真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第二章・第二幕 『汜水謀戦(前編)』 |
「……なるほど。劉協殿下と董卓さんが、張譲の手で囚われの身になっている、と」
「はい。……そのため白ちゃ、いえ、陛下も張譲に逆らうことが出来ず、相国配下の者たちも、否応なく従わざるを得ない状況になっています」
袁紹を発起人とした、反董卓連合の集結地へと向かう少し前。その連合への参加を、どうするか決めあぐねていた一刀達の前に、突然その姿を現した、劉弁の側近である王?。その彼女の口から語られた、洛陽での”こと”の事実は、半ば一刀たちが予測を立てていたものに近い内容であった。
十常待の長である張譲による、何進の暗殺。そして、それとほぼ同時に行われた、皇妹・劉協と董卓の幽閉。
二人の人質を盾に、張譲は劉弁に対し二つのことを要求した。王?いわくその内容は、
「一つ、董卓を相国に任じる勅を出すこと。二つ、政はすべて自分に任せ、決して口を出さないこと」
以上であった。
二人の安否、そしてその居場所がわからない以上、劉弁にはそれを拒むことは出来なった。そして、張譲による暴政が始まった。
「それで王?さんが、その事を俺たちに伝えるよう、白亜から頼まれてこの地を訪れた、と。ご苦労様でした、王?さん」
よく見れば、体のあちこちに細かい傷を負っている彼女を、一刀はその笑顔とともに労う。
「……俺のことを何で”ご主人様”なんて呼んだのかは、すべてが終わってから聞かせてもらうとして、と。とりあえず、事の真相はこれでわかったな。……張譲、か。……も少し、気を配っておくべきだったな」
以前、危険な人物であるはずのその人物のことを、異世界であることを理由に、頭の片隅に追いやってしまったことを、一刀は後悔した。
「過ぎたことは仕方ないですよ。……それで、どうしますか、一刀さん?真相がわかったといっても、うかつなことは出来ないと思いますが」
徐庶がそう問いかけると、一刀はその場の全員を見渡した後、はっきりとこう言った。
「……俺たちは、連合に参加をする」
『!!』
「そして、劉協殿下と董卓さんを救出し、白亜を助けるため、この連合に参加するであろう諸侯を、利用させてもらう」
「……なるほど。ようは、私たちは”囮”になる、と。そういうことですか」
一刀の思惑に気づいた司馬懿が、先んじてその策を口にする。
「……そっか。そのあいだに、ウチが洛陽に潜り込んで、殿下とお嬢を助け出すっちゅうことやな?」
「……その前に、汜水に寄ってもらわなきゃ、だけどね。王?さん、貴女にも由に同行してほしいんですが、大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん。体のことなら心配要らないわ。任せてくださいな」
スックと立ち上がり、笑顔を作ってみせる王?。
「なら由。後で書付を用意するから、それを持って、まずは汜水関に向かってくれ。……守将が誰かは、大方の見当がつくから、彼女らにそれを渡してほしい」
「了解や」
「輝里と蒔さんはすぐに出発の用意を。重歩兵、軽騎兵をそれぞれ一万づつ、弩兵と工兵を五千づつで出ます」
『御意!』
命を受けた徐庶と徐晃の二人が、足早に玉座の間を出て行く。
「瑠里、今回から君も従軍してくれ。……”本格的な”戦は初めてだろうけど、大丈夫だね?」
「……大丈夫です」
相も変わらずの無表情のまま、司馬懿が拱手をして頭を下げる。
(……”あの時”よりはましになったけど、まだ時間がかかる、かな)
出会ったころの、まるで”人形”のようだった彼女のことを思い出し、現在の様子と比較する一刀。
(それでもずいぶん、感情が表に出るようになったし、ま、気長にいくしかないか)
「……よし。それじゃ、由は俺の部屋に来てくれ。瑠里は輝里達の手伝いを頼むよ」
「はいな」「……はいです」
そして、場面は反董卓連合の集結地、その本営へと移る。
「おーほっほっほっほっほ!みなっさん!よ~く、お集まりいただけましたわ!わ・た・く・し・が!この連合の発起人である、名門中の名門、袁家当主、袁本初ですわ!」
いきなりの高笑いに始まり、自己紹介(?)をする、縦ロールの金髪が、これでもかというくらいに目立つ、金色のよろい姿のその女性―――袁紹、字を本初。
「さて。まずはみなさん、自己紹介などなさっては?初めてお顔を合わせる方もいるようですし。どうかしら、華琳さん?」
「……好きにすれば」
面倒くさそうといった感じで、袁紹からそっぽを向く、その金髪の少女。
「ならばまずは妾からじゃ。妾は袁公路。袁家の”正当な”、当主じゃ!苦しゅうないぞ」
えっへん、と。
なぜか誇らしげに胸を張る、金髪ストレートのその少女――袁術、字を公路。
「……?州刺史、曹孟徳よ」
大きくため息をつきつつ、つまらなさそうに名乗る、先ほどの金髪の少女――曹操、字を孟徳。
(……彼女が曹操、ね。白亜もおびえる人物、か。ほんと、人の見た目って当てにならないよな)
「揚州は呉郡太守、孫文台だ」
薄い赤毛に褐色の肌の、長身の女性――孫堅、字は文台が、曹操に続いてその名乗りを上げる。
「幽州・北平の公孫伯珪だ。よろしく頼む」
その後に続く、今度はしっかりとした赤毛の、一見どこにでも居そうな雰囲気のその人物――公孫賛、字を伯珪。
「……平原の相、劉玄徳です」
その公孫賛の後に、桃色の髪の少女――劉備、字は玄徳が、拱手して挨拶をする。
「あたしは馬孟起だ。今回は涼州連合代表の母上の名代で、参加させてもらいに来た。よろしく頼む」
ポニーテールの、活発そうなその少女――馬超、字を孟起が、はきはきとした口調で名乗る。そして、
「……北郷一刀。冀州刺史、?郡太守です。よろしく」
と、一刀がその名を名乗ったとたん、全員の視線が彼に集中した。
(見られてるな~、おもいっきり。ま、仕方ないんだけど(ゾクッ!)……なんだ?この突き刺すような視線は)
自身に向けられたそれぞれの視線。それに含まれた”意味”を、一刀は一同の瞳から、順に判別していく。
(……無関心、興味、好奇心、そして嫌悪、か。……さっきのは彼女の、劉備さんのものか)
と、自らに向けられた中で、一番強い視線の持ち主に、一刀は気づいた。
一刀を見る、というよりは、にらみつける、といったほうが正しいであろうその表情を、隠そうともしないその彼女に、一刀がその視線を送る。
「ッ!」
フイ、と。
視線が合ったその瞬間、劉備はその顔を一刀から背けた。
(……嫌われてんな~、こりゃ。……原因は”あれ”、かな?劉備っていえば、人徳の王とも呼ばれた人だし。……ま、いいさ。そのうち、話す機会もあるだろ。それよりも)
その、劉備に向けていた視線を、今度は袁紹の方へと向け、
「……ところで、この連合は”誰が”、総大将を務めるんです?いかな大軍とはいえ、頭無しでは、ただの烏合の衆になりかねませんよ?」
と、一同に語りかける。
「……北郷の言うとおりね。で?どうするの、麗羽」
一刀の意見に同調した曹操が、おそらくは袁紹の真名であろう名を呼び、問いかける。
「確かにその通りですわね。どなたか、いい案はございませんの?」
そう周りに問いかけつつ、一同を見渡す袁紹。……まあ、自分がやりたそうにしているのは、一目瞭然であるが。
「ならば妾が」
「袁紹でいいんじゃないか?」
「あたしも孫堅殿に賛成だ」
「そうね。何しろ、四世に渡って三公を輩出した、”名門”、だし。なにより、この連合の発起人ですもの」
立候補しようとした袁術の声を遮るように、孫堅、公孫賛、そして曹操が、袁紹を総大将に推す。
(……ま、誰もやりたくないのが本音だろうな。こっちとしては願ったり叶ったり、だけど)
と、顔には一切出さず、心の中でほくそえむ一刀。
「そこまで言われては仕方ありませんわね。それでは、”名門”たるこの私が、この連合の総大将を務めさせていただきますわ。おーほっほっほっほっほっほっほ!!」
(おー、おー。嬉しそうに)
仕方なくといいながら、顔一面に満面の笑みを浮かべて高笑いする袁紹を、冷ややかな目で見ながらそんな風に思う一同であった。
「それでは!総大将として最初の命を下しますわよ!全軍、汜水関に向けて、”雄雄しく”、”優雅に”、そして”華麗に”!進軍いたしますわよ!」
『……応!』
「北郷さん?先鋒は”貴方”に、務めていただきますわよ。集合が最後だったのですから、それぐらいは当然でしょう。よろしいですわね?」
「……了解」
と、袁紹の命令に不承不承といった感じで、一刀はうなずく。しかしその頭の中では、
(……ここまでは計算どおり、だな。”わざと”ゆっくり来た甲斐があったってもんだ)
と、してやったりという思いでいたのであった。
同じころ、その連合軍が向かおうとしている、汜水関の内部では。
「由~!久しぶりやな~!元気やったか~!?」
「もちろん元気やて。……って、ちょ、こら、霞!どこ触っとんねん!」
張遼が久しぶりの再会を喜び、姜維にしがみついていた。……ドサクサ紛れに、彼女の体のあちこちを触りながら。
「霞、嬉しいのはわかるが、それ位にしておけ。……それで姜維?ここには何をしに?それに、その女は何者だ?」
華雄が張遼の行動を諌めつつ、姜維に対して、その来訪目的と、王?の事を聞いてくる。
「ああ、この人は王?はんいうてな。なんや、顔を見るんは初めてかいな。……陛下の、例のお付の人や。……それだけ言えば、何しに来たかぐらい、見当つくやろ?」
「!!……そうか。由は”事の真相”を知っとんのやな?つーことは、月っちを助け出す算段があるっちゅーことか」
「本当なのか、姜維!?」
ずい、と。姜維に迫って問いかける華雄。
「せや。協殿下とお嬢は、ウチと王?はんで助け出す。……霞たちにはな、これの通りに動いて欲しいんや」
姜維がその懐から、一枚の書付を取り出し、張遼に渡す。?を発つ前、一刀から預かったそれを。
「……へえ。面白いやんか。由、あんたの主は、なかなか楽しそうな男やな」
「あと、とってもええ男やで♪」 「……あー、さよか」
「……しかしな。”わざと”負けるというのは、正直私は苦手なんだがな」
その書付に目を通した華雄が、渋い表情でそんな風につぶやく。
「せやったら、華雄はカズとやるとええ。”程々”に、負かしてくれると思うで」
「……ほ~う。そんな簡単に手加減が出来るというのか。面白い。霞、北郷には私が当たらせてもらうぞ。いいな?」
「好きにし。……策まで忘れんなや」
そして、その時がやってきた。
昇る朝日を背に、連合軍の先鋒を務める十字旗の軍勢が、汜水関にその姿を現した。
「……来たで、華雄。由の言ったとおり、北郷軍が先鋒や。わあっとるな?出て行くのは、”二回目”の後やで?」
「分かっている。……しつこいぞ」
汜水関の城壁からそれを眺め、張遼と華雄は静かにその闘志を燃やす。
洛陽にて、囚われの人となっている主君の無事を信じ、そしてその為に旧友の言葉を信じ、その旧友の主が呈した策を信じて。
その、策を示した当人の姿を、しっかりと、両の眼で捕らえながら。
~後編に、続く~
説明 | ||
さて、二章の第二幕です。 王?よりもたらされた、洛陽での、ことの真相とは? そして、結成された連合は汜水関へと進発する。 なお、今回は前・後編の前編ということで、あとがきはありません。 それでは、外史の扉を開きましょう。 |
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コメント | ||
まぁ納得は出来なくとも、(駄)名家の言うことに逆らえば滅ぼされかねなかった、という危惧がある以上下手な事は言えないと思いますよw(Alice.Magic) 名誉の先鋒を、最遅した軍に託すなんて、間違いなく諸侯が納得しなと思うんですがw(マンガブルー) 西湘カモメさま、はわわとあわわぐらいでしょうね。ことの裏まで読める、蜀の人材は。後は星あたり・・・かな?(狭乃 狼) mokiti1976-2010さま、もちろん、一刀は一刀の道を行きますよw・・・その先の道が茨だとしても、ね。(狭乃 狼) poyyさま、だからこその、彼女が彼女たる所以なんでしょうがね。(狭乃 狼) シンさま、まずはうわさで聞いて、で、ここで本人を知ったわけです、はい。説明不足ですんませんw(狭乃 狼) よーぜふさま、捻じ切るって・・・wさあ、華雄たちはどうなるでしょね?(狭乃 狼) 東方武神さま、理想を追い求めるのはけして悪いことじゃないですがね。ただ、現実を直視するようになるのが遅いんですな、彼女の場合。(狭乃 狼) 事の表面のみを鵜呑みにする桃園三姉妹の単純思考じゃ、一刀の気持ちは理解出来ないよな。(西湘カモメ) 桃香さんの態度は仕方ないでしょうね~。多分真相をろくに確かめもせずに尾ひれのついた噂を信じちゃってるのだろうし。そんなの気にせず信じる道を行け一刀よ!(mokiti1976-2010) どの外史でもやはり桃香は理想だけを求めてますなぁ。(poyy) 劉備はいつ一刀のことを知ったんだ?(シン) ふむ、まあどうせ桃香はいつもどおりだから一刀が捻じ切るとして・・・霞さんがこうだし、華雄姐さんも落ちるのかな・・・ですよね?w(よーぜふ) 理想だけでは大陸は救えない。どの外史でも言われているが、やはりこの外史も理想だけを追い求めてその下に力が集まるのだろうか。だとしたら、桃香のその姿勢は最早運命とでも言うのだろうか・・・(東方武神) ヒトヤ犬さま、その通りです。さて、彼女は一刀に何を言いますやら。・・・ま、甘ちゃん全開せりふだと思いますがw(狭乃 狼) 桃香の視線は「一章第二幕」の話のこと?(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) 砂のお城さま、瑠里との出会いについては、二章終了後の幕間、つまり拠点として書くことにしました。ので、それまでお待ちをww ・・・人徳(笑)はしょうがないです。はい^^。(狭乃 狼) 村主さま、桃香は多分にそんな感じかと。まあ、一万人斬りは事実ですけど。(狭乃 狼) ↓コメ 成る程納得w>桃香の態度 多分に間違った噂(降伏した黄巾兵をも情容赦無く斬った極悪人)を信じきってる・・・といった所ですかねw (村主7) kabutoさま、恋する乙女はいつでも惚気るんですww 桃香のことはそのとおりです。そのあたりのカラミも、この章の間に書く気で居ます。(狭乃 狼) 「ええ男やで?」wwwノロケもほどほどにせい。桃香のってあの虐殺のことですか?(kabuto) |
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