真・恋姫無双 魏end 凪の伝 39
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「・・・もー、どうしてこっちに来るかなー・・・」

 

溜息交じりの雪蓮の言葉に、七乃も「あははは・・・」と冷や汗を流しながら乾いた笑いを返す。

 

七乃としても華琳に見つかるのは非常にマズイ。

 

それは麗羽と猪々子、そして美羽が『にゃあ黄巾党』の頭に据えられてるなどと華琳に知れれば、

 

最悪本気で首を獲られかねないからだ。

 

麗羽達三人はただ乗せられているだけだが、華琳ならばお構いなしに首を飛ばされそうな気がする。

 

簡単に最悪の想像がつくだけに、さすがの七乃にも焦りが見えた。

 

それはなぎにも言える。

 

今の姿を華琳が見たら恐らく華琳であれば何かを察するだろう。

 

そうなれば"色々"な目に会う可能性もあり、何より『凪』と会う事になってしまう。

 

もしそうなれば自分は ─────

 

「今はここを動けないわねー・・・」

 

雪蓮の言葉に二人が頷く。

 

一刀はその三人を見ながら、さっき見た金髪で水色の髪の少女を思い出していた。

 

(──── 武将は全部女の子・・・全員と関係を持った・・・あの子も・・・か・・・?

 

どう見ても小学生・・・だよな・・・)

 

おおおおお・・・と呻きながら頭を抱える。

 

その時、小さく扉を叩く音がした。

 

「ん?二人が帰ってきたかな?」

 

一刀が立ち上がり、扉を開けた瞬間に頬が引きつる。

 

「おおー。やっぱりお兄さんでしたかー」

 

そこには風が立っており、頭に乗った宝ャが小さな虫取り網を持っていた。

 

「げぇ!!!??風!!??」

 

雪蓮が思わず声を出し、七乃となぎが慌てて雪蓮の後ろに隠れる。

 

「どうもですー」

 

そう言いながら中に入ると、囲炉裏の前にどっこいしょと座った。

 

事態が飲み込めない一刀がだがどうすればいいのか迷っていると、固まった三人を余所に風が

 

一刀をじーっと見つめている。

 

(どうすりゃいいんだ・・・コレ・・・)

 

「まぁまぁ、お兄さん。扉を閉めて、こっちきてすわりましょー」

 

一刀が迷っているのをしばらく見た後、風が目を糸のように細めて笑顔になった。

 

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「え・・・?・・・っと」

 

戸惑いながらも頷いて扉を閉め、席に戻る。

 

三人を正面に、風が右側、一刀が左側といった並びだ。

 

「まずはこんばんはーですね」

 

一刀が座ったのを確認すると、風がのんびりとした口調で一刀に声を掛ける。

 

「あ、ああ・・・こんばんは・・・だな」

 

その余りにものんびり具合に一刀は戸惑いっぱなしだがとりあえず挨拶を返す。

 

(うん・・・と。魏の武将だよ・・・な?やっぱり手は出してないって事か?)

 

希望的観測でそう思うが、本人が何を考えているかさっぱり分からない。

 

首を傾げる一刀を見ながら、風はニコニコと笑顔を崩さないでいた。

 

「やっぱり、風の事は分からないみたいですねー」

 

「え?」

 

「風は姓を程c、字を仲徳、真名を風というのですよー」

 

(程c・・・って・・・身長190cmオーバーの大男じゃなかったっけか?)

 

目の前の少女と、自分の知識の違いに愕然とするが、風は構わず言葉を続ける。

 

「さて。お兄さん、今の自分の立場が理解できますかー?」

 

「ちょ、ちょっと!今は一刀を渡す訳にはいかないのよ!」

 

風の言葉に雪蓮がハッとして叫ぶが、風はまったく雪蓮を見ていない。

 

「そ・・・そうですよー。これからちょこーっとお手伝いしてもらうんですからー」

 

その後の七乃の小さな声にも反応は無かった。

 

「立場・・・?」

 

「今、三国ではお兄さんを巡って争いが起きているのですよ。その事を知っていますか?」

 

「オレを・・・?」

 

「そうですよー。お兄さんはそれだけ重要な位置にいるのですよ」

 

「なんだって・・・!?」

 

「ちょっと!何言い出すのよ!」

 

雪蓮が風を止めようとするが、やはり風はそれに構わない。

 

驚いている一刀を笑みを絶やさず見ていた風だが、一刀の背に冷えるものがあった。

 

「──── !?」

 

本当の意味では目が笑っていない。

 

その双眸は冷酷なまでに冷たく一刀を見据えていた。

 

「え・・・と。オレは ────」

 

「お兄さん」

 

一刀の声を遮り、風が一刀を呼ぶ。

 

その声に一刀ばかりか、雪蓮、七乃、なぎでさえ青くなった。

 

「遊びは終わりです」

 

気配が違う。

 

さっきまでのどこかぼんやりした気配が吹き飛ぶ。

 

そこにいるのは・・・誰だ?

 

雪蓮と七乃、なぎの三人が恐怖する程の存在がそこにあった。

 

火の近くにいる筈なのに、手足が凍えたように動かない。

 

「迎えに来ました」

 

風の瞳はただ一刀だけを見据えている。

 

「さぁ・・・帰りましょう」

 

他の者は一切目に入らず、ただ一刀だけを見据えるその目は・・・冷酷などではなかった。

 

「そうしないと────」

 

熱い・・・全てを焼き尽くすべく静かに燃える炎が見えた。

 

「この場にいる他の人達がどうなるかわかりませんよー」

 

──── それは風の最後通告。

 

息を呑む音が聞こえる。

 

それは誰のものだったか。

 

火の中の薪が崩れた小さな音でさえ、耳に響く程大きく聞こえた。

 

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村周辺に現れた『にゃあ黄巾党』は一刻もしないうちに一蹴された。

 

だが捕らえた者の証言で間近に本隊がいる事が分かり、周囲がにわかに騒がしくなる。

 

華琳は即座に建業へ遣いを飛ばし、本隊との戦いに備えていた。

 

「そ・・・曹操様!!」

 

天幕の中で次の行動を指示していた所へ、親衛隊の一人の女性兵が血相を変えて飛び込んできた。

 

「どうした」

 

「そ・・・それが・・・あの・・・!!」

 

その女性兵は長く華琳に仕えている兵だが、そんな血相を変えた表情は見たことが無い。

 

女性兵は言いよどみ、天幕の中にいた他の兵をさっと見る。

 

それだけで華琳は理解した。

 

「他の者は下がれ」

 

「はっ!」

 

華琳の命に他の兵が一斉に下がる。

 

それを待っていた女性兵が即座に華琳の側に控えた。

 

「も・・・申し上げます。黄巾党の本隊から逃げてきた他の村の住民達がいたのですが、

 

その中に・・・その・・・」

 

嫌な予感が華琳の胸を占める。

 

「許緒様と・・・その・・・夏侯惇様が見つかりました」

 

嬉しい筈の報告・・・なのに女性兵の表情は青褪めて暗い中でもはっきりと分かる程だった。

 

そして女性兵は春蘭では無く、季衣を先に呼んだ。

 

さらには春蘭であればもうこの場に来ていてもおかしくは無い。

 

だが春蘭は来ず、女性兵が報告に来た・・・。

 

最悪の事態が頭をよぎる。

 

「それで・・・二人はどこにいるの?」

 

急速に乾く口を何とか開いてそれだけを告げると、女性兵はもう一度言いよどむ。

 

「・・・医療用の隔離天幕にいらっしゃいます・・・」

 

「・・・え?」

 

それは"重体以上"の兵を収容する天幕。

 

華琳の耳に自分の心臓の鼓動が響く。

 

「・・・案内しなさい」

 

「はっ」

 

女性兵は小さく頷くと、華琳の先に発って歩き出した。

 

華琳も座っていた椅子から立ち上がろうとした時、自分の足が動かない事に気がつく。

 

「本当に弱くなったわね・・・」

 

自嘲の笑みと共に口から漏れた声は、幸い女性兵には届かなかった。

 

一度深呼吸をすれば、再び足が動いた。

 

だが、どこかフワフワした足取りに感じられる。

 

まるで自分の足ではないような感じを受けながら女性兵の後ろを歩く。

 

一歩一歩、歩くたびに心臓の鼓動が大きくなるような気さえする。

 

 

 

「あ・・・」

 

医療用の隔離天幕の前に座り込む季衣が、華琳の気配で顔を上げるのが夢のようでもあった。

 

季衣の大きな瞳にみるみる涙が溜まる。

 

「か・・・かり・・・ん・・・さ・・・」

 

声にならない悲鳴が聞こえた。

 

華琳が季衣に駆け寄り、抱きしめる。

 

声を殺して泣くのは季衣の武将としての最後の一線に思えた。

 

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しばらく泣いていた季衣が華琳から体を離す。

 

「春蘭さまが・・・中にいます・・・・・・兄ちゃんも・・・」

 

小さな呟きが、華琳の心にズキリと響く。

 

一刀が建業の街に居るのは聞いた。

 

ならば今の季衣の言葉は何なのか。

 

震える手で天幕を開き、中に入った華琳の見たものは────

 

 

『秋蘭〜華琳さまに怒られたぞ〜』

 

 

春蘭が、

 

 

『ええい!北郷!逃げるな〜!』

 

 

あの強かった春蘭が、

 

 

『わたしは華琳さまの道化になります!』

 

 

見る影も無く痩せ細り、

 

 

『華琳さまの手料理なら、樽一杯でも食べきってみせましょう!』

 

 

胸に抱いた、

 

 

『わたしは・・・北郷が消えたと聞いても・・・泣けませんでした』

 

 

一刀の、

 

 

『わたしは、これでも姉ですから・・・』

 

 

首の入ったケースを、

 

 

『でも、あいつはいつか必ず戻ってきます』

 

 

弱弱しく微笑みながら抱きしめ、

 

 

『約束しましたから・・・ずっと華琳さまを支えると』

 

 

横たわる姿────

 

 

『華琳さま!』

 

 

華琳の視界がぼやける。

 

「・・・あ・・・」

 

小さな声と共に涙が頬を伝う。

 

「しゅ・・・しゅん・・・ら・・・ん・・・?」

 

華琳の声にも反応が無い。

 

「起き・・・なさい、起きなさい、春蘭・・・」

 

何とか近寄り、春蘭の体を揺すっても反応が無い。

 

「ねぇ・・・起きなさいよ、春蘭・・・命令よ・・・」

 

わずかに胸が上下する事から、息はある。

 

「春蘭、起きて・・・」

 

だが、それは息があるだけだ。

 

「春蘭・・・」

 

とめどなく涙が溢れる。

 

「一刀・・・」

 

華琳の手がケースに触れるが、冷たいケースの中の一刀は答えない。

 

「何が・・・どう・・・なって・・・」

 

誰も、答えてはくれない。

 

誰も近づかない天幕に────華琳の嗚咽だけが聞こえていた。

 

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お送りしました第39話。

 

七巻読みました。

 

まさか黒猫と京介がー・・・と、それはおいといて。

 

・・・この話は悩みました。

 

正直言うと、春蘭がどうなるか現時点では自分でも決めていないです。

 

何とかして全員ハッピーエンドに持っていきたいですが悩んでいます。

 

当初のプロット通りに行くか、改変するか・・・。

 

今回は、次話予告は無しで行きます。

 

では。また。

 

 

説明
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コメント
まーくん様、あの方は・・・まだ続くかとw(北山秋三)
sai様、出来るだけ・・・がんばります!(北山秋三)
FALANDIA様、そうなんですよね。大事な場面とかでは意外と一刀を頼りにしている所があるかと。(北山秋三)
りゅうじ様、模索中・・・模索中・・・。(北山秋三)
きのすけ様、かなーり厳しいですよね。"全員"は。(北山秋三)
水上桜花様、yesです。これからどうなるか・・・ご覧ください。(北山秋三)
Djトク様、さらに混乱させる事になるかと・・・。(北山秋三)
yosi様、"全員"は厳しいんですよね。(北山秋三)
BX2様、がんばります・・・。(北山秋三)
中原様、これからさらに最悪へと・・・?(北山秋三)
シン様、ふふふ・・・読ませませんよー。(北山秋三)
poyy様、さらに増大しますよー。(北山秋三)
よーぜふ様、それは・・・本編でw(北山秋三)
nameneko様、これからさらにこんがらがるかと・・・。(北山秋三)
流石に春蘭がこわれたままなのは戴けないですからねー・・・。それにしても風・・・こええよw雪蓮のスーパーフリーダム嫁はもう少し見たいなあ・・・(まーくん)
この状態からハッピーエンドに持っていくのって難しいですね。春蘭には早く復活してほしいですね。(sai)
意外と一刀に依存してますよね、春蘭って。それが生首のホルマリンなんて・・・。最早剣も心も砕けたか・・・。(FALANDIA)
全員がハッピーになる方法なんてあるんでしょうか・・・(汗(りゅうじ)
ここからハッピーは・・・え?どうすればいいんですかね(汗(きの)
連投:この外史の一刀は境界のなかで消滅したんでしたっけ?(水上桜花)
そういや、春蘭は偽一刀の首を見せられて壊れていたんでしたっけ。そしてそのまま華琳と邂逅・・・。これはかなり拙い状況ですね。下手をすると華琳も壊れてしまうかもしれない。早くもう一人の一刀と遭遇しないと危険・・・ですね。(水上桜花)
ハッピーエンドへの道筋が見えないや(yosi)
なんとか、春蘭なは復活してほしいですね。(BX2)
かなり不味い状況だな…(中原)
先が読めないや(シン)
混沌が加速していく…。(poyy)
この外史の本来の”一刀”は、首だけとなり魏に帰ってきた・・・ もし一刀が風と共に帰ったらどうなってしまうんでしょう??(よーぜふ)
どういうことだ!?は、話が読めん!!(VVV計画の被験者)
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真・恋姫†無双 北郷一刀  なぎ 華琳  季衣 春蘭 

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