真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第一章・第五幕 『黄演終劇(後編)』
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 剣戟と怒号。

 

 平原の街の西側に、激しくそれが響き渡る。激突するは『董』の旗の軍勢と、『黄』の旗の軍勢。互いの数は、『董』旗の軍勢が二万五千。『黄』旗の軍勢が六万。

 

 戦いはほぼ同等、いや、わずかに『董』の旗の軍勢が圧されていた。

 

 「くそっ!こいつら数だけは居やがる!霞、どうだ!?」

 

 「まだや!まだ下がるわけにはいかん!おらお前ら!玉ぁついてんのやったら、もっときばりぃや!」

 

 周りの兵をそう鼓舞する、さらしにはかま姿といういでたちのその女性――張遼、字は文遠。

 

 「連中、本当に当てになるんだろうな!?おらあーーーっ!!」

 

 そう叫びつつ、周囲の黄巾兵をその斧で吹き飛ばすは、紫色のビキニの鎧を身に着けた女性――華雄。字は無い。

 

 「当てにするしかないやろが!合図が”起きる”まで、うちらが連中をひきつけな、全部がフイになってまうんやからな!」

 

 「そうだな!”途中から割り込んだ”我々が、無様な戦いをするわけにはいかん!……お前たち!気合入れていけ!」

 

 兵たちをそう叱咤し、さらに敵へと向かっていく華雄。それに続き、張遼もまた兵の指揮をしながら、次々と黄巾の兵たちをなぎ倒していく。

 

 

 それは、半日ほど前のこと。

 

 

 

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 「涼州刺史、董仲頴です。冀州刺史、北郷一刀さまは居られますでしょうか」

 

 ヴェールを被った、白銀色の髪の少女が、徐庶と徐晃の前に進み出て、拱手をしつつ自身の名を名乗った。

 

 「私は、徐庶元直と申します。わが主は、ただいま策のための行動中ゆえにて、この場には居りません。それゆえ、代理として私がお話を伺わせていただきます」

 

 と、董卓に対して返事を返す徐庶。

 

 「そうでしたか。それは合流の時期が悪かったようですね。……今回、突然この場に参じましたは、北郷さまが此度の乱を一気に鎮めるべく、平原の街を攻略せんとしておられると、”ある筋”より、聞き及んだためです」

 

 董卓がゆっくりと、自分たちの来訪目的を徐庶らに対して語り始め、その手で背後の兵たちを指し示す。

 

 「これにあるは、涼州の精兵三万騎です。その策の一助として、思う存分にお使いください。……本来は、まずどうしてもお聞きしたいことがあったんですが、それについては、後ほど北郷様に直接お尋ねしたいと思います」

 

 『……』

 

 尋ねたいこと。”それ”が何を指しているのか、徐庶と徐晃はすぐに理解した。おそらくは、過日の”あの事”なのだろう、と。

 

 董卓の、その厳しい目つきを見れば、それは一目瞭然だった。

 

 「……それで、どうする輝里?戦力が増えたのはいいが、今更策の変更というわけにも」

 

 「……いえ。多分、一刀さんなら気づいてくれると思いますから、少しだけ修正をしましょう。董卓さま、そちらの戦力のうち二万ほどを、街に向けて出陣させていただけますか?……正面から」

 

 「え……」

 

 徐庶のその言葉に、董卓が目を見開いて驚く。すると、

 

 「ちょい待ちぃ。あんた、徐庶、つったな。それは何か?うちらに死ね、いうとんか?」

 

 「霞の言うとおりだな。相手は十万から居るというのに、そこに正面から突っ込めというのか?」

 

 「二人の言うことももっともね。……あ、ボクは月、…董卓将軍の軍師で賈文和。この二人は張遼と華雄よ。……で、いったい何をさせる気?」

 

 徐庶に詰め寄った張遼と華雄の後ろで、自己紹介をしながらそう質問をする、眼鏡の少女――賈駆、字は文和。

 

 「……現在進めている策の内容を、これからお話いたします。それを聞いていただければ、こちらの意図もご理解いただけるでしょう」

 

 そう前置きした後、徐庶が現在進行中の作戦を手短に語り、それに少し修正を加えた手を、全員に説明する。

 

 「……というわけです。ご理解いただけましたか?」

 

 「……詠ちゃん」

 

 「うん。これなら確かに、正面に出る”囮”が必要だわ。それがウチの騎馬隊なら、さらに確実性が増すわね。……霞、華雄、お願いするわ」

 

 「わかった」「任しとき」

 

 納得の笑顔で頷く、張遼と華雄の二人。そして、冒頭の場面へと、話はつながるのである。

 

 

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 一方―――。

 

 「クソッ!数はこっちが圧倒的に多いってのに、どうしてこうもてこずっていやがるんだ!」

 

 後方の本陣で、苛つきながらそう怒鳴り散らす張挙に、少々おびえながら、末弟の張弘がおそるおそる声をかける。

 

 「む、向こうは騎馬がほとんどだ。足の速さじゃ歩兵中心のこっちは」

 

 「んなことは言われんでもわかってんだよ!!」

 

 「イデェ!イデェよ!髪引っ張んないでくれよ兄貴!!」

 

 張弘の、そのモヒカン刈りにした髪を思い切りつかみ、ぐりぐりと引っ張る張挙。

 

 「兄貴。弘に八つ当たりしてもしょうがねえだろ?それよりどうするんだよ?このままじゃジリ貧だぞ?」

 

 「決まってる!おい弘!お前、街に戻って中に残っている連中全員に、出陣をさせろ!」

 

 ぐい、と。弟の髪をつかんだまま、張挙は末弟の顔を自分の顔に近付け、そう命令を下す。

 

 「わ、わかった!わかったから、髪を離してくれよ!」

 

 「純!お前は前線に出て、前の連中をもっと鼓舞して来い!逃げ出すような奴が居たら、叩き切って見せしめにしろ!」

  

 「応!」

 

 長兄の命を受け、それぞれに走り出す弟二人。

 

 「……そうだ。相手がなんであれ、数で押しつぶせばそれで良い。戦は数よ!数を揃えた者が勝つ!それが理というものだ!はっはっはっは!」

 

 と、大笑いをする張挙。そして、”その時”は、訪れた。

 

 

 

 「人公将軍、”張梁”だ!門を開けろ!全軍、出陣だ!!」

 

 ”張弘”が、”張梁”と名乗って、門の上に立つ兵に、そう大声で命令を出す。そして、少しの間をおいて、門がゆっくりと開かれだした。

 

 その先に居たのは、四万の兵と、その先頭に立つ、短剣を両手に携えた、姜維伯約―――。

 

 「な!?だ、誰だ、お前は!?」

 

 「……冀州刺史、北郷一刀が将、姜伯約や。張・三兄弟の末弟、”張梁”やな?その首、落とさせてもらうで」

 

 「んだと?!いったいいつの間に……」

 

 「今までの”ツケ”、払うときが来たで。……とりあえず、逝っとき」

 

 「んのアマぁ!んな簡単に行くとお『ドガッ!』……え?」

 

 何が起こったかわからない。そんな表情のまま、張弘の首が宙を舞った。その、首を失った張弘の体の後ろで、

 

 「……ちっとばかり、あっさりしすぎたかいな?ま、モヒカン頭は雑魚と相場がきまっとるし、しゃーないか」

 

 と、姜維がポツリとつぶやく。そして、黄巾”党”の兵たちに対して、力いっぱい叫んだ。

 

 「ええか、あんさんら!あんさんらの大好きな、”天和”たちを利用してきた、黄巾”賊”どもに、正義の制裁をくれてやるで!全軍、突撃やーーっ!」

 

 『ほあああーーーーっっ!』

 

 

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 同時刻、黄巾賊の前衛では。

 

 「ぎゃあーー!」

 

 背後から斬りつけられ、その場に倒れる黄巾賊の兵。その兵を斬った張純が、いまだ血の滴る大刀を高く掲げ、周りの兵たちにこう叫んだ。

 

 「いいか貴様ら!逃げ出そうとする奴は、こいつと同じ末路を迎えることになるぞ!それがいやなら逃げんじゃねぇ!一人でも多くの敵をぶっ殺せ!」

 

 その声で、兵たちは必死の形相になって、相手に突進していく。だがこの少し前、両翼に突如現れた大量の”旗”と、張と高の二つの軍勢の奇襲の効果もあって、彼らの戦意はガタガタになっていた。まともな戦いなどできるはずも無く、兵たちは次々と討ち取られ、かなりの数が逃散をし始める。

 

 「こら!逃げるな手前ら!……ちっ!どいつもこいつもだらしのねえ!こうなったら」

 

 と言ったときだった。

 

 「どけどけ!死にたくない奴はあたしの前に出てくるな!敵将・”張宝”、出て来い!冀州刺史・北郷一刀が将、徐公明の斧を受けて見せろ!!」

 

 騎馬に跨り、その自慢の斧を振るいながら、徐晃が張純を探しつつ、戦場を駆けてくる。

 

 「おお!地公将軍・”張宝”はここよ!!かかって来い、このじゃじゃ馬が!!」

 

 こちらも馬に跨ったまま、大刀を構えて徐晃へと駆け出す、張純。

 

 「うらああーーーー!!」

 

 「おおおおおっっっ!!」

 

 そして、そのすれ違いざま―――。

 

 ドガッ!

 

 「ぐはあ!!」

 

 肩からばっさりと、体を真っ二つにされて馬上から落ち、張純は絶命した。

 

 「地公将軍・”張宝”!!この徐公明が討ち取った!!賊ども!これ以上無駄な抵抗はするな!おとなしく武器を捨てて降れ!」

 

 大斧を高々と掲げ、徐晃はそう叫び、賊兵たちに降伏を促す。

 

 そして、戦は最終局面へと、進んでいく―――。

 

 

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 始めに囮を務めていた、張遼と華雄が率いる董軍・約二万が、街の門が開いたのを合図に、二手に分かれて黄巾賊を取り囲むように動く。さらに、張挙らが”味方”と思っていた、街内部にいた黄巾”党”部隊が、賊たちの背後へと迫る。

 

 そして止めとばかりに、徐庶が率いる北郷軍が、董卓軍本隊とともに、彼らの正面へと進み出る。

 

 最初の戦力差は、すっかり逆転した。

 

 黄巾軍の残兵は、約四万。

 

 それを囲む北郷・董、両軍の合計は、およそ十万。

 

 以上の状況となって。

 

 

 「何でだ……?何でこうなった……!!」

 

 円陣を組んだ(と言うより自然とそうなった)黄巾軍の中央で、張挙は忌々しげに歯噛みした。

 

 そこに、

 

 「賊兵たち!道を開けぇや!これより、天の御遣いが前に進み出る!これを阻むものには、天の裁きが下るで!!」

 

 姜維の声が響き渡り、それと同時に制服姿の一刀が、賊軍のほうへと一歩一歩歩み始める。陽光を受け、光り輝く(様に見える)その姿に、賊兵たちは完全に尻ごみをし、その”道”を開けていく。

 

 まるで、旧約聖書の一場面のように。

 

 「き、貴様ら、何をしている!道を開けるな!ソイツを殺せ!俺のところに来させるんじゃねえ!!」

 

 そんな張挙の叫びもむなしく、賊兵たちはピクリとも動かなかった。ただただ、歩みを進める一刀を、畏れの表情で見つめるのみであった。そして、

 

 「俺の名は北郷一刀。冀州刺史にして、天の御遣いなり。……天公将軍こと、”張角”だな?今回の乱の首謀者として、お前を討たせてもらう」

 

 一刀が張挙の前に立ち、朱雀を抜き放ちながら、そう言い放った。

 

 「ふざけるな、ガキ!お前のような奴に、むざと討たれる俺様ではないわ!」

 

 槍を構え、一刀に向ける張挙。

 

 「……ならば来い。俺にカスリでもすることが出来たら、命ぐらいはとらずにおいてやる。ただし、チャンスは一度だけだ。……外すなよ?」

 

 「……おのれ、小童あああっっっ!!」

 

 

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 張挙とて、それなりに武に自信を持っていた。見た目わずか二十にも満たなそうな男に、戦う前から見下されたことで、彼は完全に怒り心頭に達し、その自慢の槍を一刀に向け、全力で振るった。

 

 だが彼の不運は、相手の力量を見定めることの出来る”目”を、武人ならば最低限は持っていなければいけない、それを、持っていなかったことだった。

 

 「……殺った!!」

 

 張挙の槍が、一刀の体を貫通―――したかのように見えた。

 

 「なっ!?」

 

 驚き、呆気にとられる張挙の前で、”その”一刀の姿がスゥと掻き消える。そして、

 

 「……残念」

 

 「!!後ろかっ!!」

 

 声のした自分の背後に、張挙はすばやく体を回転した。そして見た。自分の体に、一振りの刃が、振り下ろされる、その瞬間を。

 

 「あ」

 

 それが、彼の最後の言葉となった。

 

 バラバラと。十七個に分断されて崩れ落ちる、張挙の体。

 

 地に散乱した”それ”を一瞥した後、一刀はその視線を、平原の街のほうへとやった。そこには、門の前に立つ三人の少女の姿があった。

 

 親からもらった自分たちの名を、今日を限りに捨てることになった三人の姉妹は、その顔に複雑な笑顔を浮かべ、視線の合った一刀に対し、コクリ、と、軽く頷いた。

 

 それを見た一刀は、手の中の朱雀を高々と掲げ、

 

 「……黄巾軍首領、天公将軍”張角”!北郷一刀が、討ち取った!!」

 

 と、高らかに宣言をしたのであった。

 

 この日を境に、黄巾の乱は一気に収束へと傾いた。

 

 黄巾賊首領である、”張角”・”張宝”・”張梁”の、三”兄弟”の死によって―――。

 

                   

 

                                   〜続く〜

 

 

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 あー、疲れた。

 

 「何のっけからだれてんのよ?あ、どーも。輝里ちゃんでーす」

 

 「由やー。よろしゅー。・・・で、どないしたん、作者」

 

 単に疲れただけー。今回はほんとに難産だったから・・・。

 

 「一刀さんと三姉妹の絡み、結局書かなかったんですね?」

 

 うん。話の盛り上がり的に、この方がいいなと思いまして。詳細は次回にて、お送りします。

 

 「これで黄巾の乱は終わり。で、つぎは事後処理みたいな感じ?」

 

 そゆことです。・・・ぐー・・・・。

 

 「あ、寝よった。よっぽど疲れてたんやね」

 

 「はい、由。これ毛布。かけといてあげて」

 

 「はいよ。・・・さて、では次回予告」

 

 

 

 

 「・・・と言いたいところですが、まだ予告原稿も出来てませんので、今回はご勘弁ください」

 

 「おとはん、ぐーすか熟睡中なんで、邪魔せんように、静かに〆るで」

 

 「それではみなさん、また次回にて、お会いしましょう」

 

 「コメント、その他ツッコミ、お待ちしてるで?」

 

 

 『それでは皆さん、再見〜〜!!』

 

 

 

 ・・・・zzz・・・・むにゃ。王冠、どうもでしたー・・・・・・にゃむにゃむ。

 

 

 

説明
一章・五幕をお送りします。

黄巾戦、ついに決着です。

北郷軍、黄巾軍、そして董卓軍の三軍入り混じっての、

戦いの顛末は、はたして?

それではどうぞ。
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コメント
ロンロンさま、で、小物の末路はあんな感じww定番ですな^^。(狭乃 狼)
hokuhinさま、月の話はもちろん、いつかの”あの事”ですwもちろん、出会いと書いて伏線と読みますから(え?ww(狭乃 狼)
シンさま、ぜひお楽しみに、ですw(狭乃 狼)
kabutoさま、天和たちの詳細は次回にて、お伝えしますね。(狭乃 狼)
村主さま、末弟は完全に雑魚ですがねww上二人も似たようなもんです^^。(狭乃 狼)
ppさま、魔眼は持ってませんww恐怖の対象になろうとしているわけではないですが、自然とそうなっていくんでしょうね。本人たち意思とは関係なく。(狭乃 狼)
mokiti1976−2010さま、三姉妹については次回を。へぅさんとの出会いは、もちろん次の話にからみますw(狭乃 狼)
月が一刀に聞きたい事とは何なのか、気になりますね。ここで月たちに会って、うまく反董卓連合の時の仕掛けを作る事が出来るか楽しみです。(hokuhin)
続きが楽しみだ(シン)
モヒカン小物wwww天和たちはこのまま一刀のとこですかね・・・?(kabuto)
一応フォローするなら(?)3兄弟が雑魚ではなく相手が悪過ぎた、とw チートが相手では・・・ モヒカンの限界と申しましょうか (村主7)
おお、17分割とは・・・まさかこの一刀は魔眼持ちか! もしかして恐怖の対象になろうとしてのこととかでしょうかね。まあ次回に期待! (pp)
モヒカンどころか女の子脅迫してる時点で小物。(龍々)
とりあえず黄巾の乱は終了というわけですが、三姉妹のこれからとへぅさんとの出会いが一刀のこれからにどう影響していくのか楽しみです。(mokiti1976-2010)
砂のお城さま、さて、へぅっ子に詰め寄られた一刀はどう返すのか?種馬犠牲者第二号は誕生するのか?ww待て、次回!・・・なーんて^^。(狭乃 狼)
はりまえさま、さて、諸侯はどう反応しますかね?手柄をかっさらわれた華琳とかww(狭乃 狼)
よーぜふさま、なんか、帰ってきた時の由がすっごいいい顔してたんですが、何をお話されたんでしょうか・・・(ガタブルガタブル)(狭乃 狼)
まあ史実通りにね、違うのは自殺ではないということぐらいか。これで各諸侯の反応はまた変わるだろうな(黄昏☆ハリマエ)
もうあれですね、これからも王冠ついていきますでしょうし、もう謝辞?はいいません。 ですので一先ず?お疲れ様です・・・ あ、由さんとはしっかりsay様のこれからについてOHANASHIしておきましたんで・・・ニヤリッ(よーぜふ)
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