているのか真剣な表情をしていた

 

『太公望・・・?』

 

『む、どうかしたのか?』

 

『い、いえいえ〜・・・それよりも、貴方のお名前は太公望というんですね?』

 

『そうじゃが?』

 

『そうですか・・・あ、私【陸遜】と申します〜』

 

『うむ、それではゆくか陸遜よ』

 

『はい〜』

 

こうして彼女・・・陸遜も交え、四人は将欽が見つけたという店で昼食をとることとなったのだ

 

 

 

「しかし、本当によろしかったんでしょうか〜?

私までご馳走になっても」

 

「かまわないさ、今更一人増えたくらい大して関係ないよ

それにどうせ、しばらくはこの街に居座る予定だし」

 

今更一人増えたくらいという言葉でビクリと体を震わせる徐盛を尻目に、太公望は出されたお茶を飲み一息つく

それから将欽を見つめ、気になったことを聞こうと口を開く

 

「ふむ、しばらく居座るということは・・・ここに、何か用があるということかの?」

 

「ああ、まぁね

ちょっと、会いたい人がいてさ」

 

『会いたい人』

 

 

将欽の表情が真剣なものとなる

 

「アタシ達は、『英雄』になる人に・・・会いに来たんだ」

 

「英雄・・・」

 

太公望は、いや彼だけじゃない

陸遜までもが、その言葉に黙ってしまう

 

「アタシ達はその人の力になりたいんだ・・・こんな馬鹿げた世の中を変えるために」

 

 

将欽は自分の手を見つめ、かみ締めるよう呟く

それから、その手を握り締めた

 

ぐっと・・・力強く

 

「ここには、いるんだ・・・アタシ達の夢を叶えてくれるだろう、そんな人が」

 

「名前は・・・【孫策伯符】様っス」

 

ピクリと・・・陸遜の眉が動く

それに太公望は気づかないふりをし、彼女の言葉を頭の中で繰り返す

 

そして、改めて実感した

 

今が、どんな世なのかということを・・・

 

(このような少女が・・・あのような『悲しみ』の表情を浮かべ

それでもなお、歩もうとする

戦おうとする

そして、お主はその中を前に立って走ろうというのか?)

 

思い浮かべるのは・・・一人の女性

 

彼の想いを理解し、そのうえで彼の背を押してくれた・・・真紅の姫君

 

 

孫策・・・雪蓮

 

(まったく、大した奴じゃよ

お主も、『この者ら』も)

 

 

 

〜だからこそ・・・このままではダメなんじゃ〜

 

 

太公望は将欽を、徐盛を見つめ・・・そして最後に、陸遜を見つめる

陸遜はその視線に気づいたのか、ニッコリと『ぎこちない』笑みを浮かべた

 

「のう陸遜よ・・・今の世には、やはり英雄とやらが必要なものなのかのう?」

 

太公望の言葉に、陸遜はしばらく考えたのちコクンと頷く

 

「はい・・・今、この国は求めているんです

『英雄』を、『救い』を

幽州に舞い降りたとされる『天の御遣い』の噂がその証拠です」

 

「ふむ」

 

「誰かが、立たなければならない・・・人々は、それを待っています」

 

「その一人が・・・孫策というわけか」

 

「はい・・・」

 

流れる沈黙

太公望はその瞳を閉じ、その場から立ち上がる

 

三人の視線が、彼に集まる

 

「陸遜よ・・・お主には恐らく、知の心得があろう

お主はそれを、いったい何のために使うんじゃ?」

 

瞳を閉じたまま彼は言う

陸遜はその言葉に、ふっと笑みをもらした

 

「笑顔のために・・・この国に住む人達が笑顔でいられるために

そのためなら私は、頑張れるんですよ〜

だからこそ、私は私の信じた御方を支えていきたいんです」

 

間延びした・・・だが真剣な答え

 

太公望はその瞳を開き、すっと彼女を見据える

その真紅の瞳に、彼女の姿が映った

 

「陸遜よ・・・お主のその夢は、目標は素晴らしい

じゃがな、それじゃ駄目なんじゃよ

陸遜だけじゃない

徐盛も将欽も、お主らは間違っておる」

 

「え・・・?」

 

「な・・・!?」

 

「ふぇ!?」

 

陸遜が・・・徐盛と将欽までもが、その場から立ち上がった

驚きのあまりに

目の前の男の言った言葉が、信じられなくて

 

「おい、アタシ達のどこが間違ってるっていうんだよ!?」

 

「スズちゃん!!」

 

 

そんな中真っ先に動いたのは、将欽だった

彼女は乱暴に太公望に掴みかかり、それを徐盛が慌てて止めに入る

 

だが彼は、太公望は冷静だった

 

「ワシも同じじゃったからな・・・」

 

「「「!!」」」

 

静かに響く彼の声

将欽の手が、するりと首元から離れる

 

「ワシもお主らと同じじゃった

平和のためとか自分の目的のため、たった一人にそれら全てを・・・押し付けた

その結果、ワシは沢山のものを失ってしまった」

 

「な・・・アタシ達はそんなつもり・・」

 

「違わんよ、何も

お主らは今、たった一人の人間に背負わそうとしておるではないか

自分の夢を、この国の未来を」

 

「・・・」

 

言葉が出ない

将欽と徐盛は俯き

陸遜は太公望を見つめたまま・・・それぞれ、彼の言葉を頭の中で繰り返す

 

「英雄だから、そんな理由は通らんぞ

奴らだってワシらと同じ、一人の人間じゃ

そのような重み、耐えられるわけがないんじゃ」

 

「なら・・・」

 

 

『どうすればいいんですか?』

 

 

響く陸遜の言葉

彼はそれにたいし、ふっと微笑む

 

「簡単じゃ・・・一緒に走ってやればよい」

 

「一緒に・・・?」

 

「その者の下ではなく、その隣を共に・・・肩を並べ歩けばよい

共に悩み共に笑い、そして共に背負えばよい

一人ではできんことも、皆が力を合わせればできるであろう」

 

それは・・・言葉にすればとても簡単で、当たり前のようにも聞こえる

だがその実、言葉の奥に秘められた意味に気づける者

 

本当の意味で実行できる者は少ない

 

彼も・・・太公望もその一人だった

 

「ワシは最後まで、そのことの本当の意味に気づけなかった

共におるつもりが、ワシはあやつの後ろをついて歩いておっただけじゃった」

 

 

気づいたときには、もう遅かった

何度も後悔し、何度も涙した

 

だからこそ・・・

 

「ワシは、もう後ろなんぞ歩いてやらん

一人でなど、絶対に歩かせてやらん

隣を歩き、共に生きていく・・・そう決めたんじゃ」

 

彼女達には気づいて欲しかった

大切なことはいつだって、なくなってから気がつくんだと誰かが言っていた

そんなの悲しすぎる

 

だから、彼女達に気づいてほしかったのだ

 

「これは、『経験者』からの助言じゃ・・・ここからどうするかは、お主らが決めること」

 

そう言葉を残し、彼は歩き出す

それに気づいた徐盛が何か言おうとするが、それを彼は手で制した

 

「美味い茶を馳走になった・・・それに、久しぶりに色々と思い出せた

それだけで十分じゃよ」

 

言いながら、彼は懐から何かを取り出す

それは・・・彼の瞳と似たように紅く輝く宝石だった

彼はそれを見つめ、優しげに微笑む

 

 

「それは・・・?」

 

「昔・・・こんなワシに大層な名をつけた、とある王様から貰ったものじゃ」

 

 

 

『礼を言うぞ・・・【真紅の君】よ』

 

 

「偉そうに説教をしてすまんかった

それではな」

懐にそれを仕舞い、太公望は店を出ていった

 

 

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その場に残された三人

 

将欽はドカっと席に座り込み、徐盛はそれに続くよう座った

ただ一人・・・陸遜だけはその場に立ち尽くしていた

 

「くそ・・・なんだってあんな偉そうに・・」

 

 

頭を乱暴に掻き、将欽は言った

それに対し、陸遜は・・・静かに首を横に振ったのだ

 

「違いますよ〜・・・きっと、私たちに気づいて欲しかったんですよ」

 

「気づく・・・?」

 

『はい〜』と、陸遜は力なく微笑む

 

「その昔、殷の時代・・・今と同じように沢山の人々が苦しんでいた世に、一人の『賢者』がいました」

 

突然、彼女は何かを語りだす

あまりに急で一瞬、二人は何を言っているのかわからなかった

だが、彼女は話を続ける

 

「彼は悩みました

どうしたら、この世の中を変えてゆけるのだろう

どうしたら、皆を救うことができるのだろう

彼はひたすら考えました」

 

「おい、いったい何のはな・・・」

 

「そんな時彼は、見つけるのです・・・一人の『英雄』を」

 

「「っ!!?」」

 

将欽の言葉は止まってしまう

彼女の・・・陸遜の言葉によって

 

 

「名を【姫昌】

仁君として名高い、まさに彼の探す理想の男

彼は思いました

この者ならば、きっと自分の願いを叶えてくれると

皆の想いに答えてくれると

だから彼は、その者に仕えることにしたのです

ですが・・・」

 

 

〜まだ志半ばというところで・・・その英雄は死んでしまったのです〜

 

 

 

 

「な・・・」

 

「彼は悲しみました

ですが、今更引き返せない・・・そこで彼の前に現れたのは、もう一人の英雄

死んだ英雄の息子、名を【姫発】」

 

 

ゴクリと・・・誰かの、唾を飲む音が聞こえる

気づけば二人は、彼女の話に聞き入っていた

 

 

「新たなる英雄の誕生

姫発はいよいよ、民のため立ち上がります

腐敗した殷を倒すため・・・【周】という国を興し、自身を【武王】と名乗り賢者を従え英雄は歩き出したのです」

 

 

話は続いていく

賢者の物語は、彼女の口から語られていく

 

「彼は・・・賢者は知恵を絞り、王のため必死に戦いました

そして、たくさんの仲間が死んでいきます

それでも、彼は必死に戦いました

民のため、己の夢のため・・・なにより、敬愛する王のため

彼は戦いました」

 

ピタリと・・・陸遜は、言葉を止める

瞳を閉じ、何かを考えているようなそんな雰囲気を漂わせ

彼女は語るのをやめてしまった

 

「おい、それでどうなったんだよ?」

 

煮え切らないといった感じで言うのは、将欽だった

そんな彼女に対し、陸遜は溜め息を吐き出した

 

「結果的には、周は殷に勝つことができましたよ〜」

 

間延びした声

将欽はそれを聞いて、満足げに頷いた

 

「なんだ、ならよかったじゃないか」

 

「そうっスね♪」

 

二人は笑う

同様に、周りの者達も笑っていた

口々に聞こえる『よかった』や『やっぱり、英雄は必要だ』などという言葉

それに陸遜は、激しい苛立ちを覚えた

 

 

だが、それも仕方がない

 

 

何故ならば、彼女達は知らないのだ

 

「でも〜、このお話にはまだ・・・続きがあるんです」

 

この賢者の物語の結末を

 

「なんだ? これで終わりじゃないのかい?」

 

「はい、実はまだ・・・物語の結末を話していません」

 

「物語の、結末?」

 

徐盛の言葉・・・陸遜は小さく頷く

 

 

「伝え聞くところによると殷を倒し、僅か一年ほどで武王は・・・姫発は亡くなってしまうんです」

 

「「なっ・・・!?」」

 

言葉が出ない

これから・・・ようやくという時に、王は死んでしまったのだ

 

ならば・・・

 

「残された賢者は・・・いったい」

 

「さぁ〜? そこの所はよくわかってないんですよ〜」

 

『ただ』と、陸遜は続ける

力強く、その手を握り締めながら

 

 

「すごく悲しかった、辛かった・・・なんて、簡単にあらわせるものでもないのかもしれませんけど

でも、『さっきの言葉』で少しだけわかった気がします

彼はきっと気づいたときにはもう、失っていたんですよ

大切なモノも人も、その繋がりも・・・全部」

 

皆、沈黙する

その中で一人・・・徐盛がゆっくりと顔をあげる

 

「その・・・賢者の名前って、何ていうんスか?」

 

 

それはきっと、誰もが気になっていたことだろう

だが、何故か聞けなかった

それを今、彼女は聞いたのだ

 

陸遜の目を、真っ直ぐに見つめながら

 

その真っ直ぐな瞳に、陸遜は小さく微笑んだ

 

そして、答える

 

 

かの伝説の、賢者の名を・・・

 

 

 

 

 

「【太公望】・・・それが、その賢者の名前です」

 

 

 

 

 

サァと・・・開け放たれた窓から、店内に風が吹き込んだ

 

頬を撫でるその風に、陸遜はそっと目を細める

そんな彼女とは対照的に、徐盛と将欽は驚きのあまり目を見開いていた

 

 

「太公望・・・?」

 

「それって・・・」

 

 

そこまで呟き、思い出す

 

先ほどの彼の表情を

彼の語った言葉を

 

 

「まさか・・・」

 

 

そして、彼女たちは一つの結論に達した

 

それは、本来は絶対にたどり着かない

誰も信じないであろう答え

 

 

 

 

 

 

 

〜助けてくださいっ!!!!〜

 

 

 

 

 

 

 

「「「っ!!」」」

 

だが、その答えが彼女の口から発せられることはなかった

その直前に響いた、幼い少女の叫び声によって

 

「なんでしょうか〜?」

 

「何か、あったんスかね」

 

「・・・いってみよう」

 

言うや、立ち上がるのは将欽だ

彼女は立ち上がるとそのまま、勢いよく店を飛び出して行ってしまう

 

 

「ああ、ちょっとスズちゃん!?」

 

「私も行きます」

 

 

その後を、慌てて徐盛と陸遜がついていく

 

 

それは・・・奇しくも、太公望が歩いて行ったのと同じ方向だった

 

 

 

-7ページ-

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「さて、これからどうするかのぅ」

 

呟きながら歩く太公望

そんな彼の足取りは、先ほどよりもだいぶ軽い

 

周りからの奇異の視線は相変わらずだったが、今はそれがまったく気にならないのだ

だからなのか、太公望の機嫌はすこぶる良かった

 

 

「とりあえず、市でも見てみようかの」

 

 

そうポツリと呟き、彼は視線を空へと向ける

そして・・・一瞬だけ、眉をひそめた

 

 

「む・・・?」

 

 

それは所謂、虫の知らせというものであろうか

 

何かを感じたのだ

 

すっと・・・何かが、彼の胸を掠めたのだ

 

そしてそれは・・・

 

 

 

 

「助けてくださいっ!!!!」

 

 

 

 

すぐに、現実のものとなる

 

 

「はぁ〜・・・」

 

ため息を吐き出し、彼はその足を止める

それから・・・頭を軽く掻くと、再びため息をついた

 

「やれやれ、じゃ」

 

そう言うや、彼は走り出す

向かうのは、先ほどの声が聞こえてきた方向

 

 

「っ、あそこか」

 

 

その場所は、すぐに見つかった

走り出してすぐに見えたのは、わらわらと集まる人々

 

太公望はそれを見ると、その群れへと向かい駆け出して行った

 

 

「お願いします!

【珊】の村を助けてください!!」

 

 

人ごみを掻き分けて進んだ先

 

そこにいたのは、必死にそう訴える少女

ぼろい服を身に纏い、ボサボサとした長い白髪の少女

 

そしてもう一人・・・その助けを求める少女を、困ったような表情で見下ろす見覚えのある女性がいた

 

 

「雪蓮・・・?」

 

「ん?」

 

 

太公望の口から、彼女の名前がこぼれる

それが聞こえたのか彼女・・・雪蓮は、太公望を見てフッと微笑んでいた

 

 

「あら、望ちゃんじゃない

こんな所で会うなんてね」

 

「たわけ、あの場所からはここが一番近いのはおぬしが一番わかっとるだろうが」

 

 

“それよりも”と、太公望は視線を少女へとむける

少女の体が、ビクンと一瞬だけ震えた

 

 

「なんの騒ぎじゃ、これは」

 

「それがね・・・この子の村が賊に襲われたみたいなの」

 

 

“ほう”と、太公望は息を吐く

そのまま、無言で雪蓮に続きを促した

 

 

「それで、助けてほしいって言われたんだけどね・・・残念だけど、無理なのよ」

 

「無理、とな?」

 

「ええ、悔しいけど

ここには、私個人の・・・孫家の兵は少ししかいないわ

残りはほとんど、袁術のとこの兵士なの

それを動かすには、それなりの理由か・・・または袁術のご機嫌をとるような“贈り物”が必要だわ」

 

「なるほど、のぅ」

 

 

そう呟いてから、彼は気づいた

目の前に立つ雪蓮・・・彼女が、強く握りしめた自身の手

そこから、ポタリと血が流れているのを

 

 

「雪蓮・・・」

 

「悔しいわ・・・もし私たちに力があったなら、彼女の村だってすぐに助けにいけるのにね」

 

 

本当に悔しそうに、彼女は震える声で呟いた

その声に、太公望はすっと・・・瞳を閉じる

 

 

(やはり、似ておるよ・・・お主に)

 

 

心の中で言い、彼は瞳を開く

その視線の先には悔しそうに俯く雪蓮と、その様子を泣きそうな表情で見つめる少女の姿があった

 

その姿を確認し、太公望は自身の懐に手をやる

そして取り出したのは、一つの宝石

 

真紅の宝石

 

その宝石を見つめ、彼は微笑んだ

 

 

「決まったの、ワシの・・・【太公望】の進むべき道が」

 

 

 

 

彼の真紅の瞳が、一瞬だけ大きく揺らいだ・・・

 

 

 

-8ページ-

 

ーーーー†ーーーー

 

「あっ・・・」

 

徐盛と将欽、それに陸遜がその場に辿り着いたとき

先ほどまで一緒にいた太公望が、何故かその場の中心におり・・・さらには懐から、さっきの宝石を取り出したところだった

 

“いったい何を”

そう言いかけた矢先だった

 

 

 

「雪蓮っ!」

 

「へ?」

 

「「「あ」」」

 

 

 

彼は・・・太公望は、あろうことか持っていた宝石を雪蓮に向かって投げ出したのだ

その突然の行動に言葉も出ない三人をよそに、慌てた様子で雪蓮はその宝石を掴む

 

それから、わけがわからないといった表情で太公望を見つめた

 

 

「望ちゃん、これはなんなの?」

 

「見ればわかるじゃろ?」

 

「いや、そうじゃなくってさ・・・」

 

「必要なんじゃろ?

ご機嫌をとるためのモノが」

 

「・・・!」

 

 

言われ、雪蓮は気づく

太公望が言わんとしていることに

 

そのことに、徐盛たちも気づき・・・また言葉を失っていた

 

 

「それなら、相当な値がつくはずじゃ」

 

「でも・・・」

 

「構わんよ、どうせ貰い物じゃしな

それに・・・このような使い道ならば、あ奴も喜ぶじゃろうて

それで早く、兵を準備するんじゃ」

 

 

そう言って、彼はカラカラと笑う

それから、少女のもとへと歩み寄った

 

 

「お主、名はなんという?」

 

「ご・・・【吾粲】」

 

「ふむ、良い名じゃ」

 

 

そう言って、彼は少女に向かって微笑む

それは、少女の心を少しだけ安心させる

 

 

「さて、吾粲よ

お主の村にいるという賊なんじゃが・・・数はわかるか?」

 

「えっと、百人くらい・・・だと思う」

 

 

“ふむ”と、太公望は何やら考え込む

それから何か思いついたのか、彼はいきなり少女・・・吾粲の体を抱き上げた

 

「ひゃっ!?」

 

所謂、お姫様抱っこというやつである

その突然の行動に、真っ赤になる吾粲

 

だがそんな様子を気にすることなく、太公望は先ほどまでと変わらない表情で吾粲に話しかけた

 

 

「お主の村は、ここからだとどれくらいの距離なんじゃ?」

 

「こ、ここからなら・・・夕方までにはつけると思う」

 

「そうか、ならば急がなくてはのう」

 

「へ・・・?」

 

 

呆気にとられる少女

その様子に気づくこともないまま、彼は人ごみを掻き分け歩き出した

 

 

「ちょ、ちょっと望ちゃん!?」

 

「む、なんじゃ?

もしや、それじゃ足らんかったのか?」

 

「違うわよ!

何処に行くつもりよ!?」

 

 

雪蓮の言葉

それに・・・彼は当然と言わんばかりの笑顔で、こう言ったのだ

 

 

 

 

「決まっておろう

ワシは、今からこの少女の・・・吾粲の村へと向かうんじゃよ」

 

 

 

 

その笑顔がいっている

彼は、本気なんだと

 

そのことに気づき、雪蓮は深くため息をついた

 

 

「たった一人で、何とかなるって・・・本気で思ってるの?」

 

「はっ、そんなことわかっておるわ

じゃからお主に、急ぎ兵を準備するよう言ったんじゃろうが」

 

「なら、なんで行くのよ?」

 

「何も、戦いにゆくわけではない

ワシは、“こっち”が専門じゃからな」

 

 

そう言って、自身の頭をコツンと叩く

それから、彼はニッと・・・まるで悪戯を思いついた少年のような笑みを浮かべたのだ

 

 

「お主は今から兵を準備し、夜になり辺りが暗くなるころに村へと着くように来てくれ

その間、ワシはワシで準備をしておく」

 

「準備・・・?」

 

 

“あぁ”と、彼は頷いた

 

 

 

 

 

「ワシの“策”・・・一つ、見せてやろう」

 

 

 

 

 

フワリと・・・この場を包み込むように、風が吹いていく

 

この場にいる全員の視線が、彼に集まっていた

 

 

そして賢者は語りだす

 

自身の知より生み出された、少女を救うための策を・・・

 

 

-9ページ-

★あとがき★

 

ひとまず、更新はここまでw

こっから先は、現在執筆中なんで・・・きっとまだまだかかりますww

 

ここは、モバ・TINAMIのころからは大分道筋が変わってしまいましたw

でも、まぁいっかwww

 

それでは、またお会いしましょうwwww

 

説明
続いて、参話公開〜
ここまでで、以前のお話を越えた感じですねw
次回の更新は、なろうにて何話か更新した後になります

それでは、お楽しみくださいww
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コメント
月千一夜「真紅の君を見てくれ・・・コイツをどう思う?」儂「すごく・・・続きが気になります。出来ればハーメルンで」 (天意無法の歌武鬼者 鬼龍院獣侍郎)
続きがめちゃくちゃ気になります。続きを書いてください。(ヒナたん)
今回も楽しく読めました。今後とも頑張ってください(nigekati)
さて、どんな策が出るか楽しみですね。(ZERO&ファルサ)
ロンロンさん<ここら辺から、前の設定からは若干違ってくるんで・・・更新は、少し遅れるかとw(月千一夜)
きのすけさん<若干の違いはあるものの、実は以前モバでそこまで載せてたっていう黒歴史がある御話ですw(月千一夜)
前のやつは6ページの途中まででしたからね。さて、どうなるのか。(龍々)
次回戦か 楽しみだ(きの)
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