幻想郷と社会人と飲み屋
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 夜もとっぷりと暮れ、空には満点の星空が広がっている。

 涼やかな夜風と共に、彼女らは地上に降り立った。

 彼女らの目の前には紅い提灯がぶら下がっている。

 「八目鰻」と書かれた暖簾をくぐり、彼女らは屋台の中へと入った。

「いらっしゃいませぇ〜♪」

 笑顔を浮かべてミスティアは四人を迎えた。

「女将さん、取り敢えず熱燗お願いします。あと八目鰻を四人前。ちゃんと本物を出してくださいよ?」

「私はもろきゅうを追加で。あと冷やで」

「私は熱燗で。枝豆もお願いします」

「……ん〜、んじゃ私は冷やで」

「はいはい」

 ミスティアは頷いて伝票に注文を書き込んでいく。鳥頭だが、こうしてすぐに伝票を書き込むために注文を忘れてもなんとかこの商売を続けていられる。

 大して待たせることもなく、注文の酒は四人の前に置かれた。

「しかしやっぱりあれですねえ。仕事終わりに一杯というものはほっとしますねえ」

 おちょこに自分で酒を注ぎ、しみじみとした口調で文は漏らした。

「なんだかサラリーマンみたいなこと言っているねえ」

「何ですかにとり? そのサラリーマンって」

「ああ、この前早苗が言っていたんだよ。外の世界で雇用されて働く人をそう呼ぶみたい」

 こくこくと椛も相槌を打った。

「そうそう、早苗が山の社会の様子を見てそんな話題になったんでした。何でも外の世界のサラリーマンは毎日人がぎゅうぎゅう詰めの電車とかいうものに乗って仕事場に行くとか、最近では不況でブラック企業とか鬼上司とか増えているとか大変みたいですね」

「……うへぇ、私絶対に外の世界では働きたくないわー」

「今までずっと引きこもっていたくせに、働くも何もないと思うんですがねはたては」

 にやにやと文が笑みを浮かべ、はたては頬を膨らませた。

「しかしまあ、今のところ我々は鬼上司とは無縁になったわけで……気楽になったもんですね〜」

 ほぅ……と幸せそうな笑みを浮かべる文に、今度は椛が顔をしかめた。

「私は全然気楽じゃないんですけど。……まったく、仕事の邪魔しに来ないで欲しいです」

「ど〜せいつも大将棋やっているだけでしょーが? サボってないか見に来るのは当たり前です」

「あはは……どこの世界でも上司は嫌われるもんだねえ」

 文に犬歯を向く椛を見ながら、にとりは苦笑した。

「やれやれ。私なんてまだいい上司の方だと思うんですけどねえ?」

「どこがですか?」

 犬歯を向いて威嚇し続けてくる椛に対し、文は小馬鹿にした笑みを浮かべた。

 それがますます椛の神経を逆撫でたが。

「……本物の鬼上司ってのは、ひと味もふた味も違うってことですよ」

「そうだねえ……本当に……本当に居なくなってよかった。本当によかったねえ」

 にとりは虚空を向いて遠い目を浮かべた。

 二人の口から漏れる乾いた笑みに、椛とはたては顔を見合わせる。

「あのさ文? 私は鬼の事よく知らないんだけど、どんなだったの?」

 

”地獄”

 

 きっぱりと文とにとりは口を揃えて言った。

「私も酒は強い方ですけどね? 毎日毎日、毎晩毎晩こっちは明日も仕事があるっていうのにそんなのお構いなしに呑ませ続けてくれて……」

「もう呑めませんって言っているのに、それでも呑め呑めって……あんなの……次の日は仕事にならないってのに……」

「そのくせ自分たちは重役出勤だの重役退社だの……何様だってんですよ」

「逆らおうものならご自慢の怪力で……くぅ、これってあれだよ。早苗が言ってたパワハラだよっ!」

 当時を思い出したのか、文とにとりは肩を震わせて涙を流した。

(な、何があったんだろう?)

 突如として二人から吹き出したどす黒いオーラに、椛とはたては冷や汗を流した。

 あまりこの話には深く関わらない方が吉のようだ。

 

”ふむ……その話、私は興味深いねえ”

 

「ふっ……ふふっ!? 本当に聞きたいですか?」

「本当の地獄ってものをたっぷりと教えてあげますよ」

 不意に背後から聞こえてきた声に、文とにとりが振り返る。

 そこで、二人は硬直した。

 勢いよく……滝のような冷や汗を流した。

 屋台の外。彼女らのその視線の前にはにやにやと笑う勇儀と萃香が居た。

 屋台に二人の絶叫が響いた。

 

 

 翌日、山には憔悴しきって目も虚ろな四人の妖怪が居たそうな。

 

 

 

 −END−

 

説明
東方二次創作を一時間程度で書いてみた。飲み屋に集う山の妖怪達の哀愁
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コメント
二人とばっちりっていうwww(BX2)
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