変態司馬懿仲達物語 09
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新野へと通じる道は二つある。

一つは森を迂回して山を越える地図に記されている道と

森を一直線に抜ける最短の道である。

森は崖に囲まれるように真っ直ぐに伸び、両崖には司馬懿が軍勢を配置していた。

 

「見事な手際、そして采配です。さすが水鏡先生の教え子なだけありますね」

「兵法に則った陣を組み、策略を立てたまでです。わたしが凄いのではなく、

それを書き連ねた偉人が凄いんです」

「それを読み、活用できれば十分です。初陣で悲観的になっているかもしれませんが、

わたしは決して悪くない策だと思います。自分に自身を持ってください」

「……ありがとうございます。勝里さまにそう言ってもらえると心強いです」

「当然の評価を下したまでです」

 

崖から森を見下ろす司馬懿は反対側に目を向けた。

同じくらいの軍勢が見え、旗が風に揺れている。

旗印は『荀』と『十』。荀ェと一刀が率いている部隊である。

一刀を将軍とし、副将を荀ェが勤める布陣でも同じような会話がされていた。

 

「実戦が初めて? 呆れた。そんな奴の副官なんて信じられない」

「仕方ないだろ。勝里さんが決めた事なんだから。文句ならあの人に言ってくれ」

「言えるわけないでしょ。一個人の好き嫌いで部隊配置を換えるなんて

聞いた事がないわ。あったとしても、負け戦になってるでしょうね」

「確かに。……別に君が俺を嫌いでも構わないけど、

兵士たちには冷たくしないでくれよ? 伝令役の人とか特に話すこと多いだろうから」

「そこまで馬鹿じゃないわ。公私はきちんと区別するわよ。というより、

ちょっと馴れ馴れしい気がするわ」

「そうか? 俺は普通だと思うけど」

「そうよ。勘違いされても困るから言っておくわ。

わたしは男が嫌い。アンタが嫌い。わかった?」

「はいはい。もう聞き飽きた。君は俺が嫌い、わかってるよ」

「その態度、絶対にわかってないわね。これだから男は……」

「もうどうすりゃいいんだよ……」

 

布陣して話をするたびに荀ェの男が嫌い発言を聞いて、さすがに

初陣で人を殺める命令を下すように司馬懿から言われている一刀は

うんざりしていた。

作戦に集中したいのに、暇なのか荀ェがいろいろと質問をしてくる。

どれも一刀の事ばかりで、気があるんじゃないか? と勘違いしそうだが、

そんな事どうでもいい一刀は軽く聞き流し、それに荀ェが反発する。

それが永遠と続けられていた。

 

「辰さんたちはどうしてるだろう」

 

一刀が思ったケ艾と姜維は少数を連れて偵察に出ていた。

既に敵部隊を捉え、その目標も進路も司馬懿の元に人を送って知らせてある。

 

「一刀は大丈夫か? 体は鍛えてやってるけど、心は鍛えられない。

今日の討伐で全てが決まるな」

「大丈夫だろう。一刀はああ見えてしっかりした目をしている。

荀ェ、だったか。アレは不安要素だが、一刀ならなんとかするだろう」

「あの嬢ちゃんは心配ないだろう。曹操のところで軍師をしてる

荀ケの妹で、嬢ちゃん自身も軍師をしてた。実力はあるはずだ」

「わたしが心配しているのは曹操のところから来た、という点だ。

袁紹から鞍替えしたなら嫌気が差したで済むが、曹操は優秀な人材を

みすみす手放すような事はしない。何かあるはずだ」

「それを見極めるのは旦那だ。俺たちは動向を気にしていればいい」

「……そうだな。そろそろ戻ろう。わたしたちも配置に着くぞ」

「了解。全員戻るぞ! 遅れるなよ」

 

敵に気付かれないようケ艾たちは足早にその場を後にした。

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「撤退! 撤退だ!」

 

逃げていく司馬懿軍をあざ笑う声が森に響く。

『ケ』の旗が戦場となった場所に置き去りにされ、黄色い布を巻いた男たちが

旗を無残に引き裂いて高く掲げた。

新野へ向かう張曼成率いる黄巾党、今は張曼成軍と言うべきか。その男たちが

敵の呆気なさにこみ上げてくる気持ちを抑えることができず笑った。

 

「司馬懿軍侮るに足らず! 何が司馬家の天才だ! この程度か!」

 

馬に跨って一際大声で笑う髭面の男、張曼成が言った。

司馬懿と戦うに当たって、情報を集めた張曼成は司馬懿を強敵だと思っていた。

集まってくる情報は司馬懿の凄さを知らせるものばかりで、ケ艾と姜維、二人の

将軍の実力も強者のものしか入ってこなかった。

しかし、実際に戦ってみると一撃加えただけで逃げ出したのだ。

噂など所詮は噂。実際はただの無能だったというわけだ。

 

「野郎共! このまま新野に向かうぞ! これなら簡単に城が手に入る!」

 

男達の野太い声が森中に響き渡った。

勝利の余韻に浸って気持ちが高揚しているのだ。

三万の軍団が森を一気に駆け抜けていく。

それを見逃すほど、司馬懿仲達が無能ではない事を張曼成は思い知る事になる。

 

「火矢を放て! 殺す事しか知らない獣を焼き殺せ!」

 

声が響き、張曼成は頭上を見上げた。

まだ明るい空に星が見える。赤い星は空を覆い尽くす勢いで広がっていく。

 

「まずい……」

 

呟いた言葉は隣にいた男の悲鳴でかき消された。

鏃に布が巻かれ火が男の体に広がり、焦げ臭い匂いが漂い始めた。

 

「逃げろ――――っ!!」

 

張曼成は叫びながら馬を走らせた。

先ほどまでいた場所は火の海にかわり、悲痛な叫びが聞こえている。

誘い込まれた事を張曼成はようやく理解した。

油断させられ、伏兵など考えていなかった張曼成はまんまと司馬懿の術中に嵌っていた。

そんな考えはすぐに消え、逃げる事に全力を注ぐ。

振り向けば遠くから着いてくる者たちが見えたが、合流している暇はない。

もうすぐ森を抜ける。助かる。そう思っていた。

 

「なっ……」

 

森を抜けた先に展開されている部隊を見て、もはやこれまでと感じた。

『ケ』と『姜』の旗が風に揺れ、弓を引き絞った兵士が張曼成に狙いを定めていた。

 

「「放て!」」

 

放たれた矢は張曼成に向かって襲い掛かってくる。

張曼成は笑っていた。口元を歪め、真っ直ぐに襲い来る矢を見つめた。

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「うっ……」

 

肉の焦げる臭いに口元を押さえ、何とか胃の中が逆流しないように意識した。

聞こえてくる悲鳴に耳を塞ぎたくなったが、それをしては駄目だと

自分に言い聞かせ、逆流だけしないように心がけている。

 

「ちょっと、まさか吐くなんて言うんじゃないわよね?」

荀ェの問いに答える余裕などない一刀は目線だけ送って再び森を見下ろした。

燃えている。燃え盛る森から一刀の世界では聞く事がない悲鳴が聞こえている。

助けを求める声。泣き叫ぶ声。家族の名を叫ぶ声まであった。

元は農民で仕方なく賊になった者たちもいるのだろう。しかし、炎はそんな

事情などお構い無しに手当たり次第に飲み込んでいく。

 

「俺の号令でこうなった……」

 

預けられた部隊に矢を放つように命令したのは一刀だった。

その言葉に一斉に火矢が撃ち込まれ、この惨劇が生まれたのだ。

 

「うぐっ……げぇ……」

 

膝をつき、胃液が喉を通って口からあふれ出した。

司馬懿に何も食べるなと言われていたから出てきたのは胃液だけだった。

 

「ちょ……汚いわね! 誰か! こいつを奥に連れて行きなさい!」

 

兵士に肩を借りて歩く一刀は放心状態のまま目に涙を浮かべた。

重い。命を奪った事がこれだけ重いとは予想外だった。

天幕で横になった一刀は意識が飛ぶまで同じことを何度も考えた。

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どうもで〜す傀儡人形で〜す。

お楽しみいただけたでしょうか。それなら幸いです

今回のお話ははじめての戦の話でした。

うまく表現できているか不安です。

では、また。

 

 

 

説明
どうも傀儡人形です。

かなりの駄文。キャラ崩壊などありますのでご注意ください
オリキャラが多数出る予定なので苦手な方はお戻りください

書き方を試行錯誤しているのでおかしな箇所あります。
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コメント
必須イベンですな。吐くまでいかなくとも現代日本からやってきた普通の人間が全く気にしないなんてことあるはずがない。がんばれ一刀。(PON)
一刀の最初の試練か・・・ここからどうやって立ち直るのか見ものだな。(hokuhin)
よーぜふさん、コメントありがとうございます。現代だとよっぽどの事がない限り目の前で人が焼かれている光景なんて見れませんから相当辛いと思います。(傀儡人形)
さぁ、現代では体験できないこの状況、目の前で見てこれから一刀はどうなっていくのか、荀ェさんはどういう態度を見せるのか・・・あとは勝里さんがどういぢるのか楽しみでスw(よーぜふ)
タグ
真・恋姫†無双 司馬懿 ケ艾 姜維 徐庶 荀ェ 一刀 

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