真・恋姫無双 魏end 凪の伝 40
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『────この場にいる他の人達がどうなるかわかりませんよー』

 

風の言葉が一刀の脳裏を駆け巡るが、目の前の少女と言葉のギャップに反応できない。

 

「それがどういう意味か分かっているの?」

 

逸早く反応したのは雪蓮。

 

雪蓮もまた目を鋭くしながら風を睨みつける。

 

確かに村には魏の兵一万がいるが、ここは建業からそれほど離れていない。

 

そういった暴挙に出れる筈はないのだ。

 

ここで雪蓮を殺すようなマネをすれば呉の兵達が黙っている筈も無く、一万程度は例え精強な魏の兵士で

 

あろうとも建業にいる圧倒的な物量の兵力で殲滅されるだろう。

 

「もちろんですよー」

 

それまで一刀だけを見ていた風がようやく雪蓮を見る。

 

その瞳は・・・全てを見透かしたような瞳。

 

雪蓮はその瞳を真正面から受け、雪蓮の瞳も鋭さを増す。

 

「ふぅん・・・分かった上で言ってるんだ・・・そう・・・」

 

ギシッ・・・という音がした。

 

二人の空気に七乃となぎは体を寄せ合いながら少し下がる。

 

さっきまでの雪蓮とは明らかに違う。

 

こちらもまた歴戦の王なのだ。

 

次第に覇気が増大する。

 

それは最早戦場にいるのとなんら変わりが無い。

 

「程c、それは魏の将としての言葉か。あるいは程c個人の言葉か」

 

風を真名ではなく姓名で呼ぶ雪蓮の口調が変わる。

 

「両方ですよー・・・孫策様」

 

ピキリ────と空気が凍った。

 

この外史の住人ではない一刀でも分かる。

 

今、風は呉に対して明確に敵対しているのだ。

 

それは魏と呉が再び戦うという事に他ならない。

 

「ならばその首今から落とすか」

 

「待ってくれ!」

 

雪蓮が立ち上がるのを一刀が制する。

 

「どういうつもりだ、程cさん────」

 

「風です」

 

「程c・・・」

 

「風です」

 

「それは・・・」

 

「風です」

 

まったく変化が無く、続く言葉に溜息をついて話を先に進める。

 

「・・・どういうつもりだ、君は三国同盟を壊すつもりか」

 

「はい」

 

「「「────な!?」」」

 

あまりにもあっさりと帰ってきた言葉に全員が絶句した。

 

「風は・・・お兄さんさえいれば、他はどうなってもいいんですよ」

 

戦慄が走る。

 

一刀だけを見て発せられた言葉に一切の迷いはなかった。

 

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シン・・・とした中で火のはぜる音だけが聞こえる。

 

全員言葉も無く黙り込む中で一刀が深い溜息をついた。

 

「────程c」

 

「風です」

 

「オレは君の知っている北郷一刀じゃない」

 

「ふ────」

 

一刀の言葉に風の言葉が止まる。

 

「信じられないかもしれないけれど、本当に"別人"なんだ」

 

「それは記憶が────」

 

 

 

 

「違う!!」

 

 

 

 

一刀の叫びに風が微かに振るえた。

 

「この外史に降り立った北郷一刀は"もう一人のオレ"なんだ。オレ自身じゃない」

 

「・・・・・・・・・」

 

俯いた風の表情は見えない。

 

「オレが重要な位置にいるのは分かった・・・それでも、魏に行くわけにはいかないんだ。

 

だから────」

 

「わかり・・・ました」

 

それだけを言うと風は立ち上がり、出口に向かって歩き出す。

 

その背が・・・あまりにも寂しそうに一刀の目に映るが、掛ける言葉が無い。

 

扉に手をかけた風の動きが止まる。

 

「・・・今は引きます・・・でも、覚悟をしていてください。必ず迎えに来ます」

 

背を向けたまま発せられた声は、一刀には何故か泣き声のように聞こえた。

 

風が出て行った後、ほーっという溜息があちこちから漏れる。

 

「それにしても、雪蓮さん・・・ホントに首を刎ねるつもりだったんですかー?」

 

「もちろんよ」

 

「ええー・・・」

 

雪蓮のあっさりと告げた言葉に七乃もさらに顔が青褪める。

 

刎ねた瞬間から呉対魏の戦いが開始する筈。

 

一瞬、こいつなんにも考えてないんじゃ・・・と考えたが、その七乃の首に再び『南海覇王』の刃が

 

ピタリと当てられ、七乃が即座にごめんなさいをした。

 

その中でなぎが一刀に近づく。

 

「隊長・・・ふうさまをわるくおもわないでください・・・」

 

「・・・・・・」

 

なぎの言葉に黙って頷くが、一刀はもう悪く思うことはできなかった。

 

風の最後の背が思い出される。

 

(泣いて・・・たか・・・)

 

一刀はあえて真名を呼ばなかった。

 

それは、自分が魏の武将を真名で呼ぶわけにはいかないと思ったからだった。

 

『魏の武将全員と関係を持った』

 

その相手は"もう一人のオレ"で、オレ自身じゃない。

 

真名を呼ぶべきではないと考えたからだった。

 

(仕方ないよな・・・凪・・・)

 

側にいるなぎの頭を撫でながら思い出すのは愛しい凪の笑顔。

 

だが、その笑顔がさっきの風の背中と重なる。

 

寂しそうな背中・・・。

 

(今・・・凪はどうしているだろうか・・・)

 

その問いは口に出せない。

 

口に出せば泣き言にしか聞こえなかっただろうから・・・。

 

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外に出た風は来た道を引き返していた。

 

その足が止まる。

 

頭の上の宝ャは心配そうな顔だ。

 

「・・・風と・・・呼んでくれませんでしたねー・・・」

 

俯きながら発した独り言。

 

「初めて会った時はいきなり真名を呼んだんですけど・・・」

 

『あの・・・風、さん?』

 

初めて会ったのは荒野で野党に襲われていている所だった。

 

突然真名を呼ばれて驚いたのを思い出せる。

 

「もう・・・風の手を引いて逃げてはくれないのでしょうか・・・」

 

見つめた手の平にいつかの重ねられた手の幻視が見える。

 

『オレは君の知っている北郷一刀じゃない』

 

『信じられないかもしれないけれど、本当に"別人"なんだ』

 

『この外史に降り立った北郷一刀は"もう一人のオレ"なんだ。オレ自身じゃない』

 

信じられない。

 

それを信じることなどできる筈もなかった。

 

『違う!!』

 

その言葉を叫んだ時の一刀の顔が浮かぶ。

 

────悲痛な表情。

 

見ていられなかった。

 

「お兄さんじゃないなら・・・どうしてそこまで優しいんですか・・・」

 

手の平にポツ、ポツ、と雫が落ちる。

 

苦しい。

 

涙は三年前に出し切った筈だった。

 

堪えていたものが漏れ出す。

 

「う・・・うう・・・」

 

それでも堪えようと自分の服を掴むが、涙が・・・止められない。

 

「うああ・・・」

 

風の泣き声が森の中に消えて行く・・・。

 

それを見ているのは・・・空に浮かぶ月。

 

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そして嘲笑うかのような笑みを浮かべる"いつもの服装"の朱里────

 

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その頃洛陽の城には霞が華雄を連れて帰還し、大騒ぎをしていた。

 

怪我をしていたため華佗が即座に治療に入る。

 

これで明日には復帰できると胸を撫で下ろす。

 

「一刀が帰ってくるのも決まったし、これで後は春蘭さまと季衣さまが戻れば元通りだね〜」

 

天和がニコニコとしながら暢気に鼻歌を歌うのに、地和が溜息をつく。

 

「あのねー・・・なんっっっども言うけど、一刀はまだ戻ってくるって決まったわけじゃないでしょ、お姉ちゃん!

 

これからが大変なんだから!」

 

「ええー・・・戻ってこないの・・・?」

 

一転してえぐえぐと涙を浮かべる姉に再び溜息をつく。

 

何度も繰り返した事だったが、それだけ天和が浮かれているのもわかった。

 

自分でも実際はドキドキしている。

 

(一刀が帰ってくる)

 

そう思うだけでいても経ってもいられなかった。

 

歌の練習にもいつもより遥かに気合が入り、声にも力が溢れる。

 

「戻ってくるかわからないけど、戻ってきたらとびっっっっきりの歌でびっくりさせてやるんだから!!」

 

「そうだね!ちーちゃん!一刀がいない間にこーーーんなにうまくなったんだぞって教えよう〜♪」

 

腕を組んで踏ん反り返る地和に、天和がぐっと両手を握って答えた。

 

その二人の様子を微笑ましげに見ていた人和の視線の端に、何かが通り過ぎるのが見えた。

 

それは窓の外。

 

「・・・?」

 

不思議に思い、窓の外を見てみるが誰もいない。

 

(見間違い・・・?)

 

だが────

 

(あれ・・・?)

 

窓の外に一冊の本が落ちているのが見えた。

 

騒いでいる二人を残して窓の外に出てその本を手に取った瞬間、人和の呼吸が一瞬止まる。

 

間違いは無い。間違う筈が無い。

 

だが、確かにそこにはある筈の無い本があった。

 

その本は────

 

 

 

 

『太平要術の書』

 

 

 

手が、震えた・・・。

 

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ピクリ、と寝台に寝かされた凪が反応をする。

 

寝台横に置かれた左手用の閻王がわずかに揺れていた。

 

部屋の中に誰かが居る。

 

その左手に持たれた鏡が蝋燭の明かりでキラリと光り、右腕に付けられた閻王が天井から下がる天蓋越しに見えた。

 

(半身が戻ったか・・・これで動ける・・・鏡を届け、隊長から剣を取り戻せば・・・)

 

ようやく体を起こしてその姿を見た凪の思考が停止する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは"傷痕の無い"凪────

 

そしてその瞳に映るのは怒りの炎だった。

 

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お送りしました第40話。

 

混沌が増しております。

 

大泣き風を何度も描きなおしていた為、更新が遅れました。

 

すみません。

 

それと次回予告も無しでございます。

 

重ね重ねすみません。

 

・・・が、もうじき"あのシーン"が出ます・・・とだけお知らせします。

 

では。また。

 

 

説明
何度も描き直ししました・・・。
イメージに合えばよいのですが。
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コメント
無双様、今は「沈んだ太陽は必ずまた昇る」とだけ・・・。(北山秋三)
ptx様、あらすじ書きは・・・凄まじく苦手なのですよ・・・ですが、第二部ももうすぐ終わりですので、できればまとめておきたいですね。(北山秋三)
nameneko様、ついに最重要人物である正史の凪の登場ですので、これから・・・な事に・・・!(北山秋三)
BX2様、頑張ります!(北山秋三)
sai様、これからの選択次第では・・・。(北山秋三)
よーぜふ様、さーて・・・次話の選択次第・・・?(北山秋三)
poyy様、とりあえず2つのシナリオは用意しました!(北山秋三)
はりまえ様、傷無しの凪の詳細はまだ秘密ですよー。(北山秋三)
日輪をもう一度!!(無双)
なんか話がこんがらがってきた…簡単なあらすじなんかあると助かります…(ptx)
傷が無いってことは正史の凪か・・・・・これからが楽しみだ(VVV計画の被験者)
ハッピーエンドまでどう持っていくのか楽しみにしています。訳(まさか風を泣かせたまま終わらないですヨネ)(BX2)
正史の”凪”来ちゃった?!これからどうなるんですかね。(sai)
おあ・・・こんがらがってきやしたぜ・・・ ハッピーに・・・なりますよね?女の子涙は見たくないのですよ(よーぜふ)
ハッピーエンドを迎えるのとても難しいのでは?(poyy)
現代の”なぎ”この意味はいったい何だろうか・・・・・連れ出された人が別人だったからか(黄昏☆ハリマエ)
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真・恋姫†無双 北郷一刀  なぎ  

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